積み木のように建ち重なった街と、それを見下ろす巨大な時計塔。
月明りがすべてを照らす。滝のように流るる血液も、生まれては消え失せる命たちも。
そこはワンダーランド。
神を喰らった、ひとりの男が望む箱庭。
行き着く先のない『愛』たちが、無数に生まれて流れ着く場所。
少女たちは皆、導かれるままに旅路を辿り
そして、自らが生まれた意味を知る。
「夢は朽ち、少女たちに命なし」
未来を求めて戦い続けた彼女たちは、
犯され、騙され、裏切られ、殺され
穢れなき純白の魂を、暗く黒く染めて死んで逝く。
――身侭な神が、いつか謳った。
積み上げられたすべてを打ち崩すような、
救いようのない物語こそ、至上の娯楽であると。
それこそ唯一、無二の価値を持つ、価値なきものであると。
――きっとそうかと、男が笑った。
男には、自らの意志がなかった。自由がなかった。運命がなかった。
定められた道筋を、定められた箱庭の中、定められた自我とともに、
戦い続けることを余儀なくされ続けた。
救いなき物語が、そんなにも面白いものなのだろうか?
神々が積み上げたすべてをその手で砕き、殺し、犯し、
すべてを台無しに仕上げた男の心に残ったものは。
身侭な神が高らかにあげたような笑い声ではなく。
「こんなものか」、という
失望だった。
――支配者グリムの自我は、こんこんと眠り続けている。
いびつに膨れ上がった、膨大な神性で練り上げられたその肉体は、
もはや彼の意志で動いておらず。
『アリスを求める意志』という、彼自身にかつて刻み込まれた役割が動かしていた。
彼は、もうずっと昔に、なにかをする、ということを諦めたのだ。
箱庭を守るため、少女たちは戦い続けた。
自らに待つものは何ひとつ無いとしても、それでも、姉妹と居場所を守る為、
彼女たちは襲い来る神々の悉くを討ち滅ぼし、支配者グリムがそれを喰らった。
夢の中で目を覚まし続けている彼女たちの戦いは、終わることを知らず。
何もないとしても、彼女たちはなにかをし続けることを辞めることだけはしなかった。
彼女たちを産んだ、母たる灰の少女の魂幹が。
その暗く黒い幾千万の『想い』に対し
戦い続け、立ち向かい続ける意志というものを、遺し続けた。
この物語は。
不死人の少女が、
不思議の国を彷徨い続け、
幾千万の敗北と、絶望と、死とともに
*
最後の空席に、ゲルマが遺した神剣を突き立てた。
ごう、ごう、と
白い炎が燃え立ち、広がる。
「ああ、ああ。これが目覚め、死か」
白い炎に包まれながら、クライスが笑う。
「まあでも……悪くなぃかな。……待ってぃるよ、アシュリィ。チャーチと、二人で」
一際強く燃え上がった後、彼女が座していた席には、二振りの刀だけが遺された。
魔神刀と鬼神刀。あれを振るう彼女の姿も、見てみたかったと素直に思う。
姉妹揃って――曲者な獲物を選んだものだ。
「あ~~っ、もう! もっかい会えたら、話したいこととか、い~っぱいあったのになぁっ!」
ぱたぱたと両手足を振るいながら、コインがくやしそうに駄々をこねた。
「私達の再生は特殊だから。どっちにしろ、会うには周回の必要があるし」
「わかってるけどさぁっ! お姉ちゃんは寂しくないのっ!? ホントに、これで全部終わっちゃうんだよ!?」
「ない」
「……なんでっ」
「どうせ、また会えるから」
「…………」
「アシュリィ」
ガストの言葉に、目線で応える。
「勝ってね」
「……またね。グリム――ううん。アシュリィお姉ちゃんっ!」
ガストの席にはヴォーパルソード。コインの席には二丁の大砲が遺された。
あまりに大きいので、一丁はごとんと席から転げ落ちた。
お姉ちゃんと、呼ばれるのも悪くなかった。きっとまた、呼んでくれる。
「……アシュリィ。えと……あの、その」
先に発った三人にならい、自分も何かを口にすべきかとメルが両手の指をからめてもじもじとどもる。
「ほんとっ、その、えっと! ……ま……待ってる、から。美味しいお魚とか、美味しい刺身とか、美味しいっ……いろんなの、用意して、待ってるからさ、だから」
「――また。また、また! また、会おう……ねっ!!」
その想いに、微笑みで応える。
こちらに向けて、名残惜しそうに手を伸ばしたメルの席には、巨大な錨が遺された。
最後に残った私が、五芒星の中心に二重螺旋の剣を突き立てる。
「私の娘――私の姉妹たち」
「また、地獄で」
彼女たちへの別れの挨拶に、それ以上の言葉は必要ないだろうと思った。
*
「――――っ」
……誰かが呼んでいる。
私のことを、しきりに、誰かが。
「―――――――――――っ」
……ああ、この声を知っている。
長い眠りから覚める様に徐々に意識がはっきりしていく。
その名を。
お前に呼ばれる、までもない。
――私の名は。
【アシュリィ・リデル】
*
誰も彼も愛しき少女を思い出せぬまま、それによく似た者を求め続ける。
代用品を愛そうと、代替品を犯そうと、それさえあればと妥協し続ける。
ぐちゃり、ぐちゃり、肉のようなものを踏み潰す感覚を知りながら。
どくん、どくん、何かが胎動する音を聞きながら。
むせ返るようなさび付いた鉄の臭いを嗅ぎながら。
私は、私がここに居る意味を噛み締める。
やがて目の前に現れる、巨大な肉の壁に向け。
私は、まっすぐに灰のブレイスを振り下ろし――脳裏でこだまする、その者の問いかけに答えた。
「アリスは」
「ここに居る」
そんなにも愛しいのなら。
そんなにも欲しいのなら。
そんなにも恋しいのなら。
――私の方から迎えに行ってやるさ。
消し飛ばした肉塊の向こう側。肉の大樹に囚われた私の母と、それの下に跪く異形を見る。
異形はゆっくりとこちらに振り向き、頭らしき肉塊と、そこから生えた無数の触手を蠢かせた。
いったい、どれほど長い間、そこで私を待ちわび続けたのだろう。
――……。
「グリム」
ずちゃり、ぐちゃり、足音を轟かせ、私に歩み寄るそれと向かい合い。
私は、一冊の童話を広げる。
かつて、そうしたように。いつも、そうしたように。
私はひとりじゃ何もできない、無力な少女だったから。
いつだって私は、誰かの力と、誰かの言葉を借りることで、戦い続けてきた。
やることはいつだって変わらない。
これが最後だとしても、これですべてが終わるとしても。
私はただ、童話を広げ、剣を構えるのみである。
――私は。
自らが表現できる、最大級の蠱惑と淫靡を顕す笑顔を、彼に向け。
「……私より先に、果てないでよ?」
彼と行う、最後の性交を――戦闘を……開始した。
*
はじめは、ちっぽけな命だった。
『支配とは退屈なものであり』
『恋慕とは儚いものでありました』
それらは何を想ってか、あるいは何を想わずともか
静かに、静かに、か細い腕で、這いずり回り
自らの未来を追い求め、ありもしない幻想に縋り続けた。
『想いが深ければ深いほど、私は』
『私が、何故、私で在るのかと言う――自己否定の渦に、沈み続けていったのです』
『――アシュリィ様』
『貴女は』
『何もかもが終わり、何もかもが尽き果て、幕で閉ざされた舞台の上に』
『再びの物語という……アンコールをくださいました』
『貴女と過ごした四百二十七の周回が』
『私にとって、どれほど――どれほど……満ち足りた時間で、あったか――――』
『いつか、彼と、過ごしたように』
『図書室で帰りを待ちながら、その旅路に寄り添える、かつて過ごした時間を過ごせたことが』
『どれほど、有り難かったか――』
この旅路は、そういったもので出来ていて。
私以外の無数の私も、「グリム」でなくなった後も、
残滓となって、戦い続けた。
『――この童話は』
『私が、書き連ねました』
死にも生にも見限られながら。
歩くことすらままならないまま。
手探りのまま、誰に何を教わることもないまま。
ただ想いのままに、這い続け。
その果てに、ここへとたどり着いた。
這って、這って、這い続けた。
その者へ。
這い寄り、続けた。
『たったひとりの少女を取り巻く、数奇な冒険譚です』
『貴女が忘れ去ってしまったもの、貴女が奪われてしまったもの』
『その全てを、私がこの一冊に書き上げ、綴じました』
ノーデが、自身の命と魂と引き換えに創り果たし――私に託した童話を広げ。
そこに連なるすべての想いを、背に宿し。
いびつに膨れ上がり続ける、神性の塊に向かい合う。
摩耗し、剥がれ落ちては生まれ、生まれては死んで逝った四百二十六の私たち。
『おこがましいとは、存じております』
『しかし、口にさせてください、この言葉を』
『終ぞ私が、彼に言うことができなかった、この言葉を』
――ここは、そんな私たちが囚われ続けた、私たちの悪夢であり。
『アシュリィ様』
『――共に、戦わせて下さい』
故に、これは。
この戦いは――
――這い寄る少女たちの、戦いだ。
『童話の名は――』
「………………――『灰の少女』……ッ!!!」
*
躍動する衝動。脈動する血肉。鳴動する力。
冒涜的で背徳的で、筆舌に尽くし難い殺意たちが肉片となって飛来する。
両手に握った剣で振り払い、消し飛ばして私が作り出した道の先へ、いの一番に駆けだしたのは二人。
ぴんと頭頂部の毛髪がまっすぐ立った少女が放つ殴打に合わせ、王冠を被った少女が稼働させる車輪がグリムの肉を削り取る。形成された巨大な口腔に喰らわれて二人の幻影は消え去ったが、削がれた肉が癒えるより先に、私はそこ目掛けてブラッドエッジを突き刺した。
あふれ出す血液のすべてが刃となって、ささくれ立って肉を削り取っていく。
『――馬鹿正直に、真正面から挑んだところで、俺達に勝ち目はねえ』
そう呟くのは、私の横で神剣を携える狩装束の少女。
「彼は私を求めてる。だから殺しにはかかるけど――滅ぼすことはしない」
彼は白痴の権能を有しているが、だからとて目覚めることはない。
何故ならば、目の前にアリスがいるから。
彼にとって、この戦いに勝つことよりも、アリスを求めることの方が優先すべき事象である為に。
『殺すのは、ヤツが喰らって纏った無数の神性だ。外郭を形成する神どもから、確実に殺す』
「……ええ。慎重、かつ大胆に――剥がして、剥がして……」
「中身の面を、拝ませていただきましょうかッ――!!」
私が祈りを捧げ、少女たちに月光の加護を纏わせる。
苦痛にのたうちまわる触手たちをはじき返し、触手とともに踊るように宙を舞うのは、双子の少女。
妹は両腕を触手に変えてグリムに突き刺し、姉は妹の背に乗って、開けた口から熱光を伴う声を一直線に放った。
悶えながらも反撃に転じたグリムが放った一本の触手が双子を貫き――幻影は霧散する。
焼かれ、貫かれて出来上がった風穴へ向かい、それが塞がるより早く大砲を突き刺した少女が一人。
にっこりと無邪気に笑いながら引き金を引き、爆破すると同時に、その身は爆風と閃光に包まれて消え失せた。
一人、また一人と少女の影が消えるにつれ、グリムの肉が剥がれ落ちていく。
ぼたり、ぼたりと落ちて腐り果てていく肉のひと切れひと切れが全て神の成れの果てだ。
哀れな幕切れだ。支配者と呼ばれた者どもが、たったひとりの男に食われ、最後は少女に殺される。
――大砲によるガンブレイクで姿勢を崩したグリムへ放たれるのは、究み、極められた三段の剣閃。
続けざまに、私が月光を纏ったブラッドエッジを放って外殻を削り飛ばす。
散らばった数多の肉片を、神剣が撒き散らす業火が消し飛ばした。
戦いが始まって、消された幻影たちの数は早くも半数に至ろうとしている。
残る少女たちは皆、箱庭戦争を戦った猛者たちだ。頭数は減っても、戦力には殆ど変わりない。
だが――減った分、分散していた攻撃が集中し始めるのも、また自明の理であり。
グリムは自らの体をぶちぶちと引きちぎると、その肉塊で無限に渡る武器を形成し始める。
下から眺めるだけで、ため息が出そうな数だ。見るからに嫌そうな顔でそれを望んでいる私の両肩を、ぽん、と二人の少女が叩いた。
ひとりは大斧。ひとりは、対の刀を。
抜き放ち、あるいは振りかぶり――その武器の悉くを打ち落としていく。
鬼神刀が斬り結び、代償に負った傷は、魔神刀を介して塞ぐ。力任せに大斧を振るう妹に対し、この上無く効果的に二振りの刀を用いる姉。
その戦いぶりを見届けながら。彼女たちと本気で殺し合えたなら、どれだけ楽しかっただろうと考える。それが叶うことなどないことを、ただ一人――この場で生きる私が誰よりも理解していた。
怒り狂ったグリムが伸ばした細い両腕が、宙で戦い舞う二人の少女を掴み。そして、握り潰す。
手の内で幻影が霧散すると共に、生じた隙を逃さず切り込んだ少女が一人。
彼女は身の丈よりも巨大な錨をふるい――生成した鉄砲水とともに、それを振り下ろし、叩き潰した。
叩き伏せられたその者へ、少女であった魔獣が喰らいつく。
雷を纏った黒い獣と、巨大な蜘蛛。ぼこぼこと沸騰するように波打つ肉塊から口が生まれ、それに身体を貪り食われながら、両者はグリムの体を食いちぎることを最後まで止めはしなかった。
錨の一撃が罅を作り、その罅を食いちぎることで広げ、生まれたその『弱点』。
私に向けて目配せをした一人の少女に応え、無数の月光刃を放って踊り狂う触手たちを切り落とす。
白い少女はまっすぐに駆け、再生する触手と口が自らに届くよりも早く――その罅へ、細い腕を突き刺し。そして、内に詰まった臓物をかき乱しながら引きずり出した。
串刺しにされて霧散した幻影のもとへ、私は一心不乱に駆ける。
外殻はすでに大半を削り落とした。少女たちの数も、もう残り少ない。
この戦いに対し、勝利への糸口となる可能性はただ一つ。
私が――グリムの本体へたどり着き、それを、討ち滅ぼすことだ。
広がり、薄まった罅に向け、一人の少女がまた三段の剣閃を放つ。
そして続けざまに放たれたのは――神竜の業火。
私の体に風穴を空けた時のそれと同じ。斬るではなく、突く形で放たれる焔。
それが何を意味するのか、何の意図で行われたのかを。
自らに迫る無数の触手に目もくれず、私に振り向く少女の眼から感じ取る。
剥がし、貫いた外殻の先――
その体内、中枢に、それは居る。それは待つ。
『行け』、と
確かに、聞こえた気がした。
駆ける――駆ける、駆ける、駆ける。
喰らわれ、裂かれ、貫かれ、引きちぎられ、消えていく私たちの視線を背中で受け止め。
幾層にも重ねられた神性の殻の奥底で待つ、その者の元へ。
私は、まっすぐに駆けた。
*
彼の中は、
深い、深い、暗闇だった。
深遠である。
彼が喰らい、彼が集め続けた黒いソウル。
私の視界を埋め尽くす『黒』は、そのソウルで形作られている。
どれほど殺し、どれほど喰らい、どれほど、戦い続けたのだろう。
――深遠の底に、彼は立っていた。
顔のない、白い髪をした狩人。
どす黒く染め上がった鎧を纏い、元々何であったかも定かでない剣を持ち。
彼は、私を待っていた。
「…………グリム」
誰に呼ばれることもなくなってしまったであろう、彼の名を呼ぶ。
私もまた、その名で呼ばれる存在だった。
あなたの後追いでしかなく。
あなたの真似事でしかなく。
あなたに至るものにも、比肩するものにもなれた自信はないけれど。
私も、あなたと同じ、グリムなんだ。
――内に秘める童話のありったけを広げ、彼を望む。
その全ては、彼が忘れ去ったものだった。
本当ならば、彼もまた、私と同じように童話を広げて用いることが出来た筈だった。
私の懐目掛け、駆けだした彼の剣を躱し――その名を呼ぶ。
「『オズの魔法使い』ッ!!!」
形を持った幻影が彼の腹部に拳を叩き込み、
「『従者ヴィクトリア』ッ!! 『マッチ売りの少女』ッ!! ――『黄金のガチョウ』ッ!!!」
羽を広げた従者の幻影と、翼を広げた鳥人の幻影が生み出した気の流れに乗り。
渦巻いて撃ち放たれたのは、混沌の爆炎。
「『サンドリアの聖女』――『ジャンヌ・ダルク』――!!」
姿勢を崩す彼の元に、無数の車輪が降り注ぎ。
たなびく御旗のもと、光り輝く無数の剣閃が彼の体を斬り裂いた。
「『断罪者ミランダ』!!! 『女王エリザベート』!!! 『紅ずきん』ッ!!!」
反撃に転じようとする彼の体を、処刑の宣告が止めると共に、振り下ろされた斧が頭蓋を叩き。
黒の波動を纏った紅の惨劇が、幾度となく彼に斬撃を浴びせ続ける。
――そして。
こんな姿に成り果てて尚、彼は彼なのだろう。
童話を使い尽くしたと踏んだのか、満身創痍の体で私に向かって正確無慈悲の刃を叩き込み。
その刃は――
私の前に躍り出た、鷲獅子の幻影が受け止めた。
御免なんて言うつもりもないけれどね。
まだ切れちゃいない。まだ終わっちゃいないんだ。
私が紡ぎ、重ねてきた物語は――
あなたのそれと、同じだけ、存在するのだからッ!!!
グリムの剣が、幾度となく弧を描いて襲い来る。
その全てを受け止め、捌き、斬り結び合いながら私は呼び続ける。
何故か。
涙で腫れ上がっている喉で、叫び続ける。
「――『愚鳥ドド』!! 『芋虫シーシャ』ッ!! 『女王ロリーナ』、『帽子屋ハッタ』、『ウミガメモドキ』、『マルガレーテ・フォン・ティロル』ッッ!!!」
思い出せ。
思い出せよ、グリム。
これら全て、あなたが夢に見た少女たちだろう。
あなたが、愛した女性と。
あなたの、愛する娘たちだろう。
あなたが、神すら喰らう化け物と成り果てても。
あなたの心に在り続け、あなたの夢に生き続けた、少女たちなんだよ。
生まれては放ち、放っては消え失せる幻影たちに紛れ。
一度と言わず二度と言わず三度と言わず――無数の剣戟を、斬り結ぶ。
その内に幻影たちは、私の呼びかけを必要とせずに召喚され、顕れては彼に一撃を届けた。
それはまるで、呼びかけるように。
深く深く封じ込められ、消え失せた黒い魂の底から、彼の心を引きずり出すように。
「ぅうぅぅぅぅぅうぉぉおおおおおおおぁぁああああああああああああああッッ!!!!!!」
底の無い闘志と、果てしない祈りを伴う剣が、彼の剣とぶつかり合い。
互いに互いの剣を弾き、斬り返す刹那。
相打ちを。共倒れを確信した、その瞬間。
僅かに。
私の剣が、ふわりと、軽くなった。
「――――――………………」
剣だけではなかった。
体のすべてが、まるで神風に乗せられたように軽くなって――。
――彼の、体を。
灰のブレイスの刀身が、するりと通り抜け――
そして、両断した。
*
「…………」
どちゃり、どちゃりと肉片が落ちて来る。
振り向けば、真っ二つになった男の遺体があった。
――白痴を喪った世界は。
程なくして、何もかもごと崩れ落ち、消え失せることだろう。
崩壊するこの肉片たちは。
彼が手放している意識そのもの、なのだろうか。
「目覚めるでもなく、死んで終わる……白痴の死による、世界の終わりなんてね」
力が抜け出て。ぽてんと尻餅をつき、座り込んだ私の横に、誰かが同じように腰を下ろした。
「ワタシも初めて見るわ。……本当に本当の初めて。初めての、『初めて』よ。アシュリィ」
「……母さん」
メイベルだった。
悪戯のつもりでそう呼んでやったけれど、呼ばれた本人はぽっと顔を赤くして、頬を抑えてふるふると顔を振った。
「やだ。改めて呼ばれるとすっごい照れるのね……。ん~っ、残念だけど……もっと呼ばれたかったわね、そんなふうに……アナタから」
「……じきに終わるんだから。それまではいくらでも呼ぶよ」
「そういうわけにもいかないのよ。世界は終わらない。……いえ、正しくは……終えるかどうかを、アナタが決めるの」
「…………?」
「ゲルマから聞いたでしょう? アナタの権能について。アナタの持つ、役割について」
……。
確かに、聞いた。
「アナタに残された道はいくつかあるわ。望むものを望みなさい、アシュリィ」
「ひとつ、このまま世界を終わらせるか――」
「ふたつ、白痴を継承し、世界を創り直すか――」
「みっつ、彼と同じように、不思議の国を継承するか――」
「……それだけ伝えたかったの。満足のいく終わりを、アナタが迎えられるように」
「…………おせっかいなことで。……ありがとう」
「うん、ちゃんとお礼が言えるいい子に育ったわね。お母さん嬉しいわ。ほんと」
身の丈は変わらないくせに、わしわしと私の頭をメイベルは撫でて来る。
悪い気はしなかった。
「それじゃあ」
「――いいエンディングを、祈っているわ」
気が付いた時には、もう彼女はどこにも居なかった。
「……」
世界を創るか、終えるか、それとも不思議の国を――箱庭を創るか。
勝手に定められてしまったものだ。答えなんて、最初から決まっている。
支配者グリムを倒して……それから先。
何がしたいか、なんて。
そんな意志、私にあるわけがないだろう。
【 - BONFIRE LIT - 】
灰のブレイスを、ここに突き立て。
篝火として、最後の火を灯す。
そこに腰を下ろして、たった一人、終末を見届けることを選べば。
彼の寂しさが、少しは理解できるかもしれないと、そう思った。
*
――私を呼ぶ声は、もう聞こえない。
愛らしく綺麗で、薄く透明感のあるあの声は、もうどこからも聞こえない。
しかし、それでも
……ああ、この暖かみを知っている。
体を暖め合った、あの火の暖かさ。私が、還る場所の暖かさ。
むくり、のそりと起き上がって、篝火の傍に腰を下ろした私の隣に。
見知らぬ少女が、座っていた。
「……おはよう。……起こしちゃったね」
灰色と、銀色と、それから黒色。グレースケールで表されるような、色味のない少女だった。
がたがたと震えながら、世界が崩壊している。
こんな状況で自分は何故目が覚めたのか、なんとなく理解できた。
何故――
――何故、篝火を灯した?
「決まってるでしょう」
灰の少女は、こちらに一瞥もせず、ただ空を仰いで答えた。
「ここが、私の故郷だから」
「終わるなら――ここで終わりたかったの」
……。そうか。
「どれだけ絶望しても――どれだけ殺されても――どれだけ犯されても」
「篝火の暖かさだけは、いつも同じだった」
「ここに帰って来たいって」
「そう思えるような、暖かさだった」
故に。
なにもかもが終わる時は、この篝火のもとで。
――故郷のもとで、終わりたいと、そう願ったのか。
「グリム」
灰の少女は。
にこりと微笑んで、最後に言った。
「全部、終わったね」
【原作】
BLACKSOULS -黒の童話と五魔姫-
BLACKSOULSⅡ-愛しき貴方へ送る不思議の国-
【原作者】
寿司勇者トロ
【製作】
イニミニマニモ?
【投稿先】
ハーメルン
Pixiv
【協力】
感想と評価をくださった不死人の方々
Discordサーバ「おとぎ話の篝火」の方々
【贋作者】
朝神佑来
「不死人ちゃんのBLACKSOULSいきなりⅡ」
G END
reatful, and grateful
――(その旅路に賛美と、そして感謝を)
Thank you for reading.
~エンディング条件~
A END
sk for the End of story
――(御伽噺を閉じる時)
・進行度10になった瞬間、扉を開く。
B END
LACK BORNE
――(黒より産まれ出でしもの)
・白痴の継承者となり、世界を創り直す。
C END
ry for the moon,pray for the END
――(どうかわたしに結末を)
・白痴の継承者とはならず、世界を終える。
D END
reamin the thorn princess
――(眠れる森のいばら姫)
・不思議の国の箱庭を継承する。
E END
ndless heartless empty sky
――(おほしさま)
・愛するもの、グリムに敗北する。
F END
eels the same way,Faceless.
――(今ならあなたを理解できる)
・進行度10になった瞬間に扉を潜り、愛するもの、グリムを撃破する。
G END
reatful, and grateful
――(その旅路に賛美と、そして感謝を)
・篝火を創る。
【取得】
ハーブ瓶
ハーブ瓶M
【取得】
貪欲な金の蛇の指輪
貪欲な銀の蛇の指輪
「にゃーはろー」
「……何をそんなに不思議そうな顔をしてるにゃ?」
「原作世界が完結してないのに、贋作世界だけ完結するなんてありえないにゃ」
「支配者となって世界のすべてを喰らい尽くした。そして生まれた女の子に負けた」
「それらは全部、『一周』に過ぎないんだよ」
「不死人グリムが世界を終えるまでの、ね」
「めでたく世界は終わったから、また始まった」
「『次の周回』が始まった」
「故にアンタは生きている」
「チェシャ猫も生きている」
「この図書室も元通り、ウサギ穴でも踏破すれば、白兎も元通り」
「変わるものなんて何一つない」
「この世界は、ゲームですらないんだからね」
「まあ、それでも」
「アンタが望むなら」
「アンタが覚えているなら」
「そこの赤い扉の先に行ってみたらどうにゃ?」
「そう、混沌ダンジョン、盤上世界シャトランジ」
「アンタより先に、ここで目を覚ました女の子は」
「まっすぐ、そっちに向かったよ」
エンディングテーマ 【 String Theocracy 】
本を広げ
ライトをつけて
一瞬も見逃さないで
この物語を
ああ、本はなんて奇妙なの
秒針を刻むオレンジに倣い
エンディングまで、目玉にバターを塗って潤して?
さあ、あなたの素性を選んで
ふふふっ
鏡に映るその体には、
たくさんの先客がいるのかもね
踊りましょう
一
二
三
回転
愛らしい子犬のように
じっと座ってお待ちなさい
切りましょう、損をどこまでも
都合のいい「お決まり」だけで仕上がったこの世界では、
理性に対するその忠誠が、あなたを容易く殺し得る
絵本の中の者たちは、
連なる文字に救われる
私を手繰るのならば、
せめてショウのように面白くしてくださいませんか?
そこに放り出されるって、どんな気持ち?
ふふふっ
――「ご自分でどうぞ」
鏡は私の行く道を映し出す
まっすぐに飛び込んで、そして墜落する
どこまでも、どこまでも、どこまでも
私は強い子だ、そう自分に言い聞かせ続け
どこまでも、どこまでも、どこまでも
けど、どうしたって降り立つことはできなかった
想いは右へ
思いは左へ
眼が覚めたのは、あなたの箱庭の中
あぁ
望むのならば、ご自由に
ほら、手を取って
拡げたソコは可愛らしいお人形、真っ白な造られた美しさ
私達は皆、ココロを持たないガラクタなのかもしれない
ヒトじみた肌を被り
ヒトじみた罪を犯し
お外の神様に縫い合わせられたハウスドール
止しなさい、あなたは負けたの
『らしさ』を消費し、使い潰したこの世界では
その愛らしい勇猛さは、
いずれあなたに致命傷を負わせるから
その哲学があなた方を救うといいのだけれど
私を書き換えるのなら、
せめて私のすべてを何もかも消し去る器量を見せてくれませんか?
私のエンディングはいつ来るのだろう
ふぅ
何もかも飽き飽きで
ここを発つ準備は出来ているの
ラインを取る
一つ
二つ
三つ
それらが私達を繋げてくれる
全知全能だけでは、生きるに足りなくなる時に
あなたは私を強くしてくれた
希望と名付けられた黒い魂を教えてくれた
私に見つけられるのを待ち焦がれている幸福は
まだどこかにあるのかもしれない
あなたもそんな夢を見るのかな?
もしも私のことを、本当に愛してくれているのなら
私の代わりに、あなたのすべても愛してくれますか?
二年間、ありがとうございました。