※この作品はR-18です。

聖娼館ハルトゥム   作:Anacletus

47 / 318
第二章十九節★

第二章十九節「淫極」

 

 イグニシア・クルシスにおいて都市の創造は一種慣習的なものがある。

 

 それは皇帝が変る毎に新たな都市を広大な領土の中に創造するのがお決まりになっているからだ。

 

 その運営は皇帝の力量が試されるとも言われている。

 

 旧き都市の再開発や新たな都市の構築。

 

 遷都こそ初代から行われていないものの、豊かさを生む都市は皇帝の代毎に作られ続けてきた。

 

 そんな慣習的計画の一つとして生み出された奴隷都市はエトが皇帝になった年月で自ら稼いだ莫大な資本によって造成されたものだ。

 

 大陸における奴隷売買は古来から行われてきた旧い産業の一つ。

 

 それが大陸秩序の再編によって七教会から疎まれるようになった現代。

 

【近代化(レボリュション)】の名目で失われて行く奴隷関係の人と金を囲い込む仕組みこそが奴隷都市であり、加速度的に進む辺境開発の要だった。

 

 安価な労働力に活気を与えつつ、奴隷から都市の民へと人々を変革していく。

 

 民というそれ自体が国にとって最も重要な財産であり厄介であるのは自明の理。

 

 新たな身分や生活を皇帝自身が与える事によって生み出される都市内部の皇帝贔屓の気風はエトにとってそんな厄介を緩和する材料となる。

 

 金で買えないものの筆頭は人の心。

 

 自分の味方になる民の創造という裏事情こそがエトにとっては何よりも大事な奴隷都市の造成理由。

 

 故に都市への広報活動は正しく精緻かつ精密に行われる。

 

 皇帝こそが我らの命と奴隷達が叫ぶようになるまでエトの壮大な味方作りは終わらない。

 

「……」

 

 前日。

 

 少年と睦み合った記憶も生々しく。

 

 エトは政庁跡に如かれた七教会の仮庁舎を気も漫ろに見つめていた。

 

 奴隷達への広報案の承認。

 

 仮政庁として使う官舎の一角で大の大人達から頭を下げられつつの会議である。

 

「陛下。この奴隷都市において陛下のご尊顔を初めに民が拝める事。心より嬉しく思います」

 

 政庁を化け物に蹂躙され、最終的に殲滅という失態となってしまってから、帝都から人の手配やら奴隷達の不安を軽減する策やら色々と手回ししていたのも既に過去。

 

「それと例の件ですが、ゴウランで前倒しでさせております。数日後には実行可能になるかと」

 

 イグニシアと武帝の会議結果を反映した実務者協議も逗留する聖女のいる七教会の仮庁舎で始まっている。

 

 残る問題は瑣末な事ばかり。

 

 これから奴隷都市を治める為政者達に後を任せて、エトは一言も発せず一人大通りへと繰り出した。

 

 そんなエトの事を文官達は慌てる事なく見送る。

 

 その場にいる誰もがエトが皇帝になってから取り立てた者達だ。

 

 有能な者もいれば、無能な者もいる。

 

 だが、エトへの忠誠心という一点で彼らは貴重な戦力の一部だ。

 

 イグニシアの貴族達の利権や権力を削る駒として役に立っているのだから、ある種イグニシア・クルシスのエト派みたいな立ち位置かもしれない。

 

「ふぅ」

 

 いつも付いて回るエーレインには奴隷都市に残存する駐屯騎士達の再編制を。

 

 いつも侍従のような事をやらせているエリザには今も空に浮かぶ【貴皇】の部屋の掃除を。

 

 お付きの湯女達には前日の事を踏まえて少年を虜に出来そうな計画を練らせている為、少女は一人だった。

 

「……ぅう」

 

 自分で命じておいて何だが、と。

 

 エトは己の顔が赤くった事を理解して、唸った。

 

 傍らに誰も居なければ、皇帝の威厳を保つ必要も無く。

 

 同時に腑抜けた様子になってしまう。

 

 誰も視線避けの魔術で見ていないとはいえ、それでも前日の行為を思い出してしまったエトは身悶えたい気分に晒される。

 

「……あぅ」

 

 顔は熱いし、動悸はするし、脳裏からやってくる甘美な記憶による意識の侵略が止まらない。

 

 ちょっとフラフラしながら大通りのカフェに入ったエトは一人テラス席に陣取るとパタッとテーブルに臥した。

 

 店員がやって来て。

 

 メニューを指差したエトを見て厨房へと駆けていく。

 

(く……余も女であると湯女達ならば言うのだろうか)

 

 初めてを奪われた翌日は股に違和感を覚えるのだと女達は言っていたが、そんなものを覚えてはいない。

 

 いや、正確にはそれよりも性質の悪いものを覚えている。

 

 疼き。

 

 沸々と腰の奥から湧き上がる衝動。

 

(だ、段々と具合が良くなっていくものだと言っておったのに……こ、これでは余がい、淫乱のように思われてしまうではないか!!)

 

 思い出せば、疼きが耐えられなくなってしまうとエトは直接的な記憶を脳裏の隅に無理やり押し込める。

 

 あの後、少年と抱擁しながら空を回遊した。

 

 その時は肉の頚城から解かれたような純粋な心地で少年を抱き締められた。

 

 それなのに……一夜明けてみれば、疼きは耐え難く。

 

 時間を遅々として進ませる部屋から思わず逃げ出してしまった。

 

 寝台で少年の安らかな寝顔を見ていたら、再び首を擡(もた)げた衝動のまま、また女の性を謳歌してしまいそうで。

 

 盛大な夕方の食事に出れば、もう少年も部屋からは出てきていて、顔を合わせるのが激しく気まずかった。

 

 エーレインが何故か滂沱の涙を流しながら食事をし、エリザや侍従をする湯女達がニヤニヤしていた事から、もう何をしていたのかバレバレなのは明らか。

 

 そんな空気を感じたのか。

 

 三人の少女達は少年に半眼の視線を向けていた。

 

「……常の余ならば、笑い飛ばせるのであろうな」

 

 少年と出会った頃の自分ならば、そう出来た。

 

 しかし、今の皇帝エトは少年の前で出会った時のように笑う事は出来ない。

 

 いや、そんな風には笑いたくない。

 

 たった三ヶ月。

 

 その時間を出来れば、微笑む姿で脳裏に焼き付けていて欲しい。

 

 それが少女らしい乙女の願いというやつだ。

 

「これが淫魔王の力か……恨むぞ。ティア」

 

 恥しいのを全部少年のせいにして。

 

 いつの間にか運ばれてきたケーキを少女は頬張った。

 

「あ、エト?」

 

「―――ッッ!!?」

 

 思わず噴出しそうになったものの、気力で少女は耐え切る。

 

 ゴクリ。

 

 そう喉の奥にケーキが消され、少女の脳は今世紀最大規模の空転を来たした。

 

 誰も見ていないからと。

 

 はしたなく小動物のように頬を膨らませてケーキを食べていたなんて知られてはならない。

 

 いや、知られても別に問題はないが、内心の乙女心がズタズタになってしまうのは皇帝の身にも分かる。

 

 そんな理由から努めて常の集中力を発揮したエトはにこやかなまま清々しい感じに少年を振り返った。

 

「そなたも来ていたのか。ティア」

 

「うん。エリザさんが此処のケーキ買って来て欲しいって言われたから」

 

「あやつはそなたが客であると自覚が無いようであるな」

 

 エトが溜息を吐いた。

 

「別に構わないよ。ちょっと出なきゃと思ってたから」

 

「っというか!? 出てきてよいわけがなかろう!!! 聖女が逗留しているのを忘れたか!? 【貴皇】はまだ気配や魔力の遮断が出切るが、この距―――」

 

 少年の人差し指が思わず立ち上がろうとしたエトの唇にそっと添えられた。

 

 もう片方の手がチョイチョイと大通りを指す。

 

 そして、エトは通りを歩いて行く金色の髪の少女を見つけた。

 

「!?」

 

 聖女ハティア・ウェスティアリア。

 

 今正に宿敵のような相手が通りを歩き過ぎていくのを少年は黙って見過ごした。

 

「……」

 

(ティア。やはり、そなたは……)

 

 その瞳があまりにも“敵”を見ているようには見えないから。

 

 それどころか本当に嬉しそうな笑みを浮かべていたから。

 

 エトの中で出かけた言葉は全て喉の奥へと消えた。

 

 去って行く背中を見続ける事も無く。

 

 そっと指が離されて、少年が少女の対面に座る。

 

「……どういう事か。説明するべきであろう」

 

 少年が何故か店員がすぐに持ってきた紅茶を一口含んだ。

 

「普通の人間として過ごせば、探されない限り見付からないって考えてくれれば」

 

「余の調べた限り、あの聖女の基本的な恒常発動型の魔導各種は七百種以上。その気になれば、一地方の羽虫一匹に至るまで識別可能だと思ったが?」

 

「まぁ、僕と聖女全員とのお約束みたいなものなんだけど……」

 

「お約束?」

 

「戦う機会と場が無い限りは仕掛けてこないし、探ってもこない。少なくとも僕はこういう状況の場で仕掛けられた事はないし、あっちも仕掛けてきた事はない。勿論、気を使って探査とかは誤魔化してるけど」

 

「つまり、暗黙の了解という事か?」

 

「ハティアは追討師団が動かない限り動けない。聖女の力の発動は任意だけど、戦いの場を決定するのは容易じゃないし、準備も必要になる。今の追討師団にそれだけの余力は無いし、例え見つかっても攻撃される事は無いって言い切れるよ。監視はされるかもしれないけど」

 

「確かに……ほいほいと魔王と聖女がやりあってはこの星が持たぬか……」

 

「エトに天使を倒す時、足場を作ってもらったけど。あれも僕達で言うところの“準備”だったりするし」

 

「強いというのも不便なものであるな」

 

「本気なんて僕達みたいなのだと安易に出せないから」

 

「とにかく大丈夫なら構わぬ。余もまだ本格的に事を構える気はない故な」

 

「少ししたら歩いて官舎まで行って、そこから転移で戻れば大丈夫だと思う」

 

「ならば、そうしよう」

 

 二人の間に女給が何故か大きなパフェを持って来る。

 

「頼んでおらぬが?」

 

「恋人の方達に今期間限定で提供させて頂いている品です。どうぞ」

 

「「……」」

 

 二人が顔を見合わせる。

 

 最初に耐え切れなくなったのはエトの方だった。

 

「恋人に……見えるのならば、致し方なかろう?」

 

「これ食べたら帰ろっか?」

 

 少年が頷いて、スプーンでサックリと熱量操作魔術によって今も冷え続ける果実を掬い取った。

 

 少女も同じように盛られたシロップ漬けの果実をフォークで突き刺す。

 

 黙々と会話もなくパフェは平らげられていった。

 

 微妙な間。

 

 不安定な関係を象徴するような一時。

 

 少女は果たして今の自分は何を考えているのか分からなくなった。

 

 怒っているのか。

 泣いているのか。

 笑っているのか。

 

 複雑過ぎる混沌とした心情を察したのか。

 

 あるいは触れぬように気を使ったのか。

 

 少年は少女に何も言わない。

 

「ティア。一つだけ問いたい」

 

「何?」

 

 いつもの笑みに少女はゴクリと喉を鳴らして。

 

 自分でもよく分からないまま、尋ねる。

 

「裏切られ傷付けられて尚そなたはまだあの聖女達を……赦すのか?」

 

 少年は声の一つも変らず。

 

 ただ、そっと微笑んで答えた。

 

「喧嘩して、悪いと思ったら謝りたいと思う。そういうものだよ。友達ってきっと……」

 

 カラン。

 

 そんなドアを開ける音がして。

 

 何故、その時、振り向いてしまったのかと後にエトは後悔する事となる。

 

 釣られて扉の方を向いた少年は嘗ての友を、仲間を見つけて。

 

 入って来た金糸の髪の少女。

 

 聖女ハティア・ウェスティアリアもその視線に気付いて。

 

 ―――――――――。

 

 その場は乂羅で言うところの修羅場となった。

 

 *

 

 何処か困ったような少年の笑み。

 

 傍らにいる見覚えのある顔。

 

 全てを一瞬の内に推測し終えたハティアは努めて感情を表に出さず。

 

 二人の席へと進んでいった。

 

 店員は声を掛けたものの無視されてオロオロ。

 

 最悪のタイミングで現われた聖女の姿に皇帝としての少女は内心苦虫を噛み潰したような心地となった。

 

「付いて来てください」

 

「久しぶりって言う程じゃないけど、こんにちわ。ハティア」

 

 一人だけ常と変らない少年の受け答え。

 

 そのあまりに平常で無難なやり取りに聖女は僅か視線を険しくした。

 

「ここからは二人で行くから、エトは先に帰ってて」

 

「そんな事が出来たなら、余は皇帝をしておらぬ」

 

 少年が立ち上がるのを確認して。

 

 ハティアが入ってきたばかりの扉へと歩き出した。

 

 その後を追って二人も出て行く。

 

 通り過ぎ様にエトが金貨を女給に渡した。

 

「あ、ありがとうございました! またのお越しをお待ちしております」

 

 只ならぬ三人を見送る言葉が途絶えた時。

 

 もう扉はカランと音を立てて閉まっていた。

 

「「「……」」」

 

 未だ造成を続けている奴隷都市には幾つかのデッドスポット。

 

 都市開発中に出来た無駄な空間が存在する。

 

 大通りから歩いて数分の場所にある四方を建物に囲まれた空き地もその一つ。

 

 先導したハティアがそんな場所の中央でクルリと振り返る。

 

 少年が立ち止まると険しかった視線は更に剣呑な色を帯びた。

 

「貴方は……」

 

 歯を噛み締めて、僅か聖女が俯く。

 

「こんな戦いに誰かを巻き込む気ですか」

 

 少年は沈黙し、その言葉を受け止める。

 

「そんな風に誰かの優しさに漬け入って! 人を不幸にすると知っていながら!!」

 

 何も言わない少年に苛立った非難の声が熱を帯びていく。

 

「そのいつも顔に貼り付けている笑みでどれだけの人を不幸にすれば気が済むんですか!!」

 

 しかし、言い返す事もなく。

 

 少年は全ての言葉を受け止める。

 

 その横顔にエトは身体が震えてしまうのが分かった。

 

「そのまやかしで人を惑わさないでください!? 分かり合えるフリなんてしないで!!?」

 

 聖女としての義務感か。

 

 それとも聖女としての正義感か。

 

 ハティアが少年の横で佇むエトの前まで歩いてくると手を取った。

 

「ッ」

 

「貴女も騙されているんです。この男の力は誰にも制御出来ません。この国を思うなら、今すぐに縁を切るべきです。貴女と貴女の国を守る為にも」

 

 再び少年へ険しい視線を向けて。

 

「最低です。貴方は……」

 

 聖女は言い切った。

 

 パシンと平手が少年の頬を打つ。

 

「この地に住む人々に免じて、今日は見逃します。人気の無い場所なら何処だろうと構いません。消えてくださ―――」

 

 手が振り切られた。

 

「え?」

 

 思ってもいなかったのか。

 

 ハティアをすり抜けてエトが少年の手を掴む。

 

「ティア。往くぞ。不愉快じゃ……」

 

「何を!? 分かっているんですか!? その男は全てを不幸にする! 貴女の国を破滅させはしても栄光も力も与えはしま―――」

 

『黙れ』

 

 そのエトの怒気にハティアが息を呑む。

 

 片方の瞳に浮かぶ【七望星】が少女の本気を大気の鳴動によって伝える。

 

「今すぐ余の前から失せろ。七教会の活動は妨げぬが、次にそなたの顔を見た時は、我が国より七教会の関連施設は全て失せると知れ」

 

 静かな言葉。

 

 それが本気だと悟って、ハティアが少年を更に責めるような視線になる。

 

「貴女はこんなッ! ここまでッ!! どれだけの人を不幸にすれば気が済むんですか!!?」

 

「余は失せろと言っ―――」

 

 そっとエトの前に手を翳して、少年が言葉を遮った。

 

「時期が来たら、この国から出て行くよ。少なくともずっといるわけじゃないから……」

 

「―――」

 

 少年の真っ直ぐな瞳に聖女は視線を、逸らした。

 

「……次は戦場で会う事を願っています」

 

「うん。待ってる……」

 

 そのまま空き地に背を向けて聖女が去って行く。

 

 監視用の魔導も発動させていないのはエトにも分かった。

 

 背が曲がり角の先に消えて、どれだけ経ったかもわからなくなった頃。

 

 ようやく少女は緊張の糸を途切れさせた。

 

「ごめん」

 

「な、何を謝る事があるのか言ってみよ!! そなたに責められる事などないであろう!!」

 

「……」

 

 クシャクシャと頭を撫でられて。

 

 誤魔化されたと感じた少女がムスッと不機嫌になる。

 

「ティア。これでもまだそなたは……あんな扱いを受けて尚あの答えでよしとするのか?」

 

 少年は繋いだ手を引いて空き地から歩き出しながら、いつもの笑みで少女へと答えた。

 

「いつか、分かり合える日が来るかもしれないし……それぐらいは魔王が希望を持っててもいいと思わない?」

 

 その少年の笑み。

 

 いつもの笑み。

 

 それが一体何の為に浮かべられる仮面なのか。

 

 ようやく理解した少女は……泣いてしまいそうになった。

 

 きっと、自分の兄達を殺してしまった時以来、一度も込み上げてなんて来なかったもの。

 

 他者の為に流すわけもないと思っていた、その雫は、しかし、流される前に細い指に救われて消え去る。

 

「あんな風に怒ってくれて、ありがとう。エト……嬉しかったよ……」

 

「べ、別に余はただあんな一方的に責めるような者が好かなかっただけで……」

 

 泣きそうだった自分も、こんな風に言われて恥しい自分も、見せられなくて。

 

 少女はゴシゴシと顔を袖で拭った。

 

「帰ろっか?」

「……ん」

 

 手を繋いだまま、一組の男女はそのまま路地裏から消え去る。

 

 誰一人、その姿を監視するものは無く。

 

 中天に差し掛かる陽光が密やかに全てを覆い隠していった。

 

 *

 

 夕方。

 

 いつも通り、少女達と共に食事をして常のように少年は笑った。

 

 その優しげな表情が胸に焼き付いて。

 

 エトは七教会相手の根回しが一切手に付かなかった。

 

 旅する三人の少女達も同様。

 

 何かを感じ取った様子で食事が終わると部屋へと戻っていった少年に静かな視線を向けていた。

 

 エトの部屋へと近衛達に通されたイフィミスラがやってきたのはその夜。

 

 初めて二人きりで対面する二人の少女はテーブル越しに相手の心の内を覗き込もうとした。

 

 最初の一分は無言。

 

 イフィミスラが先に口を開く。

 

「皇帝陛下。今日何があったのか教えてもらいたい」

 

「聞いても詮無き事であるが、それでもか?」

 

「ああ、あの何も話してくれない馬鹿者に直接聞いては困らせてしまうからな」

 

「よい。ならば、話そう。今日、七聖女ハティア・ウェスティアリアに見付かった……」

 

「ッ、それでか……」

 

「余の不手際である故、ティアに非はない。ただ、聖女に酷く罵られて……それからあのままじゃ……」

 

 イフィミスラは己の胸に片手を当て、視線を俯ける。

 

「それでティアは何と?」

 

「いつか分かり合える日が来るかもしれない。そんな希望を魔王が持っていてもいい、と」

 

「あの馬鹿者らしい……」

 

 僅か唇の端を緩めたイフィミスラにエトは不思議な感覚を持つ。

 

「心配で来たのではないのか?」

 

「心配させてくれるならば、我は幾らでもしよう。だが、繋がっていればこそ、今は解る。悲しみも苦しみもあやつは喜ばない。きっと……」

 

「その信頼。羨ましくも眩いものであるな」

 

 イフィミスラが苦笑した。

 

「傍(かたわら)に在りて、共と生きて、だが、我にしてやれることはあまりにも少ない」

 

 少女(イフィミスラ)は少女(エト)に微かに羨望の視線を投げる。

 

「陛下、貴女のように我には大きな権力も無ければ、並び立とうと意気込む力もない。例え、永遠を共に往けても、どれだけ繋がっても“役割”が違う事もある」

 

 イフィミスラの言っている事がエトには何となく解った。

 

 どれだけ親しくとも人と人の繋がりに“適当な配置”等というものはない。

 

 親がどれだけ子を愛しても、子の子供には為れぬように。

 

「イフィミスラ・ハージェット・テトス・エルデナンド。それでも余は……その繋がりを羨む。貴女がそんなにも全身で繋がっている。その奇跡を……」

 

 菫色の瞳にはイフィミスラの全身に刻まれた刻印が見えていた。

 

 それは少年との契約の証。

 

 そして、信頼と永遠の契り。

 

 見る者が見れば、解る。

 

 愛された末に刻まれた少年の刻印はイフィミスラの身体の隅々にまで深く、魂にすら届いている。

 

「ぅ……み、見えるのか?」

 

 エトが頷く。

 

 隠していたつもりだったイフィミスラにしてみれば、その刻印を見られる事は少年との密事を見られる事に等しい。

 

 少年からの思い。

 

 少年への思い。

 

 どちらもあって全てが刻印を今も成長、変化させている。

 

 愛せば、愛の形に。

 

 赦せば、赦しの形に。

 

 魂すらも変革する刻印は今も少年と繋がりを持って、その心を伝える。

 

 だからこそ、少年の痛みが苦しみが時折透けてしまう事もある。

 

 それでも少年が覆い隠したものが多少見えているだけに過ぎない。

 

 少年は少女に心の奥底を全て見せてはくれない。

 

 それが寂しくて。

 

 でも、自分を大事に思ってくれている事が愛しくて。

 

 イフィミスラは居ても経ってもいられなくなり、エトの部屋まで出向いたのだ。

 

「どうやら余と貴女は似た者同士。だが、違う道を往くらしい」

 

 エトの笑みにイフィミスラは目の前の少女もまた、少年の言葉(やさしさ)に触れた一人なのだと知る。

 

 何かを決めた瞳。

 

 それはイフィミスラと同じ。

 

 ただ、その道行きが違う。

 

 少女(エト)は世の覇道を歩み、少女(イフィミスラ)は夜の魔道を往く。

 

 魔王シンア・ザ・クリティカルアンラッカー。

 

 たった一人の男に振り回される女の両端だと二人は互いを認識した。

 

「今夜は余にとって有意義な時間であった」

 

「我こそ。こうして話せた事、心より嬉しく思う」

 

「ふ……ふふ……」

 

「は、はは……」

 

 互いに笑みを零しながら、二人の少女は生涯の友と言える相手を得て、それからまた少年の他愛ない話で夜遅くまで盛り上がった。

 

 *

 

 そんな事になっているとは露知らず。

 

 少年は一人月の見える透明な天蓋の下。

 

 寝台にも入らず、壁に背を預けてぼんやりとしていた。

 

 少女達と共に旅をしている間、一度も見せた事のない表情。

 

 誰かの為に笑み、誰かの為に生き、世を渡る魔王ではない姿。

 

「……」

 

 顔に悲しみも痛みも苦しみもない。

 

 瞳は広漠を思わせて空の器。

 

 まるで人を前にしてようやく変化を及ぼす鏡の如き貌(めん)。

 

 そんな空っぽな表情を見れば、少女達は驚くだろう。

 

 いつも何かしらの表情を浮かべてはコミュニケーションを取っている相手とは思えずに。

 

 少年は深く深く現実ではない場所を彷徨う。

 

 脳裏で流れていく膨大な式。

 

 用意された空白に幾つもの解析結果が導き出されていく。

 

 それはハティア・ウェスティアリアが纏っていた探査魔導を掻い潜る為の情報。

 

 偶然の鉢合わせを防ぐ防衛策。

 

 つまり、気休めだった。

 

 それでも無いよりはマシかと形作れば、すぐに式は組み上がり、やる事も無くなった。

 

 意識を浮上させても、少年の顔に変わりはない。

 

 必要ない【作業】が省かれた顔はただ星を見上げている。

 

 そんな顔をずっとしていなかったのは単に誰かが傍にいたから。

 

 たぶん、己の騎士すら持たず、魔王と言われながら一人追われていた頃以来かもしれない。

 

 魔王と呼ばれ始めてから多くの月日が経った。

 

 少しずつ己の力の使い方を独学で学び、多くの智と武を修めた。

 

 しかし、未だ独りの夜に星空を眺める以外の趣味はない。

 

 まだ自分が魔王だなんて知らなかった頃。

 

 四人の仲間達と旅をしていた頃。

 

 少年は確かに星空を愉しんで見ていた。

 

 いつから、それがただの行為になってしまったのか。

 

 少年自身も知らない。

 

 魔王と呼ばれるようになり、人との出会いは裏切りと別ればかりに彩られて、それでも笑みに全てを込めてやってきた。

 

 幾度も戦った嘗ての仲間達。

 

 その罵倒なんて随分昔から聞いてきた。

 

 それでも慣れる事はない。

 

 慣れたはずもない。

 

「……」

 

 生きると決めて。

 

 詰られるなんて理解していた。

 

 最初はただの物だった。

 

 物は出会いを知り人となった。

 

 そして人は仲間を得て、自分が人に似た何かだと知った。

 

 仲間達の剣に貫かれた日、人に似た何かは死に、人のフリをした何かになった。

 

 人のように朽ちる心ならば、それはもう死んでいたはずだ。

 

 人のように傷付いていたならば、それはもう人として死んでいたはずだ。

 

 けれど、死なず、朽ちず、滅びない。

 

 人のように振舞って尚。

 

 やはり“理解”した者は誰もが少年の傍から離れていく。

 

 誰かの為の笑みは同時に自分の為の笑みだと少年はいつだったか気付いた。

 

 人の理解を妨げる仮面。

 

 こんな化け物ですらない何かだと。

 

 自分を誰かに知られたくなかったのだと。

 

「……」

 

 金色の髪の少女といつかした約束も今は昔。

 

 人々の為に今も自らを捧げて、少女は“不幸”と戦い続ける。

 

 そんな優しい少女の為にしてやれる事なんて一つしかないのに、その一つすら出来ず。

 

 今も永らえて。

 

 少年は思う。

 

 いつかは赦してもらえる日が来て欲しいと。

 

 他者の不幸の上に生きてきて。

 

 戮(りく)されるべき命のままに生きてきて。

 

 もう、そんな事は夢物語だと知って尚。

 

 潰えぬ希望に縋り続ける。

 

 これを浅ましいと言わずに、傲慢だと言わずに、穢れていると言わずに、何と言えばいいのか。

 

 最も単純明快にして世界を救う方法は少年の死であるのに。

 

「……」

 

 憎まれる事ならば慣れている。

 

 殺される事も、怒りを向けられる事も、詰られる事も、苦しむ事も、全てはいつもの事だ。

 

 昔々、まだ自分が何かも知らなかった頃。

 

 人間ですらなかった名も付かぬ何かだった頃。

 

 そんな己を思い出して、少年は空を見る。

 

「にぃさま」

 

「エフィリム?」

 

 暗い室内に明かりは付かず。

 

 静々と少女は一人、少年の横にそっと座った。

 

「えっと、いつから?」

 

「すこし、まえからです」

 

「あはは……怖いところ見せちゃったかな……」

 

 フルフルと少女は首を横に振る。

 

「にぃさま。ほしがすき、なんですか?」

 

「え、うん。昔からいつも見てたから……」

 

「……」

 

「エフィリム?」

 

 少年が横を向けば少女と月明りの下で視線が交わる。

 

 暗い部屋の中。

 

 瞳と瞳を結んでも、欠片も奥は覗き込めない。

 

 それでも少女は泣いていた。

 

「エフィリム……」

 

「てぃあにぃさま」

 

「何?」

 

 優しく聞いた声に少女は流れ落ちるものをそのままにハッキリと呟く。

 

「にぃさまがなけないぶん……えふぃがなきます。ですから……なかないでください」

 

「―――」

 

 少年は二の句が継げなくなった。

 

「にぃさまがえふぃたちのぶんまでわらってくれるから、えふぃがこんどはにぃさまのぶんまで、なきますから……」

 

 幼子の瞳に全てを見抜かれて。

 

 そんな事は最初から解っていたのかと。

 

 愚鈍に過ぎる己を殺したくなる程に、少年は微か、震えて。

 

「ごめん。心配させて……」

 

 そっと少女を抱いた。

 

「少し、話に付き合ってくれない?」

 

 指が流れ落ちる透明な雫を掬って、涙の後を手で拭っていく。

 

「にぃ、さま?」

 

 ゆっくりと少女を自分の腕の中に囲い込み、膝の上に乗せて。

 

 少年は他愛ない昔話をする事にした。

 

 別に悲しい話ではない。

 

 それはいつかあった話。

 

 死に掛けた一人の少年を助けた四人の旅人の話だ。

 

 何も知らない少年に多くを教え、多くを伝え、人間にしてくれた仲間達の話。

 

 今よりもずっと世界は過酷で。

 今よりもずっと世界は残酷で。

 

 けれど、少年にとっては輝いていた。

 

 眩い宝石のような毎日の話。

 

 危険な化け物の住む谷を抜けて、美しい花の揺れる草原を越えて、魔法の息衝く村を過ぎて、沢山の人の為に竜を退治して、溢れた魔を滅し感謝されて、そんな少年と少女達の記憶。

 

 空の雲。

 

 花の匂い。

 

 風の音色。

 

 黄昏の斜陽。

 

 全てが鮮烈に語られる。

 

 誰よりも優しい少女と。

 

 誰よりも強い少女と。

 

 誰よりも厳しい少女と。

 

 誰よりも美しい少女と。

 

 感謝と恩を返す事しか出来ない少年の。

 

 それは魔王が生まれる前日譚。

 

「……」

 

 今、少年の傍らにいる少女(エフィリム)は黙って全てを聞いていた。

 

 キラキラと目を輝かせて。

 

 さっきまで泣いていた事なんて忘れて。

 

 やがて、話が尽きると、少女は呟く。

 

「しあわせでしたか?」

 

 少年は少女にただ事実を、今も続く物語の最後を語って聞かせる。

 

「今も幸せだよ」

 

 頭を撫ぜられて少女が笑顔になる。

 

 少年もまた笑みを零した。

 

「だって、傍にこうして大切な誰かがいるんだから」

 

「ぁ……」

 

 幼くして薄汚い世界を見つ続けてきた少女は、初めて見る少年の“笑顔”に心を奪われた。

 

 ずっと、感謝の影で隔たっていた壁が綻びていく。

 

「にぃさま……にぃさまはやっぱりやさしくてあたたかい……えふぃがだいすきなにぃさまでした。その……にぃさま……」

 

「何?」

 

「えふぃとこのこを……いっしょに、か、かわいがってくださいませ……」

 

 少しだけ困った笑みで、少年は返事もせず。

 

 立ち上がりながら小さな体を持ち上げた。

 

「ん……」

 

 胸に顔を寄せて少女は囁く。

 

「おそばにずっとずっといます。えふぃはにぃさまがだいすきです」

 

 寝台は軋みすらなく優しげな衣擦れの音を立てて、二つの体を温かく沈ませた。

 

 *

 

 二本の角も青い肌も膨らんだ胎も全て少年の手で露にされて。

 

 少女は擽ったそうに身を捩(よじ)る。

 

「可愛いよ。エフィリム」

 

「ぁぅ…てぃあにぃさまはかっこいい、です///」

「はは、ありがとう……」

 

 貴皇に乗船してから与えられていたドレス風の衣装を剥ぎ取られた身体は夜の熱さも届かない船内においてしっとりと濡れている。

 

 長年の経験は少年に優しく熱くなった身体を撫ぜさせた。

 

 脇腹や頬や腹の上を指が軽やかに踊っていく。

 

 共に横となった想い人の手に触れられる度。

 

 エフィリムの身体は熱く火照っていく。

 

「ん、く…にぃさまぁ♡」

 

 性感帯とは別の場所。

 

 それでも素肌を愛撫される快感は少女を発情させて。

 

 淫蕩を旨とする淫魔の血は牝としてすぐに牡を受け入れられるよう膣(なか)を潤わせた。

 

 まだ触れられていない細く小さな“すじ”。

 

 その中央に蜜の玉が浮いて、一筋流れる。

 

 そんな些細な感触でさえ、エフィリムの性を高ぶらせて悦びを引き出していく。

 

「もう、準備出来ちゃった?」

 

 少年の囁きにコクンと素直に頷きが返される。

 

「それじゃ、今日は魔族の子が良くなる方法を試してみよっか」

 

「にぃさま?」

 

「エフィリムの中にいる子を感じる限り、エフィリムもたぶんそうだと思うから」

 

「?」

 

 よく解らないという顔をした少女の頭が撫でられる。

 

「えっと。エフィリムはまだ小さいから自覚が無いと思うけど、高位の【血統種(ブラッディ)】の女の子はちょっと特殊な器官を幾つか持ってて、淫魔も中位くらいから大概が同じなんだけど……」

 

「きかん?」

 

「うん。つまり、ちょっと耳を貸して」

 

 そっと少女の耳に魔族の秘密が告げられる。

 

「そ、そう、なのですか?」

 

「うん。エフィリムはもう僕と触れ合ったから。たぶん、エフィリムが良ければ、だけど」

 

「///」

 

 頬を染めつつ、少女が僅かに頷いた。

 

「ゆっくり、ね?」

 

 少女は少年に囁かれ身を捩り。

 

 枕を抱くように四つん這いとなって尻を上向けた。

 

「こうですか? にぃさま」

「うん。いくよ……」

 

 背後に回った少年が指を股間に伸ばした。

 

「~~~」

 

 まず触れられたのはすじ。

 

 粘性の高い蜜を塗り伸ばしながらなぞられて。

 

 少女の背筋を言いようの無い快感が突き抜けた。

 

「こっちにも」

 

 少年が顔を近付けて、少女の尻へと手を置いて、すじの下。

 

 今は丸見えになっている薄紅色の窄まりへと舌を伸ばした。

 

「ひぁう!?」

 

 思わず声を上げて感じてしまったエフィリムがその背徳感と言い知れぬ震えに顔を蕩かせる。

 

『淫魔の子は此処も同じように使えるようになるんだよ』

 

 少年に言われた通りの結果に少女の中で僅かに残っていた忌避感が消え失せた。

 

 本来排泄器官としてしか使わない穴。

 

 その訓練は少女が嘗ていた娼館でもしていた。

 

 しかし、少年が言ったのはそれとはまるで別次元の話。

 

 高位の魔族の女は子供が出来難い代わりに幾つも生殖器官を持つという秘密。

 

 それは言わば食料そのものを排泄する事すらなく消化能力を高次の領域に引き上げる行為。

 

 今まで排泄する為に使っていた器官は役割を終え、新たな次代の種を孕む第二の子宮を供えた場所として新生する。

 

 そんな、初めて聞いた話を、エフィリムは身を持って実感していた。

 

 少年に言われたからか。

 

 淫魔の血が騒ぎ出したのか。

 

 身体は熱く震えながら、内部を刻々と変えていく。

 

 今まで人間として必要不可欠だった小腸が消え、大腸は一部を残して内蔵の壁へと取り込まれ、そして、尻穴から続く腸は沸々と灼熱するような熱さで襞を備え、その奥を隠されていたもう一つの器官へと繋ぐ。

 

「ひぁ♡ んくぅ♡ にぃ…ひゃ…まぁ♡ あつ…い♡ れひゅ♡」

 

「これからは何を食べてもお手洗いに行かなくてもよくなるよ。それと余程に変なものか危険な毒物でも食べない限り、お腹も壊さなくなるし。おめでとう……エフィリム。これで淫魔としては一人前だよ……」

 

「ぁ♡」

 

 ちゅ。

 

 そう再び少年の舌が尻穴へと伸ばされる。

 

 すると窄まりは解け、ひくひくと少年の舌を物欲しそうに内部へ受け入れた。

 

「ひぁぁ♡ にぃひゃまぁ♡ にぃひゃまぁ♡」

 

 すじを指で愛撫され、穴を舌に優しく蹂躙される悦びで少女が僅か達した。

 

 プチュッとすじと尻穴が内部から蜜を弾けさせ、少年の顔に糸を引かせた。

 

「淫魔の子は準備が完了すると、お腹の中は殆ど赤ちゃんを産む為に特化されていくから、今までよりも深く男性を浮け入られるようになるし、子種も沢山受け入れられるようにって。もう、我慢出来ない?」

 

「はぃ。にぃさまをおしりのおくにほしくて……うずいて……にぃさまぁ♡」

 

「今日は一杯しよう、ね?」

 

 少女がコクコクと何度も頷いた。

 

「……エフィリム」

 

「~~~♡」

 

 パサリと少年の服が寝台の上から落ちる。

 

 そして、少女は自分の背後に大きな熱さを感じた。

 

「柔らかくて気持ちいいよ。エフィリム……」

 

 尻へと当てられた幹の堅さが愛しく。

 

 火傷しそうな少年自身を挟み込むだけで感じられた鼓動に期待が膨らんで。

 

 少女は自分から小さな尻を無意識に幹へ押し付けた。

 

「ゆっくり馴染ませながらするから……」

 

 尻から離れた幹が倒され、もう蜜を垂らした鈴口が本来の子作りとは違う穴へとプチュッと押し付けられた。

 

「ぁ…ふ…ぅ…にぃひゃ…まぁ♡」

 

 グリグリと先端と窄まりがじゃれ合う。

 

 入ってこようとする熱さに抵抗した穴もすぐに解され。

 

 クプンと先端を受け入れた。

 

「ひぁあう♡ おひりぃにぃ!? にいひゃまぁ♡」

 

「まだ、先端だけなのにおねだりしてるよ。エフィリムの此処」

 

「えふぃのあにゃぁ♡ つかってくだひゃいませぇ♡」

 

「うん。一緒に気持ちよくなろう……」

 

 ズズ。

 

 そう幹がきゅうきゅうと食み締める穴へと突き刺さっていく。

 

 第二の膣。

 

 淫魔を体現する器官は人間の名器と呼ばれる性器の比ではない。

 

 完全に悦楽を貪る為の器官だ。

 

 完璧に男を堕落させる為の器官だ。

 

 同時に確実な妊娠を促す為に男を酷使する器官であり、甘やかす場所だ。

 

 直腸だった其処はもはや無数の襞と男を発情させる淫蜜の壷となって、入ってきたならば、指ですら男を射精に導く淫悦の獄となった。

 

 一度、其処に入った男は引き抜く事を拒み、生涯が終わろうと構わず射精を繰り返すに違いない。

 

 グヂュウウウウウウウウウウ。

 

 少年の幹に負けず劣らず熱い蜜が穴の奥へと少年を引き込んだ。

 

「くっ、えふぃりむ。こんなにとろとろにして……気持ちいいよ……」

 

「~~♡ ~~~~♡」

 

 声にならない悦楽。

 

 口元からだらしなく唾液を滴らせながら、もう一人前の淫魔の顔で少女は舌を出して喘ぐ。

 

 頭の中は気持ちいいという言葉と少年の名前で一杯。

 

 そのはしたない己を枕に隠して、少女は意識して、幹を何度も襞で甘く甘く愛撫した。

 

「ぅ……」

 

 少年は少女の凄まじい内部の具合に放精を何とか我慢しつつ、根元まで幹を沈み込ませた。

 

 グリュン。

 

「ッ、ぁあああああああ♡♡♡」

 

 少女がようやく最後の理性を融かし切った。

 

 少年の太い幹の先端が二つ目の少女の聖域。

 

 第二の子宮の入り口を優しく押し潰していた。

 

「全部、入ったよ。頑張ったね……」

 

 指が角を撫でて。

 

 少女はもう自分が心底に、いや魂の奥底から少年だけのものになったと感じた。

 

 尻に密着した少年の下半身。

 

 穴を満たした蜜と襞と幹。

 

 一つとなった体はまるで最初からそんな形をしていたように感じる程、自然。

 

「にぃひゃまぁ♡ うれしぃ…れす……」

 

 こんな風になる為、自分は生まれてきたのだと。

 

 溢れるものが少女の頬を伝った。

 

 ちゅ。

 

 少女の上半身を胸まで抱き寄せて。

 

 少年が横から頬に口付けする。

 

「僕も嬉しいよ……」

 

 軽い身体。

 

 まだ幼くとも淫魔として一人前となった少女。

 

 その大切なものを二度までも奪った罪と愛しさを忘れぬように。

 

 少年は囁く。

 

「この身体で与えられるものは全てあげるよ。君が必要としてくれる限り、ずっと……」

 

「ッ……はい」

 

 淫も悦も全て含めて。

 

 何より嬉しい言葉を少女は胸へ刻んだ。

 

 少年が幾多女性を抱こうと自分が一番気持ちよかったと、例え言ってくれないとしても、そう思わせられるよう……ただ、己の血と己の決意で、少女は少年を愛する事を誓う。

 

「にぃひゃまぁ♡ えふぃのあなでぇ♡ こづくりしてぇ♡」

 

「うん」

 

 牝として少年への最初の要求はたった一つ。

 

「かわい…がるよ……」

 

 ざわめき出した襞に導かれながら、少年は腰を前に突き出した。

 

「ひぁぁぁぁぁぁあ♡♡」

 

 グヂィッ。

 

 最初の一突きでエフィリムは本当に達した。

 

 普通の男ならば一秒とて持たないだろう淫魔の膣(なか)が少年の幹を犯せ犯せと襞で一斉に攻め立て始める。

 

 グチュ、グヂュ、グヂャ、グヂャ、グヂュ。

 

 一突きで射精させるのが並みの淫魔で、二突きで全ての精を搾り出すのが高位の魔族とされる。

 

 だが、それなりに高位の魔族との経験すらあった少年は、少女の子宮口へ抽挿する間も必死に少女へ流れ込みそうになる己の力をセーブしていた。

 

 男の生命力を最後の一滴まで搾取する淫魔の性か。

 

 少女の胎内が秘める力への貪欲な渇望はたぶん高位魔族すら音を上げる。

 

 魂すら全て男の身体から引き剥がし、己の子の滋養とする恐ろしき才。

 

 もし相手が少年で無ければ、並みの人間は即死。

 

 高位魔族すら力を全て奪われていたかもしれない。

 

 そんな甘美な死を前にして、少年は引かず。

 

 少女の膣(なか)を幹で引き抜き様にえらで削り、深く突く度に感度の高い場所を擦り上げた。

 

「ひぐ♡ ひぅ♡ んぁ♡ てぃッ、あ、にぃひゃまぁああああああ♡♡♡」

 

 少女の穴は太い幹の根元を締め上げ。

 

 襞や内部はその時その時で様々に形を変える。

 

 少年が擦り易いよう柔らかになり。

 

 少年が留まり易いよう弾力に富み。

 

 少年が引き抜き難いよう蜜の粘土が上がり。

 

 正に千変万化。

 

 高位の淫魔とて、そこまで内部を自由とするには熟練がいる。

 

 才能。

 

 少女に起きている異変の全てはそう呼ぶに相応しい。

 

「にぃひゃまぁ♡ にぃひゃまぁ♡ にぃひゃまぁあああああ♡♡♡」

 

 急速に男を虜とする術を身に付けていく無垢なる少女の叫び。

 

 鈴のように心地良く。

 

 人魚(ローレライ)も真っ青な人の意識を変性する美声。

 

「っ、っ、っ……」

 

 幾多の我慢を重ねて、少女を愛しながら絶頂へと導いていく少年は天国とも地獄とも付かない少女との行為に耽りながら、破裂しそうになる幹の奥にありったけの精を溜め込んでいく。

 

「エフィリム。もう少し、だから……」

 

「~~~♡ ~~~♡ ~~~~!!!?」

 

 少年の蜜と少女の蜜がパンパンと互いの肌が弾ける度に寝台の上を汚した。

 

 その匂いに包まれながら、少女ははしたなくだらしなく、牝の顔で少年におねだりをする。

 

「にぃひゃまぁ♡ おくれぇ♡ びゅーびゅーしれぇ♡ くらひゃぃぃい♡ えふぃとあかひゃんちゅくっれぇ♡♡」

 

「うん。ぜんぶ、あげるよ。えふぃ」

 

「ッ♡ ッ♡ ッッッッッ♡」

 

 初めて、そんな風に愛称で呼ばれて、少女の意識は忘我の彼方へと到達した。

 

「んぁああああああああああああああああああああああああああああ♡♡♡」

 

 急激な全方位からの圧迫。

 

 正に幹を千切り取る勢いで収縮した膣(なか)の具合に少年が僅か息を詰まらせ、射精した。

 

 ブボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ。

 

 もう、それは射精という行為ではなかった。

 

 少年の奥に溜め込まれた精を根こそぎ子宮へと移す行為。

 

 今までの二倍近くまで膨張した幹は鈴口を指すら通る太さにして、先端を完全に食んだ子宮口の奥へ精を叩き込んだ。

 

「あああああああああああ♡♡♡ ああああああああああああああ♡♡♡♡」

 

 今まで膨らんでいた胎の奥。

 

 第二の子宮は厚くなった内臓の無い下半身の中で急激に膨張し、一瞬で腹を膨れ上がらせた。

 

 ボゴン。

 

 唾液を垂れ流しながら今までの倍以上も大きく腹を膨らませて、少女は腕で愛しそうにソレを包む。

 

「にぃ、ひゃまぁ♡ えふぃはぁ♡ にぃひゃまだけのぉ♡ こぢゅくりあにゃ♡ れひゅぅ♡」

 

 荒い息を整えながら、天使との戦いよりよっぽどに疲れを滲ませて、少年が何度も少女の頬に口付けする。

 

「えふぃは僕のものだよ……えふぃのここも、僕だけのだから……」

 

「♡」

 

 安心した様子で初めての第二器官での行為に満足した少女の意識がフッと落ちた。

 

 激しい行為であっただけではない。

 

 今まで人間としての限界で生きてきた少女が淫魔として己を受け入れて行った初めての行為でもあったのだ。

 

 幾ら急激に身体や心も変化したとはいえ。

 

 やはり負担が大きかった事は否めない。

 

「お疲れ様。エフィリム……今はゆっくり休んで」

 

 少年は未だ繋がったまま、寝台のクッションに背を預けて妊婦のような胎の少女を抱えて、上に薄い布を被る。

 

「君もお疲れ様……エフィリムの為に頑張ってくれて……」

 

 薄い布の下。

 

 膨れた胎の内部から僅かに紺より暗い色の魔力が一筋立ち上る。

 

 エフィリムの胎(なか)に宿るもう一つの命。

 

 たぶんは少女に肉体を明け渡している存在。

 

 少年の精という極上の滋養を手に入れたせいか。

 

 胎内での脈動の音が少年にも聞こえた。

 

「…と…ま…」

 

「?」

 

 エフィリムが目を覚ましたのかと少年が顔を覗き込むと薄らを目を開けた少女の唇が僅かに開いて、覗き込んだ少年の口元を捕えた。

 

 く…ちゅ…びちゅ…くちゃ…。

 

 弱々しくも拙い舌使い。

 

 けれども、まるで親鳥に餌をねだる雛のような純粋さが少年にそれが誰なのかを教える。

 

「君は……」

 

「と…と…さ…ま……」

 

「初めまして。まだ、名も無き子……」

 

 少年と少女の間に子が出来たわけではない。

 

 だが、滋養を与えた関係上、育ての親くらいの気持ちなのか。

 

 彼女は囁く。

 

「もぅ…すこし…まって…と…と…さま…もぅ…すこ…し…で……」

 

「君が生まれてくるの。楽しみにしてるよ……」

 

 少年の微笑に彼女もまた笑みを零す。

 

「……うん」

 

 クテッと少女からまた身体の力が抜けた。

 

「素直ないい子だよ。エフィリム。君の姉妹は……」

 

 少年もまた疲れた様子で目を閉じる。

 

 少女との力のやり取りに細心の注意を払った精密制御の反動だろう。

 

 傷付いた身体内部の修復へと意識を深層に潜らせていく。

 

 二人の間で魔力の輝きと肉体の輝きが交じり合い天へと上ってゆく。

 

「「……」」

 

 その夜、少年と少女はずっと繋がったまま、朝まで目を覚ます事は無かった。

 

 翌日、少年を起こしに来たエリザリドは少し驚かせてやろうとやたらモゴモゴした布をパッと捲って。

 

 あまりの有様に刹那固まった後。

 

『い、淫魔王……やっぱり、淫魔王じゃないのよ!!?)

 

 と、乙女の妄想より凄まじい幸せそうな男女の惨状に顔を真っ赤にして涙目でその場から走り去った。

 

 男女が目覚めるより先にもう一人のエトの従者がその現場を目撃して目を剥き。

 

『へ、へへ、陛下も、あ、あああ、あんな!!!? あんなぁあああああああああああ!!!!?』

 

 と、錯乱したのは仕方ない事だっただろう。

 

 結局、少年とエフィリムが起きた時、目にしたのは…イフィミスラの呆れた視線と「自分もする!!」と裸で突撃するナーリャというシュールな光景だった。

 

『やれやれ。ふぁ、ん……』

 

 騒がしい艦内を感じ取りながらも、艦の主である皇帝はその朝、寝台から起き出しては来なかった。

 

 理由は単純。

 

 艦内の何処でも映し出せる水晶というものがあって。

 

 ずっと、羨ましいやら自分も混ざりたいやら思いながら少年と少女の交合(まぐわい)を見ていて。

 

 寝不足だったのだ。

 

 自らを慰めるなんて、初めての行為をしてしまった事も要因の一つである。

 

 その朝、結局は誰の食事も遅くなった。

 

 元凶である少年がエフィリムやナーリャ以外から白い目で見られたのは当然の報いとしか言いようが無いのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。