第二章五十二節「女達」
生命の起源。
それはただの化学反応において含窒素有機化合物が発生した事に因る。
人間とは大いなる系統樹の枝葉の一つ。
旧き世界の主により、手を加えられたとしても、その事実は変わらない。
急激に発達しても未だ百万の年月にも満たない瑣末なる血統。
巨視的に見れば、そういう事になる。
全ては海から始まった。
そう誤謬無き学問が説けば、無知蒙昧や因襲の虜も黙る時代。
【近代化(レボリュション)】は究極的に人の全分野に及ぶ永続的向上を約束する。
そんな中にあって産み落とされたのが彼女だった。
奇跡の一滴。
一時期【藩落(はんらく)】において持て囃された言葉。
国父と呼ばれる男の再来を高確率で産み落とす血統というだけの存在。
それと対になる“人工の奇跡”こそマヲン・クラウゼン・セト・ニェハエルだ。
男としての機能すら有する両性具有。
因子を収斂し、平均化し、拡散する初めの一体。
その重い人生設計を窮められた存在。
のはずなのだが、彼女自身は悠々自適な人外少女として生を満喫する。
常に好奇心の塊。
天真爛漫なる稀少生物。
どんな言葉でもいいが大概にして大物である。
彼女は己に関する事なら全て知っている。
知っていて、それを愉しんでいる。
欠片もない倫理感、道徳心、罪悪感。
それこそが少女の強みであり、弱みであるかもしれない。
人の生死にようやく、本当にようやく、自らの涙を自覚しても。
元来持って生まれた性質は変わらない。
だからなのかもしれなかった。
「クゥ~~~」
白い白い平原で。
巨大な扉を潜った先。
精神の領域でマヲンは火を焚いていた。
少年にしてみれば、迷惑行為では済まない。
自分の精神領域で心を焦がすような行為を平然と始めたのだから。
無論、本人に無断でだ。
特に言及すべきは燃料が少年の黒き精神障壁。
外部からの干渉を防ぐ記憶の欠片である事か。
性質が悪い。
「勝手に野宿されても困るんだけど……」
少女と同じく全裸で少年は溜息を吐きながら横に座った。
「クークックヲ」
上を見上げて。
白い海月みたいな頭を上向かせて。
彼女は語る。
見送るまではこうしている、と。
「……そっか」
少年は全てを理解した。
魔王がどういう存在かを肌身で感じて。
自分の最愛の家族の容態を知っていれば。
そういう事をしようとも思うだろうと。
「いいよ。大切なものを貰っちゃったから」
処女を貰った直後である。
触れ合ってまだ一秒も経っていない。
そして、刹那の永遠に揺蕩う彼らは現実に帰るよりも話し合いたい事がある。
「君がそういう事を思うのは解るし……」
「ククヲクヲ。クヲックク」
「因果を引き込む僕は確かに“そういう性質”を持ってるけど、霊魂を管理する神々がいる限り、引き寄せられるのは一瞬だけだよ?」
「クーヲ」
それで十分だと頷いて。
遥か空。
真白き空を彼女は見上げ続ける。
その瞳は菫色に輝いていた。
視覚化されたのは死後の人の道行き。
従来、それは大陸においては管轄される区分によって異なる。
信奉する神々の管理下に置かれる事もあれば、自然に消滅する事もある。
魔族に取られる事もあれば、形を保って徘徊するというのもよくある話。
天使達や魔族達の世界を循環するモノもあるし、術によっての転生すらある。
だが、魂が最後に行き着くのは絶対の虚無。
つまり、世界の外への放逐だ。
外なる神々が徘徊する真の空。
魂としての形すら保てなくなったものは拡散し、最終的には其処へと落ちる。
それがまた宇宙というものを広げ、熱的死すら厭わない世界の基礎となる、なんて……たぶんは一部の学者や魔術師、神々だけが知る話だ。
しかし、その道行きにも少年は影響を及ぼす。
あらゆる神々の加護を受けず。
世界から拒絶される魔王の因子は死と同時に実存の最小単位(プランクスケール)以下まで崩壊し、世界の外へと追いやられて、再構成されながら世界へと食い込む。
死ねないというよりは死んでも死んでも死に切れないというのが正しいだろう。
宇宙という真理の塊の一部である場と同一視される彼は自己(せかい)に否定される矛盾を孕みながらも、因果の収束点である為、必ず彼以外の因果に呼び戻されるのだ。
それはつまり、彼以外の存在が有る限り、無限に生と死を繰り返すという事。
フルーは“物理的に”彼の解析を一部成功させたものの、全てを解明するに到っていない。
「見付かった?」
彼が齎す因果の収束と歪み。
本来繋がるはずの原因と結果の破断が因痕(キカトリクス)を生む。
それは少年と少年以外が強制的に結び付く呪いにも近しい。
故に神々の管理下にある魂だろうと形を保っているならば、その因果の絶叫に引かれるのは道理。
「クゥ~~~~~~?」
もちを伸ばしたような尻尾がプラプラ揺れて。
マヲンはたった一人の肉親を探した。
少年に引かれてやってくるだろう姿を一度でも見られたらとの子供心。
その願いが叶えばいいと。
共に空を見る瞳が細められる。
やがて、チカリと空の果て。
死人の魂らしきものが光った。
篝火を見て輝いたようにも、あるいはただの偶然のようにも見える。
だが、それでもブンブンと手を下から降って少女はお別れを言った。
ヲトウサン。
クヲ~~~ヲ~~~ヲ~~~と。
フッと光が途絶え。
一瞬の別れが終わる。
しかし、マヲンはサッパリしたもので。
パパッと立ち上がるとフゥ~~ッと息で火を消した。
「もういいの?」
「クヲ♪」
親の死を見送って数秒後の様子である。
本来なら泣いて見送るべき場面。
しかし、そんな湿っぽいものを彼女が好むわけも無く。
微笑みだけが少年に向けられた。
それは死を既に得ているから。
生命を悟っているから、なのだろう。
過去の血統の精粋にして至高の芸術。
本来ならば宗教者が長い年月を掛けて体得するソレを生まれながらに知る存在。
生きながらに死を得た少女は生命そのものに頓着しない。
生死の行方を自然と受け入れる。
だが、それでも、父の二度目の死に様を得た少女の瞳には“人の業”とも言うべき、哀しみもまた混在していた。
笑顔に秘めたもの。
それは生命の悲哀を理解して、それでも人の喜びを体現しようとする強さか。
彼女の瞳の奥。
生きようとする意思が静かに燃えていた。
一人の男が遺したかったもの。
新たなる生命。
その自覚は確かに少女を“生きたいと望む人間”にしたのだ。
「君のお父さんは凄い人だった。この僕を魂だけとはいえ、完全に使い潰したんだから……」
何故、そんな言葉だったのか。
慰めでもなく評価だったのか。
少年は自分でも解らなかった。
門の起動の為、生贄にされたというのに遺恨は一つも無く。
「クーヲ!!」
当然だと。
自分の父親なのだからと。
誇らしげに笑って。
マヲンが外に向って歩き出す。
少年は白き少女の隣に並んで黒き扉に手を掛け。
押し、開いた。
*
マヲンと少年が互いの顔を近くで見たのは行って帰って一秒後。
何も言わず。
ただ笑顔だけを交し合って。
二人はしばらくそのままでいた。
他の少女達がまるで何が起こっているのか解らず。
不思議そうな顔で見つめる中。
「ククヲ♪」
少年の視線に擽ったそうな笑顔で身を捩りながら。
繋がったままのマヲンはチュッと額に口付けした。
「僕より大人かもね。君は……」
「クーヲ」
苦笑しながら、少年は少女の姿をもう一度確認する。
秘め事は夜の中で隠すもの。
そんな常識とは掛け離れた彼女だからこその装いなのかもしれなかった。
真白い肌には更に輝くような刻印が刻まれている。
明け透けなくらいに性器を強調する輝きは使用者の魔力に呼応していた。
不意に部屋を照らしていたランプが消えて。
少年の瞳に映るのはマヲンの輝く裸体だけとなる。
太陽のように燦々と部屋を満たしていく耀き。
羞じる事も秘する事もありはしないと肉体の躍動に踊る陰影。
少年を少女は何もかもを映し出す事で高ぶらせていた。
幹を根元まで呑み込んだ膣(なか)も仄かに温かい程度だった室温も汗を掻く程に熱くなっている。
「女王様みたいだね」
クスクスと少年がマヲンの頭部を触った。
海月のようなそこを覆うのは冠。
それも細い革を彫り込み、編み込んだものだ。
過去、北方の国ではそのような権威の象徴もあった。
鉱石が採れず。
しかし、だからこそ、獣の革を珍重した文化は絢爛さを技術に求めた。
百以上の工程を持って加工された柔らかな乳白色の冠。
それは王が頂くに相応しい真珠色。
マヲンの為に設えられたような輝きを放っている。
頭が大きい人外用。
そんなものがハルトゥムにあった事自体少年は知らなかった。
「何処にあったの?」
「クゥヲ♪」
小首を傾げてマヲンが誤魔化した。
肉体に刻まれた刻印をなぞるように冠が解け、まるで革製の下着の如く姿態へと絡み付いていく。
それに呼応したか。
少女の姿が変わっていった。
灼熱する細胞と変容する姿態。
海月みたいな頭部とその足のような交接器も含めて肉体が煌めき変質する。
「クーヲヲ♪」
「――――――」
あまりの事に未だ起きているイグニシアの三人とイフィミスラが目を瞬かせた。
「人化の秘奥。亜種とか亜人にはそういうのもあるって聞いてたけど……」
「クーヲ」
“その通り”とでも言いたげに声が響く。
少年と繋がっていたマヲン・クラウゼン・セト・ニェハエルはサラサラと揺れる白銀の髪を鳴らして頷いた。
人間の姿で。
「クーヲクヲクヲクヲ!」
“恐れ入ったか”なんて声が聞こえてきそうな高笑いだった。
今まで人外の姿ではお尻には尻尾、手にはヒレが付いていた。
それが今やスベスベとした質感もそのままに人間の姿となっている。
そうして。
そこまで自らを変えた少女がようやく自分の時間が来たとばかりに少年を押し倒し口付けした。
「んちゅ♡ ちゅ♡ クゥ~~~♪」
繋がったまま、少年は嬉しく思った。
(そっか。君は……)
そもそもどうして人の姿を手に入れたのか。
分からないはずがない。
(僕を……)
心の中で共に話した。
それは直接的に精神を通い合わせたという事。
マヲンが本来的に己の人生を全うするなら、人外の姿で何一つ構わない。
それで構うのは少年の方だ。
強大な人外との交わりは同時に生死を掛ける閨(ねや)の戦争。
言い過ぎという事もない。
どれだけ愛し合おうと高位魔族間での交合(まぐわい)は相手の魔力を喰らう戦いなのだ。
マヲンが今まで交配実験で男役に徹してきたのは男が送り込む側。
つまり、食われる側の方であり、与える側であるからだ。
多くの地下研究棟の固体達がマヲンの血筋を分けられ、自らの胎で身篭るのは自然と言える。
しかし、少年との交合(まぐわい)は女としての初めての行為。
相手から魔力や精力というものを奪う“女の性”がモロに出る。
エフィリムとの交わりが命掛けであるのと同様。
マヲンは下手をすれば相手を干乾びた干物にするだろう。
故に自らを人間とする人化の術を少女は手に入れたのだ。
まだ幼いエフィリムは少年を求める事に躊躇しなかった。
だが、彼女は違った。
何も考えていないような顔をして。
何もかもを知っているから、少年の状態に合わせた。
無理をさせないように。
時間を縮めないように。
「ありがとう。マヲン」
抱き合い。
優しい口付けを繰り返す人外であった少女は今、聖母のような慈愛に満ちて。
強過ぎず。
弱過ぎず。
完全に制御した肉体で少年との午睡むような契りへと到っていた。
甘やかすような交尾。
腰もそのままに内部の襞で何時間でも達させず愛する技。
「マヲ――んむ」
「クーヲ♡ クーヲ♡」
今までの交合(まぐわい)が全力疾走や長距離走をするような過酷なる運動だっとすれば、マヲンとの交合(まぐわい)は日向で寝そべっているようなものだ。
太陽の匂いに包まれて。
育まれる喜び。
それは少年が嘗て幼い頃に感じた事が無かったもの。
母。
そういうものに違いなかった。
(こんなに安らぐなんていつぶり、かな……)
奴隷として小さな山間の村に仕え。
人間として扱われなかった日々の一幕が少年の脳裏に甦っていく。
まだ、彼の傍に誰もいなかった頃。
樹の虚で眠るのが日常であった時。
夜の村に出た事があった。
誰もいない道を当所なく歩いて。
ふと見つけた小さな光。
木製の窓から漏れていたソレを覗けば、別世界が広がっていた。
裕福な家だった、と少年は記憶している。
内部に見えたのは一組の母娘。
貴重品だった蝋燭を惜しげもなく使って。
温かそうな寝台に二人。
いつもは少年を睨み付ける大人の瞳がとても優しく細められていて。
母親は娘に絵本を読み聞かせていた。
(あれが、羨ましかったのかな……)
優しく頭を撫でる手。
心地良い声。
語られるのは魔王を倒す騎士の話。
姫を助けて幸せに暮らす王の話。
あるいは民を救う聖女の話。
(あんな風にされたかった……の、かな……)
少しだけ。
ほんの少しだけ。
自分に聞かせられているような気がして。
少年は嬉しかった。
例え、その娘に向けられる瞳が昼には少年を侮蔑していたとしても。
例え、その娘を撫でる手が昼に少年を張り倒していたとしても。
温かい事は良い事だと少年はその頃には理解していたのだ。
それが自分に向けられる類のものでなくとも。
「クゥ~~?」
涙こそ流れなかった。
顔こそ歪まなかった。
唇こそ震えなかった。
しかし、少年は僅かに少女の胸に顔を寄せた。
「……」
撫でり。
撫でり。
「クーヲ」
優しく子をあやす母のように。
大丈夫と抱き締める母のように。
守ってあげるからと笑う母のように。
あるいはただ慰める母のように。
マヲンは少年の頭を胸に抱いた。
チュルチュルと少年を包む膣(なか)が揺り篭のように揺さぶりながら。
「良いお母さんになるよ。君は……」
「クックヲ♪」
また口付けの雨を降らせながら。
マヲンがゆっくりと少年の性を高ぶらせていく。
もっと、激しい快楽を与えられただろう。
もっと、夢中にさせる事だって出来ただろう。
でも、それは今の少年に必要ではない。
そう、彼女は知っている。
「クゥ~~~」
傷付いた。
苦しんだ。
泣けもしないのに笑い続ける。
そんな少年を彼女は観察してきた。
何十人もの女と地下研究棟で交わる様子見続けた。
だから、分かる。
少年が求めていたのは自分を抱き締めてくれる“誰か”だ。
優しくしてくれる“誰か”だ。
愛してくれる“誰か”だ。
傍に居てくれる“誰か”だ。
分かち合ってくれる“誰か”だ。
全てに該当するのは一人だけ。
少年にきっといなかった存在。
母親。
(クーヲ)
別にそれをマヲンは代償行為だと思わない。
そもそも相手を何よりも気遣った少年は目の前にいる人の“ありのまま”を受け入れて交合(まぐわ)っていた。
男が女に母親を見るなんて、今更な話でもある。
地下研究棟では儘ある事だ。
娘が父と。
息子が母と。
血の繋がり、変わらない関係性や倫理が絶対でもない。
「クーヲ」
「?」
母の胎内に揺蕩う子の如く。
優しさに包まれてボンヤリとマヲンに抱かれていた少年は彼女が何と言ったのか聞き逃した。
普段なら有り得なかっただろう。
その思考が停止寸前で遅巻きになるなんて事は。
精神障壁の継ぎ目。
記憶の断裂が殆ど無い魔王という存在が無防備に“身を預ける”というのだ。
まるで無条件に母を信頼する子供のように。
「クックヲク。クックヲク。クヲヲ」
何も考えなくていい。
何もしなくていい。
ただ其処にいておやすみなさい。
一杯遊んだのだから、お眠りなさい。
そんな、ママゴト染みた声。
いや、思考。
マヲンが呟く一言の意味すら取れず。
それでも静かに射精へと向う幹だけが別物のように震えて。
「マ…ヲ……ン……」
ついに少年は果てた。
量にすれば、一番少ないだろう。
ビュ、ビュ、ビュル、ビュ、ビュ、ビュ――――――。
長く長く。
「クゥヲ」
モゾモゾと身体を捩り。
少年の精を子宮に受け止めながら。
マヲンは眠りに付いた少年をあやす。
我が子のように。
「……幸せそうじゃな……」
その寝顔があまりにも安らかだったから。
皇帝の言葉に他の誰も何も言わなかった。
次は皇帝と騎士と侍従の三人。
決まった順番は守れど、熾きるまではそっとしておこう。
暗黙の内に決まった事は実行され。
一緒に眠りこけたマヲンは静かに幸せそうな寝顔の列へ加えられた。
勝ったのか負けたのか。
定かでないままに……。
*
少年が起きたのはマヲンとの“死闘”から三十分後。
何かと今までの少女達との行為が激しかったせいか。
寝惚け眼はしばらく宙を彷徨って帰って来なかった。
様子を覗き込んでいたエトとエーレインとエリザは魔王の寝起きにちょっと得をした気分で上機嫌に微笑んでいる。
「ぁ…ごめん……少しだけ眠ってた、かな?」
「ああ、眠って折ったぞ。余の魔王様」
「エト……」
他の少女達の前で甘く呼ばれて。
照れた少年の頬が微かに染まる。
「(ぅ、か、可愛いじゃない)」
エリザが己の胸にキュゥンと何かが直撃した様子で視線を逸らした。
「もう大丈夫か?」
エーレインがそっと頬を触って少年を顔色を見た。
「うん」
「むぅ……」
二人の様子が何か変化したのを敏感に感じ取ったエトが半眼になる。
「エーレイン」
「は、はい!? な、なな、何でしょうか!? 陛下!!」
一瞬、自分が何をしていたのか悟ったエーレインは慌てふためいて、ササッと手を引っ込めた。
「正直に言うてみよ。余が知らない間に何があった?」
「な、何かと、も、申されましても、と、得には///」
頬を染めてオドオドと言い訳したエーレインの様子からエトは全てを推し量る。
「ふぅ。ティア」
「?」
「余の護衛騎士をよくも堕としてくれたな」
「ち、違います!? ご、ごご、誤解です陛下!!? わ、私は陛下一筋です!!?」
言い訳染みたと自分でも思ったのか。
それ以上は何も言えずエーレインが顔を伏せる。
「ま、エーレインは“ティアしゃまぁ”とか言ってたし。堕ちたわよね」
「エ、エリザァア!?」
「ほほぅ?」
ジットリと自分を見つめる主の視線に耐え切れず。
ガバッとエーレインがその場で土下座した。
「す、すみません!? 申し訳ありません陛下!!? 状況的に仕方なかったとはいえ、へ、陛下のあ、愛する方と交合(まぐわい)……そ、その……色々とか、感じてしまいました///」
ムニュン。
その場でオーレム以外なら一番大きい胸が少年の下半身辺りに直撃した。
『何も自分の上で土下座しなくても……』と少年は思わないでもなかったが、少年の下半身は素直に反応して、火に油を注ぐような事態となってしまう。
「ひぁ!? な、何を卑猥に立てて!?! ティア!!」
思わず顔を真っ赤にして。
エーレインが少年を呼び捨てにしながら怒る場面にエトはエモイワレヌ何かを感じた。
飼い犬に手を噛まれるとか。
愛人が不倫していたとか。
やっておくよう命じた仕事が捗っていないとか。
そういう不機嫌だ。
世間一般ではそれを嫉妬と言うが、エトは皇帝である己の度量に疑問を投げ掛ける感情を黙殺。
穏やかに微笑む。
「エーレイン」
「は、はい!! 何でしょうか陛下!!」
「言うてみよ」
「な、何を、でしょうか?」
むんずとエトの手が豊満な胸を鷲掴みにした。
「ティアに何回揉まれたのじゃ?」
「ファ!? へ、へへ、陛下ぁあ!?」
「さぁ、正直に言え。いや、言わねば余が訊き出してくれよう。この生意気な胸を使って」
「んぁ!? ひぅ?! へ、陛下ぁぁあ。そ、そのような事をさ、されては!? い、威厳というか。陛下のげ、下僕としての体面をた、保てなくなってしまいますぅぅぅうう!!?」
「エトって結構妬くのね。へぇ~~~」
我関せず。
女の部分で何か負けた気分だったエリザが和みつつ。
相棒の窮地を笑って見過ごす。
「さぁ!! ティアに何と言われて揉まれたのじゃ!!? 余に余すところなく懺悔せよ!!」
「そ、それはぁ!? あ、んぅ!? くぅ!! つ、強すぎます陛下ぁぁ!!?」
十本の可憐な指が豊満な乳房を揉みしだく。
エーレインにしてみれば、責められているが、御褒美以外の何ものでもない。
(ああぁああ!!? へ、陛下が私のむ、胸を揉まれているぅぅうぅぅっぅううう!!?)
只でさえ今まで部屋の内部で繰り広げられる交合(まぐわい)を見続けていたのだ。
自然と高まっていた肉体は一瞬で昂揚、昇天していく。
「さぁ、さぁ、さぁ!!」
コリコリと乳首が指で押し潰された。
「んひぃぃぃぃ♡」
ガクガクとだらしない顔で唾液を垂れ流しながら、主に胸を揉まれる快楽でエーレインが失禁した。
「何という事じゃ。余の護衛がこんなはしたない牝であろうとは。これは仕置きが必要じゃな」
「へ、へいかぁ♡」
もう完全にイッてしまっているエーレインが、明らかに目の据わったエトに甘えた声を出した。
「ティア」
「え、えっと、何?」
自分の上で繰り広げられる光景に下半身を熱くさせつつ見守っていた少年が、今までに無い皇帝の眼光にたじろいだ。
「魔王は三人同時に愛す事なぞ造作も無いな?」
「そういうのは発言を差し控えたい、かな……」
今まで散々少女達を蹂躙した挙句の発言である。
嫉妬の炎に色々と自制が壊れたか。
プルプルと震え出したエトが笑みを消して。
ギロンと少年を睨(ね)め付けた。
「余は、これでも寛大である事を美徳の一つとしておる。だが、それにも限度というものがあると心得よ」
「エ、エト?」
様子がおかしい少女に少年がそっと近付く。
「余、余とて」
不機嫌そうに少年の胸へ額が付けられた。
「嫉妬する。そなたの傍にいる誰もを羨む。ずっと、こんな気持ちを知らずに生きるはずだったのに。今は少しだけ……この身の高貴を疎ましく思う……」
皇帝として生きて来た。
女としての悦びを知った。
今、愛する者が他者と睦み合う姿に嫉妬している。
そう、少女は告白した。
もっと綺麗な自分を見せたいと願っていたのだ。
ずっと皇帝として魔王と付き合い続けられると思っていたのだ。
女のとしての自分を認めてくれた少年と密やかな関係でいられると。
それは最初の出会いからしてそうだ。
エトは魔王に襲われて身篭るという筋書きを描いた。
世界の天秤を己の側に傾けすぎないよう心掛けていた。
魔王はあくまで部外者であると言い張ろうとしていたのだ。
それで何も問題ないはずだった。
しかし、今は違う。
「余には立場がある。余には理想がある。だから、余は失敗を恐れて、そなたを悪者にしようとした」
「陛下……」
「エト……」
今まで見た事もない主の顔。
それが皇帝ではなく只の少女のものだと気付いて。
二人の従者が静かに声を聞く。
「その余が今はそなたの全てを傍に置きたいと願っている。国の者にも教会の者にも罵られていいと、そなたを余のモノとして公言したいとすら……」
もし、イグニシア・クルシスの皇帝が魔王と本格的に手を組んだとなれば、世界は動乱の時代を迎えるだろう。
七教会は決してソレを看過せず。
多くの国や国内の反皇帝派をも勢い付かせるに違いない。
「そなたのせいじゃ。余をこんなにも愚かしくして、女の性に、情に駆り立てて」
「ごめん」
謝る声。
そんな事を言わせた自分が嫌になりそうでまだ少女は顔を上げられなかった。
「余の覇道に参加せよ。そう言ったら、そなたは……きっと断るのであろうな……」
「ごめん」
「……構わぬ」
クスリと彼女は笑った。
何処か残念そうに。
最初から分かっていた事だ。
こんなに近しくなってすら、やはり少年は魔王としての己を捨てられない。
今までの己を捨ててしまえそうな彼女とは裏腹に。
一度決めた事は遣り遂げる。
約束は守る。
エト・エイラル・イグニシア・クルシスの傍にずっと居はしない。
己の使命を全うする為に。
約束の履行。
決して契約を違えない為に。
「まだ時間は残っておるな?」
「僕が、また帰ってくるまでは数えない……」
「ならば、よい」
心地良い錯覚をエトは振り払って、顔を上げる。
愛しい男が魔王としての責務より己を取ってくれるという妄想。
ずっとずっと傍にいて自分を支えてくれるかもしれないという空想。
どれもこれも夢見がちな年頃の幻想に過ぎないと己に言い聞かせて。
「……余と余の愛する者を愛せ。いや、征服せよ。今だけは……それで許そう」
「うん」
「このイグニシア・クルシス皇帝が……そなたを世界で一番知る余が、命じる。魔王シンア・ザ・クリティカルアンラッカー……余の愛しき者よ。余等の全てを……味わい尽せ……」
心の奥底に燻(くすぶ)る引き止めたいという欲求をエトは自ら封じた。
それもまた少年を労わる事だと苦く苦く笑って。
「いいよ。一緒に気持ちよくなろう……」
少年の手が伸びて。
少女(エト)は只々淫欲に溺れようと決める。
心の内の哀しみが塗り潰されるくらい満たされるようにと。
傍に居られる今をその身に刻み付けたくて。
「陛下。お手伝い致します」
「や、優しくしないと承知しないんだからね」
「お前達……さぁ、余と全てを共にせよ……」
その命令に頷く者が二人。
少年の股間へと手を伸ばした。
夜はようやく明けへと向かう。
華やかな吐息が部屋を今一度熱く燃え上がらせていった。