※この作品はR-18です。

ポケモンR18短編集ハーメルン版   作:神座(カムクラ)

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6-2.ぬくもりは君と共に【後編】(♂ウインディ×♀アブソル)【やや長編】

 

 

7.生存者

 

 

  「グレン……!」

 

 

 男の悲痛な声は、辺りを覆う炎にかきけされた。

 

 左前脚に傷跡のあるアブソルにうつ伏せに押さえつけられたウインディは抵抗を試みるも首元を踏まれて封じられる。双方傷を負い息は乱れ、アブソルの体毛は所々焦げていた。ほんの僅かの何かが勝敗を決したのだ。

 

 

 "この私が…一騎討ちで…せめて日が出ていれば……"

 

 

 "「朝の日差し」で回復できた?残念ね。それにウインディには慣れてるの。あなたほど強いポケモンとは戦ったことなかったけど───"

 

 

 アブソルは口角を吊り上げた。

 

  

 "──お楽しみはこれから。"

 

 

 "くぅ…悪魔め…私はお前を──ぐぅっ…!"

 

 

 アブソルはさらに体重をかけ、爪を食い込ませるとそこから血が滲む。

 

 

 "さっきのエルレイドと一緒に戦うべきだったわね。"

 

 

 アブソルが角と前足に力を込めたのを見て、ウインディは命の最後を覚悟した。

 

 

 "いくよ…?"

 

 

 急所をギリギリ外した地獄突きに悲鳴を上げるウインディ。

 

 

 "ねぇ…痛い…?苦しい…?ねぇ…?"

  

 

 脇腹の表面を切り裂き背中を浅く食いちぎる。

 

 

 "ねぇ…降参する…?"

 

 

 後ろ脚の骨を折ってからつけたばかりの浅い切り傷に地獄突きの連続。その度ウインディは体をビクンと痙攣させアブソルはそれを嘲笑った。かつて地方リーグを一匹で制覇したウインディは、今や使い捨ての玩具だった。

 

 

 "早いって。"

 

 

 白目を剥いたウインディの頬を角で殴る。

 

 

 「ガ……ウ……」

 

 

 "ねぇ…あなたが死ぬ前に私が満足したら、あなたとあなたのご主人、見逃してあげても良いよ…?"

 

 

 返事を聞く前に傷口に爪をねじ込んでほじくった。

 

 

 "まだ元気そうね。"

 

 

 苦痛に悶え前足でアブソルを弱々しく押し退けようとしたウインディにそう言いつつその前足の関節の反対方向に力をかけたのでバキリと音が鳴った。

 

 

 "こんぐらいかな…"

 

 

 ざくり、腹を引き裂いた。ウインディの鍛え上げられた剛皮と筋肉が自らを守っているがそれらが破られるのも時間の問題。

 

 

 "内臓見せてあげる。あ、なんならさっき死んじゃったあなたの子供、お腹に戻してあげようか?"

 

 

 そう言って再び前足を振りかしたとき、

 

 

 「もうやめてくれ!!」

 

 

 言うことを聞かない体を引きずって、男は大切な相棒の命乞いをした。

 

 

 「やめてくれ…グレンは…そいつは関係ないだろ……お願いだ…早く俺を殺してそいつは見逃してやってくれ…」

 

 

 アブソルは前足をおろして男を見つめた。強敵は無様に悶え、男は伴侶を失い情けなく泣きながら生き残った相棒の命乞い。

  

 

 "まぁ……いっか。冷めたわ。耐えたら見逃すって言ったし。"

 

 

 アブソルはウインディの上から退くと、炎を掻い潜って姿を消した。

 

 

 「グレン……グレン……しっかりしろ……」

 

 

 男はウインディのもとまで這いずって傷口を片手で押さえ、もう片方の手でボールを取り出し怪我の悪化を防ぐために起動させようとしたら、その腕は無くなっていた。

 

 遅れて来た痛みに叫ぶ間もなく、男はウインディの目と鼻の先で真空の刃に切り裂かれ絶命した。

 

 

 "見逃すわけないじゃない。これが私の役目なんだから。" 

 

 

 戻ってきたアブソルは愉快そうに言い放ち、お幸せに、と再び真空刃でウインディの胸部を裂いてその場を後にした。

 

 残されたウインディはもう痛みも感じられず、不規則に息をしながら守れなかった主を虚ろな目で見つめていた。

 

 アブソルがわざと直接的なとどめを刺さなかったお陰で、命尽きるそのときまで己の無力さを思い知らされることになったウインディ。守れなかった詫びと、庇おうとしたことへの感謝を無言で送り残された者達の幸せを願う。

 

 

 炎がうねった。

 

 

 「ちくしょう!!」

 

 

 そして誰かが叫んだ。

 

 

 

 

 ◯◯◯

 

 

 

 

 助けてくれ!ポケモンに襲われてる!エルレイドがもう……

 

 

 "ちょっとソウガ!"

 

 

 「ナギ、ルカリオ、ここは任せたよ!」

 

 

 SOSの連絡が入り、青年は親友の元へ全速力で飛んでいった。

 

 親友が滞在している彼の故郷に辿り着くと、彼の家の辺りが火の海になっているのがすぐに分かる。しかし争う音は聞こえず、事態解決の連絡もない。青年は最悪の事態を覚悟した。

 

 波動を使って感知することもできたが、恐ろしかった。

 

 目視で親友の家に向かって最初に目に入ったのは首のないエルレイドの遺骸、そして血まみれのウインディに覆い被さるようにして死んでいる親友だった。

 

 敵はまだ近い。

 

 

 「ちくしょう!!」 

 

 

 青年が叫ぶと辺りの炎が意思を持ったようにうねりはじめ、青年は敵の位置を正確に探ろうと波動の視界を開いて──

 

 

 「グレン…?グレン…!」

 

 

 ウインディがまだ生きていることに気がついた。青年は躊躇するも腕輪をかざす。そこにはめられた宝石から2匹のポケモン、フライゴンとムクホークが飛び出した。

 

 

 「ここを基準に2時の方向!気を付けて!!」

 

 

 2匹が指示通り向かうと青年はウインディに駆け寄った。

 

 

 「グレン…しっかりして…!」

 

 

 肺まで届いている胸部の傷に手を当て、特殊な波動を集中させた。

 

 

 「グレン…頑張れ…もう大丈夫だから…きっと治すから…諦めちゃ駄目だ…グレン…!」

 

 

 「ぐ……あ……」

 

 

 ウインディは何かを訴えた。言葉では理解できなかったが波動で思考を読み取って、青年はハッと崩壊した家を見た。

 

 

 「そうか…大丈夫だよ生きてる。グレン、大丈夫。みんな助けるから。君はもう十分良くやった。今は自分のことだけ考えて。」

 

 

 やがて能力の限界まで無理矢理傷を癒すとボールよりも封印力が強く状態の悪化を遅らせられるであろう、モンスターボールの古代版とも言える腕輪の宝石にウインディを入れてから瓦礫に向き直る。

 

 

 「そこの子、今助ける!」

 

 

 青年が左手をかざすと瓦礫に埋もれていた生存者が光に包まれ、右手をかざすと爆炎が瓦礫を吹き飛ばす。残骸をいくらか退け、ガーディを抱いた少年を救出した。

 

 

 「もう大丈夫。大丈夫だよ。」

 

 

 ガーディと一緒にカタカタと震えている10歳いっていないくらいの少年は、青年を見て泣き出した。

 

 

 「大丈夫、大丈夫。」

 

 

 抱き締めながら彼らの体に大きな怪我はないか感知したが見当たらず、ひとまず安心する。

 

 

 「僕はソウガ。君のことは知ってる……エルムだね?大きくなったね…君のお父さんをよく知ってる。君のお父さんが僕を呼んだんだ。その子もグレンの子供かな?波導が似てる…」

 

 

 「父……さん………」

 

 

 嗚咽を漏らし、ガーディをさらに強く抱き締めるエルム。ガーディも憔悴しきっていた。

 

 青年が辺りをさっと見回して、宙で手を握りしめると炎が消える。そして彼らの擦り傷に手を当てて治していく。

 

 

 「もう大丈夫だからね。立てる?おぶった方が良いかな───」

 

 

 言い終わる前にエルムはソウガに抱きついて、大声で泣きはじめた。

 

 

 「よしよし怖かったね…これだけ大きな声で泣ければ心配ないね。それにしても結構な火事だけど……そうかガーディの貰い火で…それにこの火のお陰で匂いが消えたのか…」

 

 

 エルムがひとまず落ち着くとソウガはまた指を振る。宙に水が発生して意思を持ったようにエルムとガーディを洗った。その水もどこかに消え、エルム達は全く濡れていない。

 

 

 「さぁ行こう。」

 

 

 エルムをこの場から離した方が良いと思ったのと依然ウインディが危険な状態ということもあり、敵を見失って戻ってきたフライゴンはしまい、ムクホークに乗って町の病院へと向かった。

 

 そして彼らを預けた後村に戻ると既に警察が現場を規制していたのでソウガは事情を説明し、親友とその妻の遺体や瓦礫に押し潰され亡くなったポケモンの遺骸の回収を手伝った。

 

 数日後、遺体は村で埋葬され少年エルムは、たまたまその日一緒に寝ていたため生き残ったガーディと共に親族に引き取られることとなる。

 

 

 「俺、嫌だ。」

 

 

 集中治療室に寝かされているグレンを部屋の窓の外から見ていた少年エルムは、自らが親戚に預けられることをソウガから聞かされると首を横に振った。

 

 

 「ねぇ、強いんだよね?あんたのポケモン、あのアブソルより、強いんだよね?」

  

 

 「……あぁ、そうだね。」

 

 

 家族を失った少年の悲しみは、怒りと恨みに変わっていた。少年だけではない。なんとか生き永らえているもののいつ危篤状態になってもおかしくないウインディの子、ガーディも同じ目をしていた。

 

 

 「俺…こいつと…強くなって……あいつを倒す……父ちゃんを鍛えたのは…グレンを鍛えたのはあんただって父ちゃんから聞いた…だから…!」

 

 

 「僕に、君たちを連れてけと?」

 

 

 常識的に考えて、門前払いが当然だろう。青年は特殊部隊総合隊長。それについてくるということは、しかもただついてくるのではなく加わりたいということは、それ相応の危険を背負わせることになる。親の二の舞になることも十分あり得る。

 

 

 「途中で諦めるなら、見捨てるよ?」

 

 

 「俺、諦めたりしない…!絶対に…!」

 

 

 ソウガはさほど迷うことなくエルムの親族を説得して彼を育てつつ鍛えることに決めた。任務の危険に晒すより、その目のまま野放しにする方が、余程危険だと判断したからだった。

 

 

 

 ────────────────────

 

8.雄が雌を求めて何が悪い

 

 

 「おーいルカー!」

 

 

 IUPPカントー支部にて、正午過ぎにやることがなくて広場でボーッとしていたアブソルを見つけたウインディは嬉しげに尻尾を揺らして駆け寄ってくる。

 

 

 "サルース…!?"

 

 

 頭に直接響いたので驚いて振り返ると、布が被せてあるカゴを加えたサルースが目を細めてやって来た。

 

 

 「驚いた?俺、テレパシー使えるんだ。天才だろ?こんな風に口が塞がってるときは便利だ。」

   

 

 サルースはカゴを降ろし、被っていた布を退ける。

 

 

 "ポフレだ。分けてもらった。…初めてか?カロスってところの食べ物らしい。"

 

 

 中には色とりどりの、カップケーキに似た菓子が4つ並べられていた。保護施設では職員がポケモン用菓子をつくって配ることがある。そもそも施設職員になるためにはポケモン用菓子を1種類以上作れなければいけないという規定もあるくらいで定期的につくっているのだ。大抵は大量に作るのが楽なポロッグやポフィンで、手間のかかるポフレはあまりお目にかかれない代物である。

 

 

 "食おーぜ。"

 

 

 仲良く寄りそって、ルカはカゴの中をスンスンと嗅いでからその内の1つをかじった。

 

 

 "……美味しい。"

  

 

 "だろ?ソウガさんとあいつらが頑張ってくれたんだ。"

 

 

 ニカッと笑いサルースも頬張った。

 

 

 "あいつら?"

 

 

 "おう。ルカリオとゴウカザルのバンダルだ。"

 

 

 "バンダルも…?"

 

 

 "おう。わかる。イメージ湧かないよな。"

 

 

 和気あいあいと会話を楽しんでいる彼らを遠くから2つの人影が眺めていた。

 

 

 「…意外なカップルだね。昨日初めて会ったはずなんだけど。」

 

 

 「全く……あいつのナンパ癖、どうにかならないのかよ…よりによってあいつを…」

 

 

 色黒で金髪の少年、エルムは複雑そうに呟いた。

 

 

 「さぁ…それは僕には分からないけど、今回は本気みたいだよ。」

 

 

 ほら、とソウガはサルースの尻尾を指差した。

 

 

 「種にもよるけど、あぁやって雄が尻尾で雌のお尻辺りを包むのは"こいつは俺の雌だから手を出すな"っていうサインだから。」

 

 

 「呆れるぜまったく……」

 

 

 「僕らが複雑過ぎるだけなのかもしれない。まぁでもサルースも思うところは当然あるだろうし…まぁ、僕らは見守るだけの方が良いと思うよ。せっかく…」

 

 ソウガは言葉を切る。全て奪われたのだ。そしてあの瓦礫の中で、サルースの母親の悲鳴を聞き続けた彼にその先をいうべきではないだろう。そう簡単に割りきれるほど良くできた人間はいない。ポケモンでもそうだ。またソウガはそれでも近づこうとするサルースの心情を読めず、そんなことはないだろうと思いつつも警戒していた。

 

 

 「で、お前はこれからどうするんだ?」

 

 

 「フィオレに戻って、ルカに普通のバトルができるように訓練する。フィールドワークはしばらくお休みかな…君のカントーリーグ戦でも観に行くか…決勝行ったらね。…あぁそれと、ハイルも置いていく。例のエーフィね。」

 

 

 「あぁ、静養のためにお前が連れてたんだっけ。そろそろあいつの番と子供が寂しがってるだろうしな。」

 

 

 人間に運命を滅茶苦茶にされたエーフィの知らせに、強張っていたエルムの顔が弛む。

 

 

 「んじゃ、僕は戻ってポフレ第2段作るから。」

 

 

 「みんなに作んのか。相変わらず真面目だなぁ。」

 

 

 「手伝ってくれても良いよ?」

 

 

 「えぇー俺ポフレのセンスないんだよぉ。」

 ────────────────────

 

 9.水の里

 

 

 数日後、ソウガ一行は遠く離れたフィオレ地方に向かうため船でカントーを出発、直行便がないのでシンオウ地方ミオシティ港で乗り継ぎ計2週間が過ぎた。

 

 到着が近づき他のポケモンは腕輪の宝石に戻るなか、ルカはソウガが連れ歩くと決めていたので外に出たままだった。そしてソウガはいつも着ている、何かのポケモンの毛でできた白い羽織の手入れをしていた。

 

 

 "それ…綺麗ですね。不思議な感じがする…"

 

 

 「これかい?これはね、僕の母さんがくれたものなんだ。母さんは僕がまだ言葉を話せないくらい小さいときに……いなくなったんだけど、その前に作ってくれたらしい。僕の成長を見越して大きめにね。不思議な感じがするのは…」

 

 

 ソウガはバックからマッチを取りだし、火をつけて羽織の上に置く。火は燃え移ることなく消え、純白の羽織に跡は残っていない。

 

 

 "炎属性(タイプ)のポケモンの毛だったんですか…!てっきり氷属性か無(ノーマル)属性かと思いました。"

 

 

 「まぁこんな色してるからね。よくトリミアンの毛と間違えられる。」

 

 

 そんな会話をしていると到着のアナウンスが流れたので船を降りる。電車を乗り継ぎ、小さな町から歩いて十数分、のどかな田舎道に突如巨大なドーム型の建物が現れた。

 

 

 "これは…?"

 

 

 「ようこそ、水の里へ。別名、国際ポケモン保護連合フィオレ新本部だ。」

 

 

 都会にあっても十分目立つような建物は、IUPP事務施設、ポケモンレンジャー基地、ポケモン病院及びリハビリ施設、ポケモン保護施設、宿泊施設などが複合したものとなっている。

  

 

 "水の里?"

 

 

 「昔、イッシュ地方にあった里だ。戦争で滅びたんだけど、その生き残りがここに流れ着いたって訳。IUPP創始者の一人がその子孫でここの土地を提供したんだ。だから今はここが水の里。あ、そうそうこれつけて。」

 

 

 ルカに首輪型のタグを着けさせ自身もタグを首から下げる。そのタグはほんの数人しか持っていない最上級職のものだとはルカが知るよしもなかった。

 

 

 "これ…全部ですか?"

 

 

 「そう。広いでしょ。」

 

 

 建物を抜けるとそこは森の中を開拓した緑豊かな集落のようになっていて、まばらに生えている木といくつかある小さな川がなんとも美しい景色を醸し出している。そしてそこにはたくさんのポケモンが人間と戯れていてそこらかしこから色んな鳴き声が聞こえてくる。

 

 

 "良い…所ですね。"

 

 

 率直な感想だったがソウガの顔は複雑だった。

 

 

 「本当はこんなところ、早く無くなって欲しいんだけどね。」

 

 

 え?と見上げたルカに、ソウガは少し歩いて人間とボールで楽しそうに遊んでいるピカチュウを指差した。

 

 

 

 「あの子は、恐らく産まれてからずっと、トレーナーに虐待されていた。人間不信になって、僕の言葉もまるで聞いてくれなくて、あぁなるまでにあのトレーナーはかなり苦労したんだよ。」

 

 

 そして別の場所を指差す。ベンチに並んで座っているのはソウガと同じくらいの年に見える青年と見たことのないポケモンだ。そして青年に甘えているそのポケモンのお腹は膨れていた。

 

 

 「あのポケモンはコジョンド。バトル以外でも人気で、違法繁殖させる業者が後を絶たないんだ。あの子はまだ幸せな方だよ。あのお腹にいる子供はここに来てからできた子供だからね。繁殖母体として使われ始めてからさほど経ってない内に保護された。それでも感情が欠落した状態だった。恐らく元々繁殖母体にするために産まれ育てられたんだろう。」

  

 

 "…… っ!"

 

 

 「あの子と同じ所で繁殖母体とされていたポケモンは他にもいる。あのレパルダスとかトリミアンもそうだ。あの工場は本当に悪質で、幼い内に人工的に進化させて無理矢理性成熟させて子供を産ませたんだ。それと…おっ、あいつ来てたのか。」

 

 

 ソウガが紹介する前に向こうが気がついてやって来た。このポケモンはルカも知っている。若い雄のレントラーだ。

 

 

 「やぁ、元気そうだね。」

 

 

 "久しぶりです。…アブソル、だったっけ?左前足に面白いもん付けてるな。"

 

 

 "え…あ…"

 

 

 傷痕を隠している花模様の布のことを言われて同様する。レントラーはニヤリと笑った。

 

 

 "その花柄、似合ってるぞ。レオだ。よろしくな。"

 

 

 とくに悪意はなく、単純にそう言っただけだった。ルカも自己紹介するとその後レオはソウガに近況報告をする。ルカは鍛え上げられた彼の体をみて強いんだろうなぁと思っているとソウガの腕輪が光り、ナギが出てくる。

 

 

 "久しぶり、元気そうね。"

 

 

 "あぁ。久しぶりだな───"

 

 

 レオは嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

 

 "───母さん。"

 

 

 "え?"

 

 

 ルカは思わずナギとレオを見比べる。ソウガが笑って説明した。

 

 

 「育ての親だよ。今は産みの親とも和解してる。」 

 

 

 "そういうことだ。俺にとってはどちらも母さんだ。"

 

 

 サルースとは違い落ち着いた雰囲気のレントラーはナギと少し話をして、彼の主の元へ帰った。

 

 

 「繁殖厳選って知ってる?最近は誰でも簡単に遺伝子検査ができてね、産まれたポケモンの生まれつきの身体能力を測れるんだ。」

 

 

 簡易遺伝子検査ならルカも組織にいた頃になんとなく聞いたことがあった。

 

 

 "それって…つまり……"

 

 

 「そう。子供を作らせて、優秀な遺伝子を持つ子供だけを育てて他は捨てる。最近一部のトレーナーで流行ってるんだ。正式に違法って認められてこっちも対策はしてるから育て屋を使ったやつは減ってるんだけど、個人でやるやつは中々そうもいかない。あのレントラーも、決して駄目な訳じゃないんだ。遺伝子的にも十分優秀だった。でも兄弟に負けて、生後1週間で捨てられた。」

 

 

 ソウガは懐かしそうに語る。

 

 「それで今のあの子のトレーナーが拾って届けてくれたんだけど、当時はとても普通の人に育てられるような状態じゃなかった。ポケモンの子供は引き離し時期を間違えるとストレス死してしまうからね。それでこっちで引き取って、ナギが育ての親になった。」

 

 

 "それで…?"

 

 

 「捨てたトレーナーはすぐ特定できた。でも監視処分だけで、逮捕はしなかった。敢えてね。」

 

 

 "どうしてですか?"

 

 

 「ぶちのめせなくなるからさ。」

 

 

 "えっ…?"

 

 

 「鍛えたのさ。捨てたトレーナーに勝つために。逮捕すればトレーナー権の永久剥奪になるからね。そしてとある大会で勝った。上手く煽って、兄弟同士の戦いになった。向こうもチャンピョンリーグで上位には食い込めるような実力者だったから苦戦したし、最後は捨て身だったから相討ちに近かったけど勝った。あれは僕も燃えたね。あんなに全力で指示したのは初めてだったかも。」

 

 

 "最後なんて叫んでたしね。"

 

 

 温厚でどちらかというと幼い感じのするソウガのその姿は想像できなかった。

 

 

 「その後は今のトレーナーに返して、そのトレーナーがIUPPに入ったから今は同僚。心強い仲間だ。……とにかく、」

 

 

 ソウガは真面目な顔に戻る。

 

 

 「職員のポケモンを除いて、ここにいる大部分は人に傷つけられたポケモン達なんだ。こんなに大きな建物が必要なほどたくさんいる。」

 

 

 "…"

 

 

 「ただ可哀想なだけじゃない。捨てられたポケモンが増えると街を荒らすこともよくあるし、自然に悪い影響を与える。違法実験を黙認していればその内取り返しのつかない出来事が起きるかもしれない。…いや、もう何度かそれに匹敵することが起きてる。それを防ぐために動く、レンジャーと警察の中間的存在。それが僕らだ。」

 

 

 さて、と腕輪をかざして他のポケモン達も出してルカにも軽く説明した後、楽に過ごしてと伝えた。

 

 はじめルカは物珍しげに敷地を歩き回ってすれ違うポケモンと軽く挨拶するなどしていたが、職員達が自分にお世辞にも温かいとは言えない視線を送っていることに気がついた。

 

 

 「あれが…殺戮アブソル……」

 

 

 「いきなり独りにして大丈夫なのか…?」

 

 

 ルカは足早にその場を離れ気を紛らそうと独りになれそうな場所を探す。視界に入るすべての人とポケモンが自分を指差しているような気がしたのだ。

 

 

 "困りごと?"

 

 

 気品に満ちた透き通った声に振り向くと、いつの間にかスイクンのナギがルカに歩み寄っていた。

 

 

 "ナギさん…"

 

 

 空色の体と深紅の瞳に普通とは違う海のように蒼いたてがみ。類稀なる美貌と気品に満ちたオーラの中に絶対的覇者の気配もある彼女に、こんなときでも思わず釘付けになってしまう。

 

 

 "慣れないのは仕方ないわ。広いし、今までと全然違うでしょうし。"

 

 

 "はい…"

 

 

 "気晴らしに、私とバトルでもする?"

 

 

 "今は……いいです。"

 

 

 "そう…そうかもね。じゃあここを案内するわ。"

 

 

 ナギはルカとゆっくり散策しながら水飲み場や洗い場、木の実を採ってはいけない畑などを教え、見知ったポケモンがいれば紹介する。

 

 ナギと一緒にいることで少し心の余裕ができたルカは、再び敷地内のポケモン達を見回す。見た光景全てが彼女の知らないもので、けれども懐かしいものだった。

 

 知らないというのは嘘だ。その記憶は消えかけているけれど、あの組織に入る前は、母親が生きているときは、人間との関わりはなかったが森のポケモン達とあんな風に遊んでいた。もう戻れない、戻れないと思っていた過去の話。

 

 

 "大丈夫。少し経てばあなたもあそこに加わってるわ。"

 

 

 ルカの心を読んだようにナギは言った。

 

 

 "ソウガが助けられなかったポケモンはいないもの。"

 

 

 "あの…じゃあ、ナギさんも…?"

 

 

 ナギはクスリと笑う。

 

 

 "違うわ。私は…そうね、親戚みたいなものよ。"

 

 

 "親戚……!?"

 

 

 "もう少し複雑だけど、ソウガが産まれたときから知ってるわ。可愛かったわよー?レ……お母様がいなかったからよく甘えられたわ。姉弟みたいなものよ。"

  

 

 色々と話していると時間はあっという間に過ぎて日が落ち、ルカは食事を終えて寝る場所に向かう。ナギはやることがあるといってルかを先に行かせた。

 

 

 "おっ……おおっ…!!"

 

 

 不意に後ろから鳴き声が聞こえて振り向くと、ずんぐりした体に首と両腕に計3つの頭を持っている見たことのないドラゴンポケモンがこちらを見ていた。

 

 

 "な、なに?"

 

 

 "こ…こいつは……!"

 

 

 人相悪く見える彼はルカを凝視する。

 

 

 "こ…これは……www"

 

 

 厳密に言うと、ルカの顎下から胸まである鬣を見つめていた。

 

 

 "こんなたてがみwwwモフる以外あり得ないwww"

 

 

 "え、ちょ、うわわ!"

 

 

 ドラゴンポケモンはルカに飛び付いて、両腕についている小さな頭で彼女の前足をくわえ、たてがみに顔を突っ込むとこれでもかと擦り付ける。

 

 

 "うっほwww柔らかで滑らかなモフモフの下に隠れる強靭な体wwwやはり強者のたてがみは一味二味違いますなwwwむっ!?これは…wwwこれはwwwサルースの匂いwwwなんと先約がいたとはwwwそれもよりによってあのサルースwwww拙者はあんな暴れ乱雑下手くそわんわんとは次元が違うほど紳士───"

 

 

 "そこまでになさいガルド。"

 

 

 後から入ってきたナギをルカは救われたような目で見る。ガルドと呼ばれたポケモンは素直に引き下がった。

 

 

 "これはナギ殿www比較としてモフらせてもらっても良いんですぞ?www"

 

 

 "そのしゃべり方も止めなさい。ルカが困ってるわよ。"

 

 

 "おっと失礼www新参者には刺激的過ぎたようですなwww混乱する以外あり得ないwww"

 

 

 "氷漬けにされたい?"

 

 

 ナギが口元に多少の冷気を集めるとようやく降参する。

 

 

 "わーった!わーったから!もー、俺が小さい頃はよくモフらせてもらったのにぃ。"

 

 

 "あのときは下心がなかったからよ。"

 

 

 "俺は今でもピュアだ!!"

 

 

 ナギはやれやれと言わんばかりに息を吐く。

 

 

 "彼はガルド。種族はサザンドラ。馬鹿じゃないんだけど、人間の文化を勉強する!って言って気がついたらこうなってたのよね…しつこかったら言ってね。"

  

 

 "失礼な!本能に忠実なだk──GYAAA!!"

 

 

 冷凍ビームが炸裂し、ガルドは落下した。

 

 

 "さ、休みましょ。"

 

 

 "あ……はい…"

 

 

 何事もなかったかのようにナギも寝床に入り、ガルドはのそのそと部屋を出る。彼の寝床はここではないらしい。一気に疲れたルカだった。

 

 

  

 ◯◯◯

  

 

 

 「なんだ、思ったよりまともにできるじゃん。」

 

 

 翌日、ナギと模擬戦をするルカの様子を見ていたソウガは呟く。これまでの彼女の残忍さからそれが模擬戦でも出るかと思っていたのだが、いたって普通の模擬戦だった。意図を察したのかルカは荒い息で答えた。

 

 

 "訓練でもやっていたので…"

 

 

 本気の戦いになったら分からないがこうしてみると普通のポケモンだ。実力もやはり高く、並の炎ポケモンの火炎放射では押し返されてしまう程のナギの冷凍ビームを闇(あく)の波動でなんとか凌いでいる所、彼女の能力は既にIUPPトップクラス。即戦力だろう。

 

 

 "強いとは思っていたけど、予想以上ね。"

 

 

 とはいえナギは余裕。10分の模擬戦でルカの攻撃を1度も食らっていない。神速を使っていないあたり本気の半分も出てないと言われてルカは少し落ち込むが、このスイクンが異常なだけだと通りすがりのガルドに言われて開き直った。

 

 ナギとの模擬戦の後、次はルカリオと技の鍛練をする。俗に言うタイプ不一致のルカリオの闇(あく)の波動でもルカのそれより溜め時間、威力、コントロール力全て勝っているあたり流石波導ポケモンである。

 

 組織にいるときのような張り詰めた空間ではなく、和やかな空気での鍛練はルカにとってはとても新鮮だった。3週間経って施設にも慣れると幼いポケモン達の特訓相手になることもしばしば。意外に面倒見が良いと他の職員からも評判で、遊び半分の特訓に上手く付き合うルカの姿から、彼女に対する負のイメージはほんの少しずつ薄らいでいった。

 

 

 "今日こそお姉ちゃんに勝つんだからね!"

 

 

 双子のイーブイは果敢に突進。ルカはジャンプしてそれを避け、勢い余ったイーブイ達はコロコロと転がり、それを見ていた彼らの兄であるシャワーズはケラケラと笑った。すると起き上がった2匹の内1匹が体に力を込める。

 

 

 "くらえっ!"

 

 

 先程とは比べ物にならない瞬発力で猛突。突然の電光石火にルカも対応しきれず食らってしまった──ということにしておく。本音を言えばこの程度の電光石火を避けることは造作もないが、初めて出してきた技なのでなんとなく気を使ったのだった。

 

 

 "いてて…いつの間に使えるようになったのね。"

 

 

 "へへん!一昨日くらいにできるようになったんだ!"

 

 

 電光石火を繰り出したイーブイは得意気に言った。大してもう1匹のイーブイはオロオロ問いかける。

 

 

 "何でにーちゃんだけ使えるの!?"

 

 

 "夜に父さんに教えてもらったんだ。"

 

 

 "えーずるいー!"

 

 

 "まぁまぁ、電光石火なら僕もできるから教えてあげる。"

 

 

 シャワーズが仲裁に入ると"約束だからね!"と電光石火事件は終わる。その後イーブイ達が疲れ果てるまで「特訓」は続き、彼らが昼寝を始めるとルカもそれに合わせて休憩する。シャワーズは弟達を毛繕いしてやった。

 

 

 "ルカ姉いつもありがとう。"

 

 

 "気にしないで。私も楽しいし。"

 

 

 お礼の言葉に羨望が含まれていることをルカは気づいていた。このシャワーズは違法実験の後遺症で体調が安定しておらず、毎日薬を飲まないと日によっては高熱が出たり、意思とは関係なく水化してしまったりする。そしてその薬の副作用もムラがあり、酷いと半日起きられないときもある。体調が良いときは弟達の相手をしてやれるのだがそういう日は少ないのでルカの存在はありがたく、弟達がうらやましくもあった。

 

 子供達の相手のあとは自分の番。今回は初めてルカリオと手合わせすることになった。

 

 

 「ルールはナギ様のときと同じ。遠慮せず来てください。」

 

 

 ヒュウッとルカの周囲の空気が渦巻き、それを角に集めて鎌鼬(かまいたち)を放つとルカリオは波導を骨状に形成しこれを弾く。直後にルカが辻斬りを仕掛けるがスッと避けられ脇腹を振られた骨がかする。

 

 

 「よく避けましたね。」

 

 

 ルカは間髪入れずに念力刃(サイコカッター)を放つがルカリオはこれも避けて骨を投げ、それをやり過ごしながらシャドーボールを撃つもルカリオは既に闇(あく)の波動を溜めており、押し返される。

 

 ナギとは違い行動が速くて当たらないのではなく、こちらの動きを完全に読んでそれに対し敏速に対応している、といった感じだ。

 

 どういう手を打とうか、ルカが迷った一瞬の隙を見逃さずにルカリオは地面を蹴り上げてバレットパンチをお見舞した。

 

 

 「正直…防がれるとは思いませんでした。」

 

 

 咄嗟の判断で角に力を込めて受け止める。メガホーンで受け止められてルカリオの拳に溜められていたエネルギーが弾けるが、その時ルカリオは既に距離を取って反撃に備えていた。

 

 

 "まだまだっ……!"

 

 

 闇の波動を陽動に使い念力刃を放ってもまた避けられ反撃される。制限時間が迫ったときに、ふと先程イーブイ達の相手をしたときのことを思い出した。

 

 シャドーボールを撃ってすぐにルカリオに向かって走り、ルカリオがシャドーボールを最小限の動きで避けて次に備えたときに足腰に力を込めて突進、先程までの余裕はないがルカリオは紙一重で避けると反撃に備えようとするルカに八掛を叩き込もうとしたその瞬間、ルカの気の流れが一転し、ルカリオの掌よりも速くもう一度地面を蹴って突進した。

 

 

 「…不意討ち、ですか。見事です。」

 

 

 "うぐっ……"

 

 

 ルカの突進はルカリオの左腕のラリアットで受け止められ、更に右手で波動弾を突きつける。ルカの不意討ちから1秒も経たない内の出来事だ。ここまで、と離れるとルカは思わず驚きの声を口にした。

 

 

 "溜めが速すぎる……!"

 

 

 「あの技を私よりも速く溜められる者はそういないでしょう。…しかしあなたの方が速かった。波動体術を使って受け止めなければあの一撃で私は体勢を崩し、そのまま倒されていたでしょうね。」

 

 

 ちゃんと意図的に急所も外されていたから尚更、とルカリオは心の中で付け加えた。

 

 

 "波動体術?"

 

 

 「えぇ。自分の体に波動を纏わせることで単純な攻撃力、耐久力を上げることです。不意だった分、先は左腕にしか波動を回せませんでしたが。」

 

 

 多少は痛かったらしく、左腕を擦る。

 

 

 「あなたが電光石火を使うとは…あなたはソウガ様に似ているかもしれませんね。」

 

 

 意外な言葉にルカリオを見る。

 

 

 「あの戦法、イーブイ達から学んだのでしょう?電光石火の寸前にイーブイのイメージが伝わってきました。時に格下の者からも躊躇なく学ぶ…幼子でも……従者でも…」

 

 

 ソウガの使う波導はルカリオから教わったということを思い出して、何となく大事なことが分かってきたような気がしたルカだった。

 

 

 

 ────────────────────

 

10.休暇

 

 

 ある日、朝に食事を終えるとソウガがやってくる。

 

 

 「みんな、急で悪いんだけどカントーに行くよ。エルムの大会に間に合いそうだからね。」

 

 

 ということで、施設のポケモン達にあわただしく別れを告げると出発する。で、

 

 

 "ブフォwwwwモフモフが2匹wwwモフモフが2匹wwwこれはもうモフモフする以外あり得ないwww"

 

 

 抜けたハイルの代わりに入ったのはサザンドラのガルドだった。聞けばメンバーのゴウカザルとは兄弟のような仲らしく、言葉にはしてないが2匹ともいつもよりテンション高めである。

 

 

 "うるせぇ変態。またナギさんにやられんぞ?"

 

 

 "俺が求めてるのはモフモフだ。筋肉は帰れ。"

 

 

 "んだとゴルァア!"

 

 

 "2匹ともー、ここで暴れたら怒られちゃうよー?"

 

 

 フライゴンの言ったことを無視して暴れる2匹は後でナギにお仕置きされた。そんな中ルカは前のようにウロウロすることなく、ルカリオに頼んで一緒に瞑想したり、屋外で空に飛ばせば問題ない悪の波動の稽古などをしてもらっている。力を付けて恩を返したい、罪を償いたいという気持ちに加え、今までにない刺激を受けたルカは戦いもとい強くなることに対する価値観が変わってきていて鍛錬そのものが楽しいと感じるようになっていた。

 

そんなこんなで1週間、カントーリーグ開催地に到着してエルム達と再会する。チャンピョンリーグに続く、カントーだけでなく色んな地方からのエリートトレーナーが集まるとだけあって会場は観客の間にまでも緊張感に包まれている。

 

 

「なんだー?メンバー揃っておさぼりか?」

 

 

そう言いつつエルムは嬉しそうだ。さすがに大会前なので軽く話すと別れて観客席へ。しばらくはのんびりと試合を観戦、エルムが登場してもソウガは特に大きな声を出すことなく静かに観ていた。応援しないのかと隣に座っていたルカが彼を見るが、彼の目は鋭くエルムのポケモンや相手のポケモンを追っていて、まるで自分が参加していて今にも双方のポケモンに指示を飛ばしそうな、そんな感じだった。

 

 

この日は準決勝でエルムは問題なく通過。6対6のシングルフルバトルであったがサルースが出るまでもなく、フーディン、ラプラス、ムクホークで相手を全滅させた。サルースは張り切っていたらしく試合後に「つまんねぇ」とボヤいていたのは余談。

 

 

“すごい人ですね。”

 

 

「一大イベントだからね。」

 

 

この日の試合が終わると開催地はお祭り会場と化す。さまざまな娯楽や食べ物の屋台が出揃い、ソウガもアローラ地方名物マラサダと飲み物を両手に持って歩き回る。一見普通の観光客だがルカには彼が心から楽しんでいるようには見えない。

 

 

"あの…"

 

 

 「うん?」

 

 

 言いにくかったが余計な気を使わせているのではないかと思い、ルカはやんわり尋ねてみる。

 

 

 "ソウガさん…その…ここにいて大丈夫なんですか?"

 

 

 察したのたか、ソウガは悪戯がバレたとでも言うように笑う。

 

 

 「癖、かな。こういうポケモントレーナーが集まるところに来ると、ついつい"観察"したくなる。…とでも言えばいいかな?サボり中とはいえIUPPとして不審者は見過ごせないからね。いるんだよ、表面は普通の良いトレーナーで裏はヤバイやつ。でも別に楽しんでない訳じゃないよ?アローラ地方のお店は初出店。遠くて中々行けないからね。」

 

 

 そう言ってマラサダをかじったのを見てルカも笑った。その後も時折ソウガの目が鋭くなることがあったが行動に移ることはなく、他のみんなにもとポケモン用の食べ物をいくつか買って宿泊先に戻った。

 

 翌日は試合がないので郊外でメンバーと鍛練をする。通りすがりのトレーナーに勝負を申し込まれ、試しにとルカが戦って圧勝。見ていたサルースにウォーミングアップに付き合ってくれと頼まれてその相手をした。試合に響かないよう軽く取っ組み合う位で、すぐに休憩する。

 

 

 "なんか、少し会わないうちに変わったな。"

 

 

 "そうかな。"

 

 

 "あぁ。手合わせしたのは初めてだが前とは違うと思う。なんかあったか?"

 

 

 "みんなに…鍛練の相手をしてもらった。それくらい。"

 

 

 それを聞いたサルースはゴロンと横になって、あくびをしながらつまらなさそうに言った。

 

 

 "なんだぁお前も戦闘狂の道を進むのかぁ…"

 

 

 "えっ、"

 

 

 "いやほら、雄としてか弱い雌を守ってみたくなるじゃん?まっ、別に強い雌も好きだけど。"

 

 

 決勝前とは思えない、いつものサルースである。

 

 

 "どうしようルカがナギさんみたいに怒ると悪の波動飛ばしてくる恐妻になったら……"

 

 

 おお怖、と身震いしながら体勢を戻し立ち上がった。盛大なニヤつきと共に。顔が熱くなるルカもいつも通りである。

 

 

 "じゃ、俺行くな。あんまりナギさんのこと喋ってると本人来そうだし、やっぱお前相手だとあんまり集中できん。"

 

 

 "えっそんな───"

 

 

 "大事な試合前の調整なのに頭ん中がお前で一杯になるっつの。"

 

 

 "…っ!"

 

 

 くどい文句だがそういうことを知らないルカは炎ポケモンのように熱くなる。

 

 

 "試合終わったら存分に───"

 

 

 "ブッッwwwフォォッwwwwこれはこれはwwwサルース殿www流石炎ポケモンwwwお熱い言葉を御馳走さんwwwwお取り込み中失礼し───GYAAAA!!"

 

 

 ガルドが何の技を食らったのかは想像にお任せしよう。

 

 

 "何でテメーがここに!つーかいつからいたんだよ!全く…!じゃあまたなルカ!!"

 

 

 地に伏したガルドを踏み越えサルースは練習相手を探しにその場を後にする。

 

 

 "…大丈夫?"

 

 

 "エルムが……呼んでるって……サルースに……伝えて……ガクッ"

 

 

 その後、ガルドはフライゴンのニンファに回収された。

 

 

 

 

 ────────────────────

 

11.不穏

 

 

 リーグの決勝はたった一試合しかないというのに準決勝よりも遥かに多くの人が会場に押し寄せた。客席に入りきらない人はコロシアム外に複数あるスクリーンで、時折響く爆音を感じながら背伸びをして見守った。

 

 エルムの相手はカントーリーグの前回チャンピオン。14歳のエルムより20歳くらいは年上のトレーナーで熟練度が違う。巧みな指示でエルムは終始劣勢を強いられ相手のポケモンを3体倒したときにはエルムは残り2体になっていた。

 

 

 『リザードン戦闘不能!ムクホークの勝利!しかしエルム選手の残りはムクホーク合わせて2体、対するフウ選手は残り3体、ムクホークにはかなりの疲労が見えます!フウ選手の大会3連覇達成なるか!?それともエルム選手の逆襲が始まるのか!?さぁ次のフウ選手のポケモンは───!?』

 

 

 エルムのムクホークは次に出てきたファイアローと激しい空中戦の末、あと一歩まで追い詰めるが限界が訪れ、相討ち狙いで渾身の、捨て身の技「ブレイブバード」を相手に耐えられその反動で自滅してしまった。

 

 そしてお待ちかね、サルースが場内に出る。開始の合図と同時にサルースの「神速」でファイアローはなにもできずに落とされる。

 

 続いて出てきたメタグロスも、相性もあってあっという間に沈めてしまう。エルムの他のポケモン達や相手のポケモン達もかなり優秀であることに間違いはない。しかしナギに年単位で鍛えられた彼は別格だった。そして相手の切り札と言われているグライオンにやや苦戦するも、ボルテージMAXの会場の中、最後はフレアドライブで止めを刺した。

 

 

 「おめでとう。思ったより苦戦したんじゃない?」

 

 

 試合後にソウガが会いに行ってそう言うとエルムは苦笑いした。

 

 

 「あぁ。まさかサルース以外全滅するとは思ってなかった。相手がチートだったんだよ。みんなよく頑張ってくれた。」

 

 

 「負けたみたいな言い方だね。」

 

 

 「うるせ。俺もサルースに頼りっきりのバトルから早く卒業しないとなぁ。」

 

 

 翌日の表彰式の準備があるためエルム達とはここで一旦別れ、ソウガ達は前日以上に盛り上がる会場周辺をほっつき歩く。

 

 

 "サルース…強いんですね。"

 

 

 「まぁね、いろんなポケモンに鍛えられたから。でも他人事じゃないよ?近々ルカにもリーグに参加してもらうから。」

 

 

 "私が…?"

 

 

 「そう。色んな宣伝も兼ねてね。……っと、どうするかな。」

 

 

 不意にソウガは立ち止まって左右を見る。

 

 

 "どうしたんですか?"

 

 

 「うーん……困ったね。ルカをどうするか……」

 

 

 しばらくブツブツと独り言を呟き、まいっか、とルカを連れて郊外に出る。するとそこにはいつの間にか別行動をしていたらしいルカリオが待機していた。

 

 

 「こちらです。予想より規模が大きかったのでお呼びしました。」

 

 

 「分かった。ルカを頼む。」

 

 

 「はい。」

 

 

 "え…なんですか?"

 

 

 ソウガは早歩きしながら答える。

 

 

 「カントー中、世界中から人が集まるんだ。きっと"あいつら"も来るだろうとは思ってたんだけど、こんな大胆な行動をとるとはね。」

 

 

 ソウガの目は鋭く、ルカにも何となく緊張が伝わる。3分ほど歩いた、民家のないところで大型トラックが2台停まっているのが見えた。

 

 

 「お仕事中失礼、トラックの中を見せてもらえないかな。」

 

 

 トラックの近くにいた数人の男女に声をかけると彼らは各々のポケモンをボールから出しながら柄悪く答えた。

 

 

 「ガキが大人の仕事の邪魔をするな。痛い目に遭いたいのか?」

 

 

 「…って言いたいところだけど、あなた良いポケモンを持ってるわね。」

 

 

 別の男が端末をとりだしカメラでこちらを撮る。

 

 

 「アブソルに…隣は…ルカリオ?カントーにはいないポケモンだな。」

 

 

 ニヤリ、と笑う彼らに対しソウガは全く表情を変えず、語気を強めて言った。

 

 

 「強奪ならやめて欲しいな。手間がかからない方がお互い良いだろう?」

 

 

 相手方が笑い声を上げる。

 

 

 「まぁまぁ、そんなクセの強いポケモン持ってるんだ、こっちもスラスラいくとは思ってない。でも楽にいくより少しくらい苦労した方がやりがいがあるってもんよ。だろ?」

 

 

 「そう…じゃ、仕方ないね。ガルド、バンダル、」

 

 

 腕輪をかざして名前を呼ぶと、サザンドラとゴウカザルが飛び出してくる。

 

 

 「へぇ、ますます欲しくなってきた。2班、かかれ。」

 

 

 6人の男女はそれぞれ6匹ずつ、計36匹のポケモンを繰り出した。数の差は圧倒的。ルカも気を練り参加しようとするとソウガに止められた。

 

 

 「君が戦うのは僕がそう指示した時か、どうしてもそうしないと君の身が危ないときだけだ。それに2匹で十分。僕らと任務をやる前に、僕らの仕事場を見せてあげよう。」

 

 

 空色の瞳の青年に、一片の焦りも油断も映っていない。

 

 

 「ガルド、流星群。バンダルは撃ち漏らしを叩いて。」

 

 

 "ブフォwwww拙者の必殺技からは逃れられませんぞwww敵全滅不可避www"

 

 

 ガルドは両腕の口に光を集める。

 

 

 "食らえ必殺wwwウルトラwwスーパーwwデラックスwwハイパーwwトライアン───!"

 

 

 "さっさとしろアホォ!!"

 

 

 "チキショォォ!!"

 

 

 本来の口にも光を溜めて、3つの光弾を空に向けて撃つ。放たれた光弾は宙で弾け、分裂しながら雨のように降り注ぎルカはうわずった鳴き声を上げる。

 

 

 "これが流星群!?それに1度に3つも…!"

 

 

 全く予想していなかった攻撃に相手も流石にパニック状態になる。何匹かは「守る」や光の壁で防ごうとしたが、

 

 

 「バンダル、水平斬り。」

 

 

 流星群を見事に掻い潜り、水平手刀打ちで障壁を叩き割る。

 

 

 「マ、マタドガス!スモッグ!」 

 

 

 「風起こし、火炎放射。」

 

 

 ガルドが風圧で煙を払い、またそれに乗って勢いを増した火炎放射が相手を襲う。先の流星群もあって、あっという間に部隊は壊滅した。

 

 

 「…で、次は?」

 

 

 「く、くそ…嘗めやがって!総員攻撃!」

 

 

 残っていた者と、たった今駆けつけた別の者が手持ちすべてのポケモンを出して総攻撃を試みる。数はおよそ60匹。飛行するポケモンも何匹かいるのを見て、ソウガはもう一度腕輪をかざす。

 

 

 「ニンファ、1匹も逃さないで。」

 

 

 "オッケー任せて!"

 

 

 出てきたフライゴンも加わり派手な戦闘になった。ニンファが銀色の風で飛んでいるポケモンを足止めしている間バンダルが地上のポケモンを様々な技で倒し、そのバンダルに遠距離攻撃を仕掛けようとするポケモンをガルドが叩く。完璧な連携で敵はみるみる数を減らしていった。

 

 

 「あのサザンドラにゴットバード!」

 

 

 指示されたドンカラスが全身を光らせ地上から突き上げるようにガルドを狙う。対するガルドも青い炎を纏って滑空し、向かってくるドンカラスをドラゴンダイブで真っ向から衝突。 

 

 

 "俺の才能による圧倒的力量差!押し負けるなんてあり得ないっ!www"

 

 

 ドンカラスはいとも簡単に弾き飛ばされ、ガルドはその勢いのまま低空飛行で地上の敵を薙ぎ払った。

 

 

 「さてと、どうする?降参する気になった?」

 

 

 既に半分は倒し、残りの半分が怖じ気づいたところで一旦手を止める。相手方は歯ぎしりして後ずさった。

 

 

 「何なんだ…こいつら…こんなやつリーグにいなかったはずだよな…?」

 

 

 「それより気にならないか…?あのアブソル…あの場所に布を巻くって……」

 

 

 ビクリとルカの体が震えた。ここに来てから「アブソル」ということで嫌な視線を送られることは多々あったしその度に胸が締め付けられるような気持ちになった。だがそれとは違う。内側から熱いものが全身に広がっていく。

 

 

 「えぇ…?じゃああのアブソルって───」

 

 

 知っている。今自分を指差した人間を、自分は見たことがある。前の主人と会話しているところを、見たことがある。

 

 

 "お前……達は……!!"

 

 

 ソウガやルカリオが身構えるほどの気を練り上げ、オーラが彼女を包んで布が弾け飛ぶ。左前足の傷痕があらわになった。

 

 

 「やっぱりそうだ!こいつダムドのアブソルだ!」

 

 

 「こいつら、やはりロケット団の残党か…!ルカ!やめろ!駄目だ!」

 

 

 ポケモンではなく人間に向かって技を放とうとするルカを必死に抑える。

 

 

 "どうして…!こいつらは…こいつらは……!!"

 

 

 「駄目だルカ!」

 

 

 「ダムドさん!ダムドさんのアブソルですよ!生きてました!」

 

 

 車両から男が降りてくる。忘れるはずもない、"主人"の顔。

 

 

 「お前…!!生きて───」

 

 

 アブソルの中で、ぷつりと音がした。

   

 

 「ルカ───!!」

 

 

 "離して…!!こいつらは…私が…!!"

 

 

 ルカは泣いていた。

 

 

 "私が…殺す…!殺してやる…!!"

 

 

 ギガインパクトのオーラが変質し、目を開けられぬほどの光と共に衝撃波がソウガとルカリオを吹き飛ばした。

  

 ルカは叫び、オーラで地面をえぐらせながら加速。"主人"に全てをぶつけようと────

 

 

 "……っ!!"

 

 

 たった今吹き飛んだはずのソウガが割り込んだ。気づいたもののもう止まれない。

 

 耳をつんざく轟音が響き、閃光で視界が奪われる。

 

 

 「君に生きることを許してくれた人たちの苦悩を、無下にするつもりかい?」

 

 

 片手で押さえていたルカの額を放して軽く撫でる。元主人は腰を抜かしていた。

 

 

 "私は……私は……でも……"

 

 

 "悪魔にモフりたくはねぇわな。"

 

 

 唐突にガルドが口を挟んだ。

 

 

 "サルースだって、可愛い雌は好きでも悪魔になっちまったら流石に、なぁ?"

 

 

 "俺も嫌だね。"

 

 

 バンダルも口を開く。今まで壁のあった彼がルカに話しかけるのは初めてだった。

 

 

 "本当は可哀想で、良いやつだって、最近分かってきたのに、裏切る気か?"

 

 

 "わ、私も可愛いルカちゃんが良いな!"

 

 

 タイミングを逃さないようにとニンファも慌てて空から叫ぶ。

 

 

 「少し前に見せてくれた本当のあなたを、あなた自身がよく分かっているはずです。」

 

 

 ルカリオも諭そうとする。ルカは項垂れた。

 

 

 "それにこんな雑魚共wwwこいつら相手にかの有名な殺戮アブソルがわざわざ出るなんてあり得ないwww"

 

 

 "あぁ。"

 

 

 "そーだそーだ。"

 

 

 「さてと。僕は応援呼んでるからみんなよろしく。」

 

 

 ガルド、バンダル、ニンファは戦闘を再開させ、ルカリオは人間達を気絶させていく。

 

 ロケット団の一人がバンギラスを出してソウガ達に襲いかかったが、腕輪からナギが出てきて高圧な水流がバンギラスを押し退けた。

 

 

 「ちぃっ…ハイドロポンプか…」

 

 

 「違うよ、水鉄砲だよ。」

 

 

 「は?」

 

 

 「じゃあナギ、ハイドロポンプしてあげて。」

 

 

 わざと外すと数本の木を貫通して穴が開く。

 

 

 "分かった?"

 

 

 ナギが首を傾げるとバンギラスの戦意は完全に削がれた。

 

 数分後、警察が駆けつけた時にはもう戦いは終わり、時折ガルドが伸びた人間に悪態を吐いていた。

 

 

 "ザマァ見ろwwwゲス共www"

 

 

 「ルカ、大丈夫?だいぶ反動くらったね。あんな技をいきなりやるから……」

 

 

 "ソウガさんは……"

 

 

 「僕は平気だよ。」

 

 

 ソウガはバックから包帯を取り出してルカの傷痕を隠すように巻く。

 

 

 "このwwwカス!カス!!www"

 

 

 "その……ごめんなさい。"

 

 

 「気持ちは分かる。でも力に頼りきったらだめだ。少なくとも君は。落ち込むことはないよ。ガルドも悪口はそのへんにしといて。」

 

 

 "ハァーイwww"

 

 

 捕らえられたポケモンやロケット団達は警察に任せ、一行は宿へ戻った。

  

 

 

 ────────────────────

 

12.一目惚れ

 

 

 "な……"

 

 

 エルムとカントーリーグ制覇を目指していたサルースは、その途中で信じがたいものを目にしてしまった。

 

 

 "殺戮…アブソル……"

 

 

 施設の広場で独り黄昏ている白い獣。横から見ると左前足に布を巻いているのがわかり、それが何を意味しているのかはすぐに分かった。

 

 

 "……。"

 

 

 実は殺戮アブソルを捕獲する作戦に恩人ソウガが参加するということは聞いていた。しかしこんな形で会うことになるとは思ってもいなかった。

 

 

 復讐をするために生きてきたのはもう前のこと。ソウガと行動し事情を抱えたたくさんの人間やポケモンに出逢ったことが彼の心を成長させた。しかし再び目にした仇敵にあのときの記憶が、恐怖がよみがえる。

 

 母親にたたき起こされたと思えばエルムの両親の悲鳴、母親が戦いに出た後は母の悲鳴を聞き続けた。あの瓦礫の下で、あまりの恐怖に気が狂いそうになったことをよく覚えている。

 

 無防備なアブソルに攻撃を食らわせるのは容易い。

 

 

 "……"

 

 

 アブソルはどこも見ていなかった。現実から逃れようとするように、思考を放棄しているような無気力な目でボーッとしていた。

 

 

 自分はその目を知っている。自分も同じ目をしていたのだから。そしてソウガについていってからはそういう目をする者を何度も見てきた。 

 

 

 "よぉ、初めましてだな。俺はサルース。名前、貰ったか?"

 

 

 笑顔で、いつも通りに。だが内心は恐かった。憎いというよりも恐ろしかった。

 

 

 "ルカ……"

 

 

 やっと会えた仇敵は、今にも壊れてしまいそうなほど弱々しかった。

 

 

 「毛繕い、しても良いか?」

 

 

 頷いた彼女は緊張しているようで。しばらく舐めてやるとリラックスしてこちらに身を委ねてくる。何か思い出でもあるのか、悲しげな顔をしていた。

 

 

 顔をペロンと舐めると分かりやすく照れる彼女。下らない冗談を真に受けて動揺する彼女。時々見せてくれる可愛らしい笑み。衝動に負けて、彼女を前足で抱き寄せると自分の頬や首もとを擦り付ける。彼女は嫌がらなかった。

 

 

 "またな、ルカ。"

 

 

 彼女が先に呼ばれ、別れる。

 

 

 "ははっ…情けねぇ……"

 

 

 寄り添っていた、彼女と触れていたところが寒く感じる。こういうのは初めてではないのに。

 

 

 "母さんはどんな風に父さんと結ばれたんだろうな…"

 

 

 父親のことはあまり知らない。自分とエルムは幼かったし、ソウガもその事は聞いていなかったらしい。

 

 

 また明日も会えるからと言い聞かせたのがかえって悪かった。

 

 

 "なんだよ俺……それって完全に一目惚れしてんじゃん……俺の脳ミソもついにイカれちまったか。"

 

 

 なんとも言えない、温かいようで虚しい感覚になる自分を嘲笑った。それでも頭には彼女の笑顔が張り付いていた。

 

 

 なんとなく、空を見る。母は何て言うだろうか。エルムはなんて言うだろうか。死んだ兄弟はなんて言うか……元々はあいつを倒すために…殺すために強くなったはずなのに。

 

 

 "いや、殺すんだ。あいつを。殺戮アブソルを。"

 

 

 サルースは自問自答する。

 

 

 "俺は殺戮アブソルを殺す。ルカを殺戮アブソルから守るために。それで良いじゃないか。"

 

 

 くっくと笑った。もうどうでもよくなって、すっかりいつもの自分に戻っていた。 

 

 

 "あの狂った怪物からルカを守って、倒してやるんだ。そしたらきっとルカは俺の虜になって、俺のものになる。……今度ガルドに言ってやろ。"

 

 

 がぁ、と大きく欠伸をしてエルムの帰りを待った。

 

 

 

 ◯◯◯

 

 

 

 ロケット団残党騒動をやり過ごしたルカはサルースと宿で再会し、ソウガの部屋に遊びに来た彼にルカは毛繕いしてもらっていた。

 

 

 "そりゃあ大変だったな。"

 

 

 "はぁ……なんかごめんね……優勝おめでとう。"

 

 

 "チョロいチョロい。あんなんお前でも勝てる。お前こそ、大丈夫か?"

 

 

 サルースは新しい布が巻かれたルカの左前脚に触れる。

 

 

 "……やっぱり知ってたのね。"

 

 

 "そりゃあ、有名だもん。"

 

 

 "そうよね……言えなくてごめんなさい。"

 

 

 "まぁまぁしゃーないって。今さら余計な心配すんなよ?"

 

 

 "うん…"

 

 

 サルースがルカの顔を優しくなめると彼女もおとなしく身を委ねた。

 

 

 「おふたりさん。」

 

 

 そこへエルムとソウガがやって来る。

 

 

 「さっきの件だけど、基地の場所が分かった。」

 

 

 2匹の表情が引き締まる。ソウガはルカに向かって言った。

  

 

 「来るかい?」

 

 

 

 

 ────────────────────

 

13.告白

 

  

 「急な初任務になっちゃったけど、よくできたじゃないか。」

 

 

 "はい……" 

 

 

 誉められるルカの顔は暗い。

 

 

 「そんな顔しないで、むしろ償えたってことだよ。」

 

 

 制圧した基地には、"殺戮アブソル"によって拉致されたポケモン達も収容されていたため、助けに来たルカに対してさらに怯えたり怒りを向ける者がいたのだ。

 

  

 "そうだと…良いですね…"

 

 

 「さ、サルースが待ってるんでしょ?いっといで。初任務お疲れさま。」

 

 

 こうして中々にハードな休暇を終えてフィオレ地方に戻った一行。ルカの訓練も再開された。

 

 

 「よーし、今日は終わり。」

 

 

 ソウガは毎日ルカを色んなポケモンと実践形式でバトルさせて、日が傾いてきた頃に訓練を終わらせる。砂ぼこりでゴワゴワになったルカを洗ってからブラッシングしてやり、あとは好きにさせていた。無論ルカのやることといえば幼いポケモン達の相手かサルースと過ごすことだ。

 

 

 "おつかれさーん。"

 

 

 "うん。ありがとう。"

 

 

 大柄なウインディと華奢なアブソルが甘え合っているのは、この施設では見慣れた光景となりつつある。しかし彼らはあくまでただ仲が良いというだけでお互い遠慮しているのが事実。そんな日々に音を上げたのはサルースだった。

 

 

 "なぁルカ。"

 

 

 "なに?"

 

 

 "番にならないか、俺達。その…不満って訳じゃないけど、普通だったらとっくに……なぁ?"

 

 

 サルースはいつもの調子で冗談めかしく言ったがルカの顔は陰る。

 

 

 "私、まだ何もできてない…"

 

 

 "なんだ、ほんとはその気満々だけど遠慮してるって感じじゃなかったのか。"

 

 

 "だって……私は……"

 

 

 "罪償いに他の誰かを守って幸せにしないとって?…正直、それにこだわる必要ないと思うけどなぁ。まぁ俺はお前じゃないからわかんないけどさ。"

 

 

 サルースは彼女のその背を抱き締めたい衝動をまぎらわすためにゴロンと横向きに寝転がる。

 

 

 "じゃあさ、俺を幸せにしてくれよ。"

 

 

 "え……?"

 

 

 "俺はルカと番になれたら幸せだなー。進化してそろそろ番とか子供とか欲しいなーって思ってたところに可愛いお前が来たんだ。そのままお前と…ってあれ、どっかで言ったっけ?"

 

 

 "聞いたかも……"

 

 

 "ありゃあ、使い回し文句だってことがバレちまったな。お前の反応が一番良かったけど。"

 

 

 ルカの表情が少し緩んだことを確認して、サルースは距離を縮めると彼女の顔をベロンと舐めた。

 

 

 "今日、一緒に寝ようぜ。あっちの方に良い場所があるんだ。"

 

 

 サルースがアゴで指したのは宿舎と真逆の方向だった。

 

 

 "まぁ、その前にここで昼寝か?昼は過ぎたけど。"

 

 

 "サルース…"

 

 

 "お前はさ、自分で思ってるほど悪いやつじゃないぞ。"

 

 

 この雌アブソルが自分に行為を抱いていることなんて自分からしても周りからしても明らか。彼女がためらうなら自分から押すまでだ。

 

 

 "じゃ、後に備えて俺は寝ようかな。"

 

 

 わざとらしくあくびをして目を瞑ると、少ししてルカもサルースに体重を預けて寝息を立てはじめる。了承と受け取ったサルースはニヤリと笑った。

 

 

 

 ◯◯◯

 

 

 

 自分はガーディだった。母親のウインディとその主である人間の男と暮らしていた。しかし突然場面が変わって、夜は炎に照らされて、主は死に、母は何者かになぶられていた。

 

 

 「やめて…!やめて…!」

 

 

 自分はアブソルになっていた。そして母を引き裂く敵に飛びかかって、逆にその敵を引き裂いた。その敵に止めを刺そうとすると、敵は左前足に傷跡のあるアブソルになっていた。そのアブソルは自分を見て不敵に笑った……

 

 

 「おい……おい!」

 

 

 ルカは揺さぶられて現実に戻る。目の前にいたのは色黒の少年、エルムだった。

 

 

 「大丈夫か?」

 

 

 "ルカ、分かるか?"

 

 

 そのすぐそばにサルースがいて、心配そうに覗き込んでいた。ルカの異変に気がついたエルムが2匹を起こしたのだ。

 

 

 "夢………"

 

 

 大きくため息をついて体を弛ませる。

 

 

 「すごい顔してたし途中から叫びはじめたからどうなったかと思ったぞ。よくあるのか?」

 

 

 サルースは代わりに首を横に振った。ルカが悪夢を見ること自体は度々あったがうなされるようなことは、少なくともサルースからしたら初めてだったのだ。

 

 

 「そっか……なんか、あったかいミルクでも飲む?」

 

 

 その言葉に顔を上げたルカが見たのは、純粋に心配してくれる少年とウインディの顔。当たり前だが見覚えのある顔。

 

 

 「ん?どうした?」

 

 

 "ルカ…?"

  

 

 記憶が鮮明に蘇り、少年の顔は男の顔に、サルースの顔は雌のウインディのものになる。

 

 

 "あ……そんな……まさか………"

 

 

 "ルカ?"

 

 

 「サルース、なんて言ってる?」

 

 

 「いや良く分からない。」

 

 

 

 ルカは立ち上がってよろめくように後ずさった。何故今まで気がつかなかったのか、ふたりともその面影を残しているではないか。夜の村で男を殺そうとした時に雌のウインディが自分の前に立ちはだかった時の、記憶から消えかけていた光景が重なった。その生き残りが、彼らの生き写しが目の前にいる。

 

 

 "ルカ、大丈夫か?"

 

 

 そういえば、サルースの過去を聞いたことがなかった。

 

 

 "サルース…あなたのお母さん……誰が殺したの………?"

 

 

 "…っ!?"

 

 

 "私……なのね……?"

 

 

 サルースは言葉を詰まらせる。

 

 

 "ルカ、まて……!"

 

 

 "どうして…私に近づいたの?"

 

 

 "それはっ……その………"

 

 

 「サルース、どうしたんだ!どうなってる!?」

 

 

 ルカの温和な雰囲気が消え、不安定で危険な空気が彼女をつつみエルムもそれに気づく。

 

 

 "何の……ためなの?"

 

 

 違うんだ、とサルースは叫ぶことが出来なかった。彼女と再会したとき、彼女に敢えて近づいた時にはそのような気持ちもあった。

 

 

 「おい!どうしちまったんだよ2匹とも!」

 

 

 その声に弾かれたようにルカは背を向け走り去ってしまった。

 

 

 「お、おい!ルカ!…サルース、何があったんだよ…!」

 

 

 「俺の……せいだ……」

 

 

 ルカが去った方向を呆然と見つめながら、乱れたテレパシーで答える。

 

 

 「ルカが……気づいた……なんでかは知らないけど、俺たちの親のことに気づいた…」

 

 

 「今さらそれが──…言ってなかったのか?」

 

 

 サルースは押し黙った。

 

 

 「俺はそれを知ってて仲良くしてるんだと……」

 

 

 「あぁ……何で言わなかったんだ……言うべきだった……気づかれるとは思ってなかった……」

 

 

 「なぁサルース、お前、あいつのこと好きなんだよな?その……なんか、何て言うか…ソウガを敵に回すような…ことを考えてた訳じゃないんだよな?」

 

 

 「違う!少なくとも今は…」

 

 

 そう、好きになった。脆い彼女を守ってやりたいと、そう思っていたはずなのだ。だが心のどこかでまだ彼女を恐れ、恨んでいた。だから打ち明けられなかった。心を開いてくれていたルカに対し、自分は頑なに心の奥を閉ざしていたのだ。自分を心の拠り所としていた彼女にとってそれは裏切りに等しいだろう。

 

 さっきのルカは、記憶の中の悪魔が蘇ったようだった。

 

 

 「エルム…もし俺があいつに殺されても、俺のせいだから…」

 

 

 「なにする気だ?」

 

 

 「分からない…分からないけど、このままじゃルカが…壊れちまう。俺のせいだ。俺が行くしかねぇ。」

 

 

 エルムの返事を待たずにサルースは走り出した。匂いを辿りながら、立派なたてがみをなびかせて敷地を駆け抜ける。

 

 

 "この辺りか……くそっ、しっかりしろ俺!"

 

 

 建物から離れた見通しの悪い場所に彼女を見つけた。決して近づいてはいけないような、無言の障壁があるようだった。

 

 

 "ルカ。"

 

 

 まるで聞こえてないようにルカはピクリとも動かない。

 

 

 "悪かった。俺のこと、何も話してなかった。でも…信じてくれ。俺は──"

 

 

 "独りにして欲しいの。"

 

 

 ルカの声は震えていた。

 

 

 "あなたを信じてない訳じゃない。でも今は独りにして。"

 

 

 "…断る。"

 

 

 "どうして。"

 

 

 "お前こそ、どうして独りになりたがるんだ。言っただろ?俺はお前と番になりたい。好きなんだよ。お前が。昔のことなんて、今さら関係ない。お前はもう───"

 

 

 "あなたになくても私にはあるのよ…!私はあなたのお母さんを殺した。とても酷い方法で殺した。私はそれを楽しんだ。………あなたといると、よく思ったの。もしあのウインディや子供たちが生きていたら…どれだけ私を恨むだろうかって…"

 

 

 "…あぁ恨んださ。憎かった。俺はお前を殺すために強くなった。でも俺はもう子供じゃない。それにお前は殺戮アブソルじゃない。そうだろ?俺は変わったお前を好きになったんだ……"

 

 

 ルカはサルースを振り返る。その顔に、サルースは思わず1歩下がった。

 

 

 "どうして、そんなに簡単に言えるの?私は確かに変わったわ。でも前の私が消えるわけじゃない。私のしたことは変わらない。苦しいの………あなたには分からないかもしれないけど……"

 

 

 "お前だって、"

 

 

 今度はサルースが声を荒げた。

 

 

 "お前だって分かっちゃいないさ…!俺はお前に苦しめられる母さんの悲鳴をずっとずっと、聞いていたんだ…!みんなを殺したお前を守りたいと思っちまった時の俺の気持ちをお前は分かってない!!それなのにお前は…!どれだけ経っても無駄な余計なことばっかを考えて……本当は逃げたいだけなんだろ!!昔を思い出す俺から、昔の自分がしたことから逃げたいだけなんだろ!!"

 

 

 "……黙って。" 

 

 

 ルカの雰囲気が明らかに危険なものとなるが頭に血が上ったサルースは構わず続ける。

 

 

 "いつまでも濁して、それで前のことから逃げたいだけなんだろ!?やったことは変わらないなんて、逃げ続けてるくせによくもそんなことが言えるなっ!"

 

 

 "黙れぇぇ!"

 

 

 ルカの角の周りに一瞬で空気が渦巻き、サルースも四肢を活性化させる。放たれたかまいたちを避けるとルカに飛びかかったが彼女は既にそこにはいずに上からあくの波動を撃ち、サルースは身をひるがえしてこれを避ける。そして神速の体勢になり、地面を蹴ろうとした瞬間、ルカの狙い澄ました角の打撃がサルースを突き飛ばした。しかしサルースは受け身をとってすぐに起き上がる。

 

 

 "不意討ちか…その技でどれだけ殺した…!"

その言葉にルカは涙を浮かべる。

"あなたには分からない…私が…私がどれだけ辛かったか……!"

しかしサルースにルカの言葉はまるで聞こえていないようだった。

 

 

 "お前が殺戮アブソルに戻るなら、"

 

 

 サルースは口から炎を漏らした。

 

 

 "ソウガさんに知れる前に、俺が殺してやる。"

 

 

 業火を纏って再び突進。ルカも輝くオーラを纏うが彼の言葉に気をとられて反応が遅れたせいで技は不完全になり跳ね飛ばされた。

 

 

 "くっ…うぅ……"

 

 

 "逃がさねぇっ!"

 

 

 受け身をとれず転倒したルカにすかさず飛びかかって押さえ付ける。ルカは体を捻って抜け出し逃げようとするが、サルースの神速によってまた弾き飛ばされてうつ伏せに押さえつけられた。

 

 我を失ったサルースは息を荒げながら更にきつくルカにのし掛かった。

 

 

 "はな……して……いきが……"

 

 

 "絶対離さねぇ…お前は俺のもんだ……"

 

 

 記憶に深く刻み込まれた仇敵が今や自らの手中にある。ずっと想いを寄せていた雌が手中にある。

 

 

 "や…だ……サルー…ス…おねがい……"

 

 

 堪えていた二重の想いは異常な興奮へと変わり、ルカは臀部に当てられた感触を声を振り絞って拒絶した。

 

 

 "そうだ…みんなお前にそう言ったんだ…!でもお前は…!!"

 

 

 血走った目で牙を剥き出しにするサルースに、ルカは己の死さえ覚悟する。彼に押さえられていた前脚がミシミシと音が鳴り始めた。

 

 

 「が……がぁぁっ!」

 

 

 ボキ、と両前脚が折れた振動が響くと同時に下半身が裂けてしまったような感覚が走りルカは悲鳴をあげた。興奮に張りつめたサルースの雄がルカの雌を捕らえ、それを無理矢理突き入れたのだ。

 

 ウインディの生殖器はアブソルにとっては大きすぎる。サルースは構わず乱暴に腰を打ち付け、押さえていたルカの肩が脱臼してもお構い無しに続けた。

 

 ルカの意識が無くなりぐったりしたことに気を良くして前脚を地面に置いて重心を安定させる。興奮が頂点に達したサルースは射精をはじめるが、ウインディの交尾時間は長く、最初の射精の後にペニスの根本が膨らんでコブを作り雌を固定するため今はまだ前段階。さらに奥にねじ込もうと力を入れたとき、冷たい北風が吹いた。

 

 

 "何をやってるの!!何のつもり!?"

 

  

 サルースが身構える前に激流が彼を襲ってルカから引き離した。フレアドライブの爆音を聞いてナギが駆けつけたのだ。

 

 

 "な………"

 

 

 "そこにいなさい。話は後よ。…ルカ、大丈夫?しっかりして…"

 

 

 ルカに治癒力のある水をまとわせている間、サルースは放心状態でそれを見ていた。やがて走ってきたソウガとエルムを見て、そして自分の攻めによって気を失ったルカを見たサルースはその場から逃走した。

 

 

 「ルカは僕が看るからサルースを。」

 

 

 「あぁ分かった!」

 

 

 サルースは一直線に走っていったのでエルムもそれを追い、ソウガはルカに癒しの波動を浴びせた。

 

 

 「ア……アウゥ……」

 

 

 「ルカ、気がついた?」

 

 

 "ソウガ…さん……"

 

 

 「すぐ治療室に連れてくからね。話は後にして、今はゆっくり休んで。」

 

 

 ひざに抱かれてよしよしと撫でられたルカは、そのままもう一度意識を失った。

 

 

 

 ◯◯◯

 

 

  

 「…で、ルカの状態は?」 

 

 

 医療棟でソウガと落ち合ったエルムは尋ねた。

  

 

 「大丈夫。すぐに良くなる。脚も、後遺症は残らないだろうって。」

 

 

 「生殖器の方もか?」

 

 

 「裂けてはなかった。周辺の筋肉に炎症が見られる程度で済んだよ。ナギがアクアリングとオーロラゲインですぐに処置してくれたお陰だ。サルースは?」

 

 

 「今は誰とも話したくないって。ボールにしまっといた。」

  

 

 「そう……」

 

 

 二人は大きくため息をついた。

 

 

 「なんだか俺まで嫌な気持ちだよ。こんなことになるなんてな。」 

 

 

 「そうだね。でも僕からしたらよく今までこうならなかったと思うよ。」

 

 

 すこし、間が空いた。

  

 

 「あいつらが結ばれて、そしたら全部……全部丸く収まるっていうかなんというか…そうなれれば良いって俺は思ってた。サルースだってあんなに本気になってたのはルカだけだと思うし時間の問題だって思ってたのに…」

 

 

 いったいどうして、と主達は腕を組んで首を傾げる。先にエルムが口を開いた。

 

 

 「やっぱり過発情…なのか?でもそれにしては────」

 

 

 「───やりすぎだね、うん。ルカを生殖相手として発情したとしても、さっきのサルースはルカを殺す勢いだった。いや、ナギが止めなかったら間違いなく殺してたね。しかも故意に。」

 

 

 「単なる過発情による異常興奮ならあり得ない、よな。それに話した通りサルースはルカを励ましに行くはずだったんだ。今さらこんなこと…」

 

 

 「ともかく当分はそっとしておいた方が良いだろう。ルカもだいぶ傷ついただろうし…」

 

 

 「あぁ…俺もサルースが落ち着いたらもっと話してみる。悪かったな。」

 

 

 「エルムが謝ることないよ。サルースも悪い訳じゃない。むしろ…よくここまで冷静にいられるね。その事に驚いてる。」

 

 

 「俺は…変わったのさ。もう復讐なんてこれっぽっちも考えてねぇよ。」 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

14.傷とレッテルと仲間達

 

 

 ゆっくりと意識が戻って目を開けるとソウガが地面に座って瞑想していた。

 

 

 「起きた?動かないでね。骨は繋いであるけどまだ固まってないから下手に動くと変形する。」

 

 

 状況を飲み込んで、記憶がよみがえって、ルカはポロポロと泣き出した。

 

 

 「言わなかった僕らも悪い。ごめんね、ルカ。サルースは興奮しすぎただけなんだ。本気じゃない。」

 

 

 ルカの表情は変わらない。これでは保護したての時に逆戻りだ。

 

 

 "私……忘れてました……私がしたこと……"

 

 

 "僕が君を助けたのは、君に罪償いさせるためじゃない。"

 

 

 ソウガは人の言葉を使うのを止めた。その方が聞いてくれると思ったのだ。今さらルカが驚くことはなかった。

 

 

 "それはただの口実だよ。まぁ、僕がやってることがそういうことだから結果的に君もみんなを助けることになるんだけどさ。"

 

 

 布団に寝かされているルカを、"翼でそっと包む"。

 

 

 "ソウガさん…"

 

 

 "僕らはただ、君に普通の幸せを知ってほしかった。それだけ。"

 

 

 頬を撫でられながらいつもの空色の瞳で見つめられるとルカの心は少し穏やかになる。

 

 

 "今は休むことが先決だよ。今悩むより時間を置いて、落ち着いて考えられるようになってからの方が良い。そうだ、"

 

 

 ソウガは起きて立ち上がって伸びをする。

 

 

 「カロス地方とか行ってみる?ポフレのコンテストとかなら有名なお店も出店してるし…それかアローラとか?気休めにはうってつけかもね。ガラルならポケモンでも食べられるカレーが有名だよ。まぁその気になればここでも作れるけど。」

 

 

 そう言ってソウガは報告のため一旦ルカの病室を後にする。

 

 

 "本当、慣れてるのね……"

 

 

 ルカはそう呟いて独りまた泣いた。

 

 単に励ますためだけだと思っていたので、前脚が完治したときに旅行に行くと言われたときは驚いた。

 

 カロス地方最大の都市ミアレシティでのポフレコンテスト会場に行き、普段よりも安く売っているポフレに舌鼓を打った後はショウヨウシティ付近の海岸やクエノシティで伸び伸び過ごす。カロス地方では殺戮アブソルはあまり知られていないのでルカも十分にリラックスできる。

 

 またルカ以外にもフライゴンのニンファ、ゴウカザルのバンダル、サザンドラのガルドが一緒だったので彼らと仲を深めることもできた。

 

 滞在していた一週間は、あっという間に過ぎ去った。

 

 

 

 ◯◯◯

 

 

 

 ルカ達がカロスからフィオレに向かっている頃、広場で独り遠くを見つめていたサルースの元にナギが向かう。

 

 

 "サルース、"

 

 

 "……何?"

 

 

 サルースは振り向きもせず雑に返す。

 

 

 "明後日、帰ってくるって。"

 

 

 "……それだけ?"

 

 

 "もちろん違うわ。でもあなたを責めようなんて思ってない。"

 

 

 "じゃあ笑ってくれよ。欲求不満で相手を殺しかけた、バカな雄だ。"

 

 

 自嘲気味なサルースは、ナギの目にはとても寂しそうに映った。

 

 

 "…怖いんでしょう?殺戮アブソルが。どうしてあの子に近づくのか、自分でも分からなくなった。違う?"

 

 

 サルースは反応しなかったが、ナギは構わず続ける。

 

 

 "あなたはルカと殺戮アブソルを別のものと考えた。それでやり過ごそうとした。でもあなたが好きになったのは殺戮アブソルで、あなたが復讐しようとしていたアブソルがルカなのよ。"

 

 

 がりりと前足で地面を握った音がナギにもはっきり届く。

 

 

 "あなたは確かに発情して、異常に興奮していた。でもそれだけじゃない。復讐…するつもりだったんでしょう?あのときのあなたの目は見たことがないほど恐ろしかったけど、見覚えがあった。あなたと初めてあったときよ。"

 

 

 "……謝りに行ったんだ。全部話して、やり直そうって。恨んでなんかないって。それにあの日、元々あいつを…あいつと番うつもりだった…なのに……気がついたら…"

 

 

 憔悴しきった顔でナギを見た。

 

  

 "やっぱり、無理だったのかな。あいつと番になるなんて…"

 

 

 ナギは至って落ち着いていた。彼が何と言って、それに対し何と返すべきかあらかじめ練っていたかのように。瞳の色は違えど相手の心を見透かしてしまうような視線はソウガそっくりだった。

 

 

 "あなたは、私たちの想像を絶する恐怖を味わった。その傷が開いたのよ。あの子を好きになればなるほど広がって、この間、耐えきれなくなった。" 

 

 

 ソウガや幼いポケモンを除けば滅多に誰かに寄り添わないナギは、サルースの隣にそっと腰を下ろした。 

 

 

 "でもあなたはあの子を…愛してる。なら逃げたらだめよ。あの子はあなたに全てを受け入れて欲しかった。あなたはそれを受け入れないどころかあの子に自分を受け入れさせなかった。あなたって本当、人間みたい。罪悪感なんて感じる必要ないのに。あなたもあの子も変わった。そうでしょ?" 

   

 

 サルースは力なく笑った。

 

 

 "もう今更どうしたら良いかわかんねぇよ…" 

 

 

 "ルカなら大丈夫。ソウガがついてる。あの子は生きているのよ。私のときとは違う。チャンスならまだいくらでもあるわ。"

 

 

 "……ナギさんはどうやって立ち直ったんだよ…殺したんだろ?番を……"

 

 

 高貴なスイクンの顔が一瞬曇った。 

 

 

 "あのときは戦争で、どんな形であれ彼は敵になった。里とソウガを守るためには、あぁするしかなかった。それに、"

 

 

 ナギは立ち上がる。

 

 

 "私は独りじゃなかった。ソウガがいて、仲間がいた。あなたも同じよ。違うのは、まだやり直せるってこと。"

 

 

 再び独りになったサルースは力尽きたように腹這いになって地面に顎をつけた。

 

 

 

 

 ────────────────────

 

15.再会

 

 

 ルカ達が旅行に行っていたこともあって、仲違いしてから早くも1ヶ月が経ったある日、相変わらず顔さえ合わせようとしない2匹を見かねたエルムはソウガにことわってルカを連れ出した。

 

 

 「こっちだ。」

 

 

 不安げについていくルカ。医療棟の近く、リハビリ広場に連れていかれ、そこで見慣れたウインディの後ろ姿を見つけた。

 

 

 「ほら……大丈夫俺も行くから。」

 

 

 ピクン、とウインディの耳が動く。

 

 

 "サルース───"

 

 

 ウインディはゆっくりと振り向いた。

 

 

 "───じゃない……あなたは…あなたは……まさか………"

 

 

 彼にそっくりなウインディは体のあちこちに傷痕があり、痩せていた。

 

 

 「グレン。父さんの一番の相棒でサルースの母さん。あのときお前が殺し損ねたウインディだ。」

 

 

 グレンと呼ばれた雌のウインディはサルースから温厚さを除いたような雰囲気で、ゆっくり起き上がるとエルムが制止する間も無くルカに飛びかかった。

 

 単純な打撃。重い、重い、一撃をルカは避けることができずそのまま押し倒された。

 

 

 "やっと会えたな……!"

 

 

 牙に掛けられるかとも思ったが、グレンはよろめいてルカから離れ、苦しげに息をした。

 

 

 「グレン!」 

 

 

 "あ…あなた………"

 

 

 エルムは過呼吸を起こしたグレンに慌てて駆け寄ると背負っていたリュックからチューブで繋がれたマスクをグレンの顔に近付ける。チューブはリュックのなかの酸素ボンベに繋がっていた。

 

 

 「グレン、いつも通り、落ち着いて、ゆっくり。」

 

 

 グレンの背中を擦りながら自身も大袈裟に深呼吸する。

 

 

 「お前がつけた胸の傷が肺まで届いてたんだ。そしてそれは治せなかった。出血が多すぎて、そして他に治さないといけないところがありすぎたんだ。だから今のグレンは普通のウインディの半分以下の量の空気しか吸えない。神経をやられて脚も動かしにくくなってる。」

 

 

 グレンは少しずつ落ち着いていった。

 

 

 「ルカ、怒ってるわけじゃないんだ。これで…お互い隠し事なしだ。あーいや、隠すつもりはなかったんだ。ただグレンは短い間しか外に出れないし、会わせない方が良いと思って───」

 

 

 グレンが1歩前に出た。

 

 

 "どれだけ、苦労したと思う?どれだけ、苦しかったと思う?私はもう、歩くので精一杯。人間の手を借りないと生きていけない。そして情けないことに、私は……私はお前が怖い。"

 

 

 ルカはどうすれば良いかわからず今にも頭が破裂しそうだった。

 

 

 "満足だろうな…?お前は私から何もかもを奪い去った…何もかも…"

 

 

 "……ここであなたに殺されても…文句は言えないわ…"

  

 

 開口一番には相応しく無さすぎるとルカ自身がわかっていた。

 

 

 "殺す……?そうだな…それよりお前の平和な笑顔を崩してみたくて仕方がない……お前がしてきたように……そうすれば少しは私の気持ちが理解できるか……?"

  

 

 ルカは目を逸らした。彼女の目を見つめ続けるなんてことはできなかった。

 

 

 「ソウガがどうして俺たちを連れてってくれたのか、やっとわかったよ。なぁ、ルカ。」

  

 

 エルムがルカの左前脚に巻いてある包帯をほどくとグレンは軽く呻く。

 

  

 「見えたんだ。瓦礫の隙間から、この傷のアブソルが。その先を見る勇気はなかったけど。」

 

 

 ふぅ、とエルムは息をついて、ルカに抱きついた。

 

 

 「お前を殺してみんなが帰ってくるなら、迷わずそうすると思う。でも、お前を殺しても、お前が死ぬだけなんだ。もしあのときソウガが俺たちを連れてってくれなかったら、サルースが殺戮ポケモンになってソウガと対立してたかもしれねぇ。ソウガと来て、色んな傷ついたポケモンとかソウガをみてそう思った。」

 

 

 息を飲んだルカを放して顔をわしゃわしゃと撫でる。

 

 

 「サルースと仲直りするかどうかは別だけど、せっかく戻れたんだ。幸せになれよ、ルカ。結婚するのに親の目気にするのは人間だけだぜ?」

 

 

 グレンが不服そうに見たが、その視線を笑ってはねのけた。

 

 

 「あいつあんなシケたキャラじゃないのになぁ!ナンパ癖はどこに行ったんだよまったく。」

 

 

 "誰に似たんだか……"

 

 

 「え、何?」

 

 

 エルムにはうなり声にしか聞こえていないのでグレンは首を横に振った。ふたりの目に憎しみは残っていない。

 

 

 "ごめんなさい……"

 

 

 そんな彼らに耐えられなくなって、煽るだけとわかっていたけれどルカは頭を垂らせて言った。

 

 

 "あのときは……羨ましかった……私にない…し……幸せ………壊したかった……"

 

 

 自分で口にして、それがどれだけ残酷なことなのかが身に染みる。

 

 

 "許されないって…わかってる……本当に……────"

 

 

 "それ以上言ったら食い殺す。"

 

 

 顔を上げると、エルムが涙を拭いてくれる。彼にポケモンの言葉は分からないが、その気持ちは伝わっている。エルムはルカの左前脚に包帯を着け直した。

 

 

 「グレンがなんて言ったか知らないけど、お前は余計なこと考えなくて良いから。そりゃお前がやって来たことは悪いことだけど、お前はそれを忘れないだろ?それで十分だ。わざわざ呼んで悪かったな。」

 

 

 

 ◯◯◯

 

 

 

 「ごめんね二人とも。嫌な役をさせた。」

 

 

 医療棟のグレンの部屋で、呼吸補助器をつけ寝かされた彼女とエルムにソウガは謝る。

 

 

 "別に。私もいつか会いたいと思っていた。"

 

  

 「俺が言い出したことだし、俺もスッキリした。お前には…辛い思いさせたな。」

 

 

 グレンはフン、と鼻をならして早く通訳しろとソウガに言ったが、その体は震えていた。

 

 与えられた絶望と、苦痛。グレンはサルース以上に、病的にルカを恐れている。5年経った今も日に数回悪夢や幻覚を見るほど心の傷は深い。身体障害よりもそちらの方がグレンを苦しめていた。  

 

 

 「今日、後でソウガのポフレあるからな。楽しみにしとけよー?」

 

 

 自身を撫でるエルムの手に頬擦りする。さっき、グレンは嘘をついた。彼女は大切なものを奪われたが全て失ったわけではなかった。幸運にも生き延びた息子と主人の息子。彼らの成長をみるのが今の彼女の生き甲斐だった。自分が目を覚ましたとき、息子たちの顔をみてどれだけ安堵したことか。

 

 

 "私も丸くなったな…あのアブソルを哀れと思ってしまった……"

 

 

 「どうしたの?」

 

 

 もしあのアブソルが自分の子供だったら。もしエルムの言う通りにサルースがあのアブソルと同じことをしたら。

 

  

 "独り言だ。…また眠るまで、側にいてくれるか。"

 

 

 「なんだって?」

 

 

 「いつもと同じ。おやすみグレン。」

 

 

 久しぶりに、ゆっくり眠れそうだった。

 

 

 

 

 ────────────────────

 

16.はからい

 

 

 エルムがグレンを医療棟へ連れていった後、ルカは以前独りの時によくいた他のボケモン達から離れた場所で今さっきの事とエルムの家族を襲ったときの記憶を交互に思い浮かべていた。

 

 確かに助からない傷を負わせたのに。彼女が生き永らえた代償は重いものであったが、それでも、命が助かって本当に良かったと心からそう思うルカ。

 

 けれど兄弟を殺し母親をなぶり、とてつもない恐怖を味わったサルースが再び自分を受け入れてくれるだろうかと思うとまた憂鬱になる。いっそ、彼とは会っていないことにした方がお互い楽なのではと考えていたとき、背後に気配を感じて振り向いた。

 

 

 "ガルド?どうしてここに?"

  

 

 "おっと気づかれちったか。"

 

 

 サザンドラはおどけてみせた。

 

 

 "ちぇーっ、せっかく後ろから不意討ちモフモフしてやろうと思ったのに。まぁいいや。で、サルースとは仲直りしたのか?"

 

 

 ルカが暗い顔をしたので間髪いれずに続けた。

 

 

 "まぁ派手なケンカだったもんな。"

 

 

 "うん……ケンカ…なのかな……"

 

 

 "マァタシカニケンカニシテハヤリスギデシュネ!"

 

 

 突然の甲高い声にルカは飛び上がった。

 

 

 "ケンカトイウヨリレイプデシュヨアレハ!サルースタイホ!!"

 

 

 "え、誰……!?"

 

 

 "誰って、こいつだよ。"

 

 

 ガルドは自分の手の顔をヒラヒラさせる。

 

 

 "コラッユラユラスルナキモチワルクナル!"

 

 

 "そ、それ喋れたの…!?"

 

 

 小さな顔は口をパクパクさせる。

 

 

 "シツレイナ!チャントイキテルンダゾ!"

 

 

 "ご、ごめん…名前とかあるの?"

 

 

 "アッハッハッハッハwwwヒーッwwwハッハッハハッハッハwww大草原不可避wwwwww"

 

 

 ガルドは自分の腹をベシベシと叩きながら大笑いした。

 

 

 "あーーwチョー受けるwww"

 

 

 "えっ…えっ?"

 

 

 ガルドは一息ついて、両腕をパッと広げた。

 

 

 "テッテレーwwwドッキリ大成功wwwこれに脳ミソなんて入ってねぇよ。俺の声。名付けてポケモン腹話術!練習したんだぞ。"

 

 

 ルカの顔が熱くなる。人間なら赤面しているところだろう。

 

 

 "……メガホーン一発ね。"

 

 

 "え、ちょ、何で虫技使えんの?効果抜群なんですけど。えっwちょちょwwwあり得ないあり得ないありAhhhhhッ!!"

 

 

 アゴ下を狙って軽くぶん殴った。

 

 

 "はぁ……なんかスッキリした。"

 

 

 "それはそれは良かった。で、どうすんのよ敷地の整備代……じゃなくて、サルース。"

 

 

 "うん……ガルドは、知ってたの?サルースとエルムの家族を私が殺したこと。"

 

 

 "ボクのネタを華麗にスルーするのは良くないと思います。……まぁ良いや。知ってたぞ。俺そのときもうソウガさんといたからな。サザンドラじゃなかったけど。あ、ちなみに俺は前のクソトレーナーに捨てられただけだからお前とは関係ないぞ。"

 

 

 "そう……"  

 

 

 "あのバカわん子、言わなかったんだってな。俺たちは、サルースかエルムが自分から話す時を待てってソウガさんに言われてたんだ。当然だ。あいつから言うべきだった。まぁ今さら遅い。どうだ、あいつのこと嫌いになったか。"

 

 

 先のことを思い返すと心拍数が上がる。体が震えそうになるのを抑えようと深呼吸した。

 

 

 "どうすれば良いか…わからなくなっちゃった……サルースにとって私は───"

 

 

 "そうじゃなくて、お前だよお前。あんな盛り野郎はごめんよ!とか、サルースってこんなに強かったのね!見直したわ!とかさ。いや冗談だけど、お前はどうなのよ。あいつとは2度と関わりたくない?"

 

 

 "……彼の言ってることは…否定できないけど……私だって───"

 

 

 "おーっとストップストップ。それはあいつに直接言え。で、どうなんだ?仲直りしたい?あいつどうこう関係なく、お前はどうなんだ。あいつと仲良くしたいのか、強姦魔ウインディなんて捨てて俺と仲良くしたいのか、どっちだ。"

 

 

 "番の話は……嬉しかった。私は…一緒にいたい……でも───"

 

 

 "なら良いじゃねーか。お前が笑ってあいつのたてがみに顔突っ込めば一発KOだと思うぜ。"

 

 

 "でも──"

 

 

 "いくらあいつでも、お前を襲うのはさすがに不本意だろ。許してやれって、雌好きバカの欲求不満が爆発しただけだぞきっと。"

 

 

 見上げるルカにガルドはニヤリと笑う。だがすぐに収め、いつになく真剣に続けた。

 

 

 "あいつはお前のこと、本当に大事に思ってるよ。俺がからかう隙もないくらいにな。"

 

 

 "でも……"

 

 

 "お前ポケモンだろー?中身は人間wwwとかじゃないだろ?素直に甘えろよ。殺戮アブソルを受け入れてもらえよ。あいつはバカで変態だからその辺もへーきだろ。ひねくれたお前にはピッタリだ。"

 

 

 "ひねくれ……確かに…そうかもね……"

 

 

 "でもあいつはルカリオと違ってバカだから、ちゃんと言うんだぞ?言わなきゃわかんないからな。んで万が一振られたら俺が慰めてやるよ。グループ違うから子供できねぇし、やりたい放題だぞ。"

 

 

 ルカはジト目でガルドを見る。いつの間にか随分リラックスしていた。

 

 

 "冗談だって。ほら、さっさと行ってやれ。早い方がいいぞ。"

 

 

 "い、今…?"

 

 

 "おう。あいつに自分が情けないってことを自覚させてやるんだよ。メソメソしてるからむしろチャンスだぞ。さっきはあっちの水場近くの茂みの奥でしょげてたから行ってみろ。" 

 

 

 "うん……分かった。ありがとうガルド。"

 

 

 立ち上がり、教えられた方向に歩き出す。

 

 

 "あーあー俺が陸上グループだったら即寝取ってるのになぁ……お幸せにー。"

 

 

 見送ったガルドもにやついてぶつくさ言いながら建物に戻った。

 

 

 "ええっと…あっちね……"

 

 

 そう言いつつもルカの足取りはやはり重い。この間の言葉が胸に刺さったままだった。まっすぐ行けばすぐなのに、幼ポケモンと遊んだり訓練の相手をしたりと寄り道する。

  

 やることも無くなってルカは独りで首を横に振った。ガルドの言葉を繰り返し、夕日に照らされた敷地を歩き回る。

 

 ルカは言われた水場に行き、匂いを感じ取ったので辿ってみると数時間前に自分がいた場所と同じような見通しの悪い茂みにたどり着く。そこに入ろうとしたとき、ちょうどサルースが出てきて危うく飛び上がってしまうところだった。

 

 

 "あっ……"

 

 

 "おっ…お前…!"

 

 

 初めて見た彼の牙を思い出してルカは胸が締め付けられるような感覚になるが、サルースはサルースで怯えた顔になった。

 

 

 "あっ……その………えっと……"

 

 

 ルカがここに来るまでに考えてきた台詞は全て彼方へ飛んでいった。対するサルースも予想外のできごとに頭真っ白、といった感じで。

 

 

 "な、何でここに………?"

 

 

 "ガルドから……聞いたの……"

 

 

 "は?ガルド?"

 

 

 数時間前、サルースはガルドにここで待ってろと言われて今の今まで待っていたのだ。そして来ないから立ち去ろうとしていたところだった。

 

 

 "あの野郎……謀ったのか………"

 

 

 "サルース、"

 

 

 目を合わせるのが怖くて視線を逸らすサルース。

 

 

 "さっきグレンに会ったわ。" 

 

 

 これまた予想外の発言に思わず目を見開いてルカを見る。

 

 

 "母さんに……?"

 

 

 "エルムが会わせてくれたの。殴られちゃった。当然よ。殺されてもおかしくなかった。" 

 

 

 ルカは頭を低く下げる。

 

 

 "ごめんなさい。あなたのこと、知ろうとしていなかった。"

  

 

 "なっ…何でお前が謝るんだよ!あれは…俺が…"

 

 

 "…あなたの言う通り、私は───"

 

 

 "止めてくれ。"

 

 

 サルースもようやく落ち着きを取り戻し始める。あんなことになって以来彼女と話すどころか会う勇気さえ湧かなかったというのに、いざ彼女を前にすると話したいこと、話さなければならないことが溢れてくる。

 

 

 "情けねぇ……"

 

 

 "サルース……?"

 

 

 サルースが黙ってうつむいてしまったのでルカはその場で腹ばいになった。

 

 

 "あなたと話したいの。"

 

 

 "………お前があのときに戻っちまうんじゃないかって。それで…止めたかったんだ。あんな…あんなことをするつもりはなかったんだ。気がついたら頭が変になってて……本当に悪かった…本当に……"

 

 

 "サルース、"

 

 

 "お前は逃げてなんかない。逃げてるのは俺の方だ。お前に何も、俺のことを話せなかった。"

 

 

 "私も、"

 

 

 サルースは頭を上げる。まともに見るのは久しぶりだった。 

 

 

 "怖くなったの。あなたのことは信じてたわ。信じていたけど…怖くなった。どうすれば良いか分からなくなったの…やっぱり私は……私は……普通には暮らせないんだって言われているような気がしたの。"

 

 

 "そんなこと────"

 

 

 "私はあなたの兄弟を殺した。あなたのお母さんに酷いことをした。それで怖くなったの。あなたに…恨まれてるだろうって……"

 

 

 "……あぁ恨んでたとも。お前を殺すためだけに生きていたこともあった。でも……"

 

 

 "サルース、こっちに来て。"

 

  

 "良いのか…?"

 

 

 "うん。"

 

 

 サルースはルカの角が当たらないよう彼女の左側に寄り添って腹ばいになる。当たり前のようにそうしていたことが何年も前の出来事のように思えてくる。

 

 

 "あったかい。"

 

 

 尻尾を力なく垂らし心底申し訳なさそうにしているサルースを見て、あの時は本心ではなくサルース自身も傷ついていることがよく分かる。それはかえってルカを落ち着かせた。

 

 

 "あぁ………お前は優しいな…あんなことをした俺を、何も責めずに受け入れてくれるのか。"

 

 

 "あなたもそうだった。最初から気づいていたんでしょう?それなのに、優しく話しかけてくれた。とても、嬉しかった。"

 

 

 ルカはガルドの言葉を思い出しつつ、彼に身を委ねながら小さな声で伝えた。

 

 

 "でも私はね…前の私も……受け入れてほしかった……私は私だもの………愚かだって、あなたにこんなこと言う権利がないことだって分かっているけど………たくさん殺していたあの時の私も、そのもっと前も、今も。全部受け入れて欲しかった……認めてほしかったの。"

 

 

 サルースは何度か深呼吸する。そして少し遠くを見つめた。

 

 

 "そうだな。そうだろうとも。俺はな、初めて話したとき、本当はすごく怖かった。どうやってお前に復讐しようか考えたこともある。"

 

 

 "うん……"

 

 

 "何度も自分に言った。こいつは俺やエルム、他の大勢から何もかも奪ってきたんだって。でも駄目だった。俺はお前に……一目惚れしたんだ。でもずっと、怖いままだったんだ。お前が変な遠慮をしてたんじゃない。それもあるかもしれないけど、俺が逃げてたんだ。"

 

 

 サルースはルカの左前脚に巻かれた包帯を口と前足で器用にほどいた。傷痕が露になる。

 

 

 "もう怖くない。殺戮アブソル、お前を許すとは俺だけじゃ言えないけど、俺は全部受け止める。誓う。たくさん話そう、ルカ。" 

 

サルースはルカに向き直って額にそっと口先を付け、少しの間そのままお互いを感じ合う。お互いの匂いが2匹の心を穏やかにさせていく。

 

 サルースはあらわになっている彼女の左前脚をそっと舐めた。ルカは両前足の爪をギュッとさせたが何も言わなかったので初めてそこを毛繕いする。この前足が兄弟や母を切り裂いた。計り知れない血を浴び見る者を恐怖に陥れたこの傷痕を、彼女の母によって死を免れた証でもあるこの傷痕を自分に受け入れて欲しかったんだとサルースは悟る。

 

 地面に放置されていた包帯に弱い炎を吹き掛ける。布はサルースとルカが見つめる中あっという間に真っ黒になって、周りの草に少し燃え移ったので踏んで鎮火した。

 

 

 "殺戮アブソルのルカ、"

 

 

 サルースはルカを前足で抱き締めながら押し倒し、彼女のたてがみに顔を擦り付けた。

 

 

 "好きだ。"

  

 

 見上げたサルースの鼻頭を舌先で舐めて返事をする。サルースは満足したように離れた。 

 

 

 "そういやガルドのやつ、なんか変なこと言ってなかったか?"

 

 

 "変なこと…?"

 

 

 "あぁいや、無いなら無いで───"

 

 

 "欲求不満?" 

 

 

 "あの野郎……"

 

 

 "でもガルドのお陰で話せた。"

 

 

 "チッ…今回は大目にみてやるか。"   

 

 その言葉にルカは微笑み、サルースはようやくいつもの豪快なニヤ笑いを浮かべる。その笑いはすぐに収められた。

 

 

 "それとは別だ、ルカ。酷いことをして本当に悪かった。あんなことはもう2度と…2度としない。信じて欲しい。"

 

 

 きっと、もうあんなことにはならない。ルカはそう思って頷いた。

 

 

  

 

 ────────────────────

 

 17.番

 

 

 人目につかない茂みの中で、大柄なウインディはいつもの通りアブソルを毛繕いしていた。くあっとルカが心地よさそうに欠伸をしたのがとても可愛らしくて思わず見つめてしまう。

 

 もうじき日没。主達の元に戻らないといけない時間が近づいてくる。

 

 仲直りできた。以前よりも分かり合えた。今日はそれで十分すぎるほど満足したし、疲れた。だから毛繕いを終えたら一緒に戻ろうと、頭の中では思っていた。

  

 

 "サルース?"

 

 

 "うん……"

 

 

 どうやらサルースの体にはこのまま帰るという選択肢はないようで、モヤモヤとした感覚は先程よりも強くなっている。いずれまた爆発するかもしれない。

 

 身震いしてもかえって体が火照るだけで意味はなかった。疑問げにみつめてくるルカの顔を見ると一気に膨れ上がった。

 

 

 "ルカ、"

 

 

 "なに?"

 

 

 彼女を毛繕いしている間に随分と昂っていたらしく声を聞いただけで耐えられなくなり彼女を横倒しにした。この方がルカにとって楽なはずだ。

 

 

 "交尾させて。"

  

 

 返事を待たずに覆い被さって抱き締めたがルカは力を抜いてくれる。あんな思いをしたらトラウマになってもおかしくないけれど、ルカはサルースを完全に信頼していた。

 

 

 "優しくするから。"

 

 

 "大丈夫よ。気にしないで。"

  

 

 ルカは笑っていた。サルースも笑みを返し、早く入れろと訴えている怒張を彼女の秘部辺りに押し付けた。何度か掠り、一番柔らかいところを見つけると慎重に力をかける。先端が温かく締め付けられた。

 

  

 "大丈夫か?"

 

 

 "平気…"

 

 

 狭い膣道を無理矢理掻き分けて少し、また少しとサルースの雄が進んで剛直が埋められていく。それはルカにとって苦痛を伴うもので、サルースに余計な心配をさせないよう表に出さずに堪えた。

 

 先に何かが当たって侵入が阻まれた。膣の最奥に到達したのだ。こんなにも狭いのに思いきり突き入れていたと思うと罪悪感が湧いてきて、首を振って振り払う。

 

 明らかに辛そうにしていたのでサルースはしばらくそのままでいた。

 

 

 "サルース、"

 

 

 "どうした。"

 

 

 "動いていいよ。"

 

 

 雄槍がとルカの胎内で震えているのを彼女も感じているのだろう。情けなく感じても体は正直で、それに負けてサルースはゆっくり腰を引く。強く締め付けらるているということもあって膣はねっとりと雄槍に絡み付き、それが極上の快楽を生んでサルースは牙の間から熱い息を漏らした。

 

 そのまま押し込んで、引き抜いてを繰り返す内に愛液と先走りで音と匂いが充満し、ルカの胎も大きな彼の形を覚えていく。

 

 ルカの3倍以上重いサルースは体重をかけすぎないように気を付けながら少し動きを早くした。意識的にというよりかは欲に耐えきれなくなったと言った方が正しい。

 

 尖った先端はルカの腹をえぐり最奥に刺さって押し上げる。

 

 

 「ハァ……クゥ……」

 

 

 ルカの荒い息に鳴き声が混ざる。苦痛とは別の表情が出始めた彼女を数回舐めて、また少し動きを強くした。先端が開きつつある奥にめり込んで、まだ外に余っていた部分は徐々にその体積を沈めていく。異種とでも子を成すことができる彼らなのでルカの胎はサルースに順応しより快楽を与えようとしていた。

 

 

 "ルカ……"

 

 

 「ア……アウゥ……」

 

 

 込み上げる熱を堪えてルカの息に合わせ、彼女を強めに抱くと体重をかけて突いた。ぐにゅりと弾力のあるものに刺さる感覚。ルカの体が痙攣した。

 

 

 "ルカ…"

 

 

 "へい…き…"

 

 

 傷つけないように慎重に、けれども確実に力をかければ残りの部分も沈んでいく。

 

 

 「ア…アァ……」

 

 

 "もう少し……"

 

 

 刺激に震えのけぞるルカを抱きながら、サルースは自分の下腹部と彼女の臀部が密着したことを感じ一気に高揚した。限界まで時間の問題、それまでに少しでも多く、とサルースはぐっと腰を引いてまた突きだした。

 

 今度こそ嬌声を上げるルカ。恥ずかしいなんて思う余裕もなく腹をかき混ぜる巨大な存在からの刺激に目を白黒させる。痛みはだいぶ感じなくなり、強い圧迫感に安心感さえ覚えた。何を考える必要もない。ただ彼に委ねればいい。そんな本能にしたがった。彼が自分を呼ぶ声が聞こえ、グンと突かれて体重がかかる。そしてお腹の底が弾けた。

 

 脈動に合わせて痙攣するルカ。サルースは口を大きく開いて喘ぎながら小さな体に欲をぶちまける。キツい彼女の中で射精は腰が抜けそうになるほどの快感が伴った。

 

 

 "ずっと…こうしたかった…ルカ……"

 

 

 射精が終わるまで背中を曲げて彼女の顔を舐め続ける。もちろん、これで終わりではない。

 

 

 "膨らんできたね……"

 

 

 "ルカ、辛くなったらすぐに言ってくれ。それか俺の脚でも腹でも良いから思いっきり噛め。良いな?無理すんなよ?"

 

 

 "ありがとう、サルース。"

 

 

 更に大きさと質量を増す雄槍を受け入れるべくルカは深呼吸をした。やがて形成された亀頭球はルカの膣壁を目一杯広げて彼女を固定する。

 

 

 "重くないか。"

 

 

 "大丈夫。もう少し楽にして。"

 

 

 ルカはのしかかる彼の重さにむしろ安心していた。言われたサルースは素直に深呼吸して彼女の感触に集中する。呼吸に合わせて収縮する膣からの快感は少しずつ高まり再び熱がこみ上げて、子を成すべく射精を再開した。

 

 繋がってから射精が完全に終わるまでの1時間、ルカもサルースも恍惚としてその快楽に浸る。過去を互いに受け入れ克服した2匹はようやく結ばれたのだった。

     

 

 

 ◯◯◯

 

 

 

 ───おいサルース、最近良い雌と仲良くなったって、あのアブソルのことか?───

 

 

 ───悪いか、雌だぞ───

 

 

 ───ったって殺戮アブソルだぞ?何企んでるんだよ───

 

 

 ───俺はそんな卑劣なことしねぇよ!それになガルド───

 

 

 ───なんだよ───

 

 

 ───……───

 

 

 ───なんだよ…───

 

 

 ───ルカ………ルカだよ、殺戮アブソルじゃない、アブソルのルカだ。すごく綺麗で悲しそうな眼をしてた───

 

 

 "あんな顔しながらあんなトーンで名前言うんだもん笑えねぇよ……なんだよあの顔は………心まで奪われやがって。"

 

 

 夜になってもサルースとルカが屋外に出たままの中、ガルドは寝床でぶつくさ呟きながら初めてサルースの口からルカのことを聞かされたときの、彼が真剣に照れてなんとも言えない顔をしていたことを思い出していた。

  

 

 "ちぇー、今ごろイチャイチャしてんだろぅなぁ……感謝しろよバカサルース …"

 

 

 敬え、とでも言ってやろうかと思いながら頬を緩ませる。

 

 

 "あいつらの子供にもいつか腹話術やってやろ。パペットガルド、なんつって。そのネーミングはあり得ないwww"

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 18.ぬくもりは君と共に

 

 

 翌朝、寄り添って寝ていたルカとサルースは主達の元へ向かう。他の職員に朝帰りと笑われてもむしろ嬉しそうにしていた。昨日までとはうってかわり仲直りどころか前よりも仲むつまじくなっていて主たちも驚きつつ胸を撫で下ろす。

 

 その後ルカはリーグに参加するためにフィオレから離れたもののサルースも同行し、リーグ後はソウガとエルムが常に一緒に行動することにしたため彼らも側にいることができた。

 

 とはいえソウガとエルムが所属する特殊部隊が出動しなければならないような任務はあまりないので普段はこれまで通り施設に連れてこられたポケモン達のケアの手伝いをすることになった。

  

 

 「やぁおふたりさん、相変わらず仲良いね。」

 

 

 特にやることも無くルカとサルースが毛繕いし合っていると顔見知りの職員が話しかけてきた。

 

 

 「邪魔して悪いんだけどこの子達とダブルバトルの相手をしてくれないかい?もちろん手加減おおありで。他のみんなは手が空いてないんだ。いつも通り人手不足でさ。」

 

 

 ルカとサルースは顔を見合わせて頷き、不仲で有名なエイパムとポチエナのタッグを相手にすることとなった。

 

 

 "あら楽しそう。"

 

 

 たまたま通りかかったフライゴンのニンファが適当に不仲タッグを応援している内に色んなポケモンや人が集まってくる。

 

 ポチエナがルカに向けて吐いた火の粉をサルースが庇って受けるとポケモン達が囃し立てた。

 

 

 "うるせぇ貰い火だ貰い火!"

 

 

 受けた炎技を無効化し、一時的に自らの炎技を強める特性のことだ。ニンファは大袈裟に呆れてみせる。

 

 

 "うわぁ大人げない。"

 

 

 "黙って観てろ!"

 

 

 ニンファの茶化しでムキになるサルースに周りのポケモン達も笑う。

 

 

 "サルースよそ見しすぎ!ほら───"

 

 

 ルカの忠告は間に合わず、サルースはエイパムの気合いパンチを食らって間抜けな鳴き声をあげた。大爆笑。

 

 

 "くそぉ!"

 

 

 そしてエイパムに八つ当たり半分で炎の牙をお見舞いしてやろうとしたとき、

 

 

 "サルース!!"

 

 

 それまでとは違うニンファの鋭い鳴き声に振り向くと、彼女と目が合う前にふらつくルカが目に入った。

 

 

 "おいルカ!どうした、大丈夫か?"

 

 

 ルカは答えられずに咳き込むとそのまま吐いてしまった。

 

 

 "ルカ!"

 

 

 "あれ………なんで私こんな……"

 

 

 フラフラ倒れた彼女の顔を舐めたサルースはぎょっとした。

 

 

 "お前…!なんだよこの熱…!"

 

 

 慌てて駆け寄ってきた職員に向かってすぐさまテレパシーで訴える。

 

 

 「ソウガさんに連絡してくれ!」 

 

 

 サルースはルカを背に乗せ走って附属ポケモンセンターへ向かい、連絡を受けたソウガも駆けつける。サルースは病室で待たされ、十数分後、ソウガがやって来た。

 

 

 "ルカは……!"

 

 

 「大丈夫落ち着いて。安静にしてれば大丈夫。健康に問題はないよ。」

 

 

 サルースは大きく安堵のため息をついた。その間に先程よりはだいぶ落ち着いたルカが運ばれてきた。

 

 

 "ルカ………"

 

 

 "ごめん…大丈夫。"

 

 

 ルカを医療用布団に寝かせると、ソウガは両手で2匹の頭を撫でた。

 

 

 「子供ができてる。おめでとう2匹とも。」

 

 

 "え………"

 

 

 ルカとサルースは同時に目が点になり、ソウガは笑みを深める。

 

 

 「違う種の、特にタイプも違うポケモンの子供を妊娠した雌は体調を崩しやすいんだ。防衛本能もかなり強くなるし、今回のもそれが原因で、バトルで体が過剰に反応しただけだと思う。心配ない。」

 

 

 "私に……子供……"

 

 

 当の2匹はまだ受け止められていないようで。

 

 

 「とりあえず熱が下がるまではここで安静にして、良くなったらいつもよりはおとなしくしててね。また体調悪くなったらすぐ言って。あーあとエルムには僕が伝えといたから、サルースはここにいてね。」

 

 

 ソウガはルカに妊娠・抱卵中ポケモンを示すタグをルカに着けると部屋を後にした。サルースは静かに、色んな想いを込めて彼女を毛繕いする。

 

 

 "サルース……ありがとう…" 

 

 

 "無理すんなよ……?"

 

 

 "うん。"

 

 

 その後話を聞いた色んなポケモン達の祝福を受けながら穏やかに過ごす。体調の優れない日が多かったが子供は順調に育っているようだった。

 

 

 「あー」

 

 

 「アー」

 

 

 「いー」

 

 

 「ウ……ウィ……イ……?」

 

 

 お腹の膨らみが目立ってきた頃、戦闘訓練ができなくなった代わりとしてルカはソウガやエルムに人語を教わることに決めた。

 

 はじめはテレパシーを希望していたがルカには合わず、上達しないのに気力を激しく消耗してしまうことになってしまったのだ。

 

 そもそもテレパシーは個体差が激しくエスパーポケモンでも会話と同じように使いこなすにはかなり苦労する技術。ルカリオやキュウコン、その他潜在的に特殊な力を持つポケモンは会得しやすく、サルースが流暢にテレパシーを操れるのは父親のキュウコンの影響だった。

 

 反面、ルカもといアブソルは口や舌の構造、形状が人間に近いので練習すればぺラップのように人語を発音できるだろう、ということで特訓していた。

 

 

 「昨日より上手くなってるよ。そろそろ休んだら?」 

 

 

 「ハ…ウ…ハイ。」

  

  

 「頑張り屋さんだねぇ。」

  

 

 ソウガに撫でられて嬉しそうに微笑む。

 

 

 "あ…動いてます。というか蹴ってます。"

 

 

 「ほんとだ。サルースに似て元気なのかな?」

 

 

 すさんでいたルカが子供の誕生を心待にしていると思うと感慨深くなったソウガだった。

  

 

 

 ◯◯◯

 

 

 

 ポカポカと陽気な天気のある日の昼過ぎ、ルカはサルースに寄り添われ励まされながら待ちに待った我が子を産んだ。子供は元気な雄の子だった。

 

 事前の検査で分かっていたことなのだが生まれたのはガーディで、異種の番で雄の種の子供が生まれることは極めて稀なことである。そしてそういう場合は特殊な子が産まれることが多く、ルカとサルースの子も全身はアブソルの肌と同じような濃い灰色の毛で覆われ縞模様は黒、たてがみは真っ白という独特な配色だった。

 

 

 "ルカ…ありがとうな……"

 

 

 "もうそれ10回くらい聞いた。"

 

 

 乳を飲み終えた赤子がスヤスヤと寝息をたて始めると、ようやくルカの緊張も解れる。時間的には難産だったが流石の体力で乗り越え、サルースと静かに幸福を分かち合う。

 

 

 「おめでとう。よく頑張ったね。」

 

 

 「ひゃー、サルースもお父さんかぁ!」

 

 

 いつ出産が始まってもおかしくないとの連絡を受けて飛んで帰ってきたソウガも無事間に合って、しかし2匹の大事な時間だからとエルムと一緒に部屋の外で待っていた。ただし何かあってもすぐ対処できるよう波動でしっかり見守っていた。

 

 

 "ソウガさんのお陰です…ソウガさんが私を助けてくれなかったら……"

 

 

 「君を助けたのは僕だけじゃない。それに一番頑張ったのは君だよ。本当に良く乗り越えられたね。」

 

 

 ルカは我が子を抱き締める。

 

 

 "私はこんなに大切なものを奪っていたのね……"

 

 

 "だからこそ幸せにしてやろう。俺たちの大事な子を、な?"

 

 

 "うん……そうだ、名前、付けたいな。"

 

 

 「明日にしたら?疲れてるでしょ?」

 

 

 "そうね……そうします。"

 

 

 「そうだ、写真とってやるよ。ソウガは出てな。」

 

 

 「分かってるって…」

 

 

 エルムは端末を取り出して彼らに向ける。

 

 

 「はい、チーズ!お、良いじゃんみんな良い顔!」

 

 

 幸せ一杯、という文字が顔から読み取れるようなサルースの笑みと、まだ外の世界に出てきたばかりの眠っている幼子。そして優しい微笑を浮かべるルカ。悪魔と呼ばれたアブソルの、天使のような笑みだった。

 

 「ぬくもりは君と共に」 【終】

 

 

  

 ルカ…アイスランド語 rukka「幸福」より

 

サルース…ラテン語 salus「救い」より

 

 ────────────────────

 

 

最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。そしてお疲れさまでした。もっと分けた方がよいかと悩みましたがキリが悪くなるのでやめました。

 

 この作品は現在非公開(リメイク未定)のシリーズのスピンオフとして製作しているためいくつかの伏線は残したままにしています。

 

 そしてまた、本作の没ルートをそのまま捨てるにはもったいない、ということで没ルートをリメイクした作品「そして、幸せを知った。」も本短編集にあります。心情描写に凝った作品です。機会がありましたらそちらも是非読んでみてください。

 

 

 Twitterにて活動報告、宣伝等をしているので、私のマイページよりお気軽にフォローしてください。無言okです。

 

 

 これからもよろしくお願いします。それではまた。

 

 

 *「次の話」をタップorクリックすると「そして、幸せを知った」に飛びます。

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