「失礼しま~す」
「あっ、園子ちゃん!」
「こんにちは友奈先輩! 乃木園子とかっきー先輩とご先祖様、入りま~す」
ふわふわとした雰囲気をした少女の甘い声に視線が向けられる。
雲のような掴みどころのない園子(小)は部室の扉を開け、入室を歓迎する声やそれどころではないとばかりの喧騒が俺たちを迎え入れる。
女性同士で行われていた双丘の話は、園子(小)の後に入ってきた男の存在に気が付くと、慌てたように打ち切られようとしていた。
「た、球子さん。その話題はこの辺りで……」
年数を経ても、異性の前で話をすることへの恥じらいを彼女たちは抱いている。
そういった精神性も神樹に選ばれた一因なのかもしれない。
「ん? 何を硬い事を……いや、柔らかい事を言うんじゃない! タマはまだ話を──」
「煮干しチョップ!」
「効かん!! ……ペタの攻撃は全て無効化だぁ!!」
「ちょっと待ちなさいよ! 煮干しチョップって何!? 煮干しをそんな風に使うなあ!!」
「ツッコミそこぉ!?」
「ひゃあ!?」
「うおおお!! スゴいぞ球子さん!! ビバークだぁ!!」
「ふ……安心すると良い。名誉部員が今更来たところでタマの進撃は止まらない。亮之佑の前だろうが関係ない。そのペタはタマがメガロ……いや、テラロに育てさせタマえ」
「……ッ、ちょ、風、なんとかしなさいよ!」
「な、なんでアタシが……やめて、そんな卑猥な眼差しでアタシを見ないでー!!」
「ビバ……む、残念だが風は今回の対象外だからなー」
「それはそれでムカつく……!」
淑やかな少女たちの男の目が無い女子高のような状態から一変。園子(小)が引き連れてきた俺と若葉を見て淑女を気取るつもりなのか、事態を収束させようと動き出す。
そうはさせるものかと、近づいてくる少女たちの双丘に目を向け、あまつさえ直接攻撃を行う球子の暴走によってちょっとした戦闘が勃発していた。
それらを気にする素振りも見せず、園子(小)は鼻歌混じりで俺の手を引く。
「ん? なんだか機嫌良さそうだけど何かあったのか、園子?」
「ミノさん! 久しぶり~」
「……いや、さっきまで一緒にいたんだけどな。良い昼寝スポットでも見つけたか?」
「ううん、違うよ〜」
片手にピンクのサンチョ枕、片手に俺を抱いた園子(小)に話しかけるのは同学年の三ノ輪銀だ。隣には将来の姿が想像し易い少女、鷲尾須美が球子を警戒しながら近づいてくる。
彼女たちは同い年であり、小学生の頃に離れ離れとなった期間に園子が作った友達だ。
──俺以外で、彼女が初めて作った同性の友達。
「園子は今日も亮さんにベッタリだな」
「えへへ、実はそうなんよ~。べた~」
「実はも何もないでしょう? はしたないから止めなさい。ほら、そのっち」
ぎゅっと胸元に顔を押し付けて甘えるように腕を回す園子(小)。
彼女特有の甘い香りが鼻孔をくすぐる中、西洋人形のような園子(小)の姿に眦を吊り上げるのは東郷の進化前である須美だ。
長い黒髪をバレッタで纏める生真面目な彼女は不純異性交遊を許さない。
たゆん、と豊満な双丘を押し上げるように腕で己を抱く須美を前に、
「これは不純じゃないから大丈夫だよ。ほら、大抵のことはどうでも良くなるハグ攻撃だ」
「ひゃあ!? ちょ、ちょっと……こんなの不純ですっ!」
「おっと、力強いハグ。でもこれだとビバークできない……」
「……むふ~」
構って欲しそうにしていた須美と、明朗快活な銀。
園子(小)ごと、彼女ら小学生組を抱き締めると柔肌と体温が衣服越しに伝わる。
キャッキャと素直に抱擁を返す二人の少女に比べて、色白の肌を朱色に染めながらも仕方なさそうに抱き返す須美は東郷と比べると素直さがやや足りない。
それでも抱擁されるがままなのは、彼女の好感度が低い物ではないと思わせる。
年下の少女たちを抱き合う少年という、微笑ましい光景に少女たちは口々に色めき立つ。
「いいなぁ……あっ、亜耶ちゃん、ちょっとハグしても良い? ちょっとだけ」
「ハグ? うん! いいよ杏ちゃん」
「「駄目ーーっ!!」」
「……ロリコンね」
「いや、亮之佑はロリコンというよりも節操がないだけだろう」
「……確かに。あなたと意見が合うなんて奇遇ね、乃木さん」
散々な言われようであるのを耳朶に捉えるも、今更気にすることはない。
絵面はともかく、それなりに仲の良い少女たちと楽しく抱き合っているだけなのだ。その証拠に、彼女たちの進化系である美少女たちが近寄ってくる。
さらりと腕に絡みつき、少女たちの抱擁を止めさせるように力が籠る。
「亮くん、私を可愛がってくれてありがとう」
「かっきー、私のこともハグする~?」
むにむにと制服越しに豊かな乳房の感触を腕に感じながら、彼女たちの甘い声音に耳を傾ける。
東郷と園子(中)はそれぞれ大きな瞳を向けると、俺に笑いかける。
「ハグする亮ちゃんに、私がハグ!」
「それじゃあ、結城ちゃんには私がハグ!」
「じゃ、じゃあ……高嶋さんには私が……、なーんて……」
「ほえ? どうしたのぐんちゃん?」
「あ……、な、なんでもないのよ高嶋さん!」
背中には忍び寄る友奈が抱き着き、制服越しに柔肌を密着させる。
抱擁していた腕を解くとリリースされた少女たちは各々に好きな場所へと向かう。銀は面白半分に球子の加勢に、須美は逃げるように他の少女たちの下へ。
そして園子(小)もまたどこかへ向かおうと──、
「あれれ? 園子先輩」
「どうしたの? そのっち」
「声、少しだけしゃがれていませんか?」
「──、この前わっしーやゆーゆ達とカラオケに行ったらテンション上がっちゃって。ついつい歌い過ぎると喉を使っちゃうんよ」
「あ〜、分かります~」
さらりと園子(中)は息をするように嘘を吐いた。
しかし真実から程遠いという訳でもない、そんな言葉。少し前にカラオケではないが、友奈と東郷によって声を上げさせられるという事態に陥ったのだ。
結果的に園子は喉を酷使し、友奈と東郷は園子自身よりも彼女の身体に詳しくなったが、
「そうだったんですね~、あっ、のど飴を持ってたのであげますね」
「良いの? ありがと〜そのっち。明日、好きなお昼寝スポット空けておくからね」
「やったー!」
俺は知っていた。彼女が嘘を吐いた理由を。
堂々と友奈と東郷に弄ばれました、とは流石の園子でも言えないのだ。
バニーガールの恰好をさせられて玩具と肉棒を交互に味わい尽くしましたと、声が枯れるまで恥ずかしいことを沢山しましたとは、数年前の自分には言えないだろう。
激しい情事の痕を制服に隠して園子(中)は静かに微笑む。
そんな彼女の心境に対して、ふわふわと笑う園子(小)は飴玉を差し出した。
──裏があれば表もある。
というよりも腹芸が苦手で表しかない少女も当然勇者部には存在する。
「こんな……私が……」
「夏凜っ!」
「ふっふっふ。さて次のマウンテン、いやペタ平原は……」
「ひっ! 逃げろーー!!」
自らの手でペタな少女の双丘をメガロにしたい。あわよくば東郷並に。
相も変わらず狭い勇者部部室に逃げ場などなく、球子の欲望に塗れた暴走に少女たちが晒され、その両手に慎ましい乳房を揉まれていく。
メガロよりもペタ、一人、また一人の双丘が球子の掌で揉み解されようとしていた。
「隙ありー!!」
「千景!」
「の、乃木さん!?」
「むむ? この揉みごたえ……随分と柔らかい、高尾山にしては……というか下着ずれて──」
「ん……ッ、くっ、い、いい加減にしろー!!」
「ほぎゃー!!」
やや艶めかしい声音が一瞬漏れるも、千景をかばった若葉が球子に制裁を下す。
かくして、悪は成敗された。
球子の暴走を止めた若葉だが、ブラウス越しとはいえ乳房を揉まれたからか腕で胸元を隠すと僅かに頬を朱色に染めている。何か球子が言いかけたが既に彼女は処刑され聞くことは出来ない。
吊るされる球子を見上げていたひなたは、その眼差しを若葉に向ける。
「若葉ちゃん? どうかしましたか? もしかして具合でも……」
「え? い、いや、何も。……ひなたは無事か?」
「ええ、今回の標的はペタ……私は対象外のようでしたので」
「そ、そうか。今後もしお前が狙われるような時は、私が必ず守るからな。安心してくれ」
「まあ……若葉ちゃんたら」
「なに、当たり前のことを言ったまでだ」
さらりと告げた若葉の言葉に、柔和な笑みを浮かべるひなた。
頬に手を置き、恋する少女のように瞳を潤ませる巫女は言葉を続ける。
「……ところで、今日は遅かったですけど、何をしていたんですか?」
「────」
「今日は委員会でも、勇者部の依頼があった訳でもなかった気がするのですが……」
「え、あ──」
ひなたは将来、浮気を許さない、きっと、夫を尻に敷く女になるだろう。
息を呑んで咄嗟に俺に目を向けた若葉を叱咤したくなる気持ちを抑えながら、友奈や東郷に抱擁され、動きを制限された状態で彼女たちを見守る。
もっとも、若葉の言い訳も、向けた視線や言動で彼女の視線を険しくさせるだけだったが。
「そういえば、少し髪が乱れてますね。ブラウスも少し……」
「ちがっ、違うんだ、ひなた!」
「何が違うんですか? 若葉ちゃん」
「──ひなた先輩~。ご先祖様はですね~」
光の失せた眼差しで勇者を捉える巫女。
何度目かの修羅場になるのかと、園子の持っていたサンチョ枕に顔を埋めながらどこか他人事のように彼女たちを見ていると、若葉の方に助け舟が入った。
助け舟は稲穂のような金色で、ピリピリとした空気に平然と割って入る。
「よ、よせ、乃木!」
「私とかっきー先輩と一緒に遊んでくれたんです~。鬼ごっことか、激しい運動だったので髪の毛とか色々と乱れちゃって。ごめんなさい」
「そ、そうだったんですか。私、てっきり……」
「てっきり、なんですか~……?」
「……いいえ、ただの勘違いでした。園子ちゃん、ごめんなさい。これからも若葉ちゃんと一杯遊んであげて下さい」
「わーい! ありがとうございます、ひなた先輩」
小さい子供とは、それだけで多少の不利を覆す。
少なくとも園子(小)はそれを理解した上で、最適解の行動を取り、敏い巫女の性格まで読み、それ以上の言葉を続けさせようとはしなかったのだろう。
どこか納得いかなそうなひなたに彼女は抱き着き、疑惑の言葉を呑み込ませる。
力技にも近いが、それで抑えられたのだから凄い物だ。
俺だったら、既に逃亡していただろう。
「園子ちゃん、凄いね!」
「そのっちはいくつになっても流石ね」
「いや~、それほどでも~」
「あっちのそのっちのことよ?」
「そのっちの物は私の物。私の物はそのっちの物~。私たちが園子なのだぜ」
一連の流れを見ていた友奈が、園子(小)の行動を褒め称える。
明朗快活に笑う友奈の姿に東郷はニッコリと笑みを浮かべる中で、園子(小)はチラリと俺を見やるとピースサインを見せた。平和最高という意味だろうか。
「いや、二個目か」
貸しは二つになったというのが、園子(小)の主張なのだろう。
此方としては頼んでいないから無しだと主張するつもりはない。別に修羅場になっても、きっとなんとかなるだろうと楽観的に対応していただけで──、
「少し気でも緩んだかな」
この世界で戦うことも減って、女を抱く日々。
出来るだけ以前と変わらないように気を付けていても、年月が少しずつ何かを変えてしまうものだ。この場合の何かは精神的な物で。
前までは、もっとリスクとか、行動の結果とか、気を張り巡らせていた筈だ。
それが最近はどうだろうか。
「────」
今一度、気を引き締める時だろう。
俺はそんなことを思うのだった。
さて、そんなことを考える間にも携帯端末に連絡が届く。
それは友人からの遊びの誘いだったり、勇者部の活動に関する内容だったり、見目麗しい少女たちの遊んでいる写真やメッセージが届いたりする。
そして、そんなメッセージの合間に、ときおり届くのがとある少女の自撮り画像だ。
上里ひなたは讃州中学校でも人気の少女だ。
大人びた雰囲気と豊満な身体、性格や人柄も良い。周囲の人間との関係の構築力は高く、あっという間に彼女に心酔するほどの友達を作ったほどだ。
そんな彼女は、俺の携帯端末に自らの自撮り写真を送ってくる。
「今日は黒か」
豊かな乳房の谷間と臍を覗かせたショーツを履いた巫女。ブラはつけていない。
東郷並の双丘は自らの白い手で隠されつつも形の良さや大きさがはっきりと分かる。手で隠されている分、むにゅりと形を変えた乳房の柔らかさが画像から窺うことが出来るほどに。
羞恥によるものか、肌は薄く朱色に染まり、長い睫毛に縁取られた瞼は伏せられていた。
彼女の自撮りは段々と挑戦的な物になり始めていた。
鑢で皮を削るように、少しずつ彼女の羞恥心を減らし、纏う衣服も減らして。
『どうですか?』
そんなメッセージと共に写真は届く。
風呂場や、トイレ、自室で、場所を変えて少しずつ肌色が増えていく。
少しずつ、少しずつ、要求のハードルを上げていく。
いったい、どうして、ひなたがこんなことをしているのか。
全ては彼女が親愛を寄せる少女、乃木若葉の痴態を知り、それをアルバムに収めるためだ。巫女を前にした時ではない、男を前にして見せる若葉の写真や動画を彼女は欲している。
欲しているからといって簡単に渡すほど、俺は善人でもお人好しでもなく、最終的に若葉の写真とひなたの写真を交換するという形でこの秘密の関係は始まったのだ。
『もっと見たい』
そんなメッセージを返すと、少し遅れて画像が届く。
乳房の頂き、それが指先で隠されているが、それ以外の乳房と薄ピンク色の乳輪を露出した画像を彼女は送ってくれた。
全ては見せない。そんなひなたの意思を感じさせる画像だ。
或いは焦らしたいのか、完全に一線を越えることへの抵抗なのか。
『下は脱がないの?』
そんなセクハラド直球なメッセージを送る。
よほど仲が良くなければ絶縁不可避な内容、晒されれば互いに大変なことになるトークだが、彼女はこの誰にも言えない秘密の関係を気に入り始めているかもしれない。
文句や後ろ向きな発言は多いが、なんだかんだで送ってくれるようになってきた。
ポーズや画角など、勉強でもしているのか、少しずつ洗練されている気がする。
『そんなに見たいんですか? こんな身体を』
そんな主旨のメッセージが返され、適当にメッセージの交換をする。
背が低いのに乳房は大きい、アンバランスな身体だとひなたは自嘲する。一部の人間が聞けば怒りそうな発言だが、本人にとっては大事なことなのだ。
ともかくも、そんなことはないと、ひなたの身体が如何に美しい物かと若葉の画像も含めて交渉するようにメッセージを送り続けると、やがて画像が届く。
メッセージはない。
ただ添えられた画像は彼女の中のハードルを少しだけ下げたことを示しているかのようだった。
膝下までショーツが下げられていた。
自室のベッドの上で撮ったらしき画像、中途半端に下がった下着を見下ろすように色白で肉付きの良い内腿と鼠径部、そして恥毛が鮮明に映り込んでいた。
彼女の陰毛はやや濃い目だが丁寧に整えられていた。その奥に覗く秘裂だけは見せないつもりなのか指が添えられ隠されているが、十分に男の劣情を誘う画像だった。
普通ならよほど絆を重ねなければ、彼氏でも無ければ見ることの出来ない画像。
若葉の為とはいえども、それを見せてくれる彼女の基準はあやふやで、中途半端な一線だけは守ろうとして、あやふやになってきたからこそ見ることが叶ったのだろう。
「────」
修正がされていない同い年の少女の恥部を見せられ、数秒。
指一本、見えないが故に妄想と情欲を掻き立てられる。
ポルノ写真、そう言って違えない少女の自撮り写真。
下腹部に血が集まるのを感じながら何と返信するかを模索していると、
「わー! エッチだ」
耳に吐息を吹き掛けるように、友奈の声が鼓膜に掛かる。
背後から抱き着き、ふわりと甘い香りを漂わせて無邪気な笑顔を彼女は見せる。無意識か意識的か、薄い生地越しに慎ましくも柔らかな乳房を背中に押し付ける。
視界の端に薄紅色の髪が垂れ下がり、チラと見ると同色の大きな瞳。
「エッチなの見てる……」
頬が触れるほどに顔を密着させた幼馴染はひなたの自撮り写真を見た。
身体に僅かに熱を帯びさせて、柔らかい声音を僅かに硬くさせる。色々と友奈には性的なことを教えているが、他の女のポルノ画像はあまり好ましくないらしい。嫌悪というよりも興味と僅かながらの嫉妬を瞳に揺らがせながら彼女は呟く。
「亮ちゃん、そういうの見るんだ……ふーん」
「男ならみんな見てるよ」
「エッチな本とか? 部室に堂々と置いてたのは知っているけど……、そういうエッチな画像を見るのは……、こういうの自撮りって言うんでしょ? 私もする?」
「お願い」
ジッとひなたの裸体を、ほんのりと頬を赤らめながら友奈は呟く。
ちょうど下腹部を上から映しているからか、或いは直接的な肌色画像に僅かに気が動転したのか、身近にいる巫女であることには気づいていないようだ。
そもそも、同性であってもマジマジと恥部や乳房を見ることも無いのか。よほど距離感が近いか、そういった関係にでもならなければ分からないものか。
「誰だと思う?」
「ほえ? えっと……そういう人のことは分からないけど……もしかして東郷さん? でも、ちょっと違うような……」
「──私を呼んだ? 友奈ちゃん」
「東郷さん!」
ズシリと背中に掛かる重みが増す。
俺に圧し掛かる友奈に当たり前のような顔で抱き着く東郷。背後から抱き着く彼女の名前を呼ぶ友奈に、東郷の翡翠の眼差しが和らぐ。
同時にチラリと俺を、否、俺の持つ端末の画像に目を向けると、
「ふーん。亮くん。私たちがいて、そういうのを見るんだ…………浮気? もしかして自撮りが好きなの? 前から私たちの自慰とか見たり恥ずかしい所を撮ったりするの好きだものね? でも、それって私が送った物じゃないし、……誰の?」
白魚のような指が俺の首元に伸びる。
心地よい滑らかさは、しかし首元の脈を測るように添えられる。
嘘などお見通しだとばかりの態度に、俺は口を動かす。
「ひ、み、つ」
「消すね。……私のなら、いっぱい送ってあげるから」
「────」
「うん、分かってるよ。亮くんも男の子だもんね。ちょくちょくパソコンでそういうの見ているけど、ほら、やっぱり知らない女性じゃなくて私とか友奈ちゃんを見て欲しいし、友奈ちゃんに変な物は見せられないから」
「──ほら、自分の家でエッチなのを見るのは別にいいよね?」
「何言っているの? ここは、私たちの愛の巣でしょう? そんな女は必要ないよね」
当たり前のように告げる東郷は、加賀家のリビングにいる。
ぎゅうっと、豊満な双丘に俺を抱き寄せる彼女の深緑の瞳は嫉妬に揺れ、耳元に吹きかかる嘆息は自分たちを差し置いて、見知らぬ女の裸体を見ていることへの失望か。
或いは、他の女ではなく自分だけを見て欲しい独占欲か。
「ごめんね、東郷さん。もっと、いっぱい、気持ちよくしてあげるから」
「ふふっ、ありがとう。でも、今日は私たちの番だから。……抵抗しないでね」
「あれ、東郷? なんか機嫌良さそうね」
「えっ? そうですか? そんなことは無いのですが……」
「あっ、うん。それじゃあ、皆も集まったから今日の部活を始めるわよー!」
残念ながら東郷によって画像は削除された。
画像の送り主や誰の物なのかは隠せたが精神的ダメージは大きい。
見知らぬ黒髪美女よりも自分を見ろと、出会った頃の彼女ならば赤面と羞恥の沼に沈むような肌色の画像を友奈と東郷が送ってくれたが、悲しい物は悲しい。
「それで、今日は子猫の依頼と……あと、剣道部からの依頼があるわね」
部長である風が本日の依頼を説明しているが周囲は騒がしい。
少女たちにとってはバーテックスの襲撃よりも大事な、健康診断が迫りつつあった。顔をしかめて腕を摩る千景や、樹、サプリを無言で摂取し続ける夏凜など鬼気迫る状態だ。
決して、数日前に始めた行動程度では無駄であると言ってはいけない。
「じゃあ、剣道部にはいつも通り若葉と夏凜と……って聞いてる?」
「き、聞いているわよ! ほら、カルシウムよ」
「いらんわ! まったく……、いい? もう一回説明するから……」
「…………」
そんな彼女たちとは別にチラリと俺に向けられる視線があった。
大人しそうな顔の、センター分けした烏羽色の髪に赤いリボンの少女だ。
何かを告げたそうな視線に思考を巡らせて、
「じゃあ、杏と……ひなたと……亮之佑が図書室の本の整理ね」
結局、若葉の画像を渡していないことを思い出したのだった。