「確か、ここのはずよね」
真夜中の十二時。ファノン・エクレールは一人でとある場所に呼び出され、待っていた…。
実はアネットは、エリオット・アルテミスを攫っていった時、手紙を残していった。密かに。ファノンだけにわかる場所に。
その手紙にはこうあっさりと書いてあった。
”深夜十二時。フェニキア王国の森、沈黙の森の入り口でお待ちしております。必ずお一人で来てください”
彼女は非常に厳しい顔で、その手紙を書いた本人であるアネットを待っていた。
そして、最悪の事態を想像してしまう。心が恐怖で塗りたくられる。今ではこの世で一番愛しい男性となってくれた人、エリオットのことを想って。
(スカーレットに攫われて、抱かれないはずがない…!エリオット…!)
そこに冷徹な声の響きをしたあの女性の声が聴こえた。こう皮肉を込めて。
「ご自分がしたことを他の女にされるのは耐え難いですか?」
アネットが沈黙の森の入り口の宵闇の中の更に闇の中にその姿を現した。真っ黒な女性用シャツに女性用のズボン姿で、木に寄りかかり腕を組んでいた。
「アネット…!!」
「エリオット様はご無事です。スカーレット様のお心次第ではありますが」
冷酷な笑みを浮かべて、彼女は話した。今、”女神の皇子”が置かれている状況を。冷徹なまでに。
そんな態度をとる彼女に、ファノンは思わず、感情を剥きだしにして怒りを露わにした。アネットがした所業について。
「…何故、私を裏切ったの…!!」
「信じてくださっていたのですか?私を?」
そこでアネットは自らの姉であるファノンのことを分析した。見事な位に正確な心理分析だ。
「そう、昔からいつだってファノンは、そうやって、いつの間にか他人を自分の懐に入れている。厳しいフリをして、とてもあたたかい。ファノンの明るい太陽みたいな笑顔が私は大好きだった。それを永遠に失わせてしまったのは私」
アネットの青い瞳がそこで憂いを帯びた哀切な瞳の輝きを宿している。彼女は話を続ける。
「いつも、死んで償おうと思っていたのに……できなかった…」
彼女は言うことを伝えたのでそのまま森から去ろうとしている。だが、ファノンは情熱的に愛する人を助けようと、敵となってしまったアネットに頼みをする。
「エリオットを返して…!」
ファノンは緑色の瞳を悲しい輝きにして、そして自分が変わることが出来たのが彼のおかげだから、こう気持ちを明かした。
「エリオットと出逢って、私は鬼から人へ…一人の女性として戻ることが出来たの…!私をもう一度、鬼なんかにさせないで…!!お願い…!」
ファノンの右目から涙の雫が流れる。もう、あんな”鬼”には戻りたくない。あんな”悪女”に戻りたくない…!だけど…アネットの返答は無残な言葉だった。
「ごめんね。ファノン。私も欲しいの。あの人を…エリオットを」
「アネット」
「…殺しに来て?待っているわ…」
「アネット…!!」
アネットは沈黙の森の入り口から、まるで一陣の風のような素早さで宵闇へと消えていってしまった。月も、星も、輝いていない漆黒の闇夜の中、ファノンはただアネットが消えた宵闇を見つめることしか出来なかった…。
「アネット…」
その深夜一時。エリオット・アルテミスは薄い毛布をかけて、とある部屋の片隅で、必死に恐怖と戦っていた。
そして…己の生まれに恨みを抱き始めている。紫水晶の瞳は悲しい輝きと無力感で輝いており、顔をうつむいてただただこれからセックスを強要される恐怖と戦っている。
(どうしたらいいんだ。ここにいたら、また犯される。俺は何て無力な男なのだろうか…?こんな時自らを助けることも出来ない…。俺が”女神の皇子”だからって、何故こんな目に遭わなければならないのか?)
そこに冷酷な女性の声が聴こえた。そして、彼に食事を摂るように促す。まるで、これから自分のビジネスの大事な”種”だからと言いたげな言葉だ。
「食べないと身体に障るわ。これから、あなたには子を作ってもらわなければならないのに。そして、その遺伝子を捧げてもらわなければならないわ」
やはり、そうだった。緋色のドレスだからわかる。スカーレットだ。傲慢そうに腕を組み彼を見下す。
そして、ものはついでみたいに、もう一人の客人の話をする。
「スカーレットか。嫌だね。そんな俺の遺伝子をビジネスに利用するような女とセックスするなんて」
「私が相手じゃ嫌なら、彼女でもいいのよ?彼女…アネットでも?」
「アネット…!?」
「あなたを宮殿から連れてきたのはアネットなの」
「どうして…?」
「元々、アネットはファノンの奴隷ではないの。私と同じ…エクレールの女」
「君を信じていたのに…」
エリオット・アルテミスは思わず本音を漏らしてしまった。まるで期待を裏切られた気分だ。そんな彼をアネットは冷徹な微笑を浮かべ嘲笑うように言葉をかけた。
「あの方と同じことをおっしゃる。でもそれは、本当の私を知りたくなかっただけではありませんか?エリオット様は気付いていらっしゃったはずです。私の気持ちを。知りたくはなかったから気付いていないフリをした…」
そして、二人の美女は彼に迫る。お互いに…彼を抱こうと…近づいてくる。
アネットの冷酷な答えを皮切りに、そして始まってしまった。彼にとっては恐怖以外の何物でもない、快楽の儀式が。
「もう、そんな騙し合いは終わりにしたかっただけですよ。そういうのを全部…」
「やめろ!!」
スカーレットとアネットが、エリオット・アルテミスの耳にキスをする。やがて…後ろからスカーレットが彼を抱いて自分の身体に預けさせる。彼女の魅惑的なふくらみの感触が背中に感じる。
スカーレットが彼の細い腰回りに回ってくる。そして額にキスをするように後ろからエリオットを抱き締めた。彼はまだ水色の半袖シャツに黒いズボン姿だ。
やがて…スカーレットの繊細な指が、その水色のシャツのボタンを外し始めた。その下には何も着ていない。艶のある乳白色の肌があるだけだ。
彼が呻くように喘ぐ。瞳を閉じて、抵抗しようにもできない。
やがて、そのシャツを脱がされてしまう。彼が上半身裸にされてしまった。
「…いい身体ね。特に肌がいいわ。手に吸い付くような肌…」
「女神の皇子の身体。たっぷりと味合わせていただくわ」
「アネット…」
彼がまるで喘ぐように声を甘く悲鳴を上げる。スカーレットの右腕が彼の首を固定するようにしてけして逃がさないようにする。
すると、アネットが彼の紫水晶の瞳を見て、穿いている黒いズボンを脱がし始めた。ベルトを緩めて、そっと黒いズボンを下ろす。
彼がトランクスのみになってしまう。アネットはその下着から彼自身を出して、熟練の舌使いで奉仕を始めた…。
舌を細かく動かして、まとわりつくような口戯をした。
「うっ…ううっ…。やめろ…やめてくれ…」
彼が無理矢理、二人の女相手に、セックスを強要されてしまう…。その間も後ろで抱いているスカーレットは彼の乳首をいじっている。口元を冷酷な微笑を浮かべて。
「ううっ…!!」
「気持ちいい?アネットの舌?興奮してきている様子ね…」
「もっと、深く口で愛してあげなさい?アネット?」
「はい…。はあっ…はあっ…これ、いい…!」
アネットの舌が容赦なくまとわりつく。その度に恐ろしい”快感”が彼の脳に直接届いている。彼がセクシャルな喘ぎ声を上げる。
”快楽”で容赦なく襲い掛かる強姦のような口戯は激しさを増している。彼は抗議の声を上げる。だが、その声もセクシャルな声になってしまっている。
「やめてくれ…!アネット…!そんなに責めないでくれ…!そんなに…深く咥えこまないで…くれ」
そして、上がりたくもない快楽の絶頂に彼は駆け上がり、その欲望の蜜を彼女の顔にかけてしまった…。
「うあっ!!」
アネットが彼の欲望の蜜に汚れてしまう。白い愛液を顔にまみれさせ、呟いたアネットの感想は…
「甘い…」
「甘い?彼の愛液?」
「はい。…甘いです」
「本当に?私にはわからないけど?」
「スカーレット様…」
アネットが甘えるようにスカーレットの頬にキスをする。
「律儀な子…。こんな時まで…。んっ…んっ…」
ここでアネットとスカーレットのレズが始まった。二人して甘いキスを交わしている。
それを、無理矢理、愛を搾り取られたエリオットは茫然と見つめている。荒い息を上げながら…。
深いキスを味わうスカーレットはここで、何か、妙な味を覚えた。アネットはそれを無理矢理、彼女の口の中へキスをしながら入れさせている。
アネットを突き飛ばしたスカーレット。思わず激しく咳き込んだ。
「何を飲ませたのよ!アネット!!」
だが、ここでスカーレットは意識を失うように床に倒れた。
それを確認したアネットはエリオット・アルテミスに振り向く。そして、いつものように仕事中の顔に戻って彼に謝罪した。
「申し訳ございません。こういう時でないと隙のない方でして」
「君は一体…」
そこでアネットはバッグを置いて、彼に急いで身支度を整えるように促した。
「着替えを用意しております。お早く、身支度を」
エリオットはその紫水晶の瞳を見開いている。
(信じられるのか…。彼女を?)
そこでアネットは、スカーレットがやろうとしていることを彼に話した。
「スカーレット様は、一生、あなたをここに軟禁させて、自らのビジネスの為にあなたの愛液を搾り取ろうとしています。このままでは犠牲になってしまいます。今しかチャンスはありません。早く」
「わかった」
そして、用意されたあった洋服に手早く着替えると、アネットに先導してもらいスカーレットの屋敷から脱出を図るエリオット。
二人が部屋から足早に去った後、気絶をしたフリをしていたスカーレットの邪悪な真紅の瞳が、不敵に輝いていた。軽く笑いながら。
「ウフフフフ…!面白くなってきたわね…。さすがはアネット…」
ここから、アネットとエリオット・アルテミスの逃避行が始まる…。