―――極上の女だ。
白い肌は熱を帯びて僅かな赤身に染まっている。触れる肌からその熱の感触を感じられる。体を寄せ合い、互いの体の熱を感じ合うように密着する。熱が逃げないように、お互いの存在を証明する様に。肌と肌をこすり合わせながら顔を寄せ、舌を伸ばして先端を軽く突きながら絡め合い、唇を重ねる。
或いは一種の熱病だった。
それ以外に考えられない。
だがお互いに、魘されるように貪りあっていた。
唇を重ねてから手を腰へと回し、腰を抑えながら既に挿入してある逸物を押し込むように膣の奥を圧迫する。彼女の口から快楽の息が漏れ、唇を重ねる合間に息を求めて口を開く。だがそれも一瞬の事で、直ぐに唇を重ねる事に戻る。そこに自分の存在があると証明する様な情熱的な求めに、ただそれに反応し、そして求める事だけが思考に残される。
故に抱く。
抱き寄せて、相手を上に乗せる。腰を突き入れたまま、彼女を上に抱えるように抱きしめながら軽く腰を動かす。その肌にも負けない美しい、雪の様な白さの髪が降りて来る。倒れ込んでいる彼女の上半身が腰を動かす度に軽く跳ねて胸板に豊満な胸の感触がぶつかる。それでも唇を合わせ続ける事を止めたくないのか、快楽の声と息を漏らしながらも、跳ね上がる体に反して顔だけは寄せたまま、口を離そうとはしない。
愛らしく、可愛らしい姿だった。
その仕草にただただ理性が溶けて行く。
我慢の出来ない射精感に腰を抑えながら膣の一番奥深く、そこに一気に精液を流し込んで行く。頭を満たす幸福感に包まれながらも、腰の動きが止まらない。体と体を絡め合いながら、まるで一つに溶けて行くような快楽の感触に夢中になってその女体を貪る。
互いに、そこに言葉を交わす事はない。
言葉を交わす様な余裕はない。故に、ただ単純に唇を重ね、腰を突き入れ、そして快楽を貪る。原始的なセックスの欲求をそのまま満たしていた。
互いに貪るように食い合いながらも感じるのは熱だった。体を絡め合うことが起きる熱だけではなく、心に広がる熱だった。まるでお互いにかけている何かを埋め合う様な、そんな感触が体を重ねながらも感じられていた。本能的に、自分が求めていた相手なのかもしれない。自分に足りていない比翼。そんな言葉が脳内に浮かぶが、良すぎる体の相性に全てが流されて行く。
位置を入れ替えるように彼女を横に押し倒して、そのまま上から覆いかぶさるように抱え、腰を最奥へと叩きつけて行く。彼女が逃がさないように、両手を首の後ろへと回して此方を掴んでくる。目の端に浮かぶ涙は果たしてどういう意味で流されているのか。
―――それを知る由もなく、ただただ、お互いを貪った。
目覚めは恐ろしいほどにすっきりとしたものだった。
頭はかつてないほどにクリアで、寝起きと共に眠気が一瞬で霧散していた。今からベッドを飛び降りてバク転できるレベルで頭の冴えは完璧だった。ここまで寝起きの状態で脳味噌が完璧に動いていることも珍しい。普通は割とベッドの中でうだうだやっているタイプの人間なので、かなり驚いている。いや、驚いて当然の状況なのでそりゃあ驚くだろうという話ではある。
冬―――かなり、寒い時期となっている。
窓はカーテンが閉まっていて見えないが白く曇っているだろう。そしてその向こう側では雪が降り積もっているに違いない。間違いなく昨晩は雪が降っていたからそれは解る。そして今、それだけ寒い事であるとも証明できる。ベッドの布団を剥げば恐ろしいほどに寒く、早く服を着こまなければ風邪をひいてしまいそうな寒さだ。
こういう時は布団の中に感じる暖かさにもう一回目を閉じて、ゆっくりと二度寝をするのが最高なのだと個人的には思っている。実際、これが社会人にとっての最高の贅沢の一種ではないのだろうかと思う。時間の浪費具合とかを考慮すると、大人になってからは無駄に二度寝する事なんて中々できやしないのだから。だから、普通ならこのまま二度寝入っても良いコースなのだと思う。
普通であれば。
つまりはその普通を吹っ飛ばす要素があるのと、普段は頭に残る様な眠気を吹っ飛ばす重大な要素があるという話になってくる。
目の前の存在だ。
ベッドの中で、今、自分の横で寒さに負けないように確かな熱を主張する存在がある。
女だ。
長い白髪の女がいる。
自分の直ぐ横、左腕を胸と股の間に挟むように両手で抱き着きながら目を閉じている女だ。左腕からは眠る彼女の体温の高さを感じられる。ベッドを抜ければその外は寒いからかもしれないが、彼女は出来うる限り体を密着させている。そのせいで逃げられないし、体の柔らかさをダイレクトに腕に感じられる。
抱き着かれている腕は胸に挟まれていてそれに挟まれた熱と柔らかさを二の腕辺りで感じ、掌は股の間に挟まれていてそこに溜まった熱を感じさせられている。ちょっと、体の柔らかさを感じていて脳味噌がどうにかなってしまいそうだった。
「……」
だが不思議と、邪な気持ちは一切沸き上がってこなかった。全裸の女が―――それも、確実に美人と呼べるような類の女が直ぐ横で眠っている。普通であれば焦って叫んでしまいそうなこのシチュエーションでも、不思議と驚きや困惑よりも、心に安らぎを感じていた。どうしようもなくこの女に心惹かれていた。その感覚を、強く、これまでになく強く感じ取っていた。
女は―――彼女はどことなく、幸せそうに眠っている。目を閉じて、安らぐように僅かに胸を呼吸に動かしながら静かに寝息を立てている。
不思議だった。本当に。
最初は驚きと困惑があったが、それが消えて胸の中で愛しさが広がって行く感覚が。今まで感じた事のない感情だった。いや、愛も恋も知っている。だがそれとして、ここまで強く、まだ出会って僅かな相手を想う様な事はなかった。
これがアレか、巷で噂となっている、
―――一目惚れ、という奴だろうか。
ダメだ、言葉にすることが出来ない。ただ、事実としてこの女を大事にしたいという気持ちがあった。それが今の自分の中にある全てだった。こんな事はあり得るのだろうか? いや、あり得るあり得ないではなく、実際こうなってしまったのだが。
ただ、やや昨晩の出来事が曖昧になっている。なんで、自分はいきなりこんな美女とベッドインしたんだ? どこで出会ったのか。
その記憶がさっぱり、頭から抜け落ちている。
えーと、あー、なんだっけ。
思い出そうと空いている方の片手で頭を押さえようとしたところで、
「んっ……」
「……っ」
身じろぎした。軽く体を動かして、更に強く腕を抱え込まれる。その口から声が漏れて、そしてゆっくりと暖を取ろうとして顔を、首元に寄せて来る。首元に触れる髪の感触がちょっとくすぐったく、体を揺らしてしまった。それで意識が覚醒してきたのか、体を寄せて来る彼女が首元に頭を乗せたまま、目をゆっくりと開けるのが視界の隅に見えた。
そうやって目を開いた彼女は顔を上げて、視線を此方へと向けた。
自分も抱き着かれた状態で視線を向けて、合わせる。
「……」
「……」
お互いにそのまま無言で見つめ合い、そして言葉を失った。言葉を失った状態からどうするか考えが頭の中でぐるぐる回り、何かを言わなきゃと思って、必死に言葉をひねり出す様に口を開く。
「……」
「……」
―――喋るタイミング被ったぁ……!
間違いなく、間違いなくお互いに最悪のタイミングで口を開いた。どうしようもないほどにお互いの発言を潰してしまった。だが逆に言えばチャンスだ。その直後に言葉を発せば、たぶん被らないだろう。だから迷わず言葉を続ける。
また声が被った。
声どころか喋る内容まで被った。余りにも奇跡的としか表現のしようのない状況、状態に、視線を合わせると笑みを浮かべながら、
「ぷっ」
「ふふっ」
互いを見ながら軽く笑い声を漏らしてしまう。特に何か、特別馬鹿みたいと言う訳でもない、小さなことなのに、そんな小さなことでさえ今は物凄く面白く感じられた。こんなのは初めてだった。お互いに見つめ合い、小さく笑って、
「おはよう」
「えぇ、おはよう」
そうやって、ベッドの中で朝の挨拶をした。
それから寒い外へと抜け、シャワーを浴びて昨晩の汗などの体液もろもろを流した所でさっぱりとした朝を迎える事が漸く出来るようになった。
彼女も彼女で、大きめのトランクケースの類に最低限の下着の類の着替えは用意しておいたらしいので、着替えの方は問題がないらしかった。シャワーから出て来ると、おぼろげに昨晩見た記憶のある、黒いインナーに赤いフリルの付いたスカート、そして上からケープの様な、やや珍妙に思えるが似合っている様子のある格好をしてきた。白い髪とは対象的な装着している黒いリボンが特徴的というか、妙に印象的だった。
後は赤い髪留めだろうか。そこだけがどことなく、彼女の中では子供らしい部分があった。
ただその全てをひっくるめて美しい女性だった。その事実だけはまず間違いがない。
リビングのソファに、向かい合う様には座れないが、L字型に配置されているので顔を向け合って話す事は出来る。そういう意図をもってソファに座って、彼女の事を待っていた。
「シャワー、大丈夫だった?」
「あ、うん、何も問題なかったわ」
そう言って彼女は直ぐ横に座った。シャワーを浴びてきたばかりだからか、直ぐ横からはシャンプーの匂いと、しっとりした髪の気配がする。露出している首筋が妙に艶めかしく、この場で襲いたくなってくる。その衝動を堪えながら、
「あ、えーと……その」
「あ、うん……はい」
なぜか、両手を膝の上に乗せながら背筋を伸ばしてしまう。
……妙に緊張してしまう。
止めだ、止め止め。
深呼吸をして、軽く息を整えながら自分の心を落ち着ける。変に意識する必要もない。もうちょっと自然体で―――いつも通りの自分で向き合えばいいのだ。だから必要以上に緊張する必要はない。
「あー、そのなんだ」
「うん」
「お互い、こう言っちゃなんだけど色々と衝撃的な夜を過ごしたと思うんだ」
「そ……そうよね。衝撃的な夜だったわよね。うん」
その言葉に彼女が頷く。確かに非常に衝撃的な夜だった。大体の出来事が頭の中から抜け落ちるぐらいには。
「だからさ、ちょっと改めて自己紹介というか……頭から抜け落ちている事、確認しない?」
「そうね……私も昨夜の事はちょっと頭から抜けているし……」
うん、まぁ、そこら辺はしょうがない。間違いなく酒は入っていない筈なのだが。それでもこうなっている以上、何かがあった筈なのだ。
……あったよね?
思い出そうと頑張ってみるが、昨日、特に何かあったような覚えはない。ともあれ、横に座っている彼女へと向けて、改めて自己紹介する。
「あー、俺は
「ミコト……ミコトね、良し、覚えたわ」
名前を抱く様に両手を胸に合わせて彼女がそう言った。仕草の一つ一つが心に来るのをどうにかして欲しい。見ているだけで辛いんだ。本気で誰かに恋をする、というのがここまで自分の脳味噌をぶっ壊すなんて事、思いもしなかった。古今東西、恋愛話で人間が破滅する理由をここに理解してしまった気分だ。
「で……君の名前は?」
「私は―――」
私は、と彼女が言葉に詰まった。少し不安そうで、心配そうな表情。なんと答えればいいのか、そういう事に悩んでいるような表情だった。ここにきて、そんな彼女を見た所で、彼女の纏っている雰囲気がどことなくだが、実家やどこぞの神社に居た連中の事を思い出させるような、それに近い雰囲気を纏っている気がした。それを考慮しつつも、関係ないな、と自分の中で即座に結論をつける。
「あっ」
そして彼女の両手を取った。何も言わない。ただ、微笑んだ彼女の眼を見た。赤い、血の様に赤い色の瞳を。まるで―――まるで、人じゃないような美しさを―――そう、そうだろう。その瞳の輝きを表現するのであれば、
その瞳の中に映る自分の姿を見た時―――彼女の口が開いた。
「神綺。私の名前は神綺」
「宜しく、神綺」
「うん、宜しくミコト」
名前を交換しただけなのに、何故こうも嬉しくなるのだろうか? 馬鹿みたい、と思いながらも気持ちを抑えきれずに、表情に出てしまう。流石にそれを直視されるのは恥ずかしいので、視線を反らしながら誤魔化す様に言葉を続けた。
「あー、えっと、そうだそうだ。で、俺達は昨晩初めて出会ったので正しいよな?」
「そうね……そうなるわね。少なくとも私はこっちの方へと今まで、来たことはなかったから。だから会うのは初めての筈よ」
「だよな、だよな……」
だとしたらマジでなんでベッドイン出来てしまったのだろうか。自分はそこまで軽率な男ではないと思いたいのだが―――あぁ、いや、しかし、滅茶苦茶嬉しいのも事実なんだ。いい加減うだうだ言っているのを止めろよ、俺。格好悪いだけだろうそれって。
「ミコトが雪の中で倒れている姿を見つけた時は思わず声をかけちゃったわね」
「俺そんな事になってた?」
「うん、こう……こんな感じに……こう」
振り返って神綺を見れば、ジェスチャーでどんな感じで自分が倒れていたのかを表現しようとしていた。両手を大きく動かす姿にちょっとだけ笑いをこらえながら、神綺に指摘されて少しずつだが昨晩の出来事を思い出してきた。
「あー……思い出した思い出した。最終選考に落ちて腐ってたんだ」
それでもアルコールは入れてなかったのが。それでもどう見ても俺の書いた奴の方が面白いのに、糞みたいなのが大賞を受賞して、それにキレて外へと飛び出したのが原因だった筈だ。今思い出すとかなり恥ずかしいというか、馬鹿々々しい事で外に飛び出していたな、俺。
「糞みたいな世の中を呪いながら軽く自棄になってたな、思い出してみると。うわ、死にたくなってきた」
「だ、駄目よ? 自棄になって命を捨てちゃ?」
その、と神綺が恥ずかしそうに俯きながら囁く。
「私が、寂しいから」
「お、おう」
すぐさま視線を反らす。顔が恥ずかしさとか諸々の感情でとてもだが見せられない状態にあると思う。鏡で見たらたぶん、気持ち悪いって殴り飛ばしたくなるような表情をしていると思う。だからとりあえず、両手で自分の頬を軽く抑え込んで、元に戻してみるように努力してみる―――駄目だ、戻りそうにない。
良し、話題を進めよう。そっちが本題だし。
「あー、その……なんだ」
昨晩の情事を思い出したら一気に恥ずかしくなってきた。それで何のことを話そうとしているのかを察せられてしまった。神綺も神綺で、恥ずかしそうにし相槌を打つ。
「う、うん」
「昨晩の事は、さ……ほら、あー……」
片手で顔を抑える。
「お互いさ、かなりノリノリだったじゃないか」
「そ、そうよね……私もかなりノってたのは……うん」
恥ずかしくて死にそうだけど、まぁ、男だし。心の底から惚れているのが本当なら、口に出して言わなきゃいけないのは俺だし。そこは、ほら、男としての矜持ってもんがあるだろう?
「まぁ、それが一夜の過ちとかなら……あぁ、悪い。謝る。きっと悪いのは俺だろう。いや、
その先の言葉を塞ぐように、指先が唇に触れた。視線を真っ直ぐ向ける神綺の姿がみえる。
「いいえ……いいえ。その先を言わないで」
神綺が微笑みながら言葉を続ける。
「確かに、そこに勢いはあったわ。だけど、それでも誰でも良いという訳じゃなかったの」
唇から指を離し、此方の両手を彼女の両手で包んでくる。指の―――手の感触が、自分のよりも細く、そして柔らかい。そのまま力を籠めたら折れてしまいそうな、そんな弱さが彼女には感じられた。
「雪の上で転がっている貴方を見た時、驚いたのと同時に少しだけ、笑ってしまったのを許して。見た瞬間、私の魂が貴方に惹かれるのを感じたの。ねぇ、私の自惚れじゃなければ……貴方もそう、よね?」
「それは―――」
恥ずかしい。口にするのは恥ずかしい。
だけど真っ直ぐ此方を見て、神綺が俺にそう言っている。だから、
「あぁ、白状する。一目惚れだった。君の言う通りだ。まるで魂が君に惹かれているような気がするんだ。こんな、こんな気持ちは……」
「初めて?」
「あぁ」
「私も……初めてだったわ」
その言葉にドキリ、と胸が跳ねる。一度認めてしまえば簡単だ。この人が欲しい。この人が愛しい。この人と一緒に居たい。その欲求が胸を満たす。だからだろうか、
「その……行く場所は、あるのか?」
「ううん……逃げてきたの。頼る相手も、場所も今はないわ」
包まれる手をほどいて、軽く掴む。
「だったら……その」
「……うん」
「その……」
「……」
あぁ、糞、喉まで言葉は出ているのに! 中々言葉に出て来ねぇ!
だが神綺を見れば解る。期待する様な視線を向けてきている。自分が勘違いしていなければ、きっと、彼女は自分と同じ思いを抱いている筈だ。だとすれば、それを口にするのが男という奴だろう、
―――気合を入れろよ、俺!
「行く場所がないなら……ウチで、暮らすか?」
「貴方が許すのなら……喜んで!」
「うぉっ」
言葉と共に神綺が飛び込んできた。それを両手で受け止めながら視線を合わせる。微笑む神綺の姿を見返しながら―――唇を重ねた。そこに迷いも、嫌悪感もなく、
互いの愛を確かめ合う様にまた、体を重ねる。
見覚えがある? リメイクかもしれないかもしれない。
色々と練習を含めてプロットは完結まで構築完了してる訳じゃが。えっちからスタートもたまにはいいよね!
メインヒロインは一人のみ。
きっとほのぼのになるさ。てんぞーを信じろ。これは日常ものになるんだ。