「ってところかな。俺が生まれ育った世界での話……というかユーフィーと出会うことになった旅路の始まりは」
『元々の世界』と称される世界からの旅立ちについて話し終えたところで、朝食が温め終わったらしい。今家にいる同居人の最後の一人もやってきて、話の続きはまたあとで、ということに。
ちなみに、『転生』については少し誤魔化した。俺の転生は他の皆とは少し違うし、『元々いた世界ではこっちとは少し違う力が働いていたから、それを扱えるほどの力はなかったが”力”そのものは膨大なものを感じ取れた。だから怯えていた』なんて形に。これに関しては墓場にまで持っていくつもりだ。俺は少々特殊なので本当に墓場に行けるかはわからないが。”人生の墓場には入ってるよね”なんて言ってきたローガスは今度会ったら殴る。
クスクスと昔の色々と恐れていた俺のことが懐かしく、そしておかしいのかユーフィーは笑っているが、俺からしてもかなり恥ずかしい内容だ。ただ、笑っている姿にちょっとイラっときたので、あとで無理矢理に組み伏せてやろうと決意した。
「うん、あとでもう少し詳しく聞きたい。具体的にはユーフィーとの馴れ初めとか」
そこで、この声と朝食が五人分出されたことで一人増えていたことに気がついた。
「「ミュー(ちゃん)!?」」
黒い髪の少女、永遠神剣第三位『絶炎』の担い手たる”絶炎の刃を抱く少女”ミューギィ・ファナンも少しばかり過去に想いを馳せている隙に家に上がり込んでいたらしい。ただ、ミューは俺たちの驚きなど知ったことではないと言わんばかりに話の続きを要求する。
「……わかった。あとで話すからとりあえず今は朝食をとらせて」
「ん。食べるのは大事」
別にエターナルなので食事する必要はないのだが、アガスティアで人間としての基本的な生活を強制された時の食事が気に入ったのか度々食事にやってくるし、そうでなくてもユーフィーと仲良しなので結構な頻度で仕事の途中でもこっちにやってくる。
そんな風にミューの基本情報を思い返しながら、この後の話はどこを話すべきでどこを話さなくてもいいのかについて考えるうちに、俺の心はその当時を振り返る様に、過去へと導かれるのだった。
………………
…………
……
俺が、俺たちがたどり着いた最初の世界は原作と変わることなく『剣の世界』と呼称されることになる世界だった。
まず最初に、俺たちが受けたのは全校集会という名前の説明。過激な言い方をするのであれば「貴様らの命は私たちが握っている。我々が死ねば貴様らは帰還できぬゆえ、協力してもらえるとありがたい」ということをオブラートに、「私たちは何があっても貴方達を帰してみせます。だから協力してください!」と情に訴えかける内容。なのだが、話すのがこの学園のマドンナであり生徒会長でもある斑鳩沙月だからこそ、そんな脅迫であることを微塵も感じさせずに全員を──訂正、俺以外の聴衆全員を熱狂させることに成功し、そのカリスマによって見事にまとめ上げたのだ。
そして、その集会が終わった後、森や阿川と話している望たちに近寄らない様にしばらく教室でクラスメイト達と駄弁っていようかと思い体育館から出ようとしたが、すぐに見つかった。
「ソウヤー!」
望たちではなく望の神獣であるレーメに。
「うわっ!?」
いきなり顔に突っ込んでくるなんて思わなかったので驚愕した声を上げる俺。その結果、俺の声を聞いたからか、それともレーメが飛んで行ったからか俺の元へとやってきた望たちにも見つかってしまう。
「ちょっ、レーメ! 何してんだ!?」
俺の顔面に飛び込んだレーメの姿に、望たちはギョッとしている。ただ、俺も驚いている。望たちからはある程度好かれていると思うが、それが神獣にまで適応されるとは思っていない。いや、「こいつ気にくわない」「こいつはいいやつだ」程度には思ってもらえるかもしれないが、少なくとも抱きついてもらえるほどに好かれるとは思いも寄らなかった。
「望、この、今顔面にひっついているレーメ、とかいう小人は、お前のところの子供なのか?」
「えっと、こいつは……」
そこから受けた説明は基本、俺も知っている通りのこと。望の持つ永遠神剣、永遠神剣第五位『黎明』の守護神獣であり、望のお目付役の様な存在でもあるという事実。ここまでなら俺も何も言うことはない。だから、あと尋ねないといけないことは一つだけ。
「それで、そんな望のお目付役がどうして俺を見た瞬間に飛びついてきたんだ?」
「えっと、さすがにそれは俺にも……」
「ふむ? 気づいてないのか? ソウヤの魂は神剣が好む性質をしているのだぞ。だから、ものベーもソウヤを乗せて一緒に旅できることに喜んでるし、神剣使いは初対面であってもよっぽどのことがない限りは好ましく思うであろう。それ以降についてはわからんがな。ちなみに抱きついたのは吾に声かけもなく他の連中と一緒に教室に戻ろうとしておったからだ」
「ええ……」
見知らぬ小人とか普通なら自分の正気を疑う産物。見ないふりは間違った対応ではないとおもうのだが……
そんなことを考えたところで、俺が神剣に好かれたり、神剣使いに好意的に見られるのならこれから先も関わらざるを得ない状況に追い込まれるのではなかろうか。具体的には今のレーメみたいに。
その可能性に思い至りちょっとため息をつきたくなるも、この場には人を殺せる兵器を持っていると自覚している三人がいるので下手な行動を取れない。
「そういえば、どうして宗弥は教室に戻ろうとしたんだ?」
「そうっすよ香山先輩。先輩も一緒に外見に行きましょうよ」
森は観光気分で外に行こうと言っているが、やはりこの世界についての危機感が足りないらしい。
「あのな、森。この世界は何があるのかわからないんだぞ? もしかしたら学園を襲ったあんなのがたくさんいるかもしれない。そうなったら俺たちはただの邪魔にしかならないし、最悪の場合、俺たちを盾にされて望たちが殺されるかもしれない。安全も確認できてないうちから外に出ようとは俺は思わないよ」
外に行かない理由は「何があるのかわからないから怖い」ってことは事実だけど、それだけだと「臆病だな。でも俺たちが守るし大丈夫だ」なんて連れ出されるかもしれない。できれば神剣使いには近寄りたくない。さっきのレーメの言葉を聞いて余計にそう思う。
”初対面だと好意的に思われる”ってことは、最初から『合わない』とわからない限りは、初対面で得られた『好意的』な反応がいつまで続くのかわからず『いつ殺されるか』に常に怯える必要がある。それなら、できる限り会わないほうがいいと思う。だから、一緒にいる時間は少しでも短くしたい。
「そう、か」
少し落ち込む様子を見せる望。ぶっちゃけた話、原作通りであれば希美も行くのだろうが、本来ならこの「ものベー」を維持している希美は前線に出てはダメだろうとは思う。けど個人的な話をするなら神剣使いとは一緒に居たくないからとっとと外の確認に行ってほしいと思うし、「生き残る」ということを優先するのであれば、俺の恐怖はどうするべきかはわかる。
だが、そんな理性でどうにかなるレベルの恐怖なんて超えている。すでに自分の心が恐怖に押しつぶされて死ぬか、それとも物理的に殺されるかの二択を強制的に迫られているのだ。
「ああ、怖いなぁ……」
すでに外に出る準備を始めている望たちを見ながら、体育館から出た俺は、近くに誰も居ないのをいいことに、恐怖を口にするのだった。
………………
…………
……
そうして教室に戻った俺を迎え入れてくれたのは、クラスメイトからの熱い
「ってことで屋上に来たわけだけど……」
こんなタイミングで独り言なんて怪しいやつ全開だな、と思って。それでも独り言をやめられない。
「……ここにいたらミニオンにすぐに見つかりそうだな」
そう思うとここに止まっているのも恐ろしい。すぐに教室に戻るべきだが、あの微妙な空気に染まりきった空間に戻るのもちょっと、という気分だ。保健室にでも行くとしようか。
『私には……いえ、私たちには皆を守る力があります』
そんなことを今も学園に残っている会長は説明の時に言っていたが、俺にはこの発言が『私には……いえ、私たちには皆を殺せるだけの力があります』と言っているようにしか聞こえなかった。
「とりあえず皆が落ち着くまで保健室で寝てようか……」
もしかしたらアリアと出会う夢を見られるかもしれないし。多分、この恐怖を抑えるのならそれが一番いいと思う。
「よしっ!」
保健室に行く足取りは、微妙にさっきまでよりも軽やかだと思った。
………………
…………
……
「ふふっ、それでこっちに来たの?」
ーーそんなに笑わなくてもいいじゃないか。
今回の夢は普段ほどの明晰夢という訳ではなかった。だから、声というよりも意思が彼女にそっくりそのまま飛んでいってるように感じる。それでもアリアに今日起きたことをしっかりと伝えて、その結果笑われていた。
「そうね。自分では抗いようのない力、というのは恐ろしいものね。それに貴方の場合、どうしても幼馴染やクラスメイトよりも先に『兵器を持っている相手』って考えだから、余計にそう感じるのかも」
ーーそう、だな。でも、アリアに対してはそんな気持ちにはならないんだけど。
「そこに関してはわかりやすいじゃない。貴方が私のことを脅威と認識するよりも先に、貴方は『
ーーこう、はっきり言葉にされると辛いものがあるなぁ。
それでも、彼女との会話は心が安らぐ。何よりも気心の知れた存在だという気持ちがあるからだろうか。できることなら現実でも彼女と会話したいものだけど。ーーなんて、そんな思いも筒抜けで。
「ふふっ。それなら、ギリギリまで頑張って。それでもどうしようもなくて。どうしようもないくらい恐ろしい目にあった時に私のことを呼びなさい。それなら、うん。貴方が私を心の底から求めるその時には私も貴方の元に行けるようにしておくから」
ーーありがとう。
「お礼なんて。それこそここに一人でいるしかなかった私に、貴方は色々と教えてくれたんだもの。今度は私は貴方を助ける番よ」
さあ、そろそろ起きる時間よと言って彼女は俺を送り出す。こうして俺にかかる負荷が永遠神剣という形で可視化されたことで、俺が彼女と過ごす時間もわずかばかり意味を変えた。……いいや、それとも意味が増えたのか。
「うん、気持ちが楽になったよ。ありがとうアリア。また明日」
明日も会えるかなんてわからないのに、そんな言葉が自然と出た。今まで一度も言ったことのない言葉にアリアは驚き、ついで微笑む。
「ええ、また明日」
そう言ってアリアは……かつて俺に対して出会うことのない外の世界の何者かから”境界の媛君”と呼ばれていたことを明かした少女は俺のことを
きっと、俺が彼女を現実に呼ぶ時は、俺が『人間である』という事実を示す境界を越える時。その境界を超えた先に何があるのかはわからずとも、俺はそれを遠からず望むのではないか、なんて漠然な予感を抱いたまま俺は現実へと戻るのだった。
ミューちゃんが主人公に手を出された一緒に暮らしてる組かどうかは今はまだ内緒。もしかしたら「ユーフィーと一緒にご飯食べるためだけにやってきた」可能性もある。
……でもなぁ、この主人公ロリコンだからなぁ。たとえ今手を出されてなくてもいずれ手を出されそう。