魔神。
それは魔界出身の神である。
魔界という別次元、或いは異世界とも呼べる一つの世界に君臨する神々であり、地球とは根本的に違うルール、法則、そして信仰形態を得ている。それらの存在を地球側の宗教は、
悪魔と表現する。
つまり
正確には魔界の機能を司っていると言っても良い。その為、魔界が滅びない限りは殺しても再び蘇る。地球の神々に匹敵する力を魔神は持っているが、同時に魔界の化身でもある為、地球側では本来の力を発揮する事が出来ない。故に、悪魔という形で存在が分割されたり、悪魔という子を産みだしたり。それで地球に侵入して遊んでいる。
「はい、先生質問です」
「蓮子どうぞ」
京都、嵐山の竹林を眺められる甘味処にメリーと蓮子と一緒に団子を食っている。団子、そして緑茶。シンプルだが暴力的に幸せな組み合わせだと思っている。なんだかんだで舌は日本人だから、ケーキとかよりもこういうのが好きなんだよなぁ、と思う。こういうの食っている間は大人しい昔の自分を思い出す。
「大体の魔神=悪魔って認識なのは解ったけど……なんでそうなったの?」
「聖書陣営」
蓮子は数秒ほど考えるように首を捻ったが、直ぐに応えに行きついた。まぁ、宗教を学んでいればここら辺は簡単だ。
「あー……」
「異端、異邦は昔は排斥されたものだからね。当人たちは別として、その下に居る人間ってのは威光でどれだけ楽をするのか、権威を高めるのかというゲーム遊んでるから。だから自分たちとは違う法則を異端として処理する為に悪魔という概念を生み出して、上書きしたんだよ。地球では連中が万全に力を振るえない理由でもあるな」
幻想や神秘は型に嵌める、という事が出来るのが一つのポイントだ。だから概念勝負的な部分で圧勝出来る要素が残されている。悪は善に勝てない。その二元論が地球の幻想側では永遠にルールとして残されている。
「ま、世の中ルール用意する奴が最強だって話だよな」
だからこそ概念系能力は強い。
「はい、じゃあ今度は私が質問」
「おう、なんだ」
「魔界ってワードがナチュラルに出てきたけど……どういう場所なの?」
横でみたらし団子を食べているメリーの言葉にそうだなぁ、と答える。
「簡単に言えば―――一つの世界だな」
簡単に言えばそうなのだが、根本的な法則が違う世界とでも言うべきだろう。地球とは異なる経緯で創造され、そして異なる法則で運用されている世界。異世界という言葉が一番適切だろう。魔界神と呼ばれる神が今も魔界に存在し続けるのが原因とか、或いは元凶とか。そんな風に言われている。
「まぁ、簡単に言えば
「魔法文明」
「そうそう」
食べ終わった団子の串を皿の上に置きながら、湯のみを取って口の中に軽く含み、甘さを洗い流しながら話を続ける。
「そうそう。俺たちの世界は神秘が薄めだったから科学文明としての成長と発展を行っている。現代を見れば解るけど神秘や幻想は最終的に駆逐されて、オカルトの類は数世紀先の未来では
この科学文明世界における象徴とも呼べる人間だろう。岡崎夢美。アイツは、人間が到達するべき5世紀先の未来に生きているような才能と技術力を保有している。それも、個人という規格で。この地球で最も科学力の発達した、機械文明の申し子。それが岡崎夢美だろう。
まぁ、その割には生粋のオカルトマニアなのだが。
だから、まぁ、神綺から魔術神の匂いを感じ取ってしまったのだろう。夢美は神綺に京都案内するとか言って神綺を連れ去ってしまった。絶対に昔の話をネタに盛り上がるに違いない。アイツ、その内絶対に泣かすからな。アイツが知っている俺の話なんて悪行ばかりに決まっているじゃねぇか。
「話が逸れたな」
「先生って教授の事好きだよね」
「友人としてはな。異性としては無理だよ、お互いに。まぁ、話を戻すけど……」
「露骨に話題を反らす……怪しい」
「話は、戻すけどな?」
魔界は魔法文明だ。地球が機械、科学文明の道を選んだように、魔界は魔法という手段を文明を発達させるための手段として選んだ。移動する為に地球は馬を利用し、それから馬車を作り、それが最終的に車や飛行機へと繋がった。
だが魔界は別の進化を選んだ。技術を科学ではなく、魔法を発展させる事を選んだため、連中は高速で移動する魔法、空を飛ぶ魔法、そして転移する魔法。そういう風に文明を発達させたのだ。何か不便があるのであれば、それを解消する為の魔法を構築するという風に進んで行く。そうやって魔法文明は構築されたのだ。故に、魔界という異世界は常に魔法の神秘と隣合わせの世界でもある。
「ちなみに一般的な魔界のイメージは不毛の荒野で暗闇に溢れ、常に餓えているような大地だろうけど……んなこたぁない。ふつうに太陽の光があって、空気があって、草原や夕暮れ、海に空、宇宙まであるらしいな」
「魔界というイメージが崩れるなぁ……」
「ま、そこは魔という存在そのものを敵として捉えようとした宗教の努力さ。俺たちの日常生活、その根幹には絶対的な宗教色が残されている。何気ない考えやイメージ、生活習慣でさえ大昔に宗教を通して構築されたもんがほとんどだ」
だから魔界は異世界という言葉が近い。
「ただ、まぁ、地球よりは若いな。魔界。出来たのが月の民が地球を離れる前の事らしいけど……そこらへんは自分で調べてくれ。魔界の歴史にまでは俺、詳しくはないから」
「いや、ミコトさん? ミコトさんが知らなきゃどうやって調べればいいのよ」
メリーの話には一理ある。だけど知らない物は知らないのだ。地球の歴史と宗教を網羅しておくだけで俺の脳味噌も割と限界なので許してほしい。
「ちなみに魔界の宗教だったらちょっと魔術関係で齧る必要あるから知ってる」
「微妙に自慢げ」
悪魔を相手にインタビューするのは初めてじゃない、という事だ。ちょくちょくこちら側の世界に出現してはちょっかいをかけているのだから、接触する機会は実はそれとなく頻繁にあるのだ。だから軽く捕まえて拷問すればいける。連中、基本的に自分の方が上位生物だと思っているからマウント取って脅迫すればすぐに吐いてくれるのが実に楽で良い。
「先生、時々滅茶苦茶乱暴だよね」
蓮子が軽く引きながらそんな事を口にする。失礼な、と答えるが否定は出来なかった。
「まぁ、お前らも此方側に首を突っ込み続けるならこれぐらい暴力的じゃねぇとやっていけねぇからな。気を付けろよ」
「はーい! 前回身に沁みました!」
「だからこれからは積極的にミコトさんを盾にする事にしました!」
「後教授!」
「お前らなぁ……!」
判断としては全く間違ってないけど、そんな事するなら最初から―――あぁ、いや。そもそも夢美が顧問の時点で関わらないとか言う選択肢は無理だよなぁ、と諦める。
と、そこで茶を飲み終わった。団子のお代わりも貰っていい感じに腹が膨れたし、そろそろ探索の準備に入る。ジャケットのポケットに手を突っ込みながら紙の束を取り出す。それを見た蓮子があっ、と声を零す。
「私それ知ってる。式神って奴よね?」
「メジャーな陰陽術だから流石に解るよな―――ほら、魔神を探してこいお前ら」
掌の上に乗せた紙の束に息を吹きかける。それが掌から吹き飛ばされるように落ちれば、手から離れた瞬間に紙から赤い鳥へとその姿を変貌させ、京都の空へと飛びあがっていく。朱雀辺り呼べたら楽なんだろうけどなぁ、とは思わなくもないが、流石に無駄に霊力を使うのはもったいない。
それに蓮子とメリーが赤い鳥が一斉に空へと散らばって行く姿を見て、目を輝かせているからこれで良いだろう。
「自分で歩き回るのも一つだけど、これで範囲を絞った方が楽だからな」
「先生、殴るだけじゃないんだ」
「もっと別に魔術使ってただろ?」
「いや、でも殴ってる印象が強いし。殴ってる時が一番強く見えたし。正直魔術とか魔法とか言われてもあんまり良く解らない」
「こいつ……!」
あの時は武器を持っていなかったからしょうがないのだ。蓮子にはまた後日、ちゃんとした自分の姿を見せなくてはならない。そう、心に硬く誓った。でも考えてみると、武器を使うよりも体を使っている方が楽なんだよなぁ、とは思わなくもない。
「ま、後は軽く京都を式神に探索させればいいさ。それで見つからなければ裏京探索かなぁ」
妖怪が京都から消え去ったどれぐらいだろうか。もう、裏京にも妖怪の類はいないのかもしれないが、隠れるとすればそこだろう。ただとりあえず今日は表側から探索する。そう考え、青空を眺めながら追加のお茶と団子を注文する。
やって来た白焼きの団子をほお張りつつ空を見上げ、
「平和だなぁ」
「平和ですねぇ」
「見飽きた空だなぁ。また月に行きたいなぁ」
「月はほんと勘弁」
月の都の人々は元気だろうか。ご先祖様共は今日も元気に穢れ穢れと面倒な人生を送っていないだろうか? まぁ、どちらにしろどうでもいい話だ。少なくとも俺の人生には一切かかわりはない。
「いや―――流れ次第じゃありえるのか?」
「月がどうしたの先生? 落とすの?」
「俺にも不可能な事はあるから」
蓮子の言葉にツッコミを入れつつ、千里眼で未来が見えないのは不便だなぁ、と改めて痛感する。昔はそれで未来を見て自分の行動の成功を確定させられたのだが。まぁ、今じゃ夢美が夢幻伝説で似たような事をやってのけるが。あの女本当に人類かよ。
「ま、なるようになるか」
流れは確実にある。それを肌で感じている。とはいえ、こういうのは何もしなくても向こうからやってくるのが目に見えている。だとすれば急ぐ必要もない。
「夢美と神綺は何をしているかねぇ」
「ミコトさんの取り合いとかしてたら絶対に面白い」
「ないない」
夢美に限ってそれだけはない。寧ろなぁ、と思う。
「―――アイツ、結構容赦ねぇから神綺虐められてねぇか心配だよ」
―――同刻、
京都某所にて、神綺と岡崎夢美が正面から向かい合っていた。
赤―――圧倒的赤。真っ赤な衣装に身を包んだ岡崎夢美という女を表現するのであれば、赤という言葉が最も正しい。人類最高の技術力。生まれる時代を間違えた女。時代を超えた人間。最高峰の人類。そう呼ばれる女は腕を組み、楽しそうに、面白いものを見るように神綺を正面から見ていた。
「それにしてもこうやって
その真実を何の躊躇いも予兆もなく夢美は口にした。それを受けて神綺は驚いたような表情を浮かべた。魔力も神気も隠した上で、服装も魔界の頃とは違うもの―――現代日本の若者風のカジュアルファッションを纏っている。目を引く美人である事を除けば、神綺の姿はもはや普通の女と変わりはなく、そういう生活も送ってきた。それ故にいきなり夢美が切り出した言葉に神綺は驚き、しかし次の瞬間には平静を取り戻していた。
「そう、幻想郷に来たことがあるのね貴方」
「えぇ、一度だけですけど」
即座に言葉を斬り返してきた神綺の様子に、夢美は素敵、と声を零しながらご満悦、と呼べる表情を浮かべた。その表情に何かを感じ取った神綺は身を守るように腕を胸元へと寄せる。だがそれでさえ、魔法や魔術の類は使わない。純粋に、守る様なポーズを作っただけだ。
それを見て楽しそうに夢美は笑みを浮かべながら、
口を開く。
「さ―――話し合いましょう、神綺」
夢美が京都で、男の懸念通り嗜虐的な表情を浮かべながら、人間という立場で神を威圧してた。
夢時空経験済み教授。
東方キャラで好きなキャラトップ3は神綺、教授、幻月というオール旧作キャラの悲哀。