桜舞う季節。
時折吹く風が木々を揺らし、花弁が青空に吹き荒れては薄着の少女たちの衣服を揺らす。そっとスカートに手を置く少女たちは甘酒の缶を手に和やかな表情で花見を楽しんでいた。
「ぷっはー! 甘酒の炭酸割り美味しいわね! お代わりー!」
「まあ、美味しいけど。おっさん臭いわよ、風」
「何よぉ、今日は無礼講よ! 何も問題ないでしょぉぉおお!!」
「アハハ! お姉ちゃんまた泣いちゃった」
穏やかな陽光の程良い温かさに思わず目を細める。
座ったシート越しの芝生の柔らかさと暖かな気候は、気を抜いたら睡魔を呼び寄せるかのようだった。特定の少女たちに目を向けると眠気よりも花見や料理への興奮が勝っており、目を輝かせて満喫していた。
年相応に焼き鳥や焼きそばの屋台で購入した物を頬張っては食事を楽しむ少女たち。
花より団子という言葉がある。個人的には球子や銀といった団子組だ。一年に一度咲く花々は確かに美しい。咲き誇った桜は道路の間を一面ピンク色に染め上げて、見る者の記憶に残る。
──残るが、毎日見ていると飽きてくるのだ。隣の美少女や目の前の食事に関心が向かってしまうのは俺の精神的な問題なのだろうか。
「という心境なんですが、花より団子派の人はカップを掲げて~!」
「「「乾杯!」」」
「ふっ、意外なところでお子ちゃまですわねカガフレッドは。では、皆さま! この花々を見る為に集った方はこのカップを掲げて下さいまし!」
「「「…………」」」
「乾杯は!?」
「あっ、ごめんなさい弥勒先輩。か、乾杯……」
「良いのよ亜耶ちゃん。無理しなくて。乾杯」
「……なんですのこの気持ち。わたくしも団子派に鞍替えを考え始めるか悩みますわよ」
「ご機嫌よう弥勒さん。団子派にようこそ。おや、あんまり飲んでませんね。どうぞ」
「おっとっと……。これはこれは、流石カガフレッド。お酌も上手ですわ」
「良い飲みですねお嬢様。ささっ、もう一杯」
「まったく仕方ありませんわね……」
「これ甘酒だよね? 度数詐欺じゃない?」
「お黙りなさい小雀」
料理上手な少女たちの持参料理を箸で突きながら、甘酒を飲む。
ほんのりと頬を赤らめながら甘酒でほろ酔いする疑似令嬢のカップが空になる度に注ぐ。適当な雑談と焼き鳥数本分で上機嫌に脳の回転を遅くしていく夕海子は、時間が経過するほどに多少のスキンシップを笑って許してくれるようになる。
「弥勒さんって乳首綺麗だよね。すっかり敏感になっちゃって」
「んっ……これくらいは当然ですわ。普段からお手入れは欠かしてませんもの」
「お手入れに欠かせない物は?」
「そうですわね……鰹でしょうか。毎日食べるのが健康に良いですわよ」
「なるほど、ところで俺の鰹についてですがどうですか?」
「鰹ほどではありませんが立派ですわよ。私の執事をしているだけはあります」
「──かっきーは私の執事だよ、ゆみきち~……間違えないでね?」
「は、はい」
本物の令嬢の言葉に首を竦める疑似令嬢。
笑みを見せて焼きそばの屋台に向かい東郷と一緒に食事を楽しむ園子の後ろ姿に、露骨にホッとしたような表情を見せる夕海子は俺の怒張を握り直しては上下に扱く。
周囲からの目線を誤魔化すように俺と夕海子の下腹部には毛布が掛けられている。
「ん……」
雁部分が気に入ったのか白い指先が凹凸部分を擦る。
肉竿を掌で覆いながら先走りを指に絡め、しゅっしゅと手で動かす。味わうかのように肉棒を掴む手の強弱を変えては、チラリと俺の顔を見る夕海子。
俺もまた、彼女の膝まで下ろした下着と共に陽光に照らされた恥部を見下ろす。風に揺れる恥毛と愛液で濡れた秘所を露出している状況に、恥ずかしそうに毛布で下腹部を隠す彼女は誤魔化すように甘酒の缶に口をつける。
あるかも分からないアルコールに頼る少女の秘部に手を這わせながら、
「ここの毛も揃えてるんですか? 前はもっと乱雑でしたけど。男を知ってからお手入れを始めたんですか?」
「──ぶふっ!?」
むせる夕海子。
ティッシュで少女の口元を拭い背中を摩ると、目元に涙を見せながら睨みつけてくる。
「……、気のせいでは? 弥勒たるもの以前からキチンと整えてましたわ。整えてないのは芽吹さんくらいですわ! ジャングルですわよ。……カガフレッドは前から思ってましたけど、やっぱりそういうフェチですの? 完全に剃るよりも生えている方が好みだと風の噂で聞きましたが」
「おい。どこの風だ、それ」
「あっ、待って下さいまし! 指、ダメッ……」
「こんなぐちょぐちょに濡らして、いやらしい音まで……他の人に気づかれますよお嬢様」
「ぅ、ぁ……~~~~ッッ!!」
桜の木の下で、花より団子。団子より女体。
抵抗は少なく夕海子は豊満な乳房を俺に押し付けると顔を肩に埋めた。ビクッと小刻みに震える少女の肩を掴み顔を見ると、呆けた女の表情を見せる夕海子に囁く。
「もっと静かにイって下さいよ、はしたないですよ」
「……ぁ、ぁー」
桜の木を陰に行われた犯行。
公衆の面前で、周囲の目線が桜に向かう中で疑似令嬢は絶頂に達した。衣服の中でずれたブラジャーからこぼれた胸肉を揉みながら、膝まで下ろした地味目なショーツを履かせる。
彼女が余韻から戻るにはもう少し時間が掛かるだろう。
桜を誰もが注視する中で、俺と夕海子に近づいてくるのは鬼の表情を宿した芽吹だ。
嚇怒の表情でこれから戦闘でも始めるような雰囲気。
彼女は素手だが、思わず警戒する俺の姿を気にすることなく芽吹は夕海子に目を向ける。
「亮之佑。ちょっと弥勒さん連れてくわね」
「どうぞ」
「ほら、弥勒さん……あっちで訓練ね」
「ふにゃ……はれ? 芽吹さん? どうされましたの?」
「そう、みっちり訓練を望むのね。……雀も来なさい!」
「とばっちりじゃない!?」
「ちゃっかり見ていたんでしょ! 発言も訂正しない! ツッコミをしない雀なんて雀じゃないわ!」
「いやだって最中にそれは空気が読めないどころじゃ……。そ、それにメブだって……ああ、睨まないでってば」
夕海子を担ぎ上げる芽吹と付き従う雀。
花見の途中だというのに、鍛錬をする精神は真面目か。或いはこの場を離れる言い訳か。恐らくは前者なのだろうと判断していると芽吹の脚が止まる。
キッと吊り上げた目で俺を見る彼女は、数秒もせずに目を逸らす。
「亮之佑」
「ん?」
「……私もちゃんと整えてるから変な勘違いしないでよ。見たことあるでしょうけど」
変な勘違いって? と揶揄えばこの場が大変なことになるのは想像に難くない。
鍛錬を好む真面目な彼女も年頃の乙女なのだと認識して俺は笑みを返した。気持ち悪い笑みだったのか、目を合わせようとしない芽吹は今度こそ夕海子を抱え、雀を従えて去って行った。
花見はこの程度のハプニングでは終わらない。勇者部は場慣れしているのだ。
慣れ過ぎて、甘酒程度で酔った少女たちの姿にまたかと周囲の少女たちは呆れ顔を向ける。此方に背中を向けて壁でも作っていたかのような囲いを解いては、何でもないような顔で話を続ける。
「……風さんは止めなくて良いのか? 遂に木に向かって話し始めたぞ」
「夏凜が止めるでしょ。何のためのツッコミ役だと思っているんだ」
「少なくともこの時の為ではないとは思う」
「んん? 今アタシのことで何か言った~? どうせアタシなんて、アタシなんてぇぇ」
「ちょっと風。そろそろ周囲の目がアレなことになっているから止めなさむぐぅ!!?」
何度目かの乾杯と共に空を見上げる。
青い空と白い雲はどこまでも広がり、周囲を見渡すと勇者部だけではなく様々な人たちが集まっては飲んで食べて騒いでいる。誰も彼もが楽しそうだった。
「あっ、夏凜ちゃんが風先輩と接吻しているわ。撮らないと」
「わあ、本当だ! 大胆だね!」
「アレはドレインキスだ。フーミン先輩からの口づけは相手から女子力を奪うとされている。一度でも吸われれば、相手の女子力は枯渇してしまうのだ……」
「──んむぅうう!!? ぷはっ、こ、こんなところで盛るなぁ……」
「フーミン先輩と、にぼっしーの熱いキス! これはみんなでキスコールだ!!」
「「「キース! キース!」」」
「だ、誰がするかぁ!!」
勇者部の日常風景に皆は笑って受け入れる。
多少の口づけなど、少女たちにとってはもう可愛いだけのものだ。いつまでも初々しさが残る純真な夏凜は顔を赤くしては俺たちを睨みつけ、その間に風が棗に唇を奪われていた。
泣き上戸な風を黙らせるイケメン勇者は静かに少女の耳元で囁く。
「これで良いのか?」
「……あ、あ、うん」
「風?」
「……なんでもないわ。ちょっと酔いが醒めただけよ」
「ビュゥォオオオオ!! フーミン先輩の酔いを醒ます男が降臨! 彼氏であるにぼっしーの隙をついての愛のキスが公衆の面前で炸裂なんよ! これが浮気だ! イエーイ! 見てる? かっきー!」
「事実は小説よりも奇なんよ、な展開がキター!!」
「園子! そんな風を吹かせるな! さっきからなんだそのテンションは、落ち着け! 出来ないなら私が落ち着かせてやる!」
「いいえ若葉さん。この風は絶やしてはならないのです。園子先生を止めるなら私の屍を超えてから行って下さい」
「杏!?」
それなりに騒がしいが、此方のメンバーも一部騒がしいので言い合いっこなしだ。料理と花を楽しむ組と、花に見向きもせず料理を頬張る少女で本日の勇者部は構成されている。
「んふふ……りょーさぁん」
そんな状況下、艶やかな声でほんのりと頬を赤くした少女が近づいてくる。
小動物のような小柄な体躯はスイスイと若葉や千景の間を通り、園子や、芽吹たちが密集する中をぶつかることなく擦り抜けてくる。
勇者部の人数もそれなりの数だ。どこかの施設に行くなら団体様扱いになる。現在も結構な美少女たちの群れに注目が集まっている中、俺に近づく少女が頬を膨らませる。
「どうせ小さいですよーだ。小さいから擦り抜けだって余裕ですよ。東郷パイセンみたいに引っ掛かる物もないですから……」
「よーだって。大丈夫だよ、樹。ちゃんと需要はあるから」
「なんのですか〜!? アハハハハ!」
ケラケラと小気味よく笑い声をあげる樹。
背中を向けて小振りな尻を向けたかと思うと勢い良く俺の膝に座った。臀部の柔らかさと共に座る少女の椅子となった俺は胸板に背中を預ける彼女の顔を見下ろす。
短めのブロンドヘアの少女は笑い上戸で、その可憐さよりも多少面倒だなという思いが胸中を過る。甘えるように身体をくっつけて鼻歌を歌う樹を背後から抱きながら周囲を見渡す。
「ふふ……友奈ちゃん。可愛い」
「東郷さんの手、あったかいな。えへへ、ぎゅー」
慈母のような表情をした東郷の膝枕で頭を撫でられて緩んだ表情を見せる友奈。カップルのように触れ合う友奈や東郷以外にも似たような光景は広がっている。
あちこちでピンク色の世界観が構築されている。親愛よりの友情の色は桜色だ。
「ぐーんちゃん!」
「はわわ……たかひまひゃん……」
「……若葉ちゃん!」
「ま、待て……こんなところで耳掃除は……ふわぁぁ……」
「……うたのん!」
「えっ、そういう感じなの、みーちゃん!?」
思わず嫉妬してしまうような仲睦まじい様子を見せる少女たち。
膝枕が流行なのか、美少女の膝で愉しんでいる美少女たちの姿は目の保養だ。
その合間についでだと言わんばかりにマッサージを施され顔を伏せる須美の背中を友奈たちの片手が触れていく。トントンと。指の腹で背中を押していく。
「ちにゃ……ちにゃぁ~……」
ビクッビクッとしていた須美の肢体がやがて動かなくなるのを見守る。
そうしていると、俺の膝の上で身じろぐ樹が小さく声を漏らす。
「ん……絶対触ると思っていました」
「嫌?」
「アハハっ、嫌なら離れていますよぉ」
「樹ちゃん触り放題だ~」
「えっち過ぎるのはぁ……ダ〜メ、ですからね?」
なんとなく樹の髪を撫でていると少女が俺の身体に擦り寄る。
人恋しいのか子犬のような小動物は細い太腿に手を添えてスカートの中に滑り込ませても、くぅんと鳴くだけで寧ろ俺の掌に頭を押し付ける。
やがて満足したのか、膝から降りた少女は太腿で俺の手を挟み進行を食い止める。
「平和ですねぇ」
「そうだね。このままずっと続けばいいのに」
平和とは続かないものだというのはこの場にいる誰もが知っている。
だからこそと言うべきか、巫女と勇者のセットや勇者同士のイチャイチャにメモを取っている園子ズや追従する杏、少女たちは春の陽気を身体に浴びて、休息を目一杯に味わう。
また次の戦いに備えるように。悔いがないように。
「ん……っ、ところで私が作った料理は食べないんですか?」
「……え?」
ふわふわな樹の髪の毛を撫でるのを止める。
上目遣いで俺の腕を掴んだ彼女はそんな一言を告げた。
「今日はもうお腹一杯なんだ。いつもみたいに若葉に食べて貰いなさい」
「それもいいですけど……男の胃袋の限界はないぜ! って、前に言っていませんでしたか?」
「過去は振り返らないんだ」
不思議なことがある。
樹の料理は以前よりも向上した。だが見た目は紫色が主体の何かになりがちだ。勇者部にテロを巻き起こしたことのある少女として、東郷と風、ひなたの特別授業を受けたこともある。
その結果、見た目も良くなり料理上手となった年もある。
しかし、定期的に料理の見た目だけは何故かリセットされてしまうのだ。
神の悪戯か、何かの超常現象なのかもしれない。
だが、そんなことは本人にとってはたまったものではないだろう。
紫の何かが入った皿を手にする樹は儚げな笑みで小さく呟く。
「私って料理の才能、無いんですかね……」
「……樹。そんなことないよ。あーんで食べさせて欲しいな」
「亮さん……」
「他の子たちも樹の手料理食べたいって言ってたから食べさせてくれよ。俺との約束だ」
「……はい!」
この世界では、俺は樹に料理については特に何も教えてこなかった。味見役だけだ。俺よりも料理上手な女子メンバーが大量にいるのでわざわざ出しゃばる必要もない。
味見役については何故か樹が若葉を指名することが多く、その若葉に一緒に味見役をと頼まれて地獄への片道切符を握ったことのある記憶を思い出し脳と舌を震える。
そんなことを考えている間にも、紫色の物体を乗せたスプーンが近づいてくる。
「はい、あーん」
「……あーん」
それでも妹キャラからのあーんは逆らう術などない。
幸いにして、樹の料理に関しては定期的に少女たちが鍛えているので問題は──。
気がついたら眠っていたらしい。
夢か現実か、覚醒直後のぼんやりとした状態で周囲に目を向ける。何故か俺を見下ろしながらオロオロとしている少女たちを見上げながら枕に顔を埋める。
何故か少しお腹が痛く全体的な倦怠感に襲われていた。それ自体は寝起き直後によるものだろうと気にすることなく、顔を埋めた枕は程良い弾力を返し、漂う甘い香りで肺を満たす。
顔を押し付けていると生身の人間の腹部であるのが分かった。
若葉の腹部だった。
「ん……起きたか」
「すやぁ」
「起きているわね」
瞼を閉じると頬を突かれる。
怒りではなく呆れを含んだ声色に薄目を開けると眼前に金髪の少女がいた。見知った少女だ。今日の朝まで隣で寝ていた若葉だが、記憶の中の姿よりも見た目が少し幼かった。
その胸元はいつの間にか慎ましく触れてみても萎んだままだ。
まさか夢なのかと乳首を当てるように指先で突くと、柔らかさと共に指を掴まれる。
「いたっ、いたた……」
「きゅ、急に触る奴がいるか!」
「わあ、顔真っ赤。そんなに怒るなよ、もしかして乳首に当たった」
「当たってない!」
小さくなっても力は同じ。
細腕からは考えられないほどの力で胸元から手を引き離した若葉。上体を起こしほんのりと頬に桜を散らせながら小さく睨みつける姿は可愛らしい。
視界の端で高速移動しながらカメラを向け回る巫女、ひなたの姿も納得だ。
黙っていれば西洋人形として売れていたに違いない。精巧なガラス細工を思わせる容姿と滑らかな肌は、本来なら見ることも叶わない少女の幼い姿そのものだ。
そんな風にジッと見ていると、手を離した若葉がプイッと顔を背ける。
そもそもいつの間に小さくなってしまったのか、そんなことを考える俺に声が掛かる。
「……起きて早々に人の胸を触るなんて、やっぱり加賀くんね」
「ぐんちゃん」
「ぐんちゃんって呼ばないで」
小さくなった千景が半眼を向けてくる。
年は同じ程度か。将来的な美人が確約されているような小学生高学年程度の見た目をした千景の周囲には高嶋や球子が抱きついたり興味深そうに顔を近づける。
「ぐーんちゃん」
「どうしたの? 高嶋さん」
「ぐーん……」
「土居さん、それで呼ばないで」
「こわっ」
睨みつける千景の頭を撫でる球子。
されるがままの状態、人形みたいな彼女の頬に俺も触れてみる。すべすべの瑞々しい肌は弾力を指に返し、さらりとした髪の毛を指に絡める俺の動作をジッと見る千景。
「……楽しい?」
「楽しいよ。千景先輩を触っていると楽しい」
「そう……加賀くんも座って」
素直に彼女の正面に座り込むと幼女と化した千景が近づいてくる。
恐る恐るペットに触るかのような指先は恐らく頬を突こうとしているのだろう。俺の動作を真似しようとする千景にペットの恐ろしさを教えようと思い、パクリと指を口に含む。
「ひゃあ!?」
可愛らしい悲鳴と共に顔を赤くして、俺の頭を叩く千景。
その手を掴んで、爪や指の腹を舌先で舐め回す。少女の恥部に快感をもたらすような舌の動きに何かを気づいたのか、頬を上気させる千景は抵抗を減らしていく。
「TPOを弁えなさい! 女子力パンチ!」
「あぶっ!?」
ドスッと的確なパンチが脇腹を抉った。
思わず口を開いてしまった俺に仁王立ちするのは小さくなった風だ。樹並に薄くなった胸を張る風は、勇者部の部長として拳で公衆の面前という状況を身体に教えてくれた。
とはいえ、それでもやや混乱している俺を背後から抱き締める友奈に動きを止められると園子が話しかける。指さした先にあるのは空になった皿だ。
「イッつんの料理が進化したんよ~。食べた人は小さくなっちゃうんよ」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「もう……なんでもありね」
唾液に塗れた指を何気なく唇に触れさせる千景を見ていると、ぼおっとした顔の彼女は俺の視線に気づいては慌てたような顔でハンカチで指を拭った。
若葉だけでなく、千景の様子もカメラに収めていたらしきひなたと目が合うと苦笑を見せつつも指を上に差した。
釣られて上を見上げると、いつの間にか曇天が広がっていた。
「皆さんが小さくなったのもありますが……そろそろ天気も悪くなってきましたので今日は解散にしましょう」
樹の魔法の料理が原因かはともかく幼くなった少女は多い。
防人組を除いて、全体の半分が小さくなっていた。
「うおー! 球子さん、小さくなりましたね!」
「銀~。タマよりデカくなったからって気安いぞ~。先輩と呼びタマえ!」
「もうタマっち先輩、あんまり変なこと言ってたら……どこ見てるの?」
「ううむ。見上げるマウンテンも良きものかな」
「もう!」
状況が悪化する前に解散となった。
素早く道具を片付けて、家に帰る頃には不運なことに僅かに小雨となった。
「濡れちゃったねー!」
明るく告げる友奈は俺の手を引く。
見上げる少女の背丈は普段よりも高く、珍しく思う。
「……お風呂に入らないと風邪引いちゃうね」
「もう沸かしてるんじゃない? 先に入って来たら?」
「駄目よ。亮くんが風邪引いちゃうわ」
「でも東郷さん──」
同じように俺の手を引く東郷の手が僅かに力を増す。
水で濡れた黒髪から覗く深緑色の瞳がジッと俺を見下ろす。
「亮くん」
「な、なに?」
「その姿になったら私たちのこと、なんて呼ぶんだっけ?」
「────」
それは、初めて小さくなった時のことだった。
ふざけて呼んだら、思った以上に喜ばれて、彼女たちの何かをくすぐった言葉。
「──お姉ちゃん」
「────」
ぶるり、と少女たちの肢体が震えた。
素早く口元を手で覆っていた東郷はやがて鼻血で汚れた手を下ろす。
隣を見ると友奈ですら、口元をによによと動かしては笑みをこぼす。不気味とも可憐とも捉えることの出来る彼女らは、やがて代表して東郷が告げた。
「うん! お姉ちゃんたちと一緒にお風呂に入りましょう?」
「……」
「有無は言わせない」