加賀家の朝食は基本的に洋食だ。和食ではない。
隙あらば東郷が俺の家の朝食を和食にするべく家に来た事があるが美味しかった。
だが和食には屈しない。朝は洋食なのは、俺がこの世界に生まれてから続けている事だからだ。
「だいたい朝はトーストと肉類、サラダや果物、後はコーヒーかココアだ」
「そうだね……、誰に言っているの?」
「独り言さ」
確かに『白米』や『みそ汁』は日本人を構成する因子であると転生後も俺は思っている。
だが単純に朝はそこまでお腹が減らず、どちらかというと昼にしっかりと俺は食べている。
昼食はうどんの確率が高くなるのだが、それはこの肉体にUDON因子が宿るからだろう。
「それで、昼ご飯を友奈が作りたいって……?」
最近の朝は、特に友奈がいる時はコーヒーではなく何となくココアを飲む。
冬が近づきだした今日この頃。身体が温まる物を欲している為だろうかとカップを傾ける。
「うん!」
思ったより熱いカップに息を吹き、少し冷まそうとする猫舌の俺を見ながら友奈は頷いた。
今日は土曜日と特に忙しくなる要因はなく、また彼女も本日はここで過ごすらしい。
入り用な物があるならば、即座にここから向かいにある結城家に徒歩2分で戻る事も出来る。
ちなみに結城家の隣にある東郷家は追加で徒歩1分も掛からない為、東郷もたまに家に来る。
そんな事を思い返しながらテーブルを挟み、まだ後ろ髪を結っていない友奈の顔を見つめる。幼さの残るあどけない顔立ちは俺の視線に気づくと眦を和らげ頬を緩めた。
「ちなみに何作るの?」
「秘密」
「……そうか」
「そうだよ!」
デザートの柿をフォークで刺し、その甘味に頬を緩める友奈の姿に俺も穏やかに微笑む。
これが樹だったらと思うと姉を即座に召喚しようと思ったが、目の前に座る友奈なら安心だ。
彼女の作る料理や家事関係の熟練度は以前事故で片腕しか使えない俺自身が鍛えたのだから。
「期待しているぞ、弟子よ」
「任せてください、師匠!」
いつかのノリでそんな事を言うと、にへらっとした笑みで友奈は頷いた。
煌めく瞳を向けられながら、午前中はどうしようかと俺は脳内で今日やるべきことを浮かべた。
+
「じゃあ、また後でね」
「おう」
そう言って友奈は自分の家に帰って行った。
朝、友奈と共に目覚めた俺は加賀家別邸で朝食を摂った後、一度彼女を家に帰す事にした。
何かあったわけではなく、ただ忘れ物があるからと、にこやかに言う赤髪の少女を見送る。
そうして彼女の姿が結城家に入り込むのを確認してから、そっと自宅に戻る。
休日は主に食材の買い足しや掃除、洗濯と一人暮らし故に意外とやる事が多い。
これに加えて時折、幼稚園で園児たちに劇を披露したりする時もあるが慣れとは恐ろしい。
「まずは洗濯して……、風呂掃除しよ」
家だと自然と独り言が増える。この穏やかな生活もそろそろ4年目に突入する。
俺が『加賀亮之佑』という男に転生を果たしてから、14年という時が経過しようとしていた。
勇者部という部活動に所属しているが、世界の為に『勇者』としても戦うという第二の人生。
退屈こそが嫌いな俺は、この非日常の日々が好きだった。
――失ったモノは大きすぎて、後ろを振り返る事が出来ないが。
「あとは……洗濯終わるのに時間あるし、掃除機で掃除かな……」
一人で暮らすには大きすぎる家と、本家のデカい屋敷は加賀家の財産の一つだ。
だが現状は持て余しているので、大赦にしばらく屋敷の管理をしてもらっている。
加賀家は乃木家の分家である為か、本家の位置としては乃木家本家の近くにあるのが利点か。
「懐かしいな……」
『昔話に花を咲かせるには、少し早いんじゃないかな』
「――俺も結構年かな」
一通りの家事を終わらせた俺に、唐突に囁く言葉に対して肩を竦める。
午前中に全ての工程を終わらせると、わずかに疲れる程度の疲労感に俺は襲われた。
洗濯物を干し終え、リビングにあるソファに沈むように座り込み、小さく息を吐いた。
『年というか、単純にキミが寂しがりなだけではないのかい……?』
「……ん~、俺に構ってくれるのかい? 構ってくれよ初代ちゃん」
『寝言は寝て言うといいよ』
「――は」
冷たく囁く少女の声音に膝を叩き笑いながら、首に掛けているネックレスを手に取る。
服から取り出された鈍く輝くチェーンの先、蒼色に輝く指輪から思念を通じて声が聞こえる。
見つめると深淵に入り込みそうな不思議な魅力がある指輪に宿る存在、彼女が俺の共犯者だ。
「あいにく今日は、『勇者』は休みだ」
今日は敵は来ない気がする。そんな戦闘を重ねて得た本能に身を委ねる。
四六時中身に着けている指輪をハンカチで拭き磨きながら独り言を呟きソファに寝転ぶ。
全国の専業主婦に敬意を表しながら、することも無いので俺は目を閉じ、早めの昼寝を始めることにした。
+
「起きてー。亮ちゃん、起きてー」
「……んあ」
その鈴音のような声音が耳元で囁かれ、ゆっくりと意識が眠気から乖離していく。
抵抗する眠気と交戦した結果、辛うじて勝利する事ができ、瞼を開くとこちらを見下ろす少女。ぼんやりする意識の中、爛々と薄紅の目を輝かせる友奈は何が楽しいのか俺に微笑む。
「お昼ご飯、もうちょっとで出来るよ!」
「あー……」
無邪気な笑顔を向けてくる友奈から視線を移し、壁に掛けられている時計に目を向ける。
およそ2時間ほど経過したらしく、現在は午前の12時少し前と昼ご飯の時間帯であった。
誰かが作ってくれるご飯というものはいつだって心を和ませるのだと思い、緩慢たる動きでキッチンに向かう。
「――――」
私服姿にいつかプレゼントした赤いエプロンという様相で鼻歌まじりに料理する幼妻。
漂う匂いと周囲の様子、使った食材などから、恐らく肉じゃがを作っているのだと理解する。
既に最終工程に入ったらしく弱火で少し煮ているだけで、あと2分ほどで完成するだろう。
完璧な姿に俺は背後で小さく頷いた。
楽しそうに揺れ動く友奈のエプロン姿を見ながら思った。
――セクハラしようと。
寝起きの所為か上手く頭が働かず、静かに幼妻の背後に近づく。
とはいえ足音を隠しているわけではなく、すぐに俺が近づいてくるのに友奈は気づいた。
「……うん? どうし……わひゃ……ッ!」
「美味しそうだな~」
充分に煮込まれたのを確認し、素早くコンロの火を消しながら友奈の胸を揉む。
エプロンの隙間、服越しに感じられる少女の双丘をやんわりと手のひらで弄り感触を確かめる。今までも寝ている時に時々成長させてあげようと揉み、少しずつ成長を確かめている。
「いきなり……ッ、亮ちゃん! やめっ……あぅ……ッ」
「いや、だからつまみ食い」
「ちょ……んっ、お、怒るよ!」
「嫌なの?」
「――ぁ、だって、こんなの……」
見た目で判る東郷ほどの巨乳ではないが、友奈のは形が良く普通くらいにはある大きさだ。
痛みを与えない程度に優しく胸を揉まれる友奈は身をよじらせるだけで、明らかな抵抗はない。
抵抗できるはずだが鍋を掻き混ぜる手を止めようとしない為、引き続き柔肌を堪能する。
「もう出来ているじゃん、美味しそうだよ友奈ちゃん」
「ひぅ……ッ! あ、あの、お尻に擦りつけないで……ッ」
「え~、何のことか分からないんよ」
寝起きの為かズボン越しに起き上がる逸物を柔らかい臀部に押し付け擦る。
凄まじい柔らかさのある桃尻は、以前東郷がお仕置に叩いた時よりも小刻みに揺れている。
このまま続行したいところだったが、ふと俺は午前中に端末に届いた連絡の内容を思い出す。
「そういえば、1時くらいに東郷さんが家に来るから、早く食べないとね」
「あっ、東郷しゃん……、来るなら……ひぅ……直接は駄目だから……あッ!」
「東郷さんは昼ご飯は家で済ませるって」
「そうじゃなくて……ッ」
そんな感じで昼ご飯の準備は終わり、二人で食べる事にした。
寒くなり出したこの時期、そろそろコタツを出そうと思いながら、肉じゃがに舌鼓を打つ。
至近距離で見るジャガイモは白い湯気を放ち、黄金色に近い色、仄かな香りが食欲を擽る。
程良い甘さが口の中で広がり、思わず頬を緩めると友奈が此方を見ているのに気付いた。
ふと似たような事が昔あったなと過去の出来事を思い出しながら味の感想を伝える。
「美味しい」
「――!」
「腕、上達したな、友奈」
「んへへ……結城友奈、頑張りました!」
何の捻りもない言葉だったが想いは伝わったらしい。
直後、華が咲いたような笑顔を見せる友奈と昼ご飯を食べ、それから食器を洗った。
食器は俺がキチンと洗い、東郷が来るまでの時間はリビングで友奈を抱きしめていた。
不思議と抵抗せず、エプロンを着たままの友奈は無言で俺に背中を預けている。
先ほどの出来事の余韻が残っているのか、腕の中の彼女はほんのりと頬を赤く染めている。
「亮ちゃん、どうしたの……?」
「いや、友奈のエプロン姿が魅力的でさ……。さっきは悪かったよ、火の元は消してたけど」
「ううん。ねえ……」
ソファに寝転がり抱き枕と化している友奈は頭を振り、わずかにこちらに目を向ける。
自宅に帰り結い直したポニーテールが揺れ、白く眩しいうなじから甘い匂いが鼻腔を擽る。
至近距離で見える薄紅の瞳を通して、俺の瞳が、血紅色の空虚な瞳が揺れているのが分かった。
「――もしかして亮ちゃんは、私がいなくて寂しかったの?」
「……ああ、寂しかったよ」
場の空気というか、人の感情を読み取るのが上手い友奈だからそれを引き当てたのだろうか。
勇者部に無くてはならないムードメーカー的な存在で、その笑顔には何度も救われた。
一度散華の影響で彼女の意識が戻らなかった時は再び色盲になったような気分だった。
病院で見舞う度に、東郷を殺して世界を壊して、最後には自分を殺そうと考えていた。
そんな事を素直にその感情を隠さずに吐露すると、友奈は姿勢を変えてこちらに抱き着いた。
「そっか……」
「――――」
「なら、これからもずっと、ずっと私が傍にいるからね」
「……」
「あんまり他の人に変な事したら駄目だよ」
そう友奈は言って、俺の背中に手を回して痛いくらいに抱きしめた。
そのあまやかで至近距離から向けられる柔らかな声音と体温に意識が包み込まれそうになる。
鼻腔を擽る友奈の匂いに何かが満たされていくのを感じながら、それでも辛うじて口を開く。
「はいはい……」
「はい、は一回だよ!」
「――、友奈ちゃんは柔らかいな~」
「ひゃ……ッ、待って……あっ、直接は……ッ」
「……東郷さんが来たら止めるかな」
抱き着き俺の背中に手を回すので、代わりに俺は友奈の背中から下、柔らかな臀部に触れる。
最早狙っていると思える短めのスカート内部に手を滑り込ませ、普段は晒されない部分を弄る。形が良く手触りの良い柔らかな桃尻に指を這わし、ショーツの中へと潜り込ませて柔らかな恥部に指の腹で触れる。
「んぁ……ッ」
その瞬間、微かに嬌声を漏らし可愛い反応を見せる友奈に笑みをこぼす。
恐らく羞恥に歪んだ顔を見ようと首を傾けると、友奈は必死に顔を隠し抵抗を行う。
俺の胸板にグリグリと顔をうずめ、熱い吐息をもらしながら背中に回す両手に力を入れる。
そんな強張る少女を落ち着かせようと意地の悪い笑みを浮かべながら、悪戯を続行する。
「――反応が可愛いもんな」
「……っ」
服の襟、白い首筋のギリギリ見えるか見えないかの位置に吸う様にキスをする。
同時に指先だけで判る穢れを知らない無垢な彼女の性器、濡れた膣口に薬指を挿入する。
わずかな抵抗を擦り抜け侵入するが、締め付けによって第二関節で膣肉に阻まれてしまう。
「濡れてる」
「……ぅ……ッ」
指の腹でその感触を確かめるように撫でていき、ときおりその状況を囁く。
弛緩しだした身体を抱きしめながら何度も膣口を指で押し出すように擦り、出し入れする。
無意識なのか浮き出す腰を力で押さえながら続けると静かな部屋に吐息と水音が響き渡る。
自らの愛液で響く水音に、友奈が耳まで赤くするのは羞恥ゆえか。
背筋を指でなぞると微かな嬌声と共にビクンと背筋を伸ばすのが分かった。
「――――」
「……ん……んぁ……いッ」
手淫を続け友奈の脳に染み渡るように囁くと、数分ほどで更に膣口が痙攣し指を締め付けた。
同時に愛液の分泌量が増えたのが指先の感覚で判ったので、手のひらに塗りたくり引き抜く。
そうしてスカートから手を引き抜くと荒く息を吐く涙目の少女にその手を見せつける。
「ほら見てよ、友奈。こんなにエッチな糸を引いてるよ……。友奈の大事な処から」
「いや……ぁ、見せないでよ……」
外気に晒され、俺の手のひらに大量に付着している透明な滴が照明に照らされている。
呼吸を少しずつ整える友奈は、目の前で見せられる己の恥丘から漏れ出た愛液に目を瞑る。
頑なに目を開けようとしない少女の様子に薄暗い快感を得ながら形の良い耳に小さく囁く。
「どんどん敏感になっているね、ちょっとしか触ってないのに、……いやらしいよ」
「――! だっ、だって亮ちゃんがいつも悪戯してくるから……」
「俺はそんなエッチな友奈、好きだけどね」
「――――」
その瞬間の友奈の表情は、きっと、この世界で俺しか見る事が出来ないだろう。
ただ言葉を伝え、伝わった友奈の薄紅の瞳に、あらゆる感情が波面のように揺らいでいく。
その感情の奥を覗き込ませまいと友奈はギュッと瞼を閉じ、代わりに額を擦り合わせた。
「……」
初代が語っていた“寂しがり屋”という俺への評価は間違ってはいない。よく解っている。
だから、こんな自分に優しく笑顔を向けてくれる友奈の存在は絶対に離さない。自分の考えがどれだけ卑怯で矮小で罪深く、傲慢であるのかは理解し、今更だと小さく嗤った。
「俺は……」
友奈の心を、友奈の身体を、俺に、『加賀亮之佑』という存在に溺れさせたいと、そう思う。
絶対に離れていく事が無いように。
+
それから少し時間が経過し、玄関のチャイムが鳴ったのが聞こえた。
先ほど連絡があった東郷なのだろうと時計を見ると、もう昼を過ぎ針が1時を指していた。
友奈を抱き起こし、乱れて寝起きのようになった友奈の短めの髪を素早く整えていく。
「ほらっ、東郷さん来たよ」
「……ぅ、うん」
そうして廊下の冷たい感触を足裏に感じながら、友奈を引き連れ玄関の扉を開ける。
友奈とは別のベクトルで可憐な少女、艶のある長い黒髪を纏め肩から前に垂らした少女。
勇者部の中で最も和が似合う、私服を着た国防系少女が扉を開けた俺を見上げて微笑む。
「こんにちは、友奈ちゃん、亮くん」
「やあ、いらっしゃい」
「――こんにちは、東郷さん!」
濃緑の大きな瞳を煌めかせて、東郷は時間通りに俺の家に来た。
東郷家は結城家の隣、結城家は加賀家別邸の向かいと言うとこの近さが解るだろうか。
大赦による思惑によって俺がこの家に来て4年、東郷が引っ越してきて3年の歳月が経過した。
「風先輩も急よね。千羽鶴なんて」
「そうだよね。でも私たちなら大丈夫だよ!」
何の依頼だったかは忘れたが、風が持ってきた依頼で千羽鶴を作る事になっていた。
その通達をごめんねーと誤魔化し笑いを浮かべる風を夏凜が怒るという日常の光景。
既に断る事が出来ないという状況下であると判明したのが2日前の木曜の放課後だった。
そんなわけで先ほど、ご近所陣営で鶴を折ろうという連絡が東郷から来た。
夏凜は用事があるらしいが、適当に貶し褒めるとなんだかんだで夕方から来る事になった。
家に上がる東郷が持ってきた茶色の紙袋の中には無数の彩りのある大量の紙が入っている。
それを確認していると、ふとこちらを見る東郷は小さく微笑みながらこんな事を言った。
「ふふっ……二人っていつも仲が良いわね」
「ん~? 友奈とは仲良くしているよ。……これ以上ないくらい」
「……?」
「も、もちろん東郷さんとも仲良いよ! ……ねっ!」
思わず意味深な言い方になり、その意味が分からず世間話のつもりだった東郷は首を傾げる。
唯一何かしらのニュアンスを感じたらしい友奈は俺の横腹を小さく小突き、笑顔を保つ。
そんな友奈の反応に満足感を感じ、東郷が持ってきた紙袋から一枚だけ紙を手に取る。
「……亮くん。もしかして奇術?」
「まあ見てなよ」
濃緑と薄紅の瞳が見つめる中、俺の手の中にある紙を彼女たちの目の前で握り締める。
そして握り拳にもう一方の手を重ねた後、そっと拳を開くと手のひらに折り鶴があった。
特に何てことない大道芸に純粋に驚く少女たちの反応に俺は小さく微笑み呟いた。
「――イッツ、カガワ☆イリュージョン」