第二章五十三節「愛重」
洋光(ランプ)も消え失せて。
残る月明りに照らされた身体は眩さとは裏腹に透き通るような色をしていた。
三者三様。
今まで少年の前で着飾る者もいれば、脱ぎ捨てて己を輝かせる者もいた。
しかし、イグニシア・クルシスの三人はまるで違って。
全員が同じもので肉体を装(よそお)っていた。
首と耳、両手両足に付けられた大小の金輪(リング)。
乳房の先。
乳首を結晶化した魔力で傷付けずに固定する飾輪(ピアス)。
繊細な枝葉の細工を施された1cmにも満たない小さな金片は細く千切れてしまいそうな金鎖で両端を繋ぎ、しこり勃った先端を僅か揺らしている。
褐色と白。
どちらの肌も桃色の乳輪と鎖の対比がよく栄えている。
瑞々しい外見の中にも差異は幾つか。
常に手入れを欠かされなかったエトの肌が最上級の絹にも似た張りと蕩け落ちそうな弾力を持っているように他の二人も其々が特有の美を有する。
エーレインは武術を修める者特有のとはち切れんばかりの肌と肉体の芯から溢れ出る活力。
エリザは元々いた武帝の娘達にも多い野生を思わせる一部分の意外な豊満さと常の様子から窺い知れないお淑(しと)やかさ。
どれも甲乙付け難い。
「男は女を所有したい生き物と聞く。今だけは皆(みな)そなたのものである」
何も隠さず。
少年に抱き締められたまま。
野卑極まる装身具で飾り立て。
皇帝は微笑む。
「エトがこういう格好するのって意外、だったかな」
クスリと笑んで。
少年は未だ膝立ちで恥しそうに身を震わせている二人を見る。
「ぅ、す、すっごく恥しいんだからね!!」
エトの手前、恥部を隠す事も出来ず。
エリザが目をキュッと閉じた。
そうしていなければ。
エトが甘える様子に感化され。
更に自分の大事な場所が大変な事になると自覚して。
「へ、陛下にお供しただけだ。あ、ぁまり見るな……面白いものでは……」
エーレインにしても一度少年と交わった身。
それが今は少年と主。
どちらにも娼婦顔負けの姿を見られ、平静でいられるはずもなかった。
恥しがる姿はきっと皇帝ですらも中々お目に掛かった事のない場面であるのは明白で。
「ふふ……」
「へ、陛下!!」
主から視線を貰って。
護衛騎士は真っ赤になって俯いた。
「さぁ、奉仕の時間である。エーレイン、エリザ」
ゆっくりと分かち難い衝動を堪えて。
皇帝がそっと少年から身を引く。
「ティア。こんなにも卑しい装身具を身に付けさせた、その責任……しかと受け取るがよい」
「?」
エトの手からそっと小さな金の指輪が少年に手渡される。
「これって……」
すぐに気付いた様子になった少年が視線で促されるまま人差し指に嵌めた。
途端。
「ひぁぁぁぁあ!?」
「んひぃぃぃ!!」
「や、やぁぁぁッ?!」
ビクビクビクッと三人が仰け反る。
「だ、大丈夫?」
思わず近付いた少年の指輪が寝台のシーツに付いた瞬間。
グニィッと金鎖が何も無い虚空に引かれた。
「ティ、ティアァァ。つ、強過ぎるのじゃぁ♡」
「「~~~~~」」
「え、あ、その、ご、ごめん」
慌てて指輪を外した少年の前で。
息も絶え絶えな様子になった三人がクッタリと崩れ落ちる。
「えっと、そんなに強く設定してた?」
恐る恐る聞く少年に情欲の炎に火を付けられたエトが二つの人差し指で自らのすじを両側から開く。
クチュァア。
「――――――」
思わず絶句した少年の前で一度は繋がった少女の薄桃色の中心と穴が晒(さら)される。
ゴクリと唾を呑み込んだのは少年ではなく。
その様子を見ていたエリザとエーレインだ。
主に恥しい格好をさせて自分達だけ何もしないわけにもいかない。
顔を羞恥に歪めながらもエトと同様。
下品な娼婦顔負けに自らの花弁を二人は両の人差し指で開いた。
当然の事ながら。
その中身は一人一人違う。
小陰唇と大陰唇。
三人とも綺麗な薄桃色なものの、エトのは殆ど伸びておらず輪郭が分かる程度なのに対し、エーレインは襞が短いながらも少しふっくりとしていて、エリザは逆に少し広く薄かった。
そして、最大の違いがすぐに少年にも分かった。
性器の頂点。
小さな陰核(クリトリス)だ。
元々は男根に相当する場所である。
その敏感さは尋常ではない。
一人一人違うソコが今はキラキラと輝く物で飾られていた。
さすがに少年が唾を呑み込んだ。
「どう、じゃ……余の此処は……」
今までは皮が被っていて分からなかった。
しかし、今はよく見える。
小さな突起は両側から挟まれるように小さなハート型の装輪(ピアス)で貫かれていた。
魔力を用いた肉体を傷付けない仕様の針を使っているのは乳首の物と変わらない。
しかし、傍目にも分かるくらい強力な魔術の刻印が微細に掘り込まれているのを少年は見逃さなかった。
エトの小さな陰核(クリトリス)は大きさにして5mmにも届かない剣先。
それが膨れているとはいえ、串刺しにされているのは男にしてみれば、痛々しいと思う反面、興奮を覚えずにはいられない光景だろう。
「小っちゃくて、食べちゃいたいくらい可愛いよ。エト」
「ん、そうか……」
少年に気に入られた事が余程に嬉しかったのか。
開いたまま、まるで幼子が浮かべるような喜び様でエトが微笑む。
その穴(なか)からはトロリと密が滴った。
「こ、こっちはど、どうなの……よ……///」
エリザが我慢出来ずに尋ねる。
武帝出の少女の陰核(そこ)はエトのような尖りこそないものの、小山のように膨らんでいた。
ハート型の装輪の間にある針。
それに合せて太くなっているのが少年にも分かる。
なだらかな山の中腹を刺し貫く凝結魔力の針は貫いた部分を活性化させ、性感を何倍にも引き上げて、使用者の陰部神経を蹂躙しているだろう。
「ふっくらしてて。一杯触ってみたいよ。エリザ」
「ば、な、なな、何言っ―――ひぃん?!」
プチュッと穴から蜜を吐き出してブルリと太腿が震えた。
賞賛だけで軽く達したのは誰の目にも明らかだった。
が、そんな野暮をわざわざ指摘する輩は其処にいない。
誰よりも恥しさに身悶え、涙目になったのは他ならぬエリザ自身である。
「こ、こっちを見ても……へ、陛下に比べられるようなものなんてない……」
他の二人と同様。
エーレインの完全に剥けている先端は三人の中で一番大きかった。
小指の先程もあるかもしれない。
自ら辱めて貫かれた其処は衝撃を待ち侘びるようにフルフルと装輪(ピアス)を揺らしている。
「く……」
恥しさに震える三人の中心。
その穴の大きさは体格の差もあるだろうが、エーレイン、エト、エリザの順。
未だ貫かれた事の無い桃色の可憐さ。
そして、奪われてこそ男を誘い込む深き穴の貪欲さが少年の幹を太く熱くさせていく。
「気に入ってくれたであろうか?」
「うん」
皇帝としての己が悲鳴を上げるような恥辱と羞恥を受け入れて。
エトが顔を笑みのように歪めた。
「ティア。余の此処に付いているコレはな。その指輪を嵌めたものが自在に出来るものじゃ。それで、余達の此処を弄って欲しい。こ、この淫具で達した時、我らはもうそなたを忘れられぬ身体になるのじゃ」
エトがそれ以上は言わず指輪を嵌めるよう促して。
少年がゆっくりと指を挿した。
「ん!?」
「く!?」
「ぅ!?」
余程敏感に反応するよう設定したのか。
三人の反応は顕著だ。
ダラダラと蜜が穴を伝って滴り落ちる様は淫靡過ぎる。
それを皇帝とその護衛騎士、従者が演じるというのだから、並みの貴族や王族なら、その時点で征服欲に満たされる事だろう。
しかし、少年は優しく指輪を嵌めた指を折り曲げ。
虚空で押し引きを繰り返した。
「ティァ♡ 余、余の乳首ジンジンする、のじゃぁ♡」
喘ぐ皇帝(エト)の姿はもう弄ばれる娼婦そのものだった。
高貴が身を堕としたと言われたなら頷けるような気品と野卑の狭間で悶える姿。
それは男心を擽(くすぐ)るに十分だ。
「んッ、く、ふぅぅぅッッ?!! こ、こんな、へ、陛下の前でぇ♡」
主と共に責められ、痴態を晒す事に一番の抵抗を感じているエーレインの顔が快楽に身を任せまいと葛藤する。
その姿もまた男の征服欲を満たすには絶妙な香辛料(スパイス)である。
ただでさえ気位の高い女なのだ。
忠誠を誓う相手の前で蕩ける様を見せまいと頑張る様子は健気ですらある。
それを少しずつ溶かし削る楽しみ。
男ならば一度嵌れば抜け出せない趣向だろう。
「こ、こん、なぁ♡ ひ、卑怯よぉ♡ んぁ!? ひぐ?! んッッ!!?」
処女のまま娼婦顔負けの媚態を演じながら、感じる身体に素直となれない姿。
涙をポロポロ零しながらも少年へ性器を見せ付ける事を止めないエリザの姿勢は皇帝の従者としてさすがと言わざるを得ないだろう。
グチャグチャに蜜が絡まる指がほんの微かに滑るだけで。
男を受け入れた事の無い場所(あな)は甘く男を誘う。
「強くするよ」
まだ触れられてもいない幹の先端がツゥッと透明な蜜を零す。
指輪が嵌められた手がゆっくりと胸元まで引かれた。
グニュゥウウウウッッ。
「ひ、くぅぅぅぅ♡」
「あ、んぁぁぁ♡」
「ぅ、くぁああああ♡」
乳首があからさまに装輪に引っ張られてピンと張る。
それと同様の陰核(クリトリス)をまるで少年へ差し出すように三人が腰を前に突き出した。
卑猥極まる光景。
いや、絶景。
少年は今にも達しそうな三人の姿にゆっくりと膝立ちで近寄っていく。
「エト……我慢、出来なくなっちゃったから、していい?」
今まで羞恥と恥辱と快楽に歪んでいた顔に悦びが混じる。
声もなく。
コクンと頷いた一人の少女を前にして。
少年は突き出され、広げられたままの秘裂に自分の先端を押し込んだ。
グ、ジュニュウゥウウウウウウウ。
「ん、ぁ、はぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ♡♡♡」
もう完全に蕩け切っていた膣(なか)が二度目の行為に屈服した。
えらが押し入り、内部の襞を抉り削られ、ドロドロの蜜を絡ませながら強盗のように高貴も気品も奪い去って行く罪深い槍。
グ、チュム。
その先端、鈴口が穴の奥。
深い深い場所で子作り袋の入り口に到達した時。
皇帝の理性は崩壊する。
「ティ、ティァァァァ よの、よのこづくりあなにぃぃ♡ そなたのふといのぉ♡ はいってるのじゃぁぁぁ♡♡」
口付けが頬に振る。
「やぁ♡ こ、こんなやさしくされてはぁ♡」
ずっと待ち侘びていた感触。
恋人のように優しく入り口を突かれては如何な皇帝も抗いようが無かった。
まだ一擦りすらしていないというのに。
エトがグズグズだった蜜穴を蠢かせる。
生々しい主の性器がグチュグチュと鳴る音に我慢出来ず。
「へ、へいかぁ♡」
エーレインが秘所を開いていた指で自慰を始めた。
「え、えとぉ♡」
エリザも指でまだ貫通していない穴をなぞらずにはいられなくなる。
「エト」
羞恥に身を焼かれながら。
皇帝は自分を貫く少年の背中に手を回した。
二人切りでした時とは違う。
肌を重ねてお利口なくらいに甘かった行為はもはや過去。
今はただ一匹の牡と三匹の雌。
そう決めていたのに。
彼女の心の内から羞恥よりも込み上げてくるものがある。
それは剥き出しにした欲望。
過去も未来もかなぐり捨てて。
ただ快楽を貪っていたいという獣の如き情動。
それが燃え盛るように熱くなった少女を突き動かした。
「ティア♡ ティア♡ ティア♡ ティア―――」
下品なくらいに自ら腰を振って。
何度も何度も名前を呼んで。
少年に唇を塞がれながら、芯を貫く幹の熱さに脳裏を白く染めて。
「ん、ちゅ、てぃ、あ、んむ、ちゅ、てぃ、あ―――」
恥丘同士がぶつかり合う交尾。
ハートの装輪が何度も何度も下半身を麻痺させるように衝撃と快楽を刻む。
少年の両手が腰を鷲掴みにすれば、釣られて反応した九つの輪が同時に震え、性器を弄んだ。
「へ、へぃかぁぁああああ♡♡ ひぐぃぃいいん♡」
「え、えとぉおお♡♡ はぁあああああああん♡」
少年の動きに合せて。
二人が舌を垂らし、喉を喘がせ、喉を唾液に塗(まみ)れさせる。
主の受ける快楽を感じたような錯覚。
乳首と陰核を貫通した魔力の針は神経に直接的な衝撃を送り込み、同時に快楽不退(けらくふたい)。
つまり、何処までイっても減衰しない情欲を沸き上がらせていた。
付けた者の性感を高め、開発する淫具。
本来は性奴隷を創る為に娼館や奴隷商人達が好んで使っていた代物だ。
肉体の変質は本人の魔力を使って自動で進められる副次効果に過ぎず。
その本質的な作用は肉体と精神の同調にある。
本来、人間が心地良いと感じるのは脳裏で脳内麻薬とも呼ばれる物質が大量に放出されているからだ。
肉体の神経を通ってやってくる電気的な刺激も脳内で快楽として受け取られているから気持ちがいい。
だが、エト達が付けた淫具はそういったものとは異なる魔術的な経路で直接的に精神と肉体の快楽を=(イコール)に近付ける能力を持っていた。
つまり、肉体が心地良ければ精神が心地良いという経路ではなく。
人の魂の快楽が肉体の快楽に結び付くという事である。
「ひぐ、い、ぎ、んぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ん♡♡♡」
いつもならば考えられない乱れ様で涙も唾液も汗も混じり合わせた顔で。
はしたない一匹の雌に堕したエトが獣よりも獣らしい声で空気を震わせる。
少年の幹をジュボジュボと自ら上下させた姿は正に娼婦だった。
「ちゅ、くちゅ、ん、ぷぁ、エト。こんなに乱れて」
「てぃ、ぁああああ♡ んぎぃひぃ♡♡ あ゛、あ゛♡ またぁぁ♡」
慎ましやかな穴と棒の結合部。
引き抜かれる度に内部の薄桃色の中身がチラチラと見えていた。
殆どない陰唇の襞は充血していて。
精神と肉体の合一へと向う少女の内心を現す。
「好きなのじゃぁああ♡ そなたを失いとうない!! 余はぁ、余はぁぁあああああああああ♡♡♡」
「え、ん、ぐ、ちゅ、え、ちゅ、とぉ、んく―――」
まるで融合したかと錯覚する程に深く。
舌と舌が絡まる。
蕩けた思考が快楽で少年を縛りたいと腰を動かす。
腰を一振りする度に消費される熱量より、エト・エイラル・エイム・イグニシア・クルシスが魂の底から汲(く)み出す情熱が勝っているのは一目で誰にも分かっただろう。
熱湯に鎮められたような衝撃と息苦しさを感じながら、突き動かされるまま腰はもう常人が為し得る動きではなくなっていた。
滝のような汗が滴らせ、高速で腰を振って。
少年を責めて、責めて、責めて、責めて、責めて。
「あぐぅうううううう♡♡ へいかぁぁあ♡ そんなにしゃれてはぁぁぁ♡♡♡」
「え、えろぉ♡ ひゃめぇぇぇ♡♡ ちくひ、くりとりひゅちぎれひゃぅぅぅ♡♡♡」
高速で自らの穴を二本指で抉るエーレインが完全に己を保てなくなった様子で潮を吹かせ。
陰核自慰(クリトリス・オナニー)を止められなくなった様子でエリザが常とは掛け離れた淫らな顔で達した。
二人ともがピンと背筋を弓なりに引かせてガクガクと太腿を震わせる。
その全身は汗と飛び散った蜜で濡れていない場所もない程だ。
そんな二人すら目に入らない様子で。
少年だけを見つめ喘ぎながら、少女(エト)は腰を振っていた。
止まる様子なんてない。
常人なら粘膜が擦り切れてとっくの昔に秘部を血塗れにしているだろう。
半神以下とはいえ、尊き血筋を引く彼女の肉体は衰えも疲れも知らず。
淫蜜で焼けてしまいそうな少年の震える幹を烈火の如き熱で包んでいた。
ジュボジュボジュボジュボジュグチュグヂュジュプグジュグヂュジュボ。
「エト―――」
少年はいつもどちらかと言えば責める方だ。
それは大切にする方、あるいは情熱を傾ける方という事でもある。
だが、喉が枯れるように名前を呼んで、行くなと、自分のものになれと、命を掛けるように交合(まぐわい)続けて、引き止めようとする少女を知った。
そんなにも求められたのはいつぶりか。
いや、きっと今まで少年が歩んできた道には一人もいなかったはずだ。
少年の事を心底に慕ってくれた者ならいた。
少年と共に生きて生きたいと言った者ならいた。
でも、少年を自分のものにしようとエト程に熱情を吐いた者はいない。
それは少年が少年以外には為れないと。
何処まで己の道を往く存在だと。
親しくなった誰にも分かっていたからだ。
いつか自分の下から去ってしまう。
大切なのに、ずっと傍にいたいのに。
少年は自分よりも大切なものを持っている。
そう、今まで少年を求めてきた誰もが知り、諦めてきた。
「ティア!! ティア!!! ティア!!!!」
エトだって本当は分かっている。
分かっていても止められなかった。
愛、そんな薄っぺらい言葉では到底片付かない想いを暴走させていた。
混沌とした内心を言い表す術はない。
その必要もない。
何故なら、エト・エイラル・エイム・イグニシア・クルシスが求めるのは少年が永劫自分の隣で穏やかに笑ってくれる、そんな絶対に叶わない未来でしかないからだ。
シンア・ザ・クリティカルアンラッカー。
少年が求める未来とは全く違うものだからだ。
「―――ありがとう」
刹那。
動きが止まった、ように見えた。
唇を離して耳元に囁かれた言葉。
それにハッキリとした拒絶と温かさと気遣いを感じて。
肉体と心を一体とした彼女(エト)は最後の律動へと入っていく。
ズパンズパンと自らの内部に叩き込むような音を響かせながら、二人の逢瀬は終焉へと向う。
何処までもそうしていたいと望んだ彼女にも限界が訪れる。
幹を太く太く膨らませながら、それでも本能の赴くままに少女を抱いて。
少年は本当に自分にはもったないくらいの少女を、生涯の伴侶としてこれ以上ないだろう少女を、突き殺す勢いで……腰を、一物を、膣(なか)へと打ち込んだ―――――――――。
「 」
声は無かった。
ただ精を吐き出す幹の脈動だけが一度、大きく大きく部屋に響き。
ボン。
風船を一気に膨らませるような音を立て。
エトの胎が妊婦のように膨らんでいく。
「君に会えて良かった」
もう気を失い、失禁し、涙と唾液と汗に塗れてグチャグチャな少女の泣き顔に、少年は優しく優しく口付けの雨を降らせた。
閨(ねや)は戦争。
そう言ったのは他ならぬエトだ。
その本人の陥落と共に騎士も従者もイキ終わった後の気だるさに身を委ね。
闇に意識を落していく。
「また、ね」
そんな言葉で三人の女を落したジゴロは別れを告げる。
「……」
最後まで一言も口を挟まなかった少年の従者は一人。
残った己の責務を果たして。
眠る女達の列に三人を加えた。
*
もう何度目かになる身体の洗浄を行われて後。
少年はとある場所までイフィミスラに運ばれていた。
そろそろ明るくなってきた空が一望出来る屋根の上。
ようやく自分まで辿り着いた少年が、部屋から連れ出して欲しいと言った時、少女に出来たのは頷く事だけだった。
時間が迫っているのは明白。
途中で意識を失えば、もう目覚めないのは殆ど確定的。
それで問答をする時間を彼女は惜しんだのだ。
『じゃあ、また』
そう言って部屋から退出する時、彼女は無言で見守った。
少女とて女である。
嫉妬の一つや二つくらいする。
けれど、今生の別れにすらなりかねない少年の言葉を遮ったりはしなかった。
自分もまたそんな言葉を受けるかもしれないとなれば、当然の事だったかもしれない。
「着いたぞ。ティア」
館の屋根裏へと続く石造りの階段を上がって。
窓を開けた先。
なだらかな斜面を登れば絶景。
空の上に浮かんでいるとは思えない山稜と広大な世界が広がっている。
肩を貸しながら少年を屋根の中央に座らせ。
イフィミスラは自分の番が来た事に思いを馳せ―――思考をそこで止めた。
「ごめん。無理言って」
今はいつもの黒い外套に包まれた姿で。
少年がまだ明けない空の彼方を眺め呟く。
「構わない」
同じ外套を下着の上に羽織ったまま。
イフィミスラが少年に身を寄せた。
「寒い?」
「ああ」
「じゃあ」
イフィミスラは自分から少年の腕の中へスッポリと納まる。
「あの時以来だな。こうして向かい合うのは……」
「あの時?」
「初めて出会った日。まだ、エフィリムもナーリャもいなかった」
「そう言えば、あれからもう結構立つんだっけ」
少年にしてみれば、まるで昨日の事のようだった。
「あの時は吃驚しっぱなしだったような気がする」
「ふふ、そうだな。我もだ。この数ヶ月は……我の人生で最も騒がしく驚きに満ちた日々だったが、同時に最も輝かしい日々でもあったのだな……」
「言い過ぎじゃない?」
「言い過ぎなものか」
笑みと笑み。
交わされるのは過去。
しかし、今もその掌にその胸にある昨日。
「あの日から君は随分強くなった。僕が吃驚するくらい」
「何せ魔王と契ったのだからな」
「うん」
少しだけ困った気配に少女は少年の胸に顔を埋めた。
「噂は本当だったな。魔王は好色で乙女の純潔を奪い、心までも虜にする色狂いであるとか」
「一応、僕もオトコノコだから」
「うむ。その上、抱いた女を置いてフラフラ木の葉のように移ろう。まったく性質が悪い」
「う……」
反論出来るはずもなかった。
それは少年自身が一番分かっている。
「奴隷は買うわ。娼婦は身請けするわ。不老不死の妙薬扱いされて皇帝に目を付けられるわ。挙句、実験材料としてハーレム三昧。我の気苦労は報われる気配もないな」
「まったくもって言い返せないかも……」
「ふふ、反省したか?」
頷く少年の胸に耳を当てて。
まだ響いている鼓動に耳を済ませて。
少女は囁く。
「楽しかったぞ。お前と共にいた数ヶ月間。我は出会う事無き者と出会い、知らず通り過ぎるはずだった者達と共に肩を寄せ合った。もし、お前に捧げられていなければ、我はきっとこんなにも素晴らしい日々を知らず、ただ流されるままに生きる“エルデナンドの姫”であっただろう」
「イフィミスラ……」
「ティア。覚えているか? 我はそもそもお前の贄だったのだ」
「うん」
「お前にとって初めての、な」
「?」
「我はお前の初めてを何一つ貰っていない。お前ときたら清々しい程に見境がないからな。我と交合(まぐわっ)ても初めてではないし、旅をしても初めてではないし、口付けにしても初めてではないし―――」
「イ、イフィミスラ?」
「言いたい事は分かるな?」
「僕にとっての初めてを、って事?」
「そうだ。だって、ずるいではないか。我は全部初めてだったのだぞ? 口付けも、お前の、お、おちんちん……舐めるのも……お、おまんこを舐められるのだって……」
「ぁぅ、その……なんて言うか……」
痛いところを突かれた以上に卑猥な言葉に動揺して。
少女の口元から少年が視線を逸らす。
「我だってお前の初めてとなりたい。お前に自分を刻みたいのだ」
「イフィミスラ……」
小さな白い手が少年の手を自分の懐へと導いた。
まだ小さく平らな蕾。
その下で拍動する命。
少年が奪ったものが未だ其処には息衝いていた。
相手の幸せを知った気になるなと。
お前の罪は全部自分が許すと。
そう笑った強い少女も、少年に甘え囁く少女も。
「我の全てはお前と共に在る。だが、奪われても奪われても足らぬのだ。我はお前に全てを奪われたいのだ。初めて好きになったお前に、初めて操を捧げたお前に……初めて……我が愛した男に……」
少年の手が外套を割って、少女の裸体を露にする。
「綺麗だよ。イフィミスラ」
「他の女にも言うのだろう?」
「うん」
取り繕う事に意味は無い。
他人が聞けば無神経極まりない会話も少年流の誠実さだと知っているから。
少女は微笑んで腕を背中に回した。
「ならば、お前がもっと綺麗にしてくれ。我を……お前無しではいられない身体にしてくれ……」
「いいの?」
「ああ……だが、無理をさせたくはない。だから、これを……」
外套の懐からイフィミスラがそっと一本の赤い糸を取り出した。
「これって……」
「消耗が一番少ない方法を考えて……それで、も、もしもの時は世話になるかと持ってきたのだ……」
「これ、何て言うか知ってる? イフィミスラ」
「我は薦められたのを見繕ってきただけで。効能以外、特には」
首が横に振られて。
少年が説明し始める。
「これは“恋紡ぎ”って北部では伝わる魔術具なんだよ」
「恋、紡ぎ?」
「うん。北部って寒いからどうしても建物の中でしか愛し合えない場合が多くて。それで家族とか一緒に住んでる人に知られたくない事をする時に使う道具」
「だから、恋紡ぎ?」
少年が頷いた。
「昔ね。この魔術具は愛し合うだけじゃなくて、人と人が繋がる為に使われてた」
「繋がる?」
「心と心。精神と精神を繋ぐ橋。男女が使えば、それこそ愛し合う為の道具だけど、仲間達が結束を固めたり、時間が無い時に教授の時間を作る道具としても使用されてたんだ」
「まるで使用した事があるような言い草だな」
半眼になる少女の頭を撫でて。
少年が頷いた。
「これを使って僕は戦い方を教えてもらったから」
「戦い方。それは誰に、だ?」
内心では何となくイフィミスラにも分かっていた。
惑星を周回し、焼き滅ぼされながら戦った少年を彼女は地上から魔術で見ていたからだ。
親しげで哀しげで優しげで、笑みを浮かべていた。
あんな微笑を浮かべる相手との関係なんて言うまでもない。
「フルー。ユアン。ソィラ。そして、ハティア」
「聖女達か……」
「昔、クラルを不幸にして、僕は崖から突き落とされた。その時、死に掛けた僕を皆が助けてくれた。川岸に流れ着いて、これからどうしたらいいかも分からなかった僕に茹で麦と干し肉を出してくれて、行くところが無いんだったら付いて来るかって……」
「今とは随分と違う関係だったのだな」
「うん。皆がいたから僕は今の僕になった。人間にしてもらったんだ。結局、僕は魔王だったけど、それでもイフィミスラが知ってるシンア・ザ・クリティカルアンラッカーは皆がいなかったら、此処にこうして座ってない」
少女は無言で少年を見つめた。
その顔には一点の陰りすらない。
「今もお前にとって聖女達は仲間、なのか?」
僅かに身を離して少年の顔を少女が見上げる。
「うん」
即答だった。
それがどんな過去の上にある言葉か。
イフィミスラは知っている。
魔王を倒そうと七聖女が軍団を率いて戦った数はそれ程多くない。
しかし、魔王戦と呼ばれた局地的な激戦の記録は公式に大陸の歴史年表に載っている。
その詳しい内容すら一般的ではないにしても、本として出版され出回っている。
生皮を剥がされ、呪いで内臓を腐らせ、無数の杭を打ち込まれ、毒という毒を注ぎ込まれ、肉体を無数刻まれ、消えない業火で焼かれ続ける。
その程度ですら、温いと評して構わない。
そんな、人にあるまじき、倫理の欠片もない、闘争。
卑劣な手段、下劣な手管の数々。
子供に背後から刺されたはずだ。
復讐者の命を盾に無理やり剣を捻じ込まれた回数は片手の指では足りない。
抵抗すれば、復讐に身を焦がす幼い子が傷付くと脅された事もあるだろう。
親しくなった間諜に騙され、凄絶な罠に掛けられて、人間不信にならないのは一体どういうわけか。
「馬鹿だな。お前は―――」
窮極の魔術、至高の技術、完全なる破壊、絶世の剣技。
七教会と呼ばれる以前。
四聖女と呼ばれた四人の女は少年を殺す為、無数の試行錯誤を行った。
常人なら即死。
超越者や不死者ですら発狂は免れない残酷な攻撃の数々。
それを全て受けながら笑みを浮かべ、仲間だとすら即答する。
それは、少年が魔王だからではない。
少年がそれでも、そんな自分を殺そうとし続ける聖女達を、今も本気で慕って、想い遣って、ずっと信じ続けているからだ。
「―――大馬鹿者だ」
恨めばいいのに、泣けばいいのに、魔王だから何をされてもいいと、傷付いたりしないのだと、本当はとても痛がりなまま、誰もを傷つけたくない臆病な少年のまま、馬鹿馬鹿しい性善説は説かれる。
「みんな、本当は優しいだけなんだよ」
「……」
お人好しでは済まない痛ましい現実から目を逸らさず放たれた言葉は見かけよりもずっとずっとイフィミスラには重く感じられた。
「ティア」
少年の外套が開かれ、少女が呟く。
「イフィミスラ?」
そっと彼女は自分の肌を少年の肌に重ねる。
「他の女の話などするから、冷えてしまったではないか」
言われた通り。
明け方に風に色白な少女はひんやりとしていて。
少し震えていた。
「ごめん」
「だが、いい。お前の事を少し知れて良かった」
「イフィミスラ。僕は―――」
ピタリと人差し指が少年の唇を閉ざす。
「今だけは」
切なさに歪んだ顔が少年を見上げる。
「今だけは、全て我のものだ。お前の想いも身体も……傍にいない女になんて……お前を傷付けて……それなのに大切にされる女になんて……絶対に渡さない……」
己の罪深さが底無しなら、自分を赦すと言ってくれた少女に背負わせるものは無限の罪と同義。
それをまざまざと感じて。
少年は何も言えなくなる。
「ティア」
名前を呼んで。
赤い糸がそっと少年の小指に巻かれた。
その端は少女の小指と繋がっている。
「愛すから……赦すから……我を、我の全てを……奪ってくれ。この我(にえ)を貪ってくれ。イフィミスラ・ハージェット・テトス・エルデナンドは……お前の……ただ、お前だけの―――」
その先を少年は言わせない。
唇を奪って。
身体を抱き締めて。
精神の狭間へと落ちて。
自分から伝えたかったから。
『君は僕だけのもの……君は僕だけのひと……僕の―――』
夜明けまであと少し。
空の下。
灰色の世界に呟きが降る。
絶対の命令か。
必然の成行か。
然るにそれは一言。
―――僕だけの女、だよ。
天国にも地獄にも逝けない男は一人。
道連れにする哀れな子羊を連れて。
白い世界へと下(くだ)っていった。
“初めて”
不幸にしてでも傍に置きたいと願った。
その想いのままに。