第二章五十節「交合」
乳房を吸われながら手で触られる喜び。
それは一重に少年から母性を求められていると感じるからか。
女としての性に直で触れられているからか。
オーレムにも紅亜にも分からなかった。
交じり合う熱い吐息のまま、そそり勃つ少年の幹を二つの手が優しく包み込み、ヌチュヌチュと擦り立てていく。
赤子が乳を求めるよりも優しく。
唇がオーレムの乳首を食んだ。
「ん」
性具で内部をブルブルと震わせて快楽を得ていた超乳エルフにしてみれば、物足りない事この上ない愛撫。
しかし、自分の中からジワジワと込み上げてくる悦びが一過性の恍惚(エクスタシー)とはまったく別物である事を彼女は身を持って理解し始めていた。
「ご主人様。お乳美味しいですか?」
チュポンと勃起した巨大な乳頭から唇を離して。
「うん。甘くて……止めるのが少しもったいないくらい」
「は、はい///」
いつも激しく自らを慰めては夜を過ごすオーレムにとって、意外なくらいに少年の言葉は胸に響いた。
頬を染めながら己の子をあやす母のように乳房を吸わせながら、その心には嘗て求めていた少年への激しいまでの情欲は薄れさせて。
「ふふ」
穏やかな心地で彼女はにっこりと微笑む。
そんな姿に穏やかな心地になる反面嫉妬した紅亜が少年の下半身の方へと移動した。
「紅亜?」
「旦那様、もう此処を慰めて、欲しい……」
「おいで」
「は、はい」
いつもより余程に大人しい貞淑さで紅亜が喜悦に顔を綻ばせる。
襦袢の衣擦れの音がサラサラと部屋に流れた。
ゆっくりと膝立ちになって少年を跨ぐと。
まだ、腰を落してもいないのに先端が入り口に触れて熱く。
「ん♡ ふ、くぅ……」
えも言われぬ甘い痺れで腰の奥。
二つの卵巣まで少女は犯されたような気がした。
「旦那様。こ、これからお慰め、致します♡」
今にも蕩け崩れそうな貌(かんばせ)のまま。
ジュニュ、ズプン。
ゆっくりと腰を落していく間。
紅亜は必至に奉仕する女でいようと押し寄せる快楽に抗い震えた。
いつもいつも少年とする時は甘えてばかりだったから。
今日は喜ばせたいとの矜持(プライド)は妻気取りではなく。
本当の奥方としての気品に満ちて。
「いいよ。ゆっくり、ゆっくりで」
羞恥と快楽に溺れそうになりながらも必至に自分の上で奉仕しようとする姿に少年は下半身が熱く滾(たぎ)るのを感じずにはいられなかった。
「ふぁ?! だ、旦那様ぁ?! お、大きくぅぅ♡♡」
目の端に薄らと涙を溜めて、口の端から涎を零しながら蕩けていた少女は途中、自分の中で急激に輪郭を誇張した少年自身に最も感じる場所を抉られて、半ば絶頂しながら背筋を撓(しな)らせてピットリと恥丘を少年の恥骨と接地させた。
「~~~ッ~~~ッ」
ビクビクと全身を痙攣させながら、自分だけ絶頂に達してしまった罪悪感と羞恥、少年との交合(まぐわい)の良さに紅亜は犬の如く舌を出して喘いだ。
「だ、だんなひゃまぁ♡」
はしたない姿で絶頂するところを見られてしまった。
それどころか。
大勢にその瞬間を観察されてしまった。
(ああ、もう旦那様以外では達する事が出来ない体にされて……んぅ♡ 旦那様ぁ♡)
融けた理性は半ば働かず。
ゆっくりと少年へと身体を倒して、紅亜は少年の唇を奪った。
「だんなひゃ、まぁ、ちゅ、ちゅ、くちゅ、だんなひゃまぁ♡」
「こ、こうひゃ、そんなにしひゃら、ちゅく、しゃべ」
火の付いた紅亜の腰は既にずっぽりと咥え込んだ幹をしゃぶるように扱き動いていた。
ジュプジュプズプグジュヂュプ。
卑猥な桜色の下の唇は一回律動する毎に少年を自分の最も感じる場所まで導き。
震える膣(なか)は子宮をもう下ろして最奥まで入らずともチュウチュウと少年の蜜を零す先端を上の口と同様に塞いでしゃぶっていた。
「せっぷんしましょう♡ だんなひゃまぁ♡ こうあがしてさしあげましゅからぁ♡」
呂律も回らず。
いつものお堅い様子とは打って変わって甘えた声を上げる新妻少女はもう他者の目も気にならなくなっていた。
(あ、あんな……とても凛々しい方だと思っていたのに……ぅうう……)
自分と同じで何となく堅そうなイメージを紅亜に持っていたセイリが本格的にもう発情している膣(なか)と子宮(おく)の熱さにもぞもぞと股間を擦り合せた。
それでも最低限の自制心を働かせた彼女は辛うじて手で己を慰めていない。
部屋に充満する少年と自分達の匂いに酔いながら、少女達は高まって行く場の空気を感じ、ただ少年と仲間の姿に没頭した。
「紅亜」
「ぁ♡ だんなひゃま――っ」
自分に跨る少女の想いを受け止めながら、自分からも舌を絡めた少年に紅亜のなみなみと溢れそうになっていた絶頂までの情熱が、一線を越えた。
ヂュル、ヂュチュ、クチュ、グチュ。
舌で少年と剣でも交わすように口内を蹂躙し、ブチュボチュと下品な音を立てながら粟立つ蜜を零す事も厭わず、少女は何度も何度も腰を振った。
小ぶりの尻がブルブルと激しく動く様。
もう汗と蜜に張り付いた襦袢では隠せず。
それを見る誰もに今まで以上の淫靡さを感じさせた。
得てして、露にされたものよりも隠されたものの方が卑猥なものだ。
薄い膜一枚の先で行われる情事から目を離せるものは誰もいなかった。
キュッと少年の手が少女の背中の先に伸びて。
自分の上で踊る尻を滑(ぬめ)る襦袢ごと鷲掴みにする。
「ひゃぁぁ♡♡ だんなひゃまぁぁぁ♡」
ビクビクと再び紅亜が絶頂した。
突如として少年の手で尻を愛でられて、お漏らしでもするようにビュッと潮が少年の下半身を濡らす。
指を大きく開いて跡が付くように尻を握りながら、少年は腕を引いた。
グジュンッ。
「な、なにをぉ♡」
「僕も紅亜にしてあげたいから、いいよね?」
「え、ぁ、ん、ゃぁぁぁ♡♡♡」
甘い否定を唇で塞ぎながら、少年は両手で少女の腰を上げ下げさせた。
しているというよりは使われているという行為。
支配されるという事に家の事情から必要以上に抵抗感がある紅亜だったが、少年にまるで男が使う性具のように自らの秘穴を使われる背徳感と喜びに屈せずにはいられなかった。
ジュパンと一回腰を引き寄せられる度、少女の脳裏には火花が散る。
数回で絶頂し、また数回で絶頂し、繰り返される行為にもう紅亜の意識は跳びかけていた。
完全に唾液と舌をだらんと垂れさせて、少年にされるがまま唇を貪られて。
心の底から沸き上がる服従の悦びが少女の中で何かを弾けさせる。
「ちゅかっれくらひゃぃ♡ だんなひゃまぁがいいようにぃぃ♡♡ こうあをだんなひゃまらけのせいぐにぃぃ♡♡ ひてくらひゃぃまひぇへぇぇ♡♡♡」
支配と服従。
被虐と自虐。
天御門紅亜という少女が持っていた天性のものが開花した瞬間だった。
「一杯、僕に使われてくれる。紅亜」
少年の呟きは短く。
それでも背筋を駆け抜ける尋常ならざる震えが少女の首を立てに振らせていた。
本当の服従は愛故に。
被虐の悦びも蹂躙される悦びも相手に拠る。
乂羅(がいら)で古くから信奉され、政治の中枢たる御政体が国の女達に教え込む男尊女従の思想を体現しながら、そうとは知らず。
短く答えは言葉となった。
「はぃ」
天御門。
外来のあらゆるものを取り入れて国を発展させてきた家。
それでも外の思想に染まらない家系の少女は、女として愛する男に膝を折り続ける人生を選ぶ、典型的な乂羅の【奥方】としての心を理解していた。
「傍にいて、ね?」
「―――はぃ。だんなさま」
誓いに報いを与えるように精が少女の一番奥で迸った。
ドポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポ。
幼い二人に三回出したとは思えない量。
胎の全てを少年の子種で満たされて。
声に為らない声で紅亜は啼いた。
ふっくらと妊婦のように腹を膨らませながら、魔王の支配を受け入れた女はそっと意識を落した。
*
他の少女達に持ち上げられて、紅亜が烙南の横に寝かせられた。
その身体の状態は幸せそうな大惨事である。
もしも篆刻写真に取られたら、正気に返った紅亜が首を括りかねない程の淫靡な姿態。
それも妊婦の如く腹を膨らませて。
続くオーレムが枕元から下半身の上へ行くとそっと胸を下ろした。
グニュムゥ。
通常では在り得ない巨大な果実が二つ。
てらてらと滑(ぬめ)り光る幹を覆い尽くした。
「ん、く……」
そのあまりの圧力と弾力に少年は苦鳴を抑えた。
一気にまた自分の間で太くなった少年にオーレムが微笑む。
「今日は胸で愉しんで頂きたくて。性具をあの子からお借りしてきました」
「?」
オーレムがそっと何処からか青い輪を取り出す。
「お付け致しますね」
自分の胸の奥。
そっと手が自分の胸元に潜って。
輪を男根に近付けると硬質な輪が幹に巻き付いて根元に下がっていく。
そして、カチリという音と共に肉体に変化が現われた。
ビキビキと膨れ上がった一物が左右に分岐して同じ形を作っていく。
思わず目を丸くした少女達を前にして、オーレムが自らの胸を引き、二つの乳首を持ち上げ、そのまま二つの亀頭に押し付ける。
最初は零れる乳に上手くいかない様子だったのが、先端を捕えた瞬間、ズルンと奥へと突き刺さった。
「―――」
「んぁ!?」
ガクガクと背筋を震わせて。
一瞬、軽く達したオーレムは淫靡に微笑みながら少年へ上目遣いに囁く。
「どうぞ、このだらしない乳を子種で満たしてください。ご主人様」
声も出ない様子で少年は何とか射精感を堪えながら頷く。
改造された乳房の奥は子宮。
そして、乳を出す機関でありながら、オーレムの胸は女性器と殆ど同じ作りにもなっている。
発達した乳腺は性器を愛撫する無数の襞を供えるが、通常の性器とは違いあまり主張しない。
ハルトゥムの屋敷で治療されながらも、肉体の変化は今も進んでいて、現在は肉粒も蜜で内部を洗うようなスポンジ状のフニャリとした柔らかさとなっていた。
「お慰めします。ん、くぁ、ん、ん、んぅ♡」
乳をたっぷりと湛えた内部は少年の幹をゴシゴシと扱く事はないが、吸い付き、己の形を変えて乳と蜜で何度も何度も蕩ける壷と化した。
「オーレムッ」
十秒。
十五秒。
今まで激しい行為を受け入れてきた少年の幹は伝わるギャップに跳ねる。
優しく優しく。
丁寧に丁寧に。
折り重なる襞と粒が少年の形を覚えながら、空気の入る隙間もなく密着する。
乳房全体が口淫するような吸引力を伴って幹を扱けば。
残るのは射精以外なく。
駆け昇る精が根元に到達するより早く。
「ぁくッ?!」
ビキッと少年の根元に嵌った輪が精の通り道を小さな丸い突起で押さえた。
「一杯溜めて頂けるようにしました。これでもっとお楽しみ頂けますよね?」
射精を抑えられる苦しみと優しく包まれながら吸われる快楽と。
同時に与えられるならば、それは拷問か。
激しく脈打つ幹が乳房の中で暴れて。
「はぁぁぁぁぁぁ♡♡」
オーレムは幾度も達していた。
乳房の中にある性感帯を亀頭が暴れながら何度も突いたからだ。
その乳圧でまた吸引が強まり、少年は射精を止められながらも達する。
終わりの無い快楽の連鎖に今にもはち切れそうな乳房はブルンブルンと少年の上で踊る。
「ご主人様ぁ♡ ご主人様ぁぁ♡」
嬉しそうに少年を呼びながら、いつもいつも少年を待ち侘びて己を慰めていたオーレムはようやく自らが欲していた快楽にむしゃぶりつき、同時に心の内で思う。
自分はどうしてこんなにも少年を求めるのだろうかと。
悦楽に半分以上を占められた心。
その嘗ての人格なんて欠片も残っていないような精神の底に残った何か。
彼女と言えるかどうかも怪しいソレが囁く。
(彼と似ているから?)
彼とは誰か。
オーレムは知らない。
だが、身体は正直だった。
ゾクリと何かイケナイ事を思考したかの如く。
背徳という名の埋(うず)み火が燃え上がり、乳房の最奥。
第三、第四の子宮が先端を咥え込んだ。
完全に根元を飲み込んだ乳房はまるで二本の槍で串刺しにされたように撓(たわ)んでいた。
「今、ら、くに…して…んぁ、んぅう♡ はぁぁぁ♡」
ビシャビシャとオーレムは腰と大きな尻を震わせて、股間から潮を吹かせた。
高まって高まってどうしようもない心。
このまま熱くなり過ぎれば溶けてしますかもしれないと思いながら、それでも乳の交合(まぐわい)は止まらない。
ズニュ、ジュリュ、ブリュ、グリュ、ニュジュ。
「ッ」
三回、四回と射精が根元で止まる度、膨れ上がる根元と幹は針で突けば弾けそうなくらいにパンパンだ。
「ご主人様」
最後の一回だとばかりにオーレムが胸を少年の上から引き上げ、ギリギリまで幹を抜いてから、落下させた。
ズニュウウウウウウウウウウウウウウウウウ、グヌン。
「ぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ―――」
オーレムは自分の子宮口を完全に二つの幹が貫いた瞬間、絶頂を迎えた。
舌をはしたなく垂らしながら、堕落する自分の奥から沸き上がる多幸感に心を塗り潰され。
ビュ、ビュジュァアアアアアアアアアアア。
まるで洪水のような精の直撃を子宮で受け止めて脳裏を白く消された。
ガクンガクンと跳ねる全身。
同時に膨れ上がる超乳は少年の二つの幹から送られてきたゼリー状の精を一滴も残さず呑み込んでいく。
「―――」
言葉にならない衝撃でギュっと瞳を閉じた少年に左右からイフィミスラとエトが寄り添った。
何度も止まりそうになる息を無意識に続けながら、オーレムが自分の奥で何度も何度も卵が吐き出されるのを認識する。
排卵。
本来、女自身にすら分からないものが、今のオーレムには分かった。
受精。
着床。
それがどんな意味を持つのか。
記憶を失っていようと分からないはずがない。
だが、胸の奥。
受精を求めて排卵された卵達は精に塗れながらも受精の様子もなく漂うだけ。
女として主人と決めた男の精に自らの卵を蹂躙される。
これ以上に彼女の背中を振るわせる快楽はない。
しかし、それが叶わない。
どんな理由があるのかも分からないオーレムにはただ自らの乳を自らで捏(こ)ねるしか術がなかった。
「こだねぇ♡ じゅせぇ♡ じゅせいしてぇぇ♡♡♡」
虚ろな顔で舌なめずりしながら、両手でプチュプチュと精と乳の残滓を零す乳首を摘み、両手で全体を拉げさせるエルフの姿。
男ならその場にいただけで射精するに余りある。
自制心の強いエリザやエーレインがもう我慢出来ないと股間に指を伸ばした。
セイリは自分の目の前で繰り広げられる卑猥で生臭い女の姿に心を揺らがせ、ついにプチュアッと粘性の高い蜜をシーツへ零して染みにした。
カクカクと痙攣する下半身の震えからいって、達してしまったのは誰の目にも明らかだ。
何とか堪えているのはイフィミスラとエト、それから少年の傍に侍っては他の少女に迷惑だと少し離れた位置にいるシュレディナだけである。
「あ…ぁ……」
悩ましげに身体をくねらせながら、ふっと気を失ったオーレムが倒れ込む。
「っ…ふ…ぁ……」
四人目を終えた時点で少年の射精回数は通常の男なら枯れる量を遥かに上回る。
さすがに連続で四人愛した反動か。
少年も身体が後ろのクッションの山に倒れた。
「大丈夫か?」
イフィミスラの声に少年が息を浅く取りながら頷く。
「では、次じゃな」
オーレムの身体がエリザとエーレインに連れられて紅亜の横に並べられた。
すると、少年の前に今度はシュレディナとセイリがやってくる。
太い胴体が邪魔にならぬようにと足を折った人馬の少女が傅き、セイリはそっと正坐(せいざ)で目の前をしっかりと見つめた。
まるで命尽きる前のように汗を滴らせた少年の姿。
蜜と精に塗れながら、それでも穢らしいと思わないのは何故か。
それこそ己の胸の中にあるものだと彼女は自覚する。
「ティア。君は沢山の人を愛せる人なんですね」
嫌味ではない。
心の底からセイリは少年に賛辞を送る。
「あ、はは……僕はただ……」
「苦しい事。哀しい事。寂しい事。辛い事。君は全て受け止めてあげていた。それはきっと誰もが出来る事で、でも……誰にも出来ない事なんです」
「買い被り、だよ……」
自嘲が混ざった微笑。
魔王として少年がやってきた事なんて誇れるようなものではない。
自身が一番分かっている事実の結果こそ、今の状況。
過去、仲間として家族として在った誰もが今は敵として殺しに来る。
理不尽だと嘆く事に意味はない。
残酷だと涙する事に意味はない。
だから、少年は自分の精一杯で応えてきた。
自分を殺そうとする世界に。
自分を戮そうとする人々に。
「僕にはきっと、誰かを愛し続ける力なんてない……」
「優しいんですね。でも、その生き方は改めるべきです。ティア」
少年の言葉は真実かもしれない。
誰かを好きになっても、最後には別れが来る。
そして、この世の全てを敵に回した少年はいつも好きだからこそ、誰もに囁く。
憎むなら自分を憎め。
殺すなら自分を殺せ。
あらゆる悪徳の源は此処にある。
幸せになりたいなら魔王を倒してみろ、と。
「……」
少年の痛いところを突かれた笑みにセイリはキュッと己の手を握った。
「寂しくないんですか?」
「君達がいる」
「苦しくないんですか?」
「昔よりはずっと楽だし」
「憎くないんですか? こんな風にしか生きられない世界が」
自己犠牲と傲慢の影に隠れた感情。
セイリは己と故郷を救った男に問う。
きっと、自分を捧げる為に一つだけ確認しておきたかった事はそれだった。
「………こんな僕を助けてくれたんだ」
「え?」
少年は月影に顔を隠して。
そう呟いた。
「それは願いだった。僕が初めて知る想いだった」
懐かしき世界を幻視して。
少年は幸せを其処に見る。
「どんなに痛くても耐えられた。どんなに哀しくても大丈夫だった。みんなが助けてくれた。僕は独りじゃなかった。いつか僕を襲う誰とだって分かり合える気がした」
独白は続く。
「幸せでいて欲しかった。泣かないでくれたらいいと思った。ずっとずっと守りたかった。傍にいられなくても繋がっているんだって信じられた」
少年は決して涙を流さない。
「世界なんて分からなかった。僕を守ってくれたみんなにお返しがしたかっただけなんだ。憎かったのは一つだけ。僕は……ただ、僕の無力が憎かった。何も出来ない自分が嫌だった」
それがいつからか。
誰も知らない。
きっと、少年に付き従ってきた最初の騎士ですら。
「僕が死ねば、きっと全てが丸く収まった。でも、僕は……みんなの為に死ねなかった」
後悔。
少年が初めて口にした言葉。
「絶望なら知ってる。諦観なら知ってる。誰かを憎んだっていいのかもしれない。でも」
吐露されるものは何か。
分からぬはずがない。
知らないはずがない。
誰にだってある。
それはちっぽけな他者への気遣い。
「僕が憎いのはこの世界じゃない。僕自身だ……」
憎しみを治める唯一の方法。
赦しだ。
それを自分に向ける事ない厳しさと自らを亡ぼしに来る誰もに注ぐ優しさが、如何に困難な事か。
セイリは知っている。
何故なら、彼女はまだ父の死を防げなかった自分を赦せない。
自分の父親を死に追いやったものをまだ赦せていない。
触れ合ったマヲンにもまだ蟠(わだかま)りを抱えている。
「少しだけ、いいですか?」
他人は赦せても自分を赦せない馬鹿な男。
まったく言葉にするのも億劫なくらい、愚かしくて、少女は笑う。
「何?」
「ティア。君は本当に愚かで、矮小で、他の誰とも同じ……なんですね」
膝立ちになって少年の顔に片手が伸ばされ、頬に触れて。
「セイリ?」
「君は特別なんかじゃない。私と同じ。いえ、私より少しだけ前にいる人間です」
「ぁ……」
手が少年の胸に当てられる。
唇が少年の唇を捕らえ。
「ん」
一筋、少女の涙が流れる。
「ティア。私は世界が憎かった。父を殺した誰もが憎かった。故郷を守りたいと思いながら、心の何処かで父を殺した人間に復讐出来る後ろ暗い喜びも感じていたんです」
「セイリ……」
少年の正面でまた今にも口付けを交わせそうな距離で。
少女は告白する。
「君は自分が憎いと言った。私も自分が今も憎い。父を守れなかった自分が。でも、そんな私に希望を与えてくれたのは君です。赦せなくていいと思っていた私に赦してもいいと、赦したいと思わせてくれたのは君です」
今にも泣き出してしまいそうに顔を歪めて。
「他人の為に死すら厭わない君の姿が私には眩くて。でも、そんな君みたいに頑張れたらと、君みたいに赦せるならと、そんな風に変えてくれた」
それでもセイリ・ティウアズライト・エルメトロ・ニェハエルは言う。
「君の事をまだちっとも分かっていない私が言うのは滑稽かもしれません。それでもこれだけは言わせてください」
真っ直ぐな少女の願いが今、少年に刺さった剣を一つ、抜く。
「いつか、赦してあげて下さい。私の大好きになった君を。私が自分を捧げたいと思った君を。それが私が君に今思う全てです」
いつもなら。
本当にいつもなら「ありがとう」と言えるはずの少年は。
そっと自分の胸にある手に手を重ねた。
「まだ、そんな時が来るのか、分からないけど。君の言葉、絶対に忘れない。考えてみる……」
「ぁ……はい!」
キュッと胸に抱き付いて。
セイリは顔を埋めた。
「あ、主様」
おずおずとやり取りを見ていたシュレディナがにっこりと笑っていた。
「シュレディナには難しい事が分かりません。でも、主様が今……とても、良い顔をしているのは分かります」
「ありがとう。シュレディナ」
微笑み返した少年に顔を赤らめながら頷いて。
人馬の少女は己の選択が間違っていなかった事を確信していた。
「主様。どうかいつまでもそんな笑顔でいて下さい。きっと、皆さんも同じ気持ちのはずです」
シュレディナの声にコホンと左右両側から咳払いが一つ。
「そうだな。我はそういう風に笑うのがいいと思う」
「であるな。余にもそういう笑顔を向けるべきであろう。ティア」
セイリとの中睦まじい場面(シーン)。
これから交合(まぐわう)というだけでも内心、嫉妬でソワソワしている二人にしてみれば、チクリと刺さずにはいられない状況である。
女を囲う王は数在れど、女達に囲いたいと思わせる魔王は唯一少年のみか。
「心得ておくよ」
いつもの笑みとは違う。
何処か天真爛漫さを感じさせる外見相応の笑みがその場の誰にも意外なくらい新鮮な印象を与えた。
エフィリムが嘗て見た笑み。
まだ、少年が昔の仲間達と共に旅をしていた頃の笑み。
本来、そのようなものであった表情が変わってしまったのだ。
そう誰にも理解出来た。
出来うるなら、ずっとこんな微笑を浮かべていて欲しいと彼女達は再び決意を新たにする。
「で、では、改めて」
ススッと後ろに下がってシュレディナの横に付けたセイリが自らの口上をようやく口にする。
「ティア。君に私の身体を娶って欲しい///」
他者に秘所を見られ、卑猥な言葉を聞かれる羞恥。
そして、それを上回る恍惚と奉仕の心がセイリを女にした。
どちらかと言えば紅亜のような楚々とした下着だと思っていた少年にしてみれば、少女の姿はまるで娼婦さながらと言える。
「うん」
黄昏色の外衣(ケープ)。
頭部から背中を伝い尻まで流れる極薄のソレは複雑な花柄をあしらわれていた。
額の上には小さな宝冠(ティアラ)。
慎ましやかな銀のソレは若草色の翠玉(エメラルド)を鏤(ちりば)めている。
両手両足を包むのは絹糸の刺繍だ。
大陸の一部の地方ではよくある両手両足に密着させた形で編む婚姻儀礼用の百合(リリー)。
精緻なソレは肌に密着し、飾り立てる以外にも肌触りを良くして、初夜での利便性も重視する。
「綺麗だよ。セイリ」
一言で言えば単純だろう。
礼服(ドレス)だけを脱いだ花嫁が此処にいた。
「あ、主様……」
小さく隣の花嫁に遠慮しながら、シュレディナが畏まった様子で頬を染める。
「シュ、シュレディナを主様の牝馬として調教して、くださいませ」
人馬の少女は今までの誰よりも着飾っていた。
婚礼用の民族衣装というのは南部ではどれも豪奢で知られているが、亜人にもその因習は色濃く残っているとされている。
豪奢な金と銀と赤と黄を用いた絹の鞍。
乗る為ではなく、飾る為のもの。
上半身も厚く色取り取りの布地で覆われ、辛うじて出ているのは乳房とその下に続く臍までだった
今までの少女達に比べれば段違いに布面積が大きい。
しかし、男心というのは何も見せればいいというものでもなく。
逆にシュレディナの肌が強調される形となった衣装は少年に十分淫靡と映った。
「その格好で外を走ってみたいかも……」
「ふぁ!? あ、ああ、主様!? シュ、シュレディナは!? そ、その…あ、主様がそう…望むなら…あぅ……」
慌てながらもポツリと漏らされた少年の言葉を真摯に受け止めて。
人馬の少女はその栗色の毛並みをプルプルと震わせた。
「ふふ、冗談だよ」
「え?」
「残念だった?」
「い、いえ、そ、そんな事は……あ、主様意地悪です……」
真っ赤になってしまった人馬の少女が顔を俯ける。
「見違えたよ。シュレディナ」
「は、はい!」
二人の少女が互いに奉仕を始めようと少年の股間へと顔を寄せていった。
月明かりが傾き始めても、まだ空は暗く。
密やかに洋光(ランプ)は全てを溶かし込んでいった。