催眠アプリを手に入れたので、レイプする!! 奴等をエロスキルでテクノブレイク!! 作:Ω2
「『ネクサス』……ですか?」
聞き覚えは――あまりない。
リルがカラスの事をそう称していたのを聞いたぐらいだ。
「佐藤 茜。お前はオーバードラッグの事をどこまで知っている?」
「え――」
唐突な質問に、茜は自分の記憶を掘り起こす。
「ニュースとかで取り上げられるぐらい大きな社会問題になっててーー」
「ああ」
「強い依存力があって」
「ああ」
「人を操る力がある?」
「そうだ」
「後は――」
駄目だ。これ以上は思い浮かばない。授業などで何度か聞いた事があるのに、緊張のせいか上手く思いだせないのだ。
「すいません。ここまでです」
「うわ。自分に関係のない事には関心のない典型的な現代っ子だね~」
「うぐ」
カラスの指摘に、ばつが悪くなり、茜は俯いた。
こんなことなら、もう少しちゃんとニュースなどを見ておくべきだったと、自分の視野の狭さを後悔した。
「では、どうやってオーバードラッグが生まれたか知っているか?」
「あ……」
訊かれて思いだした。確か授業で習った事がある。
「環境の変化などで偶然生まれた自然の産物……」
だったはずだ。授業で教師はそう言っていた。
「そうだな。確かに
「表向き……ですか?」
「ああ」
頷き、サングラス越しにもフェンの眼光を茜は感じた。
「ここから先の話は無暗やたらに話した場合、ろくでもない事が起きるから肝にめいじておけ」
「は、はい……」
つまりここから先の話は表ではなく『裏向き』の話だという事だ。
自然と茜の緊張も増す。
「まず最初に言っておくが、オーバードラッグは偶然で生まれた天災ではなく、必然で生まれた人災だ」
「え……それじゃあ――」
オーバードラッグを生み出したのは自然などではなく――
「そうだ。オーバードラッグは人為的に作られたモノだ。二十年前に、とある科学者の手によってな」
苦々しくそう言ったフェンの顔には隠せない程の嫌悪が浮かんでいた。
「だが科学者は快楽欲しさにオーバードラッグを作ったわけではなかった。そいつには別の目的があった」
「別の目的……ですか?」
「ああ」
フェンは紛れもない嘲笑を浮かべ言った。
「神を殺す人を超えた存在を作り出すっていう馬鹿げた目的がな」
「……」
流石にこれには茜は何も言えなくなった。
「信じられないって顔だな?」
「ご、ごめんなさい」
だが、正直その通りだ。
「ここまで非日常的な事がいっぱいありましたけど……」
「流石に悪い冗談にしか聞こえない……か?」
「……」
茜は無言で頷いた。
「正しい認識だ」
そんな少女の反応を肯定するようにフェンもまた大きく首肯をした。
「人はあくまでどこまであっても人だ。それ以上にもそれ以下にもなる必要はない……だからこそ、神殺しなんていう御伽噺は
まるで己に対しても言うようにフェンは言う。
人は人として生きるべきだと。
「だがな――」
語気を強め、フェンは語る。
「そのとある科学者は誰が聞いても、空想でしかない馬鹿げた話を現実に出来るほどに万能――いや、
まるで実際に見てきたかのように。
「人を強制的に『進化』させる物質を自ら作り出してしまった」
まるでその場にいたかのように。
「それこそが、今この世界を狂わせている元凶であり、害悪である存在――」
殺意すら籠る憎悪と共に語る。
「オーバードラッグだ」
「……」
笑うことが出来なかった。
いや、本当は笑いたかった。
悪い冗談だと。一体どこのフィクションだと。年頃のオタクが考えそうな廚二臭い設定だと。
佐藤茜は笑いたかったのだ。
だが出来なかった。
「……」
そう語る男が、あまりにも真剣だったから。
漏れでる憎悪が、恐怖を感じてしまう程に『本物』であったから。
男の話が紛れもない真実だということを思い知らされた。
「……」
食欲がなくなった。
大好きすぎて、月1でカレーの店に遠出する自分が、食べる気力を根こそぎ奪われてしまった。
「……続けて大丈夫か?」
「はい」
近くにあったコップの中に入っていた水を胃に流し込み、茜は何とか頷いた。
「結果だけを言うと、その科学者は失敗した」
フェンの話が続行される。
「その科学者によってオーバードラッグを投与された実験体は、神殺しの『ネクスト』と呼ばれる人を越えた存在にはならなかった……神殺しを行わせる筈の実験体が
「……」
つまりその実験体が、失敗したから、科学者も失敗してしまったということか。
「だが科学者は諦めなかった。その後、そいつはデータを取る為にオーバードラッグを世界中にばら蒔き、蔓延させた」
「そ、それは――」
知っている。聞いた事がある。
世界各国で一斉に起こったオーバードラッグ事件の始まり。
この世界で、この現代で生きる人間なら誰でも知っている事件――
「フィンヴルヴェトの始まり」
「面白い名前だよな。誰が言い始めたのかは知らんが――恐ろしい冬、大いなる冬の意味と共に神々の黄昏の始まりの事象であるこの名前を、オーバードラッグ事件の始まりとして称するのなら、これ以上に的確な名はない」
「……あまりいい趣味ではありませんけどね」
「違いない」
佐藤 茜の意見にフェンは肩をすくめながら、同意した。
「そしてここからが本題だ――オーバードラッグと共に世界中にある特殊な人間が現れ始めた」
「それって……」
ここまで来れば『それ』が何なのかは分かる。
「ネクサスですか?」
「正解だ。そして誰もが思った。不自然な程に同時に現れたオーバードラッグとネクサスが無関係なわけがないと」
フェンもまた喉を潤す為に、手元にあったコップの水を飲み干すと、話を続けた。
「そしてその考えは正しかった。後の研究と調査でネクサスとはオーバードラッグを摂取した人間がごく稀に至ってしまう到達点の一つだという事が分かった。」
「……」
驚きはなかった。むしろ納得していた。
何故ならばそれなら話の辻褄が合うからだ。
平凡な自分が特殊な人間に変化してしまう特異な原因などそれ以外に考えられなかったから。
「……逆はどうなんですか?」
「ん?」
「人間からネクサスになるという事は、ネクサスから人間に戻る事も出来るんじゃないですか?」
「……ないな。現状ではたった一つもまともな治療法は見つかっていない」
一縷の望みをかけての問いは容易く蹴散らされてしまった。
「発生から現在までオーバードラッグは研究され続けているが、分かっている事はほとんどない。その製造方法も一体何で構成されているのかも、解明されていない。二十年経った今でも存在自体がブラックボックスなんだよ」
「……」
つまり希望はないという事だ。
(私はもう――)
普通の人間には戻れない。
「……普通の人とネクサスの違いはなんなんですか?」
だからこそ聞かなくてはならない。
今の自分の現状を。変わってしまった自分の身体の今を。
「まず身体能力などの大幅な強化とオーバードラッグに対する強い耐性の獲得」
そこでフェンは話を区切る。ほんの少しだけ言うのを躊躇ったようであったが、やがて口を開いた。
「……そして最も厄介な特徴としてオリジナルのオーバードラッグの<ruby><rb>生成</rb><rp>(</rp><rt>・・</rt><rp>)</rp></ruby>と<ruby><rb>作成</rb><rp>(</rp><rt>・・</rt><rp>)</rp></ruby>ができるようになる」
「オーバードラッグを?」
作れてしまう?
「ああ。今世界にあるオーバードラッグはそのほとんどが、ネクサスとなった人間が作ってしまった物だ……今回お前が被害にあった『催眠アプリ』も作成型のネクサスが作り出した物だろう」
「……作成型ってことは、生成型の人もいるってことですか?」
言って茜は気が付いた。既に自分は生成型のネクサスのオーバードラッグを体験している事に。
「まさか……」
茜が思わずフェンとそして彼の隣で控えるリルを見る。
「そうだ。俺とリルは生成型のネクサス……生成型は身体の中でオーバードラッグを生成し、自らの意思でそれを操る事が出来るようになる」
サングラスを外し、フェンは幾何学模様が刻まれた左目を茜に晒した。
「俺はこの左目。そしてリルは全身からオーバードラッグを生成し、発動できる……もっとも、リルは自分のオーバードラッグを完全には扱えていないがな」
「……申し訳ありません。マスター」
「謝るな。攻めたわけではない」
謝罪したリルの頭をフェンはあやすように優しく撫でるが、今の茜にはそれを気にする余裕はなかった。
「私は……」
「ん?」
「私はどっちなんでしょうか?」
生成型と作成型。
どちらがいいかは分からないが、それでも自分がどちらに属するのかだけは知っておきたい。
「すまないが、それはまだ分からん」
だがフェンの答えは残酷であった。
「オーバードラッグは従来の麻薬のように検査等で発見することは出来ない。だからこそ俺もお前に自分のオーバードラッグを使い、その耐性でお前がネクサスかそうでないかを判断したんだ」
……あの行動にはそんな意味があったのか。
「いずれお前は衝動的にオーバードラッグを作るだろう。その時に始めて自分が生成型か作成型かが分かる」
「……」
茜はもうフェンと目を合わし続ける事が出来なかった。
自分がいかに危険な存在になってしまったのかは分かった。
途方もない状況に陥っている事も理解出来た。
「私はこれからどうなるんですか?」
だからこそ茜は知りたかった。
自分の未来を。これから何が起こるのかを。
「まず大前提として――だ」
その問いに対して、フェンの返答は迅速であった。
「お前が自らのオーバードラッグを悪用しない限り、俺達がお前に危害を加えることはない」
「……それって、悪用したら危害を加えるってことですよね?」
「……」
返答はない。だがその沈黙が肯定だというのは茜も理解していた。
「佐藤 茜」
名を呼ばれた。だが今の茜には顔を上げる気力はなかった。
「正直に言おう……今回の『催眠アプリ』事件が解決した時、お前に与えてやれる選択肢は二つだけだ」
「……随分少ないんですね」
自由なんてあったものではない。
「だからこそ目は逸らさずに自分の意志で選べ」
「……言ってください」
だがやはり茜は顔を上げ、フェンを見る事が出来なかった。
「ああ」
だが構わずにフェンは言う。
「一つはネクサスになった自らを否定し、運命から逃れ続けるか」
「そしてもう一つはネクサスになった自らを肯定し、運命と戦い続けるか」
「好きな方を選べ」
どこまでも残酷な選択肢と何よりも残酷な自由を。