讃州市からやや離れた場所に存在する屋内プール施設。
流水プールや温水プールなどそこそこ充実した設備がある。
当然夏は人が多くなるが、時期的にまだ閑散期な為か人はあまり見られない。
「まあ、混んでたら絶対来ないけどな」
新しく買った黒と赤の海パンのみの姿で俺は呟いた。
広い施設、心をくすぐられるような遊具に目を向けながら数人の少女を待つ。
何気なしにふと上を見上げると、雲の間から見える太陽の光にわずかに目を細める。
「……」
女の着替えは長い。
だが、同時にどんな物を着用してくるのかという期待を膨らませる時間になる。
膨らむ期待と股間を沈め自販機から買ってきた飲料の蓋を開けては閉める行為に意識を向ける。
「お待たせー」
そうして、やがて耳に届く聞き慣れた少女の声音。
鈴音を思わせる快活なお向かいさんの声に亮之佑は目を向ける。
「どう……かな?」
「……」
どこか照れ臭げな表情で歩いてくる少女。
亮之佑に見せる為に園子や東郷と選んだという水着。彼女が選んだシンプルなビキニタイプは桜の模様、胸元や腰回りにはひらひらとしたピンク色のレースがあしらわれてる。
「可愛い」
「……! ありがと」
はにかむような笑顔で告げる友奈の後ろから可憐な美少女達が続く。
友奈の笑顔に吸い寄せられるようにして現れた東郷も慎み深くも大胆さのある水着姿だ。
「東郷さん」
「亮くん。今日は頑張ろうね」
「……なんでしたっけ」
「水練よ、忘れたの?」
「そうでした」
とぼけつつも東郷の水着姿に目を向ける。
薄青色のビキニには朝顔の模様が施され、まろび出そうな乳房の存在に目が吸い寄せられる。恐ろしい程に似合う人工的な水着は少女自身の雪肌をより際立たせる。
「綺麗だよ」
「も、もう……そういう事をさらっと言わないで」
頬を赤らめる東郷は自らの柔肉が作る谷間を手で隠しながらも小さく微笑む。
そうして準備体操を始めた友奈を追いかける東郷のまろやかな尻を目で追いかけると、東郷の後に続く一人の少女が浮き輪を持ちながら亮之佑の元へと歩いてくる。
「ヘイヘイ、かっきー!」
「園ちゃん」
「おまたせ~、……似合う?」
ハイビスカスの髪飾りをつけ、長い金色の髪をポニーテールにした園子の姿。
彼女もまた紫のビキニと白い双丘を揺らし、見事なくびれを姫君は見せつけてくる。
「似合うよ」
「んへへ~、どれくらい?」
どこか悪戯っ子のように上目遣いをする園子はそんな言葉を放つ。
どれくらいと聞かれるとどう答えるべきか悩むが、少し考えて形の良い園子の耳に囁く。
「そうだな。今すぐ――――……外で、――――、――――くらい」
「ほぇ……!?」
顔を赤くする園子に俺はクツ……と小さく笑いかける。
まさかこんな公共の場で淫らな言葉を囁かれると思わなかったのだろう。
「か、かっきぃ……」
「嘘じゃないよ」
「も~」
浮き輪で赤めの顔を隠し耳を押さえつつも、細い少女の手が亮之佑の腕を掴む。
小さな力ながらも逆らわずに金色の髪の少女に引っ張られて二人でゆっくりと歩きだす。
「今日はありがとうな。園子」
「ううん、かっきーの為だからね。というかほとんど『大社』の人たちがしてくれたんだ」
広い施設には水の音が響くが人の姿はいない。否、俺と友奈と東郷と園子しかいない。
合計四人。裏にスタッフの人間はいるかもしれないが『大社』の息が掛かった人間だろう。
もともと乃木家が経営する施設で、更に勇者の事情に詳しいという身内のみの空間である。
本来は俺と東郷だけで練習するつもりだった。
ところがどこからか話が漏れたのか、せっかくだから皆で行こうという事になった。
絵面的に泳げない少年に教える少女達みたいな構図だけはやめて欲しい男心があるのだが。
「……?」
「むふ~」
そんな事を思っている時であった。
くいっと肘を引かれ、目を向けると園子が小さく微笑む。
「かっきーがまだ泳げないなんてね~」
「……いやいや、園子、園ちゃんや。人間欠点の一つや二つある方が魅力的じゃないか?」
出来過ぎというのは駄目だと思う。見ていてつまらないと感じさせる。
全体的に近寄りがたい存在になると俺は思うが、その意見に対して園子は首を振る。
「自分で言うのはダメだよ」
「あ、はい」
「でも、かっきーは魅力的だよ」
プールという施設。呼吸する度に鼻腔をくすぐる独特の匂い。
閑散期とはいえ、一年中営業しているらしいこの施設は現在『勇者』の修練という名の慰安目的で借りられている。今後も続くであろう御役目で少しでも休息を与える為でもあるらしい。
「夏凜ちゃんや風先輩も来れば良かったのに……」
「確か防人の人たちの所に用事があるらしいって」
「風先輩は?」
「フーミン先輩は食べ過ぎでお腹壊しちゃってお休み、イッつんは歌のレッスンが被ったって」
「今回は運悪くタイミングが合わなかったのね」
夏凜や樹はともかく、あの風が腹を壊すというのは珍しい。
何かやけ食いを行う要因でもあったのか、それとも単純に食欲が高まったのか。
いずれにせよ、彼女たちは今日のプールの目的は知らされている。
彼女たちとはまたタイミングが合えば、それこそ旅館の時のような機会もあるだろう。
そんな風にこの場にはいない仲間たちの事を思い出していると園子が静かに肩を叩いた。
「かっきー、かっきー」
「ん?」
「……あんまりフーミン先輩を揶揄ったら、怒るよ」
「…………若気の至りって、あ、いや、……まあよく分からないけど気を付けます」
「うん、泳ぐの頑張って~。私はゆーゆと遊ぶから」
琥珀色の瞳は淀みなく、そして真っ直ぐに血紅色の瞳に向けられる。
白く細い指でふに、と自らの薄い唇に触れる姿は、一体どういう意味なのだろう。
深く考える事を止め、俺は準備運動もそこそこに逃げるように水面へと入り込むのだった。
---
水の中は何も音がしない。
静寂、ときおり自らの呼気が泡となる音と心音のみが全て。
「――――、……」
少しずつ息が、肺が、身体が悲鳴を上げだす。
それらを抑え込み、教えられた動きを模倣するべく身体を動かす。
バタバタと傍目から見たらほとんど溺れているような無様な姿を、あと何度晒せば――
「はい、顔を上げて」
「は――」
鈴音のような声音。
穏やかさと声端に柔らかさを感じさせる少女の声を耳で拾い、顔を上げる。
刹那、目の前に広がる肌色と数多の雑音が静寂を薄紙のように切り裂いていく。
「……随分と上手くなったわよ。亮くん」
「それ、どっ、はぁ……どうも」
喘ぐように肺に酸素を送り込んでいく。
二度、三度繰り返し、そうして此方を心配気な顔で見やる少女に笑いかける。
「先生が良かったんだよ。事前の勉強会も役にたった」
「そう……?」
「そうだよ。あの分厚い教科書は凄かった……」
「ふふ……ありがとう」
水着の少女との特訓により俺は人並みには泳げるようになった。
もともと息継ぎが出来なかったが、スパルタな指導により改善する事が出来た。
お互い水の中で浮きながら、小首を傾げ此方を見やる東郷は薄い唇を震わせる。
「これで何かあっても大丈夫でしょ?」
「……たぶんね」
とはいえ、人は溺れた時はどうしようもない。
東郷のおかげで最低限泳ぐ事は出来るようになったが、付け焼刃のような物だ。
その時にならなければ分からないが、今はただ自らの成長について喜ぶべきだろう。
「なるようになるよ」
「……そうね」
「さて、東郷さん」
「どうしたの?」
「俺、頑張ったよね」
「え、ええ」
「頑張った人には何か褒美があると次も頑張れると思うんよ」
チラリと、どこか困惑する東郷の背後を見やる。
楽しそうに泳いだり休んだり何かを話す友奈と園子とはそれなりの距離がある。
「亮くん……?」
「東郷さん」
「は、はい」
真面目な顔を作り少女の名前を呼びかける。
ピクリと動く東郷、その動きに呼応するように水着に包まれた乳房が小さく震える。
本能が吸い寄せられる柔肉に目を向けると、視線を読み取った東郷がジト目になる。
「ちょっと、……触っていい?」
「……もう」
我ながら馬鹿な問いかけだ。
キョトンとする東郷は、やがて自らの身体を抱きつつ困った人を見るような表情をする。
纏めた黒髪、その毛先を弄る少女はわずかに頬を赤らめつつも、やがてコクリと頷いた。
「少しだけね」
そう言うと黒髪の少女は俺の手を取り自らの双丘へと導く。
染みの無い、日に焼けることを知らない雪肌を見せる柔肉へ触れる事を少女は許す。
「ん……、ふふっ、くすぐったい」
「東郷さんってスタイル良いよね。モデルみたい」
「そんな、褒めても、んんっ……」
ふに、と指が沈み込む。
餅のような柔らかさが手のひらに広がり、同時に幸福感に包まれるのを感じた。
水着からはみ出る肉の丘。
その気になれば剥ぎ取れそうな布切れに守られている乳房を揉む。
ふと下から乳肉を持ち上げるとズシリとした質感に俺は思わず口を開いた。
「やっぱり、普段は重かったりするの?」
「え、ええ。わりと結構肩とか凝るから……」
「また今度マッサージする? 友奈と一緒に」
「……その時はお願いね、亮くん」
性的な行為ではなく、あくまで軽い触れ合いとして。
風呂場ではなく公衆のプールで水着の少女の乳房を揉む。
その行為はある種の実績を満たしたような、人知れぬ満足感を俺に与えた。
「……ロマンかな」
「亮くん?」
「いや、今日はありがとう、東郷さん。東郷さんのお陰で泳げるようになったと思う」
「よかったわね」
「うん、だからちゃんとお礼はするよ」
「お礼なんて、そんな」
名残惜しいがそっと少女の双丘から手を剥がす。
柔らかさの残る手のひらを水につけながら俺は東郷に小さく笑いかける。
「さっ、二人の所に行こうか」
「ええ」
ゆっくりと流れるように少女たちの元へと泳いでいく。
疲れたのか、此方に気づき手を振る二人の少女はドーナツ型の浮き輪の穴に腰掛けるようにして座っていた。
「お疲れ様、亮ちゃん」
「見てたよ~」
柔和な笑みを浮かべる園子と友奈。
ぷかぷかと水の上に浮かぶ少女達はどこか虚ろな目をしていた。
「二人は何してたの?」
「ん~、ぼーっとしてた」
「園ちゃんとお喋りして、泳いで、……ぼーっとしてた」
「どんな話してたんだ?」
「……秘密だよ!」
ねー、と弛緩した動きで確認を取る少女達。
欠伸をする園子に呼応するように開く口を手で隠す友奈は東郷に目を向ける。
「ヒミツ……。私の知らないユウナチャン……」
「東郷さん」
「――はっ! ど、どうしたの? 友奈ちゃん」
「えっと、そろそろ帰らない? 今日は皆で亮ちゃんちでお泊り会するから」
「お泊り会だぜ~」
「そうだな……、今日はもう、終わりにしよっか」
施設から見える外は太陽も傾き、日差しも和らいでいる。
これ以上遅くなれば自宅に戻る頃には夜になっているかもしれない。
なによりも少女たちの水着姿を堪能し、本来の目的である水泳能力も向上した。
「今度は皆で来ようね!」
笑顔で告げる友奈の声を最後に俺たちはプールから上がる。
水を含み重くなった水着から水が腿を伝う珍しい感覚の中で俺はふと思った。
――これから先も、こんな日常が続きますようにと。