※この作品はR-18です。

餡パレード・マーチ   作:キューブケーキ

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プロローグ的ななにか

 空に黒い月が現れて半世紀、人類はゆっくりと言う脅威に晒されていた。

 南部アフリカ、日本列島、南北アメリカ大陸の一部を除いて世界はゆっくりに破壊され尽くしていた――

 

 

 汗と老廃物による体臭がたちこめていたが嗅覚は麻痺している。それよりも同じ姿勢を強制的に維持させられた体の節々が痛む。少女の吐息に疲労感が混ざっていた。

「あいつら懲りもせずにまたやって来たね」

 相方の言葉に舞は不機嫌そうに返す。

「餡脳で物忘れが早いのであろう」

 芝村の末姫と呼ばれる芝村舞。士魂号複座型にその姿はあった。

 人間の頭部に似た外観の侵略者達は「ゆっくり」と呼ばれる。画面に映し出された敵の姿を睨むように見詰める舞の心は落ち着いていた。

 普段なら動物の生態研究が趣味である本領を発揮してここぞと話す所だが、ゆっくりは別だ。人類の忌むべき敵。容赦も遠慮もいらない。

 彼らは捕食者だが、加工所で生体部品やたんぱく燃料に利用されていた。

 我らが前に立ち塞がる敵は死あるのみ――

「先にれいむを潰すぞ」

「了解」舞の言葉に操縦席に座る相方の少年、速水厚志は士魂号を起動させた。

 崩れたビルの影から偽装材料を吹き飛ばしながら人型戦車は現れた。

 黒い髪に赤いリボンをつけたれいむ種が目の前にいた。ジャイアントアサルを撃つには近過ぎる。厚志の選択は簡単、文字通り蹴散らした。

「ゆゆっ!?」

 赤ゆっくりも成体ゆっくりも関係はない。全てが士魂号に踏み潰されていく。餡子を撒き散らして永遠にゆっくりするのだった。

「わからないよー」

 ちぇんはうんうんとしーしー、チョコクリームを撒き散らしながら死んだ。

 突然の反撃に驚いたが、怒りに燃えたゆっくり達は人型戦車へ向かって行く。

「まりさ、おこったよ! にんげんさんおいだして、ゆっくりぷれいすをてにいれるよー!」

 とんがり帽子を被った金髪の下から怒りに燃えた目を向けていた。

「うーうー」

 れみりゃが羽根を羽ばたかせながら噛みついている。歩兵相手なら効果もあるだろうが人型戦車の装甲は破れない。

 口元に笑みを浮かべた舞は前のシートを軽く蹴る。

「れみりゃは相手するな」

「わかってるよ」

 士魂号は傷一つ無くれみりゃを振り切って進む。

『むきゅ。舞、ドスだよ!』

 戦闘指揮車のぱちゅりーが警報を流して来た。

「わかった」

 ドスまりさのドススパークは馬鹿に出来ない。建物を破壊する威力は、八代会戦でも発揮され自衛軍に損害を与えた。

「ありすのかんっぺきな作戦だわ。ドスはとかいはじゃないのよ」

 ゆっくりの中にも派閥や権力闘争があり、ありすはドスを馬鹿にしながらも利用していた。

「厚志よ、ドスを潰しに行くぞ」

「うん」

 怒りに燃えた敵の矛先は人型戦車に向いている。正常な判断は出来ない。

 周りに他のゆっくりが居ても巻き添えを厭わずドススパークを放つ可能性があった。

 有線式ジャベリンミサイルが人型戦車から放たれた。砲手である舞はキノコを狙い撃ちして行く。

 

 

 

 自衛軍護衛艦隊と哨戒機の警戒網を潜って、海の底を這うように進んでいた海洋型ゆっくり(海水対応型)は海面を目指して浮上した。輸送艦や揚陸艦代わりの様に中型、小型ゆっくりを吐き出している。

「た、大変だ!」

 海岸に沿った国道をパトロールしていた警ら中の警察官は本署に通報した。

 1999年8月4日0900時、西部方面軍の管区内にある萩市菊ヶ浜に敵が上陸した。報告を受けた本署は県警本部、自衛軍駐屯地に連絡を回した。

 陣地占領に向かう自衛軍の車列。トラックの荷台で兵士はぼやいていた。

「畜生、何だってこんな所にゆっくりが……」

 多くの者にとって主戦場は山口県だと思っていた。

 山口県の沿岸部に展開する部隊は可哀想に、敵の矢面に立たされる不幸な兵士達。自分達は安全な後方に居る。そんな精神的余裕も吹き飛んだ。

 萩市方面に展開する兵力は歩兵一個旅団とそれなりの戦力に思えたが、日本海沿岸部に広く薄く展開している。

「俺達が下がれば市民が脅かされる」

 現地の守備隊は一個大隊と寡兵ながら、市民の脱出する時間を稼ごうと絶望的な戦闘に挑んだ。

 一方で広島県の西部方面軍司令部も急報に混乱していた。

 敵が日本海沿岸部から大規模な侵攻して来るとは予想外だった。敵の襲来、第一報が入った西部方面軍司令部の作戦室では幕僚達が情報の検討を行っていた。

「これは陽動でしょうか」

「あまりにもあからさま過ぎる、か」

 予てからの迎撃計画では下関方面への着上陸が予想された。となれば敵の意図する所は「味方戦力の分散」と結びつけたのも仕方が無い。

「はい」

「しかし、そう思わせる事が狙いだとしたらどうだ。柔らかい脇腹を狙って突くのはおかしくはない」

 こちらの兵力は山陽地方に集中しており山陰は手薄だった。今まで本州や四国に敵が現れなかった事から敵にまともな渡洋能力がないと言う勝手な判断だった。

 参謀の指が地図をなぞる。

「萩から南下して岩国、山口、下関と後背を突く。九州から呼応して動けば挟撃も可能だ」

 敵が来るのはわかっていた。しかし友軍の配置は九州を睨んでおり後ろの備えはがら空きとも言えた。

「これこそ主攻だと……!」

「萩に応援を投入するのは必然として、戦力の小出しは各個撃破される危険がある。やるなら戦力の集中による速やかな敵上陸軍の撃破だ」

 黙って聞いていた司令官は萩での決戦を決意した。

「岩国の2師団、24旅団、広島の3戦車師団に萩への移動命令」

「芝村派閥の連中は岩国防衛ラインに固執しています。戦力の抽出には反対すると思われます」

 西本中将は軍政畑出身だからこそ幕僚の考察を素直に受け入れた。

「連中は岩国まで敵の侵攻を許すつもりだ。そこまで被害に目を瞑るわけにはいかん。決戦場を決めるのは我々で芝村ではない。守れる者を守るのが我々の職責だ」

 

 

 

 自衛軍の戦力は限られた物で、日本では文部省が新たな武装組織として注目されていた。

 藤江巴は34歳の若さで文部省の頂点である文部大臣を勤めている。前任者の作った学兵制度は大失敗だと判断する藤江大臣にとって、昼休み前に訪れた報告は不快にさせるには十分だった。

「現在、山口県に敵が侵攻しておりまして自衛軍は学兵動員の召集許可を求めております」

 書類から目を上げた大臣は吐き捨てる様に言った。

「大人の尻拭いを子供達にさせようなんて、立派な軍人さん達ね」

「九州の痛手から自衛軍はまだ回復していないと言う事だそうです」

「学兵だってそうよ」

 文部省は数の上で自衛軍を補完しうる兵数を手に入れたが、武器・訓練資材・燃料・食糧などの全てが足りなかった。

「九州で動員された子供達は10万。その半数以上が犠牲になった。これ以上、大人の都合で子供達を利用する事は許しません」

 文部大臣の認可無しに自衛軍は学兵を動員できない。藤江大臣は自分が在職期間中は子供を犠牲にすまいと固く誓った。しかしそんな彼女の葛藤とは異なり、自衛軍の高級軍人は目下の問題を解決すべく動き出そうとしていた。

 官庁の勤務時間が終わる17時、善行忠孝海軍大佐は西部方面軍司令部を後にした。

 九州での武勲は広く知られているが、一部には「あいつは勝てる戦しか選んでいない」と戦場を選んでいた真実が漏れていた。ただでさえ芝村派閥の軍人と色眼鏡で見られており、善行を真っ当な士官と見る者は限られていた。

 振り返った善行は呟く。

「糞、わからず屋どもめ……」

 夕日に照らされた顔は憎悪に歪んでいた。

 善行は海兵隊出身で朝鮮半島の熾烈な戦闘を経験した。圧倒的戦力の敵。味方は勇戦するが支えきれなかった。苦渋の決断。魂の半分は海の向こうに残っている。

 九州でも実戦を経験した善行にとって萩は囮に思えた。

(司令部の判断は間違っている)

 無能な連中によって危機に陥る事は我慢がならない。頭に寄生虫が沸いているとしか思えなかった。

 善行の考えでは、このまま萩に戦力を向ければ遊兵化して決定的敗北を迎えると言う物だった。避けれる悲劇は避けたい。その為の交渉を行ったが、頑迷な司令部は聞き入れない。

「そうか――」

 寄生型ゆっくりに脳を支配されている、と言うシナリオが浮かんだ。

 善行は同じ敷地内にある第3戦車師団司令部に足を向ける。

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