※この作品はR-18です。

幻想踏破譚   作:てんぞー

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秘封怪異録 Ⅱ

「あー、これとこれと……一応これも持ち込んでおくか」

 

 聖水、十字架、霊撃符、雷撃符、封魔針等と道具をクローゼットから回収する。全てが自分で自作した退魔用のアイテムの類だった。ベルト、ポーチ、コート、袖の内側、首の裏などに道具をいつでも抜き出せるように装着しておくのも忘れない。地味にこのセットを装備するのは糞重いのだが、刀やボウガンを持ち歩かないだけ、今日のセットはまだマシだった。フルセットとなるともっと持ち歩く道具が必要になってくる。それこそ戦争でもするのかというレベルの道具の量だ。とはいえ、これだけの量がないと今の自分が戦えないのも事実だ。

 

 昔であれば刀の一本でもあればそれこそ十分だったが、霊力、魔力の大半を失った今の身ではこれらの道具を駆使しないとまともに怪異の類とバトルする事は出来ない。まぁ、理想はバトルそのものをしないことなのだが、秘封倶楽部の周りの時空はやや歪んでいる様に思える。少なくともオカルト遠征に出たこの二人組が、何らかのイベントを外したという実績は今までに一度もなかった。

 

 つまり殺人鬼とのエンカウント率が大体100%ぐらい上昇しているとみている。間違いない、絶対に出会うだろう。となると事前に道具を仕込んでおかないと駄目だろう。少なくともそれで生存率上がるなら。

 

「ミコトさん、相変わらず銃刀法違反をぶっちぎってるわよね……」

 

 自室、クローゼットや棚から装備を回収している姿を見ながらメリーが呆れたように呟いている。

 

「これ、バレたら捕まるだろうと思うだろう?」

 

「物凄く」

 

「でもなぁ、なーんでか捕まらないんだよなぁ、これが」

 

「えぇ……」

 

 なんというか……認識が薄い? 持(・)っ(・)て(・)い(・)て(・)当(・)然(・)という認識があるというか。なんと言うべきか―――そうそう、日(・)常(・)と(・)非(・)日(・)常(・)の(・)境(・)界(・)が(・)壊(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)様な感じだ。だから持っていても不思議じゃない。誰も気にしない。咎めない。騒ぎにはならない。ここはそういう街だ。明らかに何かがおかしいのは事実だ。だけどそれを気にしない様に出来ている。誰かがそういう風にこの街を仕組んでいる。そしてそれはこの街にあふれかえる怪異に対して対抗する為でもある。まぁ、恐らくは―――という所だが。

 

「その違和感、忘れるなよ……って見抜くことに関してはメリーのが上手だったな」

 

「あぁ、ううん。私もこうやって心配して貰えるのは嬉しいので」

 

「その謙虚さが少しでも蓮子にありゃなぁ」

 

 蓮子のややいい加減というか雑な部分がまた男らしいというか。そういう部分があってこその蓮子なのだろうが。それでも待ち合わせに呼んでおいて自分から遅れて来るのだけは正直人としてどうかとは思うから直して、とは思っている。そんな事を口にしていると、部屋の入り口を蓮子が覗き込んでくる。

 

「先生呼んだー?」

 

「呼んでねぇよ。オラ、調査は足が基本だぞ。行くぞ馬鹿女共」

 

「馬鹿は酷いよ、馬鹿は」

 

「自分から致死性の怪異に飛び込んで行く奴を馬鹿以外のなんて表現すりゃあいいんだよ……」

 

「否定できない」

 

 蓮子とメリーが部屋から出ていくのを見てからもう一度クローゼットを確認し、必要最低限の道具は持ち込んでいるのを確認する。まぁ、怪異相手なら現状の装備でも問題はない。大体、表側の世界では妖怪の類は存在できなくなっているのだから。その為、怪異というルールに縛られた存在が出没する様になっている。

 

 それも大体聖人フラッシュでもすれば一瞬で浄化されて消える程度の強さだ。

 

 本物、と呼べるような連中はそれぞれの領域に引きこもっている。そうしなければならないというのが現実なのだが。

 

「ま、いいか」

 

 記事のネタになれば臨時収入にもなるだろう。そう思いながらクローゼットを閉めて部屋を出る。玄関へと向かおうとしたところで、軽く神綺に捕まり、抱き着かれながら頬にキスされる。

 

「行ってらっしゃい。信じてるけど……怪我しないようにね」

 

「解ってるって」

 

 神綺の頬にキスを返しながら軽く手を振り、玄関へと出る。靴を履いて扉を抜けた先で、物凄いにやついた顔をしているメリーと蓮子の姿が見える。顔面に冬の寒波を受けて軽く白い息を吐き出しつつ、二人へと睨みを返す。

 

「何が面白いんだお前ら……」

 

「いやいや……ねー?」

 

「そうよねー?」

 

「ほんと女子ってのはこの手のが好きだよなぁ。色物具合ではお前らの方がはるか上だろう癖に」

 

「あー、それ言っちゃう? それ言っちゃう!?」

 

「LGBTへの配慮云々云々」

 

「雑ッ!」

 

 この欠片も配慮も糞もない自由な感じ、まさしく秘封倶楽部だった。振り返って最後に家の中の神綺へとウィンクを送りつつ、扉と鍵が閉まる音を聞いた。これでこの二人組からは逃げる事が出来ない。両手をポケットの中に突っ込みながら、先を歩く二人組の数歩後ろを歩く。

 

「さぁて、遠征ももう何度目かになるけど……相変わらずこの奇怪な街の案内は任せたわよ」

 

「へいへい。あんまりはしゃいで近所に迷惑をかけないようにな」

 

「文句を言いながらもミコトさんって付き合いが良いわよね……」

 

 そりゃあ、まぁ、目の前で傷つくかもしれない人間を見て、それを放置出来る程無情な人間でいるつもりはないからだ。力を少しは持っているのなら、それを多少周りの為に使ったとしても、悪い事じゃないはずだ。

 

 そうだろう?

 

 

♦

 

 

 そうして、秘封倶楽部と街へと繰り出す。

 

 宇佐美蓮子が保有する力は通称、月と星から時間と場所が解る程度の能力と呼ばれているものだ。完全に蓮子の自称である上に、物凄いフィーリング的なオンリーワンの体系化されない異能とでも呼ぶべき能力となっている。だがその能力は割と凄いもので、月と星を確認するだけで現在の時間、そして自分の場所が解るようだった。

 

 その能力もまだまだ未熟らしく、成長途中であるのもまた事実。蓮子が持つこの能力に関する制限は、正確な時間の把握は日本国内に限られるという点であり、海外遠征をした時は時計を完全に捨ててきた蓮子が時間感覚を狂わされて相当酷い目にあったらしいとか。ともあれ、そんな蓮子の能力ではあるが、現在位置を把握する事に関してはGPSや某検索エンジンのマップ並みの便利さを誇っており、自分が今どこに居るのかだけではなく、写真の空を確認する事でそれがどこであるか、というのをまた把握する事も出来る。

 

 探偵にでもなれば楽に食っていけそうだこいつ、と思ってしまったのは秘密にしたい。

 

 そう言う訳で、スマートフォンに保存された写真を蓮子は確認し、それがどこの空かを把握していた。またそれを今の場所と見比べる事で、かなり正確に場所を特定することが出来るという荒業をこなす事も出来ていた。末恐ろしい人間型GPSシステムである。

 

 だがこんな蓮子の能力でさえ、特異さで言えばメリーのそれに劣る。この秘封倶楽部で活発なのは蓮子の方ではあるものの、能力的にずば抜けているのはメリーの方になるだろう。

 

 ただ、まぁ、今の状況に限っては。

 

「こっちね」

 

「犬みたいだなこいつ……」

 

「あー! 人が! 思っても言わない事を!」

 

「あーあ……」

 

 スマートフォンとまだ明るい空を見比べながら歩く蓮子の姿を見て、そんな感想を零した。それに猛反対する蓮子がトレードマークでもある帽子を片手で抑えながらわーわー文句を言ってくるのを、片耳に小指を突っ込んで軽く受け流す。だけど、ほら、犯人の匂いを追いかける警察犬みたいな様子だったし。そういう感想を抱いてもしょうがないのでは? とは思っている。

 

「もうちょっと神綺さんへと向ける優しさをこっちへと向けてもいいんじゃない?」

 

「惚れた女と惚れてない女で対応の差が違うのは当然にならないか?」

 

「うわ、ストレートに言った」

 

「気持ち悪いぐらいデレデレよね」

 

「気持ち悪いって言うんじゃねぇよ……」

 

 流石にちょっと傷つく。俺だって人間なのだから。

 

 だが此方のそんな思いも知らず、蓮子とメリーはまた恋愛話で盛り上がろうとしてくる。本当に女子はこの手の話題で延々と盛り上がれるよなぁ、と辟易しながら後ろからその姿を眺める。

 

「でもさでもさ、神綺さんもすっごいデレデレだったよね」

 

「新婚夫婦ってレベルよね。ミコトさん、結構ぶっきらぼうなのに神綺さんの前じゃ形無しだし」

 

「俺ほど慈愛に満ちた男も珍しいだろ。お前らの馬鹿げた遊びに付き合っているし」

 

「慈愛というよりは先生はアレよね。不器用というか。困っている人を知ったら助けに行く程じゃないけど、目の前にいると文句を言いつつ手を出すってタイプ。もしくは知り合いだったら助走付けて殴りに行くタイプ」

 

「そりゃあ……当然だろ?」

 

「世の中の人間はもうちょっと冷たいと思うよ。目の前で事故があっても関(・)わ(・)る(・)の(・)が(・)メ(・)ン(・)ド(・)ク(・)サ(・)イ(・)って理由だけで見なかったフリするのがほとんどだからね」

 

「そりゃあ根本的にそうなっている社会のがおかしいんだろう」

 

 人が人に対して無関心なのは本質的にはそう―――ではないのだ。人が人に対して向けるものはそもそもからすれば個人の主義や主張から来る。そしてそれを構築するのはつまり社会だ。だから人(・)間(・)と(・)い(・)う(・)生(・)き(・)物(・)は(・)社(・)会(・)に(・)よ(・)っ(・)て(・)影(・)響(・)を(・)受(・)け(・)て(・)変(・)化(・)す(・)る(・)生(・)物(・)だと考えれば良い。

 

 これに関しては人間の社会観、宗教観が大きく影響を与える。人間が人間に対する行動は基本的にそうやって構築されており、数百年も前にさかのぼればそれぞれの国、社会は宗教によって個人の価値観を大きく影響されていた。宗教という物はこれがまた厄介だ、戒律等が多く設定されている。だが逆に言えばそれは人を宗教を通して繋げる行いでもあるのだ。

 

 また同時に、宗教は人間が出す事の出来ない死の命題に対する唯一の救いだとも言える。

 

 故に昔、死生観を通して人間性は宗教が構築していた。

 

 だが今の時代はどうだ?

 

「ソーシャルネットワークの構築によって人間が好きな時に好きな相手と接続、会話、交流する事が出来るようになった時代だからなぁ……」

 

「好きな時に、好きな相手だけを見れれば良い……ってこと?」

 

「そういう事」

 

 ミュート、ブロック、クローズドコミュニティ。ネットワークによって俺達の環境は広がっているものの、実際接する人間の数、認識する相手の数に関してはそう多くはない。便利になった分、関わる必要のある相手だけを認識して生きて行くことが出来た訳だ。そして娯楽や人類全体の知能が上がった分、宗教という解釈が入る余地も削れてきているのだ。その影響で人間は自己で完結する様に生きていけるようになってきている。

 

 だから、まぁ、

 

「他人に興味のない人間も増えてきてるのか」

 

 考えてみれば割と簡単な話だった。

 

 後は、まぁ、

 

「せめて惚れた女に人徳を示さなきゃ男としてそれはどうなんだ、って話だ」

 

「……普段からそういう姿もうちょい見せてればミコトさん、モテたんじゃないかしら?」

 

「そりゃあ困る。俺が一生の愛を捧げると誓った女はこの世で一人だけだからな」

 

「うーん、茶化しても意味のないレベルでゾッコン。人ってここまで変わるもんなのね」

 

 そこに関しては俺も割と驚いている。ここまで強く、本当に強く誰かを愛する日が来るとは思いもしなかった。個人的に情の強いタイプだとは思っていたが、まさかここまで強いとは自分でも思わなかった。あまり、神綺を束縛しすぎていないか心配だ。彼女を独り占めしたいのも事実だが、そうやって拘束しているだけではただのダメな男だろうと思う。

 

 彼女の前では格好良い男で居たい。だから彼女に相応しい自分になりたい。

 

 と、きゃーきゃー言っている女子大生の正面、角を曲がって出て来る姿がみえる。黒い肌にスキンヘッド、なのにカソックの姿を見て、秘封倶楽部に横に退いとけ、と示しながら軽く頭を下げて挨拶する。

 

「おはよう神父」

 

「おはようございますミコト君。お仕事ご苦労様です。今日は死相が見えますよ」

 

「適度に気を付けておくわ。そっちもお祈りは程ほどにな」

 

「はは、こればかりは私の信仰心故に止められぬ事ですから。それでは」

 

 軽く言葉を交わしてから神父と別れる。その様子を見ていた秘封倶楽部が神父の背中姿を見ているのを理解し、

 

「ウチの街にある教会の神父さんだよ。ナイ神父」

 

「黒人?」

 

「見た目はな。こちら側の人間だよ。聖水とか、杭とか、そういう退魔用の道具を売ってくれるところの。仲良くしてると安くしてくれるから助かるよ。輸入しなきゃいけない素材とかあるしな……」

 

 退魔用の道具にはどうしても特産の素材が必要、みたいなケースもある。後は人骨とか。ヨーロッパ系統は特にそういうのが激しい。アジア系統のは材料は何でもいいけど手順の方が大切というのが多いからまだ楽なのだが。だからそれを手に入れる事の出来る人物とはなるべく仲良くしておきたい。

 

「やっぱりこの街だけ世界観違うわよね」

 

 それは作った奴に言ってくれ。その内、この街の成り立ちの歴史を調べるかもしれない。そうすれば何か、面白そうな事実でも見つけられそうな気配があるし。とはいえ、あからさまに危険な所に踏み込むのも今は家庭がある分、躊躇してしまう。まぁ、暇なときにでも調べればいいか、と結論付ける。

 

「うーん、結構近づいてきたわね」

 

 雑談しながら蓮子の後を追えば、目的地が近いのを蓮子が口にする。写真に出ていた夜空、それを確かめるように蓮子がスマートフォンと街の様子を確認し、方角を確かめる。それを交互に確認しながら蓮子が頷き、

 

「あっちの方ね」

 

 と、視線を向ける。その方角へと視線を向け、

 

「あっち、ってーと―――」

 

 蓮子が視線を向けた方、その方角を確認しながら口にする。

 

「博麗神社がある方だな」




 コズミックホラー系統もしっかりと完備されている世界。

 神綺とミコト君だけどだとひたすらいちゃえろしているだけのSSになるのだ!!
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