※この作品はR-18です。

幻想踏破譚   作:てんぞー

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秘封怪異録 Ⅴ

「あばよ―――夢想封印・滅」

 

 踏み込みと同時に拳を振るう。神(・)綺(・)と(・)交(・)わ(・)る(・)事(・)で(・)賦(・)活(・)し(・)得(・)た(・)魔(・)力(・)を(・)霊(・)力(・)に(・)変(・)換(・)し(・)、それを奥義、夢想封印として放つ。やりたくはない手段だったが、生命燃焼の作用を応用すればこれもなせる。それで一時的にリソースをかさまししながら夢想封印をもっと攻撃的に、対象を破壊する為の破壊力へと変えて放つ。

 

 拳が二度連続で放たれる。

 

 素早く放たれた拳が連続で閃光を生み出しながら異形の双頭を破壊する。完全に消し飛ばしながら仰け反る姿はまだ残された胴体などでがむしゃらに攻撃を繰り出す。それに夢想天生へと転じる事で即座に回避に入りながら横へと割込み、蹴りを叩き込んでその姿を蹴り飛ばす。横へと吹っ飛びながらも大地にデスサイスの切っ先を埋める事で動きを無理やり相手が止めてきた。

 

「え、先生つっよ」

 

「これでも結構無理してんだよ……!」

 

 夢想天生を今使うのは、深海の中でフルマラソンをしているような感覚だ。昔出来ていたからその感覚を引きずり出して使っているが、夢想天生も夢想封印も、今は霊力がミソッカスな状態では本来使う様な奥義ではない。それを別の術、信仰、宗教を経由する事でギリギリ使える状態まで縮小しているのだ。それでもまだ使えるだけ良い方だ。こういう奇跡の類を全く使えない方が普通の世の中なのだから。

 

「主の敵たるものに永遠の死を与えん―――Amen」

 

 動きを止めた異形へと向かって聖水を洗礼詠唱と共に投擲する。ヨーロッパ系の聖教系統の魔術はこういう異形に対する再生阻害、弱体化能力は非常に有利に入る。故に持ち込んだ聖水の瓶を親指で弾いて壊しつつ、投げつける事で術を完了させる。聖水のかかった部位が酸がかかったようにじゅぅ、と音を立てながら溶かし始め、再生を邪魔する。

 

 だがそれを無視する様に再生し始める。

 

「じゃあ埋まれや畜生がぁ!」

 

 両手で印を結びながらそれを閉ざす動きへと変える。異形周辺の大地が隆起し、それがそのままプレスとなって異形を挟み込んで潰す。それを固めるように更に岩を生み出すが、その内側からめきめき、と岩がきしむ音を立てながら内側から這い出て来る、頭を備えた怪物の姿がみえる。あぁ、駄目だ。マジで打つ手がない。

 

「村雨丸もってくりゃあ良かったわ」

 

 童話の異形を封じる為に両手を合わせて印を結び、仙術を続ける。だがそれが望んだ結果を生み出し切れていない。そもそも空間に対する術の通りその物が悪い。その影響で全体的な効果が落ちている。土地そのものが死んでいるのだろうか? どちらにしろ、突破されるのも時間の問題だった。

 

「メリー?」

 

「今やってる、やってるけど……あぁ、もう! なんかぐにゃぐにゃしてる! なにこれ? 触ろうとしても触ろうとしても零れ落ちてく……!」

 

 メリーの悲鳴に近い声が漏れる。成果は芳しくないのがその声色から伝わってくる。焦っている様にも感じられるそれに何とか応えたいが此方も此方で抑え込むのが限界に近かった。既に獣が岩を内側から破壊し、這い出て来る瞬間だった。故にそれを迎え討つように、

 

「Oh lord, the almighty lord. With your eyes, you shall see that the sin shall be perished from the body」

 

 洗礼詠唱を行う。魔女狩りの時代、不死であった魔女を殺す為に生み出された古く、そして非人道的であるからと封じられた術の一つ。

 

 両手を解放しながら残された最後の8本の封魔針を両手の指の間に挟み込みながら、獣を束縛から解放し、解放された瞬間の獣へと向かって封魔針を投擲する。

 

「White(白く), white(白く), white(純白). Perished white as salt(塩の如く漂白されよ)」

 

 封魔針に反応する獣がデスサイスと腕を使って封魔針が刺さる前にそれを弾いた。だが封魔針に触れた事でその術が稼働する。腕を振るった獣のそれが後ろへと勢いのまま流れるのと同時に腕(・)が(・)純(・)白(・)の(・)塩(・)に(・)漂(・)白(・)さ(・)れ(・)て(・)崩(・)れ(・)た(・)。感染するように弾いた手から手首、肘、首元へと侵食する。

 

「不死の化け物を殺す為の倫理観ゼロの暗黒時代の産物だぞ……!」

 

 魔術的な洗礼である為、解除は無論可能だ。だがその手段を持っていない存在からすれば、それは触れた瞬間死に繋がる致命傷となる地獄の魔術でもある。これを考えた当時のエクソシスト共はイカレているとしか表現が出来ない。不死であろうと、無限に再生しようが、肉体の正しい状態を塩の塊として上書きする為、解除しない限りは塩になって終わるだけの不死殺しの奥義。放てば最後、そういう解除手段を持たない妖怪や怪異相手であればほぼ確殺と言えるレベルの殺傷力を誇っている。

 

 なのに、

 

「ありえねぇ」

 

 それは首元まで侵食し、塩となって体を崩して行く所で停止した。漂白が、純白化が停止した怪物はまさに無敵、不死身とでも表現したくなるような不死性を保有していた。そしてそれが保有する殺意という物が此方へと向けられる。がりがりと魔力と霊力、生命力を削られる感触を保有しながら、インレンジへと塩化した肉体が再生する怪物へと向かって接近する。

 

 拳を連続で振るいながら回避(グレイズ)を続行し、インファイトへと突入しながら攻撃を受けないように、捌き続ける。

 

「おー、先生凄いとは思ってたけどまだ無傷とかやるよね」

 

「お前さぁ!」

 

「まぁ、まぁ、先生。私も漸く推理が纏まってきたところだから。数個質問するよ?」

 

「ちょっと待て、今忙しい―――んだよッッ!」

 

 怪物の背中が割れる。そこから新たに腕が生える。尻尾がちぎれ飛んで足が増える。

 

「Hello, Mister. I’m Hunter」

 

 自己紹介と共に生(・)え(・)た(・)二(・)本(・)の(・)腕(・)が(・)ラ(・)イ(・)フ(・)ル(・)銃(・)を(・)構(・)え(・)て(・)い(・)る(・)。暴風の様に即死必死の乱舞を繰り出し続けながらも、その照準が真っ直ぐ自分―――ではなく、蓮子とメリーへと向けられる。

 

「夢想封印・瞬ッ!」

 

 刹那の撃鉄を引く。霊撃符を加速させながら爆裂させつつ夢想封印を放つ。瞬間的な加速による、最高速度を維持し続けて連撃するバリエーションの夢想封印を霊撃符によって放ち、生命燃焼の余熱を口から吐き出しながら全ての腕を広げるように弾き飛ばした。がら空きとなった胴体が口の様に大きく広がりながら噛みつくように此方へと胴体を伸ばして迫ってくる。

 

 法則も糞もあったもんじゃない。

 

「夢想封印・滅……!」

 

 だがそのまま、一切の躊躇なく拳をその中へと叩き込んだ。拳と破壊と浄化がストレートに叩き込まれ、妖怪、怪異という概念を浄化分解、そこから昇華する事によって対象を完全消滅させる。腹の奥にシルエットが見えただろう。それがコアだとすればこのまま消滅して死んでくれれば終わりになる。

 

 貫通痕が生み出され、反対側が見える。

 

 だが、動きは停止せず、銃口が此方へと向けられた。

 

「流石にしつこいぞ!」

 

 霊撃符が切れた。封魔針も尽きている。聖水も使ったし、十字架は効果のある相手ではないだろう。そろそろ本格的にヤバくなってきた。そう思いながら相手の動きを見切る。呼吸を読む程ではないものの、それでも経験と相手の技巧のなさから、軌道は読みやすい。更に近づきながら振り回される腕を取って、

 

 それを受け流しながら体を崩して森の方へと投げる。

 

「そぉら! はい、質問どうぞ!」

 

「問1、怪異とはこういう事が可能である」

 

「否! 怪異にしては強すぎる。妖怪の中でも大妖怪クラスでもなければこんなトンデモにはならない」

 

「問2、こういう環境は完全クローズドとなる」

 

「否、出入り口は絶対に存在しなくてはならない。それが異界、結界、それが大型化した場合の絶対的なルールである」

 

「問3―――」

 

 起き上がった獣に肉薄する。雷撃符を握り込みながら拳で武器と相手の攻撃を迎撃しつつ受け流し、蹴りを叩き込んで足を滑らせる。第三の足で相手が体を支え、滑るのを止める。そして接近したその状態、腹の中の女が手を伸ばしてくる。

 

 巨大な鋏を手に握って。

 

「舐―――めるな!」

 

 指の動きで雷撃符を投擲、それでショックさせて動きを停止させながら鋏を後ろへと下がって回避、それを回避してから再び踏み込んで肩からぶちかまし、相手の体を軽く持ち上げるように押し込み、そのまま吹っ飛ばす。

 

「問3、この手の生物その物を生み出す事は可能であるか否か」

 

「―――可!」

 

「問4、現実で可能か否か」

 

「不可」

 

 蓮子がにやりと笑うのが見えた。蓮子がストレートに状況を整理し、不明瞭な点を切り出してきたおかげで漸く合点がいった。ただ、ここまで凶悪で感じさせないのも珍しいだけに、頭から抜け落ちていたのも事実だ。入りがシームレスで、違和感がなかったのだ。

 

 故に足を止める。そして口を開く。

 

「メリー、ここは本当に現実か?」

 

 言葉をメリーへと放てば、メリーの視線がこの世界の境界線を別角度から俯瞰する。それによってその視線は出口が存在しない筈の場所から、夜の天蓋へと向けられ、真っ直ぐ月へと向けられた。その視線に晒され、月の姿が変貌する。

 

 真っ赤な目玉へと。

 

「え―――あ、現実じゃない……? これ、夢よ! 凄い、夢の世界ってあるのね……」

 

「でかした蓮子、大金星だ……!」

 

 そこまで情報が確定すれば後は作業だ。漸くこの忌々しい空間から解放される。そして此方がそれを察した事を知った世界が、閉じ込める為に鳴動し始める。

 

 だが遅い。

 

 両手を合わせ、詠唱を行う。

 

「Ab uno disce omnes」

 

 賢人は一より全を学ぶ。

 

 故に一、その一を知る事が何よりも重要である。それを知る事で全てを知る事が可能となる。その魔術の本質は本質を理解する事、真理を見抜く事。つまり看破する。相手が何であるかを理解するという魔術。それを通してこの世界の事を理解し、

 

「―――おはよう」

 

 夢想天生。理解し、自覚に至ればもはや夢の中に囚われる事もない。

 

 自覚して無念無想を纏った瞬間には再び、博麗神社の裏から通じる裏山の林の中で目覚める。僅かに感じる痛みは地面に倒れていた弊害だろう。だが目が覚めると同時に四肢で体を支えるように立ち、

 

 開いた両眼で見た。

 

「あ―――」

 

 メリーに覆いかぶさり、下半身を露出した存在を。人の姿をしており、どちらかと言えば美男と呼べるような姿をしているだろう。ただし、その下半身は逸物を勃起させ、スカートを剥き、秘部を露出させたメリーに挿入する一歩手前の状態の姿をしていた。

 

 夢(・)魔(・)だ(・)。

 

 表世界でも珍しい、まだ僅かに残された妖怪の一つだ。現実ではなく、夢という世界を根城にしている存在である為、現実世界での影響を受ける事無く、無敵で居続けられる存在。だが夢であると自覚された瞬間、その力を一気に失い、

 

 現実ではほぼ無抵抗な存在。

 

「ま―――」

 

「黙れ糞が」

 

 夢の中では使い切っても、現実では一本も使用されていない封魔針を袖から放ち、

 

 ―――勃起してメリーに突き刺そうとする逸物に横から突き刺した。

 

「あ、ぎゃ―――」

 

 痛みに絶叫して夢魔が転がる。立ち上がって軽く埃を払いながら地面を転がる夢魔の顔面にケリを入れながら更に転がし、メリーが起きる前にパンツとスカートを戻しておく。そしてそれが終わった所で、

 

 転がっている夢魔の姿を踏みつけて止めた。

 

「お前、楽に死ねると思うなよ」

 

「ひ、ひ―――」

 

 封魔針を更に引き抜き―――突き刺した。

 

 

♦

 

 

「へぇ、夢魔なんて存在がいるんだ」

 

「こいつに夢で殺されると、現実でも死ぬからかなり危ない奴だからな」

 

「でも先生がもう退治したんなら大丈夫でしょ」

 

「もう二度とああいうのは嫌ね……」

 

 蓮子が快活に笑い、メリーは少しだけげっそりとした表情を浮かべる。既に日はだいぶ傾いており、夕日が差し込む時間帯になっていた。現実世界ではそこまで暴れていた訳ではないが、それでも夢の中ではかなり魔力と霊力を消耗してしまっただけに、少々体が重く感じられた。だがそれ以上に久しぶりに全力で体を動かし、本気で殺しに行った殺意を纏ったのが原因か、どことなく昂っているのを感じる。

 

 そんな、帰り道を三人で行く。

 

「まぁ、今回のケースは相当レアなケースだから二度ある事はまずないと思っていいぞ。俺もあんな経験は流石に初めてだわ」

 

 それにあの夢魔、どうやら淫魔(インキュバス)も混じっていたらしい。まぁ、だが上質な素質の女を犯す事は昔から力を手に入れる為の手段としては割と全うな部類だ。一番素質と才能で溢れていたメリーを犯そうとするのはある意味当然だったのかもしれない。

 

 まぁ、その結果地獄を見てから死ぬのもしょうがないだろう。

 

 博麗神社からの帰り道、すんでいるマンションが近づいてくるのが見える。僅かな疲労感を感じながら、今回の事を記事にするのはややめんどくせぇなぁ、とどこかで思う自分が居た。だが、まぁ、夢魔はネタとして悪くない。この糞みたいな経験を多少でもいいから金に換えることが出来れば少しは気分も晴れるだろう。

 

 そう思いながらマンションの入り口を抜ける。

 

「あー、ほんとお前らと関わるとろくなことがねぇ」

 

「先生がいると安全にスリリングな体験が出来て私は嫌いじゃないんだけど」

 

「メリー、お前の旦那だろう」

 

「ごめん、そういう所含めて好き」

 

 もう、付き合いきれない。早く滞在期間が終わって欲しいと切実に願いながらマンションの自宅前まで帰ってきた。溜息を吐きながらポケットから鍵を取り出して扉を開ける。そろそろ肉体の方を鍛え直しておくべきかなぁ、なんてことを考えながら帰宅する。

 

「ただいま」

 

「ただいまー!」

 

「ただいま戻りました」

 

「お帰りなさい」

 

 リビングの方から神綺が迎えてくれるように姿を見せた。料理中だったのか、髪留めで後ろ髪をポニーテールに纏めつつ、エプロンを装着した状態で顔を見せて来る。その表情は無事そうな此方を確認した事で安心したような表情をしており、笑みを浮かべているのが解る。

 

「あぁ、良かった……やっぱり無事で帰ってくると解っていても送り出す時は不安になるわ」

 

 そうやって迎えてくれる姿を見るだけで疲労が吹っ飛ぶほどに満たされる。靴を脱いで玄関に上がり、その先で待っている神綺を抱きしめる。迎えてくれる神綺が此方を抱きしめ返す。ああ、やばい。ここで押し倒したい。

 

 ギリギリで理性を押し留める。

 

「これを見ていると本当に人って変わるもんだって思うわよね」

 

「人前でこんなに惚気る人には思えなかったもんね」

 

 うるせぇ、彼女と一緒だと心が安らぐのだ。

 

 自分の魂の居場所の様に―――自分の魂だけが、見つけた相手である様に。

 

 ほかの誰でもない、俺自身がそう望んでいるのだと感じられるのだ。だから安らぎ、そして一緒に居たい。あまり、甘えてもいられないが。だからしばらく抱き着いた所で、軽く咳ばらいをし、自室へと向かって行く。

 

「じゃあ着替えて来るわ」

 

「あ、お風呂の準備してるから入っても大丈夫よ」

 

「メリー、一緒に入ろう?」

 

「家主より先に入るの……? まぁいいや」

 

「良くねぇよ! 家主を優先させ―――あ、風呂場へダッシュしてんじゃねぇぞオイ!!」

 

 帰宅した途端騒がしくなる女子大生共の姿を見て、やっぱり先ほどまでのホラー体験はちと辛かったんだろうなぁ、と思い返しながら軽くため息を吐き、それを眺めている神綺が小さく笑っているのを見て幸せな気持ちになる。

 

 少しめんどくさい日だったが―――まぁ、終わり良ければ総て良し。

 

 なんでもない、何時も通りの一日だったのかもしれない。




 つまりアレの正体は悪夢。別の物だと思い込ませる事で思い込みの力を利用し、更に恐怖と悪夢のイメージ力を補完する。それがそうである、そういう物だ、という思い込みを利用する形であの童話の獣は強化されていた。殺しても殺しても蘇るのは夢だからだし、異形化して行くのは相手に体して覚えたストレスと恐怖からになる。

 ただし、夢が夢であると気づくと恐ろしく脆弱。

 という訳で最初の怪異は夢魔。
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