「な、なあ香山。その、お前の隣にいる女の子は誰なんだ?」
『出雲』に俺以外の面々は戻って、俺だけは初めてたどり着いたところで、当然というべきか様々なことをする羽目になった。例えば、クラスメイトには帰還が遅れたことへの謝罪。これをした時には「むしろお前が神剣使いを怖がってたのにユーフォリアちゃんのことを任せて悪かった」なんて謝られてこちらの方が恐縮する具合になってしまった。
そんなことも済んで、『出雲』の責任者である倉橋環さんにも挨拶をしたところで初日は終了。翌日の朝、ユーフォリアに連れられて朝食の場に俺とアリアがやってきたところ前述のクラスメイトのセリフである。ただ、このセリフ自体は一人が発したものではあったが、大体の学生も、そして神剣使いすらも同じことを聞きたいと顔に書いてあった。
思い返してみると確かに神剣状態しか学生は見ていないし、アリアはここにやってくるまでの間、ユーフォリア以外に対しても一度とて化身としての姿を見せていない。それを思えば聞いてきてもおかしなことはないのだが、俺からすれば聞いて欲しくないことであった。
だってしょうがないだろう。
「ふふっ」
アリアの笑いはどこからどう見ても愉快な事態を引き起こそうとするそれで。マズいと思って先にアリアとの関係……神剣使いと契約している神剣の間柄を伝えようとしたところで関係を聞かれた張本人に邪魔をされた。
「うおっ……!」
口にしようとしたところで神剣としての力を引き出したアリアに引っ張られて、体勢を崩される。そうして俺が倒れるのを防ごうと踏ん張ったところでアリアが背伸びをして俺にキスをしたのであら大変。
「私と宗弥はこういう関係よ」
妖しい笑みを讃えながらのアリアの言葉で、皆の「全員揃って朝食を取れるっていいことだね」という雰囲気が、「こいつ逃げた先で幼女とイチャコラしてたらしいぞ殺せ」に変わる。
「むぅ……」
「ん、どうしたユーフォリア」
そんな中、俺をここまで連れて来てくれたユーフォリアが俺の袖をくいくいと引っ張る。殺気が漏れ出る学生たちから視線を外すのは、なんだか神剣の力すら抜けて殺しに来そうで怖いが、こんな状態でわざわざ話しかけてくるのだから何か重要な話だろうと思って話を聞く、けれどいつでも逃げ出せるように気は配っている状態に。
「アリアちゃんばっかりずるいです。お兄ちゃんは私のお兄ちゃんです!」
むくれたユーフォリアがそんな発言をしてしまったがために、さらに吹き上がる周囲からの殺気。「妹にしたいランキング」堂々のナンバー1にお兄ちゃん呼びされているのはやはりアウトなのだろうか? ところでこの子、俺とアリアの関係を勘違いしてない? このあいだアリアはちゃんと『俺の恋人』と宣言してたけど、もしかして兄と恋人ごっちゃになってない?
「香山さん」
「はい?」
アリアが面白がって俺に食べさせようとしたり、それに対抗したユーフォリアが食べさせようとしたり。それに嫉妬した学生たちが殺意を滲ませたりしていると、犬耳の生えた銀に近い髪色の女性……綺羅が話しかけて来た。
「話が主、倉橋時深様が貴方にお話がある、と。朝食を終え次第、そちらのアリア様も連れて付いて来ていただけますでしょうか?」
「はあ?」
「私も付いて行っていいですか?」
「ええ、了承されていましたし」
綺羅の発言に対して気の無い返事をしている間に、ユーフォリアが綺羅に問いかけている。そして許可が出されたところでユーフォリアとアリアが早く食べてしまいましょうと、食べさせようとして来た。
とりあえず周囲には聞きたいことがあるなら後で聞くと言って邪魔だけはされないように朝食を終えて、そのまま綺羅について行って彼女の主……時詠の時深の元へとたどり着く。
「初めまして、ですね。若きエターナル。私は倉橋時深。以後、お見知り置きを」
それが、俺が遥かな未来に至るまで、ずっと世話になるエターナル、倉橋時深との初めての邂逅だった。
………………
…………
……
「こちらこそよろしくお願いします」
驚くほど、自分で出した言葉は恐怖が乗ってはいなかった。
きっと、アリアとの契約で抗えるだけの力を得たことと、下手に怯えていれば逆に怪しまれることもあるのだろう。ただ、横でちゃんと応対していることにユーフォリアはむくれているが。
「香山宗弥さん、貴方に恨みは特にないのですが、私と戦っていただけませんか?」
そして、そんなユーフォリアの前で、真摯な瞳で俺と目を合わせながら戦うことを要求してくるせいで、一瞬何を言っているのかわからなくなった。
「はい?」
「貴方がユーフォリアと、その……そういう関係であることは知っています。ですが、私の力……未来を見通す力、未来視では、貴方がどういった未来を歩むのか、それが候補がありすぎるせいでわかりません。このまま放置していいものか、あるいはここでユーフォリアには諦めてもらったほうがいいのではないか。そう言った諸々を見極めたいのです」
「Noと言ったら?」
「その場合は仕方ないです。ユーフォリアがこれ以上貴方に入れ込む前に、貴方を殺します」
目を鋭くして、濃密な殺気を叩きつけてくる時深さん。殺されることへの恐怖で怯えていた俺に対してそれはクリーンヒットし、殺されることに怯えていたことを知っているユーフォリアは俺をかばうように前に出る。
「俺が、貴女と戦えばいいんですよね?」
「ええ。その最中で見極めさせてもらいます」
ユーフォリアを押しのけて尋ねたところ、返事は思っていた形とは違うけれど、殺されないで済む可能性が戦った先にあることだけは把握できた。あるいは、これで見極めてアウトだったらそのまま殺されるのかもしれないが。
「わかりました」
「お兄ちゃん!?」
戦うことに了承を返した俺にユーフォリアは驚きをあらわにするが、そんな彼女の頭を撫でてから俺は時深さんと向き合う。
「庇ってくれてありがとな、
うん、大切な昔からの知り合いと殺しあうことになるかもしれないというのにこっちにつこうとしてくれたので、そのお礼に愛称で呼ぶぐらいは別にいいだろう。
「では……」
俺が了承したことで時深さんからはマナが溢れ、それらから戦意が俺に対して向けられているような錯覚までしてきた。
「カオス・エターナルが一員、『時詠のトキミ』……いざ参ります!」
時深さんは永遠神剣第三位『時詠』を構え名乗りをあげる。その目から「貴方も名乗りなさい」という視線がひしひしと俺に注がれていて
「アリア」
「ええ」
それに応えるように、俺もアリアを化身としての姿から俺が最も慣れ親しんだ武器……銃の姿へと変化させる。同時に俺も制服姿から神剣使いとしての戦闘服へと変化していく。赤いシャツの上から黒いコートを羽織ったような姿は、前世の中二病時代を思い出すので嫌なのだが、これに関しては俺の意思は関わっていないのでどうしようもない。
完全に戦闘スタイルになった俺は、本当の意味での初のエターナル戦に際しての緊張を抑えるように、銃の握りを確かめる。
「永遠神剣”偽典”『境界』の担い手、『生死の境界にて揺蕩う者』ソウヤ。……参る!」
俺が発砲するのと、時深さんがこちらに向かって走り出すのはほとんど同時だった。
………………
…………
……
「『タイムアクセラレイト』!」
時を冠する神剣の持ち主にふさわしく、彼女の技は俺の知る限り時に関わる技が多い。この技もその一つ。効果は単純。名前の通り
「っ!」
幸いにも神剣使いになったことで、この速度であっても目で見て追えないレベルではないので、時深さんの向かうであろう場所に先んじて銃弾を放ったりして、そう簡単に距離は詰めさせない。
(アリア、いけるよな?)
【ええ。そっちこそ大丈夫なの? これは貴方の認識次第なんだから】
(やるさ。……アリアに変な影響とか出ないよな?)
(大丈夫だと思うわ)
眼前で、技そのものを見せてくれている。それなら、きっとこれも不可能なことではないはず。見知らぬ状態だったら不可能だっただろうが、一度見たのならアリアの……『境界』の能力で上手いことどうにかできる。
「
「『タイムアクセラレイト』!」
「!?」
自分と同じ魔法を使ってきたことが驚きなのか、驚愕の表情を捉えることができた。その速度は先ほどまでとは違って俺と同等。代わりに俺の周囲ではユーフィーの動きが緩慢になっている。
ただ、速度が追いついた代わりに難点も生まれる。
(銃弾、遅くなってる!)
正確には発射された瞬間に現実の速度に戻るせいで緩慢に見えるだけなのだが、俺の基本攻撃手段が今の俺たちの速度に比べれば遅いせいで躱すのが容易であるという事実に変化はない。
「だったら……!」
いやでも、接近戦を行うしかないだろう。
銃となっていた『境界』を一本の劔へとまとめる。とはいえ、時深さんの『時詠』よりもわずかに剣身は長く、ほんのわずかではあるが俺の圏内は広い。こういうところに少しでも近寄らせたくないという俺の思いがひしひしと溢れているように思う。
けど、この場合は多少の無茶をする必要がある。
慣れていない接近戦で格上の相手を倒すのなら、少しばかりは恐怖を抑えこむ必要がある。
「『天輪』!」
神獣を呼び出して、その狐を背中に乗せる。そして俺はその重みを感じて前傾姿勢になり、一気に駆け出す。それと同時に天輪の尾から炎が噴き出てジェット噴射の代わりをする。
「なっ!?」
時深さんはこの速度に驚いているようだが、今となってはもう遅い。
「焦熱の赤、輝閃の白。潰滅もたらす調律よ」
遠い未来、ユーフィーが”宿命に全てを奪われた少女”ミューギィを助けるための物語。”悠久のユーフォリア”において微妙に変質した『悠久』によく似た、けれど色は青と白の二色ではなく赤と白の二色で彩られた大剣を振るう。
「『デスペラードハーモニック』」
この技は少し前にユーフィーから見せてもらった技を自分の得意な属性に合わせて振るっている。別に他の属性も使えないわけではないのだが、やはり破壊力という点で見ると赤の神剣魔法、白の
そんな一撃が、驚き対応が遅れた時深さんに向かう。
「舐めないでください!」
しかし、腐ってもエターナル。驚きは一瞬で、『境界』の刀身に『時詠』の刃が打ち合わされる。その瞬間、『境界』の刀身に纏っていた白と赤の”精霊光の焔”が『時詠』の刃を伝って襲いかかろうとした。
「この程度!」
が、それすらも今となっては瑣末なこと。『タイムアクセラレイト』を使用しての高速戦闘の中でさらに『タイムリープ』を使用するという荒技ではあるが、その炎を躱して俺の背後を取った時深さんだが、他の神剣使いならともかく、俺にとっては声を出して位置を教えた時点で悪手である。
「
瞬間、俺の姿が搔き消える……なんてことはなく、せいぜいが過程をすっ飛ばして振り向いたという結果を持ってきた程度。模倣再現した『タイムリープ』は、『タイムアクセラレイト』同様完璧ではないので、本当にわずかな時間を吹き飛ばす程度なのだが、それでも振り向くことに成功すれば対処はできる。
「な、なんですか、それ!?」
「『境界』ですよ」
わかりませんか、と聞くとわかるわけないでしょうと怒鳴り返される。今、突き出された『時詠』を防いだのは大剣状態の『境界』ではなく、一つの長剣と俺の胸から生えた一対の手の状態になった『境界』……そのうちの両の掌による真剣白刃取りである。
自由自在に変化させられるわけだし、こんな使い方もありかと思ったんだけど……
【私も初めての契約だからなんとも言えないけど、多分こんな使い方は想定されてないわよ】
(そっかぁ……)
ちょっとショックだが今は打ち拉がれている場合ではない。さすがにこんな使い方をするとは考えていなかったのかパニックになっている時深さんの首元に片手剣になっている『境界』を突きつけて
「これで、俺の勝ちです」
そう、勝利宣言をあげるのだった。