様々な練習を日々重ね、ついに体育祭まで一週間を切った。
参加表は作戦通りにダミーのものをクラスメイトに発表し、正式な参加表を茶柱先生に提出した。提出後に平田と軽井沢からクラスメイトに謝罪も行っている。クラスのリーダー二人からの謝罪を受け入れない生徒はいなかった。
そして今日もCクラスは体育祭に向けて汗をかいていた。
「100メートル、タイムは12秒35か」
俺を含め短距離走で好成績を残せそうな生徒たちは、100メートルのタイムを計っている。
タイムは須藤が11秒80、平田が12秒55なので、クラスでは俺が2番目に足が速いことになる。
恐らくこのタイムなら柴田と当たらなければ一着は取れるだろう。
「結構速いじゃん」
タイムを計ってくれた軽井沢が声をかけてきた。
「俺の専門は長距離なんだ。距離が一桁足りない」
「いや、距離が一桁増えたらマラソン大会になっちゃうし」
「俺はマラソン大会の方がいいんだよ」
確か原作8巻でマラソンのイベントがあったはず。
マラソン大会こそが、この学校で俺が一番輝けるイベントになるだろう。
「あたし、マラソン嫌い」
「軽井沢はそもそも運動が嫌いだろ」
「まぁ、好きではないけど」
軽井沢と話してると、10分休憩に入ったので、そのまま駄弁ることにした。
鈴音と愛里がこちらの様子を伺っているが、二人とも軽井沢が苦手なので、寄ってはこないだろう。
「でも騎馬戦は騎手するんだろ」
「あたしが一番小柄だったからね」
「怪我しないようにしろよ」
よくよく考えると女子たちに騎馬戦をやらせるのはどうなんだろうか。
危険なため騎馬戦を行わない学校もあるっていうのに、この学校は時代遅れな感じが否めない。
実力主義をうたう国立学校なら、もっとオリジナリティ溢れる競技を考えてほしいものだ。
「な、なに? 心配してくれてるの……?」
「当たり前だろ。可愛い顔に傷ついたらどうするんだよ」
「か、可愛いってっ……!?」
綾小路も原作の地の文で言ってたが、軽井沢は整った容姿をしている。つまり可愛い。
けれど、中学時代の苛めのせいで、同級生から容姿を褒められることはなかったのだろう。
だから俺に容姿を褒められるとテンパってしまう。
「か、からかわないでよっ!」
「からかってないから。もっと自分の容姿に自信持てよ」
「だ、だって……あたし……」
軽井沢の表情が暗く陰る。
もしかしたら中学時代を思い出させてしまったかもしれない。
これ以上言ったら軽井沢の古傷を抉ることになるだろう。
だが彼女に自信を少し持たせるためにも俺はあえて言う。
「あのさ、中学時代になに言われたかわからないけど、お前が可愛いのは事実だ」
「ほ、本当にそう思ってる……?」
「思ってるよ。そもそも俺は可愛い子としか話さないんだ」
もちろん嘘である。趣味が合えば容姿なんて関係なく女子とも友達になりたいと思ってる。
ただクラスには博士しかアニオタがいないんだよな……。
「なにそれ、最低じゃん」
軽井沢がクスッと笑った。
原作ではシリアス多めのヒロインだったが、この世界ではノーサンキューなんだよね。
「平田だって、お前がブスだったら、彼氏役を断ってたかもしれないぞ」
「それはないでしょ」
「ないか」
軽井沢が、ジャイ子や花沢さんみたいな容姿でも、平田は受け入れてくれただろう。
俺は絶対嫌だけどね。
☆☆☆
「急に押しかけてきてどうしたんだよ?」
夜の8時。体育祭が近いので、今日は誰ともやらずにゆっくりしようとしていたら、軽井沢が部屋にやって来た。
放課後に買い物をしていたようで、部屋着の俺とは違い、軽井沢は制服姿のままだ。
「実は上里くんに相談ていうか……報告することがあって……」
「なに?」
思いつめた顔をしているので、俺は真面目に応対することにした。
せっかく練習中に笑顔にさせたのに、誰がまた軽井沢を暗い表情にさせてるんだよ。
「放課後にケヤキモールで買い物してたんだけど、Dクラスの女子に絡まれちゃって……」
軽井沢がトラブルの内容を語りだした。
放課後、珍しく佐藤のグループとケヤキモールで買い物をしていたら、軽井沢本人がDクラスの女子と肩がぶつかってしまい、絡まれてしまったこと。
軽井沢からすると、Dクラスの女子がわざと肩をぶつけてきたように見えたこと。
たまたま通りかかった三宅が仲裁に入って、大事にならずにすんだとのことだった。
「なるほど。お前にぶつかった女子って真鍋じゃないんだよな?」
「うん、知らない女子だった」
「そうか」
「……もしかして真鍋さんに言われて、あたしに嫌がらせをしたのかな?」
不安そうな顔で軽井沢が呟く。
「いや、それはないだろ」
「なんで言い切れるわけ?」
「俺の仕入れた情報だと真鍋は友人が少ないらしい。数少ない友人が特別試験で同じグループだった女子たちだ」
「誰から仕入れてるのよ?」
「それは企業秘密だ。だから友人でもない女子が、真鍋の言うことを聞くわけがない」
この情報が伊吹から仕入れた情報だ。
真鍋は高飛車な態度で、殆どの女子からウザがられてるらしい。
「そ、そっか……」
「恐らく突発的な嫌がらせだろ。軽井沢を狙ったわけじゃないと思う」
「それは上里くんの推測?」
「そうだ。ただBクラスも龍園に、ちょくちょく嫌がらせを受けてたと聞いてる」
「……つまりBクラスの代わりに、あたしたちのクラスが標的に代わったってこと?」
「多分な。Dクラスは龍園の独裁政権だ。龍園が何かしら指示をしたのかもしれない」
これはあくまで推測。
原作では軽井沢は綾小路に協力したことにより、龍園から狙われることになるが、現時点ではノーマークのはずだ。
「それじゃあまり気にしなくていいわけ?」
「ああ」
俺の推測を聴いて、ひと安心する軽井沢。
「もし軽井沢が狙われるようなら、約束通り俺が守るから安心しろ」
「う、うん……」
軽井沢の頬が一気に赤く染まっていく。
今ので好感度が大分上がっただろう。
軽井沢は数秒俯くと、顔を上げて、自分の胸に手を添えて、弱弱しく口を開いた。
「あ、あたしのこと、守ってね……?」
直後に、電撃に打たれる感覚に陥った。
可愛すぎる。今のは反則だろ。
俺の経験値が転生前のままだったら、抱きしめてたところだった。
「お、おう……」
「約束だからね」
「わ、わかってるよ……」
なんで俺が動揺してるんだよ。
さすがメインヒロインってわけか。
凄まじい破壊力だったぜ。
「そ、それじゃ……あたし、帰るから……」
「わかった」
軽井沢も言ってて、恥ずかしくなったのか、頬を染めたまま帰り支度を始めた。
玄関までついていき、ローファーを穿く軽井沢の後ろ姿を見つめる。
すると屈んだ瞬間に、ピンク色の下着が見えた。
お洒落に気を遣う軽井沢は、下着もお洒落だった。
「お、おやすみ……」
「まだ9時前だけどな」
「べ、別にいいでしょっ!」
「そんな怒るなよ」
「怒ってないからっ!」
「はいはい。また明日な」
「……うん」
この時、俺は失敗を犯してしまった。
俺の彼女でも、セフレでもない軽井沢をそのまま見送ってしまったのだ。
「あれ? 軽井沢さん?」
「く、櫛田さんっ!?」
軽井沢が俺の部屋から出るのを櫛田に見られてしまった。
(しまった! やっちまった!)
普段の俺なら、俺が先に廊下に出て、人がいないか確認してから軽井沢を部屋から出させただろう。
だが軽井沢にドキマギしてた俺は、それを怠ってしまった。
結果、最も見られたくない人物に見られることになってしまった。
「なんで軽井沢さんが上里くんの部屋に?」
だが慌てることはない。こういう時に、なんて答えればいいかは考えている。
「あー、実は平田くんのことで相談に乗ってもらってたんだよね」
「平田くん?」
「うん。実は最近あたしら上手くいってなくて……。だから平田くんとクラスで一番仲良しの上里くんに相談に乗ってもらってたわけ」
さすが軽井沢。
俺が考えてた答えより違和感なく対応出来てるじゃないか。
「そうだったんだ」
「一応、平田くんには内緒でお願いね?」
「もちろん」
「櫛田さんはなんでここにいるの?」
間違いなく綾小路の部屋に上がろうとしたんだろう。
ただ櫛田が素直に答えるかどうか。
「私は綾小路くんに用があってね」
「綾小路くんに?」
「うん」
「そういえば櫛田さんって綾小路くんと最近仲が良いよね。……もしかして?」
「それはないよ。私と綾小路くんはただの友達だから」
またしても断言されてしまった綾小路。
本人がいなくてよかった。
「そっか。変なこと訊いてごめんね」
「ううん、私こそ疑ってごめんなさい」
「全然大丈夫だから。こんな時間に男子の部屋に出入りしてたら疑われるのは当たり前だし」
なんとかやり過ごせそうだ。
今度、軽井沢に何か奢ってやるか。
「それじゃあたしは部屋に戻るから。上里くん、今日はありがと」
「ああ、平田と仲良くな」
「わかってる。櫛田さんもバイバイ」
「うん、また明日」
そのまま軽井沢はエレベーターに乗り、自室に帰っていった。
「それじゃ俺も部屋に戻るわ」
「ちょっと待って」
踵を返した瞬間、櫛田に上着を掴まれた。
普段ならドキドキする瞬間だが、今は怖くて仕方ない。
「……何だよ?」
「実は上里くんにも用があったんだ」
「俺に?」
「うん、私と一緒に綾小路くんの部屋に来てくれる?」
「……わかった」
つまり綾小路が俺に話があるっていうことか。
もしかして俺が暗躍してることがばれてしまったか。
俺は動悸を感じながら、綾小路の部屋に上がった。
☆☆☆
自室に帰宅したあたしはすぐに浴室に向かった。
シャワーで身体全体を綺麗に洗い流し、浴室から出ると、脱衣所に設置されている洗面台の鏡にあたしの全裸が映る。
スタイルにはそこそこ自信がある。
けれどそれを台無しにしてしまう醜いモノがあたしの身体にある。
左脇腹の生々しい傷跡。
あたしを切り裂いた刃物は、あたしの身体に一生のトラウマを植え付けた。
「こんなの見たら、絶対引かれるわよね」
そんなことを呟いたが、あたしに全裸を見せる予定の人はいない。
ただ可能性があるとすれば一人。
指示されたことをこなせば、よくやったと褒めてくれる人。
害虫扱いされたあたしを可愛いと言ってくれた人。
たかが体育祭であたしが傷つくことを心配してくれた人。
あたしの仕草や動作に、可愛い反応をしてくれる人。
その人の名前は上里歩夢くん。
あたしのクラスメイトだ。
あたしは入学してすぐに自分を守るために平田くんに寄生した。
結果は上々で、あたしは中学時代からは考えられない、トップカーストの地位を得ることになった。
学年でも人気の彼氏を持つあたしに、逆らう同級生は一人もいなかった。
もちろん同級生に反感を買わないように、高圧的な態度はなるべく控えた。
トップカーストの人間が、少しのきっかけで、カースト底辺の人間に成り下がることをあたしは知っている。
平田くんを偽彼氏にしたけれど、入学当初から上里くんのことは気になっていった。
最初は堀北さん、綾小路くんのような根暗な生徒と仲良くする変わったイケメンだと思った。
そんな彼の印象が変わったのは、入学してから二週間が過ぎた頃だった。
彼はいきなりSシステムについてあたしたちに説明をした。
クラスの誰もが知らない情報を持っている彼に、あたしは強い興味を持つようになった。
その後も、テスト勉強でクラスメイトの面倒を見たり、特別試験で結果を出したりなど、あたしの中で彼の株は急上昇した。
そんなわけであたしは彼と積極的に接触するようにした。
結果、あたしは平田くんから上里くんに寄生先を変えることになった。
理由はいくつかあるけど、一番の理由は、あたしを女の子として見てくれたことだ。
平田くんと偽の恋人を4ヶ月以上続けているけれど、彼があたしに手を出すことは一度もなかった。
もちろん平田くんが、そんなことする人だとは思っていない。
しかし、あたしだって年頃の女だ。
人前で恋人アピールするために、腕に抱きついたり、手を握ったりなど色々頑張った。
頑張ったけど――平田くんは一度もあたしのことを異性として意識してくれなかった。
ただ、上里くんは違った。
あたしを一人の女の子として見てくれる。
面と向かって可愛いと言ってくれる。
今日だって何回も可愛いと言ってくれた。
われながら単純だと思う。
容姿を褒められたくらいで寄生先を変えてしまうなんて。
入学当初は青春も友達もいらないと思っていた。
大切なのは自分自身を守ること。
けれど、クラスメイトと過ごして、思い出してしまった。
虐められる前の、楽しかった学生生活を。
あたしは欲張ってしまった。
自分自身を守りつつ、楽しい学校生活を送ることを。
そして―――恋人がいる生活を。
上里くんには何人も仲がいい女子がいる。
堀北さん、佐倉さん、一之瀬さん、生徒会の橘先輩、最近噂になっている長谷部さん。
全員がトップクラスの美少女だ。
「あたしが勝てるわけないよね」
みんな、あたしより美人でスタイルだっていい。
あたしが堀北さんたちに勝てるところなんて一つもない。
だからあたしは上里くんの指示を忠実にこなすようにした。
彼にあたしが有能な人間だとわからせるために、あたしは彼の犬になっている。
これが同性だったなら、あたしはただのパシリに見えるだろう。
でもそれでいい。
大切なのは、あたしが必要だと思ってもらうこと。
そうすれば―――古傷を負ったあたしを女にしてくれるかもしれない。
「……んっ……」
気づくと、あたしのあそこにお湯ではない液体が溢れていた。
指ですくってみると、それは無色透明で粘性のあるモノだった。
「やだ、あたし、また……」
彼を意識してから、あたしは何度も自分を慰めている。
「んぁ……んんっ……あぁ……」
指を出し入れするたびに、くちゅくちゅといやらしい音が鳴り響く。
オナニー。
これもあたしのトラウマを思い出すモノだ。
あたしは考えられるいじめは全部受けてきた。中には性的なものを含まれている。幸いレイプはされなかったけど、人前でオナニーをさせられたこともある。
さすがにその時はみっともなく泣いてしまった。
だからあたしは自らオナニーをすることはなかった。
けど、最近のあたしは二日に一回はそれをしている。
「はぁん……んはっ……うぁっ……」
人前でさせられた時は、殴られたり、蹴られたりしたので、痛い思い出しかない。
だからあたしは知らなかった。
気になる異性を思いながら、あそこを弄ると、こんなに気持ちよくなることを。
オナニーってこんな気持ちいいものだったんだ。
「あんっ……いく、いくっ……!」
せっかくシャワーを浴びたのに、股から太腿が愛液で汚れていく。
あたしはそんなのをお構いなしに、絶頂するために、乱暴に指を出し入れする。
「んああああぁぁぁぁぁっ!」
直後に、あたしは激しく絶頂した。
足がもつれ、洗面台に寄りかかってしまう。
「んっ……はぁ、はぁ……」
息を荒くしながら、ゆっくりと顔を上げる。
洗面台の鏡には、いやらしい顔をしたあたしが映っていた。
「は、はは……あたしって、こんな顔できるんだ……」
こんな顔を見たら彼はどう思うだろうか。
劣情してくれるだろうか。
してくれたら嬉しい。
喜んで処女を捧げる。
寄生虫で。
醜い傷跡持ちで。
中身も醜くて。
そんなあたしを彼は抱いてくれるだろうか。
そんな疑問を持ちながら、愛液だらけの下半身を洗い流すため、あたしは浴室に戻った。
原作よりエロくて乙女チックかもしれないです!