乃木園子は覚えている。
――俺と友達になってくれませんか。
そんな言葉から始まった。
あの日、初めて加賀亮之佑と出会った日を。
彼が園子にとって、人生で初めての友達となった日を。
加賀家は乃木家の分家である。
詳細は大赦によって消されたが、確固たる事実として受け継がれている。
この四国、世界が一度天の神に滅ぼされて残った小さな箱庭を従える乃木家は名家中の名家だ。現大社において最も影響力及び発言力のある家であり、園子は名実共にお嬢様なのだ。
周囲の子供からは腫物扱いだった。
何も虐めを受けていた訳ではない。
園子はふんわりふわふわで独特な空気が多いが、確固たる芯はある。
実際に虐めを受けたら即座に行動を起こすだろうし、大人も黙ってはいない。
園子としてはフランクに接しようと思っている。
遠巻きに見られる状況を嫌だなと思いつつも、仕方ないと諦めていた。
園子が悪い訳ではない。
周囲の子供たちが悪い訳ではない。
ただ、園子にはどうしようもなかったのだ。
そんな周囲との壁が自然と出来た状況下で過ごす分家と本家の二人。
二人には家とか、身分とか、そんな物は関係なかった。
『まあ、園ちゃんは不思議ちゃんなところがあるから』
『だから俺が他の友達の分まで一緒にいるよ。一緒に笑って、泣いて、楽しんで』
『うん』
『そういう思い出を二人でたくさん、作っていこうよ』
『……それってプロポーズ?』
『そ』
『わ~! かっきーにプロポーズされちゃった~。お婿さんだ!』
『婿入りなんだ』
『すや~』
随分と昔の話だ。
何回目かの乃木家でのお泊りで、亮之佑はそう言ってくれた。
布団を並べて、でも大きい布団だから枕を並べていろんな事を話した。
春に花見をして。
夏にプールへ行き。
秋は紅葉を楽しんで。
冬は雪で一緒に遊んで。
『ねえ、かっきー。今日は何して遊ぼっか~』
『そうだな、だったら……』
ずっと一緒にいられると思っていたのに。
+
明るく、普通で、
それが園子にとっての友奈という少女の印象だった。
『……こんにちは~』
加賀家の別荘、元は乃木家が所有していた家だが、インターホンを押して、快活そうな笑顔を見た時、園子は一瞬何が起きているか分からなかった。
否、分からない訳ではない。大赦を通じて、家の力を通じて知っていた。
だが、百聞は一見に如かずとも言う。
『よお、いらっしゃい』
『やっほー! かっきー、来ちゃった』
『園ちゃん、いらっしゃい!』
『……ゆーゆ~』
招かれる側だった。昔とは違って。
そんな些細な事がささくれのように刺さった。
『ポッキーゲームでもする?』
『何故そのチョイス?』
『かっきー好きじゃなかったっけ?』
『風評被害!』
『あはは……』
『園子、夕ご飯食べてくだろ?』
『食べる~。かっきーのご飯だー!』
『……餅じゃないぞ?』
亮之佑にとって近しい者として、友達として訪れて。
偽りなき、経験に基づいた言葉を告げると、亮之佑は苦笑する。
胸元を掻き毟るように手で押さえる仕草に懐かしさを感じながら彼の背中を見つめる。
改めて見ると、数年ぶりの背中は大きくなった。
リビングからキッチンを見る事ができ、彼のエプロン姿を見る。
黒を基調としたエプロンを身に纏った少年は慣れた様子で器具を手に取る。
ふと視線を上げた亮之佑と目が合い、そっと視線を外す。
言いようの無い気恥ずかしさを感じながら、時折視線を向ける。
そんな風にぼんやりとしていると、至近距離からの視線を感じた。
友奈だった。
薄紅色の瞳、そこに含まれる感情を読み取れず、咄嗟に声を出した。
『何、作るんだろうね~』
『うーん、肉うどん! じゃなくて……肉じゃがとか!』
『ほへぇ~ してその心は』
『心って程じゃないけど……、なんとなく、かなぁ。亮ちゃんならきっとこうするかなって!』
『……そっか』
取り留めのない言葉を交わし合う。
後で振り返って、何を語ったのか忘れてしまう程度に他愛の無い言葉。
『楽しみだねぇ……』
『だね、亮ちゃんのご飯美味しいからねー!』
そう告げて立ち上がる友奈。
薄紅色の瞳を輝かせ、身内が褒められたかのように笑顔を見せる少女。
快活な笑顔に曇りは無く、機嫌の良さを伝えるようにサイドテールが揺れる。
突如立ち上がった意味、向かう先を悟り、立ち上がろうとするのを赤い少女が制止した。
『あ、私も』
『ううん。園ちゃんは座ってて! すぐ終わるからー』
『……うん』
お客様を座らせ、家主のもとへと向かう少女。
ピンク色のエプロンを着用する少女は華やかな笑顔で亮之佑に笑い掛ける。
親愛と友愛を混ぜた、桜のような可憐な笑顔を。
小説風に言えば、こうなるだろうか。
まるで恋する乙女の表情をしていた、と。
『――――』
あれで付き合っていないらしい。
あんな可愛らしく信頼を丸ごと預けたような笑顔に眩まない男はいないだろう。
ビュォォォゥと風が吹きそうな空間だというのに、メモ帳を取り出す気にはなれなかった。
『――――』
肩を並べて皿の盛り付けをする二人。
互いへの理解が、一々言葉を告げずとも生まれる行動に齟齬は無い。
まるで夫婦のように、番いのように寄り添う二人に。
亮之佑の隣に自然といる友奈の姿を見て。
お似合いの二人だと思ってしまって。
園子は自分を初めて怖いと思った。
――私の居場所を取らないで。
怖いと思って、自分に嫌悪を抱いて。
あんな良い子に対して、自分の惨めさと醜さを知って。
それでも身を引こうと思わなかったのは、一体、どうしてだろうか。
+
手の中で端末を回す。
手のひらにフィットする程良い長方形のソレは、くるくると回る。
中途半端に目ざめてしまった為、俺は目の前にあった端末で遊んでいた。
そこに思考は関与しない。
ただくるくると回る。
そうして数回転して、突如小さく振動する。
「……」
闇夜を僅かに照らす端末の光。
照明を消して随分と経過したからか、その小さな光すら煩わしい。
消してしまおうかと考えつつも、端末を起動する。
送り主は身近な他人、お向かいさんのお隣さん。
愛国心を秘めた女からの物である事を理解すると同時に内容を見る。
「ほう」
思わず独り言を呟いた。
端末に映されていたのは画像だ。
場所は自室なのだろう。
何度も訪れた事のある身近な場所を背景に彼女は映っていた。
和室らしさを思わせる畳に正座で座る少女の姿だ。
東郷との端末を通じた連絡で、返信が遅い事は殆どなかった。
いつも見ているのではないのか、等と思い込んでしまう程の返信速度には素直に感心してしまう。そんな彼女も今回の返信には普段よりも時間が掛かったようだ。
艶のある濡羽色の髪は風呂上がりなのか普段よりもしっとりとしている。
朝顔を模した薄青色の和服という寝間着に身を包んだ東郷の姿は、まさしく大和撫子。
ほんのりと朱色が差した白皙の肌に彼女の髪色は良く映えた。
手を上にかざし自らを撮ったのだろう。
僅かに強張った表情で、羞恥によりカメラから目線を外している。
羞恥の原因は恐らく和服の胸元を緩め、自らの乳房、白く淫靡な谷間を写したからか。
下品に全てを見せる訳ではない。
彼女が唯一見せている雪肌は、鎖骨と乳房の上半分だけだ。
とはいえ、何もしなくては色素の薄いピンク色の乳首を画像に残すだろう。
それに対してネットリテラシーを理解している彼女は、そっと手で乳房を隠している。
むにゅりと形を変える白い肉果、普段よりも寄せられた事で生まれた谷間の魅力は、ジッと見続けたいと思わせる。
自然と手ブラ姿を披露する彼女の顔は羞恥と喜色に富んでいた。
――どう?
そんな一文を添えて送ってきた東郷。
自らがはしたない事をしている自覚があるのだろうか。
この画像を送ってきた彼女の心境を思うだけで興奮が止まらなくなりそうだった。
一体、何て返信すれば良いか。
少しだけ考えて、動きの鈍い頭を回して、書き込む。
――素敵! もっと見たい!
纏めるとこの一言に集約するような内容。
多々、懇切丁寧に、和服美人というエロス、そして東郷の自撮りへの感想。
そんな内容を送りつけるが、既読は付かなかった。
深夜三時。既に彼女も眠りについたのだろう。
どれだけ東郷の自撮り写真に熱中していたのだろうか。
どうやら、コレクター魂に火が点いてしまったらしい。
たった一枚の写真に興奮を抱くとは、修行が足りないようだ。
「……ふぅ」
こうなると衣装とか、揃えたくなる。
貢ぎ物という訳ではないが、着せ替え人形で遊んでいるかのような気分になってしまう。当然だが東郷は決して俺の人形ではない。機嫌が悪くなる時もあるし、芸人魂を拗らせる時もある。
この自撮り写真自体は初めてではない。
一番最初の自撮り写真は、何故か国防仮面の衣装でポーズを撮っていた。
意味が分からなかった。
チェンジと書き込むと、二分後に家に侵入してきた。
その事を思い出すと彼女の成長速度は著しいと言えるだろう。
「寝ないと……」
明日はそれなりに早いのだ。
用事がある。大事な用事が。
遠足前日の子供ではあるまいし、瞼を下ろせば眠れるはずだ。
そんな思いを脳裏に過らせ、寝がえりをうつ。
目が合った。
「――――」
「……っ」
「……」
「……これは夢だ。夢、夢、夢」
「……ゆめ?」
寝がえりをうった先、視界に映る金色の物体は小さく呟く。
虚無を瞳に浮かべ、揺蕩う微睡みから抜け出せないような状態は、見覚えのある物だった。
ようするに、二度寝する数秒程前の状態だ。
「そっか~、ゆめか~」
「そうそう」
「わっしーにエッチな写真を送らせて悦に浸るかっきーはいなかったんだね」
「いないいない」
「ふーん」
彼女は寝台に横になりながら疑わしい者を見るような半眼を見せる。
まるで浮気者を見るような視線を受け流しつつも、何となしに園子の姿を見る。
乱れた長い髪の毛は稲穂を思わせる金色。
すらりとした腿は程良く脂が乗り、くびれた腰から尻への魅惑的なラインが描かれる。
健やかに成長した乳房は横向きになっている為に、むぎゅりと潰れて男の目を惹く。
普段は衣服と下着で隠されている乙女の身体が無防備に曝け出されていた。
「……じゃあ、かっきーは何に興奮してるの?」
「ん?」
不躾な目線を理解しているであろう園子は目線だけで告げる。
その視線の先、履き直した下着越しに主張する雄の存在を審議に掛ける。
「なんだろうか……?」
「えっち」
「まだ何も言ってない」
「昨日あんなにしたのに、すぐ元気になるもんね~。ケダモノだよー」
鈴音を思わせる声音を囁きながら、園子は枕に手を伸ばす。
ピンク色の猫に紫のカバーを巻いたような枕、サンチョを手元に抱き寄せる。
僅かにくたびれた思い入れのある枕も元の持ち主の頭を乗せて幸せだろう。横向きとなり此方を見ていた園子は何を思ったのか、そのままうつ伏せとなり、端正な顔を枕に埋めた。
「……ケダモノ」
「……」
「略してけっきーね」
「……」
「あ、今日はもう駄目だよ~。いっぱいしたんだから。明日ピクニックするんでしょ」
「……」
「おやふみぃ」
時計を見ると時刻は三時半と、非常に微妙な時間帯を示していた。
起きていても仕方がない。それは分かる。
――それはともかくイラッとしたのと下半身の昂りは別である。
眠ろうとする園子が被る毛布を剥ぐ。
白い裸体、肉布団のように覆い被さると剛直が尻肉の間に挟まる。
その感触が分かったのか、身体を硬直させた園子がチラリと俺を見上げる。
「かっきー」
「園ちゃん。今日はまだ、してない。もう昨日の話だ」
「……揚げ足」
「園ちゃんは寝てていいよ」
「ッ」
園子の言葉に被せるように俺は告げる。
最高の抱き枕、しっとりとした腹部と、彼女と俺の体重で潰れた乳房を揉む。
極上の女体を抱き、金色の髪の毛に顔を埋めながら自撮り写真で昂った剛直を挿入する。
「ぁ、ぁぅ……」
ぎゅううっと枕を掴む園子は嫌々と首を振る。
そんな少女の媚肉は既に十分な程に濡れ、雄を最奥に受け入れた。
胸板と背中、脚を絡め合わせて。
にゅるりと挿入した剛直がこつんと子宮口にキスをする。
これから何が起きるのか、聡明な彼女は抵抗をせず、ただ枕を掴むのみだ。
そんな彼女がよく好む体位で、長い髪の毛を掻き分けて形の良い耳に囁く。
「寝てていいよ。……寝れるならな!」
「ひぁぁ……ッッ!!」
+
空は快晴だった。
綺麗な青空、雲一つなく、暑くも寒くもない天気。
「ピクニック日和だね!」
「そうね、友奈ちゃん」
笑顔を浮かべる友奈。
微笑をたたえる東郷。
たまには外でゆったりと過ごそうと提案した園子。
ソレに便乗する恰好付けたい荷物持ちが一人。
「ふわぁ」
「どうしたの園ちゃん。寝不足?」
「そうなんよ~、かっきーが寝かせてくれなくて~」
「あー……」
ジトっとした目を向ける彼女達から目を逸らし、東郷から荷物を受け取る。
勇者部全員の予定だったが
「なんか、結構重くない?」
「ふふっ。亮くんならこれぐらい食べるかなって」
「いや、俺も作ってるし。なんなら友奈も園子も」
「亮くんならこれぐらい食べるかなって」
「でも、これにぼた餅も追加でしょ?」
「亮くんならこれぐらい食べるかなって」
「食べちゃうね! ペロリだとも。男の胃袋に限界はねぇぜ!」
「亮くんも奇術師の前に日本男子だものね。そうよね!!」
にこやかな微笑はまさに百合の花。
選択肢は選べるが一択のみという少女は攻略には向かない。
嵌る人には嵌る、そんな面白くも美しい大和撫子とふんわり少女二人を連れて家を出る。
「私、閉めるね~」
「おー」
家を空けるという事は当然施錠は必要だ。
どれだけ治安が良くても、しないという事は無い。
そんな訳で言い出しっぺの園子に任せると彼女は鍵を取り出した。
不思議なキャラクターのキーホルダーを付けた鍵だ。
金色の合鍵をそっと撫でる金髪の少女の姿を見て、俺は静かに問い掛けた。
「園ちゃん」
「なに……?」
「――今、幸せか?」
カチャンと施錠をして、少女は振り返る。
ハーフアップにした髪の毛、リボンを揺らす園子は、笑った。
薔薇のような笑みを、浮かべた。
「うん!」
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。