※この作品はR-18です。

果てなき夜で、貴方に愛を   作:毒蛇

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第二十六話 新年を迎えて

「こしちゃった……」

 

 小さなその声に瞼を開ける。 

 眠っていた訳ではなく、ただ瞼を閉じて肌に感じる温もりに甘えていただけ。

 自らの身体に圧し掛かる柔らかな温もり、その発生源に俺は無言で目を向けた。

 

 外は防寒具が無ければ凍えかねない深夜帯。

 一週間前ならサンタクロースが訪れたであろう良い子なら既に就寝している時間。寝台の上に敷かれた布団、その間で俺の身体の上に乗り自ら肉布団と化した彼女と目を合わせる。

 照明は点けておらず、闇夜に慣れた視界が互いの状況を映し出す。

 

「ん……」

 

 豊満な乳房を男の胸板に押し潰し吐息と鼓動を聞かせる美女。

 ときおり擦れ合う性器がにちにちと淫音を奏で、小さく嬌声をあげさせる。滑らかな色白の肌は瞼を閉じても脳裏で容易く再現が可能になるほど、触れて、見て、味わった。

 散々交わってまだ足りないと擦れる乳首の硬さは硬度を保ったままだ。

 

 ここ数日は、性行為を覚えたての学生のような日々を送っていた。 

 美女にくっつき、くっつかれていることを互いに良しとしていた年末。勇者部の部活動に取り組み、クリスマスは勇者部プレゼンツお疲れ様会を楽しみ、美味しい食事を楽しみ、女体を味わう。

 取り返せない青春を味わうように身体を貪り、貪られた。

 

「……越しちゃったんよ」

 

「何が?」

 

「年」

 

 再び呟く言葉に聞き返すと、静かに、端的に告げる美女。

 金髪の長い髪を裸体に広げ、凛々しさを見せる端正な顔に聞き返す。

 新年。その言葉にどこか悲し気な顔を見せる彼女から、机に置かれた時計に目を向ける。

 

 長針は上を向き短針が右上を向く。

 ほんの数分前に、新たな一年が始まった、そう言われてもしっくりこない。そう思いながらも、ほんのりと上気した柔肌を俺に押し付けて長い睫毛に縁取られた瞼を瞬かせる女に口を開く。

 

「……あけおめ」

 

「ことよろ~。急に身体が縮んでいくような……かっきー好みのお姉さんボディが……しょぼ〜ん」

 

「別に年上が好みって訳じゃないけど」

 

「あんなエッチなこといっぱいしておいて? 凄く激しかったな~。小説でしか聞かないような台詞を言わされて、恥ずかしいこともさせられて……もうお嫁にいけないから責任とって~」

 

「いくらでも取るから、それに園ちゃんもノリノリだったじゃん」

 

「でもエッチな写真もいっぱい撮ってたよね?」

 

「大人園ちゃんなんだから、ちゃんと撮らないと」

 

「……ひなタンみたいなこと言ってるよ~。かっきーも大きくなるか小さくなるかしたら一杯写真撮ってあげるからね~」

 

「俺はいいよ」

 

 金髪の美女は変わらぬ微笑を浮かべる。

 疲労感と充足感に満ちた彼女は僅かに汗ばんだ裸体の体温と柔らかさを直に俺の肌に伝えながら官能的な吐息を聞かせる。

 蠱惑的な脚を絡ませて、布団の中に亀のように引っ込めた頭を俺の胸板に置く。

 

「……かっきーの鼓動だぁ」

 

 心が病んでいそうな言葉を呟く園子。

 一週間前のクリスマス頃から今に至るまで彼女の身体は成長した大人の姿のままだ。

 シンデレラのように魔法が解ける時間が明言されておらず、神樹といった神々による影響であるのは間違いない為、彼女の姿が元に戻るのには多少の誤差があるのかもしれない。

 

「かっきーはこの身体の方がいい? それとも元の方がいい?」

 

「園ちゃんの身体がいい。大きいのも小さいのも全部園ちゃんだから。好き嫌いなんてしない」

 

「──、ふーん」

 

「照れた」

 

「照れてないよ」

 

「それにそのスケベボディも将来好き放題するから。俺がその身体になるように育てちゃう」

 

「最低だ~」

 

 ぷくっと膨らんだ餅のように頬を膨らませる美女。

 見た目の年を考えると似合わない行為だが、彼女がすると自然と似合ってしまう、掴みどころの無い幼馴染は俺の身体の上から降りると此方に顔を向ける形で横になる。

 

「かっきーの上で眠ると寝言が凄いから」

 

「そんな寝言言ってるか?」

 

「うん。色々言ってるけど揶揄ったりしないから安心して」

 

「ありがとう」

 

「代わりにお正月に獅子舞するからその時に手伝って~がぶがぶがぶっ!」

 

「ぐああっ!」

 

「悪い子はいねが~! 食べちゃうぞ~」

 

「それはなんか違う気がする」

 

 獅子舞のことはあまり分からない。

 ただ、園子のことは理解できるし、理解したいと思う。

 深夜テンションになりつつある園子が「私が獅子舞だ!」と告げて俺の肩に甘噛みする姿は可愛らしく、豊満で形の良い乳房を押し潰して襲い掛かってくる。

 掌からはみ出る大きさのそれを揉みながら暫くじゃれ合うと力尽きたように倒れる。

 

 無駄に体力を消耗して、いったい何をしているのか。

 餅のような柔肌を堪能しながら、結局覆い被さるように抱擁する園子の背中に腕を回した。

 

「福袋も買わないとね……」

 

「乃木家パワーでいくらでも買えるだろ?」

 

「みんなで買うのが大事なんよ。知ってるでしょ?」

 

「まあね」

 

 金では買えない物がある。思い出だ。

 園子はそれを非常に重要視しており、その思い出を乃木家所有のとある場所に形として残しているくらいに大事にしている。

 記憶が、思い出が人を形作る。

 彼女にとって、忘れられない思い出というのはそれだけ重要な物なのだ。

 

「ん……」

 

「寝なくていいの?」

 

「かっきーだってまた硬くしてるけど寝ちゃっていいの?」

 

 悪戯っ子のような笑みを浮かべた園子。

 老若男女問わず惚れさせそうな微笑で、自らの肢体を余すところなく見せつける彼女は腰を揺すると自らの性器と俺の性器を擦り合わせる。

 萎えることを知らないと反り立つ肉竿に触れる白魚の指が蜜壺に宛がう。

 

「ぁ……かっきー、こういうのを『ひめはじめ』って言うらしいよ」

 

「ひめ、はじめ」

 

「そう。……挿入するね」

 

 ぬぷぷ、と怒張を飲み込む美女の膣がきゅっと締め付ける。

 俺の上に馬乗りになる彼女は自らを貫く雄棒に淫靡な吐息を聞かせた。見下ろす女の喜悦に震える膣が根本まで怒張を飲み込み、俺は小さく呻いた。

 眠らせるつもりも、眠るつもりもないらしい。

 彼女の身体が元に戻る、その瞬間まで、限界まで精を貪るつもりなのか。

 

「かっきーを食べちゃう……」

 

 優位に立ちたい美女が俺の頬を撫でる。

 許可も求めず、否定は許さず、ただ唇と精を奪われる。

 

 そんな風にして俺と園子は年を越した。

 

 

 

 

 寝ぼけ眼で日の出を見て、乃木家本家に赴き挨拶を行う。

 それがここ数年の新年を迎えた第一日目の行動である。勇者部で日の出を見ることは恒例行事になりつつあり、家の事情などもある為、寄宿舎組などを除くと大半が参加する行事だ。

 すやすやと眠りこける彼女を寝かさないようにするのは骨が折れる。

 

「ねむ~い」

 

「わか~る」

 

 気が付くと園子は元の姿に戻っていた。瞬きする間に戻っていた。

 少しだけ惜しい気持ちはあれども、大半の感情は散々彼女を抱いて消失していた。その証拠となる肌色多めの写真を園子から隔離しながら、彼女の着替えを手伝う。

 

「ほら、頑張れ」

 

「ねむ~い。かっきーおんぶ~」

 

「駄目」

 

「誰かさんが眠らせてくれなかった所為じゃないかな~……?」

 

「どちらかというと眠らせようとしなかったのって園ちゃんだよね」

 

「すや~……」

 

 挨拶やら何やらで忙しく乃木家本家でそのまま泊まり、二日目を迎える。

 寝息を立てる園子、いつの間にか体格が戻っていた彼女は着せ替え人形のように俺に下着も衣服も着させて送迎車に詰め込まれる。

 勇者部がよく利用するショッピングモールで福袋を購入する為に目的地へと向かった。

 

 そこは既に戦場であった。

 主婦、学生問わず、開店数分前のショッピングモールには多くの人が並んでいた。その列の中に見知った少女たちがいるのが見えた。

 破裂寸前の風船。そう表現せざるを得ないピリピリとした空気に背負った園子も口を噤む。

 

「一体何が始まるんです?」

 

「──戦争よ」

 

 そう告げた勇者部部長、その隣には彼女の妹と見知らぬ女。

 腕を組み、こちらをジッと見る様相は凛々しさを感じさせる。ボーイッシュな雰囲気、ピリピリとする女たちの目線が心なしか和らぐ凛とした様相がその佇まいを際立たせる。

 

「……遅いじゃない」

 

 目を合わせてぶっきらぼうに告げる口調でおおよその理解に至る。

 髪型も体型も異なれば、もはや記憶にある人物とは別人とも言えるだろう。

 

「風先輩の恋人ですか?」

 

「は」

 

「はあ!?」

 

「どうも、初めまして。加賀亮之佑と言いまして、風の最初の男で──」

 

「ちょ、ちょっと、違うから! 私よ! 夏凜よ」

 

「知ってる」

 

「こいつ……!!」

 

「もうロリの片鱗全然ないじゃん」

 

「だ、誰がロリよ! 昨日からこの姿になってたのよ! 連絡見てないの!?」

 

「見たけど……」

 

「にぼっしーがイケメン過ぎて誰この人? ってなっちゃったんよ」

 

「あっ、そ、そう……ありがとう」

 

「……にぼっしーはにぼっしーだねぇ」

 

「どういう意味よ」

 

「夏凜ちゃん可愛い!」

 

「か、可愛いとか言うなぁ!」

 

 変化したのは見た目だけなのか。

 18歳程度に成長した夏凜をジックリと見ると気恥ずかしそうに頬を赤らめる。

 友人の変わらぬ内面に頬を緩ませると、気まずそうな顔をする風がおずおずと口を開く。

 

「……あの、亮之佑? あんまり人前でそういうことを言うのはちょっと……」

 

「すみません。女子力の塊で麗しい風先輩に彼氏が出来たんだと思うと、昔の男面したいって口が勝手に動いちゃって。それよりも、もうすぐ宴が始まりますね」

 

「え、ええ、そうね。……軽く流されるのは癪だけど……アンタたちも並んだ方が良いわよ」

 

「そうですね。風先輩、頑張って下さい」

 

「任せなさい! 今年こそは蓄積した女子力で福袋をゲットしてみせるわよ!!」

 

「女子力?」

 

 知り合いがいたからといって列に割り込むことはしない。

 勇者部の知り合いたちに挨拶をしながら列の後ろに並ぶとそれは始まった。

 

「それではこれより開店します! 慌てず押さずに──」

 

 自動ドアが開き従業員が告げた言葉に誰が耳を傾けたのか。

 聞く耳持たず、欲する物すなわち福袋を求めて老若男女が走り出した。

 

「ああ!! お客様! どうか慌てず──」

 

「突撃よ! 突撃!!」

 

「この時の為に一年間ジムで鍛えた筋力で福袋を手にする!」

 

「「「福袋! 福袋!」」」

 

 排水溝に流れていく水のようにショッピングモールに流れ込む人を制しきれない従業員たちの苦悩は如何ほどか。所詮は他人事であるのでその惨状に目を背けて背中から園子を下ろす。

 園子(中)と共に傍観者面しながら、ゆっくりと脚を進める。

 人の多さに自然と手を握り、人が建物の中に飲み込まれていく様を見届ける。

 

「毎回思うけど、こういうのって欲しい物を直接買えば良くないか? 当たりがあるということは外れもある。金を出して馬鹿を見るよりもお金を貯めてちゃんと買うべきじゃないのか?」

 

「それがロマンじゃよ。当たっても当たらなくてもそのドキドキ感を楽しみたいのじゃ」

 

 園子は別に購入したい物はないらしい。

 このわちゃわちゃした宴を皆で楽しむことの方に集中している。

 ある種、達観しているともいえる彼女の横顔には明確な余裕が見て取れた。

 

「残り物には福があるって言うし~、なんだかんだで一個くらいは手に入ると思うよ~」

 

「──その通りですよ園子先輩~」

 

「むむっ、何奴か!」

 

「私だ!」

 

「私かー!」

 

 そんな園子のスタンスを理解している者がいる。

 同一人物である園子(小)である。勇者部小学生組の一人である彼女はトテトテと歩み寄ってくると俺にぎゅうっと抱き着き、園子(中)にふわふわとした笑みを見せる。

 サンチョ枕を抱いた可憐な少女は上目遣いで戦場への誘いを口にする。

 

「園子先輩、そろそろ私たちも一緒に戦場に行きませんか?」

 

「そのっちの頼みとあらば行こうじゃないか! ……かっきー、またあとでね」

 

「かっきー先輩は一緒に来ないの? 人に酔っちゃった?」

 

「折角だから俺は食品売り場に行こうかと。二人で行っておいで」

 

「主夫だ~」

 

「美味しい料理をいつもありがとう~」

 

 抱擁したり身体を擦り付けたりする園子ズ。

 周囲から見れば可憐な美少女姉妹を侍らせているプレイボーイだろう。ただ、こちらを見ている者は誰もおらず、そもそもここにいる人間の大半が福袋のみに関心を割いているのだ。

 事情を知らなければ姉妹で通る彼女たちがふわふわと福袋を目指して進む為に一度別れる。

 

「……亮之佑さん?」

 

「ひなたさん」

 

 食品コーナーに脚を進めていると、ひなたに出会った。

 休憩中なのか、備え付けのベンチに背筋を伸ばして座っている彼女は凛とした佇まいだ。既に手にしたらしき福袋を小脇に抱える彼女はふんわりとした笑みを見せる。

 

「休憩ですか?」

 

「ええ……若葉ちゃんのお手洗い待ちです」

 

「なるほど。戦利品もゲットしてホクホクですね」

 

「ええ、私の若葉ちゃんが頑張ってくれましたので。亮之佑さんはどちらに?」

 

「俺は食品売り場に行こうかと」

 

「そうでしたか。確かそちらの方で結城さんを見かけましたよ」

 

 今回の福袋狩りは勇者部総動員で参加している。

 当然、結城家の友奈やその隣人である東郷も参加しているのは知っていた。先ほど挨拶をしていたが人の波に攫われてから未だ遭遇していなかったのだ。

 

「そういえば、写真の方ですがどうでしょうか?」

 

 食品売り場に脚を向けた俺に思い出したようにひなたが告げる。

 妖艶な笑みを一瞬見せる彼女の言葉に、無言で携帯端末を取り出す。

 ひなたが告げる写真も当然あった。肌色多めの写真が。

 

「快楽に屈し掛ける若葉ちゃんの表情、あの写真は最高でしたぁ〜♡」

 

 うっとりと告げる巫女の自撮り写真。

 自らが慕う若葉の写真と交換する為に自らの身体を撮った写真を送ってくるようになった。最初は恥ずかしかったのか制服を捲り上げた下着姿や、若葉との普通のツーショットなどだった。

 ひなたは下着まで拘る女子なのだと、画像を通して教えてくれた。

 

 彼女が送信してくる卑猥な自撮り写真に対して俺は所持する若葉の写真を送る。

 露出度、構図、羞恥、それらを加算して若葉の写真を送るのだ。特に何かを告げている訳ではないが、淫らなほど、肌の露出が多いほどに彼女が望む勇者の淫靡な写真を与える。

 

 ひなたにはどんな写真を送れとは細かい指示はしていない。

 ただ、何度か繰り返す度に此方の意図を理解して、日を経るごとに彼女から送られる写真の内容は徐々に過激さを増していた。

 少しずつ下着だけではなく、その中に隠された部分を見せ始めた。

 

「あの……誰かに見せたりとかしないで下さいね」

 

「勿論、分かってますよ。あっ、この写真とか良かったです」

 

「……!」

 

 携帯端末に映った彼女の自撮り写真を見せる。

 ブラを外し晒された豊満な白い乳房、その先端だけは辛うじて指で隠しているが鏡越しに頬を染める上半身裸になった自らの写真。

 顔は隠され口元のみが見えているが親しい人物ならば看破されかねない際どい姿。

 それに目を向けた彼女は慌てたように無言で俺の腕を掴み周囲に目を向ける。

 

「……、ひ、人がいますから……!」

 

「こんなにノリノリで撮ってるのに恥ずかしがるんですか?」

 

「ノリノリなんて……私はただ若葉ちゃんの写真が欲しいだけで──」

 

「冗談ですよ。でもほら、この構図とか凄いですよ? 才能ありますよひなたさん」

 

「そっ、そんなことは……」

 

 ベンチに座るひなた、その隣に座り彼女にしか見えないように端末を見せる。

 目の前で彼女が好みそうな若葉の肌色写真を幾つかひなたに送り、小声で囁く。

 

「今送ったので、次のはもっと凄いのを期待してますね」

 

「……分かりました。……なんだか悪い取引をしているような気分ですね」

 

「そんなこと無いですよ。皆幸せになれる。あと、今度若葉誘ってどこかに遊びに行こうと思います。前にそういう話をしてたので」

 

「それってデートですか? “私の”、若葉ちゃんと?」

 

「名目はなんでも良いですが……ひなたさんに公認して頂けたら心強いですから」

 

「…………」

 

「その時に撮った凄い写真や動画で好きなのを進呈しますから」

 

「……若葉ちゃんのコーディネートは任せて下さい」

 

 

 

 ひなたと別れて食品売り場に向かう。

 それなりに人はいるが、大半の福袋は売れており残った福袋の取り合いを除けば比較的穏やかな場所ではあった。

 フラフラと歩きながら食材に目を向けていると試食コーナーで少女を見つける。

 

「友奈」

 

「あぁ……亮ちゃん……」

 

 やや苦しそうに笑みを浮かべる友奈。

 結城家の友奈はサイドポニーテールを揺らしていた。周囲には華奢な身体を肥えさせようと試食品を食べさせようとする善意が彼女を襲っていた。

 明確に否定の言葉を吐けない彼女は曖昧な笑みを浮かべて口に試食品を含む。

 

 あのまま放っておけば、きっと吐くまで食べるのだろう。

 

「……ほら、行こうか」

 

「あら、この子の彼氏さん? おひとついかが?」

 

「大丈夫です。間に合ってます」

 

 笑みを張り付けて試食を勧めてくる女性たちから友奈を連れ出す。

 手を引っ張られて、しかし抵抗しない彼女は手を握り返して無言のまま俺に従う。食品売り場から抜け出して適当なベンチに座ると彼女は小さく吐息した。

 

「……ありがとう亮ちゃん」

 

「NOならNOって言える女になろうね」

 

「アハハ……、嫌って訳じゃなかったんだけど」

 

「吐く?」

 

「……吐かないよ」

 

「甘酒買ったけど飲む? 吐く?」

 

「吐かないよ……飲む」

 

 上目遣いで俺を見る友奈は僅かに膨らんだ腹部を摩る。

 話を聞くと、他の友奈と共に食品売り場に向かっていたら、そのそっくりな容姿を販売員のおばさま方に珍しがられて試食品を食べさせて貰ったという。すると彼女達に食べっぷりを気に入られ、色々貰ってるうちに気が付けば一緒にいた子たちは散り散りになってしまっていたが、それでも友奈は試食を続けざるを得なかったらしい。

 食べるばかりで乾いた喉を甘酒で潤して、「ごちそうさま」と友奈は告げる。

 

「亮ちゃん」

 

「ん?」

 

「ぎゅー」

 

 突然俺の腕に抱き着く友奈。

 陽光のごとき輝く笑顔が彼女の美貌を引き上げていた。

 私服姿の彼女の体温と笑みに心癒されながらも、その意図を俺は探る。

 

「どうしたの?」

 

「もうすぐ冬休み終わっちゃうね」

 

「……そうだな」

 

 この世界で何度繰り返そうとも外見の年も学年も変わる訳ではない。

 永遠に大人になる訳でもなく、長期休暇のある学生の身分でいられるというのは楽である。

 数年も同じことをしていると一日中寝ていても困らない程度には勉学の理解度は高まるものだ。天才肌の園子はもちろん、幼少時に英才教育を施された身としてはほぼ学ぶことはない。

 とはいえ、そもそも勉強などしたくはないという者も当然いるので──、

 

「課題終わってないのか?」

 

「……うん。ダメ?」

 

 主語を省いた友奈の言葉、その中身を聞く必要はない。

 課題を解くのを手伝って欲しい。テストが近いから勉強を教えて欲しい。

 東郷を含めた近所付き合いでは珍しくない。元の世界では厳しさと優しさを混ぜた東郷と甘さ全開の俺による集中講義はよくあることだったのだ。

 何よりも──、

 

「優しく教えてあげる」

 

「えへへ……ありがとう! 亮ちゃん大好きー!」

 

「はいはい」

 

 ──友奈の頼みはあまり断りたくない。

 

 頼ってくれていると、そう実感するから。

 

 

 




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