※この作品はR-18です。

女神の皇子   作:翔田美琴

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第4章 女神を継ぐ者
4-1 心に刺さる詰問


 アネットの口から語られた衝撃的な過去の話の後、容赦のない彼女の愛への懇願の合間に、唐突にそれをかき消す、非情な音が響いた。

 乱暴この上ない、ガラスを叩き割る音、乱暴な男性の声が月も星も浮かばぬ闇夜に響いた。

 そして、アネットと共に外へ出たエリオット・アルテミスは愛する女性の腕の中へ戻ることが出来たが…。

 彼女…アネットが話したこの台詞は彼の心に重くのしかかる言葉だった…。

 

「もう全部、終わらせたかっただけ…。二人の人間を焼き殺したこの人生を…」

 

 そこで彼は気付いた。その二人の人間とは…サリエルとシルフィードのことだ、と。

 

(なら…その古いコテージには、サリエル・アルテミスとシルフィード・エクレールが居たってことか)

 

 アネットは待ち望んだように、自分を殺すようにファノンに促す。もう今更、逃げるつもりもない。この世に未練もないという感じで。

 

「待っていたわ。ファノン。これで、おしまいにしましょう」

「望むところよ…!」

 

 ファノンが鞘に収まった純白の長剣の柄に手を伸ばし、居合い抜きをしようと構えた時、エリオットはアネットの盾になった。

 そのまま、彼女の前に立ち、殺害を防ごうとする。両手を伸ばし、彼女を…アネットを殺させまいとした…!

 

「エリオット!?何故、邪魔をするの!」

「何故だって…?いくら、親殺しの人間でも、殺害をするのはいけないことだ!」

「フェニキア王国の女王の権限があれば、いくらでももみ消せることよ」

「…君はいつだってそうだ。悪ぶっていて…だが本当は、人を傷つけて平気でいられるような人ではないのに…どうして自分が不幸になるようなことをするんだ…?」

 

 エリオット・アルテミスの言葉に、強い憤りを感じるファノンが、更に冷酷な緑色の瞳になる。憎悪に滾って、憎しみに心を奪われそうになる。

 彼らの言い争いを家から見ていたアネットの父、アンソニーがそれを見つめている。彼の虚無の瞳にあのローズピンクの髪の毛が映った瞬間、アンソニーは思わず、ファノンを抱き締めてしまった。

 

「シルフィード…。シルフィード…なのか?」

「お父さん」

「シルフィード…やっと戻ってきてくれたんだな。シルフィード!」

 

 そのアンソニーの”シルフィード”という名前に過剰に反応をするファノン。憎悪に彩られた瞳が当惑に輝く。彼女はその目を見開いてそして全てを拒絶するように、その男性を拒絶反応を示した。

 

「やめなさい…。この男!!」

 

 乱暴に抱き着く男を突き放すファノン。そして…こう言葉を吐き捨てるように言い放った。

 

「私はシルフィードではないわ!シルフィードの娘なんかじゃないわ!この二人を拘束しなさい!永遠に邪魔が出来ないように」

「はい!」

「ファノン!?」

「行くわよ。エリオット」

 

 自分の手を引っ張る彼女の細い腕は震えが止まらないでいた…。”シルフィード”という名前を聞いた途端に、彼女は…何かとても恐ろしい”過去”を思いだしてしまった様子だった…。

 エリオットから見ると、その顔はまるで…幼子が余りの恐怖で泣いている様子に見えた…。

 

(ファノン……?)

 

 アネットの恐ろしいを通り越して、もはや歪んでいるという言葉すら出てきそうな”告白”からまる一日が経った。

 彼は今、自室のベッドの脇に座って、靴擦れをしたかかとを自らの治療魔法で治療を施していた。

 そこに使用人である女性メイドのいつもの二人が現れた。ナツキとライアの二人である。

 

「エリオット様。お怪我の様子は?」

「靴擦れだけだから、大丈夫だよ」

「わあっ…。私、初めて見ました。これが、治療魔法なんですか?」

「ナツキは見たことがないんだっけ?…そう。これが、治療魔法だよ」

 

 エリオットは自らの左手に傷がある場所に掌を当てて、患部に白い光をあてている。そうすると、患部の細胞が活性化して、より早く傷口を塞ぐ働きを促進する効果を持つのだ。

 この世界・ヘスティアではポピュラーな回復魔法である。名前はヒール。文字通り”癒す”である。

 だが、そこでナツキは思わず、本音を漏らしてしまった。今まで感じていたアネットに対する感情を、彼に漏らしてしまう。

 

「それにしても…やっぱり、アネット様って恐ろしい方…」

「ナツキ。エリオット様の前で…」

「皆も知っていたということか?」

「そりゃあ、大事件でしたもの。中学生の女の子がコテージに放火して、二人も焼死してしまうなんて、凄惨な事件…」

 

 その事件の話について、リーダーであるライアはこうエリオットに説明をしてくれた。

 

「シルフィード様とサリエル様の仲は以前から噂になっておりました。それが、あの事件で二人の遺体が見つかって、不倫の証明になってしまったのです…。ファノン様は目もあてられない程すさんでいらっしゃいました。エリオット様がいらしてからですよ。昔のように明るくて優しい瞳の輝きになったのは」

「ところで…アネットは…?」

「この敷地内にはいないわ」

 

 ファノンの不機嫌な声が響いた。彼の私室に。思わず女性メイドたちは退室してしまう。彼女の激しい感情に、憎悪に耐えられなくて。

 

「あの父親もろとも、別の場所に監禁してあるわ。あなたはもう、二度とあいつの…あの女のことを考えなくていいのよ」

「彼女はどうなる?」

「エリオット…あなたは」

「君たちのやり方は、結構過激だからな。拷問とか平気でかけそうだし。もしかして、鞭打ち千回の刑とかするのか?」

「安心なさい。いくら何でも、それはやらないわ。…処分は次の親族会議で正式に決めることにしたわ。…私が女王に正式に選ばれた席で、身ぐるみ剥いで一族から永久追放をするわ」

「永久追放…!?」

「あいつが少年院から帰ってきた時にそうすれば良かったわ。奴隷としてこき使おうなどと考えないで。最初から貧困に突き落として、永遠に苦しめてやれば良かった。私達の王国では絶対に雇わない。前科のある人間をまともに雇う国がどこにあるって言うの?なら…殺せないなら、”社会的”に抹殺してやるわ」

「なあ…ファノン。俺はここに攫われて来た時、彼女に優しくしてもらわなかったら、耐えられなかったと思う」

「エリオット…」

 

 そこで彼は今まで、彼女…アネットが苦しみ、もがいてきた人生を…思った。

 自らの両親をあろうことか殺害してしまった事実。あの切実な青い瞳には、そんな悲しい過去があったという背景。

 目の前で苦しんでいた自分を救ってくれた女性でもある…彼女に対して、自然と言葉が浮かんでくる。

 

「アネットだって…自らが行った行為で、自分の父を死なせているのだから、とても苦しんでいるはずだ。母を失った君の哀しさも苦しみも大変だったはずだが、彼女を憎まないでやってくれ」

(そう。実の姉妹なのだから)

 

 ファノンは呆れたように呟いた。エリオットの呆れるほどのお人よしぶりに、呆れる。

 

「…本当に呆れるほどのお人よしだこと。あなたは。私が父親を殺されて、アネットを憎んでいると思っているなら勘違いしているわ。その件に関しては感謝したいくらいにね?」

「あの男…。淫乱な娼夫とその間にいたクソ女を殺してくれて。私がアネットを憎んでいるのは、アネットが私を裏切ったから」

 

 彼はその”裏切り”と言う言葉にも重みを感じる。澄んだ紫水晶の瞳が悲しそうに輝いた。微かに憂いがこもっている。

 

(裏切り……か)

 

 そこで、ファノンが上から目線で、彼の顎に触れて自分にその顔を向けさせて、冷徹な質問を投げかける。

 

「何故、アネットを庇うの?…アネットと何があったの?」

 

 顎を掴まれて、自分の冷徹な緑色の瞳を見ることに恐怖を抱く彼は、そこで胸を痛める。あの逃避行の時にされた…嬲られたセックスが脳裏によぎる。

 

(何もなかったなどと言えるわけがない。アネットの口と指と舌で嬲られて、何度も何度もイカされて…。それに彼女の言葉…)

『ファノンを抱きながら、私の視線で感じていたのでないのですか?セックスを楽しんでいたのではないですか?』

(セックスを…いや、それ以上に嬲られた…)

 

 彼はそこでうつむいた。悲しい紫水晶の瞳がそこにある。口を閉ざして、彼は視線を下に向けた。

 そんな彼にファノンはこう代弁した。

 

「されたってことね。…嘘がつけない男ね」

 

 ファノンがそこで彼に覆いかぶさる。自然とベッドに倒れ込む二人。彼は顔を背けて、ただ彼女の体重を感じていた。

 

「私は、母親のアストレイア様とは違う。自分の男が他の女に抱かれて、平気でいられる人間ではないわ…」

「うっ」

「ファ…ファノン…!?」

「どこを触られたの?どこを舐められたの?」

「そ、それは…!」

 

 ファノンが何も躊躇せずいきなり口戯をした。一気にほおばる。彼を深く…深く咥えこんだ。

 

「汚いから、やめてくれ…!!」

「あなたのはすぐにいきり立つ。私があなたを最初に犯した夜からそう。どんなに嫌がっていても、相手がエクレールの女なら立つのよ。これが”女神の皇子”の身体。生まれついての娼夫の…!女をひたすら悦ばせる身体」

 

 見下した冷酷な緑色の瞳のファノンが、更に言葉で拷問を…詰問をする。どんなことをされたのか。どんな行為をされたのか?

 

「この甘い蜜をアネットも舐めたの?…アネットの舌はどうだったのかしら…?指は…?あそこは?」

 

 濁流みたいな詰問に混ざって、アネットの甘く囁く声が…心に響いている。あの熱を帯びた懇願が。

 

『言ってください…!命じてください…エリオット様。これを入れさせて欲しい…と』

「やめろ…!やめてくれ…!!」

「すまない…ファノン。すまない…」

 

 彼が左腕をハンカチ代わりにして涙をこらえていた。いや…その声はもう泣いている…。

 彼女がその腕をどけると、彼の涙が溢れた瞳が露わになった。涙が浮かんで雫となって、頬に伝わっている。

 

「あなたは私のものよ。エリオット。誰にも渡さない。他の誰にも」

 

 瞳を閉じた二人は激しくキスをしながら、レイプのようなセックスに溺れ始める。彼を騎乗位で入れたファノンが狂暴に腰を揺らし始めた!

 

「うっ!ううっ!そ、そんなに激しく…っ!腰を揺らさないでくれ…!もうっ…ダメだ」

「あうっ…!」

「はあっ…はあっ…こんなに嫌がっていても…あなたはイクことが出来るのね?じゃあ…相手がスカーレットだとアネットだろうと簡単にイクんでしょうね!違う?」

「こ、こんな…セックス…」

 

 だが、もはや無意識のうちに、彼は自分からファノンを責めるように抱き始める。後ろから挿入して、彼女の細い腰を掴んで、打ち付けてしまう。

 

「なら…もういい。俺が壊れるまで、そして君が壊れてしまう位に、責め抜いてあげる。他の女の痕跡が残らないくらいの絶頂を味わってくれ…!!」

「あああっ……!!」

「わ、私もまたイク…!!」

「そうだね…。俺を美味しそうにむしゃぶりついているよ!君の花びらは。気持ちいいんだろう…?」

「エリオット…!エリオット…っ!」

「はあっ…はあっ…はあっ…はあっ…」

 

 彼が荒い息を上げている。しばらくすると強烈な脱力感も…。このまま倒れて、眠ってしまいたくなる…。

 珍しく彼女の方が気を失うように、放心としているので、心配になって声を慌ててかけた。

 

「ファノン…?ファノン…!?」

「エリオット…」

 

 お互いにお互いのことを自分達で客観的になる。ファノンはこんなにも自分が嫉妬深い人間であったことに。

 エリオットは、これまで様々な女性に無理矢理、性行為をされる恐怖について。

 二人して、背中を向けた…。

 

「私がこんなにも嫉妬深い女とは思わなかった…。あなただって好きで攫われたわけではないのに…」

 

 そんな全裸で悲しむ彼女を、同じく全裸の彼が背後から、自分の身体に預けさせるように抱いて訊いてみた。彼女が大好きだった母親のことを…。

 

「聞かせてくれないかな…?アストレイア様ってどんな方だったのかを。君の大好きな母親のことを知りたい…」

 

 背後から抱かれるファノンは彼に身体を預けて、そして少しだけ話した。

 そして…ここから、彼女の”禁断の過去”も語られる。

 

 

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