「かっきー」
「うん?」
「サンチョの真似やって~」
「スィ、ムーチョ(イケボ)」
「そっくり~!」
「ふふっ……」
夢を見た。
散々園子とイチャイチャして、一緒に眠ったからか。
普段見る少女の姿よりも幼さの残る園子とゆったりと会話をしていた。
僅かに背が縮み、此方に笑い掛ける顔。
中学生になり再会した頃よりも前、一度別れた時よりも後の少女。
「かっきー」
「うん?」
「久しぶりって言ったらいいかな~……?」
「なんで自分で疑問に思ってんのさ」
「そんな気がして」
長い髪の毛を揺らし、此方を見上げる少女。
俺の思い出に残る様相と一致する姿は、俺の心を和やかな物にした。
ゆらゆらと首を振る園子と共に上を見上げると、白く輝く月が一つ。
「――――」
目の前の、俺の腕に抱かれたままの小さな少女。
周囲を見渡すと、乃木家でよく遊んでいた廊下に俺は座っていた。
どうしてここにいるのか。
それは、夢だから。
「ねえ、かっきー。園子先輩とはどうしてるの?」
ポツリと呟く声を聞き逃さない。
青いリボンを付けた少女の背中を受け止めつつも苦笑する。
「昔と同じく、仲良くしてるよ」
「知ってる~」
「そっか」
「うん。だって私だもんね」
「ああ、園ちゃんだからな」
ほにゃりと崩された少女の横顔を見下ろし、会話する。
腕に抱いた仄かな暖かさに、思えば随分と支えられて来たものだ。
「『私』とはどんな感じ~……?」
「そうだな。エッチな事とかしてる感じ」
「へ、へ~、進んでるね~!」
顔を赤らめる少女は初々しく耳まで朱色に染める。
小学生相手に何を告げているのだろうかと俺は思いつつも、小さな耳に囁く。
「……園子」
「ひゃ!?」
「聞きたい? 夜な夜などんな事をしてるのか」
「……!」
陶器のように滑らかな細い脚をそっと撫でる。
抱きしめた腕を掴む少女、顔を赤らめつつも抵抗の色は薄い。
際どい話題に関しては耐性が低いのか、そういえば昔はそういう話題は基本的にしなかったなと小さく唸る少女に大人げなく揶揄うと、数秒程の時間を経てゆっくりと首を横に振った。
「ううん、大丈夫」
「いいのか?」
「気になるけど……、そういうのは聞いちゃ駄目だと思うんよ」
「そっか」
そう告げた園子は吐息と共に身体の体重を俺に預けた。
ふわりと漂うミルクのような甘い香りが鼻腔を擽る中で、静かに少女は告げる。
「そんなエッチなかっきーだけど、今度は離さないでね」
「ああ」
「今度は私も離さないからね~」
――そんな夢を見た。
+
虚ろな眠りから目覚めると、此方をジッと見る瞳が視界に浮かんだ。
毛布を捲り、今まさに入り込もうとしていた少女は、どこかばつが悪そうに苦笑した。
「えっと……」
「ん……」
「わ、わ!」
琥珀色の瞳を揺らす少女、園子の手を引っ張ると、抵抗なく寝台に転がり込んだ。
コテン、と寝転がる園子を抱きしめて素肌に手を伸ばし、暖かさを確かめる。
「くすぐったいよぉ……」
「静かに」
「ん……ッ」
薄いシャツと下着のみを身に着けていた園子。
先に起きていたのだろう少女を抱き捕らえて擽るように柔肌を堪能する。
「かっきー、駄目だよ〜」
「ぐへへ、何がダメなんだ~」
「ぁ、もう……」
蛇が巻き付くように片手は乳房へ、もう片方は恥部へ。
しっとりとした少女の肌、つい顔を埋めてしまうのも仕方ないだろう。
令嬢の恥部に伸びた手は太腿に挟まれ、独特な弾力を手のひらと甲に伝えられる。
それでも肉の拘束に負けじと柔らかい生地のショーツ越しに恥肉を擦ると、少女は呻いた。
「昨日いっぱい、したでしょ~……」
「あと五分だけ」
少女の柔肌を堪能しながら、手のひらで、鼻で、味わう。
程良く脂が乗りつつも引き締められた腹筋は触り心地が良く、つい遊んでしまう。
「あ、朝御飯、作ったから、ね? 起きようね~かっきー」
「……」
とはいえ、されるがままの園子ではない。
何だかんだでしっかりしている少女は快楽の味を覚えながらも、溺れる事は無い。
「頑張れ~」
「園子。お前、眠くないのか?」
「うん? 今はそうでもないかな~。サンチョ先輩のおかげかな」
「先輩?」
「快眠だったんさ」
少女が枕にしていた猫を想像させる枕。
カバーに『YES』と書かれた枕について語る園子だが、その全容は見えない。
薄く微笑む少女に手を引かれ、寝台から上体を起こす。
ペタリと脚を下ろした床はひんやりと冷たく、夢心地だった意識を冷めさせる。
抱きしめられながらも器用に俺を起こした彼女は、しかし男の腕力からは逃れられないのか、或いは逃れる気がないのか、透明な肌を至近距離で見せながら僅かに寝癖の付いた髪の毛を揺らす。
「ほら、冷めるよ」
「……」
「食材を無駄にはしないよね?」
コテンと小首を傾げる園子は可愛らしい。
だがその姿以上に、その問い掛けに対して俺は頷かずにはいられなかった。
園子がわざわざ作った朝御飯なのだ。
そんな物を冷ますなど、吊るされても文句は言えないだろう。
「楽しみだな」
白いワイシャツと黒色の下着を纏った金髪の少女。
シャツの隙間から見せる白皙の肌を朝から堪能したいが、切り替えも重要だ。
ニコニコと微笑む少女に手を引かれながら、俺はゆっくりと歩きだしたのだった。
「先に顔、洗ってくるよ」
「いってらっしゃーい」
キッチンからの香ばしい匂いを肺に満たしながら朝の雑事を終える。
既に皿までリビングに運ばせてしまった事を申し訳なく思いつつも、チーズトーストを一口。
「美味しい」
「えへへ」
「園子の淹れる紅茶は絶品だな」
「それほどでも~」
笑顔の華を咲かせる少女。
サラダと紅茶といった食事を暫く堪能しながら、俺はふと口を開いた。
「園子」
「ん~?」
「今年は花火、一緒にしような」
「――――」
「花火大会も一緒に行こうな」
「……覚えてたんだ」
「夢のお告げというか、まあ針千本も飲みたくはないしな」
それは思い返すと随分と昔に感じる、少女と少年の約束だ。
幾千の夜空の下、必ず叶えると誓った約束。あれからだいぶ時間は経過したが、
「……うん」
此方を見る大きな瞳、瞬きを繰り返す少女は、やがて眦を和らげる。
コトリと紅茶を置く少女は数秒程沈黙を保った後、ゆっくりと頭を縦に振った。
「じゃあ、延滞料金分は何して貰おうかな~」
「え」
「冗談だよ〜」
そんな和やかな一時も、少しずつ騒がしさが増していく。
朝食を終えた頃、玄関のドアが開く音と共に足音が此方に向かってくる。
「おっはよー!」
「おはよう、良い天気ね」
「ゆーゆ~、わっしー。おはよ」
「ん、おはよう」
ドアを開けたのは友奈と東郷だった。
それ以外で開ける事があるのは保護者ぐらいだが、早朝に来る事は少ない。
向日葵のような笑顔と、微笑を浮かべる少女達が二人部屋に入るだけで騒がしさが増す。
「くんくん、これはチーズトーストの匂い!」
「あったり~! 流石だねぇ、ゆーゆは」
「えへへ、褒められた。……って園ちゃん、凄い恰好!」
「官能的ね、そのっち」
「照れるのだぜ~」
少女が三人集まると少し騒がしい。だが、嫌いではない。
赤い髪の毛を後頭部で纏めた快活な少女、穏やかな表情を浮かべる黒髪の少女。自らの服装に照れる金髪の少女。その女々しくも幸せな光景に俺は静かに吐息した。
「三人、ベッド、手錠……、ぅっ、頭が……」
「亮ちゃん、どうしたのー?」
「亮くん……?」
何か黒い思い出が脳裏を過る。
思い出してはいけない何かに、思わず頭を押さえる俺に歩み寄る東郷と友奈。
「いや、何か逆なんとか的な物が記憶をね……」
首筋に寒気。
はっと振り返ると、笑みを浮かべる美少女達。
しかし不思議かな。その柔らかな笑みからは僅かに冷気を感じた。
「……」
「……」
「どうした?」
「ぎゅー」
「……?」
突如首筋に抱き着いてくる友奈、その様子を見下ろしながら俺の腕を掴む東郷。
「どうした?」
二度目の質問。誰かを指名して問いかけた訳ではないが、友奈の代弁なのか東郷が答えた。
「ううん。ただ、少しシャワーを浴びてきたらどうかなって」
散々性交したからか、それ特有の匂いがするのか。
或いは東郷と友奈の鼻が良いのか、単純に近づいて分かったのか。
首筋にマーキングするように甘噛みしようとする友奈を引き剥がそうとしながら問い掛ける。
「分かった……じゃあ――」
「せっかくだから、背中流すわね」
「私も!」
「え」
突然の展開に目を白黒とする間に状況は進む。
一体何がどうしたというのかと思う俺に、東郷は薄く笑い掛けた。
深緑の瞳が爛々と映し出す視界には、何てことはない、男の首筋に出来たばかりの赤い痕――、
「大丈夫よ、亮くん。少しだけ天井を数えるだけだから」
「――――」
「そのっちと一緒に」
「頑張ってマッサージするね!」
「あれ~?」
――そんなある日の早朝。