10月21日
肩にある歯の跡のことを、妹にきちんと尋ねなければならない。もしかしたら、あのパーティーとは全然関係ないかもしれないじゃないか。ただ、別の日に彼氏につけられただけかも……。
しかし、私は妹に彼氏ができたという話をこれまで一度も聞いたことがない。
――愛美の艶のあるショートカットの前髪は切り揃えていて、両サイドの部分は垂れている。
二重の瞳はくりくりとしていて愛らしく、唇はぽってりと厚い。
彼女は肉親の私から見ても、その顔立ちは非常に可憐なものだと思うのだが、まだ同性の友人といる方が楽しいのだそうだ。
だからこそ、妹は男女の色ごとにはまだまだ疎いと思っていたのに……。
ああ、くよくよ悩んでも仕方がない。直接妹に聞くのが一番だ。
分かっている、そんなことは分かりきっているが、私は恐ろしいのだ……。もし、妹がそのしるしをパーティーでつけたと答えたときのことを考えると……。
10月22日
なんとかして、私のこの恐ろしい疑いから抜け出したい。
私は自分を慰める言葉を探していた。――そうだ、あのパーティーには何十人もの参加者がいたのだ。その中には、私のように相手の女性の体を噛んだ輩だっているだろう。あるいは、やっぱり妹には私の知らない彼氏がいて(彼氏ができても恥ずかしがって私に知らせなかっただけだ、きっと)、その彼氏につけられただけかもしれない。もしかしたら妹を誘った先輩とやらが、彼氏なのかもしれないじゃないか。
そうだ、やはり私の相手の女性が妹だったなんてありえない。だって、そんなこと常識的に考えて起こり得ないはずだ。右肩に跡があったのは、ただの偶然だったのだ。
10月23日
妹の肩のしるしは私を責めるかのようにずっと残っている。今日彼女が応接間で着替えたときは(パーティーの件があるまでは着替えも私に見えないようにしていたはずなのに、なぜこういうときにだけ私にも見えるようにするのだ!) 赤いしるしは暗紫色に変色していた。
あのしるしに、私の歯を当ててみたら――ふと、そんな考えが頭をよぎった。もし、もし仮に歯型が合ってしまったら……、ああそう考えただけで恐ろしい。
10月28日
この頃、毎晩夢を見る。私の目の前に裸の妹が現れて、私と舌を絡めあってキスをする夢を。
妹が私から離れると、互いの唾液が混ざりあったものが糸を引いて、また貪るように激しく口づけをして――ああ、私はきっと頭がおかしくなってしまったのだ。そうでなければ、実の妹とそんな行為をする夢を見るはずがない。
今日、初めて小説の原稿の締め切りに遅れた。編集者からも、
「先生、大丈夫ですか。疲れた顔をされていますよ、それにどこかぼんやりとしていて、心ここにあらずといいますか。少し休まれたらいかがです? うちの編集長に話を通しておきますから」 と心配された。
ああ、私はどうすればいいのか。
11月1日
今日、ついに妹と行為を行う夢を見た。
妹は裸で私の上にまたがって、自分で快楽を貪るのだ。恍惚とした妹の表情は美しくて淫靡で、見るものすべてを虜にするような魅力を持っている。妹が腰を打ち付けるたびに、鋭い快感の波が体中に押し寄せるのだ。
パンパンパン――腰を打ち付けるときになるあのいやらしい音が、今も耳の奥で木霊(こだま)のように鳴り響いている。
――悪夢だ。こんな状況は異常だ。
妹は血の繋がった肉親だ。妹は私のことを穢れのない澄んだ瞳で見ているのに、私はどす黒い欲望に従うがまま、彼女を舐め回すように見てしまっている。性的な対象として、一人前の女として認めてしまっている。
ダメだ、そんなことは絶対に許されない。父や母を早くに無くした私には、肉親と呼べるのは彼女しかいない。私のことを慕ってくれている妹を失望させるようなことはできない。私は彼女から軽蔑した目で見られるのだけは耐えられないのだ。
彼女の尊敬のこもった瞳が軽蔑したそれにかわってしまったら――考えるだけでも我慢できない。
この苦しみから一刻も早く逃げ出したい。でもいったいどうやって?
私は今や、妹の素足を見るだけで興奮で頭がクラクラしてくるのだ。それなのに、何も知らない妹は平気で着換えなどを私の前でするのだ。
11月2日
――それは、魔が差したとしか言いようがない。
晩飯を食べたあと、妹は風呂に入っていた。シャワーの音が応接間に聞こえてきて、ふと邪な考えが浮かんだ。
許されることではないと分かっていながら、足は操られるかのようにフラフラと洗面所の方に向かっていた。
結局、私は息を殺して洗面所に忍び込んだ。
すりガラスの向こう側に、肌色の人影が見える。どうやら頭を洗っているらしい。洗面所には背を向けているし、シャワーの音のおかけで私の侵入はバレずにすんだようだ。
私は抜き足差し足で、できるだけ音を立てないように気をつけながら洗濯機の方に近寄った。
洗濯機の中は空だったが、近くのカゴにお目当てのモノはあった。
妹の脱ぎたての服と、下着。
キャミソールは白のシンプルなもので、ショーツは黒と白のストライプ柄だ。
男を喜ばせるためではなく、若い娘が好みそうな可愛らしい下着。しかし、それがかえって独特の生々しさを生み出していて、余計に色っぽく見える。
私は興奮で頭がクラクラとした。
だが、ここで油を売っている余裕はない。
私は小さなショーツを手にとって、ズボンのポケットに押し込んだ。そして、気づかれないようこっそりと洗面所を後にした。
自分の部屋に辿り着いて、私はほっと息をつく。
大変なことをしてしまったという恐怖と、背徳感による激しい興奮。それらが入り混じって、私の脚はガクガクと震えて、心臓は大きく脈打っている。背中を大粒の汗が流れ落ちた。
私は落ち着くために、大きく息を吸った。大丈夫、ちょっと借りるだけじゃないか。また後で元あった場所に返すんだ。バレやしないさ。
私はそう自分に言い聞かせ、ポケットから下着を取り出した。
小さく丸まっていたのを、震える指で広げる。
肌触りのいい布はまだ温もりが残っていて、そのことが私をひどく興奮させた。
私はもう夢中になって、下着の内側を見た。
「――ああ、素晴らしい……」
股間の内側のクロッチの部分には、小さなしみのようなものが見えた。
私は思わず、そこに鼻を押し付けた。
そこは少しだけ湿っていて、むせ返るような女の匂いがして、頭が変になりそうだった。
もう限界だった。ズボンと下着を脱ぐと、痛々しいほどに勃起したソレがあらわになった。
もう我慢汁が流れ出ていて、まるで涙を流しているようだ。
私は躊躇いなくクロッチの部分にソレをあてがった。
「おっ――うぅ……」
ショーツでソレを包み込むようにして、ゆっくりと擦り付けるように動かす。
すぐに我慢汁が溢れ出て、クロッチの部分が濡れていく。
そこは、先程まで妹の秘められた場所が直に触れていたのだ。私のアソコと妹のアソコが間接キスをしている――そう考えると、腰から甘い快感がピリピリとせり上がってくる。
とても長くは保ちそうもなかった。
私は狂ったように上下にショーツにこすり続けた。
「愛美っ、愛美っ……愛してる、世界中の誰よりも君のことを愛してる。ああっ――射精るっ!」
限界までいきり立ったモノが、一気に膨れ上がった。
「うっ――ああああああぁぁぁぁぁァァァァ!」
その瞬間、白濁の塊がどぴゅっと勢い良く放出された。
今までにないほど長く、激しい射精だった。精液がショーツを汚し、吸いきれなくなった分がポタポタと床に落ちた。
ドロドロとした精液が、愛美のショーツに染み込んでいた。
それを見た私はひどく――狼狽していた。
私は欲望に任せてとんでもないことをしてしまった。妹の下着に性器をこすりつけて自慰するなんて、異常だ。
私は、自分自身が恐ろしくなっていた。このままでは、私は何をしでかすか分からない。ああ、何とかしなければ私は今日以上の過ちを犯すことになる。
とにかく……今手に持っているショーツをなんとかしなければ。私はティッシュで精液を拭き取って、とりえず机の引き出しに突っ込んだ。本当なら今すぐに水で洗って元あった場所に隠しておくべきだが、もし妹と出くわしてしまったときのことを考えると、まずはこうするしかない。
この日、私は妹が寝入ったことを確認したあとにこっそりと水道の水で洗い流し、洗濯機の中に放り込んでおいた。このことがバレやしないかと恐ろしくなって、眠ることができなかった。
11月3日
とくに妹の様子に変わったことはない。どうやら、私のあのおぞましい行為には気が付かなかったようだ。
11月4日
夜中、私はいつのまにかベッドのそばに立って妹の寝顔をのごきこんでいた。服を脱ぐと、火照った体が晒されて気持ちがいい。ああ、もうこれ以上はマズい。我慢ができなくなる。
私は強靭な意思を持って、なんとか何もせずに自分の部屋に戻った。
朝になって、私は急に自分自身が恐ろしくなった。
そもそも、妹を犯したという証拠はどこにもないのだ。妹の肩の跡はただの偶然なのだ。私はくだらない妄想にとらわれている。ああ、きちんと理性を保て。
11月6日
やはりダメだ。夜中、ぐっすりと眠っている妹を、布団の上から思いっきり抱きしめた。妹が目を覚まして、
「どうしたの、兄さん。汗でべっしょりよ。どこか体が悪いの」 と心配してくれた。
ああ、何も知らない無垢な愛美。お前は安心しきっているんだ。だから、私がお前の部屋に忍び込んで抱きしめていても、全く不審がらないんだ。
ああ、私は今、欲望のまま愛しい妹を犯そうとしていたんだ。
私はいつのまにか興奮で汗をかいていたらしい。ただの風邪だとごまかした。
今日、私は恐ろしい考えを思いついた。睡眠薬を買うのだ。睡眠薬を飲ませて彼女を眠らせ、気づかれないように犯すのだ。それなら、バレやしない。大丈夫だ。私のこの暗い欲望も満たせるし、妹に軽蔑されることもない。
……大丈夫? 何が大丈夫なんだ! くだらない妄想はやめろ! その一線だけは超えちゃいけない。そんなことをするのは、理性なき獣だけだ。
11月8日
今日、とうとう妹が飲むジュースに睡眠薬を入れた。よく効いているようで、すやすやと小さな寝息をたてている。試しに妹の顔に白い布で作ったフードをかぶせると、この前の女そっくりである。
――やはり、そうだったのだ。
私は今日は結局何もしなかった。しかし、次は――
※
十一月九日の夜のことである。
表で車が止まる音がした。きっと兄の賢一が帰ってきたのだ。
愛美は急いで兄の日記帳をもとあった机の引き出しに戻した。
愛美の口の中は乾ききっていた。脇の下からは、大粒の汗が流れた。
その瞳は、大きく見開かれていたのだった。
玄関の鍵を開けて、賢一が家に帰ってきた。その顔には、疲労の色が濃く現れていて、蒼い顔の中でその目はことさら大きく見えた。
それでも、賢一は笑って、
「ただいま、愛美」 と言った。
「お、おかえり。兄さん」 愛美はなんとか平静を装って、兄を出迎えるのだった。