第二章十八節「女神」
例え帝都には及ばなくとも其処は皇帝の寝室。
空に浮かんでいるとは思えない典雅な空間が広がっていた。
一応、気を使っての転移であったものの、いきなりプライベートな空間に跳べる事が発覚して、何か突っ込まれるかと思っていた少年は多少の言い訳を脳裏に思い浮かべる。
「えっと」
広さにして帝都の私室二つ分はあるだろう部屋の中。
一面が紅と金を基調として飾り立てられ、その寝台もフレームとシーツ以外、紅に染まっている。
転移してから一分弱も沈黙していただろうか。
今や小さな股間の布切れ一枚だけとなった皇帝は愛らしく寝台に座る少年の胸に顔を寄せた。
準備が出来たという事なのか。
それとも単に抑え切れなくなったのか。
「ティア。そなたに……その、提案がある」
「提案?」
コクリといつもとは明らかに違う何かを躊躇うような素振りでエトが呟く。
「余とて。は、初めての事は考えていた。ずっとずっと、一段落したらと……」
「そっか。ありがとう」
「れ、礼など……そ、それで余からの提案だが、そなたとの初めては特別なものとしたい……」
「特別?」
「この部屋は余が集めたモノの中で最も気に入っている品で、幾つか人の世の理を歪める作用を秘めておる」
「そう言えば何か、変な感じが……」
「一つ目の能力は時の遅延。この中では百年過ぎようと一日は経たぬであろう」
「あぁ、そういう?」
少年が感心したように部屋を見回す。
「それでもう一つが……」
パチンと部屋の灯りが消えた。
空飛ぶ船の中央だけあって、室内は明かりを全て人工のものに頼っている。
光が失せれば闇が迫るのは必然。
しかし、少年が再び瞬きすると既に其処は室内ではなかった。
「これって中に世界とか創る感じの術じゃなかったっけ?」
「あぁ。この室内ならば、島一つ分程の領域を構築出来る。余が一番気に入っているのはこの能力で見せるのはそなたが初めてである」
涼風が砂浜を浚って、潮騒が穏やかに耳に染み入る。
燦々と降り注ぐ陽光は肌を炙る事なく一帯を優しく包み込んだ。
寝台の下には砂が敷き詰められ、すぐ傍の椰子の木陰が日を遮っている。
「確か【壷世(ムンディ・オラム)】だったかな?」
「そんな安物と一緒にするではない」
少しだけ口を尖らせる少女に「ごめん」と苦笑して少年が顔を覗き込む。
言葉を待つ少年に少女が言う事はもう決まっていた。
「こ、此処には誰もおらん。す、全て見せ合っても、誰も、何も言わん。だ、だから……」
「遊ぼっか?」
「ぁ……」
少年が立ち上がり、少女もまた立ち上がる。
「ん…こちらを見よ……」
恥しさに頬を火照らせ。
全てを晒そうとする行為にえも言われぬ背筋の震えを感じて。
それでも手が布切れの紐を解いた。
シュルリと地面に白布が落ちる。
「ッ―――」
自ら少年の前で生まれたままの姿となったエトが思わず顔を隠した。
「綺麗だよ……」
少年が近付き頭を撫でる。
「ぅ…ぁ…そ、そうであろうか?」
いつもなら『当たり前である!!』と胸を逸らせるかもしれない少女の弱気に少年が頷く。
「うん…」
恥しがりながらも少年の笑みにエトが安堵した様子となった。
「余、余の体を余すところなく見せた。そ、そなたも……」
「さすがにちょっと恥しいけど……」
バサリといつもの外套が落とされ、服、下穿きの紐が解かれていく。
(ぁ……)
男の裸体。
見せられた事もないソレが自分の目の前で露になっていく様子。
そして、男の象徴である場所が下から衣服を持ち上げていた事に気付いて。
エトは己の姿態を晒した時と同じような羞恥に襲われた。
「これでいい? エト」
隔てるものはただ空気のみ。
今正に触れ合えば、肌以外に何も感じられないだろう男の体。
美しいと。
正直に少女は思った。
中性的な身体は本当に魔王と呼ばれているのか疑うくらいにたおやかで。
しかし。
「ぉ、男のは皆(みな)……そのように大きいものなのであろうか?」
股間の様子に思わず少女は尋ねる。
「女の子に胸の大きさを訊くようなものと思ってくれれば」
「ッ、ぐ、愚問であった。許せ……」
「怒ってないから。それよりこんなに綺麗な海があるんだし、行こう?」
「あ……」
手を取られて、そのまま少年が海に飛び込む。
一緒に飛び込む羽目になったエトが海面に顔を出した瞬間、眉を吊り上げた。
「お、驚くであ、ハブッ?!」
バシャリと顔を海水で直撃されて、プルプルと肩が震える。
「怒った?」
「あぁ、怒ったとも!」
魔力によって強化された腕力が海水を恐ろしい勢いで津波の如く押し流す。
「甘いよ」
「ひゃッ!? な、なな!?」
いつの間に背後を取ったのか。
背筋を指でなぞられ、皇帝にあるまじき声でエトが飛び上がりそうになった。
「よ、容赦せぬから覚悟せよ!」
少年は体術を駆使して、少女は魔力を使って。
日が傾くまで“戦争(みずあそび)”を続けた。
勝敗は付かず。
斜陽に気付いて二人が海から上がると一面作り物とは思えない絶景の地平が広がっている。
近くの岩から落ちる真水で身体を洗った後。
乾いた砂の上に寝転がった両者だったが、会話が途切れて。
「「……」」
遊ぶ途中は他愛ない話ばかりしていたはずだ。
しかし、互いに今語りたい事は尽きていた。
未だ何も身に付けてはいない。
それでも、その姿が自然に思えるほどエトはもう羞恥を感じず。
物に囲まれ、人に囲まれ、国に囲まれ、そうやって生きてきた少女は……何故か何一つ身に付けずに遊び呆けた時間に囲まれた今が最も安らぐ事を知る。
本当は美しい景色を見ながら気分を高めて交合(まぐわい)のみを行うはずだった。
なのに、少年に乗せられてしまっていたのは何故か。
「近くに行ってもよいか?」
「どうぞ。お姫様」
「生憎と余は皇帝である」
「じゃあ、どうぞ陛下」
「……ん」
身を起こして。
少年の腕を胸にそっと抱いた時、エトは「ああ」と自分の変化に気付く。
「余は……気負い過ぎておったのか?」
「それはそれで可愛かったけどね」
「そういう事をさらりと。やはり、そなたは“たらし”の淫魔王じゃ……」
不機嫌な声を出しても、腕だけは放さない。
小麦色の肌が紫雲の中で艶やかに照り映える。
「ごめん」
「否定せぬなら、余はこれから毒牙に掛かる姫で在ろう」
少女が膝立ちになると砂粒がパラパラと落ちていく。
下から丸見えでありながらも、エトは微かに頬を染めて、今まで抱き付いていた手を取った。
「見よ……」
「ぁ……」
少年の手が誘われ、慎ましやかな“すじ”へと触れる。
そこは温かく息衝いてぬめりを帯び、もう整っていた。
クチィ。
少年の指で少女は自分の割れ目を開かせる。
とろとろと指が甘い香りのする透明な蜜で濡れた。
指を離せば、糸を引いてキラキラと夕景の明かりに輝く。
「余を満たして欲しい」
淫靡な姿のまま少女が囁いた。
「うん」
心満たされ、身体を開いた少女を伴って、少年は寝台へと戻る。
大きなクッションに背を預けて、腕の中の繊細な身体を優しく撫ぜていく。
顔、首筋、鎖骨。
下りてくる指の行き先に潤む瞳が向けられた。
胸の蕾は尖っていて。
細やかな指がやわやわと捏ね始めると押し返して固くなった。
「ん…ぁ…こね…ては…ぅく……」
もじもじと太腿を擦り合わせながら、触れられる悦びに心臓を高鳴らせて。
少女が熱い吐息を漏らす。
「少しずつ、慣れていけばいいから」
指は下がり、胸から腹、そして下半身へと伸びて行く。
「美しかろう?」
恥しさを紛らわすように少し誇らしげな顔で少女が囁く。
「うん」
肯定と共に指が無毛の恥丘をなぞり、“すじ”へと到達する。
一回。
二回。
「っ~~っ~~」
触れて上下されているだけで少女の頭の中から余計な思考が零れていく。
身を任せる恐怖は既にない。
あるのは少年の指に自分の大事な場所を優しく触れられているという事実のみ。
腰から背筋を上る心地良さは禁じられた遊びを思わせて。
背徳の遊戯にエトは耽っていく。
蕩けた顔はだらしなく崩れ。
「ティァ……」
すぐ横の少年の身体に包まれる悦びを甘受していた。
蜜で指が滑りを良くする度、甘い呟きが漏れる。
褐色の肌には汗が浮かび、悦びの震えに幾筋も伝った。
「エトって良い匂いがするなって。ずっと、思ってた」
上下になぞっていた指が今度は蜜を零しながら沈み込んでいく。
「ひぁっ♡」
ビクビクと切なく身体を震わせながら、それでも少女は少年の腕の中に絡め取られる悦びで身を捩る。
「やっぱり甘い……」
首筋に一度軽く口付けされて、少女はもう夢見心地だった。
背中に当たる少年の幹の熱さと太さ。
大切な場所をなぞられる悦び。
きっと、自分と交合(まぐわい)をする者から初めての繋がりを求められると思っていたのに、口はまだまだ愛撫を続けてくれるだろう相手に懇願していた。
「よを…よを…女に…してくれ…ティア……」
「我慢出来なくなっちゃった?」
コクンと首肯が返される。
「どんな風にしたい? エトは」
「~~~///」
「?」
恥しさに躊躇った少女は少年の優しげな笑みにそっと耳打ちした。
「抱っこ?」
「い、言うでない!?」
可愛らしい少女の望み。
向かい合って、互いに抱き合って、したい。
ささやかな願いに少年が頷く。
「それじゃ、そうしよう。ね?」
己から初めて動いた少女は少年と向かい合い、跨ぐようにして胡坐を掻く少年を見下ろす位置で膝立ちになる。
濃密な蜜が秘裂から垂れて。
今にも触れ合いそうな幹の先端を伝って落ちていく。
「エト。本当にいいの? 僕で」
「余に釣り合うのはきっと……そなただけじゃ。だが、余は今…それすらきっと、どうでもいい……」
「そう……」
「ティア。余は綺麗か?」
「うん」
「可愛いか?」
「うん」
「美しいか?」
「うん」
「……好き、か?」
「人間としての僕は君を大切にしたいと思ってる」
「そう、か。ならば、余はそなたに命じぬ。ただ、願う。どうか余と……分かち合って欲しい。ティア」
少女からの口付けだった。
少年の唇は自分のものだと。
舌も唾液も行為も自分だけのものだと。
そう言わんばかりに激しく。
淫らに少女は女としてねだる。
「ん、エト……」
互いの舌で唾液を混じらせながら、少年はゆっくりと落ちてきた腰を掴んで、引き寄せた。
「―――ぅ…ぁ…ティ…ァ……」
最初の入り口を割り、幹の先端が埋没していく。
初めてにして飲み込む秘裂の中は潤み切っていた。
音がしたかは定かではない。
ただ、痛みも無く。
幹がとある境を機に深く引き込まれた。
「ぁあああ…ぁ…てぃあ……」
みっちりと詰まった襞が少年自身を受け入れ始めて、ざわめき。
女になった少女は一筋雫を零した。
「これで……余、は……」
「おめでとう。エト…これで君は一人前の“女”だよ」
「ん…ん…ティア…そなたに貰われて……良かった……」
皇帝であった、少女だった、独りぼっちだった女は少年の額に額を付けて、にこりと微笑んだ。
「これから君に与えた時間分、僕は君を抱こう。君がそうして欲しいと思った時、僕は共に分かとう。この約束は神が魔が人が如何な異議を唱えようと決して終わらない誓約。どうか、君が幸せで在らん事を……エト……」
祝福の言葉。
少年の精一杯の想いをエト・エイラル・エイム・イグニシア・クルシスは確かに受け取った。
「ティア…ティア…余は、余はな。今まで生きてきて。今程に嬉しかった事はない……」
「ありがとう。エト……」
「共に分かち合おうぞ。余の魔王様……」
初々しい笑みで少女は再び口付けを開始した。
それは愛しい者へ送る精一杯の優しく慈しみに満ちた行為だった。
*
「てぃ…ぁ…んちゅ。てぃ…ぁ…くちゅ…ちゅ…っちゅ……」
少女の腰が揺すられる度に二人の間には淫らな音が響いていく。
大きな動きは無くとも、その行為にエトは本当に満たされていた。
自分の最も大切な器官。
子供を孕む為の場所。
そのすぐ下まで少年の熱く雄々しい幹を受け入れる感触。
それは今まで一度も感じた事の無かった高ぶりを齎して、何処までも気分を高揚させていく。
優しく背中を抱き締められて。
その目の前の少年に口付けの間中、ずっと己の唾液を流し込む。
舌と舌で絡め合った互いの甘露で喉を潤して。
名を何度も呼んで。
恋というものを知った気でいた事を少女は心底に羞じた。
グジュ、グチュ、ズチュ、プチュ。
自分の奥底まで満たす幹の形を慈しみながら、少女は扱かれる襞を震わせて、震えを増していく幹に何度も何度も内部でねだる。
「てぃあ……こだね、ほしいのじゃ。こだねで…たねつけ、せよぉ♡」
眉を八の字に下げて、ねだる少女の顔に少年が一段と迫ってくる身体の奥底からの欲求に晒された。
「エト。もう僕も……」
「ひゃぁんッ!? ぁ…ぁ…よのおくでぇ♡ おおきくぅ♡」
ビキビキと太さと熱さを増す幹に子宮口を小刻みに抉られ続けて、少女の膣(なか)もまた準備するように少年の先端を導くよう蜜を溢れさせて行く。
最も心地良く射精させる為の動きを少女の襞はもう心得ていた。
「てぃぁぁ! よのはらをつかってもよいからぁ♡ よにぃ♡ ややこぉ♡ めぐんでぇ♡♡♡」
「!!!」
込み上げてきた精を少年は少女を抱き寄せながら、子宮口へ鈴口を密着させながら、少女の奥へ注ぎ込んだ。
ビュルルルルルルルルルルルルルルルルル。!
「―――ぁあああああああああああああああああッッッ!!!!?」
初めての行為。
その終わりに愛らしく悲鳴を上げて。
少女が灼熱する胎内に淫らな顔で絶頂を迎えた。
(ぁ…ぁあ、ひぅ!? よのなかぁ♡ ふるえてぇ♡ あついこだねぇ♡ みちてぇ♡ そんにゃにはいりゃぬぅ♡ やぁ♡♡)
「エトッ」
少女の中はもうねだる事を覚えていた。
精を受け止めながらも決して止まない膣(なか)のざわめき。
貪欲な胎(しきゅう)は恋したように熱く熱く揺蕩う精を溜め込む。
「てぃぁ♡ よのまおうしゃまぁ♡ すきじゃ♡ だい…すきじゃ♡」
「エト…ん…ちゅ…くちゅ…ぷぁ。こんなにおねだりして、可愛いよ……」
互いに舌を絡めて、中睦まじい恋人のように。
あるいは比翼の小鳥が互いを慰めるように。
牝となった少女は自分に唯一の男を慈しみ。
少年は少女の背中を撫ぜる。
「お腹こんなに膨れて。何か術使ってる?」
コクンと素直に少女が頷く。
「かくじつにはらむように……こだねにがさぬように…はじめてでもややこ…できる魔術じゃ……」
「そっか」
「ぁ……」
未だ繋がったまま、少年の手が優しく膨れた胎の上を撫ぜる。
「てぃあ……だめで、あろうか?」
少しだけ不安そうな顔にふるふると少年が首を横に振る。
今、少年に問う少女が皇帝ではなく一人の女であると分かっているから。
「君が望むようにすればいいよ。エト……」
胎を撫ぜた手が今度は乳房をなぞり、唇がもう片方の乳首を含む。
「ひやぁ! ん♡ ん♡ てぃあ♡ そんなにちゅぅちゅぅすってはぁ♡ ややこみたいであるぞぉ♡」
「甘くて美味しいよ。エトはお母さんに向いてるかも、ね?」
「ぁん♡ ひぅ♡ てぃぁ……」
繋がった少年の幹が萎えるどころか更に大きさを増した事に気付いて、少女は母性を刺激された。
目の前にいる愛しい牡。
それが我が子のようにも思えて。
守りたいなんて、そんな感情まで呼び起こされる。
「おおきい…ややこじゃ……よし…よし…じゃ……」
少年を胸に抱いて。
頭を撫でて。
自分を貫く幹を何度も甘く絞って。
激しい行為ではないのに。
少女の性感は今まで以上に高まっていく。
初めて絶頂したばかりの身体に満ちるのは疲れではなく慈しみ。
全てを包み込む抱擁は民を思うよりも深く。
「んぁ…ふ…ぅ…てぃあ…よの大切な…大切な……」
穏やかに少年を想う姿は母の肖像。
「エト…もう……」
再び先に達しそうになったのは少年の方だった。
包み込む温かな愛撫。
膣(なか)の動きが穏やかながらも情熱的なものに変った事で精が再び少女の奥へと込み上げる。
「そなたのすきにせよ……そなたのややこをはらむここで、すべてうけとめてみせるのじゃ」
少女の微笑。
それに堪らず。
「!!!」
一回目とは比べ物にならない射精が始まった。
ビュボボボボボボボボボボボボボオボボボボボボボボボボボ。
「んぁあああああああああああああああああ♡♡♡」
初めての時より声は小さく。
しかし、更なる高みへの絶頂が、少女を牝として深く深く征服し、征服される悦びへと誘う。
「はりゃ…んでぇ♡ ややこぉ♡ たねちゅけぇさりぇておりゅぅ♡♡♡」
大きく膨れた胎に少年はそのまままたしてしまうのは少女を壊してしまいそうに思った。
「抜くよ。エト」
「ぁ♡」
少女にまたねだられるより先にそっと後ろのクッションに倒れながら、少年が自分の幹を根元から引き出す。
「ひぁああ!?」
その衝撃。
喪失感。
一つだったものが別れる欠落行為。
思わず涙を零しそうになったエトが少年の笑みに気付いた。
「エト。今度はエトの口でして欲しいな……ダメ?」
「そう、であるか……」
「エトの奥、とっても気持ちよかったけど。これ以上したら、壊しちゃいそうで……でも、まだ治まらないから、君にして欲しい……」
「そう、なのか?」
「うん」
「余の口で心地よくなれるの、か?」
「僕の子種で膨れたお胎(なか)のまま、そんな風にしてくれたら、嬉しく思うよ」
「よいぞ……そなたがそう望むなら、余は…み、見るがよい……」
褐色の肌に滴る無数の汗。
我が子を孕んだような大きな腹を愛おしそうに両手で持ち上げながら、少女が後ろに下がっていく。
今まで少年を受け入れていた“すじ”はもう閉じていて、中心からトロトロと蜜と精を零した。
淫靡なだけではない。
子をその身に宿す母性。
処女のような若く美しい姿態。
少女であると主張する秘裂。
その全てが渾然一体となった牝の姿。
皇帝であろうとした気品は例えどんな時も失われず。
静々(しずじず)と下がっていく姿は貞淑さをも備えていて。
「綺麗だよ。エト…本当に……」
「ッ~~~は、恥しいであろう……」
羞恥に顔を歪める様子は少年の幹を三度太くする。
「ぁ…また、そのように大きくして……」
「エトの事を見てたら、ね?」
夕闇に全てが没しそうな世界に今度は明るい月が普通では在り得ない速度で昇っていく。
「……」
「エト?」
月を背にして。少女がゆっくりと少年の幹の前に屈み込んだ。
「そなたは不思議な男じゃ。魔王であり、ただ姿通りの男であり……だが、余は今のそなたが一番好きじゃ。己の欲を余にぶつけてくれる。素直なそなたが……」
少年がエトの言葉に驚く。
「そう?」
「余はそなたと近しくなりたい。いつも慈しんでくれるそなた……いつも優しいそなた。だが、余は…本当のそなたが知りたい。ティア……」
ちゅく。
少女の口付けが己の蜜と精で濡れた幹に成された。
初めての行為に戸惑う事なく嫌がる事なく。
優しげな手付きで指が幹を扱き、舌が雄々しい牡の象徴を清めていく。
「エト……」
「くちゅ…ちゅ…くぷ…ちゅ…余の魔王様……」
淫靡な行為。
そのはずだ。
しかし、少年には少女の行為が何か神聖なもののように見えた。
精一杯に奉仕する姿。
それは少年に心を開いて欲しいと願う行為。
「本当の僕なんて何処にもいない。君を想う僕も、魔王として戦う僕も、誰かの前にいる僕はいつも偽ってばかりで……何が自分だったのかなんて。今はもう分からないから……」
頭を撫でて。
少年は視線を霞ませる。
「君が知る僕も、今旅する仲間が知る僕も、本当はそんなに良い奴なんかじゃない。隠し事ばかりで……教えられない事ばかりで……誰に好意を向けられる事も怖くて……」
独白は性の高まりに擦れていく。
「せめて、誰より優しく。せめて、誰もを救える自分を……そう、思ってきたけど……それはやっぱり偽りで……」
震え、蜜を垂らす鈴口がそっと咥えられる。
「っ、僕は人より強欲だし、浅ましいし、やっぱり穢れてばかりで……こうして君に触れていても……ずっと、心の何処かでっ」
それ以上を少女は少年に言わせなかった。
睾丸が急激に縮むほど三度目の射精は大きく。
ビュボボボボボボボボボボボボボボッボボボボボボボッボボボボボボッボボボ。
喉に全て受けようとした少女はその勢いに口を離して、髪に額に顔に胸に身体全てを使って精を受け止める。
幾度となく降り注ぐ精が少女を白く染めていく。
「そなたの精は熱く余を満たしてくれる。そなたの声は余を潤してくれる。そなたが例え……例えな……この下におる女を想っていても、それは変わりない事であろう? よい……全てよいのじゃ……ティア……」
「――――――エト」
微笑み。
その少女の慈愛。
罪を犯してばかりな少年を許す言葉。
【貴皇(ペルソナ・ノーブリス)】の下。
今も聖女が逗留する場所がある。
「君は……」
何もかも気付いていて。
それでも身体を預けてくれた少女を。
少年は自分の精で濡れるのも構わず抱き締めた。
「魔王としてのそなたを余は受け止め切れぬのかもしれぬ。だが、人としてのそなた一人受け止め切れずして何の皇帝であろうか。余は嘗て想った。全ての民を慈しもうと。その余が一人の男を許せずして何を語ればいい。余は皇帝……そして、そなたの友になりたい。ただの女じゃ……」
「エト……」
少女が囁く。
「余も秘密を明かそう。素直なそなたに報いて……」
「そんな事しな―――」
指が少年の唇を留めた。
「余がそうしたい。余がそうなりたい。そなたと秘密を共にしたい。そう願っておる……だから……」
少女がゆっくりと少年から離れる。
「イグニシアに伝わる旧き童謡……水分(みくまり)の女神と神官の恋紡ぎ。それはな……真である。今もその証がこの国には息衝いておる。ずっと、ずっと……今も此処に……」
ふわりと。
少女が寝台の上に浮き上がる。
その背中に皇帝家が秘匿する最大の禁忌が揺れた。
人のものでは無い、碧き翼。
生物のものとは違う。
旧き匂いを漂わせる星の色を宿した清き一対の枝。
鋼よりも透き通り、水よりも尚深い色を湛えた光沢が月夜に輝く。
「ふふ、そんなに見つめては照れるであろう。嘗て女神を愛した男は結局、最後まで女を守り切れなかった。その絶望を抱いて……同時に残された命を男はずっと守ろうと決意して……今、皇帝家はある……」
ゆっくりと菫色の輝きが翼に茂る葉のように大きくなっていく。
「往こう。空へ……」
半神。
いや、血を分け合えば、それはもう神ではない。
ただの人だ。
しかし、この世で最も困難な愛の末にある血統である事に変わりはない。
そんな、尊き結末である少女の身はもう精に濡れていない。
胎もまた精を溜めてはいない。
全て少女の血肉として取り込まれたか。
翼に新たな色が加わる。
碧、菫、そして白。
「ごめん」
「何を謝る」
手を引かれ、導かれながら空へと昇っていく少年は少女へ、静かに囁く。
「あんまり女の子を口説く文句とか詳しくなくて……繰り返す事しか出来ないから……」
「?」
そよ風と月に照らされた世界の中。
少年は少し恥しそうに咳払いをして。
少女の顔を見つめて、告げた。
「今までより……ずっと綺麗だよ。エト……」
答えは無く。
頬も染めず。
返答はただ行為で返される。
美しき女神はいつかこの大地で為された刻を繰り返す。
その口付けが世界を変え、大地に実りを齎した事を誰も知らない。
“水分の女神が行過ぎて戻り来る”
“星詠んだ男は踏み締めて腕広げ”
“泡沫の逢瀬交す”
“されど、刻に全ては去り、なれど、刻は今も巡る”
“呪い、憎み、望み断たれて尚、想いは絶えず”
“此処に末世の抱擁を祈す”
“碧き翼の御世に祝杯を”
“汝は……美しい”
いつか恋した男が詠んだ詩は時を越え、今また物語を紡ぎ出す。
魔王と皇帝の夜話。
まだ初まったばかりの出会いの奇跡を。