抱きしめた東郷の身体は柔らかく、仄かな柔軟剤の香りが服から漂う。
頭部に乗る二つの膨らみは確かな重さと共にむにゅりとした柔らかさが伝わってくる。
「よしよし……」
後頭部を拙くも撫でる少女の手のひらは暖かく、眠気と懐かしさを覚える。
腕を少女の背部に回すと、薄い布地越しに少女の柔らかい肉の感触が伝わる。
「お願い……」
「駄目」
どうしてこんなにも柔らかいのだろうか。
そんな女体の神秘に思考は働かず、しかし身体は少女を求める。
抱き枕のように顔を押し付け、回した腕を放す事なく端的に告げる。
「お願い」
子供が愛想を振りまき母親に玩具をせびるように『お願い』をする。
可愛らしく、愛らしく、時には泣き叫ぶ事で周囲の目を引かせ、要望を叶える。
子供とはそういう存在だ。だからこそ子供の真似はそれなりに効力があると確信するが、
「駄目よ」
目の前の少女には通じる事はないらしい。
それは抱きしめて懇願する自らが悪いのか。愛らしさが足りないのか。
なればこそ、他人ではなく目の前の少女に通じそうな会話を試みる。
「『そんな事したら、東郷さんのこと嫌いになっちゃうよ!』」
「……ゆ、友奈ちゃんの声マネしても駄目。それに友奈ちゃんはそんな事言わないわ」
「すっごいエッチな事してあげる」
「それは亮くんがしたいだけでしょ」
「でもしたいでしょ?」
「……それは、その……、とにかくダメよ」
抱きしめて告げる真摯な言葉は拒絶される。
どこか柔らかい口調で、母親が子供を優しく叱るような声音で少女は告げる。
「――飲み過ぎは身体に悪いって言ったでしょ」
「俺はそんなに飲んでない」
炬燵の熱を足裏に感じながら東郷の言葉に反論する。
言葉にしなくては伝わらない事がある。相手なら分かってくれるだろう。
そんな身勝手な期待をした結果、散々な目に遭うというのはよくある事だ。だからこそ、相手との綿密な会話の重要性を理解して、俺は懸命に抗議の声を上げる。
「飲酒禁止は横暴だ!」
「亮くん、未成年でしょ」
「――、中身は成人だから」
「何言ってるの?」
真顔で尋ねる東郷に俺は言葉に詰まった。
未成年は飲酒ダメ絶対。
異世界だろうが、ハーレム気取っていてもダメ絶対。
そんな事は知っているのだ。当たり前の事実だと思う。思うのだが――、
「なんで今更」
「今更じゃないわよ。ただ少しアルコール依存症の傾向があるから……」
人は何かに依存して生きている。
酒、ギャンブル、タバコ、ゲーム、男や女と様々だが、それでも何かに縋りつかなくては生きていく事など出来ないと思う。そうして縋りついて明日という名の未来に希望を見出す。
だからこそ、少しくらいと考えてもおかしくはないだろう。
多少、コッソリと呑むだけなのだ。それを病気などと一緒にされては困る。
「いや、そんな訳」
「亮くんの健康が心配だから……、ね?」
「俺は依存症じゃないから」
「もう亮くん一人だけの身体じゃないのよ?」
「――――」
口論とも呼べない会話は東郷が手綱を握っていた。
俺を管理すると言わんばかりの少女の態度に、しかし悪い気がしないのは何故か。
鼻腔を擽る少女の匂い、頭を撫でる手のひらは確かな親愛を感じさせる。母性本能でも芽生えたかのような少女の行動に戸惑いを覚えつつも、彼女の女体の柔らかさに目を細める。
枕とも違う独特な柔らかさと温かさ、そして東郷の指先が心地良くてこのままでは眠ってしまうという予感が俺を襲った。
このまま東郷の胸元に赤子のように抱き着いて眠るのも良いが――、
「あいにく今日は、昼寝の予定は無いんでね」
「それ以前にまだお昼前よ?」
「俺レベルになればいつでも眠れるんだよ。園子に鍛えられた」
「睡眠って鍛えられるの……?」
うつ伏せをやめ、仰向けになると東郷の深緑色の瞳と視線が交差する。
その瞳には以前のような妖しげな光は見られず、穏やかに微笑む少女の姿が映りこむ。
その、どこか余裕のある姿に僅かな苛立ちを覚えた。
「ぁ、ちょっと……」
虫が木の幹を這うように、女体を顔を擦りつけるようにして這う。
触れる部分全ては男と異なり柔らかさと丸みを帯び、ぷわりと漂う少女の甘やかな匂いはついつい肺に満たしたくなる。自らの体重で少女を床に押し倒すと抵抗は無く少女は薄く微笑む。
「そういうのは夜に、……んっ」
衣服の布地が薄いのだろう、軽く触れるだけでも豊かな双丘の感触が手のひらに伝わる。
上着の隙間から手を入れるとしっとりとした東郷の柔肌が心地良く、何となく撫で回したい感覚に囚われる。少女の上着を捲り、白い肌を指で蹂躙すると東郷は身体をくねらせ、笑った。
「ん、ふふっ、ぁ、あはは……ッ!」
「夜に、何かな?」
「や、ゃ、め、んッ、あはっ、―――!!」
うら若き乙女に圧し掛かり、無防備な腹部をくすぐる。無駄な脂肪が少なく程良く引き締まった東郷の腹肉は笑い声を上げる度に収縮を繰り返し、視覚的にも楽しませる。
しっとりとした隣人の柔肌を楽しみながら俺の手は腹部を駆けのぼり、双丘に到達する。
ブラの感触、ホックを外すか考えて、手でずらし零れた乳房を手のひらで味わい、苛める。
大きく、しかし下品さの無い淑女の乳房はこの目で見ずとも瞼の裏で思い返す事は容易い。
しかしそれでも見たくなるのは雄の性なのだ。
臍まで捲れていた上着を更に捲ると、薄青色のブラが捲れた肉果が男の目に晒される。
「ッ」
「……!」
その瞬間の、東郷の表情に息を呑む。
幾度となく肌を重ねたにも関わらず、羞恥の熱で頬を上気させる女の表情に。
「……」
「……する、の?」
「……何を?」
「その、あの……、――――」
清純派の淑女の皮を被った少女は恥じらいを見せる。
しかしながら夜這いをする積極性を持つ彼女だが、こういった羞恥心を煽られると弱いらしい。
「東郷さん、何をするの?」
「ん……っ」
柔らかな乳房の中で、唯一反抗的な乳首を親指と人差し指で摘まむ。
桜色の肉粒は持ち主の性格とは反対的で、「摘まんでみろ」とばかりに上を向いている。
硬さを帯びた乳首をやんわりと指で擦る度に東郷は甘い吐息を漏らす。
その度に少女の乳首はより硬さを増し、今度は「食べて下さい」と小さく震えるのだ。
だから、唇を乳首に触れさせながら俺は質問を繰り返した。
「何を、するの?」
「……い、意地悪しないでよ」
吐息がこそばゆいのか、それすら気持ち良いのか、腕を押さえていた少女の手には既に力は無い。抵抗の無い少女に残った物は、どうしようもなく雄を誑かせる極上の女体だけだ。
上唇と下唇が乳首に触れるか触れないかの距離で東郷の回答を待つ。
これは儀式のような物だ。少女がそういう意思表示をしたという事の証明であって、恥ずかしがる姿を愉しみ、羞恥を煽り、愛でたいという訳ではないのだ。
「……エッチ、しないの?」
「例えば? こんな事とか?」
「んぅ!」
そっと仄かに血の味がする肉粒を口に含む。
少女の肌は色白で、仄かに体温が上昇するだけで朱色が差す。
そんな反応が見ているだけで楽しくて、嫌々と首を振る東郷の乳首を音を立てて吸う。
「ぁ、ァ、そんなに吸っても、でないからぁ……!」
手のひらを俺の頬に触れ、口付けを止めさせようとする東郷。
しかし紡ぐ言葉とは裏腹に、潤んだ瞳と上気させた肌は隠しようのない色気を醸し出す。
自らを食べてくれと、そんな風な懇願にすら見えて、小さな抵抗をする東郷の衣服をこの場で剥いて美味しく食べてしまおうと――、
「東郷さーん、亮ちゃーん。お湯が沸いたよー」
「……ぁ」
ふと部屋にその声が届いた。
キッチンからの見知った声音は快活さと能天気さが伝わる。
その声に、思考の一部が冷静さを取り戻し、ちゅぱっと乳首から口を放すと少女は喘いだ。
「ぅんっ!! ……!」
慌てて声を抑える東郷を抱き起こす。随分と敏感になったのか、震える東郷の衣服の乱れを直しながらキッチンに向かうと向日葵の如き笑顔が俺と東郷を迎え入れた。
「お湯、沸いたよ? あれ……東郷さん、どうしたの?」
「う、ううん。なんでもないのよ、友奈ちゃん」
「そっか。……凄く楽しそうだったから、私も混ぜてね!」
「え、ええ。……それにしても『かっぷめん』は久しぶりね」
「たまに食べると美味しいよね。それにコラボだからね! 東郷さん!」
「コラボ……?」
ニコニコと笑う友奈は明るい。
ふりふりと後頭部で結んだ髪の毛が揺れる。しかし俺の目線はそこにはない。
快活さを見せる友奈の頭部には見慣れない耳が、そして臀部付近には尻尾が生えていた。
猫ではない。
兎でもない。
それは名前通り狐色をしていて――、
「……似合う、かな?」
「ええ、勿論。可愛いわ、友奈ちゃん」
「えへへ。ありがとう、東郷さん。東郷さんと園ちゃんの分もあるからね。あとで使おうね!」
「……使う?」
「おゆゆゆ!」
キツネ耳と尻尾を付けた友奈は微笑を浮かべた。
お湯が沸いたケトル、蓋の捲れた三つのカップ麺には『ど〇兵衛』と書かれている。
天ぷらかき揚げうどんなのか、後乗せのかき揚げが既にカップ内に配置された状態だ。
後乗せサクサク。
しかし、友奈は先に入れる派だった。
そんなカップ麺を前にして友奈はケトルを手に取る。
そして俺と東郷をじぃぃっと見つめながら笑顔で言った。
「見てて!」
「あ、危ないわよ、友奈ちゃん」
「大丈夫! 任せて」
嘗て料理をしていなかった頃の友奈ならば間違いなく撒き散らしただろう。
カップにケトルでお湯を注ぐ友奈は、しかし視線は何故か此方を一心に見つめたままだ。
「友奈。危ないぞ」
「あっつ……」
「友奈ちゃん!!」
「ほらー!」
「ちょ、ちょっとお湯が跳ねただけだよ」
即座に東郷がキッチンの蛇口を捻り、友奈の手を冷やす。
有無を言わせぬ東郷の雰囲気に友奈は口を噤み、狐の尻尾は僅かに垂れ下がった。
「どうしてこんな事したの?」
「だって、そういうコラボで……」
「変な事言わないの! 危ない事しないで」
「そうだぞ」
何故友奈がノールックお湯注ぎを決行したのか。
頑なにコラボだからと言い張る友奈の行為がどれだけ難しいか。
俺はケトルを手に取り、カップ内のかき揚げを取り出し、友奈と東郷を見て言った。
「友奈、東郷さん。手本を見せてやる」
そんな思いを込めて二輪の花を見ながら、ケトルからお湯をカップ麺に注ぎ込む。
これは教訓だ。安易にお湯という危険物を扱うと大変な事になるという事を。
「あっち」
――このあと滅茶苦茶怒られた。