※この作品はR-18です。

果てなき夜で、貴方に愛を   作:毒蛇

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第十四話 ささやかな変化

 ──サボりたい。

 

 学生に一度でもなった勤勉な者ならば分かるだろう。

 毎朝起きて、顔を洗って、朝食を食べて、登校する、その大変さを。晴れの日も、雨の日も、雪の日も、朝を迎え入れる度に睡魔と戦わなければいけない。

 当然サボってしまいたいと思うだろう。あと五分と言って二時間ぐらい惰眠を貪りたい。

 

「ダメよ」

 

 分かっているのだ。それでは駄目であることなど。

 後悔しないという誓いを、二度目の人生を始めた時に立てた。その誓いは今でもなお破られることなく、俺を誠実に、真面目に、勤勉で、優秀な人間へと作り上げていく。

 

 勉強は大事だ。努力は大事だ。

 それが出来て初めて、幸せを得ることが出来るのだから。

 だから──、

 

「今日は学校も休みなんだから寝かせて……」

 

「だ~め」

 

「サボっていいでしょ?」

 

「そんなことをする子は吊るします」

 

 掛けられる声音は優しく温かい。

 この世界で育ててくれた尊敬する母親に似た、東郷の声が聞こえる。

 

「学校は休みでも勇者部の活動があるでしょ?」

 

 開かれるカーテンから陽光が部屋を照らす。

 ついでとばかりに僅かに窓を開き、新鮮な隙間風が性臭を追い出す。

 

「んー……」

 

「サンチョ……ビ〜……ム」

 

「ほら、起きて……ぁ、っ!」

 

 背後の園子と、正面の友奈たちの寝言、そしてベッドの軋む音に薄く瞼を開く。

 一糸まとわぬ裸体を見せ、早朝の冷風に寒さを覚えたように身体を揺する園子が俺の背中に張り付くように腕を回し、双丘から腹部、恥骨までくっついていていることを身体で感じ取る。

 ゆっくりと寝台に横たわるように東郷の後ろ姿が目に映った。

 

「友奈ちゃん……」

 

「とうごう……さん」

 

「朝よ。起きて」

 

「……ん」

 

 起きて。いやだ。

 甘える声に、それを許容する声。

 友奈が引っ張ったのか、ベッドに横たわる東郷が彼女に抱擁される姿を正面に見る。

 

 豊かな双丘に顔を埋め、母親に縋るように抱き着く友奈。

 その姿にまんざらでもなさそうな顔で甘やかすように抱擁する彼女の黒髪が揺れる。

 

「もう、友奈ちゃんたら」

 

 ふわりと青色のリボンに結ばれた濡羽色の髪の毛が頬をくすぐる。四人が一度に横たわるとそこまで広くないベッドはあっという間にぎゅうぎゅう詰めになる。

 そんな拳一つ分も無い距離で、背中を向けている東郷に俺は抱き着き、密着する。

 

「えっ、あ、亮くん!?」

 

「むにゃむにゃ。食べられないよー」

 

 お決まりの寝言を口にして、友奈と二人で東郷をサンドイッチにする。

 素肌とは異なり、柔らかな生地が素肌に心地よさを与える。

 

「……起きてるでしょ」

 

「起きてないよ」

 

 んぅ、と呻く彼女の抵抗はない。

 処女雪のような肌を薄く朱色に染める彼女の髪に鼻を突っ込み、抱き締める。茶菓子を連想させる東郷の甘い香りを肺で満たしながら空いた手で柔らかな腹部を弄る。

 

「ちょっと」

 

「東郷さんは本当に抱き心地が最高だなって」

 

「もう……五分だけよ」

 

 嘆息する大和撫子中学生は仕方ないように、タイツに包まれた黒脚を俺の脚と絡める。その行為を許可が出たと判断して、豊かな双丘に手を伸ばすと彼女は友奈を無言で抱き寄せる。

 すぅ、すぅと二度寝を始める友奈の寝顔をジッと東郷が見続ける。

 

「東郷さんは友奈大好きだよね」

 

「好きよ。大好き」

 

 告げる言葉に迷いはない。

 当たり前の事実だと、フフンと振り返る横顔は誇らしげだ。そんな風に決め顔を見せる東郷に対して、むにゅりと双丘を背中に潰し男の胸板を抱く腕に力が籠るのを感じた。

 首筋に感じる甘い雲のような吐息が言葉と共に発せられる。

 

「わっしー。私は~……?」

 

「そのっちも好きよ」

 

「わっしーに今告白されちゃった~」

 

「こ、告白だなんて……!」

 

 いつの間に目覚めたのか、耳を甘噛みするかのような園子の言葉に翻弄される東郷を見ていると、可愛らしい寝顔を見せていた友奈が唸り始める。

 きゅっと形の良い眉をひそめ、力を貯めるかのように身体を丸め、一息に身体を起こす。

 

「うおーーーっ!!」

 

 一糸まとわぬ姿で朝の雄叫びを上げる友奈。

 陽光に照らされてキラキラと輝く薄紅色の髪と同じ瞳を見開き、笑みを浮かべる。

 

「ごめんね、東郷さん。もう大丈夫! おはよう!」

 

「……おはよう、友奈ちゃん」

 

 ピースサインを見せる明るい少女。

 その笑みに魅せられたような東郷を余所に、俺の視線に気づいた友奈は己の状態に気が付くと、やや照れくさそうな笑みを浮かべるとそっと腕で身体を隠す。

 

「支度、しないとね」

 

 

 

 

 

 

 眠っていた園子を起こし、友奈の羞恥を煽りながら朝の支度をする。

 朝食は和食が既に用意されており、店に並ぶ物よりも美味で温かかった。

 

「東郷さんの作るお味噌汁は本当に美味しいね。毎日でも食べたいくらい!」

 

「そ、そんな……。私のなんて……」

 

 味噌汁を啜り、煮物を食べる。

 バランスや健康を考えなさいと肉よりも野菜や魚が多い料理。

 男の一人暮らしで自炊と言えど、なんだかんだで自分の好きな物や友奈や園子が好みそうな物に比重が偏る為、東郷や風の家庭料理というのはありがたく思う。

 

「なにより、東郷さんの作ったご飯は美味しい。一生作って欲しい」

 

「あなた……」

 

 東郷が起こしに来てくれたからか、余裕のある登校だ。

 前世の俺ならば、わざわざ休日を無駄に消費してボランティア活動など鼻で笑っていただろう。それでも活動を友奈たちと共に続けてきて多少なりとも奉仕精神に目覚めたのだ。

 無駄なことなど無いのだと、俺は日々彼女たちから学んでいる。

 

 そんな俺たちが所属している勇者部で事件が起きた。

 

 勇者部部室の中心に少女たちが目を向ける。

 巫女が手を引いてきたのは、綺麗な金髪、前髪をパッツンに整えた髪型の少女。

 どこか凛々しさを感じさせる紫紺の瞳に動揺はない。明らかに制服ではない、黒色のシャツとズボンを着用した小学生程度の背丈をした少女に誰もが小首を傾げる。

 

 この子はいったい誰なのだ、と。

 

「……、もしかしてわかちゃん?」

 

「ご先祖様だ~!」

 

 いったい、その子供は誰なのか。

 飛躍した発想により、誰と誰の子供なのかという目線がいくつか俺に向けられていた中での、ふわふわと空気を読まない少女二人の言葉が発せられる。

 園子(中)と園子(小)の先祖は多数いるだろうが、この場合の相手は一人だ。

 

「そうだ! 私だ! 乃木若葉だ!」

 

「「「えええっっ!!?」」」

 

 明らかに園子(小)よりも僅かに幼く見える仮称乃木若葉。

 腕を組み、専属である巫女ひなたの隣にいる彼女は雰囲気も相まって親子にも見える。

 

「えっ、ちょっ、その子供って本当に若葉なの!?」

 

「いや、似てると思ったけど!」

 

「若葉さんがそんな!?」

 

「なんで!?」

 

「……幼児化の薬でも飲んだのかしら」

 

「てっきり若葉の隠し子だと思ってタマげたぞ!」

 

「球子さん?」

 

 仲間の幼児化、正確には小学生4年生程度への若返りと呼ぶべきか。

 幼い頃の若葉と言われればしっくりくるだろうが、今一つ怪しいところだ。事情を聴く前に、本物なのかどうかを確かめるべく、床に膝をつくと仮称若葉を呼ぶ。

 歩み寄ってくる庇護欲をそそられそうな容姿に嘆息しながら、耳元で小声で囁く。

 

「若葉」

 

「なんだ?」

 

「──元に戻ったらロッカーの次はどこでしよっか」

 

「……!」

 

 バッと耳を押さえて俺から離れ、ひなたの影に隠れる少女。

 かああっと耳まで赤らめていく姿、やや幼い言動はともかくもロッカーという共通の行為を行った場所への理解を示したことに本物らしさを感じながら、周囲の目線に肩を竦める。

 

「いや、本人認証だって。本物の可能性は高そうだ」

 

「あんたは本当に……」

 

「夏凜も本人認証する? はい、ここにサプリがあるけど何のサプリでしょうか」

 

「ビタミンEよ。完成型勇者を舐めないでよね」

 

 呆れたように嘆息する夏凜に同意する少女たち。

 見慣れぬ凛々しくも幼い少女に顔を赤らめる者やメモを取る者など反応は様々だ。

 

 ──ただ、今更子供の姿になった程度で動じる者は殆どいない。

 

「……昨日までは乃木さんが普通だったのを覚えているわ」

 

「今までは園子(大)だったのに(極小)くらいになったな」

 

「誰が園子(大)だ、誰が!」

 

「ご先祖様ちっちゃ~い!」

 

「こ、こらぁ! ひっつくな園子!」

 

 自分の子孫よりもやや小柄程度な体躯になった若葉。 

 ちょうど園子(小)と似た背格好の彼女たちは本当の姉妹のようだ。

 

 迷惑そうに見えて実は子孫とのスキンシップに少し頬を緩めている若葉、彼女の身体にいったい何が起きたのか、神樹から神託が来ていないのかと巫女組に視線が向けられる。

 その視線を感じ取り、コホンと小さく咳をするひなたが代表として唇を震わせる。

 

「実は、少し前に神樹様から神託がありまして」

 

 繰り返される樹海化。

 度重なるバーテックスとの戦闘や満開。

 

「それらの負荷の影響なのか、或いは中立神を始めとした別の神の仕業なのか神樹様に何かしらの悪影響が出たらしく……」

 

「ちょっと待って。若葉の身体ってちゃんと元に戻るんでしょ?」

 

「それは大丈夫です。元に戻るよう神樹様が直ちに働き掛けてくれると」

 

 風の言葉に首肯を見せるひなたに、安堵の表情を見せる少女たち。

 早速新しい玩具のように少女たちに可愛がられる若葉を余所に、正妻のような雰囲気を醸し出し続けるひなたに顔を向ける。

 

「この現象って今回だけ?」

 

「どう……なんでしょうか。何年も続く戦闘に神樹様も疲弊してきたことによる現象なのか。大赦の方でも調査中とのことです」

 

「ふーん」

 

「それよりも」

 

「うん?」

 

「……それよりも、若葉ちゃんと何を話してたんですか?」

 

「んー、今度一緒にデートしないかって」

 

「あらあら」

 

「……ひなたさんもどうですか?」

 

「まあまあ、両手に花ですね。……ふふっ」

 

 これだけの期間、バーテックスと戦ってきたのだ。

 神樹のリソースは決して無限ではない。満開といった強力な力や力を貸してくれる神々がいたとしても、神樹も疲弊し、内包世界に悪影響も出てきたのだろう。

 

「この世界が終わるのも近いのかもしれないな」

 

 思わずそんなことを思わずにはいられない。

 幼さが増した若葉を勇者部の皆で可愛がり、ひなたの追及を避けながら楽しく部活に挑む。夏も終わりが近く、やや涼しさを感じさせる日差しの中で依頼に取り組む。 

  

 人数が増えたことに比例して増加する知名度と依頼の質と数。

 ゴミ掃除から猫探し、部活動の助っ人とボランティア活動で忙しい。勇者部は本来七人だったが、数が増えたことで適した人材を割り振ることが出来るようになったのだ。

 

「……亮くんと一緒だとあっという間に終わったわね」

 

「東郷さんのパソコンスキルのお陰でサクサク進んだよ、ありがとう」

 

 本日の作業は事務系の内容だった。

 一人ではともかく、東郷という強い味方のお陰で早めに終われた。

 依頼内容はそれぞれ終了時間も異なる為、部室に戻り他の依頼を受けるか、帰宅する。

 

「若葉さん、何が原因でああなったと思う?」

 

「戦い過ぎとか、切り札の使用回数とか、色々あるだろうけど神のみぞ知ることかなって」

 

「……友奈ちゃんもあんな風に小さくならないかな?」

 

「東郷さん?」

 

「冗談よ」

 

 友奈や夏凜、若葉といった体育会系は基本的に部活動のサポートが多い。

 勇者として鍛えてきた力が存分に発揮される為、人気な彼女たちは引っ張りだこだ。

 

「友奈を待たなくて良かったの?」

 

「今日は夏凜ちゃんと一緒に帰るだろうし、さっき連絡が来たわ。そのっちは若葉さんたちとの買い物が長引いているって」

 

「ほほう。そんな東郷さんは将棋部の依頼があったような」

 

「それは来週ね。……今日は亮くんと一緒に帰りたかったから」

 

 チラリと横を見ると東郷の朱色の染まった横顔。 

 夕日が地平線に沈む、その最後の輝きが彼女を鮮やかに照らしている。

 

「少し前まではこの時間でもまだ明るかったのにね……」

 

 きゅっと握られた手に力が籠る。

 絡まった指は柔らかく、長い睫毛に縁取られた瞳は深緑に輝く。

 端麗な、美を凝縮したかのような白い横顔を、俺はジッと見つめる。

 

「……? どうしたの?」

 

「東郷さんは綺麗だな~って」

 

「……もう! そうやって揶揄わないの!」

 

 きゅっと握る手に力を籠める東郷は僅かに眉をひそめる。

 そんな可愛らしい彼女を連れて帰宅する途中で寄った小さな公園。ベンチや遊具などがある場所に子供の姿はなく寂静の空間が構築されている。

 

「ここって……」

 

「前に国防仮面を捕まえたところ」

 

「そうね、亮くんに無理やり捕まえられたわね。……国防活動も今は須美ちゃんや園子ちゃん、銀が引き継いでいるから最近はひっそりとしか活動出来ていないのよね」

 

 誰もいない街灯の点いた公園を二人で歩く。

 東郷の手を引いて、柔らかな芝の生えた場所へと進む。

 

「亮くん……?」

 

「誰もいないね」

 

「そ、そうね」

 

 目的の場所に到着し、疑問の声を上げる東郷。

 何かを感づいたのか抱いた腕の中でもじもじと太腿を擦り合わせる少女。胸板に手を置く彼女を見下ろす中、俺の手がそっとスカートの裾から中へ侵入し、大和撫子の尻へ伸びる。

 

「っ!」

 

 タイツ越しの下着の感触を指の腹で味わいながら、俺は東郷を見下ろす。

 敏感な彼女は俺が悪戯をするたびに唇をきゅっと結び、半眼を向ける。

 

 俺の腕を掴む手がぎゅっと握られる。

 嫌がる素振りはなく、尻に伸ばした手を広げると程良い重みを掌に感じさせる。

 

「んっ」

 

 俺の手の動きに合わせて東郷の胸が上下する。

 薄く開いた瞳に妖しい光を宿す女は鼻腔から微かに熱い空気を漏らす。

 

「……ここで?」

 

 確認を取るかのような言葉に手で答える。

 タイツ越しに下着をなぞり、秘裂を、肉芽付近を指の腹でなぞる。

 

「誰か見てるかも」

 

「……!」

 

 身を起こそうとするが、離れるのが嫌なのか東郷は俺の腕の中から逃れない。

 元の位置に戻る少女の下着が湿る生々しい感触を指に感じた。

 

「ぁっ」

 

 身悶えした東郷が喘ぎ声を押し殺したが僅かに口から漏れる。

 こしゅ、こしゅ、と濡れつつある下着を擦る中、爪先立ちする東郷は甘い声を口から漏らしながら、柔らかな唇で俺の頬や唇を愛撫する。

 

「~~~っ!!」

 

 肩を小さく震わせる少女。

 汗に混じる雌の匂いを嗅ぎながら少女を公園の芝に座らせる。

 軽く達した東郷は地面に敷かれた俺の上着に座り、絶頂の余韻に浸っていた。

 

「東郷さん」

 

「……少しだけよ」

 

 周囲は程よく草木が生え、虫の姿もない。

 熱っぽく瞳を潤ませた東郷に唇を重ねると、彼女は男を受け入れるかのような表情を見せ、柔らかく優しく情熱的なキスを返してくれた。 

 

 ダメ、とは言われなかった。

  

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