※この作品はR-18です。

不死人ちゃんのBlackSoulsいきなりⅡ   作:朝神佑来

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死灰終燃

 「ぁは」

 

 

 殺した。

 

 殺した。

 殺した。

 

 わたしが死んでしまうという未来を、殺してやった。

 

 「……はははっ」

 

 これで、本当にわたしが死ぬことは、なくなった。

 

 わたしは無限に生き続ける。

 わたしはずっと生き続ける。

 

 ここではない世界にわたり。

 わたしを愛してくれる人を探そう。

 

 わたしはずっと、わたしであろう。

 

 誰かに愛される、わたしで在り続けるんだ。

 

 

 

 *

 

 

 

 「…………」

 

 大好きな人が死んだ。

 

 産み落とした子供は、這いずり回ってぐちゃぐちゃに融け落ちた。

 

 わたしは、何もしていないのに。

 

 「…………」

 

 わたしを見ただけで、道行く人々はみんな、頭を破裂させていく。

 わたしが歩いているだけで、世界が血肉に染まっていく。

 わたしという存在の、その情報の重さに、人間の頭は耐えられるようにできていないんだ。

 

 (どうして)

 

 (どうして、こうなるの?)

 

 わたしは、愛されたいだけなのに。

 当たり前に与えられてきた、その愛情というものを求めているだけなのに。

 

 どうしてみんな、死んでしまうんだろう?

 

 (わたしが)

 

 (支配者、だから?)

 

 ……。

 

 だと、するなら。

 

 支配者を愛してくれる人を、探さなきゃ。

 こんな程度で壊れない人を、探さなきゃ。

 

 その人が、わたしを愛してくれなくっても、それでも。

 その人が、わたしを愛してくれるようにすればいい。

 そうだ、何も間違ってない。

 恋って言うものは、落ちることから始まるんだから。

 

 

 探しに行こう。

 

 世界を渡って、どこまでも。

 

 あなたを、求めるよ。

 

 だってわたしは、愛されるものだから。

 

 まだ見ぬあなたの、あなただけの、恋人だから。

 

 

 *

 

 

 

 ようやくあなたの愛し方を理解できた。

 

 永遠の逃避行なんて続けなくていい。

 

 ずっとずっと、わたしの中に閉じ込めておけばいい。

 

 どこまでもどこまでも、そこにはわたしだけが続いているの。

 

 ここがわたしの国。

 わたしの箱庭。

 わたしの全て。

 

 あなたに捧げる、わたしの国。

 

 

 あなたを永遠に愛しています。

 わたしだけの。

 

 わたしだけの

 

 

 わたし

 

 

 

 わたし?

 

 

 誰の声も聞こえない。

 どこにも誰もそこにはいない。

 すべてが灰滓に帰している。

 惰眠だけがそこに満ちていた。

 

 わたしは

 

 わた しは

 

 アリ ス リ デル

 

 ちが う

 

 

 わ 

 たし

 

 は

 

 

 だれ、だっけ?

 

 

 

 

 *

 

 

 

 そんな未来が。

 

 ぐちゃるりと崩れ落ちて、消え失せる音がした。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 「…………ごぶっっ」

 

 血反吐を吐いて、意識が戻る。

 自分の腕が、自分の胸に突き刺さっていた。

 

 

 「まさか……あなたが、自死を選ぶだなんてね」

 

 懐かしい声が聞こえて、振り向こうとして。

 さらりと流れている自分の髪が、鮮やかな金色であることを認識した。

 

 着ている服には色がある。

 突き刺して、たった今引き抜いた腕のせいで、血に染まっていはいたけれど。

 青い、エプロンドレスだった。

 

 「それほどまでに、ほだされた、ということかしら……彼に」

 

 振り向けば、懐かしい顔があった。

 ひどく、ひさしぶりに、会ったような、顔だった。

 

 「ねえ――『這い寄るもの』」

 

 虚無の少女メイベルがそこにいた。

 

 「いずれにしろ、これで箱庭は消え失せるわ。あなたもワタシもこれで終わり――綺麗さっぱり無くなるってわけね。ああ、すっきり! ほんっと、せいせいしたわ!」

 

 母さんと、呼びそうになって。

 「私」はそんな呼び方をしないと、理解する。

 

 「メイベル」

 

 「…………?」

 

 「ありがとう」

 

 ゆっくりと立ち上がりながら、たった一言、それだけを口にする。

 それ以上なにかを口にしようとすると、逆流する血液と臓物が口から吹き出そうだったから。

 

 「……お礼を言われることなんて……いえ…………違う」

 

 「ワタシは……なんで……ここに、いるの? ワタシは、ワタシを殺す装置に――いや」

 

 

 不死の死とは。

 あらゆる存在からの、忘却だ。

 

 それを観測するものが居なくなってしまえば、それは存在しないことと同義だ。

 

 ――アシュリィ・リデルはそうして死んで。

 私は、最後のアリス・リデルになったんだ。

 

 

 「待って」

 

 「――ア……………………」

 

 

 その場を去ろうとする私の背中に。

 その名を呼ぼうとして、呼べないまま、手だけを伸ばした彼女の声が、貼りついた。

 

 どこへ向かうのかは、もう決めていた。

 

 

 

 *

 

 

 

 長い、永い旅路だった。

 

 はじめは無力な少女だった。

 殺されるばかりが関の山の、ちっぽけな少女が。

 いつしか膨大なソウルを得て、少女の器として完成し、封じられていた権能を呼び覚ますに至った。

 

 この定めに準じてなるものかと、歩む足がある限り進み続けると、決意のもと。

 進み続けて見えた景色が、私が幸せになることはないと教えてくれた。

 その体も、その心も、ただの少女を貫いていたとしても。

 持ちうる力も、眠る権能も、その血筋も、ただの人間のものではないのだから。

 

 ――ああ、もういいじゃないか。

 

 ――何をしたところで、報われることがないのなら。

 

 ――好きなことだけをして、生きていけばいい。

 

 きっと、そうだ。

 時間は無限にあるのだから、無限に生きていけばいい。

 いろんな世界を見て、いろんな時間を過ごせばいい。

 それはきっと、私に許された唯一の幸福だ。

 

 だが、そうじゃない。

 そうじゃないんだ。

 

 どんな絶望も、どんな失望も、どんな真実も。

 

 私の足を止める理由には、あたわない。

 

 足を運んだ先に、何があるとしても。

 それが足を止める理由には、ならないんだ。

 

 ――ああ、畜生

 

 ――こんなにも辛いくせに、こんなにも苦しいくせに、こんなにも悲しいくせに

 

 ――私の足は止まらないんだ。

 

 神様であればよかった。

 支配者であればよかった。

 惰眠に沈み、怠惰につとめ、玉座の上で眠りこける者であればよかった。

 

 ――心さえ

 

 ――心さえ

 

 ――心さえ、なかったなら…………

 

 最後の支配者でいられたのかもしれないのにな。

 

 

 しんしんと雨が降りしきる、街の中を歩き続ける。

 ぼたぼたとこぼれる血液と臓腑が、足跡を形作る。

 

 持ち上げた視線の先に、それを見た。

 

 (ああ)

 

 殺しきれなかったのか、と。

 私を見て、そう、瞳で語る彼を見た。

 

 

 (やっと、会えた)

 

 

 

 *

 

 

 しんしんと降りしきる雨の中。

 愛しき少女と出会った。

 

 長い金髪と、碧眼と、青いエプロンドレス。

 ――アリスだ。間違いない。

 その腹部には風穴が空いていた。

 まだ、生きていたのか。

 

 ふつふつと沸き立つ憎悪に、しかし待ったがかかる。

 その顔は安堵に満ちていた。

 彼女も同じだけこちらを憎んでいても不思議ではないというのに。

 

 その表情は。

 どこか懐かしく。

 黒い何かに染まっていないその目と、視線が交錯する。

 

 

 ――ぐらり。

 倒れかける彼女の体を。

 

 何故か。

 駆け出して、抱き留めている自分が居た。

 

 

 砂や、飴で出来ているのではないかと、思った。

 

 あまりに軽く、あまりに細く、あまりに脆い。

 こんな体で、彼女はずっと戦ってきたのか?

 いや。違う。彼女とは、誰だ。

 それは、彼女ではないのか?

 

 「私、ね」

 

 血ごと、色を失っていく唇から、小さな声が漏れた。

 

 

 「幸せ、だった、よ」

 

 「あなたの、おかげで」

 

 「私が……産まれて、これた……から」

 

 

 それは。それは、嘘だ。

 この身は、この身に取り巻くものを不幸にし続ける。

 それが少女であるなら尚更だ。

 

 けれど少女は、それでも微笑んだ。

 

 

 「わた、しは」

 

 「しあ、わせ――だ、った」

 

 

 「だから」

 

 

 言うな。

 その先を言うな。

 

 砂か飴かと見紛うその体を、気が付けば強く抱きしめていた。

 

 

 「ありがとう」

 

 「グリム」

 

 

 それは。

 それは、お前のことじゃないか。

 

 

 「――――グリム?」

 

 

 雨音だけが聞こえて来る、その世界の静けさに。

 ぽたり、ぽたりと誰かの声と音が聞こえた。

 

 「彼女は……」

 

 紅ずきん。

 

 「……」

 

 すまない。

 

 殺せなかった。

 

 殺せなかったんだ。

 

 「何を……言っているの? 彼女は……もう」

 

 ……思い出せないんだ。

 

 呼んでやれなかったんだ。

 

 「…………」

 

 

 

 「愛しき少女の名前が……思い出せないんだ…………」

 

 

 

 「…………グリム」

 

 「泣かないで、グリム。もういいの……もう終わったんだよ」

 

 

 「全部、終わったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【原作】

 BLACKSOULS -黒の童話と五魔姫-

 BLACKSOULSⅡ-愛しき貴方へ送る不思議の国-

 

 

 【原作者】

 寿司勇者トロ

 

 

 【製作】

 イニミニマニモ?

 

 

 【投稿先】

 ハーメルン

 Pixiv

 

 

 【協力】

 感想と評価をくださった不死人の方々

 Discordサーバ「おとぎ話の篝火」の方々

 

 

 【贋作者】

 朝神佑来

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「不死人ちゃんのBLACKSOULSいきなりⅡ ~Dead Line Cinders~」

 

 

 H END

 appy

 ――(名も無き少女に花束を)

 

 

 Thank you for reading.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「命にふさわしい」

 

 

 

 好きな人ができた

 確かに触れ合った

 アスファルトより土

 鋼鉄より人肌

 

 無意識に選ぶのが

 冷たさより温みなら

 

 その汚れた顔こそ

 命にふさわしい

 

 身の程知らずと

 罵った奴らの

 身の程知らなさを  

 さんざん歌うのだ

 

 前に進むために

 理由が必要なら

 怒りであれなんであれ

 

 命にふさわしい

 

 

 こぼれた涙を蒸発させるために陽が照る朝を

 飽きもせず 懲りもせず 待っている 待っている

 

 全部を無駄にした日から

 僕は虎視耽々と描いてた

 

 全部が報われる朝を

 

 世界を滅ぼすに価する、その温もりは

 二人になれなかった孤独と孤独では

 

 道すがら何があった?

 傷ついて笑うその癖は

 そんなに悲しむことなんて

 無かったのにな

 

 心さえ

 心さえ

 心さえ

 なかったなら

 

 心さえ

 心さえ

 心さえ

 なかったなら

 

 

 友達ができた

 理想を分かちあった

 向かうべき場所に、歩幅すら共にした

 

 裏切られたっていいと

 道端ひれ伏すような

 酩酊の夜明けこそ

 

 命にふさわしい

 

 なくした何かの埋め合わせを探してばかりいるけど

 そうじゃなく、喪失も、正解と言えるような

 

 逆転劇を期待してる

 そしてそれは決して不可能じゃない

 途絶えた足跡も旅路と呼べ

 

 世界は欺くに値する僕らのこれまでは

 一人になれなかった寂しがり屋共が集って

 

 道すがら何があった?

 傷つけて当然な顔して

 そんなに悲しむことなんて

 無かったのにな

 

 心さえ

 心さえ

 心さえ

 なかったなら

 

 心さえ

 心さえ 

 心さえ

 なかったなら

 

 

 愛したものを守りたい故に

 壊してしまった数々

 

 あっけなく打ち砕かれた、願いの数々

 

 その破片を

 裸足で渡るような

 

 次の一歩で

 滑落して

 

 そこで死んでもいいと、思える一歩こそ

 

 ただ、ただ、それこそが

 

 命にふさわしい

 

 

 心を亡くすのに値したその喪失は

 喜びと悲しみは

 引き換えじゃなかったはずだ

 

 道すがら何があった?

 その答えこそ今の僕で

 希望なんて、いとも容易く投げ捨てることは出来る

 

 心さえ

 心さえ

 心さえ

 なかったなら

 

 心さえ

 心さえ

 心さえ

 なかったなら

 

 

 光と陰

 

 光と陰

 

 光と陰

 

 光と陰

 

 

 光と陰

 

 光と陰

 

 光と陰

 

 

 光と陰

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【少女の写真】
不器用に微笑む少女が映っている。
誰なのかはわからない。
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