※この作品はR-18です。

少年と艦娘   作:黄身白身


原作:艦隊これくしょん
タグ:R-18 R-15 残酷な描写 残酷な描写 独自設定
深海棲艦に敗北した世界。
荒廃した終戦世界で一人の少年が艦娘不知火と出会う。

コミケ93にて頒布された「艦隊これくしょん命乞い合同(R-18G)」に寄稿した作品です。一年経ちましたので主催の許可をいただいてこちらにも掲載します。
pixivにも掲載しています。



1 / 1
タイトルはハーラン・エリスン「少年と犬」から
 
 



少年と艦娘

 そいつを見つけたのは、俺が不知火と裏路地を歩いていた時だった。

 酷い有様の泥まみれ、おまけに腹ばいで地面に倒れていたから最初は女だとわからず、化粧の下手な「穴野郎」がボコられてから棄てられたのかと思ったくらいだ。

 それが女だと先に気づいたのは不知火だ。

「女だ、こレ」

 マジかよ。

 不知火は普段からきつめの男言葉を使うようにしている。「穴野郎」と間違えられたくないし、女だとも思われたらヤバい。艦娘だなんてバレたらそれどころじゃない。

 不知火一人だけならなんとか逃げきれるだろうが、俺が捕まる。俺が捕まれば、不知火は戻ってきてやっぱり捕まる。

 不知火は一日か、一週間か、もしかしたら何ヶ月も、下手すると一年くらいボコられてマワされて壊されて、俺は無理矢理「穴野郎」にされてマワされるか壊されるか食われるか、たぶん順番に全部。

 不知火は俺と一緒にボコられてマワされるために、戻ってきて捕まるのだ。今の不知火に穴は前にも後ろにもないけれど、多分、なんとかして、どうにかこうにか。人間の創意工夫ってのはすげぇ。キモいが、すげぇ。

 自分から捕まりに行くなんてなんとも間抜けな話に聞こえるが、不知火によれば艦娘ってのはそういうもんらしい。

 つまり艦娘は、底抜けに間抜けだ。

 

「臭いでわかラないか?」

 不知火が言うけれど、女の匂いなんか知るか。

「臭うだロう?」

 汗臭いとは思ってる。もしかすると小便の臭いも。

「少し漏ラしてルのかな」

 げっ。俺は触らないぞ、不知火、お前がなんとかしろよ。

「助けルのか?」

 艦娘ってのは人間を助けるんだろ?

「誰も彼も助けていたラ自分が死ぬ。そのうえ、提督も助けラレなくなル」

 なるほど、あれか。その……なんだっけか。

「とリあーじ」

 そう、それだ。

「そレで、助けルのか?」

 そうだな……あ、待てよ、そうだよ、おい、不知火。

 なんでこんなところに女がいるんだよ。

 そんじょそこらに女がいるんだったら、「穴野郎」なんていらないだろ。

「そうだ、提督は頭がいいな」

 不知火の提督だからな。

 よし、とりあえず、こいつがどこから来たか聞きだそう。

 もしも、どこかの基地外が隠してた最後の一人とかだったら、構わないから捨てるか食うかしよう。

「他にもいたラ?」

 情報売ってボケどもにドンパチ始めさせよう、それを眺めて大笑いだ。

「迷い込みだったラ?」

 それはねえよ、今更こんな世界に下りてくるかよ。

 薄暗い地の底、臭くて低くて暗いここが俺たちボケどもの住家だ。

 昔々、深海棲艦に負けたじじいどもがここに逃げ込んだか棄てられたかして、俺たちはここにいる。

 食い物も女もほんのちょっぴりしかない。ないから取りあう、奪いあう。

 不知火を拾った俺は凄く運がいい。

 不知火に穴があればもっとご機嫌だった。

 いや、穴がなくても不知火は最高の連れだ。ごめんな、不知火。

 上の方では女たちと深海棲艦たちが面白おかしく暮らしているらしい。

 俺たちみたいなのは、多分いない。

 艦娘も多分いない。

 

 深海棲艦たちが艦娘をたくさん殺した。

 艦娘たちも深海棲艦をたくさん殺した。

 じじいどもはそう言ってた。

 じじいどもは弱かった。弱いから深海棲艦を殺せなかった。

 殺せないから、艦娘たちを味方につけた。

 じじいどもは艦娘たちを殺せた。

 そして、じじいどもはすげえ馬鹿だった。

 じじいどもは艦娘たちをちょっとだけ殺した。楽しいから。

 だけど、それで充分だった。

 深海棲艦たちはたくさん死んだ。

 艦娘たちもたくさん死んだ。

 艦娘たちのほうが、ほんのちょっぴり多く死んだ。じじいどもが殺した分だけ。

 だから、艦娘は負けた。

 艦娘たちが負けたのに、もっと弱いじじいどもが勝てるわけがない。

 それに気づかなかったじじいどもは相当の間抜けだったんだろう。

 ところが、じじいどもの次のおっさんどもはもっと間抜けだった。

 この世界で、おっさんどもは艦娘たちを狩りたてて殺し尽くした。

 艦娘たちのせいで負けたんだからって。

 そしておっさんどもの次の連中、つまり、艦娘のいない俺たちボケどもはボケ同士で殺しあってる。

 不知火はじじぃにもおっさんにも殺されなかったけど、いろいろと酷いことになっている。

 顔には大きな割れ目があって右目のあった場所はぽっかりとクレーターになって抉れてる。

 下唇は欠けていて、右手の指は三本しかない。左手の指は二本だけれど。

 外からの見える部分でそれだけだ。見えない部分はもっと酷い。

 股間の穴は全部潰されているし、胸は焼けて引き攣れている。

 それでも、不知火は不知火だ。俺の艦娘だ。

 ボケ提督の命令でボコられてマワされても抵抗一つしなかった不知火を見つけた俺はバカだった。

 いや、今思えばバカじゃないのかもしれない。

 とにかくバカな俺はなんだかカッとなって、ボケ提督が一人きりになるのを待って殺した。

 するとなんと、次の提督は俺だった。

 不知火の話だと、その場で一番テキセーチの高かったのが俺だとか。

 俺はボケ提督を殺した犯人を別にでっちあげて、そいつがボコられてる隙に不知火を連れて逃げたんだ。

 それからずっと、俺は不知火と一緒にいる。

 だって俺は、テートクなんだからな。 

 

 俺たちはとりあえず女を運んだ。

 最初に思ったほどの酷い状態じゃない。どうやらボケどもに見つかったわけじゃないようだ。

 ボケどもに捕まってから逃げ出したのなら、こんな程度じゃ済まない。

 ボケ共に捕まってボコられたわけじゃ無くて、逃げ回っているうちにコケるなりぶつかるなり色々あってこうなったのじゃないかと不知火が言う。

 不知火が言うのならきっとそうだ。不知火は頭が良い。 

 いくつかある隠れ家の一つ、不知火のアイデアで〝墓場〟の奥に隠した入り口に入り込む。

 今じゃ艦娘の死体置き場になっているが、昔、おっさんたちはここに艦娘を閉じ込めて、一人一人を引きずり出しては死ぬまでボコったりマワしてたらしい。

 だから、少し奥に入ると昔は艦娘を閉じ込めていただろう穴蔵がある。

 その穴蔵の入り口を、俺と不知火で隠したのだ。

 こんな〝墓場〟なんて探せばいくらでもある……いったい昔はどれだけたくさんの艦娘がいたのやら、それを皆殺したおっさんどももすげえ。だから、俺たちの隠れ家が見つかったことはない。

 雪風の頭だった塊と羽黒の尻だった塊の間、そこに置かれた卯月の目玉が目印だ。なぜかは知らないが、艦娘の死体は割と長く残る。俺達とはちょっと違うんだろう。

「そロそロ目印を変えたほうがいいな」

 そうだな。

 ボケどもがいくらボケでもそろそろ気づくかもしれない。

 入口の取っ手はいつものことだがぬめぬめしている。

 腐ったような蕩けたような、肉と油の混ざったここいらには、さすがのボケどももめったに来ない。いい隠れ家なんだ、匂いに慣れれば。

 不知火と二人がかりでようやく動く重い扉を開けて、入口から一番奥に女を置いて、気つけにこれだけはたっぷりある水をかけようとすると、不知火が布きれを女の口に押し込んだ。

 どこから出したのかと思ったら、女の足に引っかかってた下着だと。

「叫ばレルと面倒ですね」

 周りに誰も居ないとき、不知火は男言葉をやめる。

 俺は不知火のこっちの喋り方が好きだ。

「目を覚ましますよ」

 目を覚ますと、女は不知火の言ったとおりに叫ぼうとして呻き始めた。

 不知火が殴りつけると静かになるので、助かりたきゃ叫ぶなと言い含める。

 いいか? 俺たち以外に見つかったらボコられてマワされて食われるぞ。それも、運が良かったらの話だ。運が悪いと延々とボコボコにマワされる。いつまでも、いつまでも、擦り切れて穴が貫通したり増えたり十倍の大きさになったりしても。

 俺に会う前の不知火みたいに。

 女はなんだか気持ち悪い目で不知火を見ている。

 嫌な目つきなので卯月の目玉と取り換えてやりたくなった。

 口に出してそういうと、女は首を振った。

 叫ぶなよと言い聞かせて口の中から下着を抜いてやると、女は言った。

「不知火って、艦娘の不知火なの?」

「不知火は不知火ですが」

「酷い姿ね。高速修復材(バケツ)はないの?」

「貴方たちがすべて奪い尽くしました」

「そんなことしてないわよ」

「貴方の知リ合いか保護者か、少なくとも貴方の属すル陣営の誰かが」

「つまり私じゃないわね」

 そりゃそうか。

 不知火は首を振っている。

「バケツ、あげるわ」

「その代わり、私を上まで送ってよ」

 おい、こいつ、マジで上から来たのか。

 なにしに来たんだよ。

「ね、早く行こ、バケツ、欲しいでしょ?」

 確かにバケツは欲しいが、だからってのこのこ出かけてられない。ボケどもに見つかったらシャレじゃすまない。

 見つけたのが俺たちで、こいつは本当に運がいいんだ。

「提督、様子がおかしいです」

 入り口から外を覗いた不知火が引き返してきた。

「囲まレています」

 マジかよ。

「あんた艦娘でしょ、砲撃でもなんでもして追っ払いなさいよ」

「艤装は大破していて使えません」

「使えないわね」

 この女はむかつく女だ。

【おい】

 外からの声だ。

 連中、拡声器でも拾ったか。

【お前、艦娘持ってんだろ】

 あ、やっぱり前から見かけてた連中か。

 ぶちのめしてやったことが何回かあるし、逃げたことも数十回ある。

 皆殺したつもりなのに生きてたか、それとも見られてたか。

【素直に差し出せば見逃してやるから、指揮権差し出せよ、提督】

 シキケンてなんだ、不知火。

「提督が不知火に命令すル権利です」

 それを差し出したらどうなるの。

「不知火の提督が、代わリます」

 不知火がボケどものものになるのか?

「はい」

「嫌だ!」

 俺は大声で叫んだ。なんで不知火がボケどものものになるんだ。絶対に嫌だ。

「あリがとうございます、提督」

 なんだかくすぐったくて、俺は身を捩った。

 だからってなにもできずに一日が経った。

 ボケどもは、ずっと墓場に居座っている。

 時々入り口にボケどもが押し寄せてくるが、こっちに不知火がいる限り開けることは出来ない。

 一気に開けることの出来ない重さの扉だ。それにちょっとでも隙間ができれば、そこから不知火がボケどもを突いたり、石を投げる。ボケどもの頭が割れる。ボケどもは逃げて、扉は閉まる。

 当分はここに籠もっていても安全だ。出ることが出来ないだけで。

「まだいるのかよ」

 さらに一日経っても連中の引く気配はなかった。そんなに不知火が、というより俺が恨まれてるのか。

 水は一応ある。というか水しかない。

 腹が減ったと不知火に愚痴っても、首を振るだけ。

 あまり言うと、自分が出ていくから提督は逃げろ、と間抜けを言いだしかねない。

 その辺に転がってる艦娘どもの死体、試したことはないが食えるんだろうか?

 ボケどもは何度か食ったから食えるとわかるが、艦娘はまだ食ったことがない。

 いや、でも、艦娘が食えるならとっくに墓場は空っぽになっているんじゃないだろうか。

 そう不知火に聞いてみると、

「はい」と。

「我々の肉体は食用には適しません」

 つまり、食えないと。

 悩んでいると、女が小さなチューブを取り出した。

「上から持ってきた携行食糧よ、あげるわ」

「不知火の分もくれ」

「艦娘なら少しは耐えられるでしょう、我慢しなさい」

 ひどいことを言うやつだな。

 でも、不知火が納得しているから仕方ない。

「あんた、提督なの?」

 どうもそうらしい。不知火が言うからにはそうなんだろう。不知火はいつだって正しい。

「つまり、男ってことよね」

 それがどうした。

「私は女よ?」

 わかってる。

「男は女を守るものよ」

 そりゃ知ってる。が、ちょっと違う。

 男は穴を守るものだ。

 だから「穴野郎」は守ってもらえる。

 だから、穴を使わせない奴は守ってもらえない。

 だから、穴のない奴は守ってもらえない。

 だけど、不知火は別だ。穴がなくても、不知火は不知火だ。

 女が笑った。

「じゃあ、守ってよ」

 女の手が自分の服にかけられる。

「穴ならあるよ?」

 女は突然、服を脱いで素っ裸になった。

 そして、俺にとびかかってきた。

 驚いたが、ボコられるわけじゃないと何故かわかった。

 女は柔らかくて、ちょっと悪くない匂いで。いや、いい匂いで。

 とにかく柔らかくて、そして何より。

 ちゃんとした穴があった。

 「穴野郎」のケツでもない、壊れて腐り切った穴でもない、腫れてふさがっちゃいないまともな穴が。

 柔らかくて温かくて、気持ちのいい穴が。

 

 不知火が見ていた。 

 俺が腰を振って、女が声をあげるのを不知火が見てた。

 不知火は何も言わずに見てた。

 何度も何度も。

 俺たちが腰と尻をぶつけあってる間に、不知火は扉の陰からボケどもを撃退した。

 不知火は何も言わなかった。

 女が声をあげて、俺が声をあげて、笑っても、喘いでも、歓んでも。

 不知火は何も言わず、ボケどもに石をぶつけ、棒を突きさし、追い払い続けた。

「一緒に来てよ」

 疲れてチューブの中身を舐めていると、女が言った。

「優しい提督なら歓迎するよ」

 じゃあ、不知火に相談しなきゃな。

「古い艦娘はいらない」

 なんか言ったぞ、こいつ。

 女は不知火を睨みつけると続けた。

「私は第二世代艦娘、深海棲艦とのハイブリッド」

 なんだと?

「そこの壊れた第一世代より、限りなく人間に近いわ」

 なんなんだ、こいつは。

「従うなら、協力者として地上に連れていってあげる」

 協力者って深海のか。

「元々連れて行こうとは思っていたんだけどね。逆らわない提督を探していたの。貴方には、希少価値があるのよ」

 また、提督か。

 離れようとしたら、柔らかい身体を押し付けられた。

「もっとできるよ、こんなことも。穴もいっぱいあるよ。男は、穴を守るんでしょう?」

 口をふさがれて、舌を舐められて、おっぱいが押しつけられて。

 ようやく俺は離れて言った。

「すげえ気持ちいい」

 俺はすげえ間抜けなことを言ったような気がした。

「だよね、だから一緒に」

 だけど。

 俺は、はっきりと、言う。

「俺は、お前より、不知火がいい」

 女の顔が歪んだ。すごく、嫌な顔に。

「あんな旧世代の化け物」

 女の顔が歪んだ。今度は、物理的に。

 俺は、思い切り女を殴りつけていた。

 不知火は違う。化け物じゃない。

 女は驚いていた。

「なん……」

 殴った。

「にんげ……」

 殴った。

「わた……じせだ……」

 何度も殴った。口を開くたびに、俺を見るたびに、不知火を見るたびに、息をするたびに。

 拳で、石で、棒で、ガラクタで。

「ああ、戦闘能力は失わレていルのですね。何故最初は逃げていたのかと考えていましたが」

 不知火が静かに言う。

「自由意思と戦闘能力を同時に与えルほど、深海棲艦も愚かではあリませんか」

 俺が殴り続ける間に、不知火は女の荷物を漁る。

 俺が殴り飽きて蹴り始めた頃、

「荷物の中に高速修復材があリました。形態は異なリますが成分は同じです。この虚弱さですかラ、肌身離さず持っていルはずと想定しました」

 女は呻いて、すすり泣いていた。

 蹴るたびにびくりと体が震え、小さく「ごめんなさい、助けてください」と呟いているのが聞こえてくる。

 俺は嫌だと言って指先を踏みにじる。これで七本目。

 そろそろ、踏む指もなくなるだろう。

 その修復材使えよ、不知火。

「了解しました」

 不知火の身体が光ったような気がした。

 傷が消えた。

 指が生えた。

 唇は再生し、なにもない眼窩に眼球が生まれた。

 ボロボロだった服までがきれいになり、新品同様の艤装が発現する。

 なんだ、これ。こんなに、修復材って凄いのか。

 なんだよ、これ。これが、不知火の姿なのかよ。

 これが高速修復材。これが……

「陽炎型二番艦、駆逐艦娘不知火です、提督」

 敬礼する不知火に、俺は慌てて真似をする。

「わ、わかんねえけど、これでいいのかな?」

 不知火は優しく笑っていた。

「提督に落ち度はありません」

 これが、本当の不知火なんだ。この姿が。

 一緒に逃げよう。俺は心の底から思う。

 ここから逃げ出したい。不知火と逃げ出したい。

 絶対に、外のボケどもには不知火は渡さない。

 今の不知火ならかなりいいところまで戦えるだろう。

 だけど、艦娘だって無敵じゃない。艦娘が本当に強いのは海の上にいるときだけだ。

 外の連中が何持ってるかによっては、不知火が負けることもあり得る。

 不知火一人なら逃げ切っても、俺を連れて逃げ切るのは多分無理だ。

 さあ、どうする。

 俺は間抜けだ。だが提督だ。

 男は穴を守る。

 男は女を守る。

 提督は艦娘を守る。

 不知火は穴で女で艦娘だ。

 だから俺が守らなきゃならない。

 そしてここには、俺が守らなくていい穴がある。

 壊れた艤装も艦娘の死体も全部そろっている。

 俺は念のため不知火に尋ねる。この女が元通りになったとしたらどっちが強いのか。

「先ほどの提督とのやりとりを見る限り、次世代の艦娘は戦闘能力を大幅に削減されているようです。勝負にもなりません」

 つまり、こいつに修復材を使っても大丈夫なんだな。

「お薦めは出来ませんが、最悪の場合でも抑えることは出来ます。必要とあれば、修復材の限定使用も可能です」

 限定使用ってなんだ。

「端的に言えば希望の部位だけを修復することです」

 なるほど。いいことを聞いた。

「何をするおつもりですか?」

 ここから出る。

「艤装展開すれば血路を切り開くことも可能です」

 いや。

 なあ、不知火。俺は考えたんだ。

 俺たちが二人とも無傷で助かる方法。

 この糞女を捨てる方法。

 女に修復材を使うと、女の怪我が消えていく。

 不知火の時には気付かなかったけれど、怪我が消えると周りにある艦娘の死体も一緒に消えている。

「自動的に解体され、資材として使われているようですね」

 つまり、修復材がまともに使えるのはこの場所だからってことか。

「そのようです」

 ツイてるんだ、俺たちは。

 不知火、嫌なこと聞くぞ。お前、覚えているよな、自分の怪我。

「……はい」

 こいつに同じ傷をつける。

 顔を割って、目をくりぬいて、指をちぎって唇を引っぺがす。

 胸を焼いて、穴を潰す。

 女が悲鳴をあげようとして失敗していた。声がかすれて喉が痙攣して、悲鳴にならない。

 悲鳴も出せないほどに怯えている。

 不知火、ちょっと押さえててくれ。

「嫌」

 辛うじて、女の一言だけが聞こえた。

「やめて」

 やめない。

「お願い」

 女はくぐもった声で一言一言を吐き出している。身体が痙攣してしゃくり上げるように喋るため、単語でしか話せない。

 不知火、修復材はどれくらいある?

 どれだけなら、やり直しが利くんだ?

 女がもがく。俺は顔を潰すつもりで、拾った潰れ艤装で殴りつけた。

 顔だけなら、後で修復材を限定使用すればいい。

「やめ」

 殴る。

「いが」

 殴る。

「がっ」

 殴る。

 もう一度、殴る。

 黙ってしまったので、俺は女を以前の不知火そっくりに変える作業に取りかかる。

 不知火に女の両手足を押さえつけてもらい、俺はまず、出来るだけ鋭く尖った破片のあるがらくたを探す。

 叢雲の槍みたいなのがあった。ちょうどいい。

 身体を傷だらけにしよう。

 そして最後に顔に割れ目のような痕を作り、目をえぐる。

「がぁっあっ!」

 女は動けない代わりにびくびくと震えている。

「提督、このまま続けると死にます」

 だったら、修復材の限定使用で生かしておいてくれ。

 量とタイミングは任せるから。

「不知火にお任せください」

 頼む、と言いながら唇を毟りとる。なかなかとれないので、がらくたの破片でちぎりとるしかなかった。

「むゔっゔ」

 ちぎりすぎた。不知火、顔だけ治してくれ。

 ああ、まただ。

 叫ぼうとして震える女を押さえつけて唇をちぎりとるのは難しい。

 不知火、治してくれ。

 よし、次は指だ。

 ナイフか、それっぽい刃物なんてない。

 仕方ないから、またガラクタだ。死んだ艦娘の壊れた艤装の破片でなるべく刃物状になっていそうなものを探す。

 そんな都合のいい物は無いけれど、似たようなものなら何とか。

 ギザギザのついた金属片。

 切ると言うよりも削り取るようになるけれど、仕方ない。

 不知火、しっかり押さえておいてくれよ。

 あと、五月蠅いからなんか噛ませとけ。

「わかりました」

 よし、指、行くぞ。

 おっと、間違えた。切りすぎた。小指は残さないと。

 不知火、小指だけ生やせるか? 頼む。

 

 修復材、随分使ったな。

 え、そうか、限定使用だから全体の量はそんなに減っていないのか。

 良かった、俺は思ったほどこういうことがうまくないみたいだから、たっぷりやりなおさなきゃならない。

 うるさい、叫ぶな。殺すぞ。

「コロ……して」

 あ、ごめん、間違えた、殺さないんだったな。

 さて、これで見た目はうまくいったかな?

「提督、身体にも傷跡が必要です」

 さすが不知火。俺の失敗をちゃんと教えてくれる。

「あああああああっ!!」

 だから叫ぶなって。

 しかも暴れやがる。

 あ、そうか。

 先に手足ぶっちぎって、喉をつぶしてから傷をつけよう。

「提督、お言葉ですが」

 不知火が何故か反対する。

「その金属片で無理矢理四肢を切断すれば、ショックで死亡する可能性があります」

 なるほど。そういうものか。

 さすが不知火は頭がいいな。

 結局、押さえつけたり縛ったりしてから作業を続けることになった。

 殺してしまっては高速修復材にも何の意味も無いからだ。

 一通りの傷をつけ、最後に穴を潰す作業が残る。

 さて、どうやるか。

「提督。焼けた鉄の棒を穴に差し込んでください。それから、何度も棒で中身を掻き出すように回してください」

 そうか、そんなことをされてたのか。

 だったら、あのボケ提督をぶち殺したのは正解だったんだな。

 

「はい」

 嬉しそうな不知火。

「不知火は今は幸せです」

 あ、ありがと。なんだよ、いきなり。

「いえ」

 よく見ると、不知火はちらちらと横目で女を見ている。

 ああ、そういうことか。自慢してんのか。別にいいけれど。

 うん、別にいい。不知火がそれを楽しむのなら、俺は別にいい。

 

 さて、高速修復材を結構な量使ってしまった。俺は、不器用だったらしい。

 それでもまだ残っているものは、有り難く俺のポケットの中だ。

 傷だらけの女を無理やりに立たせて、扉へと押しやる。

「いいか、お前は今から不知火だ」

 女は自分がこれからどうなるか理解したらしい。

「お願い……助けて。何でもするから。もっと傷つけてもいいから」

 さすがは艦娘か。あれだけ無茶苦茶されても、まだ死ぬ方が嫌なのか。

 ボケ共でもここまでされたら黙って殺されるのに。 

 でもな、お前を助けたら俺たちが死ぬ。

 そうだ、トリアージってやつだ。

「お前は不知火だ」

「そんなこと言わない」

「言わなくていいですよ」

 不知火が女の口に指を差し込むと、一気に引き抜いた。

 最後の仕上げに、舌を抜いたのだ。

 俺は扉の隙間から叫ぶ。

「不知火を渡したら俺は見逃してくれるのか?」

【そう言ってるだろ! これ以上は待たないぞ】

 不知火が扉を開け、俺は暴れる女を突き出す。不知火は扉の陰に隠れている。

 伸びてきた手が女を掴むが、俺の方には伸びてこない。

 声が聞こえる。

 傷痕を確かめている声がする。

 傷痕は完璧だ、なにしろ、俺と不知火が何度も確かめたんだ。

 ボケ共が女に群がる。女は必死に逃げようともがいている。

 ボケ共がどんどん集まる。

 まだだ。まだだ。もっともっと、逃げられないくらいに集めてからだ。

 女はまだ逃げようとしている、だからボケ共が集まる。

 最後の最後に、女は役に立ってくれている。

 やっちまえ、不知火。

「連撃、行きます」

 やれ。

 

 不知火の本当の砲撃を、俺は初めて見た。

 人に向けて撃つのは初めてだと不知火は言った。

 だけど、俺が命令した。不知火は断らなかった。いや、嬉しそうだった。

「提督、いえ、貴方の命令でなら、私は人間に砲を向けます」

 ボケ共だもんな。ああ、やっちまえ。逃がすなよ。ここに来た奴はここで殺しちまえ。

 不知火が元に戻ったことは絶対に秘密だからな。

 女に集っていたボケ共はひとたまりもなかった。

 俺たちは死体だらけの外へと出ていった。

 ぐちゃぐちゃの中で女が倒れていた。今度こそ、本当に死んでいる。

 頭がなくなってんだ、流石に死んでるだろ。

 

 俺は、女の死体を見下ろした。

 なあ、男は女を守るとか、穴を守るとか、ありゃあ全部嘘だろ。

 俺は守らなかったしな。

 でもな。

 提督は艦娘と一緒にいるもんだ。

 これだけは本当だよ。 

 

 俺は不知火と、墓場を後にした。

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。