柳田賢一の日記
10月15日
私のミステリー小説の原稿を取りに、担当の編集者が自宅のアパートにやって来た。原稿を受け取って、彼は非常に安心した顔を見せていた。私は締切に遅れたことなど一度もないのだが、作家によっては「締め切りを破っても認められるようになって、初めて大御所作家なのだ」と豪語する人もいるらしいから、編集者も大変である。
原稿をきちんと受け取って心の余裕ができたからだろうか、彼は帰り際に、
「先生はまだ結婚なさらないのですか」 と聞いてきた。
私ももう三十を少し過ぎた歳だ。しかし、今時三十を超えても結婚しない男なんてザラにいるだろうに。彼の言い方はまるで私が変人だと言わんばかりのものだった。
なんだか少し癪だったので、
「私はもう少し女遊びがしたいからね」 と見栄をはってみた。
ついでに通ぶってみて、
「ところで、君はどこかいい店を知っているの?」 と聞いてみると、自宅から歩いて十分程度の距離にあるキャバレーを紹介されたので、一人で試しにその店に行ってみることにした。
一緒に暮らす妹は大学に出かけていたので、玄関に鍵を閉めてお目当ての店までブラブラと歩いた。
店には可愛らしい女の子が何人かいて、非常に楽しめた。少し酔って女性に欲望を感じて、柄にもなくつい店の女の子にスキンシップをしてしまったが、まあたまにはこういうのも悪くない。
一時間ほど店で女の子と話をして、妹と一緒に暮らしているアパートに戻ってきた。
妹の
洋服を着替えていると、玄関にあるポストから一通の封筒が落ちてきた。封を切ると、中には英文で書かかれたパーティーの招待状が入っている。宛名は柳田様とだけなっている。妙なのは、招待状にパーティーの主催者の名が書かれていないのだ。
そこで、ふとあることを思い出した。
そういえば、先日同じミステリ作家で友人のSに、今度面白いパーティーがあるから貴方も招待しますよ、と言われていたのだ。
その時はSの言い方がなんとなく芝居がかった調子だったから、何かの冗談だと思っていたのだが、なるほどあれは嘘ではなかったようだ。
パーティーが開かれる日時を見ると、今日の午後十時となっている。もう後五分しかないではないか! せっかく呼んでくれたのだから、多少遅れてでも行くべきだろう。あわてて学生の頃に、語学留学先で作ったパーティー用の礼服に着換え、タクシーに乗り込んだ。
招待券と一緒に入っていたパーティー会場の地図をたよりに何とか会場についた。時計を見るともう午後十一時、遅刻である。
そこは外人が持っているだろう大きな屋敷で、門には凝った筆記体で書かれた表札がかけてある。
屋敷の中に入ると、使用人らしき人が私を控室に案内した。
また、その使用人の格好が不気味なのである。
体を包む黒のタキシードはいいとして、頭に真っ白なフードをかぶっているのである。そのフードは目と鼻の部分だけしか開いていないから、例え相手が知人だとしてもこれでは気づけまい。
私はもうこの時点で帰りたくなってきていた。友人のSの作品は横溝正史氏みたいな、おどろおどろしい描写が多い。彼自身もきっとそういうのが趣味なんだろう。だから、こんなパーティーを面白いと言いきれるのだ。
とはいえ、ここでさっさと帰ってしまうとSが後でとやかく言ってくるだろう。それを面倒に思った私は、少しの時間だけパーティーに参加して、頃合いを見て抜け出そうと思った。
控室にたどり着くと、使用人に先が尖った件のフードと黒のマントを渡された。
「本パーティーに参加される方には、必ず決められたルールを守っていただきます」
流暢な英語であった。使用人は何度も私に同じことを念押ししたあと、英語で書かれたルールの紙を置いて出ていった。
そのルールを見ると、どうやらこれは秘密の仮面パーティーらしい。全裸の上にマントをはおり、顔にフードを着けろと書かれている。口を聞くことも禁止されているようだ
このとき、私の心臓はガンガン鳴っていた。使用人の異様な格好といい、この裸にマントを着るというルールといい、このパーティーは普通じゃない。おそらく、他の参加者も同じくルールに縛られるのだろう。
ふと、ある考えが私の頭をよぎった。パーティー参加者は社会的地位が高い人たちではなかろうか。いや、それどころか顔を見れば誰もが知るような著名人達なのでは……。しかも、使用人が英語を話していたことからも、外国の有名人もいるのではないか。そう考えると、このフードにも説明がつく。わざわざマントをはおるのは、服装によってその人の身分が分かるのを防ぐためではないか。
私はなんとも言えぬ興奮に襲われるのが分かった。それは少年の頃に冒険に心躍らされたときの気持ちに通ずるものがあった。
私はネクタイをはずし、ワイシャツを脱ぎ捨て、靴下を脱いで一糸纏わぬ姿になった。我ながら鍛えられていると自負しているその体は、不安と期待でわなわなと震えていた。
マントをはおってフードをかぶると使用人が現れて、広間に私を案内した。
広間にはロウソクが載っている丸テーブルがいくつもあった。使用人はそのうちの一つを指差し、そこに座るように英語で指示した。
広間では、すでにショーが始まっていた。それは、日本人の男女二人が演ずる、春画風のショーだった。二人の男女は顔立ちがとても整っていて、その二人が裸体で交わっている姿はひどく官能的だった。
丸テーブルにグラスが運ばれ、上等なシャンパンが注がれる。
心地よい酔いが体全身に回ってくる。
春画をいくつか見ると、案外女性の乳房があっさり書かれていることに驚かされるものである。それに比べて男女の性器が結合する部分は驚くほどなまなましく、詳細に書かれているのものだ。そして、男性器を誇張して大きく描くのもお約束だ。
私はぼんやりと酔った頭でもう一度ショーの方を向いた。その日本人男性の性器を見ると、なるほどかなり立派なモノをお持ちである。妙なところに拘るショーだな、と私はなんだかおかしくなった。
そのとき、ふと私はあることに気づいた。私のテーブルの向かい側の椅子に、いつのまにか同じく黒いマントをかぶった女性会員が座っているのである。きっとショーに夢中になって、後からこの女性が現れたことに気づかなかったのだろう。
「広場のテーブルで向かい合った男女は、自発的に本パーティーに参加しており、個人の名誉、価値、健康を損なうことはありません。また、互いの合意があれば男女の契りを結んでも構いません。ただし、相手の異性のフードを取ろうとしたり、氏名を無理やり尋ねることがあれば、本パーティーの参加資格は未来永劫剥奪され、また然るべき制裁を課すことになりますので、その点はご了承ください」
さっき見せられたルールにはそう書かれていた。
私は十代の初な気持を取り戻したような心持ちだった。ショーの方を見ていても、全くそれが頭に入ってこない。私は思い切って――なぜ奥手な私がそんな大胆なことができたのか、今となっては不思議に思うのだが――女性に手を伸ばした。私の手が女性の手に触れると、かすかに躊躇う動作を見せたあと、そっと私の手を握り返してくれた。
きっとこの女性はどこか上流社会の可憐なご令嬢に違いない! 私の心は少年のようにときめいていた。
ショーが終わりに近づくと、その女性が立ち上がった。私は一瞬躊躇ったあと、その女性についていった。
その女性はちらりとこちらの方を見ると、私の手をとった。私はその手をしっかりと握り返した。
女性にひかれて寝所にいくまで、私はまるで映画の主人公になった気持ちだった。
ああ、私は古代ローマの闘技場(コロッセオ)で勇敢に戦う奴隷の闘士。昼は勇敢に戦い、夜は王の愛娘と愛を深め合う。これは身分違いの恋だ。誰にも認められないと分かっているからこそ、二人は激しく燃え上がる。
もう我慢の限界だった。
寝所に着くと、私は直ぐにマントを脱いで、女をベットに押し倒して折れるほど強く抱きしめた。女も自らマントを脱いだ。美しい裸体だった。しかし、フードだけは外さなかった。そこから覗く二つの目は情欲で燃えていた。
私は荒々しい獣のような欲望をなんとか抑えて、優しく女の髪を撫でた。それはサラサラで、いつまでも触っていたくなるような魅力があった。
匂いをかぐと、シャンプーのにおいがする。ああ、でも肌のあたりは生々しい女の匂いだ。汗と体臭が混じり合ったかおり。私は自分の頭にかっと血が上るのがわかった。
私は女を強く抱きしめた。
互いの肌が触れ合って、体温を感じるのが心地よい。
私達は唇を重ねた。激しいキスだった。私は彼女の唾液を吸ったあと、自分の舌をねじ込んで、自分の唾液も混ぜたのを送り込んだ。女はそれをごくりと喉を鳴らして飲んだ。その喉元の動きがまた上品で色っぽい。
興奮した私はもう一度、女の口に舌をねじ込んで、女の舌を弄んだ。
ゾクゾクする快感が背筋を走って、私はもう我慢汁を垂れ流していた。
このままではすぐにイッてしまう。私は一旦キスを中断した。
私は女の体をじっと観察しながら愛撫した。無駄な肉がないのに、女らしい柔らかさがある。
女の胸の方に手をやった。お椀型の乳房には張りがあり、ピンク色の乳首がツンと立って主張している。
私は優しく乳房を撫でた。それだけで女はビクリと体を歓喜で震わせた。
慎ましやかな乳首をツンと弾いたり、舌で舐め回したりすると、女は小さく
「ああ――」 と嬉しそうに喘ぐ。
もっとその声が聞きたい。女の感じている声を聞くだけで、頭の中がドロドロにとろけてしまうような、甘い声。聞けば聞くほど、もう何も考えられなくなる。
私は胸を揉み続けていた。指でコロコロ転がし、全体を揉みしだく。気づけば私の手と女の胸は、お互いの汗でしっとりと濡れていた。
女は快楽の波に襲われて、体が赤くなってきていた。
もう頃合いだと思った私は、女の最も秘められた場所を見た。
陰毛は絹糸のように柔らかそうで、顔を近づけると私の鼻や口元を優しげにくすぐった。
女のそこから、女性器のにおいがした。
チーズの匂いと女の生々しい体臭が混ざりあったものが、むっとした熱気とともに私の鼻に忍び込んでくる。
強めの匂いだが、嫌じゃない。むしろ、男を虜にして駄目にしてしまうような性臭だ。
女の割れ目は、形よく覆い茂った陰毛を透かして見ることができた。
女の赤く充血した花びらは既にめくれ開いて、淫らな蜜が垂れていた。
ああ、もう我慢ができない。私のジュニアは、もう痛いほどに勃起していた。
女も私のそれをちらっと見て、その男好きのする見事な尻をくねらせ、続きを催促した。
私は両手をベットについて、大きく開かれた女の両脚の上に体を覆い被せて、中に腰を入れた。
荒巻の太い肉根を少しずつ沈ませていった。
中は最初、私を拒むかのように狭かった。ぎゅうぎゅうと私のモノを健気に強く締め付ける。圧迫される快感を感じながら、段々とピストン運動を早くしていく。女ははじめ、苦しげなうめき声を上げていたが、次第に、
「ああ――いいっ!」 とあられもない叫びをあげはじめた。
そうすると、彼女の中の動きも変わってきた。
興奮してくると粘膜はぷっくりと充血して外側にせりだしてくる。
今までただ締め付けるだけだった女の淫肉は、凶暴な暴れん坊を歓迎するかのようにぴったりと包み込むような動きをし始めたのだ!
中の無数のヒダがまた、射精を促すように大きく蠢いていた。
「ぐっ……あああっ!」 私はあまりの快感にうめき声をあげた。急かされるようにして、狂ったように腰を打ち付ける。火がついたように体が暑い。快感の度合いが大きすぎて、神経が焼ききれそうだった。
限界はすぐにおとずれた。肛門の方から、甘く切ない疼きがこみ上げてきた。
「くっ……出すぞ、思いっきり中に――うああああああぁぁ!」
太い肉根が一気に膨れ上がったあと、次の瞬間には激しい収縮を見せてドロドロとした白い刻印を放った。外から見てもわかるような、大きな迸りだっただろう。
女も一緒にイッたようだった。荒い息をしてビクンビクンと仰け反っている。
私はその女を覆うようにしてしっかりと抱きしめた。
――このとき、なぜ私はあんな行動を取ったのか、自分でも分からない。とにかく、気づいたときには、私は相手の女性の左肩に激しく歯型をつけたのだ。
女が大きく悲鳴をあげたことからも、さぞかし傷は深かったのだろう。ああ、彼女のきれいな体に痕が残ってしまうかも……、と思うとなぜか私には暗い欲望がメラメラと燃え上がったのだ。
しかし、私にはそういう性癖はないのだ。このときは酒に酔って、いつもとは違う非日常で、普段やらない行動をしただけなのだ。ああ、それなのに……。それなのに、この私の浅はかな行動のために、これから悪夢に襲われることになるなんて……。このときは、まだそんなことを露程も思っていなかった。