※この作品はR-18です。

メイドさんと暮らす幸せ   作:冬樹リア

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どうも、冬樹リアです。
毎回陵辱モノとは限らんのだよ。ということを証明できればいいですね。
本番おせっせを書く前に、ここで力尽きてしまったのは本当に申し訳なく思っている。だが反省はしない。次を書くからな。


メイドさんと暮らす幸せ

 変化の無い日常に、色の薄い人生に、退屈な自分自身に、飽きていなかったと言えばそれは嘘になる。

 僕は、確かに変化を望んでいた。そして、それを起こせるだけの力も持っていた。

 けれど、できる事をするだけで起こしたそれが、果たして変化と呼べるのか、心のどこかでそんな下らない疑問が引っ掛かって、自分で何かを変える事は遂に無かった。

 そして。

 そんな僕の元に、劇的な変化が訪れたのは、厚い雲が空を覆って鬱蒼とした冬のある日のことだった。

 女の子が空から降ってくるなんて、あり得ない事だと思っていた。いや、思ったり、考えたりすることさえなかった。それくらいには、突拍子もない出来事。

 その瞬間は、夢でも見ているのかと思った。

 体はごく自然に、勝手に動いて、流れ星みたいに落ちてきた女の子を風の魔術で減速させて抱きとめた。驚くくらい軽かった。ふわりとした感覚があった。

 流石にあんな高さからフリーフォールしてくる女の子を助けられる自信は無かったけれど、思ったよりも何とかなったのは運が良かったのだろう。

 もし間違って水の魔術でも使っていたら、多分女の子は見るも無惨な肉の塊になっていたに違いない。

 僕の心臓が、久々に激しい動悸を喚かせてた。きっと緊張のせいだ。冬なのに、熱中症を思わせるような脱力感が僕を襲ってきて、気付けばその場に座り込んでいた。

 そのまま家路の途中に絶えず敷かれた石畳へ手をついてどんよりとしていた筈の空を見上げると、雲間から暖かそうな陽光が帯になって降り注いでいた。綺麗な天使の梯子だった。

 これが、およそ一週間前の事。

 その日から、家に帰るのが以前より随分と楽しみになった。

「おかえりなさい、主様」

 その理由がこれ。柔らかく穏やかで温かみのある、しかし通りの良い春風みたいな声で、帰ってきた僕を迎えてくれる少女。

 空から落ちてきた女の子だ。

「ただいま。わざわざ迎えてくれてありがとう、シーラ」

「当然の事です」

「当たり前を当たり前にできるのは凄い事だよ」

「……ですね」

 ちょっと困ったような、或いは照れたような表情で、シーラは少しだけ斜め上に逸らした。

 シーラには身寄りが無い。その話を聞いた時、僕はここで良ければ一緒に住んでいいと提案した。正直、一人で住むには広すぎると思っていたし、僕に不都合は無かったからだ。

 なのだが、シーラはただ置いてもらうだけだと悪いから、それなら代わりに住み込みのメイドとして働くと逆に僕へ提案してくれた。

 正直なところ、断る理由は無かった。家の管理を誰かに任せられるというだけでも非常に気が楽だったし、だだっ広い屋敷に一人で暮らし続けるのはとても寂しいというのも大きかった。僕はすぐにその提案を受け容れた。

 家に帰ったら誰かが待っていてくれる、なんて温かい生活環境はそれこそ十数年ぶりで、少し不安が無い訳でもなかったけれど、そんな不安もすぐにどこかへ消えていた。

 シーラの仕事は完璧で、広すぎると思っていた屋敷の隅々まで最初の三日で綺麗に掃除され、その次の日には当日着ていたもの以外全て衣類のシワが消え、およそ僕の屋敷にしか無いだろうと思われる道具の使い方もさえ教えた次の日には使いこなした。驚くような手際の良さだった。

 正直、身寄りなど無かろうとどこの家でもこれだけの技術や実力があればやっていけるだろう、といつも思っている。勿論そんな野暮な事は口に出さないが。

「主様、炎石の備えがあと一瓶しかありません」

「炎石って、そんなに使うものだっけ?」

「私は魔術の心得が無いので、明かりを点けるにも炎石を使わないことには……」

「あぁ、そうか。ごめん、配慮が足りなかった。マッチとか無いから、そりゃそうなるか。分かった、補充しておくよ」

「ありがとうございます」

 炎石。それはこの世界において最もメジャーなマジックアイテムの一つだ。

 マジックアイテムというのは魔術師でない人間が魔術的な力を行使するための道具だ。魔術師が何らかの媒体に簡単な魔術を刻むことで作成されるものと、体系化する前の強力な魔術が込められたものの二種類に分けられ、生活の中で用いられるのは全てが前者になる。後者は限りなく希少で、物によってはそれ一つを売り払うだけで一生遊んで暮らせるような大金になるようなものさえある。

 炎石は炎の魔術が刻まれた手のひらサイズの石で、透明で赤い外見が特徴。使うと透明度と赤色が失われ、魔術が刻まれる前の状態に戻る。余り大きい炎が出るわけでは無いが、薪を燃やす火種としては申し分ないくらいの火力になる。

 炎も含めて四大元素と、他にもいくらか生活の利便性を高めるものが存在し、総称して魔石と呼ぶ。一番強力な魔術が入っているのは水か土だろう。土の魔石は主に農業用に使われる為、大規模なものが必要になるという理由。水は純粋に水魔術を使うのに必要な魔力量が多いからだ。逆に炎は全種類の中でも最も小さい。火を点けるのに必要なのは小さな火種のみであるのが理由だ。

 僕はこの国でおそらく一番名の通った魔術師だ。当然、どの魔石でも一日に数百個だって作成するくらいなんてことは無いから、遠慮なく使って良いとシーラには言っていたから、減っているというのはそういう事だろう。

「他には減ってない?」

「風は掃除の時に数個使いました。あと水は一日に一つずつ使ってます」

「分かった。そのペースを元に足しておくから、また多く使う事があったら教えて」

「分かりました。お願いします」

「そうそう、シーラが来てから色々忙しかったけど、明日から一週間くらいゆっくり休みで家に居るから、そのつもりで居てね」

 言いながら、僕はシーラを見つめる。

 落ちてきた日から毎日のように、視界に入る度に似たような事を考えているけれど、シーラの容姿の整い様は少し怖くなる程だ。具体的には、同じ人間とは思えないくらいに肌がきめ細やかで、髪の一本一本が業物の刀剣を思わせる輝きを放ち、瞳は宝石をあしらわれているかと見紛うような透明感。

 あまり長く対面していると、思わず魅入ってしまう。頭のネジが外れた人形師が、己の理想的美術を精巧に手掛けたらこういう芸術品が出来上がるのかもしれない、なんて突飛な発想に行き着いてしまうくらいに、シーラの容貌は整い過ぎている。

 そんな風に、想像上の人形師と同じくらいネジの外れた思考を巡らせつつ視姦する僕に、シーラが不思議そうな視線を返して、その表情が語っていた疑問を言葉にする。

「お休みの事は頭に入れておきます。それで、あの、どこか汚れか乱れがありますか?」

「いや、そんな事は無い。綺麗だよ」

「では何故そのように注意深く……?」

 訝しむように、重ねて問いかけられた。

 別段、隠す理由もない僕は正直に答える。

「あんまりにも綺麗だから、かな」

「そう、ですか……?その、そういうことでしたら、お好きなだけ……」

 頬を紅潮させつつそう言って、そのまま凍り付いたみたいに動かなくなるシーラ。

 なんともいじらしく愛おしいばかりなのだが、僕は別段シーラを辱めるようなつもりは余り無い。少なくとも、今この場ではそうだ。

 勿論僕も男である以上、これ程の美少女を目の前にしておいてその手の欲求が一切湧かないなんてことは決して無い。

 特に、甲斐甲斐しく尽くしてくれるシーラには強く心惹かれるところでもあるし、その肢体の隅々までを悉く堪能してみたいだとか、身も心も僕無しでは生きていけないようにしてやりたいだとか、そういう若干行き過ぎた気がしないでもない劣情に理性を溶かされそうになった事もある。

 ただ、いくら可愛いからと言っても、僕はシーラの嫌がる事をしたい訳ではないし、タイミングくらいは選びたいとも思う。

 だから僕は慎重に言葉を選んで伝える。

「今はそういう時間じゃないからさ、もしシーラが良かったら床に就くころにね。食事もまだなんだから。……ごめん、僕があんまり見つめたのが良くなかった」

 出来る限り柔らかい口調と声のトーンを意識して優しくそう告げると、シーラは氷の束縛から解放されて、少しずつ落ち着いた雰囲気を取り戻していく。それでも、言葉で返ってくるまでには少し間があった。

「……はい。かしこまりました」

「ん、ちょっと硬いかな?」

「そ、そうでした。気を付けます」

「うん。色々気を遣わせてごめんね。ありがとう」

「いえ、主様のご希望に沿うのもメイドの務めですから。それに、私にとって苦ということでもありません。どちらかと言えば、主様のご期待に応えられる事に喜びを感じています」

 シーラが優しく微笑んでくれる。落ちてきたのを助けたとは言え、僕の身勝手で振り回しているのに、嫌な顔ひとつ見せずに従ってくれる。それも、今回だけの事ではない。

 因みに今回の部分を少し掘り下げると、僕はシーラにあまり事務的で硬い口調でなく、この家で最も近しい存在らしい話し方をしてほしいとお願いしたのだ。

 無機物的に淡々と指示命令を全うする事を悪いとは言わない。もっと言えばそういう受け答えだったり仕事の仕方だったりを求める人間が一定数存在するという事も分かっているつもりだ。

 けれど僕は、心のどこかにいつも抱え込んでいた寂しさのような感覚からだろう、シーラに人間的な温かみを望んだのだ。それは殆ど無意識から出た我儘だった。

 それを聞いたシーラはやや怪訝そうに、或いは心配するように僕を見つめていたが、僕がシーラにする接し方を見て何か感じ取ったのか、すぐ僕の願いを聞き入れてくれた。

 僕はシーラに着いて来るよう促し、自室へ向かって歩きながらふと思った事を口にする。

「シーラは優しいね」

「主様には遠く及びません。主様は、空から落ちてきた挙句身の上も明かさないような怪しい者を傍に置いてくださっているのですから」

「話したくない事情くらい誰にだってある。勿論、僕にもあるよ。それに、シーラが自分の事を話そうとした時、凄く不安そうにしてたから。そんなに重大な事なら、話しても大丈夫って思えるくらいの信頼を勝ち取るまでは聞けないよ。僕だって、シーラに裏切られたとは思われたくないし」

「……もしお話ししても主様はきっと、明日街でお祭りがあるらしい、くらいの軽さで受け止めて下さいます。それは分かっているつもりなのです。けど……」

「どうしても、不安になるんだね?」

「信じていないという事ではないのです!決して!神に誓って!」

 僕の部屋の目の前でシーラが立ち止まって、声を荒げる。今まで無かった事だ。単純に機会が無かったというのもあるのだろうが。

 その表情は、身の上を明かそうとした時の不安げなそれとよく似ていた。

 何がそれほど彼女を脅しつけるのだろうか。

「……分かってるよ。そんなに大声を出さなくたって、分かる。シーラが本当に僕の事を慕ってくれているのをよく知ってる。だから大丈夫。慌てなくていい、急がなくていいから」

「ここに居て、良いのですか……」

「勿論。というか逆に、居なくなるなんて言ったら怒る。これでも、国一番の魔術師として知られてるんだよ?地の果てでも海を超えても、雲の上だって追い回して捕まえて連れ帰るからね」

「そ、そこまでするのですか……?でも、主様なら……それくらい出来ても不思議は無いですね」

「うん。一回やった事あるよ。雲の上の、もっと上まで風の魔術で飛んで、寒くなったから帰ってきた。そうそう、雲の上って凄く寒いんだよ。冬将軍と戦って勝てるかもしれないくらい寒かったんだ」

「ふふっ……主様らしいですね」

 くだらない話にシーラが微笑む。その事に僕は安堵を覚えた。

 部屋の扉を開けてシーラも中へ招きつつ、彼女の笑顔で弾みのついた会話を続ける。

「そんな変人みたいに思われてたのか、僕は」

「変というより、奔放なお方だと思ってます。……私みたいな露骨に怪しいのを身近に置いていながら、それでもご自分のペースを崩さずに過ごして……その奔放さが主様の優しさを裏付けているのでしょうね」

「そんな大層なものではないけどね」

「私を助けて下さったのが主様で本当に良かったです」

「僕より良い人は沢山居るよ」

「私にとっては主様以外居ません。もし他の人間だったらと思うと、少しゾッとします。……あっ」

「え?」

 何かおかしな事を言っただろうか。

 特別変わった事は言っていない筈だ。

 いや、もしかすると、そういう事なのだろうか。

 今の発言の中に紛れ込んだ失言に、シーラが気付いて反応しなければ、僕も絶対に気付くことは無かった。それくらいには自然に出てきた言葉だった。

 気付いてしまった。きっとシーラも気付かせてしまったと思っているだろう。

 ここで僕が何か少しでも発言すれば、僕が何かに気付いた事を気付かれる。

 けれど、何も言わずに居ればそれも同じことだ。

 しかし、ああ、なるほど。そういう事だったのか。それなら不安にもなるだろうし、おいそれと口を割れないのも理解できる。確かにそう考えれば辻褄は合う。

 そしてもしシーラがここから逃げるつもりなら、もしかしたら逃げ切られてしまうかもしれない。

 早鐘を打つ心の臓を、その音を無視して、僕は口を開く。

「お祭り、か。確かに、衝撃としてはそれくらいかも」

「……気付いて、しまったのですね」

「具体的にはサッパリだけど、一応。国一番の魔術師は、頭の回転もそれなりに早いんだよ。……シーラ、もしこの推測が当たっていても、僕はやっぱりシーラと一緒に居たいからね」

「……主様なら、そう言って下さると思っていました」

 シーラは不安そうに俯きながら、恐怖に身を震わせながら、しかし逃げ出さずに僕の言葉を待ってくれる。

 僕は、余計な不安を与えないように、努めていつも通りに自分の推測を伝える。

「シーラは、人間ではないんだね?」

 その推測に至った理由、その引き金はシーラの言葉の中にあった、他の人間というフレーズ。そしてそれを失言だと僕に気取らせてしまったことだ。

 理由そのものは、それより遥かに前にある。降ってきた彼女を抱き留めた時に感じた、異様な軽さと、空から降ってきたという事自体だ。

 きっとそれ自体は、シーラも落ちてきたところを助けられているのだから、そこが理由だと分かっているのだろう。

 そして、僕の推測はどうやら当たっていたらしく、観念したという雰囲気でシーラは大きく息を吐いて、瞼を伏せた。そしてゆっくりと目を開き、息を吸って答える。

「…………はい、その通りです……。私は、人間ではありません。天使、と言っても、元ですけど、人間からはそう呼ばれる存在です。もう天使としての力は残っていませんけどね」

「本で読んだことがあるよ。何らかの理由で天界を追放された天使を堕天使と言い、そういった存在は天使としての力である魔法と、天界まで昇る為の翼、不可視の権能と天界への道標としての役割を持つ光輪を奪われ、地上へ落とされる」

「それは、真実に基づいて記されたものですね。そうです。そして翼の無い天使は当然飛ぶことなどできませんから、殆ど死刑みたいなものです。稀に人間の手で落ちてきたところを助けられることもあって、そういうところから伝承という形で逸話が広がるとか」

「その極々稀なケースに、偶然シーラが当たったんだね」

「はい。正直、信じられませんでした。セフィロトの禁忌に触れた私が助かるだなんて、思ってもいませんでした」

「セフィロト……生命の樹。その禁忌っていうのは?」

 訊けば訊くほどシーラは自分にまつわる話を、暗い表情ではあるもののつらつらと、抵抗無く言葉に並べていく。彼女がこれ程まで饒舌になるのは、やはり押し込まれていた心の闇がそれだけ大きかったからなのだろう。

 溜め込んだ不安と恐怖は大きく、抑制の反動も比例して大きいのだ。不安の種が、吐き出され続ける。

「エデンの園の中央にある生命の樹セフィロトには、それこそ神の息吹に匹敵するような魔力が宿っています。しかも、それが摂取可能な形で。そしてそれを得ようとする事がセフィロトの禁忌です」

「あぁ……まあ、反逆罪みたいなものかな」

「簡単に言えばそうですね。その禁忌に触れた為に、私は堕とされました。勿論もっと小さい罰則になるものもありますけど、セフィロトの禁忌は上から数えて片手で足りるくらいには重大な禁忌になっているので、事実上の死刑にされてしまいました」

「重大な禁忌に触れても直接死刑にすることはせずに、地上へ?」

「神と天使は、基本的に生み出し与える側の存在だから、という理由です。だから地上に住む人間に天罰が下ることもまずありませんし、あっても直接的にではなく、かなり遠回しに思えるやり方です。天使が相手でもそれは同じで、堕とすなんていうのは相当の事です」

「なんでそんな、相当の事を……?」

「セフィロトを狙った理由自体はとても明確で、不死化です。目的はそれそのものより、もっと沢山の人を助けたいというものでしたけど、物事の善悪を決める筈の心の内を確かめる方法は、神や天使にもありません。行動や結果から、その善悪を判断するしかないのは人間と何も変わりません。神とか言ってますけど、思ってるよりそんなに大したものじゃありませんよ。それでも私は愚鈍なりに、沢山の人々を助けたかった、というだけです」

「急に倫理学的な指摘だね。それにしても、シーラは本当に……」

「ただただ、手段を選ぶことをやめた卑怯者です」

「それでも、人間を助けようとしたんだよね?」

「はい。でも、やり方を間違えました」

「それは、人間だってそうだ。その本質が人間と変わらないなら、間違う事があってもいいんじゃないかな。それでなくてもシーラの優しさは変わらないし」

「……それは、盲点でした」

「さて。シーラ、そろそろ落ち着いてきた?」

「あっ……」

「もう、大丈夫かな?」

「はい……。あの、主様……?」

「いいよ。何も言わなくて。これからもずっと、言いたくない事は言わなくて良いし、言いたい事はどんどん言って良いから。」

「でしたら、その……ありがとう、ございます……っ!」

 言いながら、シーラが喜びに近い感情を全身で表現するように、僕へ跳びついてくる。

 出会いの日の、空から降ってきた時と似たような感覚で、僕は再び彼女を受け留めた。

「本当に、軽いよね。それに不思議と、体温以外の温かみがある」

「それは私が一応天使だからです。私の体はかなりの部分が魔法、魔力そのものでできていますから軽いのは当たり前です。それと、温かいなんて感想が出て来るのは、主様だけですよ?」

「軽い理由は分かったけど、触れ合ったときの感覚が他の人だと違う?」

「そうです。私は魔法で、つまり力の奔流そのものですから、魔力の受け皿がとても強固で大きな、それこそ主様くらいの魔術師でないと、ただ痛いとか、痺れる感じがしたり、酷い時は気絶してしまうんです」

「なるほど、そういうことね」

 小柄なのに包み込んでくるみたいに温かくて、吸い込まれそうになるくらい柔らかいシーラを抱き締めたまま、僕は背中からベッドへ体を投げる。

 本当なら、人一人抱えたままそんな事できないんだろうけど、シーラは全然僕の体に負担をかけないで、しかし確かな命の重さを感じさせてくれた。

 シーラは腕の中から僕を覗き込むように上目遣いで見つめる。

「主様。私に直接触れても何ともなくて、こんなにも優しくて、こんな私を真正面から受け留めて、受け容れてくれる主様のところへ来られて本当に……」

「あんまり褒められると、ちょっとくすぐったい」

「だって、私の中からどんどん気持ちが溢れてくるんです……!私が、言う事聞いてくれないんですもの……。メイドとしてお仕えすると決めたのに、主様の事、大好きになってしまったんです!」

「僕も、人間なのに天使のシーラのこと大好きだよ」

「はぅ……あ、あのあのっ!主様、種族の違う二人が恋をするって、おかしいでしょうか?」

「おかしいかもしれないけど、おかしくてもいいんじゃないかな」

「子作りができないかもしれませんよ?」

「シーラが居てくれればいいよ」

「う……もう少し、迷ったりとか……」

「しない。未来永劫、一緒に居させてほしい」

「……はいっ!喜んで、です!」

 満開のみたいな笑顔が、僕の視界に飛び込んできた。

 子どもみたいなやり取りだったけれど、気恥ずかしさは欠片も無かった。

 シーラと一緒に生きていける。その喜びが、嬉し涙が出てきそうなくらいに心の内を満たしきっていて、他の気持ちを考察できる程、僕は喜び慣れていなかったから。

 喜びに高鳴る心音が、シーラにも聞こえていたかもしれないけれど、脈動は収まるところを知らないのかどんどん激しくなっていった。

 その喜びに身を任せて僕達は、初めて唇を交わした。

 

――――――――――。

 

 あの日、シーラが来てからは毎日が満ち満ちていると感じる。特に、先日シーラの秘密を共有して、想いを伝えあった日からは。

 しかし全く満ち足りる事はなくて、歯止めの利かない欲求がシーラに向けられていく。それをシーラが阻むことも無く満たしてくれて、シーラも同じように僕を求めてくれるのだから堪らない。深みに嵌まっていくのは必定だ。

 底無しの沼みたいに、僕とシーラの世界はどんどん深まっていく。

 そんな何とも言えない感慨に浸りながら、入浴後のゆったりした時間を自分の部屋で過ごしていると、扉の向こうから愛しい人の声と、その手が扉をノックする音が響く。

「主様?」

「入っていいよ」

「失礼します」

 丁寧な口調の少し弾んだ声と共に、部屋の扉が開かれる。

 余談だが、僕とシーラの関係が変わった、という事はない。シーラ本人が今までと同じく、僕のメイドでいる事を望んだからだ。

 開かれた扉から入ってきたのは勿論シーラ。しかし何やら只ならぬ、というかいつもと明らかに違う様子だ。

「今日はどうしたの?」

「主様の気分が乗らなければ構わないのですが……その、夜伽……」

「あぁ……」

 様子がおかしかった理由は思いの外単純なものだった。

「それは、シーラがしたいの?それとも、僕に気を遣ったりしてる?」

「私がしたい、と言いますか……主様にされたい、です」

「どっちが攻めるかみたいな事じゃないんだけど、まあ気を遣ってる訳じゃないなら僕が断る理由は無いね」

「主様は、私をどうしたいですか……?貧相な体ですけど、頑張りますから……」

「小さいよりは大きい方が良いという風潮もあるけど、マジョリティが必ずしも正しいとは限らないからね。僕は少数派の側に生じる需要っていうのも軽視されるべきじゃないと思うよ」

「主様は、小さくても愛せるっていう事ですか?」

「……簡単に言えばそうなるかな。それだと見境が無いみたいだから濁したのに……まあいいけど」

「すいません。でも、安心しました。私の体に興味が無いから犯されないのかと思いました」

「言葉のチョイスが酷いね。そんな無理矢理に奪われたい?マゾ?」

「いえそんな……でも、縛られて無理矢理とか、言葉責めとか、普段の優しい主様からはちょっと想像できないこともされるのかな、って考えるとドキドキします……」

「……天使にも色々居るんだね」

「私、そんなに変じゃないですよ?基本的には人間を助ける、極端な言い方をすれば喜ばせるのが至上命題みたいなところがありますから、人間が持つ底の知れない欲望を、自分の想像の限界まで考慮する個体は沢山居ます」

「あんまり知りたくなかったけど、天界って面白そうだね」

「そうですね。天界とかいう名前で呼ばれてますけど、この世の地獄みたいなところですから、主様ならきっと図書館と同じくらい楽しいと思います」

「なるほど興味深いね。それで、どうしようかな」

 雰囲気が普段通りのものに戻ってくるのを肌に感じた僕は、軌道修正したい意図を若干含ませつつ、シーラの眺める。

 今のシーラは、部屋に入ってきた時こそやや浮ついた様子だったが、それ以外は本当にいつもと変わらず、夜伽に来たという割にはキッチリし過ぎているくらいにはキッチリしている。

 まあ僕の趣味によって、一般的でありふれた感じのものを少し可愛らしい感じに仕立ててもらった、給仕服というには若干派手なものだが。

 とはいえ、これくらいは道楽としては珍しくもないものだ。使用人に着せる服くらいは、ある程度形式に沿っていれば主人の好みで変えられる事の方が多いくらいだ。身近だからこそ、見目華やかしくしておきたいという理由だろう。僕のパターンより極端なのを何度も観た覚えがある。

 シーラが身に纏っているのはシンプルな黒いロング丈のワンピースに、同じく丈が長い純白のエプロンドレス。エプロンの肩紐と裾にはゆったりとしたフリル、襟元を飾るスカーフのようなネクタイには金色の刺繍をあしらわれた、適度に貞淑さを保ちつつも可憐なデザイン。

 華やかさよりも全体のバランスを意識し、着用者の、つまりシーラの魅力を引き出すように仕上がっている。

 服飾関係には明るくない僕だが、知り合いにその手の仕事をする人間は何人か知っていて、特に評判と腕の良い職人魂溢れる者を屋敷に呼んで作ってもらった。驚くほど仕事が早かったし、僕がした注文を守るだけでなく、なにやら色々と細部にまで手の込んだ意匠を凝らしてくれた。

 そんな最高の仕事のお陰もあって、シーラの給仕服姿はなんとも言葉に表しきれない麗らかさを孕んでいる。

「……なんというか、その服を脱がさないとできない事って興が乗らないんだよね」

「そういえば主様、私のためにあんな腕の良い職人さんまで呼んで作ってもらってましたからね」

「そうそう。折角こんな絶世の美少女に仕えてもらうんだから!と思って、つい」

「あの、嬉しいですけどあんまり褒められると照れてしまいます……」

 そう言って、顔を赤らめながら、両手で吊り上がりそうになっている口元を覆うシーラ。

 良い事を、思いついた。

「ねえ、シーラ?」

「は、はいっ」

「脱がなくてもできる事思いついた。シーラが気持ち良い事じゃないけど……」

「やはり緊縛やそういう類のものですかっ!?」

「なんで目を輝かせるかな。違う、そうじゃない。いや、でも……近いかも?その、口でしてほしいんだけど」

「口、ですか?」

「やっぱり嫌だった?」

「いえ、嫌ではないです。と言いますか、口で気持ちよくして差し上げられるならしたいですけど、その、やり方が分からなくて……。主様が教えてくだされば、頑張りますっ」

「……分かった。じゃあ教えるけど、最初はゆっくりでいいからね。慌てずに、丁寧に覚えてくれれば」

「は、はい!」

「とりあえず、そこに膝立ちしてくれる?多分、高さ的に丁度良いくらいになると思うから」

「はい……ん、と……」

 とは言ったものの僕も経験がある訳ではなくて、本に記されているそういったシーンに描かれている知識でしか無いのだが。

 ただ、だからこそ興味はある。

 僕は既に血の集まって平時より数段体積の膨れ上がった欲望の塊を、跪いたシーラの目前に曝す。

「これが、主様の……大きい……」

「まず、先端にキスで、挨拶しようか」

「キスとは、唇と唇で交わすだけではないのですね。では……」

 柔らかな唇が、僕のモノの先端を捉える。

 背筋を電流みたいな、或いは寒気にも近い、ゾクリとした痺れる快感が駆け抜けた。

 心のどこかで予想していたそれより、随分と鋭い感覚だった。もっと、シーラの唇くらい柔らかいものだと思っていたけれど、そうでもなかった。

「主様、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。なんか、予想したより気持ちよくてびっくりしたけど。じゃあ、続けて舌先で、ここからさっきキスした先端までゆっくりなぞるように」

 ここ、と言って僕が指先で示したのは、陰茎の下腹部、付け根の辺り。山で言えば裾野に当たる部分。

 シーラは恥ずかしそうにしながらも迷いなく顔を近付けて、僕が指示した通りに舌先をあてがう。舌先のぬらりと湿った生暖かさと、鼻息がかかってくすぐったい刺激が僕を襲った。

 そして、シーラの舌先はその口内から滴る唾液を肉棒に残しつつ、軌条の上を転がる車輪みたいに滑らかな動きで、ゆっくりと重力に逆らう方へ歩みを進める。

 抱き締めた時に似た浮き上がるような感覚と、舌先が与えてくるもどかしい刺激が、絶妙なペースで気分を昂らせてくれる。

「ぅ……」

 僕が小さく声を漏らすと、シーラは轍を辿るのを止めないまま、器用に目元だけで微笑む。

 気持ち良くできていると分かって嬉しいのか、はたまた気持ちよくなってくれていることが分かって嬉しいのか、どちらにしても、シーラの微笑みにはどこかそういう雰囲気が見えた。

 やがて終点たる頂上部まで舌先が登りきると、そこでシーラは動きを止める。舌先を噴火口に押し当てたまま、回りのままならない舌でなんとか言葉を伝えようとしてくる。

「あういはあお、あふい……ひおひいいえふは?」

 母音とイントネーションのお陰で、辛うじてそれが「主様の、熱い……気持ちいいですか?」と言おうとして出てきた音なのだと理解できる。

「気持ちいいよ……凄く、良い……」

「おはっはえふ……」

 良かったです。

 確かに良いけれど、そのまま次の指示を待たれるとは流石に考えてもみなかった。

 しかもその間、シーラの口内から溢れて来る唾液が絶えずその舌を伝って、熱く張り詰めた男根へ滴り落ちて来るのだから堪らない。狙ってやっているのだろうか。

 唾液はシーラの体温を持っているはずなのにひんやりとしていて、血の集まった肉棒からゆるやかに熱を奪っていく。それと同時に、快感と欲望をどこか深い奥の方から引き出されてくるのを感じる。

「シーラ……その、キノコの傘みたいになってるところを、舐め回して……」

「ふぁい……」

 シーラの舌が、剥き出た表面をくるりくるりと、若干先程よりぎこちなさを感じさせる動きで、溢れて来る唾液を塗りたくるみたいに舐る。

「ん……もうちょっと下の、窪んでるところも……」

 僕がそう教えると、シーラはパッとキノコの傘から口を離す。

 表面に残されたシーラの唾液が、その舌先との間で糸を引いた。

 それも次第に床へ落ちて、完全にシーラが離れると、欲望そのものが意思でも持っているみたいに、僕へ寂しさを訴えかけてきた。

「その、そうしたかったんですけど、ちょっと届かなくて……咥え込んで良いなら、届くと思うんですけど」

「そっか。それなら、うん。咥えて、口の中に全部含んだままさっき言ったように……歯は立てないようにね」

「分かりました。いきますね……」

「うぁ……」

 温かく湿ったシーラの口が、舌が、僕の欲望を包んでくれる。

 躊躇う素振りなど、欠片も無かった。いっそ大好物の食べ物を口へ運ぶように嬉々とした表情で勢いよく、しかし慈しむように、愛おしむように丁寧さを忘れず、咥えた。

 全長の半分程までを口に含んだ状態。それでももう少しで喉の奥につっかえてしまいそうなくらい、シーラの口内は狭かった。

 そのまま、シーラが僕に言われた通りに熱く滾った欲望へと舌を這わせる。弄ぶように刺激を与え始めた。

 絶妙な圧迫感と、粘っこい湿り気、舌の動きが生み出す刺激が、相乗効果的に快感を強く引き出してくる。

 気を抜けば、すぐに果ててしまいそうなくらいだ。

 少しの間、そんな刺激が激しく脳髄を溶かしにかかっていた。

 気が遠くなるみたいな快感に、射精感がふつふつと湧き上がってくるのを感じて、それを迸らせまいと力を籠める。

 そうなれば、当然先走りが滴ってしまうだろう。ほんの少しだけ、シーラの動きが止まったのは、その先走りに困惑したからだ。

 しかしそんな束の間でも動きを止めてしまった事にハッとした表情で、シーラが再び動き始める。

「うっ……」

 僕がそんな情けの無い声と共に陰茎を跳ねさせたのは、他でもない、シーラの動きが思いもしないものだったからだ。

 慌てた様子のシーラが、なんと先走りを吐き出し始めたモノごと、その粘液を吸い込んだのだ。それも、ただ吸い込むだけでなく、器用に舌の動きを再開しつつのものだったというのも不意打ちとしては余りに強烈だった。

「し、シーラ、待って……」

「ん、フゥ……」

 停止命令もスパッと受け容れて、ゆっくりと鼻から息を吐き出すシーラ。

 少しくすぐったい。

「吸い込むのも凄く気持ちいいから、それも続けてほしいんだけど……それだけじゃなくてもっと奥まで、飲み込むくらい咥え込んだり、また今くらいのところまで戻ったりしながら、唇を使って全体を刺激してほしいんだ」

 シーラがその指示を受けて、口に含んでいたものを外気に曝す。

 予想外の快感を与えてきた少女は、その口で一度だけ大きく深呼吸をしてから返す。

「わかりました。そろそろ、出ちゃいそうなんですよね?頑張って喉の奥まで使いたいんですけど、そうすると動けないので、体勢は作りますから、主様が私の口の中で動いてくれませんか?」

「え?あ、あぁ、うん。分かった」

「お願いします。舌は動かしますし、吸うのもできる範囲でしますから……最後まで気持ちよくなってくださいね?」

「……うん。ありがとう」

 僕がそう返すと、シーラは再び熱されたインゴットみたいなそれを口に含む。そしてそのまま僕の腰の側面を両手で支えるようにつかむと、自らの腰を直立姿勢の時と同じくらいまで上げた。

 勿論、口は僕の一物を捉えて離さないままで、相当無理な体勢を取っているような気がする。真上を見上げたような状態で咥え込み、美しい曲線を描く腰から、上半身に対してほぼ直角に両脚が伸びているのだ。

「うぁあ……」

 かなり負担を強いる体勢な気がして、本当にこのまま動いて良いのか確認しようとした途端、有無を言わせずシーラが激しく舌を動かし、吸い込みを始めた。

 流石に余裕が無い僕は、もうあまり深く考えるのをやめて、浅慮でもってシーラの口内を貪るように好き勝手動き回ることにした。

 会話中の少しだけでも休んで収まっていた射精感が、再びこみ上げて来る。

 先走りと唾液の混ざりあった熱い粘液が、僕のモノを包み込むように刺激したと思った端からシーラに吸い上げられていく。

 かなりの勢いで乱暴に、シーラの口内を犯し尽くすように腰を動かしているから、きっとシーラは苦しい筈。けれどシーラは僕に吸い付くのは勿論やめなければ、舌の動きは少しだけ押し返すようなものも混ざりつつあるがどんどん激しさを増していくばかりだし、唇も固く締め付けたままで、苦しいから息を吸ったり吐いたりなんてのはほんの一瞬鼻息がかかるのを感じられるくらいしかしない。

 自分が苦しかったり辛かったりするのは一切合切を無視して、僕の快感を導く為だけに、僕を絶頂へ導く為だけに、その全身全霊を行使していた。

 苦しいと言ったら僕が動きを止めるのを分かっていてそれでも尚、辛いと伝えれば僕が動きを止めるのを分かっているからこそ必死に、それを我慢してくれている。

 僕はそんなシーラの為にも、最高に気持ちよく果てることしか選べなかったし、他の選択肢なんて浮かんでくることは無かった。

 やがて、僕の体の芯、その先端から、熱く滾った白い精が解き放たれる。シーラはグッと喉の奥までその先端を食い込ませるように、押し込むくらいに飲み込んで、精の迸りを体の真ん中にできるだけ近い方で受け止める。

 絶頂。

 精液は自分でも驚くくらい、シーラの体に己が欲望を刻み込むが如く吐き出され続けて、果てしない快感が僕の全身を駆け巡るように満たしていく。

 シーラはその小さな体で僕の精液を受け止め続けて、最初から最後までその一滴たりとも溢すことの無いまま、全てを受け容れてくれた。

 射精が収まると、シーラは陰茎の中に残留している精液まで吸い尽くして、本当に最後の最後まで僕の快感を引き出しきると、ゆっくりとその口と唇を、まだ張り詰めっぱなしの僕のモノから離す。今度は、糸を引くものなど何も残っていなかった。

 二人で同時に、脱力して膝から床へ倒れ込む。

「気持ち良かった、ですよね……?」

「あぁ……最高だ……」

 僕は精一杯頑張ってくれたシーラを労うように、抱き寄せる。

「もう、動けません……」

「このまま寝たら、風邪ひいちゃうよ……」

「動けるようになったら……ちゃんとベッドで寝ましょう……」

「その前に、もう一回お風呂かな……」

「そう、ですね……」

「一緒にお風呂に入って、一緒に寝よう……」

「はいっ……」




お疲れ様でした。気持ち良かったとか、この二人の関係が好きとか、この話の続きが見たいって方は、思い出したようにふっと投稿されるのをお待ちください。
お目通し頂いてありがとうございます。
冬樹リアでした。
ではまた。
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