第二章決定稿設定資料集その1
*ネタバレ注意。
【武器・道具・能力・術編】七教会side
『大源高炉(グラン・フォルナシス)』
《その2》
本来は七教会の独占秘匿技術であるが、大陸南部の大帝国イグニシア・クルシスでは独自の技術発展とフルーに恩を売った経緯から技術指導された結果、開発に成功した。七教会以外では魔力高炉による戦艦の浮遊、飛翔は殆ど不可能と言われていただけにイグニシアの実力が開発成功の裏には窺える。現在イグニシアが保有するものは唯一皇帝の旗艦である【貴皇】に搭載されている。小山にも等しい700m近くの船体を浮かばせているイグニシアの炉は七教会の技術レベルに相当肉薄しているが、それは製造や運用コストの度外視によるものであり、まだまだ格差がある事は自明でもある。
『軽殻装(コート)』
《その2》
言わずと知れた七教会の制服だが、第二章では七聖女ソィラ・ミクラの常備服である事が判明した。基本的に軍事的な側面が強い式典や幾つかの政治的折衝の場では七聖女も着る可能性があり、ソィラは一々着替えるのが面倒臭いとの理由から、常時その衣装を身に纏っている。
『高格外套(ソーマ・パクシルム・ベルーター)』
《その2》
様々なマイナーチェンジ品が多い事で知られる最強の対魔王汎用兵装であるが、戦況や使用目的に応じて乙型と甲型、二つの追加武装の系統が存在する。乙型武装は様々な換装兵器や防御装備のオプション要素であり、剣、刀、火砲、盾、四つの類型(カテゴリ)に分けられる。第二章作中で出てきた第二種乙型武装は盾、つまり防御能力に特化された装備であり、巨大な二つの盾と防御能力を極限まで高める追加装甲を併せ持つ城砦に匹敵する防御形態である。この武装は超大規模攻勢、つまり大陸の諸国家の現有戦力で想定される一切の火力を一個連隊で防ぎ切る事すら可能とされてきた。それがイグニシアと武帝の国境騒乱時に身動きも取れず、長大な範囲を魔術方陣でカバーし続ける事しか出来なかったのは、一重に装備の要である聖女の加護が黒い座天使の超広範囲精神攻撃に耐えていた為である。常識的な範囲でなら、無用の長物に近い防御力もその連隊規模という数の少なさ、更に守るべき対象が数百万人という大規模難民だった事もあって、許容量一杯であった事は否めないだろう。その合間に難民避難を行っていた工作兵達が使用したのはマシュマロのような外皮を持つ甲型の武装、これは甲型四種、整備、工作、補給、避難の内の避難用武装に当て嵌まる。第四種甲型武装は第二種乙型武装と同様に運用理念は防御、それも多数の避難民を想定している。違うのは基本的な戦術上の優先順位であり、防御対象の最も先頭に来るのが自身である事だろう。マシュマロのような外皮は通常防御用装備の先鋭特化品である第二種乙型武装とは違い、あらゆる環境、あらゆる空間を想定して処理された特殊な数百枚のフィルム層から出来ている。これは外環境が真空中であったり、異次元、位相空間、重力異常、様々な粒子、物質が満たされた空間であろうとも行動可能にする。一言で言うなら特殊環境活動用スーツである。このような装備を身に付けて、極限状況下で多数の難民を装甲内部に保有する圧縮空間に凍結し、任務を遂行するのである。その武装の性質上、行動不能に陥った場合、多数の民間人を共に犠牲とする可能性がある。故に過剰なまでの特殊環境に対応する性質を持たされた第四種甲型武装は避難用の装備でありながら、武装という単語が使われるに値する特殊兵装をも積んでいる。その全容は武装に搭載された空間制御能力を駆使した空間創造技能である。魔術的な結界と違うのは区切る事で内外を隔絶して特殊な空間を確立する方式ではなく、完全な空間の創出、つまり一種の“世界”を超小規模ながらも作成するという点である。無論、この神にも等しき能力の使用には大前提がある。一つは膨大な積層魔力が必要とされる事。もう一つは処理能力の限界によって、幾つかの基幹機能が著しく低下する事。だが、空間の性質までも自由に操作設定可能な第四種甲型武装は特定条件下では他の武装の追随を許さない反則スレスレの強さであり、特に厳重な管理が為されている。莫大な避難民を抱えて退避する事を前提とした行動中であった為、その能力が存分に発揮される事は無かったが、もしも避難民自体が小規模であったなら、難民避難を終えた帰還後に再出撃し、第三位の天使に対して有効な手立てを講じられたであろう事は確かである。第二章後半においてはマイナーチェンジ品ではなく、完全な次世代機として【超克】が完成し、実戦配備までされている。他にも第一章においてフルーが呟いていたように【神門】タイプまで開発されているようであり、その七教会のシンボルである武装は未だ進化を続けている。
『超克(ネガティオ・セイプスム)』
七聖女フルー・バレッサが大陸南西部の研究所で開発させていた次世代型【高格外套】。その従来との違いは多岐に及ぶ。軽量化、鎧としてのスリム化を果たし、より生物に近い形を取り、部品単位でも曲線を用いたものが使用される事で可動域が大幅に向上した。しかし、その最大の違いはスマートな外見とは裏腹に各能力の底上げが飛躍的に行われた事と魔力運用の実態が百八十度変わった事だろう。背骨に当たる部分が“賢者の釜”と呼ばれる魔力の置換機構(コンバーター)として機能している。これは外部からあらゆる物理量(エネルギー)を取り込み循環させる事でほぼ永久的に動く半【無限機関】であり、常識的には大陸でも伝説級の武具に属するような能力である。大陸で確認されている全ての魔力形質を運用し、同時に対応可能である事が結果的には更なる汎用性の向上へと繋がっている。唯一の欠点は開発に掛かる資材が惑星上では殆ど採掘されない事であり、七教会の能力を持ってしても数機分の資材しか集められなかった。これをフルーは【外宙碩学師団】に建造を任せていた【封星質量器】を用いて一瞬で無数に複製。突如として発生する口の化物に対抗する装備として大陸各地の守備隊に配備を開始した。通常の方式で空間転移を運用した場合、高速連続転移が可能となっており、保管(ストック)されている魔術の種類も豊富である事から、小さな都市なら一機で制圧出来る基本スペックを有している。ちなみに隊員達が愚痴っている場面では自爆装置が内臓されている事が語られ、リスク管理の点からも今までの装備とは一味違う事が窺える。ただ、大戦時に運用されていた兵器とは違って、あくまで警備用装備の扱いでフルーが開発させていた為、その魔力の許容量(キャパシティー)は低めに設定されているらしい。無論、それでも大魔術を単独で発動させる程度の能力はあると考えていいわけで、七教会の戦闘能力は大陸国家の標準的戦力を更に周回遅れにしてしまったと考えていい。
『変鋼筒(コンヴァージョネム・フェロー)』
《その2》
魔力の変換や置換を行う本来は医療用の魔術具だったが、第二章ではそれを大きく超えた能力を持つまったく別物に近い【次元相転移変換鋼筒】などがフルー・バレッサによって開発・運用され始めている事が描写されている。様々な魔術具の部品として開発が高度化しているのは世間でも同じだが、そのレベルは天地どころの話ではない。
『源型(アーキタイプ・モールド)』
《その2》
魔王が持つ剣と外套が当て嵌まる事は前述されているが、第二章においては更にバルガ・レオノトルテの所有する豪槍、教会の中枢区域の天使達が保有していた布が追加されている。【源型】に当て嵌まる要件は超越者達が呼び習わす世界に只一つの超越的な力を持つもの、あるいは遥か過去に最初に発生したもの、大きく分けて二つである。これに類するものは第二章において多く出てきたが、殆どは全力には程遠い状況で扱われている。その最大の理由は軽々しく扱った瞬間に人類消滅級の災厄に為りかねない為である。準拠する品としてはクラウゼンが保有していた黒い門やアーフルとアルデーティルが受け取った漆黒の門、フルーが使用した【封星質量器】なども名が知られるようになれば、まず確実に入ると思われる。
『銀金(ミスリル)』
大陸でも殆ど採掘されない希少金属。魔力親和性の高い物質であるが、実際使用するには過大過ぎるコストが掛かる為、大規模な魔術儀式や魔術具へ使用された実績は皆無に近い。しかし、現代の【電子噐械学】及び【魔導技術】の進展により、擬似的に同位体を精製する事が可能となっており、コストさえ無視すれば実用化まではもう少しのところまで来ている。尚、価値は銀金1に対して金3000という法外さであり、錬金術の技法によって純化練成した場合、その値段は一気に四倍まで跳ね上がる。
『質量加速斬撃(しつりょうかそくざんげき)』
【高格外套】が用いる汎用昇華術式。その実態は【秘儀文字】を鉄剣から光波によって射出し、対象物に転写、物質の運動量を加速度的に増加させて構成を崩壊させるというもの。非常に単純だが、同時に回避はほぼ不可能な一撃である。自身を構成する全ての物質を意識化で制御下に置いている、刹那で数乗倍する分子間の運動量を低減もしくは分子構造の破壊を防ぐ能力が無い限り、有機生命には死以外の結末が存在しない。防御の前提となる能力を持っている存在は大陸でも多くない為、物質的な実体がある存在なら、大半を殲滅するに足りる。第二章において口の化物を殲滅する事が出来なかったのは術式が転写されて尚、悲鳴を上げる程度には利いていなかった為である。【高格外套】にとって最も速射が利く威力の高い攻撃方法だった為、他の攻撃魔術は併用されなかった。従来の攻撃魔術が殆ど試されなかった点は戦略上、情報収集の点で難があったが、戦術上は正しかったと思われる。大体、自分を構成する物質を一瞬で昇華させられる状態に耐える生物に通常の攻撃魔術で傷付いたかは疑問である。尚、七教会の施設が口の化物に襲われて以降、【高格外套】の【質量増加斬撃】において増加させられる運動量の加速限界域が大幅に引き上げられた。
『瞬刹魔導(フラッシュ・クラフト)』
大陸において火砲の発達が魔術の優位性を削ぎ始めた頃から銃の速度より高速で魔術が発動出来る事を主眼として開発された魔術大系の総称である。この魔術体系は従来の魔術の工程に掛かる煩雑さを棄て、【魔導技術】を取り込んで開発されたものが殆どであった。その為、魔術の名家は眉を顰める事も多く、開発が完了した後も使おうとする魔術師は名家や魔術結社の上位の家柄には存在しなかった。大体、階梯が中堅から下の者達が一定期間運用した後、発動後の魔術強度が不足する事が多いという弱点を見つけた為、その殆どが世に残る事なく消え失せていった。ただ、銃弾よりも早く魔術を撃つというコンセプトは現代の魔術師達の間で一種のトレンドとなっており、準備と工程を事前に済ませながら、弾丸よりも早く相手を打ち倒す魔術を開発する者は多い。皮肉な事に亡び掛けている魔術師達の力量は仕事や生業の事情が厳しくなるに連れ洗練された事もあって、かなり高い。故に魔術師全般を目指す者達が魔術を使う時、指を弾くような速度で攻撃魔術を放つ事は一般的には珍しくなくなってきている。その為、詠唱魔術や発動に時間が掛かる魔術の大半は時代遅れなものとして、研究職や書類仕事をする比較的暇な者達が修める術となってしまった。ただ、そんな現状にありながらも、高威力で工程が煩雑な魔術を各国の軍は棄てる気はないらしく、威力の増強や戦略級の魔術開発は引き続き続けられている。戦場で如何に火砲が優先されるようになろうとも、大威力、高出力、敵軍を一撃で吹き飛ばす戦略用の魔術は無くてはならないものとして扱われ、今も無くなる気配はない。そういった点では時間の掛かる魔術というのが結社や国単位でしか必要とされなくなったと言えるかもしれない。
『果元未踏(トラペゾヘドロン)』
宇宙内部には殆ど存在しない超高密度超重量元素、超重元素と呼ばれている。原子核には内包される陽子と中性子の数によって安定する一定の値、原子核魔法数が存在する。その中でも【外なる神々】をも構成する事がある超重元素、Z=666、N=666の原子核魔法数を持つのが【果元未踏】である。魔術的に同じ物質は惹かれ合う性質、つまり同期、同形を取る“相似”という状態になる事が知られている。この為、宇宙外の【外なる神々】と同等の物質は極めて危険であり、災厄の芽としては十分なものとなる。第二章後半。口の化物を討伐する為、七聖女ハティア・ウェスティアリアが取った攻撃方法は化物と近似の物質である【果元未踏】を用いた網による駆除だった。この物質が最低単位の原子一個でも制御を離れた場合、一銀河が原子の侵蝕によって魔境と化す可能性が高い。ハティアは【果元未踏】を生成する際、直接的な観測を避け、己の魔術や奇跡による封印と制御を同時に行う事で武器化していた。これは【果元未踏】が接視するだけでも精神侵蝕や魂魄侵蝕、現実の改変、時空間の歪曲までも発生させる“禍”そのものだからである。ただ、人間として生を受けた存在が【外なる神々】すら“創造可能な域”に達しているというのは人類史上初めての事であり、主神や大神、最高位の厄神や暗黒神でも同じ事が出来る者は五人に満たない。大陸に未だ住む数多くの超越者達が七教会に様々なものを阿(おもね)ているのは一重に七聖女の実力が自分達を遥かに凌駕する域であると知る故であり、その思想や教義に共感したからではない。福祉と女性権利の向上、人間社会でしか話題にならないようなもので持て囃されるハティアが、実はフルーの次に世界を破滅させかねない“宇宙規模の人災”保有者というのは七教会でも極々一部の人間しか実感していない事実である。
『蟲杓(アザトシド・レイディル)』
超重元素【果元未踏】を用いた短剣。【偽白銀(クローム)】のような鈍い耀きを宿した武器であるが、形は無きに等しく如何なる形状にも変化する。第二章において口の化物を自らに取り込んで消し去る際は惑星を覆う網として展開され、殆ど零に近い時間で惑星そのものを通り抜けた。名の由来は【外なる神々】の眷属が使う自らを増殖させる種に因る。大陸史上でも稀に見る悍しき力の結晶であり、この術を感知した超越者達の殆どは“自分に影響がない”事を知っていても全力で回避した。その威力は最小以下で運用された為、一見して凄そうには見えないが、実はフルーの【封星質量器】すら軽々と切り裂く威力を秘めている。知覚出来ない者にとっては無いも同然という攻撃であったが、それは化物達だけに的を絞っていたからである。実際の威力と効果範囲は最大半径で天文単位、少なくとも星系内部の他惑星に光速以上で迫り、全て細切れにするくらいは軽くこなすと見られる。七聖女内部でこれを完全な形で防ぐ事が出来るのは単体でフルーかソィラのみだと思われ、他の聖女との間にも一線を画す能力をハティアが秘めているのは確実である。この短剣の創生は最終的に【外なる神々】の模倣や創造にまで及ぶ事を示唆しており、ハティアの魔導が万能に等しくなりつつある事を暗喩する。
『消失情報媒体(ミッシング・ノート)』
【叙事詩機関】が保有する情報保全用の緊急時写本。機関に保管されている本が何らかの形で消滅、噴出、情報が破壊される事になった場合に備えて、予め稀少な本の一切には小さな栞が挟まれている。重要な原本及び写本、その内部情報が消失し始めると、栞が機関内部に保管されている【消失情報媒体】に情報を送る事で内容を保全する。ただ、内容の保全は必ずしも完全ではない。【総主教】の日誌はエトが高位の炎神の呪法で灰燼とした為、内容は全て消滅してしまう事となった。これはかなり特異なケースである。何故なら、稀少で高価で物によっては国一つ、大陸全体に影響を及ぼすような情報の載った本を回復不能にするメリットは本の所有者には殆ど皆無だったからだ。エトの一件以降、【叙事詩機関】内部では全ての原本から写本を取るかどうか議論になっている。
『シギル全集』
錆の浮いた鉄鎖と白銀の糸で編まれた装丁を持つ、あらゆる【意匠】と力ある形を網羅した標本。これ単体が実は魔術的には天文学的な価値を有した代物であり、使い方次第では聖女にすら届く力そのものである。この全集に載っている象形は高度なものならば、単体で魔術範囲の無限化や超光速化、他にも視認のみで相手を消失、神々の一切を掌握、くらいの事は平然と行える。これのみならず、乗っている象形は全宇宙規模でのプロトコルであり、あらゆる対象との意思疎通や干渉までも可能にする。これを使って魔術を編む者は七聖女ハティア・ウェスティアリアにも匹敵する魔術行使が可能であり、死者復活や時間旅行、限定的ながらも【外なる神々】すら使役する事が可能となる。そのあまりの重要性と危険性から【叙事詩機関】が焚書済みとして現存するという情報を抹消していたが、ユヒアに貸し出された。この事からも【日誌】の焼却が機関にとって相等な損失であった事が窺える。
『カダス写本』
暗い布を重ねて編まれた柔らかな冊子、大宇の全領域とその構成因子が記されていると言われる秩序の地図。この写本は単純に言えば全宇宙の地図である。それも単なる地図ではなく、その時空間を構成する因子の全てが表示される代物とされる。これが何故、攻撃的な任務に就いたユヒアに与えられたのか。それは地図が内包する情報が過去と現在と未来、その全てに渡るものであり、特定の領域内部に起こる全ての事象を閲覧する事が可能となるからである。過去を覗き、現在を全て把握し、未来までも見通す観測行為。これは神の視点、マクロ的な視野を手に入れるのと同義だろう。無論、情報の閲覧速度自体が自己の思考速度に比例する為、閲覧者の観測行為には自身の限界という制限が付く。ただ、上手く運用出来なかった場合、観測者自身の許容量を超える情報量で自己破壊に至る可能性が非常に高く、使用には細心の注意が必要。未来までも見通す力でありながら、実は未来そのものを観測者効果で確定しない。未来観測は全てIFの未来までも含まれる為、過去や現在の観測以上に情報量が大きくなり、検索行為は容易ではないとされる。ユヒアがこの本を使って、自らの目標を探さなかったのは、この本の危険性を理解していたからである。全てが見えるという事は一見して万能のようにも思えるが、観測者本人は限界の有る存在でしかない。人間一人が背負えるものの範囲を超えて何かを見た場合、入らぬ物を背負い込む事にも為りかねない。全知全能が無為であると説く哲学もある。全てを見てしまえる事は確かに便利だが、同時に悪戯に己の可能性や視野を狭める行為、現実を狭窄させる悪手でもあると言える。このような観点が理解出来ていた故に第二章後半ハイランに負けそうになった時もユヒアはこの本を使わなかった。
『根幹経典(セファー・ラジエール)』
この世界の全ての記録。【宙(そら)の契約書(けいやくしょ)】【世界根源(ムンドゥス・アーカイヴ)】【宇宙記録(アカシック・レコード)】とも呼ばれる。古くは超越者達の間で比較的高位のものならば、触れる事が出来るものは多かった。しかし、時が経ち、人型の知性が蔓延るようになると傲慢な理由で星をも滅ぼしかねないような状況を生み出す為に使われ始めた為、写本の殆どが破壊され、現在に残っているのは全て原本ではない。写本か、写本の写本、更に内容が薄くなる三次以降の写本が数点大陸に残るのみである。【叙事詩機関】が持つ写本は教会の唯一神の側近であった天使が持っていた写本を元にしており、現代に残る写本の中では最大級の代物。実は【叙事詩機関】への配属テストでは【根幹経典】との同調結果が重要視されており、経典内部の更に細かい写本との同調結果によって任せられる仕事が決定される。この写本そのものは根本的に原本との間に相互的な干渉が可能であり、【叙事詩機関】を司る長は写本に介入する事で世界の全て、実際にあらゆる事象を改竄、書き換える事が出来る。七聖女クラル・リテルの要望で灰化の雪原において全滅した部隊の死者蘇生を行ったのは【叙事詩機関】の長であり、クラルが現場に降り立った際に使った力は微々たるものに過ぎない。これは話が前後する事になり、矛盾を来たしていると思われるかもしれないが、原因と結果が逆なのではなく、【叙事詩機関】の長に依頼する事が確定しているなら、未来で頼む事で過去、つまり現在自分が行う死者蘇生を簡単に済ませられると踏んだクラルの機転である。つまり、現在の死者蘇生が簡単に済ませられるようクラルが長への依頼を意識した時点で未来からの介入が発生したのである。
『響鈴虞口(イウプタ・イウベニス)』
聖女の元護衛騎士にして魔王追討師団師団長マロウ・ブレステンドの超常の力。マロウが元々持っている能力であり、その力の原理は未だ人類が発見していない媒質を用いて感知不能の一撃を物理量(エネルギー)として限定された領域内部に発現させるというもの。不可視、感知不能、距離による減衰無し、速度は光速、このような一撃を斬撃として扱うマロウが一度技を振るえば、大概の相手を倒す事が出来る。実質、不死者でも無い限り、大抵の敵は倒す事が可能。ただ第二章でも記憶を失いっぱなしであるマロウが自らの能力を自覚したのはアイレンを殺そうとした化物に激怒した時からである。イーステルを助けた時には自覚せずに能力を発動し、何となく理解する程度であった。第一章においてマロウがサヤトネにこの一撃を放たなかったのは自らの技量と鎧のみで打倒出来ると踏んだからであり、少年の側近であるサヤトネに自分の力量を悟らせず、魔王との戦いを有利に運ぼうとした故であった。ただ、能力による攻撃を放っていたとしてもサヤトネの因果断絶の能力を突破出来ていたかは怪しいものがある。何分、全力で戦えば大陸の何割かを巻き込む可能性があったのだから、ほぼ相打ちという結果は妥当かもしれない。力量と自力と装備の能力で上回っていたマロウはサヤトネの力量と能力を見誤ったのである。もし、使う力の精査が多少なりとも違って、マロウが能力までも使用していれば、完全に首を落としていた可能性が高い。その場合はサヤトネの能力も完全に発動し切れていたか分からない。マロウにとって能力はあくまで戦闘を補佐する能力の一つに過ぎず、それに頼らないからこそ、ユアンに次ぐ剣術の使い手になった。これらの事実を考える時、強力な能力である奇跡に重きを置く聖女より、マロウの方が少年にとっての強敵であろう事は想像に堅くない。サヤトネがマロウを危険視していたのは正しい判断だったと言えるだろう。
『葬送窮奏(ファムス・ラメンタヴィムス)』
マロウの【響鈴虞口】を使った対軍用攻撃術。不可視の物理量(エネルギー)を網目状に配置固定して相手の突撃そのものを死の行軍と化させる。第二章では見えない化け物の大群が押し寄せてくる際に賽の目状に切り刻まれて自滅した。能力を使用した攻撃術の一端であり、他にも能力の使用によって可能となる様々な攻撃方法がマロウの記憶の奥には眠っている。第二章後半、藩落東端【双來】に仕える事となったマロウであるが、人間相手に大虐殺に近い攻撃術を使用するかは未知数である。第三章以降及び回統世界ファルティオーナにおいて、そのような部分が描かれていく事になる。
『破壊者(ワンダリカ)』
七聖女中、最も有名なソィラ・ミクラの奇跡。この世界の全て、森羅万象、如何なるものも例外なく破壊する事が可能とされる世界最強の能力、とされている。ただ、色々と不都合は多いらしく。第二章においてエルフの集落で【罪過】を破壊した時、全てを破壊し損ねていた。(これでアーフルは助かった)。水竜を破壊した後、大規模な破壊の反動か、時空間を超越して【罪過】破壊以前のエルフの集落に現われたりと、能力の実際のところや副作用は諸々判明していない。ただ、認識、破壊対象の選定、任意の効果を選択後に行われる“破壊”は一連の流れを実現する時間があまりにも短い。聖女が不老不死であるという事も含めれば、如何なる存在も先手必殺、後手必殺だろう。逆に“それが壊していいものかどうか”を確認する時間の方が実は長いかもしれないというのは何とも皮肉な話である。世界と世界の“境界”を壊して天界にも遊びに行っているというクラルの言葉を鵜呑みにするなら、時空間すら同様に破壊可能と見て間違いなく。宇宙規模での崩壊すら引き起こしかねない。七教会の敵らしい敵は全てこの能力の前に出た時点で消滅不可避とされているが、本人は至って真面目に世界崩壊の危機とやらを仲間達から説かれているせいか。本人はあまり表立って七教会の公式な任務に付いていない。時に教会への公開質問状で七聖女ソィラ・ミクラの能力行使における大規模な騒乱や事件の早期解決を嘆願する旨が出されるのだが、七教会の公式な見解は“羽虫一匹を殺す為に国を焦土にしたいのなら”という皮肉の効いたものとなっている。ただ、近頃はさすがに少しずつ公式な治安維持活動に出されるようになっていて、世間からの要望が反映されている。しかし、年々強力になっていく【高格外套】の力の前に並みの騒乱や事件は早期鎮圧されているので、本人が能力を行使するのは極限られた特殊な事件や特殊な案件のみとも囁かれている。
『白刀峯真円(はくとうほうまえん)』
七聖女ユアン・クオが有する奇跡。七聖女の中でも三人程しか見た事のない使用頻度で言えば、稀少そのものである能力。その顕現はとても僅かで刃紋に黒色を浮かばせるのみとされる。しかし、その刃で斬られた対象は現実に存在しないもの、概念、法則であっても、森羅万象の参照結果から存在が抹消される。一種の検閲能力に近いとフルーは見ているが実際のところは誰にも分かっていない。ただ、幻視すら斬れるというところから想像するに斬れないもの自体が無いと考えていい。この能力によって検閲された対象は現実において無かった事にされる為、一種の矛盾が現在と過去で発生する。しかし、それを奇跡の所持者であるユアンは認識しない。故に彼女自身は奇跡自体は使えるが、奇跡を使った事が一度も無いという矛盾を抱える羽目になっている。それでも他の聖女が奇跡を見た事を覚えているのは奇跡の対象にされたものは分からずとも、奇跡の行使があった事までは検閲対象にされておらず、矛盾を知覚出来る高度な魔術や能力による加護と知覚能力を有するからである。ユアンはこの点で高度な知覚能力を有さず、また高度な魔術や能力も持っていない為、検閲対象が存在しない事によって生じる矛盾を認識出来ない。故に現実と過去が食い違っていても自覚する事はないのである。
『質量武装(イングネス・アームズ)』
過去、優秀な武装と言えば、よく切れる剣やどんな攻撃にも耐える盾という常識が一般的だった。今も大陸にはその向きはあるが、火砲や魔術具、様々な高度技術、魔術、魔導による武具が蔓延る昨今、武装にも分業化ならぬ使用用途別の細分化が求められている。昔なら剣一本で戦争もすれば護衛もするし、薪だって割るのが傭兵の流儀だったわけだが、現在の大陸では戦争には戦争用、護衛には護衛用、薪を割るのは斧ですらなく回転刃(チェーン・ソー)というのが常識になっている。このような武装の細分化、専業用途への特化は特定の条件や使用環境においては威力を発揮させるが、それ以外の場ではイマイチな性能しか出せなくなる事を意味した。【質量武装】の基本理念は“使い潰せない武装”である。半ば、伝説の武具や兵装に類型(カテゴリ)されながらも、それらには専門用途が存在しない。膨大な金属を一定空間に圧縮搭載する技能は剣一本、盾一つであらゆる状況に対応し、尚且つ最大限の効率で運用しても刃毀れしない、欠けず錆びず壊れない事を目指したものだ。言わば、万能性を追求した末の選択なのである。その剣や盾を超えるなら一山岳が有した鉱脈の全重量を受け止める技量がいる。この時点で過去、多くの人に敵対する強大な超越者達は劣勢を強いられた。如何に人間に比べれば強大と言っても、その肉体や精神は有限である事が殆どであり、不死者ですら、圧倒的な質量、物量を突破する術を豊富には持ち合わせていなかった。人間に対する亜人や異種、魔族、神の攻撃に対して時の鍛冶師達が出した答えが莫大な資材を一点に集めて生み出す剣一本、盾一つで全てを解決するという【質量武装】の本質なのであり、その直接戦戦闘以外の逸話は数多い。剣一振りで山脈に大軍が通れる道を“斬り付けた”とか、天変地異を操る神が生み出した河川の氾濫を“押し戻した”とか。第二章においてフルー・バレッサが生み出した【封星質量器】は旧き世界の思想を連綿と受け継いだ先にある【質量武装】の到達点の一つであり、大きな括りでは鍛冶師達の理想の具現でもあると言えるだろう。
『次元相転移変換鋼筒』(ディメンジョン・フェイズシフト・コンバージョネム・フェロー)
フルーがアーズトリテの地下に存在した大規模な異種の遺構を破壊した際に使用した下位の【時空兵装】。鋼筒と名が付いているが、中身は既存のものとはまったく別物に近い。近似する宇宙【多元宇宙】との間に経路(チャンネル)を設定する機能があり、起動時に最も近く、少し物理量(エネルギー)の標準が高い領域との間に経路を構築する。これによって下位の領域に上位の領域から自然と物理量が集中する事となり、莫大な力を一気に収集する事が出来る。七教会が運用する幾つかの【無限機関】の基礎部品であり、同時に大陸でも稀な一定の領域内部で時空間を崩壊させるに足る武装でもある。運用を一歩間違えると大陸どころか惑星そのものを滅ぼしかねない為、七教会の中でも極一部の技術者しか扱えない秘匿技術の結晶とされる。フルーにとっては随分前に開発が終了した品であって、第二章において使われた現物は様々な改良が施されていた。時空間の崩壊という行為は大陸に存在する多くの存在から忌避される行為である為、余程の事が無い限り使用は控えられると思われる。
『真空交換炉(フェイズ・スペース・リアクター)』
フルーが自身の創設した学会において唱えた【無限機関】の一つ。理論上、周辺に何かしらの粒子・放射線・重力・波動・その他諸々“何かしらの力”が存在しているなら無限に出力を得られる夢の機関である。だが、構造を発表すれば比較的工業力と魔術開発の進んでいる国なら教会の技術支援が無くとも“造れてしまう”事が問題となり、詳しい技術・智識は七教会の秘匿事項とされた。基本的な原理は空間制御技術によって常時、機関周辺の指定された領域内部を“真の意味での真空”として固定化する事で、領域から排除されるあらゆる物理量(エネルギー)を機関に集積するというものである。これはつまり、周辺の空間を“何も無い空間”真空に置き換える作業をコスト0で動作させる機構という事で、高度な空間制御領域を常時維持する技術が無ければ成り立たない。周辺空間を真空と常に交換し続けるから、【真空交換炉】と呼ばれるわけである。実はこの技術自体は過去の大陸でも散見される。ただ、この技術が普及した場合、調和の取れた空間からあらゆる力が除かれる事となる為、環境の著しい悪化が懸念され、多くの開発者は一部の成果を残して技術を破棄する事が多かった。魔術的な見地から言えば、一定領域を特定の法則で制御固定化する技術であり、超高位の魔術師達にしてみれば、何処かで見たような今更な力でもある。この機関、最大の特徴は如何なる外環境でも運用が可能な点だろう。理論上、この機関を乗せた機械は其処が恒星の中心だろうと惑星内部だろうと周辺から粒子や放射線、重力、波動、様々な運動量(エネルギー)を得て活動出来るのである。七教会が宇宙に送り出した【外宙碩学師団】が運用する【外宇宙航行艦】も【真空交換炉】の技術があってこそ、完成を見た構造物であり、今後は機関の製作に必要なコストの削減が教会の技術開発部門では課題となるだろう。
『次元差間力反応炉』(ディメンジョン・フェイズシフト・リアクター)
【次元相転移変換鋼筒】を内臓した教会が運用する【無限機関】の一つ。基本的には【多元宇宙】から物理量(エネルギー)を抽出するが、状況に応じて別次元や別異相からも同じような作業が行える。【真空交換炉】が周辺領域から力を抽出するものならば、【次元差間力反応炉】は別領域から力を抽出する機関である。この差はかなり大きい。前者が皮肉にも“本当に何も無い真空”で機能を停止する弱点がある一方、後者は如何なる領域でも他の別領域との間に経路(チャンネル)さえ確保出来れば、機能を停止する事はない。ただ、その出力が前者に比べて天文学的に高い【次元差間力反応炉】は内臓される部品以上に扱いが難しく。一歩間違うと星系を巻き込む大事故に繋がりかねない力を持っている為、実際に試作されたものは全てフルーの管理下のみで運用されている。この機関の原理を説いたフルーの論文から恐ろしさに気付いた一部の学者達は全員が“無限に恩恵を齎す終末の爆弾”と【次元差間力反応炉】を揶揄した。実は【封星質量器】内に組み込まれており、第二章最終盤、ランナに構造へ罅を入れられた際、フルーはかなり気を使わされている。この為、第二章終盤【封星質量器】は少年を倒す計画にも無い程、出力が落ち込んでいた可能性もある。
『時空兵装(テンプステルム)』
時空間干渉体を武装として運用した場合の呼称。時間と空間に対して干渉する際、最も考慮されるべきは範囲である。だが、実際には四次元以上の高位次元における時間と空間の在り方は既存の知られている領域の法則性に準拠しない。第二章において魔族の遺構を吹き飛ばした【次元相転移変換鋼筒】は下位の兵装である、と説明されるのは単純に完全高位の領域を経由する干渉体ではないからである。平行した宇宙から物理量(エネルギー)を取り出す術は【無限機関】を成立させる智識の一つではあるが、あくまで人類が存立条件を満たせる同位に近い領域から力の抽出を行っているだけであり、その分野での“高位の領域”ではない。更に世界の一部を空間ごと崩壊させているとはいえ、対象の存在そのものを時空の過去から未来に掛けて抹消するようなものとは異なり、あくまで抽出した膨大な物理量(エネルギー)による破壊である点も下位兵装の証左である。フルー・バレッサが想定する高位の【時空兵装】の説明が未だ為されていないが、つまるところは時間と空間に対して優越する干渉体である。常識的な範囲では時間の逆行による存在の成立否定や対象の因果ごと時空間の外、つまり【外世界】へ放逐するまでが考えられる。ただ、そこまで行くと破壊や消滅の対象が今まで存在してきた上に成り立つ事象の不成立で膨大な悪影響が出る可能性がある。世界に極大の矛盾(エラー)を突き付ける行為は宇宙の崩壊にまでも及びかねず、安易に使用出来るものでもない。故に相手にとってだけではなく使用者にとっても非常に危険(リスキー)な兵装と【時空兵装】は結論付ける事が出来るだろう。
『封星質量器(ステラ・ファブリカ)』
フルー・バレッサが【外宙碩学師団】によって収集した惑星七つを用いて製造させていた【質量武装】。第二章での最終決戦時、フルーは己の【奇跡】と、この【封星質量器】によってランナの【真権】を突破している。数十mの鋼の輪という形を取るソレ自体が実は人類の永遠の夢である“楽園”を生み出す機構の一部である。作中では惑星規模の質量と物理量、引力、様々な力を出力するだけの武装に見えるが、それだけが能力ではない。初登場時に新型高格外套【超克】を複製している場面を見れば、【封星質量器】内部に保有する惑星から原料である金属や質量を抽出して複製を行っている事が理解出来るだろう。つまり、原料→加工→生産完了(ロールアウト)までを瞬間的に行っているのである。この力は恐ろしく強力と言える。どんな製品も原材料無しには生まれない。だが、加工の工程と設計図の情報さえあれば、【封星質量器】は内部の元素・質量と物理量(エネルギー)が続く限り、殆ど無限に品を生み出す。この時点でフルーは惑星七つ分の資産を保有しているに等しく。同時に資産の加工に対して殆ど時間を取らない工程短縮(コストカット)の術を身に付けている事になる。星を用いた武装というスケールの大きさは規格外であり、完全な反則と言っていいだろう。この【質量武装】の開発は軍事・政治・経済・文化・歴史、そのどれにも極大の発展を齎す十分な業績でもある。これで七教会は物資に困らず、資金に困らず、あらゆる国家を上回る生産力を持ち、大陸どころか惑星七つ分以上の土地を所有する事になったのである。実際には数十にも及ぶ惑星が未だに【外宙碩学師団】にストックされており、惑星の複製にまで手を出している為、人口が増えた場合でも七教会が社会的に保障するであろう惑星を保有する事で担保される豊かさ、資源許容量が飽和する事はないと思われる。全人類に対し、揺り篭から墓場まで生活保障が可能という時点で、七教会はどのような政治・経済的な争いにも既に勝っているような状態にあると言っても過言では無い。如何なる国家も上回る総合的な社会保障体制を人類規模で構築可能な状況。これに到達した初めての組織として彼らは歴史に名が残るだろう。第二章で本人が語っている通り、人間以外の種族を他の惑星へと移住させる事で社会的な摩擦の低減と種族毎の発展が可能になる事に加え、根本的な貧困の解消までも視野に入っている事は間違いない。このような観点から最強の武装という以上の意味が【封星質量器】にはある。使われているのが想像を絶する禁忌技術の精粋である事を除けば、【封星質量器】は知的生命体が時に指向する“より良き世界”というものを体現する領域そのものなのである。
『無辺空間制御(イメンサ・マンデータ)』
七聖女フルー・バレッサの神出鬼没さに拍車を掛けたのが、この技術である。本来、この技術の原点は距離や時空間、次元の構造を把握し、特定の領域での昇降を行う実験にある。その実験において解明された原理を一切の魔術、魔導を使わずに実現したのが【無辺空間制御】とされる。これは既存の魔術や魔導における空間制御の延長にある技術ではなく、実際には高度な次元、領域、時空間に転移した際、戻ってくる為に開発された自然科学を基礎とする技術の応用である。この技術を大まかに単純化すると帰還技術、迷宮から一瞬で迷宮の外に戻る為の技術と言い換える事が出来るだろう。これを次元間の往来に応用した際、通常の四次元より下の次元へと下降する事が可能になった。それは世界の外、つまり【外なる神々】が住まう外宇宙、時空間や次元、領域と言った生物の生存に必要な最低限の基礎が無い、“世界の発生以前”を生み出すという事であった。この次元下降現象は外世界環境の構築技術であり、それを応用した時空間の喪失、“零次元化”現象は距離及びその概念の喪失現象までも発生させる。この技術を使えば、あらゆる物質や波動を無限に内包する空間が生み出せる上、零次元化の副次干渉効果で光の速さ以上での移動をも魔術無く実現する。この技術を開発した事によって生まれたのが極大の【質量武装】である【封星質量器】である。惑星規模の質量を零次元化現象を上手く活用する事で小規模な球体に封じ込め、距離の喪失による光速の突破があらゆる物質を何処からでも抽出する事を可能とした。故にその零次元化の影響下にある座標も定かでない惑星内部から一瞬で製品に必要な鉱物を抽出し、【超克】を複製出来たのである。この技術の恐ろしいところは戦闘において運用された場合、破る術が存在しないに等しいという事だろう。時空間が無い。領域、次元が無い。という事は物質や質量及び波動、時空間内部に存在するあらゆる媒質、概念までもが絶無に近いという事でもある。これは因果律にすら及ぶものであり、七聖女ユアン・クオの奇跡が宇宙内部の森羅万象から存在を検閲するにも似ている。第二章後半、筋肉の化身と“世界の外”で邂逅する少年は破滅しながらも世界へと戻った。これを見る限り、魔王にとっても世界の外で存在し続けるのは容易ではない事が分かる。フルーが辿り着いたこの技術は最終的に魔王を完全に打倒する為に必要不可欠なものであり、彼女の切り札でもあるが、同時に最大の難問でもある。この零次元化技術を用いれば、如何なる攻撃も届かず、如何なる攻撃も存在しない、完全な“虚無”を生み出す事が出来る。反面、それは自分からの攻撃も干渉も届かないという事であり、どんな努力も無為に等しい。筋肉の化身と会話している少年であるが、実はその会話すら人智を超えた意志力が必要であり、それを為し得るのは“天”と呼ばれるような超高位存在、世界の外ですら自存可能な者だけである。フルーがこの域に辿り着くのはまだ先の話であり、それがいつになるのかは誰にも分からない。第二章最終決戦時にこの技術を使わなかったのはランナによる傷が深く、肉体が零次元化に耐えられなかったという理由と零次元化したとしても相手からの干渉を防ぐだけで、自分からの干渉が行えなくなるという理由がある。少年が行ったのは己の情報を自らで別空間に指定し直すという自己への干渉であって、フルーへの攻撃ではなかった。突き飛ばす事は攻撃ですらなく、己の失態に呆然としたフルーに勝敗が決した事を伝えただけに過ぎない。故に敵対しながらも攻撃一つしなかった少年は紙一重とはいえ、勝利したのである。零次元化現象を応用した【封星質量器】から膨大な物理量(エネルギー)の抽出を行えたのは完全な零次元化までは行っていなかったからと思われる。これからの技術開発においてフルーが目指すのは非・領域、非・時空間、非・次元における干渉技術。魔王をその世界外で倒せる力という一点であろう事は疑いようもない。
『無限機関(インフィニテ・マグナ)』
七教会が保有する秘匿技術の一つ。人類の夢の一つが永遠に動力(エネルギー)を吐き出し続ける機構(システム)の構築である。その技術の開発者は永遠に人類史に名が遺せる、というのはまったく根も葉もない流言と言えるだろう。何故か。既に七教会が開発する以前から【無限機関】と呼ばれるものは仮想的な魔術理論や超常の力を利用した技術において確立されていたからである。ただ、それは一般的な智識ではなく、同時に人間社会に普及するような形でも存在し得なかった。【無限機関】の創生は魔術師にとっては一つの終着点であり、“無限を内包する何か”を生み出す行為は魔術師のみならず、神々や超越者達にとっても、比較的日常の事であった。例えば、無限に水が湧き出る壷。これは水神の魔力源を運用して物質を生み出した代物であり、事実上無限に水を湧き出させる事が出来た。しかし、それは無限に等しい年月でも枯渇しない水源であって、“無限の水力”を意味しない。無限に燃え続ける炎が在ったとしても、宇宙内部に存在する無限にも等しい物質を一瞬で燃やし尽くす事は出来ない。これと同様に無限に力を吐き出し続ける機関が出力出来る動力は有限。七教会の【超克】に内臓された“賢者の釜”と呼ばれる機関もこの類である。外部から無限にあらゆる動力を収集し、大陸に存在する全種類の魔力形質を変換・置換可能とし、これを持って半永久の動力機関と称したわけだ。収集される動力と成り得る因子が枯渇しない限り、その機構は無限に等しい期間、動力を吐き出し続けるが、それはやはり無限の力を意味しない。と言っても技術的に凄まじい積み重ねの上にある技術なのは間違いなく。このような半永久的に動力(エネルギー)を吐き出す機関は数系統しか存在しない。一つ目は特定の領域と自己が存在する領域を繋げる事で動力を得るタイプ。二つ目は周囲の動力に成り得る因子を集積時の入力より多く機関に取り込めるタイプ。三つ目は実際に放出し切れない膨大な動力(エネルギー)を何処からか持って来るタイプ。四つ目は無限に動力を出力し続ける反応を内部で引き起こすタイプ。これ以外では法則等で固定化された因子を現実に展開して動力を得るタイプが考えられる。五つ目は魔術で言うところの概念魔力の類である。これはつまり概念魔力形質そのものが実は無限機関を内包しているに等しい場合がある事を示唆する。
『外宇宙航行艦(スペティウム・アパラトゥス)』
七教会が有する真空中を渡る事を意図した万能航行艦。本来、大陸の大勢には宇宙に進出する目的は一切と言い切って構わない。一部の魔術師達は惑星外の物質や質量を求めて惑星間超長距離の転移術式を開発していたが、過酷な宇宙環境は個人で渡るには恐ろしく手間が掛かる。このような現実から、魔術師達の中でも真空を渡る者は極限られ、その中でも傍に見える天体まで往ける者は大陸史においても百人に満たない。このような状況であるにも関わらずフルーが真空を往く船を開発したのは元々が“出来るから”であった。技術開発の場においてしばしば行われる“造れるから造る”という開発者の自己満足。その一つが宇宙船の創造だったのである。しかし、この艦の開発後、状況は一辺する。魔導技術の発達と共に天文学の進展によって、宇宙には様々な天体が存在し、その中には幾つか大陸が存在するファルティオーナに似たものも発見されたのである。数十年前から技術蓄積と共に資本も蓄積してきた七教会であるが、大戦の準備には莫大な戦費を消耗。一時はフルーの資産を持ってしても、大陸全土での【近代化】進行への投資が間に合わなくなるという事態も経験していた。フルーが【外宇宙航行艦】による宇宙探査・開発を主導するようになったのは戦後の混乱期に再興された【聖杯委員会】が魔王を巡る折衝によって、人以外の存在を発展させるよう要求した事に始まる。人間の極めて進行の早い改革と文化発展速度に危惧を抱いた彼らの要求は至極当然の発想であり、それを満たさなければ早晩大陸規模での摩擦で人VS人以外の二度目の大戦が起こってもおかしくない状況であった。其処に来てフルーは光の速度を超えて他の天体まで赴く事が可能な【無辺空間制御】の開発に成功し、【外宇宙航行艦】【無限機関】と合せて他の天体への人以外の知性を移住させる計画を立案したのである。しかし、この宇宙探査・開発・移住の三つを兼ね備えた計画にはあらゆる困難が付きまとう事が予想された。その最大の難点が追い出された、放逐されたという感覚を移住者に覚えさせてしまう事である。七教会の技術無くして他の天体への移民は不可能であるが、その七教会に不満を持つ亜人や異種、人以外の知性が反感を覚えれば、これが根本的な種族間の摩擦に為りかねなかった。故にフルーは他の天体に移住するという行為が追い出すという見え方とならない方法を考えるしかなかったのである。このような動きがあった戦後、魔王への対抗手段として様々な機器を開発していたフルーだったが、その中でも彼女にとって“兵器”に類する創造は大きな転換点に立っていた。それは魔王との直接対決に敗北した時の情報の洗い出しから、魔王相手には惑星一個程度の質量や物量があっても打ち負けるという事実が判明した事に起因している。そのような大質量の生成は出来たとしても危険性を考慮した場合、現実的でははないし、宇宙探索・開発・移民までも行う必要が出てきた七教会の何処にもそんな余裕は無かったのである。フルーの現実的な脳髄が天体の捕獲と運用という結論に到ったのは必要に迫られての事だったと言えるだろう。【外宇宙航行艦】は今後の外惑星開発・兵器開発・移住、その他七教会が同時平行で進める複数の計画に欠かせない乗り物であり、その発展と新規開発は待ったなしとなっている。人以外の種族への供与、民間や国家間への普及も行わなければならなくなると想定される以上、目下の問題はコストの削減と大陸全規模での宇宙開発が可能な土壌を育む事であり、七教会の技術開発部門は今も様々な課題に直面している。
『擬似詠唱(ディス・キャスト)』
魔術師が魔術を使用する時、詠唱を行うのは大抵以下四つのどれかの理由に因る。
1.魔力形質及び魔術体系において音声、空気振動を含む波動の放出が不可欠である為。
2.魔術の運用上、威力増強や精密制御、音声による直接的な詠唱が不可欠である為。
3.詠唱によって魔術構築の際に使用する因子に干渉する為。
4.脳内の情報の再確認及び認識上の声を出す動作が魔術の始動因になっている為。
フルーはこれを自らが設計開発した衛星に代替させる事で擬似的に人間が魔術を使う際の状況を再現する事に成功している。これは大陸に古くからある魔術のストックや魔術具による魔術発動とは根本的に異なっており、記録されていたものの再生や溜め込まれていたものの放出ではない。人間が詠唱魔術を使う最低要件を全て満たす“詠唱魔術の歌い手”を人工的に作り上げたに等しい。これは未だ大陸でも秘匿されている【電子噐械学】のみで構成した人工知能の研究成果であり、実際に様々な分野で投入されるとすれば、その使われ方は“量産出来る詠唱魔術師”としてだろう。この【擬似詠唱】を行う衛星に足りないのは即座に自己判断出来る自立性と魔力形質によって発生する魔力源。この二つである。これを加えて量産化が可能となった時、殆どの詠唱魔術を使う魔術師は時代遅れと成り下がる。すぐにでもフルーならば、そのような機能を付けそうなものだが、魔術師の衰滅が進む大陸において【魔導技術】の発展をも妨げかねない事実は伏せられている。ただ、この【擬似詠唱】の技術は今後の進展如何によっては様々な機器に搭載される可能性があり、魔術の更なる普及と一般化に一役買うかもしれない。勿論、そのような事が起これば、大陸において魔術を秘匿し、神秘の技として利を上げ続けてきた魔術師達は従来の結社や家単位での魔術保存の意義を失いながら、衰亡へのカウントダウンを加速させると思われる。これは同時に稀少(レア)である事が魔術要素に大きく関わる魔術体系にも致命的な影響を及ぼすだろう。それらを回避する方法は特権階級としての地位を棄て、一技術者として【魔導技術】へ貢献するか。あるいは【魔導技術】を超える総合魔術体系を開発して秘匿するかだが、未だそのような人材は大陸に存在しない。
『六分偽鋼(ジ・セクスタンス)』
魔王の要素を分裂発現させる為にフルー・バレッサが開発した【変鋼筒】の亜種。魔王の復元能力の解明検証過程で魔王の本体とも言える場への書き換え情報が発生すると知ったフルーが情報伝達の妨害を目的に開発した特殊兵器である。欲を言えば、フルーは破壊によって発生する零起点情報の遮断で復元過程を阻害する事を目論んでいた。だが、それが現実的な技術力では未だ不可能であると判断した後、情報妨害という一点に絞った開発を行ったのである。単純に言うと、【六分偽鋼】は場から少年が復元される過程にもう一工程を挟む魔術具なのであり、少年の復元中の要素をそれぞれ別の領域に指定し直して、活動不全を引き起こす一種の弱体化機構と言える。少年が現われる前、過去の魔王達を倒す際には魔王の魔力や肉体の一部分の封印、五体を分割して一個体ずつ倒す等の手段が取られた史実がある。これらの情報から着想を得たフルーの【六分偽鋼】開発は魔王打倒の最適解に近かった。フルーが第二章終盤において行おうとしていた封印が最適な形で行われていた場合、肉体、記憶、意思、魔力、場、因果律、この六つの要素が全て分割された状態で少年は復元され、最終的には七教会が捕獲した幾つかの惑星に固定化される手はずとなっていた。しかし、実際には三つの要素が分裂した挙句、記憶以外の確保には失敗しており、肉体は【聖王委員会】側に渡り、意思は何処かへと失われている。それでも魔王の一部分を封印状態で手が出せる場所に確保しているのは変わらず。故に記憶が存在する月と惑星の中間地点には聖女が数人常駐する事態となっている。第三章及び【回統世界ファルティオーナ】において今後の物語は語られるだろう。