※この作品はR-18です。

女神の皇子   作:翔田美琴

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1-6 後から気付いた真実

 三日目。この時点であのハーブティーを飲んでいなかったら、少し絶望的な状況かなと思いつつ、朝の宮殿を歩いていると…

 

「遅いわよ。エリオット。夜食を食べてないから朝方、お腹が減って仕方ないのよ!早く朝食を作って頂戴!」

「ハーブティーも飲みましたよ。私ではないです」

 

 アネットが補足で朗報を知らせてくれた。

 急に態度が少しだけだが、軟化したファノンの変化に少し驚きつつ、今日も彼はファノンとアネットの為に、食事を作る。

 このところの食事がやたらと皆は美味しく感じるのか、このあたりになってきて彼は、城で働くメイド達からも、”この食事を作る時、エリオット様ならどういう味付けするのですか?”という質問が多い。

 女性メイド達からは、”あの”女神の皇子”はただの男性ではなかったのだ”という感激するような目で見られることが多くなった。

 今日は城の外での仕事ということで、彼はお弁当を作っている。きちんと栄養バランスを取って、しかしそれだけでは面白みがないので、特別なおかずを一品用意して、それをランチ用弁当にして包みに入れた。

 

「はい。今日は外での仕事だと聞いたから、ピンクの包みがファノンので、オレンジ色の包みがアネットのだよ!持っていけ。夕食までに戻って来いよ~!」

 

 白いワイシャツの袖をまくって、エプロンをかけたエリオットの見送りを受け、彼女達は馬車に乗りこんだ。

 その馬車の中では、アネットが少し笑っていた。その彼女の微笑みに、少し強がってファノンは慌てて弁解する。

 

「違うからね!別に私は、昨夜は夜食を摂っていないせいで、お腹がすごく空いていたから食べただけで…!!」

「あの方、エリオット様は真摯な方ですね。それに意外に打たれ強い。意志が非常に強い方と存じます」

「あんな…ただの料理屋の真似事をしているだけなんじゃないのかしら?」

 

 そのファノンの指摘には、何だか違う感じ方をアネットはする。

 本当にあれが”料理屋の真似事”の一言で片付くものなのだろうか?と。

 彼の手料理は、そこいらに建っているような変な料理の店よりも、余程美味しい。下手をすれば料理見習いで修行中の若い料理人よりも彼の方が数段も腕が上だ。

 その気になれば、それこそ料理の店が出来るほどに。

 彼は遺伝子学の研究員が本業だが、でも自分が食べる料理は自分で作る意外と家庭的な趣味も持ち合わせていたのだ。

 お世辞にも彼には贅沢三昧出来るほどの金はなく、外食するなら自分で材料を買って、調理する方が早いという考え方だった。それに自分の体調だって、その日によって全く違うし、なら体調に合わせた料理を食べた方が自分の為になり、調理の腕が上がれば自然とこの手間も無駄にはならないという考え方もしていた。

 ハーブティーのブレンドは父親や母親がそれについて興味を抱いていたからこそ、自分もそれに興味を持つようになったからだ。

 そして、異世界ヘスティアは医療についてはほとんど進化はしていない。ほとんどが、昔ながらの治療法で、現代社会で言う”おばあちゃんの知恵袋”程度の医療水準であった。

 そんな世界で、ファノン・エクレールは”不眠症”を患っているのではいくら医者が睡眠導入剤を処方しても効果がないのが当然だった。

 彼女が処方してもらっている”睡眠導入剤”は、いわば漢方薬である。西洋医学がようやく発展を始めた程度の世界なのだから、現代社会で出るような効果の高い”睡眠導入剤”が出る訳がない。

 なら、エリオットの”治療”の方法が一番、的を射てていると表現した方が適切だ。

 

 ランチタイムになり、彼女達はベンチでその弁当を広げる。

 暖かい太陽の恵みの下、森林の空気がとても澄んでいる。それぞれが弁当の包みを広げると、彼の手作り弁当がその姿を現した。

 サンドイッチにきちんと熱を通して焼いた野菜の炒めもの、そして一品料理に少し贅沢な鴨の肉を焼いてひと口大に調理したものが入っていた。

 マヨネーズ嫌いのファノンの為に、彼のサンドイッチには一切お酢関係は使っていない。サンドイッチに使用したパンは普通のパンで、それをナイフで切りこみを入れ、中に挟まっているものは、カレー味のコロッケだった。

 サンドイッチというより、コロッケパンみたいなものだ。きちんと適量のソースがかかっている。

 野菜の炒めものの具は、緑黄色野菜が中心だ。パプリカや人参、ピーマン、キャベツ、ベーコン、彩りにグリーンピースを入れて、それをオリーブオイルで炒めて、軽く塩と黒コショウとバジルで味付けをしてある。

 鴨肉には臭みを消す為に香草を使い、それをローズマリーで味付けをして焼いたシンプルな一品料理だった。だが、ローズマリー独特の風味が効いていて味わい深い。脂っこさも微塵も感じさせない。

 昼用に用意されていたお茶はジャスミンティーだった。とりあえずまずは仕事先でもリラックスして欲しいと思っているのだろう。

 彼女達はその工夫に満ちたランチを見て驚きの声を上げる。

 今までで最高のランチだった。メイド達の作るランチとは格段に違う。

 きちんと自分の嗜好を吟味した上で出してくれる彼の料理に、ファノンの気持ちに少しずつ変化が訪れる。

 それまで憎まれ口を叩いた彼女とは思えないほど、ただしそれでもやはり棘が出てしまうのは仕方ない。

 

「す、少しは私のことを考えてくれているのね。思っていた以上に献身的じゃない…?」

「美味しいです。本当に」

「しかも、きちんとお手拭きまで用意してあるじゃない…?」

「今日が外での仕事と聞いて、用意してくださったのですね」

 

 そうして、外での仕事を終わらせて、彼女達は己が住む居城へと戻った。

 既に五時だ。時計塔の鐘が鳴り響く。夕陽のヘスティアはとても綺麗な夕陽だ。太陽が西の彼方の地平線に沈む姿は美しい。

 馬車はそうしてこの”背徳の宮殿”へと入って行った…。

 

 五時を回る頃には、エリオットはもう厨房へ入っている。そこには彼の助手として複数人のメイド達が、間近で勉強したいといって彼の調理を手伝っていた。

 彼はそれに対して、少しメイド達への視線が変化した。今まで鬱陶しいと思っていたが、メイド達も自分達をこの機会に顧みようとしている様子だった。

 なら、この際そうしてみて欲しいということで、彼はメイド達にてきぱき指示を出す。

 今夜のディナーは、魚系にしてみる。

 フェニキア王国は実は意外と魚介類も美味しい。それはこの王国に港町があり、毎日のように海産物が水揚げされるから。

 だから、新鮮な海の幸を安い値段で手に入る。それを利用しない手はないだろう。

 そこで彼は、昼間のうちに、メイド達に指示を出して、あらかじめ書いておいたメモ用紙の通りに、買い物をして欲しいと頼んでおいたのだ。

 彼の指示通りに必要な海産物を購入したメイド達は、王宮付きの兵士に運ぶのを手伝ってもらい、そして素早く魔法による冷凍をする。

 氷の魔法を唱えて、それを凍らせるのだ。氷の魔法は、余程のことがない限り、溶けることはない。冷凍庫なんてものは存在しない世界だからこそ、存在する知恵という存在だ。

 

 日にちを追うことに、女性メイドたちはファノン・エクレールの変わり様子にただ驚くばかりだった。

 

「ちょっと見た?さっきのファノン様!あのトマト嫌いの人が今日はマグロのトマト煮を食べていたわよ。私が作ってもフォーク一つ動かさなかったのに」

「ランチもきちんと摂っている様子ね」

「エリオット様は研究熱心なんだよ。最近はファノン様の好きな味付けをマスターして、好みの味付けにしているんだ」

「夜のマッサージも黙って受けてらっしゃるそうだよ、あの頑固なファノン様が」

「大したものだよ。”女神の皇子”の名前は伊達じゃないね」

 

 その当の”女神の皇子”は、今は今日のディナーの残し具合を見て、チェックしている様子だ。アネットも同席している。

 

「だんだんと残すディナーも少なくなってきましたね」

「でも、今夜のこのディナーで最後かな…」

「一週間ですものね。明日で」

「ファノンの睡眠時間は相変わらずか?」

「遅番と早番が交代で様子を見に行っている様子ですが、五時間くらいで起き上がってしまうようです」

「そうか…」

(今夜が最後のチャンス…か。これがダメだとしたら、俺もここの男と同じ奴隷にされてしまうのかな)

 

 彼は一つため息をついた。そんな彼を励ますように、アネットが今飲んでいるハーブティーの感想を述べた。

 

「このハーブティー、随分と沢山の薬草が使用されているのに、とてもすっきりとした味わいで飲みやすいですね。どこで、こんな高度なものを覚えたのですか?」

「両親が、ハーブに凝っていてね…」

(おっと、だがこの先は…女性には話してはいけない内容だったか…)

「最近は、ハーブについての研究も進んできているんだよ。遺伝子学でもハーブのことを研究対象にしているし」

「元々、ハーブに詳しかったのではないのでしょうか?」

「いきなり、何を訊いてくるのかな?それを言うなら、俺だって訊きたいことが山ほどあるのにさ」

「大体、”女神の皇子”って何の為に存在するのかも。この際、教えて欲しいね。一体、”女神の皇子”とこのエクレール家と何の関係があるのかを」

「”女神の皇子”は古くからエクレール家に仕える一族だと聞きます…。そしてその長が”女神の皇子”。ファノン様は、”女神の皇子”を手に入れる為なら、どんなに恐ろしいことでもします。昔は優しい方だったのに…」

 

 そこでアネットがエリオットの手を握った。そして胸元に祈るように両手で包み込んだ…。

 

「君…」

「もし、あなたが”女神の皇子”なら…どうか…」

「アネット…」

 

 そこに何かの気配を感じたアネットは、その手を離して、慌ててその場を去ってしまった。

 エリオットはその彼女に、何だか他人事のようには思えない”何か”を感じていた…。

 

「少し、気を抜いているんじゃない?何だか上の空よ?」

「考え事をしていただけだ…」

 

 今はファノンにいつもの夜のマッサージ中のさなかだった。

 そして、その夜も行為は行われないで、そのマッサージは終わる。ファノンはこれは気に入った様子で、こう口にする。

 

「このマッサージは気に入ったわ。一回で5万ギルダ、支払ってもいいけど?」

「魅力的な値段だけど、遠慮する」

「無理よ。もう既に公的に婚約届も出してあるし、籍に入っている。あなたは私の夫よ」

「セックスをすれば、最高に気持ちいい。この城の支配者の婿になれば、一生、あなたは自分の研究を思う存分やらせてあげるとまで言っているのに、何が不満なの?」

「でも、それは利害関係での話だろう?夫婦になれば自然と利害関係では片づけられない問題だって出てくるはずだ」

「君にその穴埋めは出来ないと思うな」

「何ですって?」

「じゃあ…俺がその研究で嫌なことがあったら、愚痴を吐くに違いないけど、君にそれが耐えられるのかな?酒が入って悪酔いするかも知れない男のフォローが出来るのかな?イライラして八つ当たりするようなセックスを強要するような奴だったらどうする?」

「お互いに”夫婦”になるからにはそういう”影”や”闇”を見ることになる。俺にはその覚悟がないから嫌なんだな。”愛のない結婚”だなんて」

「バカバカしい。”愛”だなんて」

「そうだね。バカバカしい言葉に聞こえるけど、誰でも平等にそれぞれが生きる時間と空間を持っている。それを尊重するのが”愛”さ。でも、君にはそれがない」

 

 これ以上の議論は火に油を注ぐようなものだから、もうやめることにしたエリオットは、黙って部屋から去ろうとした。

 だが、ファノンがそれが引き止める。腕を掴んで自分の両手で彼の顔に触れて、彼の紫水晶の瞳を覗き込んだ。

 

「あなたがどれほど苦しもうとも、どれほど悲しもうとも、あなたを逃がすわけにはいかないわ。もっと私を憎みなさい。憎んで、憎んで、憎み切りなさい。誰かを心底憎んでいれば、そんな苦しみが入る余地もないでしょう?」

 

 彼女がそんな言葉とは裏腹なキスをしようと…どんどん唇が触れそうになってくる。

 彼の何物にもぶれない紫水晶の瞳が、初めて当惑の輝きを宿す。

 

(お…おい。キス…するつもり…か!?)

 

 そこでファノンは何かに襲われたように、不意に睡魔に襲われた。何だか妙にベッドに横になりたい気分だ。

 

「もう出ていいわ」

 

 彼はそこで何も言わずに、部屋から立ち去った。

 ファノンはさっさと枕に頭を埋め、瞳を閉じて眠りに入った。

 

(あの男…。変な男だわ。妙に平凡な考えだと思ったら、随分とロマンチックだし、現実的な考えを持っているかと思えば、いきなり”愛”について語り出すし…。でも…やっと自分の目を見つめてくれるようになってくれた・・・)

 

 一方、エリオットの方はと先程、唇と唇が触れそうになった出来事を思いだし、胸が高鳴っているのを感じていた…。

 

(一瞬、キスを交わすのかと思った…。ファノン…)

 

 朝日が昇る。暁の明星が輝いている。

 

「…様。ファノン様…!そろそろ七時です」

 

 そこで彼女が飛び起きる。まるまるきちんと八時間寝ていた自分がそこにいた。

 

(寝ている!!八時間!!)

 

 だが、エリオットはそれを知らされていない。彼女の脳裏に彼が城から嬉々として去る姿がよぎる。

 

(嫌…!!)

 

「ファノン様」

「アネット。私が八時間、眠っていたことを皆にも口止めをしなさい。やらなかったら解雇よ」

「ファノン様…」

 

 その問題の一週間後の朝。彼はとりあえず普段通りに振る舞って、結果だけ聞いた。

 

「八時間…眠れたか?」

「エリオット様…。あの…」

「眠れなかった。断続的に七時間眠るのがやっとだったわ」

「そうか…」

 

 彼はふうっとため息をついた。そして吐き捨てるように呟いた。

 

「私の賭けは負けか。まあ、賭けは賭けだし、君の好きなようにすればいいさ。なら」

 

 その夜。

 彼はファノンに呼び出された。彼はそこであの意識が危険になる薬を要求した。

 

「あの薬をくれ。あの意識が朦朧としてしまう毒を」

「寿命が縮むわよ」

「構わない。君は俺の身体さえあればいいのだろう?心も精神も要らないなら、毒でもこの際、欲しい。このままだと俺は君を犯すようなセックスを強要するだろう。憎み過ぎてな。君さえをも殺しかねない」

「なら…その前に毒で薬漬けになってしまえばそうしなくても済む。君は絶対に意地でも慰めるような言葉は吐かない。何を一人で言っているのかわからないよ」

 

 彼がそこであの紫水晶の瞳を悲しそうに輝かせて言った。

 

「君は俺が楽になるために君を憎めと言った。ああ。憎いよ、君が。今にも君を俺の魔法で殺したいくらいにな!だが、それをすれば、俺の好きな研究は一生出来ないだろう。君を嬲るようなセックスもしてみたいとも思わない。その前に殺してしまいそうだから!」

「こんなに憎悪に震えるのが苦しいとは思わなかった」

 

 そんな憎悪に震えるエリオットにキスをするファノン。

 

「なら…この際、私を嬲るほどのセックスに溺れてしまえばいいわ…」

「その憎しみをぶつけて」

 

 彼はそこで強引に彼女の服を剥いだ。ビリビリと服が破ける音が響く。そして、彼の両方の手が彼女の首を絞めるように回ってきた。

 まるで怒りをぶつけるように首を絞め始める。ローズピンクのセミロングの髪が乱れる。苦しそうに彼女が呻いた。唇を噛むエリオット。その唇から血が出てくる。

 そのままいきなり大股開きにして、乱暴にオーラルセックスを始めた。彼が貪る音が聴こえた。

 乱暴に花びらを舐め、花の芯をナイフみたいな鼻の先で刺激する。

 彼の中に眠る野獣が目覚めた瞬間だった。

 

「はあっ…はあっ…!!」

「もっとか?もっと舐めて欲しいのか?」

「ああっ…!!」

 

 彼がファノンの蜜…口についた蜜を手の甲で拭いた。そのまま憎悪でいきり立った分身を乱暴に入れた。彼が仰向けに倒れてそのまま腰を落とすように促す。

 

「お互いに、溺れよう。殺し合う前に。このまま腰を落として欲望のままに動いてくれ」

「ああっ!!すごい…!あん…!あん…!」

 

 彼女が騎乗位で淫らに腰を振り始める。彼もまた乱暴に突き上げた。

 

「気持ちいいのか?自分が壊れるくらいに?」

 

 冷酷な声の響きにして、彼の端正な表情が身に受ける快楽で歪めている。彼の手がまたファノンの首を絞めた。そして首を絞めながら、乱暴に花びらをえぐるようにかき混ぜた。

 

「首を絞めながらすると女性はここを締まらせるんだな」

 

 そう言って、彼は力を入れてファノンの細い首を絞めながら、腰を打ち付ける。

 

「エ…エリオット…!!」

「うっ…!うっ…!ファノン…!!」

「キスをして…エリオット。乱暴でいいから」

「んっ…!んんっ…!」

 

 彼が激しく彼女の唇を奪う。強引に舌を入れて口の中を舐めまわす。

 お互いの汗が芳香となって交わり始める。腰を乱暴に振り、彼の両手が彼女の首を絞める。

 

「く…苦しい…!」

「そりゃあ、そうさ。今まで君がしたことを俺が復讐をしているのだから…!!だけど…」

 

 そこで両手を首から離して、今度はファノンの頬に優しく触れた…。

 

「こんな犯すようなセックス…やっぱり嫌だな」

「んっ…エリオット」

 

 急に優しいキスをする女神の皇子。瞳が涙で滲んでいる。そして貪るように口づけを交わしながら、彼らは一晩中、身体をつなげ続けた。

 激しいまるでレイプのようなセックスは夜が明けるまで続いた…。

 それを…一部始終、魔法の水鏡越しにアネットは見つめていた…。

 青い瞳が、それを見つめていた…。”何か”が彼女に宿っている。それは”憎悪”なのか、”欲望”なのかはわからない。それとも”悲しみ”だったのかもわからない…。

 

 名前を呼んだのも…口づけをしたのも…この夜が初めてだったことに…後から気付いたのは…俺達が気付いたのは随分と後のことだった…。

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