※この作品はR-18です。

美女と『おうぢさま』   作:夜半の月

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美女と『おうぢさま』5

 

 

 

 

 

ミプロス島温泉旅行より帰還して暫く。

最近では休みの日処か平日の公務上がりであってもお茶の時間と食事を共にしたり、夜のセイルーンシティを散策したりと毎日のように二人で過ごすようになった

セイルーン第一王子フィリオネル=エル=ディ=セイルーンと、今は滅びてしまったがサイラーグという街の巫女頭を勤めていた少女シルフィール=ネルス=ラーダ。

王子と言いつつ暑苦しい程の大柄で、ドワーフをそのまま大きくしたような体格のヒゲ面四十代男と

薄紫色の法衣と深緑色のマントを身にまとった、膝裏にまで届く長い黒髪が印象的な美少女というアンバランスな組み合わせの二人。

誰がどう見ても野盗の親分と攫われたお姫様な構図にしか見えないのだが、そんな二人は今や公私共に仲の良い友人同士という間柄であった。

しかし、二人を良く知る王宮の人間やレストランの店員などにはとても友人で片付けられるような仲には見えないという。

特にシルフィールがお世話になっている彼女の叔父グレイと、王宮でフィリオネルの身の回りの世話をしていた男性クロフェル侯。

そしてフィリオネルの実弟でセイルーン第二王位継承者クリストファ=ウル=ブロッゾ=セイルーンの三名は、二人の仲が最早単なる『親しき友人』では片付けられない程に距離が近いと考えていた。

 

つまり、周りの近しい人間からはそう見える程の仲となる訳だが、当人達はと言えば全くと言って良いほどに互いの距離の近さに気付いていない。

どうして毎日会いたくなるのか?

ふと考え事をしている時に彼は、また彼女は、今何をしているのだろうかと考えてしまうのか?

それは暗に友人以上の何かを相手に対して抱いているという深層心理からのサイン以外の何物でもない。

幾ら親しいと言っても『友人』の範疇に入るならばそこまで相手を想う事は無い筈だというのに、未だ持って気付かないのだ。

 

淡い物故にと言ってしまえばそれまでなのだが……。

 

 

そんな宙に浮いた様な関係が続く二人はその日も食事を共にして別れる。

 

「馳走になったなシルフィール殿」

「いえ、殿下のお口にお合いでしたら宜しかったのですが」

「何を言う。シルフィール殿の心の籠もった料理が口に合わん訳がなかろう? 此処最近で一番の御馳走と言えばシルフィール殿の料理と決まっておるのだからなぁ」

「で、殿下、」

 

食事はシルフィールが作った物だ。国賓を招いて行われる晩餐会やミプロス旅行で出て来たような豪勢な料理では無論ないが、フィリオネルからすれば亡き妻が作ってくれた手料理と同等の物と断言できる程の御馳走であった。

 

(思えば不思議な物だ。妻の料理に感じていた物と同じ物をこうして食せる日が再び訪れようとはな)

 

かつて暗殺者ブーレイに襲われ非業の死を遂げた己が妻を思い出し、微笑みの中に一抹の寂しさを滲ませる。

二度と感じられないあの味を思い出させる彼女の料理は何よりの楽しみとなっていたが、同時に妻がいないという寂しさをも思い出させてしまうのだ。

 

そのとき、不意に温かい癒しの温もりが感じられた。

 

「んお・・?」

「……」

 

シルフィールだ。

 

「シルフィール殿…?」

 

誰にも、そう例え娘であるグレイシアやアメリアにさえも気付かせる事のない心の奥底にある寂しさを、シルフィールだけには感じ取られてしまう。

これは彼女と過ごす時間の中で気付いたのだが、彼女は誰も気付かない寂しいという感情を滲み出させた時、決まって抱きしめてくれるのだ。

最初の内は偶然だと考えていた。聖王国セイルーン、この世界でも指折りの大国の王族である自分は本当の心を相手に悟らせる程迂闊ではない。

それも悲しみなどという時によっては隙となり得る感情など誰にも知られてはならない。事実、彼の持つ悲しみに気付いたのはシルフィールの他には誰一人として存在しないのだ。

明るい笑顔の正義の味方が付けている仮面の下にある素顔。これに気付く事ができるのはシルフィールもまた最愛の父を喪っているが故なのかも知れない。

彼の心を見抜いたのはこの世で唯一人だけだった。亡き妻、彼女はフィリオネルの総てが手に取るように分っていた。

そして今再び、その頂きに到達しようとする女性が現れた。それが親しき友人シルフィールだった。

 

 

シルフィールには分っていた。フィリオネルがあの微笑みを浮かべているとき、その心には嬉しさと寂しさが入り混じっているという事を。

気付くようになったのはミプロス島旅行の時。未だ父を喪った悲しみに囚われている自分の事を慰めようとしてくれた彼の優しさに触れた時からだ。

彼にもまた自分と同じ様な悲しみが心の奥底に眠っているのだと。それでいて常に明るい自分で居る。

持って生まれた生来の楽天的性格と、基本的に過去を振り返らず未来を視る人であるからこそなのだろう。

それでも時折ほんのひとかけらだけ見せる寂しさ。此を感じ取れるようになったシルフィールは自然と彼に抱き着いて自分の温もりで癒せないかと試みてしまうようになった。

打算などない本心から自分の事を温かく包み込んでくれる彼を、今度は自分が癒せないかと。

 

「殿下、わたくしで宜しければいつでも殿下のお側に――」

「シルフィール殿……」

 

深い意味はない。ただ、何かあれば自分を呼んで欲しい。シルフィールの厚意にフィリオネルは同じ厚意を持って返す。

 

「わしもだ。シルフィール殿が寂しいとき、わしはいつでも側に居よう」

 

互いの傷の舐め合いをしているようにも思えるが、そうではない。

二人は唯共に過ごして居たいだけなのだ。

一緒に居ると楽しい、嬉しい、そして熱い感情を心に灯される。だから一緒に居たい。

ただそれだけ。

 

別れ際、明日の休日もまた二人で何処かへ出掛けようと約束を交わしたフィリオネルとシルフィールはそっと身体を離し帰路へと付く。

明日が楽しい一日であるようにと願いを込めて……。

 

 

 

 

 

 

 

美女と『おうぢさま』5

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

「んん~~っ! よく眠れたが、ちぃとばかり早く起きすぎたかのぅ」

 

シルフィールと出かける約束をしたこの日、いつもより少しだけ早起きをしたフィリオネルはベッドの上で大きく腕を上げながら起き抜けの身体を伸ばした。

 

「ん? なんじゃ?」

 

平日休日関係なく誰よりも早起きをして王宮の庭にて朝の体操をするむさいヒゲの王子は、何やら感じた違和感に怪訝な顔となる。

何かおかしい。体調が悪いとか精神的に落ち込んだとかそんな物では無く、何か違和感を感じるのだ。

 

「……元気過ぎるのではないか?」

 

 

違和感の正体は直ぐに判明した。

時間にして10分ほど放置しておかしいと気付いた。

フィリオネルは男である。誰がどう見ても男である。

男には生理的な症状として朝勃ちというものがある。

具体的に言えば男の象徴である股間に付いた肉の棒状の性器。

男性器、ペニス、それが大きくそそり立つといった生理現象だ。

しかし、それは10分も20分も勃ち続ける物では無く、大抵は直ぐに治まるもの。

であるにも関わらず一向に萎まない。

欲求不満が過ぎるのかとも考えられるが毎日自分で処理している為その辺りはぬかりない。

それなのに一時間、二時間と時が経っても一向に治まる気配を見せないのだ。

 

この様な状態ではシルフィールに会えないと使者を出して謝罪に向かわせた物の、流石に昼を過ぎても治まらないそれを病気か何かと判断したクリストファ王子は

王宮に居る白魔法の使い手という使い手を集めて治療を試みたが僅かたりとも効果が無く途方に暮れる。

 

しかし、この奇妙な症状の正体は意外な処から判明する事となる。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

「ハッハァっ! ざまあみろフィリオネル!」

 

数日後、以前セイルーンの街中でシルフィールを人質に獲りフィリオネル殺害を計画した盗賊団の元首領だった男が、隠れ潜んでいたセイルーンシティ内部において

大規模な儀式魔法を使用した事で潜伏場所が判明し、衛兵によって連行されてきたのだが、その際男はフィリオネルに呪いを掛けたと言ったのだ。

その呪いとは性的象徴が延々勃起したままになるという淫魔の類が操る呪いの一種であった。

解呪方法はただ一つ。それは呪いの指定する性的欲求の上限を超えた性行為による強制解呪。

大凡三日三晩、七二時間にも渡る性交を行わなければならないという、フィリオネルにとっては不可能と言える解呪難易度であった。

なぜならば――。

 

「清廉潔白で正義の味方たるフィリオネル殿下様が、よもや呪いを打ち破る為に女を抱いたりしないわなァ!」

 

そう、正義の味方であるフィリオネルは、正義の味方であるが故に自分の都合となる呪いの解除の為に女性を抱くなど出来ないからだ。

フィリオネルが持つ正義を愛する高潔な心を逆手に取られた訳である。

性質が悪い事に王族である彼の場合、勃起したままでは国同士の会談も行えないとなってしまう。

まさか勃起した状態で他国の要人と会ったりする訳にもいかず、かといって自分の都合で女性も抱けない。

男としては本来フィリオネルを殺してやりたいと考えていたが、勃起王子と世の中から呼ばれるようにしてやった方が屈辱を味合わせてやれると考えこの様な呪いを掛けるに至ったのだ。

 

これを知ったクリストファやクロフェル侯、王宮はどうにか女性を抱いてくれないかと迫ったが、当然フィリオネルは拒否した。

 

「それはできん! わしの都合で女人を抱くなど、それも三日三晩抱き続けるなどわしの正義が認めぬ!」

 

頑なに拒否する彼に別の解呪法を模索するもやはりそうそう都合良くあるわけもなく時間だけが過ぎてゆく。

 

 

そして呪いを掛けられてから一週間が過ぎた頃、フィリオネルを心配していたシルフィールは王宮を訪れクリストファ王子とクロフェル候に一体何があったのかと詰め寄っていた。

 

「あの日、会えないと断られてよりもう一週間、殿下はわたくしにお会いしてくださいません!」

 

約束をすっぽかされた事を怒っているのでも会えない寂しさからの行動でもない。

あの約束事は絶対に破らないフィリオネルが約束をすっぽかし会えなくなる事情を抱えている。

それが心配で居ても立っても居られなくなり、叔父グレイが引き留めるのも無視して王宮へ真相を問い質しに来たのだ。

 

不敬だ失礼だと考えている余裕など全く無い彼女の様子をリナ辺りが目にすれば、以前彼女が恋い焦がれていた男性であるガウリイを思い行動する姿と重なって見えたであろう。

清純で大人しいのが魅力と言えるシルフィールであったが、彼女は神官や巫女という職業にありながら想った相手のためだと考えれば

黒魔法最強のドラグ・スレイブ(竜破斬)さえ修行して身に付けてしまう非常識さを発揮する事とてある。

そんな普段は常識人、今は非常識人となっているシルフィールに詰め寄られたクリストファ王子とクロフェル候は――

 

「シ、シルフィール様…、それは、その非常に説明しづらいと申し上げますか……、困りましたな…、」

「あ、義姉上、とにかく落ち着き下さいっ、これには深いわけがありまして義姉上にお話しするのは躊躇われると申しますか…、」

「どうしてです! 殿下にもしもの事が有ればわたくしっ…! わたくしはっ!」

 

たじろぎ目を逸らし、困り果てながらも彼女の気迫に負けて事の真相を話してしまう。

以前はシルフィールへの敬称が『殿』であったクロフェル候が、此処最近は『様』と呼んでいる処にセイルーン王宮内部でシルフィールがフィリオネルに取って何なのかという事に対する一種の答えとなっているのだが

自分が周りからどういう扱いを受けているのか全くと言って良いほど分からないシルフィールは『様付けをやめてください!』といつもなら注意する処、今日はそれどころではないと彼の胸ぐらを掴まん勢いだ。

神官・巫女の癖にドラグスレイブまでもを使いこなす、実はセイルーンでも一,二を争う魔法の使い手である彼女。怒らせたり誤魔化したりするのは得策ではない。

それに、ひょっとするとこの方ならばという思いがクロフェル候の頭を過ぎった。当人達が己の気持ちに気付かなくとも二人の間にある感情が恋慕の情であると気付いている彼は

『近い将来必ずやフィリオネル殿下の后となられる』と確信しているこの見目麗しい女性に託すことにしたのだ。

 

無論、シルフィールの事を『義姉上』と呼ぶクリストファ王子も同意見である。

シルフィールは彼に付いても『あ、義姉上などとわたくしは、そんな、』と顔を真っ赤にして呼び方を変えて欲しいと言っていた。

しかし、フィリオネルとは似ても似つかないスマートな美形中年は『兄上と御婚約なされたのですからシルフィール殿は私にとって義姉となりますよ』と笑顔で返されるという

以前あったフィリオネルと沿岸諸国連合構成国の姫君とのお見合い話を破断させるために打ったお芝居上の『婚約者』の件を持ち出され、躱されている。

無論のこと言うまでもなくクリストファがシルフィールを『姉』と呼ぶのも、クロフェル候その他の王宮関係者と同じく前妃様を亡くされて以来永らく一人身であった兄フィリオネルと結婚し、彼女が必ずセイルーン王妃になるという確信あってのこと。

決して芝居がどうのという話ではなく、真剣にシルフィール様こそがフィリオネル王子の妻となられる方であると皆が考えているのだ。

フィリオネルの前妃、クリストファにとって亡き義姉以外で初めて兄の心の奥深くへと入り込んだ女性なのだから。

前妻を亡くして以来埋まる事が無かったフィリオネルの心の隙間を着実に埋めて行っている女性なのだからと。

これは既に病に臥せっている現セイルーン王、フィルやクリスの父も承知していて知らぬは本人たちのみとなっていた。

皆待っているのだ。二人が結ばれるそのときを。

 

故に彼らはフィリオネルが盗賊団の元首領だった男に呪いを掛けられたこと。その呪いが性的な呪いであること。

解呪には三日三晩七二時間もの間、女性と交わり続けなければならないことなど包み隠さず総て話した。

フィリオネルに掛けられた呪いを解けるのは、他でもないシルフィール唯一人であるとの思いを託して。

 

「そ、そん、な、」

 

絶句するシルフィール。無理もない。そんな状態に置かれているなど想像も出来なかったのだから。

そして、何より気になってしまったのはフィリオネルが女性と交わったのかという部分。

 

「それが、殿下は御自身の事情で第三者の女性をお抱きにはなれないと」

 

『殿下が抱かれる可能性がお有りな女性はシルフィール様ただお一人であろう』これを口にしなかったクロフェル候だが

そんな事を聞かされずともシルフィールはほっとする。不思議なことに交わらなければならない状況下において彼が誰とも交わっていないと聞いて安堵してしまうのだ。

それではダメだと分っていても、どうしてもフィリオネルが誰かと抱き合っていると想像すると嫌な気分になる。

だが現実に彼は誰も抱いていない。彼が女性を抱いたのはもうずっと昔に死に別れとなったお妃様以外に居ない。

 

(……何か……嫌です)

 

誠実な彼らしくとても素晴らしいことだと思ったシルフィールであったが、同時に今度は彼の亡妻に付いてもやもやした物を抱いてしまう。

 

(わたくし……どうしてしまったのかしら……殿下の事を思うと、自分が分からなくなる…)

 

「あのっ! 殿下は、フィリオネル殿下は寝室に居られるのですね?!」

 

何か良く分からない物を吹っ切るかのように二人へ問い質した彼女は、王宮を掛けていく。

あの広くて温かい父と同じ背中を持つ、そして父へ抱く感情とは別の何かを抱いてしまったあの心優しい王子様の元へ……。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

とにかく安静に寝ているしかない。寝ていて治癒力が高まれば気合いで吹き飛ばしてやろう。

そう考えていたフィリオネルは暗幕で閉ざされた光のない自室で目を瞑っていた。

 

(ん? 誰か入ってきおったのか?)

 

ふと気配を感じた。静かに締まる扉の音と誰かが近付いてくる様子。

真っ暗闇である為誰かは不明であったが、殺気も感じぬとあらば水を変えに来たメイドか様子を伺いに来た侍従か。

 

「すまぬな、わし個人の事におぬし等の手を煩わせて」

 

労をねぎらい言葉を掛けるも返事はなく、ベッドの直ぐ脇まで来たところで気配が止まり、絹が擦れる様な音がした。

 

しゅる……ぱさ…

 

(何をしておるんじゃ…?)

 

暗闇の中で目を懲らすも閉ざされた暗幕が総ての光を遮っている為良く見えない。

そうこうしている間にも絹擦れの音は続き、やがて聞こえなくなる。

 

そして気配の主がそっと話し掛けてきた。

 

「殿下…」

 

この声、さえずるように響く高いソプラノボイスは良く知っている声だ。

 

「シルフィール殿…か?」

 

最近ずっと一緒に過ごしながらもこの一週間のあいだ声すら聞いていなかった女性。

心優しく心配性な彼女の事、恐らくクリスかクロフェルに自分の容態を聞き出して見舞いに来てくれたのだろう。

そう考えたフィリオネルが約束を破った事を謝罪しようと口を開き掛けた時。

 

“ライティング”

 

「うぬっ!?」

 

彼女が唱えた明かりを付ける魔法によって生じた閃光に目が眩む。

それも僅かな間で燭台に火を灯した彼女がライティング(明かり)を消すと、眩い閃光が消え蝋燭の明かりに照らされた彼女の姿が視界に捉えられた。

 

眉が隠れるくらいで切り揃えられた前髪に、膝裏まで届く長い黒髪。

大抵の男なら一瞬で恋をしてしまうであろう程に整った容姿を持つ二十歳くらいの女性。

間違いなくシルフィールである。

唯、いつもと違うのは首から下。

 

「ぬおおおおっ!? シルフィール殿っ! おぬしなにをっ!」

 

いつも着ている薄紫色の法衣と深緑のマントが無い。あるにはあったがそれは彼女の足下に脱ぎ捨てられており衣服の役目を果たしては居ない。

脱ぎ捨てられた衣服の代わりに彼の目の前にあったのは、薄いピンク色の乳輪と乳首を持つ豊かに実った二つの大きな果実。

なだらかな腹部に細く括れた腰部。すらりと伸びた手足。それら総てが外気の元に曝され燭台の蝋燭に照らされている。

美の女神すら裸足で逃げ出してしまいそうな程に美しいシルフィールの生まれたままの姿。

 

羞恥に紅く染まった頬には淑女らしい彼女の恥じらいを見て取れたが、それならば何故裸なのかと問い質したくなる。

そんなフィリオネルであったが、彼が何かを口にするよりも早く彼女は言葉を紡ぎ出す。

此処で裸になった理由と、これから行う事について。

 

「殿下の身体を蝕む呪い・・・ このわたくしが解呪致します」

 

呪いを解く。即ち、性交を行うという事だ。

 

「な、なにを言うておるっ! わしの事におぬしを巻き込む訳には――」

 

その様な事はさせられないと大慌てで止めるフィリオネルであったが彼女は彼を遮って自分の考えを口にした。

 

「いいえ、これは殿下の事でもあると同時にわたくしの事でもあります」

「なに? それはどういう」

「殿下に呪いを掛けたのはわたくしを人質に獲った盗賊。であるなら、この呪いはあの事件の続きではありませんか?

 それに、わたくしは神官・・・また、巫女として呪いに犯された人を放置しておくことなど出来ません」

 

つまりこれは事件の当事者の一人となったシルフィール自身の事でもある。

フィリオネルに掛けられた呪いを解くのはあの時彼に護られた自分の役目であり、これは自分とフィリオネル二人の問題であるというのだ。

そして、神官であり巫女である自分は呪いに犯された人間を見て黙って見過ごせないと。

 

「む、むう、しかしじゃな、その…シルフィール殿は意味が分かって居るのか? 解呪をするとはわしとおぬしが」

 

今度は此方も恥ずかしくなるフィリオネル。豪快だが女性を大切にする彼らしい優しさであった。

そんな彼の優しさを受けて紅くなった頬を更に染めたシルフィールは意を決して口にする。

 

「わ、わかって、います……、ですが他に方法が見つからない以上、こうするより他ありません…、」

 

もう覚悟は決めている。フィリオネルを助けるために此処に来た。

無論彼は別の解呪法を捜そうとしていた筈。でも止まらない。

止めたくない。彼の呪いは自分が解くのだ。自分が解きたいのだと。

 

「それにこのままではセイルーンの皆さんが悲しみます。殿下の笑顔、殿下の明るい声、聞きたいと思っておられる方は殿下御自身が想像なさって居られるよりも多いのですから」

 

わたくしもその一人です。そう笑顔で告げたシルフィールにフィリオネルは掛けていた布団を大きく剥がし、ベッドを開けた。

それが意味するのは一つだけ。彼は自分の言葉を、自分との性交を受け入れてくれたのだ。

 

(殿下……)

 

脇に立っていたシルフィールは楚々とした仕草でベッドへ上がり、つい先程まで彼が身体を横たえていた場所で仰向けとなる。

まだ少し彼の匂いと温もりが残っている。しかし、今度はその温もりを己の身を持って受け止めるのだ。シルフィールはそれを思うと胸の奥が熱くなってくる。

 

(女であるわたくしが…男である殿下を受け止める)

 

彼女からは見上げる形となったフィリオネルもまた一糸纏っていない。

割れた腹筋。盛り上がった大胸筋。筋骨隆々と呼ぶに相応しい鍛え抜かれた男の肉体。

すっと視線を下ろすとがっしりした彼の身体付きに見合う逞しい男の象徴が塔の様にそそり立っていた。

 

「シルフィール殿、一つだけ言っておく。わしは生半な気持ちで女人を抱く事は出来ぬ。おぬしの覚悟を聞いた故、そして民を思うが故に交わる覚悟を決めた」

 

本心からの言葉である。

 

「それも相手がシルフィール殿であるからこそ性交を行う覚悟が出来た。わしの四十と少しの人生で女人を抱くのはこれで二人目だ」

 

一人目は当然彼の亡妻だ。が、同時に彼は妻との死別以来初めてとなる性交を行おうと決めた。

それは相手がシルフィールという親しき仲にある女性であり、彼女の神官・巫女としての覚悟や思いも考慮した上でだ。

だがやはりシルフィールであるというのが大きい。

これがもし見ず知らずの女や王家に仕えている女ならばやはり彼は抱かなかったであろう。

不思議なことに彼女だけは別なのだ。フィリオネルは気付き掛けている。シルフィールは既に亡妻が居るその場所へと、彼の心の大切な場所へと深く入り込んできているのだと。

そうでなければ幾ら申し出てくれたとはいえ抱こうなどとは考えない。

 

「おぬしの大切な物を奪うと同義であるが故、早々に交わらぬと決意が鈍ってしまうやも知れぬ」

 

それでも決意が鈍りそうになる。こんな華奢な中年男である自分がシルフィールのような若く美しい女性を本当に抱いても良いのだろうかと。

つまり、前戯等の準備や愛撫をしている余裕はない。

一度決意が鈍ってしまえばもう抱けない事は必定。勢いのままに抱かなければならないのだ。

 

「それでも、わしと交わってくれるか?」

 

シルフィールの翠色の澄んだ瞳を見つめて優しく語りかける。

瞬きをせず彼を見つめていた瞳をふっと閉じると、彼女はこくりと小さく頷いた。

 

 

「うむ…」

 

覚悟の頷きを受け取ったフィリオネルはシルフィールのすらりと伸びた脚を左右に開き、抱え持つ。

己が身体は彼女の脚の間に割り込ませ、そそり立つ男根をゆるりと近付けていく。

 

くちゅ

「んあっ」

 

先に向けて尖った形をした亀頭部が準備さえ出来ていない秘所に押し当てられる。

ぴくっと身体が反応し、予期せぬ声が口から零れた。

フィリオネルはシルフィールの反応を見て押し当てた割れ目に沿う形で男根を前後させる。

ほんの少しでもいい。彼女の身体をリラックスさせることが出来たならと。

 

すり…すり…

「ふぁぁ…っ、ふぁ…、」

 

挿入を思い描いていた彼女は股間部を優しく擦られる感触に息を吐きながら小さな声を漏らした。

前戯無しで始めるといったのに少しの猶予を与えてくれた彼の心遣いに感謝する。

受け入れる覚悟は出来ていてもあんな大きなペニスが渇いている処に入ればきっと激痛が走るに違いない。

割れ目に沿っての僅かばかりのこの愛撫がどれ程身体を弛緩させてくれた事か。

股間をなぞる温もりに身体の奥が熱を帯び始め、少しではあるが愛液を染み出させてきた。

 

「では行くぞシルフィール殿、良いか?」

「は、い、」

 

これを敏感に感じ取ったフィリオネルは今度こそ男根に角度を付け、愛液の出始めたシルフィールの秘所にゆっくり挿入していった。

 

ずぷぅぅ

「んっああ…!」

 

入り込んだのはまず亀頭先端部からエラの下まで。

愛液の湧出で少しだけ開いていた膣口が大きく広げられる感触にシルフィールの背中が浮いた。

やはり痛みはある。元よりサイズが大きい立派な男根を穢れの知らない清らかな膣に前戯も無しで挿れるのだから当たり前だ。

だがフィリオネルは彼女の膝を抱えたまま止まることなく腰を押し出し男根を埋め込んでいく。

 

ずぶぅぅぅ

「はあッ! うっ…ううっ!」

 

閉じていた膣道が進み来る硬い肉に犯されぱっくり割れていく。

大海を割るように左右に押し広げられ熱い肉が侵入してくる。

ぶちっ、何かが切れる感触も亀頭の端と襞の強い摩擦に流され痛いと感じる暇すらない。

精々股間を引き裂くような痛みの中に紛れて、結合した性器の隙間から紅い血が流れ落ちるのが彼女の処女が喪われたのだと物語っているのみ。

 

じゅぷん

「――っっんん!」

 

シルフィールの中へ入っていった男根は最深部へと辿り着いてこれより精を放つ亀頭部の先端が入り口に吸い付き、まるで子宮とキスをしているかの如き形となった。

如何にも大量の精が作り出されて居るであろう大きな陰嚢が彼女の膣口下に押し付けられ、股間同士も一つにくっつく。

 

「あ…ん……はぁ…、はぁ…、」

「今わしの物がシルフィール殿の中に総て入ったぞ。苦しかったであろうがよく我慢してくれた」

「はぁ…、はぁ…、はい、わかり、ます…、わたくしの中に…、殿下が…、とても…とても熱く…。大きな……」

 

下腹部の奥に感じる大きな異物による圧迫感。生まれて初めて味わう男性器が収まった感触に震える唇を動かして答えるシルフィール。

 

「痛くないか?」

 

心優しい彼の気遣いにふるふると首を振った。

本当はかなり痛く苦しい。だが自分でも良くわからなかったが彼と身体が一つに繋がっているこの瞬間がたまらなく嬉しいのだ。

まるで自分の身体がこの瞬間が訪れる事をずっと待ち望んでいたかのように。

 

「そうか……。わしも、わしも実に心地良い。シルフィール殿の中はとても温かく癒される」

 

フィリオネルも同じだ。シルフィールの中に入り、こうして身体を一つにした今、言い知れぬ幸福感に満たされている。

燭台の明かりに照らし出されるシルフィールを見る。扇状に広がった黒く長い髪は艶やかで光沢を帯び、翠色の綺麗な瞳が涙に潤んでいた。

頬に射した赤みは先程までの比ではなく、初めての挿入による苦痛故か冷や汗のような物が白いきめ細やかな肌に浮かんでいる。

豊かな乳房の膨らみの頂点では薄いピンク色の乳輪の中心である乳首が勃起し自己主張していたが、フィリオネルはその胸の片方左の乳房にそっと手を置いた。

 

「んッ」

 

大きな手の平で乳房に触れられたシルフィールは肌への接触に反応しながらも切なげな表情でフィリオネルを見つめ続ける。

 

「綺麗だな……本当に綺麗だ」

 

乳房をやわやわと揉みし抱く。陶器に触れるように優しく、それでいて大きく円を描きながら親指と人差し指で尖った乳首を摘む。

 

「は…あっ……っ」

 

初めて男の人に胸を揉みし抱かれた彼女は優しい愛撫に溜息のような声を漏らす。

続いて右胸も同じ様に揉みし抱かれ両の乳房が弄ばれる。

 

「……っ…ち、乳首は、ああっ…そん、な……」

「シルフィール殿の乳首、こりこりしておる。感じておるのか」

 

シルフィールの大きな二つの乳房がごつごつした彼の手に揉まれ、形を変えては元に戻るを繰り返す。

 

「少し味わうが良いか?」

「は、はい…、」

ぢゅる

「ふああっ!」

 

手を離し揉みほぐした乳房にかぶりつくフィリオネル。

舌で尖った乳首を突き、ちろちろ舐めながら乳輪を吸うと肌に濡れた舌が這うのを感じた彼女が驚きに震えた。

更に乳首を吸われたことで接近した豪快な口髭が膨らみを撫で、ざらざらくしゃくしゃとした硬い髭の感触が肌を襲う。

 

「あ、ンっ……殿下、舌で…舐められた、ら……っ、わたくし……っ、」

 

尚も硬くぷっくり膨らんだ乳首を口に含んだまま舌で転がして母乳を飲むように吸っていると、吸い出そうとする行為とは真逆の湧出という現象を膣の中に入っている男根に感じたフィリオネルは

静かに乳房より唇を離した。唾液に塗れた乳首が充血して平時のピンクよりも赤みを帯びた色となっており、もっと吸い続けて欲しいと主張しているようにも見える。

だが、己に掛けられた呪いを解く為にはその一点を追い続けるわけにも行かない。肝心なのは性的欲求を満たすこと。

中に挿れたままで停止させている男根を動かし、しっかりとした性交を行う。それが何より肝心な行為。

その為に純潔を捧げてくれた彼女に、彼は応えなければならないのだ。

 

「始めるぞ」

 

一言告げたフィリオネルは総てを内部に収めた状態の男根を動かし始めた。

 

ず…ぢゅ、

「あっ…ああッ――!」

 

胸への愛撫に続いてのゆっくりとした腰の動きに今度は大きく喘ぐシルフィール。

ぴったり着いていた粘膜同士がぷちぷちと引き剥がされる痛みに耐えかねてベッドに投げ出していた手でシーツを掴む。

 

「あッ…はあッ……んっ…あっ…」

 

ゆっくりとした動きだが重量級の肉体を持つフィリオネルが動くと如何に造りの頑丈なキングサイズのベッドでもきしみを立てる。

そのきしみに紛れて響くのは、性交をしている証しとでも言うべき淫らな水音と腰のぶつかる音。そして――

 

「ああっ…、はうっ…、んっ…ンンっ…っ、ふうっ…、はっ…あァ…、」

 

旋律のように心地良い響きとなっている高いソプラノボイスの艶めかしい声。

 

「シルフィール殿、苦しくは…辛くはないか?」

「はァっ、あ…ん…、い、いいえ、わたくしは…、辛く…ありませんっ、」

 

馴染ませる為にと優しく静かな動きで行われるフィリオネルの抽挿がシルフィールの痛みを最小限に抑えている。

ゆっくり撫で擦れ合う生殖器同士の粘膜は愛液に塗れて滑りも良く、程良い痛みと気持ち良さの比率と成って彼女の身体を駆け巡っていた。

電撃魔法を身体の内側から浴びせられているようにも感じる性的な痺れと疼きが、背筋を走り抜け彼女を高みへと導いていく。

 

同じくフィリオネルも久しく忘れていた女性との交わりに興奮を覚えていた。

 

(忘れておったわ… 女人との交わりが、これ程までに心地良く…、素晴らしき物であるということを)

 

眼下にいるのはかつてそれを味合わせてくれた亡妻ではない。

だが、今や亡き妻と変わらぬくらい大切だと思える女性。

薔薇色に染まった頬。開かれた口より溢れ出る熱い吐息と喘ぎ。

突き込みの振動に合わせて大きく跳ね、揺れている豊満な胸。

シーツに広がった黒く長い髪は艶やかで、その美しき肢体に浮かんだ汗が身体を伝い流れ落ちる。

目に映るシルフィールの総てが、彼の性的欲求を満たしていく。

 

「くっ、ううっ、出すぞっ、出すぞシルフィール殿っ!」

「あッ! ああッ! んんッ! でッ…でん…かァ…ッ!」

 

身体の奥から込み上げてくるのはかつてグレイシアとアメリアを授けてくれた時と変わらぬ濃く熱い、煮えに煮えた生命の源。

それを出しても良いかと訊ねるのではなく、出すと宣言する。

生半な気持ちで女性を抱けない、抱くのならば最後の最後まで。それがフィリオネルの男としての在り方。

子供が出来てしまったらどうするかなどの引け腰な性交など出来よう筈が無いと。

故に彼の相手は限られてしまうのだ。自らが受け入れ、また己を受け入れてくれる相手に。子を作りたいと無意識でも思える相手に。

それが妻であり……そして……シルフィール=ネルス=ラーダという女性……。

 

宣言と共に一際深く打ち付けて、シルフィールの子宮口を突き上げた。

腰はしっかり押さえて、互いの股間を強く押し付け合う形で。

 

どくぅ!

 

総てを吐き出した。

 

「ああっ――!!」

 

瞬間、男根から沸き上がってきた熱い精がシルフィールの子宮へと注がれる。

 

どぷぅ…どぷ・・・

「んッ…アア…! 殿下の…熱い……ッ わたくしの…ッ、奥に…注が…れッ……、ッ…ァァァ…、」

 

(溜まっていく…、身体の奥に注がれる殿下の熱い精子が……、わたくしの中に溜まっていく……、)

 

抱えられた腰の間にフィリオネルの身体がある。彼の股間と自分の股間は重なり、結合部は隙間さえ見出せないほど深く深く一つになっている。

ピンと伸ばされた脚、そのつま先はベッドの上に突き立てるような格好となりぴくっ、ぴくっ、と痙攣していた。

 

どく…どく……

「うっ…ぅぅ…!」

 

心音のように脈動する男根からは絶え間なく精が吹き出し、生命の源を送り込む。

入り込んでくる精は下腹部奥に溜まっていくのが知覚できるほどに濃く熱い。

それをただ受け入れるだけのシルフィールは熱に浮かされた瞳をフィリオネルに向けた。

彼も彼女と見つめ合い黙って射精を続けている。

 

やがて絶え間なく続いていた射精は収まり、初めての時の終わりを告げる合図となった。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

「わしの為にとせんでも良い交わりをよう頑張ってくれたなシルフィール殿……なんと言って詫びればよいか」

 

三日三晩、七二時間もの長時間に渡ってひたすら交わり続けてくれたシルフィールに、申し訳ない気持ちでいっぱいのフィリオネルは、彼女へ詫びの気持ちを伝えながら、己が腕の中でぐったりしている彼女の髪を指で梳きほつれを直していた。

指に絡まり擦り抜けていく髪の毛は水分を多量に含んでいる。それは彼女と、そして彼の発汗量を物語っている。

七二時間もの間性交をしていたのだから当然と言えば当然であり、頑強な肉体を持つ彼とは違ってシルフィールは途中何度も気を失う程に体力を消耗していた。

無論、合間合間に10分~20分の休憩を挟みリカバリィを掛けながら行っていたが、それでもこれだけの長時間交わっていたのだから、魔法の腕はずば抜けていても体力の方はそんなに無いシルフィールには大変であった。

 

だが、そんな彼女の健気な献身のお陰でフィリオネルに掛けられていた呪いは解けたのだ。

猛り通しであった男根が今は萎んでいるのが何よりの証明である。

 

「はァっ…、はァ…っ、いいえ、……わたくしは、殿下の呪いが…、解けさえすれば…、」

「うむ。お陰で呪いも解けたようだわい。………礼を言う、シルフィール殿」

 

フィリオネルは献身的に支えてくれた親しき友人……いや、大切な女性の唇を奪う。

 

「んっ…」

 

不意のキスであったがシルフィールは受け入れる。

いつぞやの熱い口付けではなく唇を触れ合わせただけの軽いキスであったが、あの時以上に切なく、心の籠もった口付けに感じたのは気のせいではないだろう。

 

「シルフィール殿、少し休んだら風呂に入ろう。わしが背中を流す」

「そんな…、殿下にその様な事をさせる訳には…、」

「構わん。わしがおぬしの背中を流したいのだ」

「殿下…」

「ああそれと言い忘れておったが、これからはわしのことはフィルと呼んでくれい。わしはおぬしに殿下と呼ばれておると何やらもの悲しくてな……」

 

彼は梳いていた彼女の長い髪を一房、指に絡めて鼻を近付け香りを嗅いだ。汗に濡れていてもとても良いフローラルな香りが鼻腔を擽る。

 

「フィル…様。フィル様」

「おお、それでもよい。これからシルフィール殿は『殿下』禁止じゃな」

「ふふふ…。フィル様、悪戯が成功した子供みたいですね」

 

子供のように笑うフィリオネルに柔らかな微笑みを浮かべて頷いたシルフィール。

二人は互いの身体を強く抱きしめ合ったまま眠りに就いた。

お互いの温もりを感じて安堵し、この温もりを決して離したりしないようにと……。

 

 

 

その後、三日が過ぎたことで様子を見に訪れたクリストファは裸で抱きしめ合ったまま仲睦まじく眠る二人の姿に。

 

「ゆっくりとお休みください兄上。そして義姉上もさぞお疲れになられたことでしょう。今暫くの間、兄上の腕の中でゆるりとお休みください」

 

そう囁き、二人の寝室の扉をそっと閉めた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

翌日、薄紫の法衣と深緑のマントといういつもの服装に着替えたシルフィールは、付き添ってくれたフィリオネルと二人で叔父グレイに四日間も城に泊まっていた経緯を話した。

理由を聞いたグレイは突然の事に放心状態。つまり三日三晩呪いを解く為に行った行為を責任感の強いフィリオネルが包み隠さず話したのだ。

 

「グレイ…?」

「はっ!? い、いえ申し訳御座いません、少し気が動転してしまいまして、」

「すまぬな。大切な姪御殿を…」

「い、いいえ、シルフィールが自主的に行ったのなら私は何も。それに神官・巫女として呪いに苦しむ方を救うのは寧ろ正しい行いです。まして、それが殿下のようなお立場の方なれば」

「そう言ってくれると助かる」

 

再度深々と頭を下げた彼はこの四日間で溜まってしまった仕事を捌かねばならないと思い立ち上がる。

しかし、その彼の服の裾をぐっと掴む者が居た。

 

「シルフィール殿?」

「あの、フィル様。宜しければフィル様のお仕事のお手伝い、わたくしに出来る事がお有りなら」

 

フィリオネルは三日三晩性交をして疲れている。これはシルフィールも同様であったが此処まで来たら最後まで彼の力になりたいと思った訳である。

 

「う~む、シルフィール殿のお気持ちは有り難いのだがなあ」

 

申し出は嬉しい。だが政治的な仕事ばかりなので精通していない者では出来ない事が多い。

といって折角申し出てくれたのを断るのも何か嫌……というより、今暫く彼女には側に居て貰いたいと思ってしまっているので何か無いかと頭を悩ませた。

 

これを見ていたグレイはふと気付いた。

シルフィールがフィリオネルの事を『殿下』ではなく、『フィル様』と呼んでいることに。

二人の手が恋人繋ぎとなっていることに。

 

 

知らず知らずの内に大きく仲を発展させていくむさい髭面おうぢフィリオネルと、長い黒髪の美人巫女さんシルフィール。

二人は今日も共に過ごす。いつもと変わらぬ日常と、大きく変わった想いを胸に……。

 

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