そして、慰安旅行当日。
勇者部所属の少女たちは、豪華そうなホテルを見上げていた。
「でっか……」
「ほ、本当にここであってんの?」
震え声の夏凜、そのツインテールの毛先に触る。サラリとした髪の毛を手にするとぺしっと叩かれる。怒気はなく呆れたような顔で俺を見る夏凜に声を掛けるのは園子だ。
さりげなく俺の脇腹をきゅっとつねると、
「うん、合ってるよ。今年は新しくオープンしたホテルにしました~、和室もあるんよ」
「流石ね、そのっち。分かってるわね」
「お世話になっている旅館は今、改装期間中だったからね。仕方ないって奴なんよ」
ふわふわとした態度で、俺の背中に抱き着く園子。
首に腕を回し、柔らかな私服越しに豊かな双丘を押し付けて、耳元に吐息する彼女は確信犯か。楽しそうな声音を聞かせる園子は俺の肩に顎を乗せると、周囲の少女たちに目を向ける。
「そもそもホテル自体貸し切りにしたから大丈夫だぜ、にぼっしー」
「……大丈夫って?」
「ここは私の家が出資していて、大赦スタッフも働いているから、何があっても大丈夫ってこと。みんなで鬼ごっことかムフフなこととか、どこで何をしても叱られないよ~」
「それって園ちゃん凄いってこと!? 園ちゃんすごーい! これが策略なんよ~」
「それほどでも~……それって私の真似? そっくりだぜ~」
純粋に褒め称える友奈に笑みを見せる園子がハイタッチをする。
俺を挟むように抱き合う二人、正面の友奈は全身で抱擁して柔らかさを伝え、園子は背中から抱き着いて乳房の形が分かるほどに密着する。……どうやらブラジャーを着用していないのか、形を変える乳を押し付け、甘い体臭を俺に擦りつける園子は準備万端の様子だ。
「ひょえ〜……これが乃木家の力……唖然失笑。流石は若葉さんの子孫だね」
豪華そうなホテルを見上げるのは小柄な少女だ。
少し赤みがかったブロンドヘア、樹のような小動物感がある人形のような小顔。どこか儚げで神秘的な雰囲気を醸し出す美少女も名家の力には動揺を隠せない。
少女は、芙蓉・リリエンソール・友奈を名乗る勇者部に加入した新人だ。
「それより、あんな風に公衆の面前でイチャついているカップルたちをどう思う?」
「豪放磊落。私たちは時代も次元も超越した先にいるんだ、郷に入っては郷に従えって奴だよ。大体彼氏彼女の関係に口を出すのは野暮ってものさ。柚木君もまだまだだね……。それに私たちの時代から何百年も経った若葉さんの子孫だよ? 一夫多妻制に作り変えているかも」
「……そういう物かな」
もう一人の、どこか気だるげな新人は柚木友奈。
黒髪、長身でありスタイルも良い。
二人合わせてみると、身長差もあり凸凹コンビのような関係に見える彼女たちは、最近この世界に召喚されただけあってフレッシュさがあった。
……昔の自分たちもあんな感じだったのかと思うと、懐かしさを感じる。
「そういえばあの頃の俺はこうして二人に抱かれるとドキドキしてたっけ。今では抱いて貰ってもそれが当たり前だなんて思ってしまう。二人が傍にいるのが当然だって考えてしまうんだ」
「あわわ……亮ちゃんが暗くなっちゃう……」
「ハグパワーが足りない! ヘイ、わっしー! ハグハグかっきー!」
「もう……仕方ないわね。α波を込めた特別な抱擁をしてあげる。……しっかりしてあなた」
特別なハグを受けた俺は息を吹き返す。
ついでに東郷に腰をトントンと押されて勝手に起動した肉棒が友奈の下腹部を押す。ピクッと身じろいだ友奈のスカートの中に手を入れ、柔らかな尻を周囲に見えないように揉む。
や、ぁ、と甘い吐息を漏らす友奈は上目遣いを見せる。
周囲を見渡して、隙を突くように触れる程度のキスを俺にする彼女は妖艶な笑みを浮かべた。
「……そういうのはあとでしよう? 園ちゃんや東郷さんともね」
「そうだよ~……あとでかっきー好みのエッチなことしてあげるから」
「他の子では満足できないように再調教するわね」
肉欲を理性で封じた俺は、しかし身体がおぼつかない。
新人のまばゆいオーラに目が眩んでしまったのか、東郷の肩と友奈の肩を借りたフラフラの俺は手の感覚すら曖昧だ。近くにある友奈と東郷の乳房をそれぞれ揉んでいると、声を掛けられる。
「遊んでいる場合か。というか、いつまで外にいるつもりだ」
気がついたら勇者部の部員たちは既にホテルの中に入って行った。
三十人はいる女子たち。完全に団体客扱いだ。流石に全員が少女のままだと何かしら問題があったかもしれないが、神樹が見ていたのかタイミングが良かった。
「若葉」
「わかちゃんが大っきい~」
「ゆ、柚木君。若葉さんだ……」
「変なことをするなよリリ。フリとかじゃないからな」
和装の妙齢な女だ。確かな膨らみは以前よりも明確で、刀こそ持っていないもののどこか厳格な雰囲気を見せている若葉だ。
二十代程度だろうか、俺よりも背丈がやや高い彼女に園子が飛びつく。
ビクともしない彼女に東郷と友奈の肩と乳を借りた俺は、若葉の身体に顔面から突撃する。
むにゅっとした柔らかな感触は明らかに大きくもふかふかとしている。
俺の顔を優しく受け止め、しかし微塵も揺るがない体幹はどれだけ鍛えたのか。
「……ふ、久しぶりに背を完全に抜いたな。よしよし」
どこか余裕すら感じる表情で俺の頭を撫でる若葉。
背後から近づいてくるのは、同じく二十代くらいには成長したひなただ。あらあらと頬に手を置く彼女も年上のオーラを漂わせて、俺に流し目を見せる。
「行きませんか?」
「あ、はい」
若葉やひなただけではない、何人かの少女が大人となっていた。
召喚されて日が浅い勇者たちが目を白黒させるのは当然だろうが、古参を気取っている俺にとってはなんのその。こっちは何年も前から男女の付き合いなのだ。
「ホテルにこのメンバーで行くって……凄い卑猥に感じる。パーティーが別の意味に──」
ドゴッ!! と若葉からの腹パンを喰らった。
続く言葉はなく、オゲェと再起不能にさせられたところを、若葉に米俵のように担ぎ上げられた。クラクラとする視界の中で、垂れた涎をハンカチで拭きとるひなたに卑しく微笑まれた。
「よし、行くぞ」
山賊お持ち帰りコース確定となった俺を若葉は容赦なく連れ回し、誰よりも早く駆け抜けて、他の少女たちよりも先に目的地に辿り着いた。
「えー……それでは勇者部も時代を超えた勇者や巫女たちとの交流を始めて6年を超えました。バーテックスや造反神との戦い、その過程で色んな意味で仲を深めてきましたが」
「お姉ちゃん? スラスラ読めているけど、もう酔ってる?」
「素面だけど!? ええい、もう良い! とにかくアレよ! 勇者部に繁栄あれ! 飲んで食って騒いで、盛大に楽しもうぞ!!」
パーティーの開催宣言、勇者部お疲れ様会は風の開催宣言で始まった。
普段よりも歳を経た風は何故か号泣、今年こそはキチンと最後までやらせてあげようと用意した原稿を引き千切り、泣いて喚いて妹をドン引きさせる所業を披露した。
そんな奇行は今更……新人以外は気にしない。
「うっひょー! これ、本当に全部食べちゃって良いんスか?」
「タマはもう食べちゃっているゾ!」
花より団子。
事前にドレスで着飾った少女たちにとって、なんか長ったらしいだけの話など耳にも残らない。聴覚よりも視覚の暴力である料理の数々に関心が奪われるのは当然のことだ。
テーブルには当たり前のように果汁酒がジュースですけど? といった具合で堂々と置かれていた。新人たちはともかく、ここで長く戦ってきた戦友たちはもうほぼ10代を過ぎたからだろう。
皆、精神年齢的には大人なのだ。合法的な大人なのだ。
「はぁー!? いくつになってもアタシは花の女子中学生ですけどー!?」
「お姉ちゃん、ステイ! ステイ!! 夏凜さーん、手伝ってー!!」
「しょうがないわね。ほら、最年長起きなさい。パンツ見えてるわよ」
「最年長とか言うなァ!! それにアンタの地味パンよりは女子力高いわよ!」
「ハア!!?? ふざけんじゃないわよ! 今日のはちゃんとした──」
かく言う俺も風の話よりも料理の方に夢中だった。
ひなたや東郷、その他美少女たちに着飾られ、髪型も変えられ、満足気な表情でパーティー会場に送り出された俺をチラチラ見る新入り少女たちに微笑を見せながら食事を楽しむ。
普段の努力の甲斐があったか、照れたように目を背ける少女たち。
さて。
テーブルに載るのは和食、洋食、中華、その他色々。
魂に宿る子供心が全てのメニューを制覇しろと叫んでいるのが分かる。
「バイキング形式か」
「亮くん、お野菜も食べないと駄目よ。はい」
「ママー! 胃袋が緑色になって食べられなくなっちゃうよ!」
「日本男児の胃袋に限界なんてありません」
正妻か保護者を気取る(本人に言えばキレられるので言わない)東郷から皿にどっさりと載せられる野菜たち。ささっと食べては骨付き鳥を始めとした肉、揚げ物、その他茶色のゴテゴテした物を胃袋に詰め込んでいく。
……合間合間にわんこそばの要領で野菜を与えられるときつくなってくる。
「と、ところで友奈が東郷さんに何か食べて欲しいって言ってたよ」
「ええ!? 友奈ちゃんが!? こうしちゃいられないわ! 須美ちゃん、後をお願い」
「任せて下さい。東郷さんの旦那様の体重は私が死守します」
「ふふ……お願いね」
「人をデブのように……。おい須美、なんだその胸元は、俺よりも大きくないかな? 管理しないとな」
ドレスの隙間から乳房を揉みしだく。
しっとりとした肉は柔らかく、コリコリと乳首を爪で擦るとビクッと須美が震える。かああっと顔を赤くした須美は乳首を硬くするも俺を睨みつけて、止めるように手を叩く。
「きゃあ! 助平行為は禁止ですっ!」
「……須美の胸を触らせてくれたら、もっと野菜を食べられるんよ」
「そ、そんなわけ」
「お願い、須美。少しだけ食べさせて。少しだけ、ね?」
くいっと顎を持ち上げて、耳元で囁く。
少女の身体が熱を持ち、見つめた瞳には様々な感情が過る。小さく唇を開閉させた須美はプイッと顔を背けて目だけを俺に向ける。
いかにも怒ってます! という顔を作った須美は、
「……他の人から隠してくれるなら少しだけ。それと! 野菜も! ちゃんと食べて下さい!!」
「はーい」
「まったく世話の──ッ……!! ぁっ……」
反撃するように須美からも身体を大事にしろと野菜を盛られる。人の目を避けて、彼女の豊満な肉果を揉みしだきながら野菜を食べさせて貰う。
身を震わせながら、逃げることなく野菜を盛り続ける彼女に俺は食事の管理を、俺は須美の絶頂の管理をすることになった。
「約束通り、誰にも気づかずに気持ち良くしたよ。須美」
「ちにゃぁ……」
「ああ、でも……杏はこっち見てるな。……介抱して貰うように言っておくね」
やがて小さな身体に余るほどの絶頂を味わわせて「ちにゃぁ」以外の言葉を須美が言えないようになってから、俺は杏を手招きする。
可憐に着飾った杏の髪を一房手に取って、柔らかな頬を撫でる。手に付着していた須美の愛液を唇に塗ると、それが何かを即座に理解した彼女がぶるりと震えた。
「杏。須美をお願いできる?」
「ひゃい」
「あんまり変なことしたらお仕置きね。こんなところで辱められたくはないよね?」
「……っ」
「ちゃんとやったらご褒美をあげるから」
想像力豊かな杏は面白いほど顔を赤らめて、下腹部を手で押さえた。
俺は須美を置いて、野菜を詰め込んだ胃袋の残った部分で料理を楽しんだ。
「はい、とーごーさん。口を開けて?」
「ぁ、……あーん」
「アメリカンドッグ、美味しい?」
「……うん」
「良かったー! じゃあ、こっちも食べて? あれれ? 東郷さん、これってなんて言うのかな? 忘れちゃった」
「……びっ、ビッグダブル……チーズバーガー」
「こっちは?」
「……ポテト」
「そうだった! ごめんねー、うっかりだ! はい、あーん」
「……あーん」
……あとで聞いたが、東郷は友奈からアメリカンドッグやハンバーガー、フライドポテトやチキンなどを沢山食べさせて貰ったと言う。
涙を流して喜んでたから一杯食べて貰ったと友奈はニコニコと笑っていた。
やがて復活した須美を少女たちの元に送り出し、杏に
「んほ~、七味がたまんねぇや! 辛すぎる!」
胃もたれしない。無限に食べられる。若い身体はやはり最高だ。
ガブガブむしゃむしゃと豪快に、しかし不快にならない程度に上品に肉を食べる。目端で何故か対抗意識を燃やした風が夏凜を煽り、その夏凜が芽吹を煽り、芽吹が……というように大食い大会が勝手に始まっていた。
ボテ腹になろうとも止めない彼女たちを見て、新人たちはドン引きしていた。
「まさに暴飲暴食……勇者の食欲は無限なのか」
「リリ、アレは近づいたらいけない部類だ」
「そうだね。……柚木君。アレ……」
「うわっ、赤っ……味覚大丈夫か?」
「前からだよ、アレは。出会った時から酷かったよ」
芙蓉と柚木に声を掛ける少女がいた。
「亮之佑くんは辛いのが好きなんだってさ。この前、私が鶏むね肉で美味しく調理してあげたら勝手に唐辛子を掛けたんだよ。味にメリハリがつくとかなんとか言ってさ……美味しかったけどね」
緋色の大人びたドレスを着た褐色の少女。
見慣れた友奈顔にあるまじき巨乳は隣で焼きそばを啜っていた球子を咽させる程に大きく立派だ。「でっか……セクシー過ぎでしょ……」と絶句する銀の隣では、二人の態度に呆れる杏(肌が妙に艶々している)が世話焼き女房の如く、野菜を彼女たちの皿に載せていく。
歩行の度にぷるんぷるんと震える乳房。
背中と胸元の空いた、大胆なドレスを着こなす赤嶺友奈。
「────」
チラリと流し目で俺を見る赤嶺。
まるで誘っているような視線を向けてくるが、今の俺は食事に夢中。性欲を押さえつけるのはいつだって食欲と理性と決まっているのだ。
そんな俺から視線を外し、芙蓉と柚木に赤嶺は先輩風を吹かせる。
あの二人の前で赤嶺を辱めたいな~、と下種な思考が浮かぶ。
そんなことを口にすれば鬼畜とかケダモノとか言われてしまうので、グッと飲み込む。
「ところで遠慮しないで食べてる二人とも? 私も今日はチートデーなんだ。食べるぞー!」
「あ、うん。……ただ、何と言うか、他の人たちに対して私たちは召喚されたばかりで……少し気後れしてしまって」
「大丈夫ですよ〜柚木先輩。パーティーが終わる頃にはみんなも〜っと仲良くなれるんよ」
「それより友奈。チートデーとはなんでも好きなだけという訳ではないのよ?」
「え〜、そんなこと言わないでよレンちー」
隣にいる園子(小)のふわふわ笑みと、その後にチートデーであろうとも食事の監視をする蓮華(妙に生地が薄いスケスケ紫ドレス姿)と赤嶺のやり取りが新人たちの緊張を解きほぐしていった。
「……二人が気になるの?」
「ぐんちゃん」
「……、……今、凄く当然の顔で呼んだけど、ぐんちゃんって呼ばないで」
──などと言いながら、きっとこのやり取りを楽しんでいるであろう千景。
彼女も親友である高嶋と同じピンクのドレス……ではなく黒と真紅を基調としたドレスだ。
身体のラインが明確に浮き出る、彼女の勇者服に似た大人びたドレス姿を見ていると、
「その……変かしら」
チラリと俺を見る千景。
「凄く似合うな」
「そう……ありがとう」
「君と熱い夜を過ごしたい」
「……他の子にも言っているんでしょう?」
「千景が最初だ」
「──ふーん」
ツン、とした顔で上目遣いを千景は見せる。
俺の頭から爪先まで遠慮なくジロジロと見ると妖艶な笑みを浮かべる。
「あなたこそ、スーツ似合うじゃない。悪い男って感じね」
「ありがとう。千景にそう言って貰えると着飾った甲斐があったよ」
やや頬を赤らめた千景は、一歩近づいてくる。
「どういたしまして……。その、……このドレス、なんだけど……」
俺の手が彼女の肩に置かれても逃げる真似はせず、千景の甘い香りが漂う距離に近づく。
抱き着くような距離感で千景はどこか熱を帯びたような表情を見せる。
「……あなたに見て欲しくて選んだの」
僅かに震えた唇からは、確かな意思が伝わってきた。
「……似合うよ」
腰を撫でて、そっと臀部に手を這う。
独特な弾力がある柔肌は、触れる度に小さな吐息を千景は漏らす。
他の同級生と比べて控えめな双丘はドレス越しに揉むと柔らかさが伝わる。小さく喉を鳴らした彼女は、俺の胸板をそっと押して距離を取ると赤らんだ顔を逸らす。
「……分かったから」
「何が?」
「シたいんでしょう? ……いいわよ。夜は長いのだし。……しばらく大変でしょうけど期待してるわ、加賀くん」
大人びたドレスの効果か、年上のオーラを見せた千景はそっと他の少女たちの話に加わる。以前は一人で部屋の隅でゲームをしていた少女が変わった物だ。
後方保護者目線で頷いていると、声を掛けられる。
「りょーちゃん、何してるのー?」
どこか甘ったるく舌ったらずな声音。
振り返ると、ワインレッドの大人びたドレスを着た少女が近づいてくる。漂う雰囲気は大人に近くも、挙動は元気そのもので結城友奈その人であるのが分かった。
「やあ、驚いた。元からだけど、今日は凄く美人だ。大人の女って感じがする」
褒めると、目をぱちくりと瞬かせてはにかんで笑う友奈。
手を後ろに回して、上目遣いで俺を見つめる彼女は元気丸出しとばかりに目を輝かせる。
「えへへ……ありがとう。亮ちゃんは……ホストさん? みたいでカッコいいね!」
「そう? みんなが好き勝手に弄ったからだね。気に入った?」
「うん!」
純粋な眼差しが眩しい。
露出は少なくとも彼女を普段よりも大人に近づける衣装、とても似合うドレスを着用した友奈の手を引く。
軽快ながらオシャレな音楽、サプライズなのか樹の歌に場が盛り上がり始める。
「……私、踊ったことないよ?」
「盆踊りはできる?」
「ほえ?」
質問に質問で返した俺に友奈は目を丸くする。
うーん、と少しだけ目を逸らした彼女は苦笑いを浮かべる。
「できるけど……流石に違うと思うな?」
「親戚みたいな物だ。大丈夫。リードするから、俺の手を離さないで」
「ぎゅーって? うん、それなら得意!」
全幅の信頼を預けるような瞳を輝かせて、弾けるような笑みを見せる友奈。まるで全てを飲み込む大空のような微笑みで俺の手を握る。見た目の快活さとは裏腹に、ガラス細工を握るような繊細な力加減が手のひらに伝わる。
とても大事にしてくれるのが分かるのだ。
その親愛が心地よく、失いたくないと思わせる。
「絶対、離さないから」
音楽が室内に響く中で、俺と友奈は踊る。踊る。踊る。
別に上手いとか下手とか競う訳ではない。誰かの目を気にして踊るような会でもない。空気と雰囲気と踊る俺と友奈を見て、互いの手を取り合う少女たち。
それを目端で捉えながら目の前の彼女と視線を交わす。
互いの息遣い。触れ合う体温。
ぎゅっと握った手と視線で何をしようとしているのか何となく意思疎通が可能になる。
眦を上げていた彼女は音楽に合わせて、くるりと回る。
「緊張してる?」
「……ちょっとね、でも……慣れてきたよ」
糸に引かれる人形のように、従順に、逆らわずに、俺に導かれる。
こう? と視線で訴えかける彼女の手を取り、細い腰肉に手を添える。運動センス抜群な彼女はスポンジのように吸収し、身体の強張りを和らげていく。
「────」
ふ、と友奈が吐息を漏らした。
眦を下げて、桜の精と見間違えるほどの彼女の舞姿は多くの視線を惹きつける。だが、その視線に彼女が応えることはない。
薄紅色の瞳はどこまでも、俺だけを見ていた。
ぎこちない踊りは、花弁のような軽やかさを持った舞へと変わった。
勇者部の慰安旅行は始まったばかりだ。
食べて、遊んで、踊る。
普段は人が面倒くさがることを勇んで行う部活動というか美少女たちの集まり。彼女たちと男女の仲になりながらも、ゴミ掃除をしたり、保育園で演劇をしたりと忙しい。
だからこそ、羽目を外してどこまでもはっちゃける必要があるのだ。
「次は……13番!!」
「リーチよ! リーチ!!」
「なんで15番は出ないのよ!」
「むむむ……」
食べて、歌って、踊って、やがて勇者部メンバーによる特技を披露していく。
居合斬りをする女もいれば、いつの間に習得したのか弾き語りをする少女もいた。俺も手品を披露して場を盛り上げることに貢献した。ちなみに特技披露は強制参加ではない。
徐々に上がっていくボルテージ。
どこか余所余所しい、場違いなのではと遠慮していた新人たちも楽しんでいるようだった。
「あと一つだよ、柚木君!」
「私もだ……」
今はビンゴゲーム大会だった。
食事を適当に(盆踊りをしてお腹が減ったからと、むしゃむしゃと食べている健啖家な少女もいるが)取りつつ、それぞれの席に座った少女たちに声を張り上げるのは樹と亜耶だ。
何故かバニーガールの恰好をした彼女たちは楽し気にショーを盛り上げる。
「なんでバニースーツに着替えているんだ?」
「次はカジノでしょう? だから先にドレスから着替えたのよ」
「なるほど。ところで、バニーガールってあの捲れそうで捲れない胸元が良いよね?」
パットとボーンが入っており胸元部分を締め付ける構造なので手動でなければ簡単には捲れない。しかし、微妙にサイズが合っていないのかチラリと薄い乳房に潜む桜色の乳頭が俺の目にはチラチラと見えた。
同意を求めて隣の席に座る芽吹に声を掛けると、ふっ、とニヒルに笑った。
「甘いわね……。衣装の胸部分だけではなくて小振りなお尻も、細い太腿も全てが可愛いわ」
「ふぅん? ずっとドレスって訳でもないし、亜耶と似たバニースーツもあった筈だよ。お揃いの衣装に着替えてきたら?」
「そうなの? なら……ってセクハラよ。触るのは止めなさい」
「ちょっと大きくなった?」
「髪切った? のノリでする質問じゃないわよ。……まあ、以前よりも剣が振り辛くなったわね」
「若葉現象じゃん」
「はあ? んっ……いつまで揉むのよ」
芽吹は半眼を見せ、胸元に触れた手を払い落とす。代わりにスカートの裾を捲り、太腿を撫でるとビクッと震えた彼女は静かに睨むだけだ。目立たなければ良いらしい。
周囲は気づいておらず、顔を近づけてくる芽吹が小声で告げる。
「そういうのは後でってみんなで決めてたでしょう? 今は新人を歓迎する時間よ。そういう大人なパーティーは日が沈んでからって」
「分かってるよ」
「この旅行であなたを負かすのは夏凜ではなくて私……私たちだってことを今度こそ証明してみせるから。楽しみに待ってなさい」
「そう言って、今年もみんなの前で泣かせてやるよ」
さらりと巻き添えを喰らった防人たち。
怒るならリーダーに怒って欲しい。滑らかな内腿を撫でると僅かに身じろぐ芽吹は僅かに頬を赤らめながら視線を檀上に向ける。内腿を伝い、奥にある布切れ越しに恥部に触れると僅かな湿り気を帯びており、そっと腕を掴まれる。
「それ以上するならこっちも時間と場所を無視して本気になるわよ」
目を向けると首を振る。
これ以上のお触りは厳禁らしい。
「それにしても、亜耶ちゃん……あんなにぴょんぴょんとはしゃいじゃって……」
亜耶を称える防人サーのリーダー、芽吹は自分だけは分かっているという顔を見せる。若芽色のドレスを着用した芽吹だけではなく防人組は大体同じような顔をしていた。
ちなみに樹の方は、彼女の姉が食べながら泣いて喜んでいた。
「それじゃあ……亜耶ちゃん。次、回して」
「うん」
商店街の福引きで見かけるような赤い多角形の箱、抽選器を亜耶は回す。「うんしょ」という掛け声と共にガラガラと音を立てて回転する抽選器からカラフルな玉が一つ転がり出る。
「タマもあれ回したいぞー!」
「……タマだけに」
子供心をくすぐられ叫ぶ球子に、ボソリと呟く千景。
そんなギャラリーに愛想よく笑う亜耶は、玉に書かれた番号を読み上げる。
「46番です!」
「おっ!」
「キター!! 本当にきちゃったよ、柚木君!!」
「あ、ああ……」
どうやらビンゴゲームで一番乗りの少女が出たらしい。
拍手と共に、亜耶からの優し気な笑みと言葉が送られる。
「おめでとうございます! えっと……リリ先輩に柚木先輩、赤嶺先輩ですね! 一番の人はあちらの不思議な鏡? 窓……がついた部屋で……」
二つの手が上がる。
「はいはーい!」
「私たちが! 本気の本気で」
「全力の全開で! 昇天して戻って来られないような!!」
「気持ちいいマッサージしちゃいます!!」
結城友奈と高嶋友奈だった。
今話のワインレッドドレス友奈の姿は
結城友奈は勇者である BUNBUN Illustrations から参考にしてます。