第二章三十九節「視姦」
再会はそう嬉しいものでもなかった。
それがエーレイン・ディウアーズ・L・アルバストレの偽らざる気持ちだ。
クラウゼン公爵家地下研究棟。
少年を追い掛けて皇帝の命で侵入を果たしたエーレインとエリザは呆気なく掴まってしまった。
その理由が迂闊な行動だったのは半分本当だったが、もう半分は嘘だ。
巨大な研究棟には対人兵器や防衛設備が過剰なまでに配備されていた。
その結果、二人はとりあえず一計を案じて、途中から掴まる事にしていたのだ。
本来はもう少し逃げ回った後になるはずが、皇帝の威光(グッズ)に目を奪われたエーレインのミスで時間が早まるというハプニング。
その上、命を取られるでもなく、意識を奪われるでもなく、拘束と武装解除だけで済ませられたのも彼女達には予想外だった。
隠密任務という性質上、二人は体内にそれなりの武器や魔術を仕込まれている。
何かしら致命的な処置が加えられると思考で判断するか。
あるいは二人の中の魔術が反応したなら、その時点で隠密活動を捨てて地下施設をそのまま強襲する事になっていただろう。
しかし、そんな事はなく。
すんなりと少年の下へ二人は辿り着いた。
それは幸運であった。
が、同時にクラウゼンへの疑心を深める結果にもなっていた。
二人は大きな寝台の上で片腕を人馬の少女に絡め取られた少年を内心、かなり半眼で睨む。
自分達が苦労している間に何をしていたのか。
言うまでも無く状況から推測出来る。
出来ないわけがない。
中世的な顔立ちはいつもの如く。
少し困った様子で笑っていた。
一応、クラウゼンに少年との間柄を知られたくない二人は初めて出会ったような顔で「これが魔王」「どうかしら」等と白々しい小声を交わす。
無論、少年や人馬の少女と同じく全裸であった。
「えっと……」
琥珀色の洋光(ランプ)に照らされながら。
すぐに彼女達の事情を察した少年は事情を訊きたそうに壁際に控える四人の少女達を見た。
クラウゼンに仕える四大貴族。
その子女である【被検体(おじょうさま)】達にしてみれば、今まで自分達が操り人形にしてきた少年が実は最初から肉体の自由をいつでも奪い返せた事はショックこの上ない事だ。
そもそも少年の肉体を弄ったのは彼女達自身である。
複数の改造と薬の投与、更に死神の力まで用いてあらゆる行動を封じた。
少年は本来なら彼女達が許可しない限り二度と意識を取り戻す事はない、はずだった。
結局は芝居をされていたと知って。
今まで交配実験を取り仕切ってきた彼女達のプライドはズタズタだ。
もしも、少年がその気になれば。
少女達を背後から襲う事も逃げ出す事も出来た。
管理不行き届きでは済まない失態と言っていい。
しかし、最初から全てお見通しだったクラウゼン現当主の命は簡潔に交配実験はそのまま続行し、ゲストも混ぜよという至極冷静なもの。
今更、少年を自らの好きに動かそうとするような愚かさこそ少女達は持たなかったが、同時に当主からの命令を遂行しなければならないという義務感と重責と矜持が顔を僅かに厳しくさせていた。
「ティア様」
「どうすればいいかな?」
「っ……今、連れて来られた二人とも交配をお願い致しますわ」
少年から行動を催促されて、四人の最年長である少女が進み出る。
「えっと、順番に?」
「はい。まずはそこの馬畜生。いえ……シュレディナに。それからこちらのお二人に」
「いいけど。また薬とか使うんなら、僕だけにしてくれない?」
少年の思い掛けない言葉に少女達は互いに顔を見合わせる。
「人形にされていた間の記憶があるのですか?」
「一応ね」
「そうですか。では、知っての通りです。あれは迅速に交配を行う手助けをする為のものですので、自らの意思で交配を進めるというのなら必要ありません」
「そう……」
にこりとされて。
その少年の笑みに少女達が思ってもいなかった反応に動揺した。
「どうして、そのように笑えるのですか?」
四人の一人が尋ねる。
「丁寧に扱ってくれたから、それじゃ答えにならない?」
「え……」
誰もが以外そうな顔をする。
少女達にしてみれば、少年の身体の扱いは確かに丁寧でこそあったものの、それこそ尊厳を全て剥ぎ取ったような状況だったと知っている。
第一世代と言われる外から連れられてきた被検体達。
その殆どは彼女達を快く思わない。
憎むものもあれば、復讐を誓われる事もある。
そういう間柄だ。
研究棟生まれの第二世代以降ならば話は違うだろうが、それは単に教育の成果であって、彼女達自身が好かれるのは当然の結果でしかなく。
少年の言うような扱いが良かったなんて。
面と向かって言われた事の無い少女達は戸惑う以外なかった。
「昔から君達みたいに僕の身体に興味があって、僕を捕らえる事に成功するような存在は結構えぐい人ばっかりだったから」
僅かに苦い笑み。
少女達どころか。
今は囚われの身であるエーレインとエリザも少年の言葉と笑顔に固まった。
魔術の嗜みがあれば、少年に施された魔術や他の改造が尋常でないのは分かる。
それが人道的とは程遠いものであるのは言うまでもない。
なのに、その扱いを笑って許すどころか。
感謝している感すらある少年が今までどんな風に生きてきたのか。
想像を絶する暗さが言葉とは裏腹の笑みには見え隠れしている。
「だって、君達は僕の脳髄に器具を差し込んだりもしないし、脳内の分泌物を操作したり、情報を改竄したりもしなかった。肉体に対する時限式の魔術とか封印とかも。何かしらの感覚操作や呪いとかだって、あくまで僕の自由を奪うくらい。十分、待遇は良いって胸を張ってもいいんじゃない?」
――――――。
言う程、少年の笑みに暗さはない。
だが、その暗さがないという点に少女達は背筋が汗ばみ、震えるのを感じた。
息が詰まるような閉塞感。
久しく彼女達が感じていなかった。
本来の地下研究棟内部に満ちていたはずのもの。
「「「「……」」」」
クラウゼンがランナを当主に頂くまで。
それは日常的に研究棟にて行われていた事だ。
個体の脳内情報や分泌物、感覚の操作は序の口。
良質な個体を得る為に呪いや魔術や薬で母体を重度の汚染に晒す事もあったと彼女達は聞いている。
ランナが当主になってからと言うもの、無駄に個体を破損させたり、記憶や脳内情報の改竄をするような事は無くなった。
効率化の問題であると当主本人から言い切られているものの、自分達を産み落とした母達からランナの代になって無用な犠牲と悲劇は減ったのだと少女達は聞かされ育ってきた。
彼女達にしてみれば、少年は研究棟の過去、少なくともそれに類する体験をした“本当の犠牲者”と言える。
自分達の前にいるのが不死者であるとは知っていても、それが自分達の代では知りようも無い旧き歴史を知る存在だと認めて、誰も皆その胸に言いようの無い感情を覚えた。
「と、とにかく。これより交配実験を開始しますわ」
「一つ要望があるんだけど、いいかな?」
「な、何でしょうか」
少年が少し照れた様子で頬を指で掻く。
「あんまり、女の子を口説くのとか。誰かに聞かれると恥しいから、音声だけ聞こえないようにしてくれない?」
「それは……」
個体の管理維持は厳密な指定を持って行われる儀式に近い。
変更を加えるのは当主の裁可が必要な事案だ。
否定しようとした少女達が声を上げるより先にプツリと音声魔術が起動する音がして、部屋の内部にランナの声が響いた。
『許可しよう』
「ランナ様!?」
「ラ、ランナ様!」
「た、直ちに交配実験を開始しますわ!」
当主の声に思わず方膝を折って頭を垂れた少女達の上に新たなる命令が下る。
『もう監視は必要ないだろう。最初からの約束だ。精神に多大な改変を加えない。それが破られたと感じたから出てきたのだろう?』
少年は笑みを深くして傍らのシュレディナの頭を撫でただけだった。
「君達が悪いわけじゃない。僕にも責任はある。けど、あんまり黙ってもいられなかったから」
『構わない。まだ時間稼ぎを続けたいならば、四人はその部屋より下がらせる。交配実験を続ける限りにおいて、契約は未だ続いていると認識する』
「じゃあ、それでお願いしていい?」
『無論だとも。魔王シンア・ザ・クリティカルアンラッカー。正統なる【大母】の直系よ』
「「「「?!!!」」」」
「……」
顔色も変えず何も言わない少年に満足したような笑い声を零して。
ランナは少女達に部屋から出るよう伝達して声を途切れさせた。
「では、こ、これで」
少女達がランナの言葉のまま頭を下げてから部屋から出て行く。
今まで自分達が触れていたのが、あの魔王だと知って、完全に気後れした様子になりながら。
監視の目が全て消えたところで少年がようやく溜息のようなものを吐いた。
「これで話しても大丈夫だよ」
今まで事の成り行きを見守っていたエーレインとエリザが未だに見られているし、聞かれているだろうと警戒を解かずにいるのを見て、少年が呟く。
「彼は約束を守るよ。見てるだろうけど、聞かれてはいない。表情だけそのままで話してくれれば、問題ないと思う。まぁ、もうバレてても不思議じゃないだろうけど」
二人が少年の平静な様子に溜息を吐いて顔を崩した。
少年の言い分からもう何もかもバレている可能性の方が高いと判断したのだ。
寝台の上のシーツが引っ張り出され、真ん中から二つに裂かれる。
体へ巻き付けて、ようやく人心地付いたのか。
エーレインとエリザは少年の前に椅子を持ってきて、半眼で少年を睨んだ。
「ティア様。陛下からの伝言です。余をいつまで待たせるつもりだ、と。もしも、此処を出るなら我ら二人と共に来て頂きたい」
エーレインは自分の内心を後回しにエトの言葉を最優先に伝える。
「なんて言うか。呆れてものも言えないわね。あんた魔王の癖に何であんな物腰低いのよ。普通、魔王って言ったら傲岸不遜なもんでしょ?」
エリザの言葉に少年が苦笑した。
「僕がそういうのに見える?」
「見えないです」
「見えないわね」
「そういう事」
二人が同時にまた溜息を吐いた。
「それと此処の当主は僕が今まで出会ってきた中でも飛び切りに優しくて厄介だと思うから、あんまり舐めない方がいいよ」
「たかだか都市国家を統べる者。そう思わない方がいいと?」
エーレインに少年が頷く。
「元々フルーとか七教会と関わりがあるみたいだし、他にもきっと色々隠してる」
「考えすぎじゃない? エトは此処の当主は優秀だが、世界の覇権とか藩落の政治には興味の無い学者肌のはずだって言ってたけど」
エリザに少年が間違ってはいないと返す。
「でも、だからエトは見逃してる。七聖女が凄過ぎるだけなんだろうけど、新しい技術は世界を変えるに足る。確かに都市国家程度の経済力と政治力じゃ、イグニシア・クルシスの研究開発能力とは雲泥の差かもしれない。けどね。個人の才能の前にはそんなものあんまり意味は無かったりするんだよ」
「血統の純化や交配なんて旧い国家じゃ何処でもやってるでしょ? あのジジイがんな大そうな玉なの?」
さっぱり分からないという顔でエリザが首を傾げた。
「僕は昔、七聖女と一緒に旅をしていた。その中にはフルー・バレッサもいた。フルーが一度だけ見せてくれた事があった品に【できたらいいなノート】って言うのがあって」
「何ソレ? っというか、七聖女と魔王が旅仲間って始めて聞いたわよ?」
「いや、色々あって……」
「で?」
「話を戻すけど、その【できたらいいなノート】には今の七教会が使ってる装備や【近代化】で普及した色んな品の設計や加工に必要な技術、とにかく膨大なアイディアが乗ってた。数十年前の話って言えば分かる?」
「あの老人が七聖女に匹敵する逸材だと?」
エーレインが訊く。
少年は迷い無く頷いた。
「本当の才能はどんな技術や設備も凌駕する。その才に努力がいつも届くとは限らないし、誰かが追い付くとも限らない。その時、たった一人の頭の中にある智識は世界の全てが載る本にすら勝る“唯一”となる」
魔王の言葉だった。
今まで幾千幾万の兵(つわもの)と争ってきた者の言葉だった。
少年は認めたのだ。
クラウゼン家当主は七聖女にすらも匹敵する傑物だと。
「で、言いたい事は分かったけど、これからどうするのよ? 帰るの? それともまだ此処に残る?」
エリザが本題に話を戻した。
「ちょっと、此処で調べたい事があって。それとエーデリアがどうなってるか分からないと動けないし、もう少しだけ留まっていたいんだけど、いい?」
「そりゃ、あたし達はエトからあんたが帰る意思があるなら、さっさと連れて来いって言われたわけだから、その気が無いなら無理やりにってわけにはいかないけど」
「……仕方ない。此処から脱出するにしてもまた迎えに来るのは面倒過ぎる。ティア様の意見を尊重しましょう」
「ちょ、あんたそれって……」
相棒が何を覚悟したのか悟って、エリザは顔を真っ赤にした。
「ごめん」
少年が頭を下げる。
「ぁ、う、ま、まさか、こんなところで乙女の純潔を捧げる事になるなんて……この借り、高く付くんだから……」
ムスッとしながらも、少年とのそういう行為を嫌がっていない自分を感じて。
エリザはプイッと視線を逸らした。
「本来ならば陛下に捧げるべきところを!! くぅ!? このエーレイン一生の不覚!!! 陛下、この身の純潔はへ、陛下の純潔を奪った粗末なものにお捧げ致します!!!」
妙に棘のあるエーレインの言葉に少年は額に汗を浮かべる。
何となく。
行為の最中も「陛下ぁああああ」そんな風に叫んでいそうだな、と思いながら。
「あ、主様のものは粗末ではない!?」
「「?」」
エーレインとエリザが同時に横を見ると今まで少年に頭を撫でられ、相好を崩していた人馬の少女が「それだけは我慢ならない」と言った様子で顔を怒らせていた。
少年に「篭絡したのね」「篭絡したようで」という冷たい視線が向けられる。
「あ、あはは…はは……シュレディナ、その……」
完全に色ボケてしまった人馬の少女が主様が自分に声を掛けてくれたと顔を輝かせる。
「はい。何でしょうか。主様!」
「その主様って言うのは……」
「はい。主様は主様です。シュ、シュレディナの純潔も人生もこれからは主様の為だけのものです!」
現実逃避には見えない。
しかし、極度の依存状態にしてしまった少女の笑みに少年の胸は複雑なもので一杯になった。
「もし此処から出られたら、シュレディナは家に帰りたいとは思わない?」
「それは確かに帰りたいとは思います。でも、人の世界を見たいというのは昔からの願いでしたから。カカサマやトトサマには連絡をしたいと思いますが、シュレディナは主様に付いていきます。そ、それに……」
「そ、それに?」
「ま、魔王なのですよね? 主様は」
「う、うん」
「昔、私が小さな時、オジサマが言っていました。魔王とはこの世の全てを凌駕する“天”だと。そうでなければ“天”たる唯一神にすら届くはずないと。“天”は既に世界であるもの、畏れるのではなく受け入れるものだと」
少年は僅かに過去の記憶を掘り出して、大戦―――黄昏の悠久戦争当時の敵兵の中に人馬がいないかを参照するが、そんな存在は見つけられなかった。
そして、少女の口から出た言葉がその内心に僅かな漣を起こす。
(まさか、亜人の中にも“天”に関する記述を知る者がいた? でも、それを子供に話すなんて事……)
少年が僅かに考え込んでチラリとシュレディナを見る。
「オジサマは不毛山岳ペリヲンの頂で【神馬(ペガソス)】の加護を受けた勇者でした。あの大戦に関わった多くの神々の一人が自分を運んだオジサマに言ったそうです。いつか、魔王を乗せる者が【人馬(ケンタウロ)】の集落に現われると」
「予言。いや、預言されてたって事?」
少年は神馬(ペガソス)と聞いて、ようやくその存在を過去に見つける。
戦争末期。
最終決戦時。
蒼穹の騎士が敷いた因果律を制する大結界を越えて七聖女を運んだ戦車を引く者達の中に、いた。
聖竜、双鷲、仙蛇、御虎、魔族、天使、そして……神馬。
彼に敵対した上級神を大方打ち払った後の話だ。
神々の一部が使用した神話中の存在である神馬が二頭いる事を不思議に思っていたが、今更に謎が解けて少年はそういう事かと納得する。
神の中には偶に時読みや星詠みと呼ばれる未来予知を行う存在がいた。
彼らの多くは大戦中、仲間達に預言や予言を授けて戦闘結果を導き、優位に事を運ぼうとしていた。
その手腕に少年もそれなりに手を焼かされ痛い目にもあった。
たぶん、そういった作戦の一環か何かだったと考えれば、シュレディナのような子供にこの世界の秘密の一端を語るという事も納得出来る事だった。
魔王に関する秘密は種族を滅ぼし得る。
だが、それを知りながら何もしないのは愚の愚。
シュレディナの言うオジサマがどんな心境で自分の親族に機密を告げたのかは分からずとも、その意図は少年にも理解出来た。
(何を変更しようとしたのかが問題だけど、この場合は……)
予言や預言は絶対ではない。
そして、それらを絶対と言わしめる範疇の占術者は大概にして世界にとっての害毒となる可能性を秘めていて、公には表へ出てこない。
彼らの行為自体が未来への観測者(かくてい)効果を生み出すのだ。
正に世界の行く末を決める力と言っていい。
それらを変えるには非常に強い不確定要素、揺らぎが必要だ。
もし、魔王と関係ある者が一族から出ると言うならば、その預言自体に対抗する策を講じる事で幾分かは未来が変わるかもしれない。
シュレディナは確かに魔王と出会った。
が、それでも“少年に秘密を告げた事実が”未来に余地を生んでいる。
「オジサマは不毛山岳の外に出たいと思う方にしか話はしないと。それもジジサマ、我々の族長にも話してはいけない約束だったので……」
「そうなんだ」
「はい。オジサマは外に出る時、言っていました。もし危ないと思ったらすぐに戻れと。でも、私は何が何でも世界が見てみたかった。人の世を。知らない亜人を異種を人外を魔族を天使を。どんなものでも見てみたかった。魔王だって、人の世の本にならきっと見られると思った。だから、あの日、集落の外に出て……」
シュレディナの顔が僅かに歪む。
「後悔してる?」
「ちょっと、あんた」
「さすがにそれは失礼では?」
エーレインとエリザが女の子にそんな酷な事を聞くなと咎める。
「い、いえ! 主様のお知り合いの方。いいんです。わ、私は、シュレディナは……い、今、その……あ、あれ?」
自分で言っていて感極まったのか。
ポロポロと薬を打たれて快楽に悶えていた時とは違う雫が床に落ちる。
「す、済みません」
それを見て少年を非難しようとした二人が声を上げるよりも先に。
少年が唇を少女の目元に寄せた。
「!?」
「「?!!」」
シュレディナが顔を赤くし、エーレインとエリザがあまりの事に言葉を失う。
「人間は理不尽を運命って名前で呼ぶ。僕は君を巻き込んだ。この理不尽な世界に。それを謝る事は出来る。君を元の世界に帰す事も」
「あ、主さ―――」
ピトリと人差し指が唇を塞いだ。
「でも、何を選ぶにしても、これだけは言っておかなきゃならない」
少年はそっと立ち上がって、シュレディナに向かい合う。
「僕は征(ゆ)かないといけない。だから、君が見たいものを見せてあげたり、君が望むものを与えたりしていられる時間はきっと少ない。幸せに故郷で大切な人達と暮らす以上のものは……僕の傍にない」
少年の瞳に映る自分がどう答えてよいのか分からず情けない顔をしているのを見て、シュレディナは口に出かけた何かを喉の奥に飲み込んだ。
「わ、私は……私は……」
「今はまだ答えは出さなくていいよ。もう少し後。此処を出て、君が自分の家に帰れるようになったら、その時は答えを聞かせて欲しいかな」
「……はい」
少年が唇を噛み締めて頷くシュレディナの頭を再び撫でた。
そんな様子を見ていたエーレインとエリザは何となく自分達が場違いであるような感想を抱いて。
互いに横目で視線を交わし、多くを共有した。
相手の心を掴む手口(やさしさ)。
それこそ自分達の主であるエトの心を捕らえて離さないものかと。
自分達もこんな調子で恋する乙女にされてしまうのだろうかと。
そんな女性特有の危機感が二人の心をざわめかせる。
「じゃあ、その、初めてもいいかな?」
全裸の少年のそこがもう改造による効果でパンパンに膨れ上がっているを見て。
ゴクリと三人の喉が鳴った。
*
「お、お慰めしますね!」
シュレディナの口付けは嫋(たお)やかだった。
少年の唇を口内をゆっくりとなぞり、やがて顎から胸板、乳首、腹部へと舌が伸びていく。
前足を折り、少年の膨れ上がった幹が前に来た時点で飴でも溶かすように先端が咥えられた。
チロチロと口内で踊る舌は少年と何週も交合(まじわり)を持った経験を反映して、裏筋をえらを何度も擦り上げて、クチャクチャと生々しい音を立てた。
「は、恥しいんだからね……」
少年の左右に座ったエリザとエーレイン。
二人が少年の腕を挟むように胸を押し付ける。
納得したとはいえ、それでもシーツを脱いで全裸のまま男に抱きつく自分を客観的に見たエリザは顔から火が出るような思いで顔を俯けた。
「柔らかくて気持ちい―――」
「ば、馬鹿! 感想とか言うの駄目!」
更に顔を赤くして。
エリザが身体を震わせて、それよりも二周り以上大きい胸の感触へ少年が何事かを言おうとした。
「それ以上言うと、後で斬ります」
「ごめん」
エーレインは頬を僅かに赤くしながらも仏頂面で胸を更に強く押し付けた。
「あ、主様ぁ も、もぉシュレディナは……」
口だけではなく。
手でも幹を扱いていたシュレディナに少年が微笑んで優しく告げる。
「それじゃあ、お尻を向けてごらん」
「は、はぃ。主様……どうぞ♡」
少年の命令とも言えないお願いに背筋を震わせて、もう床に蜜溜りを作っていたシュレディナが立ち上がり、くるりと尻を少年の前に突き出した。
「お願い致します。シュ、シュレディナの大切なところを使ってくださいませ♡ 主様ぁ♡」
フルフルと尻を震わせて。
ふさふさの尻尾を揺らす少女に少年が微笑んだ。
「おねだり。可愛いよ。ゆっくり、ね?」
「は、はぃ♡」
ブルリとシュレディナの下半身が震えた。
背筋を駆け抜ける背徳感とも愉悦とも付かないものを受け入れて。
カポカポと下半身が少年の腰の前まで下げた少女はその時を待ち侘びて前足を折り、尻を突き出す。
「いい子だね。シュレディナ」
名前を呼ばれただけだ。
それなのに直接秘所を弄(まさぐ)られたような恍惚を覚えて。
シュレディナは自分の子宮があの感触を待ち侘びている事を自覚した。
尻尾が持ち上げられ、今も蜜を垂れ流している“すじ”を露にする。
そして、少年の腰がゆっくりと前に突き出された。
ク、チュ、ツプン。
「ぁ、あ、んふぅぅ♡♡」
先端が触れて。
少女の秘裂と同じように蜜を垂らしていた少年の幹がゆっくりと膣(なか)へ潜り込んでいく。
遅々として埋没していく幹の形を完全に覚えたか。
シュレディナの膣(なか)はきつくなく。
そよそよと風に靡く若草のように幹を包み込み。
奥へ奥へと引き入れていく。
完全に膨れ上がった男根は人馬の許容量でもかなりギリギリに近い。
それでもすんなりと受け入れ、自分の中へと招き入れる悦びを噛み締められる余裕がシュレディナにはあった。
幾度もしたのだ。
何度も優しく覚えさせられたのだ。
それは最初貴族の少女達にさせられていた事だった。
でも、今はシュレディナ自身が心の底から望んでいる事だ。
グ、ヂリュン。
「んぉぉお♡♡♡」
優しく突き入れられただけだと言うのにもう少女の子宮は下りて、少年の先端と合致していた。
「あ、あるじしゃまぁ♡」
シュレディナの口元から唾液が滴り落ち、乳首がツンと固く張った。
両手が己の乳首を摘んで、更なる快楽を引き出す間にも、甘美な衝動が少女の中を駆け抜ける。
このまま、腰を動かして少年に押し付けたい。
自分の大切な子作り穴を抉られたい。
そのまま熱く滾った精を注がれたい。
それこそが雌の悦び。
それこそが女の性。
否定しようにも別ち難い獣と人の狭間にある亜人の情熱。
理性よりも本能を重んじる種族の性質。
「夢であんな風に会える子って少なくて。普通は接触しようと思って出来るものじゃないんだよ。君とああいう風に会えた事、僕は嬉しく思ってる」
「ぁ、あるじさまぁぁ! てぃあしゃまぁ♡」
きゅん。
少年の言葉へ応えるように幹が絞られる。
完全に密着し、空気の入る隙間もない程に一体となった少年の幹を愛おしく思って、シュレディナは自ら腰を揺すった。
けれども、前足を折っている為、もどかしいくらいに刺激は些細で。
もっと少年に己を征服されたいという本能を満たすには至らず。
頬を涙が伝っていく。
「今、楽にしてあげるからね」
少女の尻を掴んで少年が思い切り引き寄せた。
ジュ、ズン。
「ぁあぁぁあああぁ」
襞が戦慄き、ゆっくりと始められた中挿に蜜が絡まる。
最初はゆっくりとしたものだったのが、一分せずして小気味よく尻が揺れる旋律を刻んでいく。
「シュ、シュレディナはぁ♡ あ、あなただけの牝馬れすぅ♪ こぢゅくりぃあにゃちゅかっれぇくりゃしゃい♡ あ、あかひゃんおちゅくりにぃなっれくらしゃいぃぃ♡♡ い、いっぱいいっぱいお孕みしましゅからぁぁぁ♡♡♡」
少年の左右で行為に高ぶる少女を見つめながらエーレインとエリザはゴクリと唾を呑み込んだ。
これが魔王の交合(まぐわい)。
エトを女にした手練手管。
そう思えば、羞恥に瞳を逸らす事は出来ず。
釘付けになるしかない。
(こ、こんな。乱れちゃうなんて……エトもやっぱりこんな風に? あぅぅ///)
(へ、陛下がこ、こんな風になるはず、なるはずは!!? くぅ!! 何故、自分は女なのだ!!!)
ベクトルこそ完全に違うものの、少年との行為に耽る少女の姿をエトと被らせて。
未だ処女の二人は知らず股間を濡らしていた。
人馬の少女が達すれば次は自分達の番。
それに不安とも恐れとも愉悦とも付かないものを感じながら、乙女達のギラギラした視線が二人を見つめる。
密事はまだまだ終わる気配も無かった。