陸戦の王者は戦車と言われる。それはゆっくりが現れた今でも変わらない。強力な火力と頑丈な装甲はドス以外の攻撃に耐えうる。
ゆっくりはまりさ、れいむ、ありす、ぱちゅりーを基本種に、ちぇん、みょん、れみりゃ、ふらん、ゆうか、らん、さなえ、めーりん等がいる。特殊な物ではうどんげ、まりさつむり、すわこ、ゆるさなえ等も確認されている。
ゆっくりが戦車を相手に戦えるかと言えば無謀の分類に区分されるだろう。しかし戦闘では絶対と言う物はない。まして交戦意欲の低い部隊が相手ならなおさらだ。
「こっちから発砲して戦端を開けば潰されます」
歩兵第16連隊第12中隊長の近江貴子中尉は経験不足ながら、ベテランの下士官に支えられて植村中隊を阻止していた。中隊が存在するだけで抑止力になっている。
「向こうの大佐はともかく、周りの連中にはやる気がありませんから、とりあえず応援の到着待ちですな」
第3戦車連隊に顔見知りが居る下士官が向こうに行って情報交換をしてきた。手ぶらで行ってきた下士官は97式小銃を受け取り肩に背負う。
「つまり本気で戦う必要はないと」
「ええ。こっちが折れるつもりはないとだけ教えてやれば、向こうの下士官連中が上手くやるでしょう」
兵の無駄死にを避けたいのはお互い様。士官の職業意識を揺さぶれば良い。
歩哨が誰何をする声が聞こえて外に注意を向けると少年を連れて現れた。
「中隊長、0101小隊の上級万翼長がおみえです」
軍や警察と異なる奇妙な階級、上級万翼長と言う単語に学兵と認識する。
「秋草です」
近江からみれば銃を持たせるにはまだ年若い子供で、ウォードレスを着ていても大人と比べれば小柄な体型だった。複雑な心情を抑えて挨拶する。
「近江だ」
「うちの小隊は試験的に試作人型戦車を運用してまして、今回、それを持ってきました」
ウォードレスの上から迷彩ポンチョを着た近江中尉が秋草の案内で指揮車に案内された。指揮車を経由して0101小隊の上級司令部と連絡を取る。相互部隊の連携を考えるなら指揮権の調整等も行わねばならない。
「中隊司令部?」
単語に違和感を感じて近江は尋ね返した。自衛軍では「中隊本部」と呼称する。名称一つ取っても、学兵との違いが感じられた。
「ええ」
近江の問いに何かと疑問の表情を浮かべる秋草。近江はふと思い出し納得したように頷く。
(学兵は発足して間もない。文部省の管轄で軍隊とは無縁だった。用語に誤りがあるのも仕方ない、か)
中隊本部ではなく司令部と呼ぶのは、体制の整っていなかった学兵組織の名残りだ。
九州で生き残ったM装備部隊(士魂号人型)の数は少ない。0101小隊は数少ない内に含まれた幸運な部隊。
(――いや、戦いに駆り出されて幸運と呼べるのかどうか……)
近江は周囲で忙しなく動き回る学兵の姿をさめた目で見つめた。
「このままにらみ合いをしていてもらちが明かない。かと言って投降は論外だ」
「はい。同感です」
「私としてはこちらの人型戦車に、敵戦車の排除をお願いしたい。勿論、敵歩兵は此方が対処する」
「どうかな秋草君。やれそうか」
「役割分担から考えれば妥当だと考えます」
「では近江中尉に協力して反乱軍を叩き潰せ」
反乱軍にとってこの動きは予想外だった。
「人型戦車だと!」
矢吹少佐は驚愕した。
ジャイアントアサルトの20㎜徹甲弾は74式戦車の装甲を撃ち砕くには威力は不足と思われた。しかし戦闘力を奪うには十分だった。
キャタピラや転輪、砲身が破壊されて戦車の戦闘力を奪っていく。
司令部のお墨付きを貰い暴れる人型戦車は岩国に配備されている光輝号の競合相手として開発中の栄光号。士魂号の後継に相応しい能力を持っている。
大隊の敵は人型戦車だけではない。第12中隊も零式ミサイルで狙い撃ちしてきた。
「糞!」
戦車砲で歩兵を蹴散らすのは簡単だが、これでは司令部制圧を達成できない。
0101小隊の活躍によって叛乱軍は鎮圧された。
連行される反乱軍の投降兵。労いの言葉をかけられる学兵を眺める目は冷めていた。
「タイミングが良かったんだよ」
0101小隊は九州での戦いの後、栄光号の試験運用を任され戦場に近い場所に配備されていた。
運も時には必要だ。特に幸運は。
善行の反乱によって西部方面軍では芝村派の将校が解任され始めたが全員ではない。何しろ優秀な者が芝村を名乗れるからだ。無闇やたらと解任すれば末端の兵が苦労をする。
それに西部方面軍司令部には粛清ごっこに費やしている時間は無かった。
萩に上陸したゆっくり達は南下して広島を目指したからだ。自衛軍主力が阻止せんと立ち向かっていた頃、山口にも敵が現れた。
「最悪のタイミングでやって来たな。学兵の方はどうなっている」
大原首相に藤江文部大臣、この国を動かす女性陣は現実より理想を求めていた。現実に戦う軍人とは相容れない考えだった。
「文部大臣が認可されないので山口県知事の独断で招集がかけられました」
「よし、これで手駒を揃えられるな」
しかし期待は裏切られた――
急遽、学兵も動員した鷲宮師団が防衛に投入されたが、充足率・装備・錬度と全てが不足しておりまともに戦えるわけも無かった。正規軍の後方支援が学兵の任務となる。重要拠点の警備、巡回、負傷兵の後送、陣地の構築、輸送業務等幾らでもやることはある。
「子供達は戦場に出さない、その約束でしたが!」
「銃後等と言う物は存在しない。ここは既に戦場だ」
山口に敵が侵攻した時、鷲宮透子は28才の若さで師団を預けられた。学兵と言えど師団は師団。定数こそ満たしていないが数千の人名を預かる重責だ。
師団の編成と運用は師団司令部の幕僚に支えられ、どうにか形にはなった。
戦車の運用は張り付けて使う物ではなく機動防御と考えられている。
他の装備と同様に車輛の数は足りていない。5121小隊は芝村戦闘団に組み込まれた。
「お主がまがりなりにも大隊規模の戦闘団を預かるとはな」
「自衛軍でも士官は不足している。学兵の部隊に人手を回す余裕がない。そう言うことですよ。まったくお粗末ですな」
眼鏡の位置を直しながら少年は言った。膝の上で丸々と太った猫があくびをしている。
「違いない。我らだけで戦をした方がいかほど楽かと考えてしまう」
「ともかく残存戦力の収容、部隊の再編成が急がれる」
鷲宮は黙視して続ける。
「芝村上級万翼長、師団長の権限で貴様に一任する」
「承知致しました」
不適な笑みを浮かべ敬礼する為に立ち上がる芝村。膝の上から降りた猫は鷲宮の手に顔を擦り寄せた。
磨り減らされた鷲崎師団は壊滅。芝村英吏の指揮で残余戦力を集成した芝村戦闘団を編成。第5121小隊も一員として行動していた。
「我が従妹殿はどの様に考える」
高地に置かれた指揮所。天幕に呼び出された舞は従兄と卓上の地図を囲んでいた。隘路を進む敵に対して味方は必死に抵抗を続けている事が読み取れる。
「我らは東西を敵に挟まれている。広島が落ちる前に後退して、友軍と合流すべきだ」
鷲崎師団や山口周辺に展開していた自衛軍は、萩と山口に敵が上陸した事で危機的状況にあった。
「当然だ。しかし西部方面軍司令部は敵の合流を阻止したい。九州からの増援が敵に加わる分けだからな」
「ならばやる事は一つ。ゆっくりに死を授けるだけだ」
第一次世界大戦で生まれた戦車は、膠着した戦線の突破、歩兵の突撃支援に効果を発揮した。第二次世界大戦は戦車を集中運用する事で、機動打撃戦力としての概念が固まった。そしてゆっくりの登場したこの時代、大規模な機甲部隊による突破はナンセンスだった。
まるまるもりもりと現れるゆっくりに対して必要なのは、戦線を支え歩兵を支援できる火力であり、突破して攻略すべき都市は存在しない。大規模な迂回機動による包囲を行う様な場所もなかった。
「ゆっくり相手にロシアの平原みたいな戦車戦をするわけないだろ。それよりも地雷を埋めた方が安上がりだ」
ゆっくりの物量に対して南部アフリカでは戦車は役に立たなかった。繰り返す陣地変換の過程で求められたのは機動性であり、装輪式の自走砲が役立った。
日本列島は山が多い為、防御に向いていると言うが、実際に敵が攻め寄せて主戦場になる場所は人工密集地の沿岸や平野部。敵がわざわざ山を攻めてくれる訳もなく、市街地では小回りのきく装輪装甲車が求められた。
モコスに61式戦車と言った新旧雑多な混成戦車中隊を指揮する古参の大尉は指揮所に呼び出された。上官は、横柄な態度の少年で少佐待遇の学兵。
「私の指示に従え。無駄死にはさせん」
芝村らしい傲慢な物言いだったが指揮官としての風格は持っていた。