夏と冬のどちらが好きかと言われると悩む。
暑い夏と寒い冬、学生という身分から単純に考えると夏休みが長く、薄着率が高まる夏の方が良いのだろうか。或いはコタツに包まりたくなる冬だろうか。
少なくともアイスが美味しいと感じる季節として夏は外せない。
「でも、冬の寒い時期にコタツに包まって食べるアイスって美味しいよね」
「それは分かる」
「でしょ~、それに今の時期だってアイスは美味しいんさ」
「つまりアイスは万能食に等しいと」
「そうだよ」
「なるほど」
この議題は永遠に解き明かす事はできないだろう。
皆違って皆いい。そんな話なのだ。
「そんな訳で」
「……?」
「かっきーのが食べたいな~」
何かを期待した眼差しを向ける金髪の令嬢。
ベンチに座り、此方を見る眼差しはキラキラと輝いている。彼女の瞳が向かう先、俺が持つ抹茶味のアイスクリームは僅かに溶け始め滑らかな表面に滴を垂らし始めていた。
見ると彼女の持つアイスクリームは既にコーンの部分を残し大部分が消失している。
「かっきーって冷たい系の物ってあんまり駄目だよね」
「そうだな」
どちらかと言えば冷たいうどんよりは温かいうどんが好きだ。
たとえ夏であったとしても、冷たい物よりも温かい食べ物の方が好きだ。
それを理解しているのは俺の両親と、世界で唯一の幼馴染だけである。
だからこそ、目の前の幼馴染が何を言いたいのか察した。
「一口、食べたいな~」
レモン味のアイスは彼女の舌上に溶かされ、残ったコーンも丁寧に食べる園子。
チラチラとこれ見よがしに上目遣いで此方を見る姿に、断る選択肢は消えるだろう。
「……あげようか?」
「あー」
一口、抹茶味のアイスクリームを食べながら問い掛ける。
返答はなく、雛鳥のように小さな口を開けて待機姿勢を取る少女。
白色のワンピースを纏った少女が顔を近づけて餌を待つ。
そんな彼女に俺は――、
「……」
「あー」
「はい」
「あー?」
「あげたよ、腕を」
「…………」
「あれれ~、もしかして貰えると思った? 残念、ただではありませんよ」
子供染みた悪戯だった。
中身の年齢を知る者ならばドン引き不可避の行為だろう。
とはいえ、見た目的には小学生なので可愛い悪戯で通用するだろう。実際中身の年齢等他人には知る由もない。俺の今の姿を見れば十中八九子供と言うだろう。
「…………」
「あー、美味しい。抹茶の渋い感じが美味しいですわ~」
口を閉じ黙り込む少女を視界の端に捉えながらアイスを頬張る。
隣の少女とは違い、熱い物とは対照的に冷たい物は何故か食べるのが遅い。
ジッと此方を見る金髪の少女を目端に捉えながら周囲の様子を窺う。俺と園子が座っている場所はとある公園のベンチだ。休日の午後、何となしに二人で訪れた公園でやっていたアイスの屋台に脚を止めていた。
休日だからか、平和な公園には子供や若いカップルが訪れている。
梅雨が訪れる前の、春が過ぎた名残を楽しみながら外の空気を味わっているのだ。
「いいもん……、あの屋台買い占めるから……」
「いや、それは屋台の人も困るだろ……。冗談だから、ほら」
少女の膨れた頬を突きながら、そっとアイスを捧げる。
此方をジッと涙目で見続ける彼女は財布から取り出したカードを仕舞い小さな口で噛り付く。薄い唇を抹茶色に染め、ゆっくりと咀嚼する園子は膨れた頬を縮ませる。
「かっきーのあんぽんたん。意地悪しないでよぉ」
「ほら、好きな子にはついつい意地悪したくなる奴ですよ、園子様」
「そんな小学生みたいな事言うんだ~」
「いや、俺たち小学生な」
穏やかな時間が流れる。
後になって振り返ると、随分と平和で穏やかで閉鎖的な毎日だった。
園子と遊んで、園子と食事を共にして、心を暖める緩やかな思い出を紡いでいく。
「かっきー、もう一口駄目?」
「買ってきたら?」
「かっきーのが食べたいな~」
「……しょうがないな」
肩に掛かる重みが増す。
ふわりと漂うミルクのような甘い少女の香りが鼻腔を擽る。
軽い体重を掛けふにふにとした胸に俺の腕を抱くようにアイスを食べる園子との距離は近い。
「園子」
「あむ?」
「園子は無防備だから心配だな」
「心配?」
「ほら、男って狼だし園子みたいな可愛い子にベタベタされるとね、勘違いする人が増えると思うからさ」
「ん~」
それなりに大きな一口で抹茶味のアイスを食べる園子と間接キスをしながら、ふと問い掛ける。見る見るうちに消失していくアイスを間に挟み、少女の丸く大きな瞳と向かい合う。
「私ってかっきーの前だとこんな風だけどいない時はちゃんとしてるよ」
大きく口を開きつつも上品に食べる姿は、どこか気品すら感じさせる。
「そう? 蟻の行列ずっと見てたじゃん」
「あれは……働き蟻さんたちを見て大変そうだな~って」
「俺いなくても居眠りしてるじゃん」
「かっきーが私のスカート捲ろうとしてきた時は起きてるよ~」
「記憶にありませんね。……それより口についてるぞ」
「とって~」
ティッシュで彼女の口元を拭い、頭を撫でると絹のような髪の感触が指に伝わる。
青色のリボンで髪を纏めハーフアップにした髪は撫で続けたくなる魅力がある。毛の流れに沿って撫でる彼女の金髪は去る春を惜しむ木漏れ日に照らされて黄金の輝きを放っている。
長い髪の毛を揺らし、園子は微笑を浮かべる。
「大丈夫だよ、かっきー。そんなに心配しなくても」
ぽたりと溶けたアイスが指を伝って地面に落ちる。
殆ど園子に食べて貰う形になったが食べきれなかったアイスが。
「私は」
アイスの存在を一瞬忘れる程度には。
「かっきーの事、大好きだから」
園子の笑顔は眩しかった。
+
「……って」
「へー……良かったね」
「でしょ~。二人で食べたアイス美味しかったなぁ……」
「……」
「じゃあ、次ゆーゆのターンね」
「うん」
どこか遠くに聞こえる声。
ぼんやりとしていた意識は聞き慣れた少女達の声色に醒め始める。
「あれはね……亮ちゃんが私の部屋に初めて来た時の事だけど」
「うん」
「こう、すっごい事になったんだよ! なんとね!」
背中側に感じる声は見知った2人だ。
人との思い出話に花を咲かせる2人は仲良く囁き声で話をしている。
時折興奮したように声を高くする以外は心地良さすら感じる少女達の鈴音の話し声だ。
「……すぅ」
正面に見えるのは黒髪の美少女だ。
■■生にもなって粗相をした少女は心身共に疲れたのかぐっすりと眠っている。昨夜の羞恥と喜色に塗れた姿は瞼を閉じると鮮明に覚えており燻ぶった熱が再度湧き上がるのを感じた。
そんな視線に晒されているにも関わらず無防備な寝顔を晒す東郷。
「ん……」
規則正しい寝息を繰り返す少女、布団を捲ると肌色が眩しい。
そういえば昨夜は風呂上がりに服も着させずに東郷を愉しませたのを思い出す。その所為で鬼畜と言われてしまったのだろうか。しかし待って欲しい、嫌がりながらも満更でなかったのは誰なのかと問い詰めたい所である。
「――でね、その時に食べたクリームぼた餅が美味しかったんだ」
「……ほへー、美味しそ~。いいなー」
「でしょー!」
背後からの聞いた事のある話を耳にしながら俺は目の前の少女を見つめる。昨夜は抱きしめながら寝た為か彼女との距離は物理的に近い。肌の白さや眉の形、睫毛の長さ、容姿端麗な彼女の顔を見ながら、ふと手が動かない事に気づく。
「あっ、それにね、亮ちゃんが作ってくれたお粥ってすっごく美味しいんだよ! 知ってる?」
「知ってるよ〜」
楽しそうに話をする友奈達に話しかけるといった無粋な真似はせず、布団の中で固定された腕を動かそうとする。見る事は出来ないが感触的には彼女の股に挟まれているのだろう。
少女の薄毛と恥部、太腿の感触、布団と寝台の柔らかさが俺に多幸感を与える。
「ゃ、……んっ」
東郷の股に挟まれた手を抜こうとするもくすぐったいのか肉の締め付けが増す。
正しく押しても引いてもびくともしないが、感触と感度は最高だ。
独特の感触を堪能しながら、しかし引き抜く事は出来ずどうするべきか頭を悩ませていると、
「ん……」
睫毛を震わせ瞼を開く。
深緑色の瞳と目があった。
「まだ夜だよ」
「……そう」
体内時計的には早朝になるが、実質夜に等しいだろう。
決して嘘ではない言葉を吐きながら、ぼんやりとした様子の東郷を見つめながら手を動かす。
「んぅ、それ、……もう」
僅かに手を震わせると形の良い眉を顰める東郷は突如俺を抱き寄せる。
等身大の抱き枕を抱きしめるように、ガラス細工に触れるように、寝ぼけ眼ながらも俺に全身で抱擁する彼女は甘えた声音を鼓膜に届ける。
「動いちゃだーめ」
「……」
「ふふっ」
年相応の子供のような笑顔で東郷は抱き着く。
蛇が絡みつくように俺の手を股で挟みながら脚を絡め、腹と腹を擦りつける。
この部屋の誰よりも大きく柔らかな双丘を押し付けながら機嫌良く俺の背中を撫でる。
よほど東郷は俺を寝かせたいらしい。
「そうね、2人とも忙しそうだし……たまには、ね?」
美少女からのお誘いは断らないのが信条だ。
余っていた片手で滑らかな背中を撫でながら俺は再び目を閉じる。
「あと亮くんってたまに寝言言うけどね……」
キスでもするかの距離で、目を閉じた少年に東郷は囁く。
「私は愛人じゃないよ」
「!?」
「たまにボソッと言ってるけど……。ねえやっぱり起きて、ねえ」
東郷さんは愛人ポジが似合う。(偏見)