目覚めの瞬間はいつも、水面から顔を出すかのように唐突だ。
睡魔から引き剝がされて現実を見ろと言わんばかりに覚醒へと導かれるのだ。
それが良い夢でも、悪夢であっても、パチンと泡が割れるように意識が睡魔より乖離する。
「──?」
寝言を呟く乾いた自らの声音が覚醒へと導く。
焦点がゆっくりと合わさり、見知らぬ天井、見知らぬ部屋を知覚する。意識して呼吸すると自動で起動していた暖房の温かい空気が鼻孔から肺を膨らませる。
二度、三度と、鼻呼吸を繰り返し、寝台と毛布の柔らかさに重い瞼を閉じて、
「ぁ、ぁー……?」
四肢に血が巡らせて、瞼を閉じた裏側で意識と睡魔が戦う。
二度寝をするか、健康的に目覚めてランニングにでも行うべきか。
身体に異常はないか、拘束されていないか。意識と記憶は明白か。
敵の襲撃を受けてはいないか。五感は正常か。声は聞こえるか。
朝の習慣ともいえる自分自身への確認作業はこの世界に来てから続けている。
眠っている間に樹海化が発生していないか、気が付いたら子供になっていたなどファンタジーな世界であることもあり、目覚めと同時に行われる点検作業は重要なのだ。
それらを瞼の裏で進めて、自身に問題がないことに満足してから、改めて瞼を開ける。
朝が始まる。
「東郷さんの髪が短くなった夢を見た……」
東郷の髪が短くなり更に大人びたら、殆ど初代に近しい容姿になる。
四国という箱庭で三百年。他人の空似なのかどこかで血が入ったのか。しかし所詮は夢の中の出来事であると頭を振り、欠伸と共に瞼を開けると黒髪が目に入った。
シーツに広がる濡羽色の髪の千景があどけない寝顔を晒して寝息を立てている。
「すぅ………んん……」
内気でツンデレな少女の幼い寝顔。
身体を丸めるように眠っている彼女を包む毛布を捲ると、上半身は黒のシャツを着用し下半身がピンクの下着のみというラフな格好をしていた。
薄い胸元に手を伸ばすとむにゅりと感じる柔らかな質感は彼女の乳房そのものだ。
「ん……さむ……」
毛布を捲ったことで空気が入り込んだからか、千景は艶やかな腿をくねらせて自らを腕に抱く。
曲線美を描く彼女の両腿の間に手を突っ込むと程よい弾力と生暖かさを覚える。キチンと食事を摂っているからか細くも肉と脂の乗った腿肉の感触と体温が手を温める。
ゆっくりと両腿に挟んだ手を上下に抜き差しすると、彼女の形の良い眉がピクリと動く。
「んん……? ん~………たかしま、さん……」
寝返りをうつ彼女は長い黒髪を広げ、ふわりと芳香を漂わせる。
無意識に人肌を求めているのか背中を俺に預けた彼女は猫のように体を丸める。
「ダメ……かがくん…………こんなところで……」
その姿に背後から抱きしめる。
寝起きの人肌は心地よく、埋めた髪の毛は絹のように滑らかで少女の香りが肺に広がる。ふにふにと背後から乳房を揉みしだき、片方の手は恥部へ伸び、起こさない程度に女体を楽しむ。
「……ぁ……ふ、ぅん……」
形の良い眉を僅かにひそめるも千景の覚醒は遅い。
普段から夜遅くまでゲームの為に起きているからだろう、すべすべの内腿を手全体で堪能しながら下腹部を隠す唯一の布切れ越しに秘部を親指でコリコリと擦るも瞼が開かれることはない。
それでも、ゆっくりと指で恥部を摩ると、長い睫毛に縁取られた瞼が僅かに震える。
『い、いいから! 自分で拭くから! そこは今敏感だからぁ……! ィ、ク……っ!!』
「ん……」
昨夜の記憶が彼女から漂う淫靡な芳香とその姿に思い出す。
湯舟に浸かってふやけた少女たちの肌を隅々まで拭いてあげたことを。
『ゃ、ぁ……もういいからぁ……タオルでクリクリしないでぇ……』
「っ」
『ん……水……? ありがと……口移しじゃなくていいから……んッ──』
「ぅ、ふぅん……」
『──ぷはっ!! はあ、はッ、は───、もう……好きにして……』
湯冷めしないように少女二人の火照った身体を介抱して下着や衣服を最低限着せた。
そのまま無抵抗の少女たちに水を飲ませて、千景の部屋にお持ち帰りしたのだ。夜遅い時間に誰かに遭遇することはなく、やや肌寒い中でキチンと布団と互いの人肌で眠りについたのだ。
正しく朝チュン。事後と呼ぶべき状態で俺は眠る少女の身体を堪能する。
「んぅ…………そこ……らめ……」
ふにふにと秘部を弄り、少女の白磁の肌に薄く朱色が差すのを見届ける。
徐々に熱く荒い呼気と下着に広がる湿り気は、彼女の見る夢を喜悦に染め上げる。無防備な彼女のショーツの中に手を入れると柔らかい恥毛と蜜を滲ませる秘裂と肉芽を指に感じる。
ゆっくり、ゆっくりと少女の性感帯を弄ぶように指で彼女の身体の変化を楽しむ。
ゆっくりと。ゆっくりと。
「ぁ……ぁ、っ……」
にちゅ、にちゅ、と布団の中で淫靡な水音が聞こえる。
内腿を擦り、快楽から逃れるように腰を引かせる彼女を指で擦り続ける。
「は……ぁ、ぁぁ……」
ゆっくりと。ゆっくりと。
彼女の身体に背後からピタリと張り付いて、汗ばむ首筋をそっと甘噛みする。
「ふぅ、んッ……ぁっ……~~~~っっ!!」
やがて、眠りながら身体を硬直させて少女は絶頂に達した。
両腿を閉じると、身体をエビのように反らせた彼女の口端から垂れた涎がシーツに染みを作る。
抵抗はなく、ただ快楽を享受するように千景は容易く夢の中で法悦に上った。ピクピクっと小刻みに震える彼女のショーツから手を引き抜き、赤らんだ千景の横顔を見下ろす。
「はぁ………はー……」
口を小さく開閉させて、呼吸を整えようとする彼女は未だに目を覚まさない。
ふと近くに転がっていた携帯端末を手に取り、眠り姫の顔を数枚ほど画像として収める。
彼女の絶頂に浸る艶やかな表情を端末に収めたことで精神的な何かが満たされたのか、千景の身体をまさぐる手を放すと今度こそ起床しようと俺は身体を反対側へ向けた。
「────」
友奈がいた。
髪留めのない、髪を下した高嶋友奈は本当に結城友奈と見分けがつかない。
乱れた髪を枕に広げ、あどけない寝顔で寝息を立てている姿は思わず抱擁せざるを得ない可憐さがあった。千景や東郷と友奈族への狂信者が生まれるのも納得の可愛さだ。
水音が煩かったのか一瞬だけ開かれた瞳はぼんやりとしており、やがて再び瞼を閉じる。
「……ん」
布団を捲ると白い身体が映り込む。
辛うじて肌を包むのは彼女が最後に着用していた下着類のみだ。千景の肌と比べて高嶋の肌は明確な傷という物もなく下着のみを着せて千景の部屋まで運んだ。
ふにゃふにゃ少女二人に衣服を着せるのは思った以上に重労働で妥協の必要性があった。
「高嶋さんもかわいいよ」
下着姿の少女を抱きしめて薄紅色の髪に鼻を埋める。
黒のリボンの付いたピンクのストライプ柄の可愛らしい下着は千景が選んだのだろう。ときおり制服のスカートから覗かせる青と白のストライプ柄ではない、少し背伸びをしたような下着だ。
普段から高嶋のことを考えている千景が選んだそれは彼女にとても似合った。
「んゅ………はぐー……」
寝ぼけているのか、口元を緩ませて瞼を震わせる彼女は俺の抱擁に応じる。
ぎゅうっと抱きしめてくる彼女、その柔肌と体温に思わず安堵の吐息を漏らした。
「……友奈」
「ん」
友奈族は心のオアシスと言っても過言ではない。
結城家の少女を高嶋家の少女に重ねて、そこに少しの差異を感じて自己嫌悪に浸る。それ以上に、スリスリと首筋に顔を埋める彼女の抱擁に心が満たされていく。
柔らかく、温かく、高鳴る彼女の鼓動に無言で目を閉じて、少女の尻肉に触れる。
「んっ……」
ふにふにと独特の弾力のある彼女の臀部。
尻肉を割り拓き、ぎゅむっと握ると少女は僅かに熱のある呼気を漏らす。
三十秒。
いつだったか、園子から聞いたことがある。
異性とハグして三十秒が経過するとストレスが半分ほど無くなるらしいと。
薄紅色の髪の毛をそっと撫でながら、それを実感する。
人肌が、匂いが、無力で矮小な自分を許してくれると、そう感じて。
告げられた訳ではない。
荷物ではないのかと尋ねれば勇者部の人間はそんなことはないと否定するだろう。
だが、他人の心の内は誰にも分からないものだ。何を考えているかなど神にも読めない。
考えていることが分からなければいつ裏切るかも分からないのだ。
裏切られるというのは恐ろしい。
それまで築き上げた土台が全て崩れ転がり落ちていく、全身の血が抜けるような感覚。
愛憎は表裏一体とよく言ったものだ。
力もなく、せめて次は裏切られないように、他人の弱みを握り支配しようと考えるのは仕方がない。関わる人間すべての弱みを握ることが出来たなら健やかに眠ることが出来るだろう。
今度はきっと誰にも裏切らせないことに安堵を抱いて。
「────」
一人でいるとき、そんなことが頭を過る。
こんな中二病みたいな暗いことばかり考えているから勇者になれないのだろう。
指に嵌めた指輪を撫でて、血の巡りをよくするように手首を揉んで思考をやめる。
人肌は偉大だ。
身近な者を抱くと心が癒されるから。
浅く、低い呼吸を繰り返す高嶋をそっと抱き返して、手を放す。
純粋で優しくて裏切らない少女のことを好ましく思いながらも、俺はそっと身体を起こす。
千景の寝台は年頃の少年少女三人分を乗せて僅かに軋み音を立てていた。
人肌で温まった名残を身体に感じながら、薄紅と黒の美少女を二人、高嶋と千景を寝台に横たえる。くんずほぐれつ、腕や足を絡めあうように抱き合わせて布団を掛けなおす。
少女たちが目を覚ますという愚行を犯すことは奇術師の名に懸けてありえない。
高嶋と抱かせた千景もきっと喜んでくれるだろう。
床に散らばっていた衣服を着こみ、彼女たちの脱ぎ散らかした衣類を畳む。
最後にすやすやと寝息を立てる彼女たちの寝顔を携帯端末で撮ると、俺は部屋を出たのだった。
+
「はえー、千景の部屋に泊まったのか」
寄宿舎の食堂は無料だ。
大赦からの手厚いサポートにより様々なうどんの他に人気の定食もある。
うどんは昼に食べるとして、朝はやはり洋食を食べるのが加賀家の習慣である。
「朝? もう昼に近いぞって、そうじゃなくて! ……えっ、やっぱり千景のマウンテンにアタックしちゃったのか!?」
「も、もう! タマっち先輩、朝からそういうのはダメだよ」
寄宿舎には様々な時代から呼ばれた勇者や巫女が住んでいる。
俺の眼前にいる少女たちは西暦時代の四国を守っていた初代勇者である。朝から寄宿舎にいるところを発見された俺は彼女らと共に朝食を摂ることになった。
驚愕、そんな表情を浮かべる勇者に対して俺は首肯と同時にニヤリと笑う。
「アタックどころかダイビングまで決めちゃったぞ」
「そこまで!? ダイビングなんてタマですらあんずにしかしたことないのに!」
「タマっち先輩!? りょ、亮之佑さんもあんまりそういうのは……」
「ほっほっほ。事実は小説より奇なりとはよく言うじゃろう? 杏の自室にある棚裏に隠してある官能小説や大好きなサンチョ先生直筆の官能小説並に凄いことをしてきておるぞ」
「そ、そんなに……ハッ!」
「……まあ、あんずは……うん」
「ちょ、違うからねタマっち先輩! 違うから! 隠してないから!」
背が低く腕白で落ち着きのない茶髪の勇者の名は土居球子。
勇者部で少年のような言動をするキャンプの愛好家であり話がよく合う友人である。
よくひなたや東郷に吊るされる球子の暴走を諌めるふんわりとしたミルキーブロンドヘアの勇者。
スタイルの良い文学少女、伊予島杏は若葉たち丸亀組の軍師であり、この世界で園子に出会ってからは特に年下の少女たちに対してビュオオオウ!! と風を吹かせていくようになった。
俺の好きな金髪ふわふわ令嬢の影響力はそれはもう物凄いのだ。
「まあ、ダイビングはちょっとしたジョークだよ。高嶋さんも一緒にいてゲームもしてたし、雪降ってたのもあるからそのまま泊まっただけだよ」
「確かに昨日は雪が積もったからな~。でも、あの千景の部屋に泊まったのは凄いと思うぞ」
「無理に帰らなくて正解だったと思いますよ。帰る途中で事故にあったりしたら大変ですから」
「夜になるのも随分と早くなったからなー」
「そもそも朝が来ない時もありますからね。出来るだけ固まって行動した方がいいんです」
少女たちの言葉に相槌を打ちながら窓に目を向ける。
陽光差す窓には雪が張り付き、積もった雪を少しずつ溶かしているようだった。
夜が終われば日がまた昇る。当たり前に思える常識はこの世界では通じない。
神樹の中にいる神々や中立神などの影響により、陽光が無い果てなき夜が続くことを杏は告げていた。それらはときおり現実世界でも発生し、混乱が生じることも度々あったのだ。
「まあ、雪ってのは溶けたら溶けたで足を滑らせるからな」
「なんだ、亮之佑は冬は苦手か? もうすぐサンタさんの来るクリスマスや大晦日、お正月とイベント盛沢山の季節が来て、さらに雪で遊べることの何が不満なんだ」
「いや、これでも昔は園ちゃんとカマクラとか作ったりしてたぞ」
「ほう。カマクラと言えば、銀たちが秘密基地の改築をしてるらしくてな──」
「あっ、そういえばなんだがこの前、夏凜も小さくなっただろう? それで小さくなるなら大きくなることもあるんじゃないかって──」
和気藹々と情報を交換し、話をしている最中、球子の開いた口がふと閉じられる。
その視線が向く先は、俺の隣でうつ伏せになって唸り声を上げる少女。
彼女は最初からそこにいた。うどんを食べ終えて顔を伏せている彼女のどんよりオーラに誰も近づかず自然と空いていた場所で球子と杏は食事をして情報交換をしていたのだ。
このどんより若葉ちゃんは球子曰く西暦時代でもよくあることだと告げていたが──、
「なあ、若葉もいい加減何があったか言いタマえ! 仮にもタマたちのリーダーなんだから昔の千景みたいにウジウジするんじゃない! また、ひなた関連なんだろう?」
「球子……仮にもと言ったか?」
「そこは気にしないでくれタマえ!」
長い金髪を姫カットにした少女。
丁寧に編み込まれた髪型は下ろされていた為、先ほど俺が見慣れた髪型へと戻した。髪の毛に触れている間、若葉はただ唸るばかりで抵抗することも無く、杏は無言で目を輝かせていた。
「勇者部五箇条! 悩んだら相談!」
「そうだな……実は」
おずおずと、珍しく言い淀む若葉は口を開く。
俺に目を向けて、杏や球子に目を向ける瞳は揺れ動き、艶やかな唇が震える。
「そういえば今日はひなたさんは一緒ではないんですね」
「……ッ」
「ああ、やっぱり」
杏の何気ない言葉は若葉の態度に関係があったらしい。
分かりやすく、顔を赤らめて目を泳がせる彼女の姿を肴にコーヒーを啜る。
「ひなたは……、いや昨日のことだ。じ、実は……昨日、ゲームをしていたんだ」
「……続けて」
「ああ、それで友奈も加わって千景に勝つ為の特訓をしていたんだ」
「ここまでは普通だな」
球子と杏の三人で相槌を打ち、悩める女の言葉に耳を傾ける。
昨夜は高嶋が告げた通りに若葉の部屋でゲームをしていたらしい。そうして楽しくゲームをしていた時にひなたが持ってきたお菓子を手にした時に何かが起きたらしい。
「確か……勇者部のお礼品だと言っていた……」
「あれを食べてから……その、なんだか身体がふわふわとして……」
普段は堂々とそれなりにある胸を張り、明朗に言葉を発する若葉。
その表情は現在にではなく、昨夜のことに思いを馳せているように虚空を見つめている。
「それで?」
「気が付けば……友奈が帰って……その、ひなたが……玩具で私を……」
「玩具?」
「うわぁあああっ!!」
「うーん。聞いているといつもの奴だと思うんだけどなぁ」
「冷静だね、タマっち先輩は」
「夫婦喧嘩は犬も食わぬという奴だろ。タマは詳しいんだ」
若葉とひなたのことに関しては、やはり勇者として同期なのか理解のある少女たち。
忘れたいほどに恥ずかしいことがあったのか、ブツブツと呟く彼女は再びテーブルに顔を伏せる。耳を傾けると「ひなたが……」とか「あれを私に……」と実に平和的な内容だ。
「どこがだ! ハッ! ……亮之佑、お前がひなたに何か吹き込んだんじゃ……」
「まさか。俺は何もしてないけど、もしかして二人で大人の階段登っちゃった?」
「……ッ」
「えぇっ!? 本当なんですか!」
「い、いや、ちがっ……! た、鍛錬に行ってくる!! りょ、亮之佑も付き合え」
「えー、寒いから嫌です。階段なりどこなり勝手に駆け上がって下さい」
「さ、最初に階段を登らせたのはお前だろ!」
「えっ、若葉さん? 今の発言はどういう……」
「ぁ───、~~~~~ッッ!!」
自爆してかあああっと赤面する少女の表情はいつだって美しい。
ひなたではないが、ニコニコとポーカーフェイスをする園子のふと照れたりした表情を隙あらば携帯端末に収めては怒られるくらいには、少女の羞恥に赤らむ表情は好きだ。
脳の処理が限界を超え食堂から走り去る彼女を見届けると向き合う少女たちの視線が刺さる。
鈍感な少女と察する力のある少女の向けられる瞳の色は真逆だった。
「つまりどういうことなんだ?」
「タマっち先輩には早いかな。……亮之佑さんは流石ですね」
「照れるな。あっ、別に誰も彼もってことはないから安心して」
「それは……そうですね。この数年で理解したつもりです」
「ん〜?? さっきからあんずは何を言ってるんだ?」
「気にしないで」
寄宿舎を訪れた回数はもう覚えてはいない。
大半の勇者と巫女が住んでいる以上、足を運ぶ回数は必然と多くなる。
その結果、こうして見目麗しい少女たちと部活動以外でも話すことは増え、信頼関係を構築しつつ、情報交換を進めることが出来るようになったのだ。
もういくつ寝るとクリスマス。
この世界に来てから何度目かの年越しが近づいていた。
「それにしても、二人はいつも一緒にいて本当の姉妹みたいだね」
「そ、そんな」
「照れるじゃないか~。1タマポイントをやろう。亮之佑だって結城や東郷、園子とよく一緒にいるじゃないか」
「俺レベルになるとプライベートな時間も必要になるんですよ」
「なるほど、倦怠期って奴か。というか一緒に暮らしているとかじゃなかったのか?」
「倦怠期って……違うと思うよタマっち先輩」
「いや……まだ同棲してるって段階ではないかな」
「まだ、なんだ……」
友奈や東郷とも殆ど同棲しているような付き合いだ。
あられもない姿を見たり見られたりもしているが、年中一緒という訳ではない。加賀家最後の血筋となっている俺とは違い、彼女らは自らの親との付き合いもあるのだ。
中身が既に中学生を超えていようとも、此方の都合で彼女たちを拘束するのも心苦しい。
彼女たちにも予定があるのだ。あまり束縛するというのも良くないだろう。
「なにより今日は友奈が東郷の家にお泊りしてるから。邪魔するのはちょっと」
「本音は?」
「ずっと一緒にいたいかな」
「──そんな寂しがりなかっきーを、私が独り占めしちゃうんよ~」
一瞬、俺を見る少女たちの驚いた顔が映り、視界が黒く染まる。
柔らかい掌の感触と、優し気な、親愛の籠った声色が強張った身体を解す。
「……大赦の方で用事があるとかでいないんじゃなかったの?」
「そっこーで終わったんよ! 瞬殺! ズババババン! って感じで」
「いつからいたんだ?」
「ひみつ」
耳元で囁く声が優しく鼓膜を伝い脳を震わせる。
後頭部に感じる豊かな質感は彼女の余裕の表れであると同時に、小さな疑問を抱かせる。
「えっと……園子さんのお姉さんでしょうか?」
「ん?」
言語化されていない疑問、それが形になる前に杏の震える言葉に眉をひそめる。
乃木家の末裔である園子に姉妹はいないし聞いたことはない。家柄故に隠し子はいるかもしれないが、少なくとも背後にいる人物が園子の姉ということはあり得ないだろう。
何故なら──、
「俺が園子を間違えることは無いからだ」
振り返ると知らない少女がいた。
否、知らない訳ではない。寧ろ知らないことは無いし、これから先も知っていきたい。
親愛を、友愛を、確かな信頼に乗せて見つめてくる瞳に何度応えたいと思ったことか。
加賀亮之佑が乃木園子を間違える筈がない。
そうありたいと、そう思うことはただの傲慢でしかなかったのか。
「──だ、誰……」
「そうか……知らぬか。では名乗りを上げようか!」
背後にいた女の容姿は大学生くらいだろうか。
少女、というにはやや大人びた表情を浮かべて、振り向いた俺の顔を見て破顔する。
見慣れた姫カットはともかくも、背丈も体格も僅かに声すら違って聞こえる彼女は大学に行けばさぞモテるだろう美女だった。
「あなたのサンタクロースで~す!」
金髪の美女は何故か赤と白を基調とした衣服と帽子を着ていた。
ミニスカートなサンタクロースがやってきた。
ゆゆゆ三期の最終回は喪失感と寂寥感がたまらなかった…でも勇者は不滅なんだ。