---佐藤美和子---
どうして、こうなったのだろうか?記憶が曖昧である。工藤君に病院みたいな場所に連れて行かれて、目覚めたら、高木君と婚姻していた。式は6月で式場は、予約済みだという。
「私は認め無いです!どうして、私の許諾無しに、話を進めているのですか?」
「まぁまぁ、佐藤君、落ち着いて。私達夫婦が仲人では不満かね?」
目暮警部夫妻が仲人だと言う。ここまでの事を、高木君一人で、セッティング出来るとは思えない。工藤君が絡んでいるのだろう。
高木君が借りた新居に、高木君、私、目暮警部夫妻が集まり、式の段取りを決めていた。
「警部!私は高木君と、結婚するつもりは無いですよ!」
「そうは言うが、もう既に籍は入っているし、こうして同棲しているでは無いか」
それは公文書偽造と拉致、監禁では無いのか?
「工藤君から聞いたぞ。洗脳された影響が、まだ残っているそうじゃないか」
洗脳?された覚えは無い。私はただ…彼の元にいたい…なんで、隔離するんだ?
「私は朝霧沙樹先生のボディガードになりたいんです」
「そんな人物はいないそうだ。それこそ、洗脳された影響だぞ」
いない?いないはずは…工藤君が何かをしているようだ。蘭ちゃんにも、しているのだろう。早く、妃先生へ連絡を取らないと…
目暮警部夫妻が帰った後、高木君の目を盗み、妃先生の事務所へ急いだ。
---毛利蘭---
祐介君を車椅子に載せ、お母さんの事務所へと向かった。美和子さんが、お母さんの元へ駆け込んだそうだ。事務所へ行くと、あの気丈な美和子さんが震えていた。
「蘭…あぁ、連れて来てくれたのね。美和子さん、来てくれたわよ」
美和子さんが、祐介君に気づき、立ち上がり、ヨロヨロと近づいて来た。
「どうしたんですか?この怪我は…」
頭や腕などを包帯で巻かれている祐介君。1つの身体で、2つの人格がケンカした為の怪我だらけである。
「美和子…大丈夫か?」
「私のことより、祐介君…大丈夫じゃないよね」
「大丈夫だよ。アイツとは和解寸前だしね」
アイツとは、危険な方の人格である。祐介君の正義感が、アイツの凶暴性を押し倒したようだった。
「ごめんね。傍にいなくて…本当にごめんなさい」
平謝りの美和子さん。
「蘭、ちょっといい?」
お母さんと別室に移った。
「美和子さん…蘭と同じようなケースよ。あの探偵小僧が、裏で暗躍したみたい」
新一が、高木刑事の依頼を受けて、美和子さんの奪還作戦を計画して、高木刑事とその同僚が、その作戦を実行したそうだ。公安調査室の仕事中に拉致されたらしい。
「警察が拉致?」
「彼らに言わせると、洗脳された仲間の救出だそうよ。だから、合法だって言うのよ。で、美和子さんの同意無しで、高木刑事と入籍は済ませて、同棲していたそうよ」
私と同じだ…で、その上で祐介君を強請ったのね…酷すぎる。いくら何でも…
「美和子さんは、どうなるの?」
「心配しないでいいわよ。あなたと同じケースだから、コチラに勝ち目はあるから。離婚届けは提出したわ。これで半年の猶予は稼げたはずよ」
それならいいけど…二人で、祐介君の元へ戻る。
「蘭…美和子も連れて帰って大丈夫かな?」
「うん♪大丈夫だよ。ねぇ、お母さん」
「う~ん…でも、探偵小僧が来たみたい。どうする?」
ドアの前に設置してあるカメラのモニタ画面へ視線を向けて、お母さんが危機を知らせてきた。狙ったようなタイミングで…マズい…美和子さんが逃げられたのは、新一の罠だったのか?
「いよいよ、名探偵と頭脳対決だな♪」
アイツにスイッチしている祐介君は、楽しそうである。その表情は危険だ…イヤな予感しかしない。
がちゃ!
ノック無しで、新一、目暮警部、高木刑事などが捜査一課のメンバーが入って来た。
「アポもノックも無しなんですか?」
「緊急時ですからな」
お母さんと目暮警部が対峙した。そして、新一、高木刑事は、アイツと対峙している。
「よぉ!探偵小僧!また、強請に来たのか?」
「俺は強請っていないよ。アレは手切れ金だろ?あぁ、ちょうどいい、蘭も連れて帰るぞ♪」
「蘭も美和子も渡さない。言ったはずだ。こちらから手は出さない。だけど、強請取った上、更に手を出すって、意味が分からない。僕から総て奪おうとするハイエナ風情な輩達には、彼女達はもったいないしね」
完全に対決姿勢でアイツ。
「美和子さん、大丈夫ですか?」
「近寄るな!私は決めたの。彼の家へ帰る」
「何を言っているんですか?こんなやつは…え?!この怪我は…」
車椅子に載り、頭に包帯を巻いている正宗君は、重傷者に見える。
「そこの探偵小僧にやられた。って言っても捜査一課は、ソイツの仲間だもんな。逮捕はしてくれないだろ?」
「おいおい、俺はやっていないぞ。嘘はいけないなぁ。どこかの組織にやられたんだろう?」
他人事のように言う新一。
「どっちの言葉を信じるかだな。あぁ、僕は、エマージェンシーボタンを持たされているんだよ。危ない局面が多いからね」
エマージェンシーボタン?あれって、達也さんへの緊急コールだよね?
「もうすぐ、助けが来るはずだよ。心電図、脳波計のデータも、ボタンを押すと、送られる仕組みなんだよ。今のデータを見て、僕の…仲間が…どう判断してくれるか…」
マズい…アイツ、祐介君に何をしたんだ。祐介君に走り寄る。
「祐介君、聞こえる…ねぇ、祐介君…」
顔色が悪い…返事も無い。危険な状況である。
「おい!そこを退け!」
ドアの方で、揉めているようだ。
「早く退けって、言っているんだよ!」
ドン!
誰かが投げられた。
「祐介君、大丈夫か?」
カバンを持った達也さんが入って来た。カバンを開けて、診察を始めた。
「君達は何者かね?!」
ドアから入って来た強面集団に、目暮警部が職質をしている。
「俺達?俺達は、警察庁の特殊急襲部隊の者だ。なるほどね、警視庁の捜一に囲まれていたのか。それはエマージェンシーな状況だな」
警察庁…警視庁の上位組織である。
「蘭さん、もう大丈夫です。彼らは真由美の父の教え子達ですよ」
達也さんが説明をしてくれた。そう言えば、真由美さんのお父さんって、警察学校の特別講師で、受講者は警察庁のキャリアの人とか、機動隊の人が多いって言っていたような。
「大丈夫ですか?」
深雪さんが走り寄って来た。深雪さんの問いに、達也さんの顔は険しい。
「マズいなぁ。祐介君がアイツを止める為に…アレルギー物質を摂ったようだ。いや、祐介君がそうするように仕向けたのか?」
ショック状態…そうか、もう身体を張って止められないから、経口摂取したのか。足が動かない祐介君は、もう窓から飛び出ることは出来ない。いや、ここから飛び出たら死んじゃうけど…
「深雪、救急車を手配してくれ」
「ドクターヘリを手配してあります」
すごい…深雪さん…そう言えば、入り口の方が静かになったような。視線を向けると、捜一の皆さんと新一が連行されて行く。
「気付け剤は打った。点滴を始めた。祐介君、帰ろう…小淵沢にね♪」
祐介君の耳元で、優しく語り掛ける達也さん。深雪さんが車椅子を押している。私と美和子さんでガードをしつつ、達也さんは容体をチェックしながら、ヘリへと向かった。
---相沢祐介---
「で、小霧の症状は?」
達也さんに訊いた。小霧が倒れて、この病院に入院したそうだから。
「栄養不足による貧血だよ」
俺が傍にいてやれないから…悩みを相談出来る相手が、いなかったのだろう。
「祐介君、君の方が重病なんだから。そんなに思い悩むなよ」
重病?
「俺がですか?何の病気ですか?」
「何の?まさか…」
達也さんの表情が険しくなっていく。
「妃先生の事務所での記憶って有るか?」
「何時のですか?」
最近行った覚えはないけど…達也さんと深雪が顔を見合わせた。俺は、記憶障害なのか…
「深雪!止めろ!」
達也さんの叫ぶ声…何が起きたんだ?
---司波達也---
危なかった。窓から飛び降りようとした祐介君。深雪が止めて、大事には至らなかったが…
「お兄様、どういうことですか?」
「治ったと思っていた祐介君…アイツが演じていた可能性がある」
アイツとは、祐介君の精神にいる、知能犯的な別な人格である。
「演じていた…では…」
「妃先生の処へ行ったのは、初めからアイツだったんだ。そして、アレルギーショックを引き起こしてから、祐介君にスイッチしたのかもしれない」
危険である。小霧ちゃんにすら、キバを剥くアイツ。
「そんな…」
深雪の顔から血の気が引いていく。それ程の恐怖を、俺達に刻んできたアイツ。
---司波深雪---
目の前で、お兄様がいたぶられている。
「どうしたよ。僕を殺せば、お前の大好きな兄は助かるよ」
悪魔の囁きをするアイツ。でも、目の前にいるのは祐介君である。彼は殺せない…
「そうか…じゃ、お前の兄を、いたぶり殺してもいいな?」
アイツは、注射器を手にした。何かの液体が入っている。お兄様の腕にソレを注入しようとしている。私は…祐介君を殴り殺した…
あっ!夢かぁ…荒い息…私の夢に出てくるようになったアイツ。いつか、本当に祐介君を殺してしまうかもしれない。アイツの目付き…恐い…見たく無い。
って、ここはどこだ?寝室で寝ていたはずが…これも夢なのか?全裸で何かのカプセルのような装置に入れられていた。
『深雪の淫らな姿が見たい♪』
アイツの声が脳裏に響く。次の瞬間、有り得ない刺激の波に飲み込まれた。身体の中で何かが蠢いている。それも何匹も…
「助けて…」
『淫らな姿を晒せ』
身体中に何かが何匹も蠢いている。何が起きているの…
『こんな状況なのに、乳首が立ち、クリも立っているのか…本当にお前は、淫らな女だな』
目の前で何かが光った。まさか、ストロボ…写真に撮ったの?
『達也がみたら嘆くかな?ふふふ♪』
「やめて…お兄様には見せないで…」
あぁ…気持ちが良い…こんな刺激は今まで感じた事が無い。何をされているんだ?
『ドエムな深雪よ、もっと恥ずかしい姿を晒せ』
カプセルから解放された。目の前に正宗君がいる。でもきっとアイツだ…ここで断ち切らないと…本当にヤバい…
◇
「深雪…死ぬな!」
祐介君の声…ここはどこ?
「そうだ…俺を殺せ!」
祐介君…
ブクブク…
ガラッ!
「深雪!何をしているんだ?!」
パシッ!
え?!お兄様…頬を叩かれた。どうして?
お兄様の手で、私の手が引き上げられていく。私の両手は、祐介君の首を絞め、彼の頭部を湯船に沈めていた。あ…お願いです。夢なら醒めて下さい…
でも…これは夢でなかった…私は祐介君を…
「まさか、深雪まで病んでいたとは…」
悲痛な声のお兄様。その日から、私も個室に入院になった。
お兄様と一対一で行うカウンセリング…なんか嬉しい。こんなに私に対して、親身なお兄様は、久しぶりである。お兄様に抱き付きたい衝動…
「深雪…アイツの暗示に負けるな!」
暗示?
お兄様は、私の前に、原稿の束を置いた。これは…目を見張る私。タイトルは『とある義兄妹の物語』という作品だった。作者は大先生である。
血の繋がらない兄に想いを寄せる妹。だけど、後一歩が踏み出せない。そんな彼女を助けようと、天使が彼女に協力をする。毎晩、彼女の耳元で、彼女の心を揺さぶるような話を、伝えていく。彼女は一種の暗示状態に陥り、彼女の前にあるジャマな元凶を消して、義理の兄に告白する。そんなシーンで物語りは終わっていた。
「これは…」
「アイツが、お前で実験した結果を踏まえて、書き綴ったのだろう。祐介君は、脳裏で思い出した記憶を書いたに過ぎない。元凶はアイツだ。祐介君を殺しても、何も解決はしない」
でも、宿主の祐介君が死ねば、アイツも消えるはずだ。
「いいか、深雪…祐介君は自殺することを防止されている。彼の深層心理の深い部分で、自殺願望が残っているのかもしれない。だから、アイツはそれを叶える為に、誰かに殺される道を選んだんだよ」
あっ…そういう事なのか…私の祐介君に対する殺意は、アイツに植え付けられたのか。でも、祐介君が消えれば…
「いいか、深雪。もし、深雪が祐介君を殺しても、俺とは一緒にはなれない。お前は塀の向こう側に収監されるんだ」
あ…そこまで考えていなかった。殺意一色だったから。お兄様とカウンセリングが出来るのは、踏みとどまっているからなのか。
「いいか?祐介君から自殺願望を、消し去ることが大切なんだぞ。アイツは祐介君の願望を叶える為なら、手段を選ばないだけだ」
手段を選ばない…危険過ぎる。
---相沢祐介---
退院をした後、家出をした。みんなと一緒にいると、仲間を傷つけてしまうからだ。どこか、知らない街で生きよう。死ぬと哀しむ者がいるから…
当面、生活出来る分だけのお金を、新しく作った口座に入れて、着替えとノートと鉛筆をカバンに詰めて、みんなの目をかいくぐって、家出をした。
駅で電車を待つ。
「私も一緒に行きますよ」
美和子が話し掛けてきた。僕の様子がおかしいから、僕に気づかれないように、見張っていたようだ。
「ダメって言っても?」
「勿論付いて行きます。私はあなた専属のエスピーですよ」
追い返す気力は残っていない。なので、美和子と二人で逃避行になった。知らない街に着いて、佐藤美和子、祐介姉弟として、宿屋にチェックインした。アパートを借りるには、身分証の提示が必要だから。
宿屋の人には、俺が売れ無い画家で、スケッチ旅行中だと美和子が説明した。宿屋の様子を僕がスケッチして、プレゼントすると、宿屋の人は信じてくれたようだ。
昼間…窓から見える景色をスケッチする。ふと、学校帰りの女学生が目に入った。その娘をスケッチしていく。
ある日、美和子が、その娘を部屋に連れ込んだ。
「え!これって、私ですよね…」
描き溜めた彼女のスケッチに魅入っている。
「どうして…連れて来たんだ?」
美和子に訊いた。
「彼女が描きたいんでしょ?」
描き溜めたスケッチの山を指差した美和子。
「いや、何となくだ。目に入ったから…」
「どうかな?モデルになってくれないかな。弟が、アナタをモデルにしたいと思うのよ」
僕の言い訳をスルーして、彼女にモデル依頼する美和子。
「私なんかで良いのですか?」
「うん♪」
美和子が楽しそうだ。僕のことなのに…そして、彼女をモデルにして描くことになった。
最初は制服姿、休みの日には私服、そして、薄着…セミヌードと美和子のリクエストが過激になっていく。彼女は嫌がらずに、モデルを務めてくれた。
そして、ついに…
「いいですよ。祐介先生のモデルなら♪」
って、全裸でポーズを取る彼女。それを、僕はスケッチしていく。
そして、漸く納得する1枚が完成した。美和子が、それをコピーして、彼女へプレゼントした。
「ゴメンね。バイト料がスケッチ画、それもコピーで…」
「いえ、嬉しいです。こんな私を描いてくれるなんて。弟さんが売れることを祈っています」
「ありがとうございます」
---七瀬美雪---
部屋にお気に入りの1枚を額に入れて飾った。見えそうで見えないポーズである。これなら、人に見られても大丈夫なレベルである。
「美雪…ヌードモデルもしたのか?」
幼なじみで、4軒隣に住む、一ちゃんが訊いて来た。
「うん♪そうだよ」
「その絵描きは男性なんだろ?」
「うん♪そうだよ」
「見られても、大丈夫な間柄なのか?」
「一ちゃんみたいなエロ目線じゃないからねぇ」
畳に座り、遠くを見つめるポーズ。立て膝を斜めに崩して秘部を隠し、膝に肘を載せ、乳首を隠している。問題無いレベルである。
「う~ん…妖しいなぁ。その作家の名前は?」
「売れていないって言われて、名前を訊きにくくてねぇ」
作家としての名前を訊いていない。連絡先を訊けば良かったかな?
「うん?!この落款って…」
ネットで何かを調べ始めた一ちゃん。どうしたんだ?
「やっぱり…おい…美雪…これ、売れるぞ…」
「売らないわよ!私のお気に入りを売らないでよね!」
生唾を飲み込む一ちゃん。どうしたんだ?様子がおかしい。
「どうしたの?」
「売れ無い作家って、嘘だよ。超有名な作家だ」
え?嘘っ!
「朝霧沙樹だ…」
「えっ!超有名な…」
彼が朝霧沙樹だったのか…そう言えば、彼の絵は総て、鉛筆画であった。
「コピーでも、高額で売れる…原画が公開していないのであれば…」
一ちゃんが、私のお気に入りに手を掛けた。
「だから、売らないって言っているでしょ?!」
「鑑定してもらおうよ♪」
「売らないって。だから、鑑定なんかしないよ~!」
◇
翌日、学校の帰りに、あの宿屋に向かうと、引き払った後だった。どうして?急に…
原因は家に帰えると判明した。私のお気に入りが消えていた。一ちゃんが持ち出したようだ。どこからか、帰ってきた一ちゃんを、捕まえて追求すると、
「即、買い取りしてくれたよ。ほら♪」
って、10万円を渡された。
「だから、売らないって言ったでしょ?!」
私の絵を売ったことで、マスコミなどが、この街に押し寄せて来たらしい。それをいち早く知った取材NGの彼は、この街を去ったようだった。
「返して貰って来てよ!」
お金を一ちゃんに渡しのだが、あの絵は転売による転売で、既に100万を超えたそうだ。
「どうしてくれるのよ!」
「泣くなよ…美雪…ごめん…」
泣くだろう。私のヌードが取り上げられているんだから!!
翌日からモデル探しが始まったらしい。あの絵を持ち込んだ一ちゃんの家の前には、マスコミ関係者の群れがたくさんいる。これじゃ、家から出られないよ~!