──シャワーを浴びる派か、風呂に入る派か。
もしもそう聞かれたら生活状況や諸々で回答は変わるだろう。
忙しい時や面倒臭いと感じた時を除いて、基本的に俺は湯舟に浸かる派だ。
解放感と言うべきか。お湯に身体が溶けていくような感覚は心地よい。
やはり疲れの取れ方が違う気がする。可愛らしい友奈の手によって生み出される可愛くないマッサージほどの効力は無いが、疲労を抜く為にも風呂には入りたいと思う。
そんなことを考えていると、しゅるっと衣服を脱ぐ衣擦れ音に目を向ける。
「風呂は良いよな」
「ああ、同感だ」
「でも、ここは見ての通り浴室じゃない。密室に男女が二人だけだ」
「そうだな」
「悪かったよ。揶揄い過ぎた」
「……もう怒ってはいない。私と亮之佑の仲なんだろう? 問題ないとも」
「……」
「それに」
怒っているともそうでもないとも捉えれる少女の態度。
汗ばんだブラウスを脱いで、柔肌を見せる若葉がチラリと俺を見る。
「これからお詫びとやらをしてくれるんだろう?」
汗を浮かべる彼女の艶めかしくも健康的な肌に目が向かう。
紫紺の瞳を俺に向ける彼女はどういった心境の変化か。汗を吸ったブラを隠すように手を置く彼女は、しかしどこまでも真っ直ぐな瞳を向けられて思わず目を逸らした。
神に見初められる少女は、いつだって眩しい。
眩しくて、自分との違いを見せつけれるのが辛いとも。
「あー……任せてくれ。若葉様」
「様はいらない」
「今日のことを忘れるくらい頑張りますよ。疑似友奈神拳を見せてやろう」
「待て、背中を流すだけだった筈だ。エッ……そういうことはしない筈だ」
「ここまで二人で来ておいてその言い訳は見苦しい」
「うるさい」
寄宿舎に設置されたシャワー室は大浴場と異なり人気は少ない。
プライバシーを考慮してかブースで囲まれ、外からは人がいることしか分からない。
部屋に備え付けられた部屋風呂に入る者もいるらしいが、殆どの少女たちは大浴場を使用して汗と疲労を流す。シャワーよりも風呂の方がゆっくりと休めるだろうから。
シャワー室の利用は主に防人組など訓練に励む少女たちが使用する程度だ。
チラリと入口に目を向けた若葉が思い出したように口を開く。
それは二人でシャワー室に入る前の出来事だ。
「芽吹や亜耶が先ほどまで使用していたようだったが、私たちとすれ違った時に何となく変な感じはしなかったか?」
「変な感じ?」
「こう……何と言えばいいか、距離感というか雰囲気というか……ううむ」
「──、同じ防人組なんだからおかしくないだろ。気にしすぎ」
「そうか? ……そうだな」
たまに人が来るが、基本的には不人気なシャワー室。
ここに来るのは人目を忍んで、そして人には言えないことをする事が多い。
「亮之佑」
くるりと背中を向ける半裸の若葉が無言で髪の対応を要求する。
さりげなく俺を使用する彼女の態度は遠慮がないが、俺も断る理由はない。美少女の髪を自由に出来る、それはある種の信頼表現のように感じたからだ。
肌に張り付く髪に目を細める彼女に代わり、後ろ髪を纏める髪留めと髪紐を外しながら、
「シャワーよりも風呂に浸かった方が良かったのでは? 鼻歌歌うくらいには風呂好きだろ?」
「ん。好きだが……亮之佑がいるから駄目だろう」
「その心は?」
「心も何も他の者もいる時間帯だからな。お前も捕まりたくはないだろ?」
「相手にもよるだろうけど、きっと許してくれるさ。なんせ俺だから」
「自惚れ過ぎだ。そしてそんな事は私が許さん」
「おいおいおい嫉妬か? 参ったな。嬉しいんだが──」
「風紀的に駄目な話をしているんだ!」
遭遇する少女によっては恐らくなんとかなる。そんなふわふわした自信。
でもきっとなんとかなる気がする。関係を結んだ女子ならきっと。
「まったく!」と自らの衣服に手を掛けながら風紀を語る若葉。羞恥とは異なる怒気で顔を真っ赤にする若葉には園子のようなふわふわ感が足りないと常々思う。
「冗談なんよ」と園子ボイスで宥めても半眼で睨まれてしまうのだ。
だから、上半身ブラジャーのみで手が止まっている彼女の背後から耳元に吐息する。
「ふー」
「……ひゃぁ!?」
「ほら、眉間に皺が寄っているぞ。手も止まっているから脱がせてあげよう」
「誰の……ッ、せいで……ッ! ひぁぁ……っ!」
園子で駄目なら友奈直伝のスキンシップで。
吐息された耳は、随分と調教されて敏感な性感帯へと変わっていた。
ビクッと身体を硬直させる若葉に抱き着くと肢体の柔らかさを肌に感じる。
胸板を汗ばむ白い背中に擦り付ける。
スカートのファスナーを下ろすと、対抗心を抱いたのか若葉が俺の衣服に手を伸ばす。
「私ばかり脱がせようとするな! お前も脱げ!」
「きゃっ!」
やや乱暴に衣服が脱がされていく。
僅かに顔を赤くして、しかし男の肌を見ることに抵抗のない少女。
乱雑にシャツを脱がせようとする彼女の手が僅かに止まる。
「……指輪?」
「ん? ああ……お守り。気にしないで」
首から下げたチェーン。彼女の視線の先にあるのは指輪だ。
青色の石、宝石の付いた指輪。俺を勇者とさせ、俺を俺たらしめる物。
それに見覚えがあったのかまじまじと見つめる若葉の大きな瞳が瞬きを繰り返す。
「たしか、前は指につけていなかったか?」
「……学校は規則もあるから。それに、大切な物だからさ」
「────」
「てい!」
「ぁッ! ……急に触るな!」
追及はさせない。聞かれても答えるつもりはない。
逡巡した瞳と僅かに開かれた唇が疑問を形作るよりも先に手を出す。
ブラの隙間から覗いた乳首を、指一本分だけ触れると彼女は怒って話を止めた。
「……まったく」
甘い声をこぼした若葉は半眼で自らの胸元を抱くように隠す。
ネックレスはそういう物と受け取ったのか追及はなかった。
こちらからも語ることはなく、そして、そんなことよりも──、
「若葉の身体ってエロいな。エッチだ」
「……!」
まじまじと若葉の身体を見て俺は告げた。
床に落ちたスカートと、露出した太腿と薄青の下着が目を引く。
肉付きの良い腿肉と丸みを帯びた臀部を包む布切れは汗を吸い肌に張り付いていた。性的な目で見られていることを意識したのか、若葉は俺を睨み、視線を下腹部に移し顔を赤らめる。
「ふ、普通だ! お前こそなんでもう硬くしているんだ!」
「若葉の身体が魅力的だから。凄く綺麗だよ」
「~~~!! そっ、そういうのは別に良い! ひなたにでも………いや、ひなたには言うな」
獣のような俺の吐息と羞恥と怒気の入り混じる若葉の吐息。
耳を甘噛みする度に我慢出来ずに嬌声をこぼす彼女は尻肉を突き出し怒張を刺激する。怒りのピークは過ぎたのか、或いはこうした触れ合いを予期していたのか拳骨も肘も出ない。
ただ「どうしてか」と尋ねると顔を伏せる若葉が無言で俺の背後からの抱擁を解いた。
「……ひなたには……ひなたには必要な時以外には手を出すな」
はらりとブラ紐が落ち、彼女はさりげなく胸元に手を置く。
「……詫びでもなんでもこういうことがしたかったら」
数秒手が止まるも、やがて背中に回した手がブラのホックを外した。
ぷるりとこぼれた自らの乳房を隠すように少女は背中を向ける。
「──ひなたではなく、私としろ」
「────」
「返事は?」
「……はい」
「では、行くぞ」
濡れたショーツを脱ぐ若葉はそっと恥毛ごと秘部を手で隠す。
問いかけに答えることもなく、自分の言いたいことだけを告げてブースの奥へと向かう若葉。そそくさと棚に自らの衣服を入れた彼女は足早に奥へと向かう。
無駄な脂肪の無い背中と尻を見せる彼女に、俺も衣服を脱いで追いかけた。
こういう時の彼女には何を聞いても返答しないことを、俺は知っていた。
小さく簡素な浴室は二人でもギリギリ問題ない程度の広さだ。
橙色の照明が照らすのは、設置されたシャワーヘッドと壁鏡。
扉を閉めると外界から隔たれた、ほどよく狭い空間が出来上がる。
「……ッ」
鏡越しに目が合った若葉が目を逸らしシャワーのバルブをひねった。
汗を流すお湯が流れるということはなく、さああっと霧のような水が降る。
「うわっ!?」
「す、すまない!! 大丈夫か──ぁっ!?」
思わず目の前の少女に抱き着き、そのまま乳房を揉む。
阻む物はなく、掌に収まるも十分な大きさの乳肉の感触が伝わる。
「……触っていいとは言っていないぞ」
「少し大きくなったか?」
「……測ってないからな。自分ではあまり分からないな」
「健康診断が楽しみだな」
「別に大きくても……」
「おっと。それ以上は貧乳組が黙ってはいないぞ」
冷水も、徐々に湯雨へと変わっていく。
暴れるほどの空間はなく、俺は彼女の生乳を両手で味わう。
「ん」
温かい雨の影響か、脱力した若葉が背中を預ける。
冷え始めていた汗が流されていく中、俺たちは少しずつ肌を密着させた。
胸板と背中を、腿と腿を。反り立った怒張を股に挟んで。
形の良い耳を指でなでながら、唇と唇を重ねて、静かに肉欲に溺れる。
湯雨が肌を濡らしていく中、キスを繰り返す度に彼女の眦が和らいでいく。
んちゅ、んむ、と情熱的な口づけを交わす。
耳を弄る掌に頬を置く女勇者の顔は甘く蕩け始めている。
乳房を揉み、無駄な脂肪の少ない腹部を撫でる。
尻肉を鼠径部に押し付けて、太腿と陰唇が亀頭と擦り合う。
そうしていると強張っていた少女の身体が弛緩してくる。
「亮之佑とすると……頭がふわふわしてくるな……」
「キスは好きか?」
「……」
吐息する若葉の瞼が閉じられる。
杏仁豆腐のような彼女の乳房を揉みしだく手に、彼女の手が添えられる。
恋人のように身体を触れ合わせる中で、無言の若葉が手を動かす。
シャワーヘッドの近くに備え付けられたボディーソープの容器。
きゅっ、きゅっとバルブが閉められて、湯の雨が止む。湯に濡れた唇を舌で舐めとって濡れた瞳を俺に向ける。キスを繰り返した先に若葉のしおらしい姿があった。
「……好きだ」
一言。呟いて目を伏せた若葉の顎を持ち上げて唇を奪う。
思い出すように自らの舌を差し出した若葉を褒めるように髪を撫で、舌を絡める。
下品な水音を遠くに聞きながら、ボディーソープの容器から出した液体を絡めた俺の手が彼女の肌を洗うようにあちこちを這う。
他の誰よりも真面目に鍛錬している女勇者。
それでもなお、その肢体の柔らかさは彼女が女だと理解させる。
腋や鎖骨、腹部とスポンジではなく掌で洗う。
乳房を揉むように洗って、
「……待て。私ばかり洗われるのは不公平だ」
「若葉様。今日のご奉仕は私がさせて頂きますので」
「ズルいだろ……そうやっていつもお前ばかりで、私にも洗わせろ。……こことかな」
「ぅっ」
「私でこんなにしたのか? ……ふふ、変態め」
鼠径部をなぞる手に、彼女は対抗するように怒張を掴む。
反り立った肉棒を躊躇うことなく手にする彼女は男を悦ばせる方法を理解しているのだろう。俺が教えた通りにちゅくちゅくと水音を立てて小刻みに前後に動かす。
自分だけが気持ちよくなりたくない。させられたくない気持ちは分かる。
薄く淫靡な笑みを浮かべる彼女の手淫に奥歯を食い縛り、俺も指を動かす。
薄金色の恥毛を泡で絡め、指がしとどに濡れた恥部へ。
若葉の手は裏筋を刺激するように程よく力を込める。
片手で怒張を洗いながら空いた手で身体に付着した泡を使い俺の身体を洗い始める。
胸板や腹部を洗う若葉の恥部は容易く俺の指を受け入れた。
しばらくの間、二人で洗い合いながら程よい快楽に耽る。
「……」
「……ん」
指一本、膣の入り口付近で彼女の弱点を探る。
探る指の動きに気づいたのか、怒張を前後する手に力が籠る。
「ぁ、ぁ……くっ、ぅ」
「ぬ、ぐっ」
乳房を胸板で押し潰すほどに身体が押し付けられる。
互いの荒い呼気を耳にしながら、いやらしい水音に昂り、射精感に力む。
「ぅぅっ、んんぁぁっっ……!!」
「ぐッ……!!」
やがて視界が酩酊する。
膣に包まれた指が締め付けれるのを感じながら、若葉の手を白濁が汚した。
勢いは激しく、彼女の泡塗れの腹部を汚し、下腹部へと垂れていく。
荒い息で互いの身体に抱き着き、絶頂の余韻に浸る。
ゆっくりと高鳴る鼓動を落ち着かせていく。
「……ふー」
眼前の少女に抱き着いて、両手で少女の尻肉を揉む。
独特の弾力を掌に返す臀部を好きにしている俺に、若葉は小さく囁く。
「……その、だな」
「ん?」
「……もう一回するか?」
シャンプーの匂いを纏わせて、女勇者が誘う。
長い睫毛に縁取られた目を伏せながら、俺の肌に手を置いた。
柔らかな尻肉を割り開き、指が菊座を通り膣口を軽くなぞる。
湯ではない、彼女の蜜は更なる快楽を求めて、指に絡まる。
怒張が若葉の下腹部の柔らかい肌を押すようにして、回復していく。
雄の回復を肌で感じた彼女は小さく喉を震わせて、肢体を揺らす。
するのか。しないのか。
若葉を抱くのか。抱かないのか。
答えなど既に決まっている。ただ──、
「若葉。まだ俺はお詫びをしていないから」
──シャワーのバルブを捻った。
十数分ほど、俺は改めて若葉に奉仕した。
これまでの非礼、揶揄い、セクハラの数々。
「いままで申し訳ありませんでした」
「────ッ!! ~~──ッ!!」
「えっ? 許さない? それは大変失礼を。もう一回しますね」
湯雨が降る中で若葉の前に膝をつき、唇と、舌を、指を差し出す。
全身全霊で、壁に背中を預ける若葉の脚を開かせて、舌先で彼女の雌穴を解す。
何度も何度も彼女の肉芽に吸い付く。
舌では届かない彼女の弱点を指で丹念に擦り、抽送する。
「ぅぁぁっ! ぁあッッ!! ぉッ……あ゛!!」
「これが好きですか。そうですか。もう一回しますね~」
「もういい……! もういいひゃら……ッッ!! ぁ、ぁぁっっ!!」
若葉の蜜はいつの間にか白濁としており、陰唇から垂れる度にシャワーから流れる湯水によって流されていく。濃厚な口づけ、肌に張り付いた恥毛に鼻を押し付けて、幾度も奉仕を繰り返す。
たまに小水のような愛液が顔を濡らすもすぐに流れ落ちていく。
クリトリスだけでもGスポットだけでも駄目だ。
同時に弄ることでようやく、彼女を咲かせることが出来る。
「ィっ……ひぁぁ……あひっ……っっ!!」
ガクガクと震える腿が俺の頬を叩く。
嫌とかやめろとか、そんなことを発していた口は、目の前の陰唇とキスをする内に甘く蕩けて、あられもない女の喘ぎへと変わっていった。
奉仕の精神で彼女の恥部から溢れる蜜を啜っては穿る。
「ひぁっ! ぎッ、ぅ……」
肩を掴む手が震える。
垂れ下がった髪の一部が視界を狭め、顔を見上げる。
「ぁぇ……ぁー……」
既に若葉の瞳から光が失われつつあった。
半分開かれた口からは嬌声を漏らして、涎が垂れ落ちる。
頃合いだろうと、意識を酩酊させた女勇者を壁に手をつかせる。
ゆっくりと彼女の膣口に怒張を宛がって、挿入すると若葉の声が響く。
「ゃ~~~!!」
すっかりと涎を垂らしていた怒張を歓迎する膣内は、トロトロに蕩けていた。
挿入の刺激だけで法悦に至った若葉を背後から抱き締めて腰を振る。
「ぁ、ぁっ、ぁあ、ああっっ……!!」
深くまで貫いて、獣のような交尾をする。
ただ杭を叩きつけるように、彼女の肉穴を貫く。
パンパンと尻肉を鼠径部が叩き、俺と若葉は息を荒げて快楽に耽る。
設置された壁鏡には、俺の両手に乳を揉まれた彼女の女の顔が映っていた。
湯雨で唇を潤して、互いの唾液を啜って。
のけ反る若葉に導かれるように、俺も彼女と共に果てた。
若葉の最奥に、これでもかと精子が注がれる。
お詫びの礼を言うように媚肉に白濁が吸い込まれ、飲み込まれる。
虚ろな目をした若葉を抱いて、ゆっくりと床に座り込む。
虚空を見て目を閉じた若葉に湯雨が降り注ぎ、膣口から白濁がこぽりと垂れ落ちる。行為の汚れが白濁と共に排水口に流れていくのを見ながら俺は数秒ほど瞼を閉じた。
ひなたの様子を見に行きたい、そう告げる若葉と行動を別にする。
体力は十分なのか行為の名残すら感じさせない様子の若葉は自らの親友が第一だった。
「友奈には埋め合わせをすると言っておいてくれ」
「律儀だな」
「当然だ」
ひなたに関しては後処理は完璧である。
それを若葉本人に伝えたのは事後であるが、それでも気になるようだ。
あれからそれなりの時間も経過しているので既に起きてどこかに移動している可能性もあるだろうが、自分の目でどうしても確認したいらしい。
上里ひなたは乃木若葉に大切に思われている。今更ながらの事実に思わず笑った。
「……なんだ」
「いや?」
言外に揶揄いの念を抱いていることを理解したのか、半眼で俺を睨む少女。
そんなことは何も考えていませんと頭を振って弁解するも大きな溜息を返された。
俺の衣服の襟を掴み、若葉は自らの端正な顔を近づけて来る。
もしや、大胆なキスを公衆の面前で行うつもりなのかと心の準備をすると、
「亮之佑」
「うん?」
「この世界はともかく、元の世界に帰っても園子を大切にしてくれ。私の宝を悲しませたら呪い殺す。ちゃんと責任を取るように」
それは脅し文句か、今更になってようやく先祖の公認印を貰えたのか。
いつか、いつの日か、元の世界に戻ったらの話。
どうしてそんな話をしたのかは分からない。そういう気分だったのか。
「────」
そうして去っていく若葉。
その背中に何も言葉を掛けられなくて。
園子のことは言われるまでもない。
昨日も、今日も、明日も、彼女の隣を歩き続けるつもりだ。
「……だけど」
だけど、他のことは、若葉の言葉は覚えていないだろうとも思う。
だって覚えて戻ったら未来も過去も変わってしまうだろう。ぐちゃぐちゃだ。
死んだ者は生き返るし、絶望の未来を辿った者も変わる。
この世界から元の世界への記憶の持ち越しは正直期待していない。
若葉と話をしたことも、身体を重ねたことも。他の皆のことも。
忘れずに、元の世界に帰ることが出来たのなら。
そんな都合の良いことが出来れば苦労しないから。
「──でも、あったらいいな」
きっと友奈たちが何とかしてくれる。
勇者の力も何もない一般人は、この世界が終わるまで退廃的に過ごすしかないから。
「────」
暗くなろうとする思考を止めるように、日射が目に突き刺さる。
汗を流してスッキリとはしたが、それでもやや暑いと感じる。
もうすぐ夏がくるからか、寄宿舎の窓から覗く陽光の眩しさに思わず目を細める。
若葉とは異なり、俺は約束は守る男だ。
背中を向けて寄宿舎に戻ってきた少女たちに挨拶しながら歩く。
遅刻は確定だろう。
思っていたよりも遅れて千景の部屋に到着した俺はノックをする。
「あいてるよー」
千景、ではなくて高嶋の声が聞こえた。
明朗快活で、聞いているだけで元気になりそうな声音に扉を開ける。
「らめっ、たかひまさ……」
「クリクリして……大きくな~れ!」
「ふっ……ぅっ、ぁぁっ!!」
扉を開けると千景の身が跳ねていた。
まるで気をやったように、赤らんだ顔で身体を震わせる。
黒髪を振り乱した少女を背後から抱くのは高嶋だ。
淫靡な雰囲気を漂わせ、乱れた衣服に手を突っ込んでは、千景にあられもない声を上げさせる。
衣服が脱がされて肌を晒した訳ではない。少女にとっては脱がせる必要もないだけで。
「これなら健康診断も間に合いそうだねー」
「……ぁ、ぁー……」
なんてことない調子で、千景の衣服の中で高嶋は手を動かす。
その度に、まごうことない嬌声を上げる千景に、高嶋はニコニコと笑うばかりだ。水分補給もしようね、と床に置いていたジュースの缶を口に含んで千景に口移しで飲ませる。
「ん──」
「んむ……」
唇を重ねて、口端から垂れ落ちるジュース。
ペロリと舐めとる高嶋の妖艶な笑みに、千景は恍惚な表情を浮かべる。
嗅ぎなれた甘酒と淫臭は、二人が随分と仲良くなったことを理解させた。
ぐったりとした千景を愛おしそうに腕に抱き、身体を弄る薄紅の少女が顔を上げる。
薄紅と黒色。
辛うじて意識のある少女と、楽しそうに笑う少女は、それぞれ俺に視線を向けた。
「ぁぇ? かがくん……?」
「りょーくん。いらっしゃーい!」
背後で扉の閉まる音がした。