とうとう中間テストの日を迎えた。赤点を取れば即退学のため、高円寺と綾小路を除くた全生徒が朝から真剣な表情をしている。
赤点候補の三馬鹿、恵、佐藤は勉強会のおかげで、それなりに自信がついたのか、落ち着いた表情をしている。
「鈴音は自信満々みたいだな」
隣人の美少女に声をかける。
「当たり前じゃない。歩夢くんはどうなのかしら?」
「それなりに」
勉強会を二つもこなしていたので、自分の勉強をする時間は減ってしまったが、全教科90点は取れる自信はある。
鈴音は一人で黙々とテスト勉強をしていたようなので、学年で一位をとれるかもしれない。
「そう。お互い頑張りましょう」
「ああ」
「それと、そろそろご褒美を要求するからよろしくお願いするわ」
「わかった」
鈴音とは体育祭で個人種目が全部一着だった場合にご褒美をあげる約束をしている。
「歩夢くんも考えておいてね」
「もう考えてる」
「あら。どんな卑猥なお願いをされるのかしら」
くすくす笑いながら人差し指で頬をなぞった。
鈴音の上品で華やか仕草に目を奪われる。
やはり教室の鈴音はベッドの上と違って上品だ。
「そこまで卑猥じゃないから」
「それは残念ね」
鈴音のご褒美はきっと下品なお願いなんだろうな。
回数が減ってる鼻フックや窒息プレイでも求めてきそうだ……。
「ひぃひぃ、ふぅ」
ふと愛里に目を向けてみると、スムーズなお産をサポートしてくれる呼吸法をしていた。
愛里になりに緊張をほぐそうとしているのだろう。
愛里といえば二学期に入ってから10人以上の生徒に告白をされている。
異常な人数かと思うだろうが、俺は思わない。
なにせ彼女は元グラビアアイドルの雫なのだから。
Cクラスにも愛里のファンは大勢いるので、愛里の彼氏だと思われている俺へのヘイトが凄かった。一部の男子からはモテ神としてもてはやされているが、殺意は毎日感じている。
「愛里、大丈夫か?」
5分以上ラマーズ法を繰り返しているので、さすがに心配になり愛里の元へ行った。
「う、うんっ。大丈夫だよっ」
「落ち着け。赤点をとらなければいいんだ」
「そ、そうだねっ」
「愛里なら大丈夫だ」
「……うん」
ようやく落ち着きを取り戻してくれた。
愛里は要領が悪いのか、勉強時間に反して成績がよろしくない。だが赤点を取るほど悪くはないので、普段通りの実力を発揮すれば問題ないはずだ。
「歩夢くんも頑張ってねっ」
「ありがとう」
愛里を励ましてると茶柱先生が教室に入ってきた。
彼女が教室にやってくるなりクラスの空気が重たくなる。
「それじゃまたな」
愛里に別れを告げて自席に戻る途中で長谷部と目が合った。
すると長谷部は可愛らしくウインクをしてきたので、俺もウインクを返した。
「目にゴミでも入ったの?」
鈴音からはウインクと認識されなかった。
「……まぁな」
恥ずかしいので誤魔化した。
帆波と何回もプリクラ撮影しているので、笑顔はスムーズに作れるようになったが、ウインクはまだまだのようだ。
☆☆☆
中間テスト初日が終わった。ちなみに中間テストは2日に渡って行われる。
いつもより早い時間に放課後を迎えた教室には、テストの感想を言い合う生徒たちの姿があった。
感想を言い合う必要性を感じないので俺は早々に教室を後にする。
すると一人の女子生徒が俺を追いかけてきた。
「歩夢っ!」
「……どうした?」
息を切らしながら俺の名前を呼んだのは恵だった。
そんなに走って俺に大事な用でもあったのだろうか。
「帰るの早すぎだから」
「そうか。それで?」
「テストの感想を言おうと思ったんだけど……」
感想じゃなくて確実な点数を知りたいんだけど、そんなことを言ったら怒られそうなので、ここは素直に聞いておこう。
「どうだった?」
「多分60点以上は取れたと思う」
「全部?」
「うん」
全教科60点以上なら赤点にはならない。
やはり二週間に及ぶ勉強会の効果は抜群だ!
「そっか。よくやったな」
「ま、まぁねっ。あれだけ勉強見てもらったわけだし?」
「明日もこの調子で頑張れよ」
「当たり前じゃない」
俺に褒められて上機嫌の恵。
なにこの子。可愛すぎる。持ち帰りたい。
「この調子なら期末は80点以上は取れそうだな」
「そ、そう……?」
俺は下駄箱に誰もいないことを確認して、恵を愛でることにした。
「ああ。恵は頭が切れるタイプだからな。真面目に勉強すればいい点数を取れると思ってた」
「ま、マジ……?」
「マジ。今度は俺がマンツーマンで教えてやろうか?」
恵を下駄箱に追いやり顔を近づける。
原作9巻で橋本が恵に壁ドンっぽいことをしていたので、それを真似てみる。
「ちょっ、近いっ! 近いってばっ!」
「誰もいないし問題ないだろ」
「はうわっ……!?」
恵の頬や耳が、みるみる赤く染まってゆく。
「あ、歩夢……やめっ……」
「……そうだな。そろそろ人が来そうだ」
教室のドアが開く音がしたので恵から離れる。
「それじゃまた明日」
「あっ……」
恵がなにか言いたそうな顔をしていたが、無視して学校を後にした。
からかいすぎたかもしれない。
明日のテストに影響がないことを祈ろう。
☆☆☆
歩夢が去ってから五分が経った。
あたしは下駄箱で呆けたままでいる。
「な、なんなのあいつ……」
下駄箱で歩夢に迫られてしまった。
異性にあんな顔を近づけられたのは初めてだ。
あたしをからかってるのはわかってた。
わかってたのに―――キスされるのを期待してしまった。
(馬鹿じゃないのあたしっ! 絶対いたずらだって気づいてたのにっ!)
こんなところを他の人に見られたら恥ずかしくて死ねる。
「えっと、そこどいてもらっていい?」
「え……?」
振り向くと長谷部さんがいた。
「靴とれないんだけど」
「あ、ごめんっ!」
どうやらあたしの身体が下駄箱を塞いでたらしい。
あたしはすぐに退いて謝った。
「ううん」
「えっと……長谷部さんも帰るんだ?」
「教室にいても仕方ないしね」
「そっか」
長谷部波瑠加。あたしのクラスメイトで、歩夢の新しい彼女と噂されている子だ。
うちのクラスは可愛い子が多いけど、その中でも長谷部さんは上位にランクインするほど容姿が整っている。
それに胸も大きい。
そういえば歩夢の彼女って、堀北さん以外は全員巨乳だったような気がする。
「それじゃ」
「う、うん。またね」
長谷部さんと挨拶を交わしてあたしは教室に戻った。
するとすぐに森さんが話しかけてきた。
「軽井沢さん、どこ行ってたの?」
「うん、ちょっとお手洗いに……」
駆け足で教室を出て行ったので、理由としてはお手洗いがベストだろう。
ここで歩夢を追いかけにいったと言ったら、あたしが浮気性の女だと思われてしまう。
「そうなんだ。凄いダッシュで教室を出て行ったから心配したんだよ」
「ごめんごめん。それじゃ帰ろっか?」
「そだね」
森さんとは一学期から仲良くしている。
他人の陰口を叩くのが好きなところ以外はいい人だと思う。
……いや、陰口叩いてる時点でいい人じゃないわね。
☆☆☆
「たのもー」
「長谷部はいつから道場破りになったんだ?」
私は学校から直行であゆむーの部屋に来た。
一緒に帰ろうと思ったら、私がお手洗いに行ってる間に帰っちゃうんだもん。
「上がっていい?」
「いいよ」
「やった。ありがとー」
もう二週間以上も通い詰めてるあゆむーのお部屋。
「長谷部も俺に用があったのか?」
「まぁね」
本当は用なんてない。
ただあゆむーと一緒にいたかっただけだよ。
「今日のテストのことか?」
「そうそう。あゆむー先生に報告しておこうと思って」
「そっか。それでどうだった?」
「多分全教科80点以上は取れたと思う」
「凄いじゃん」
私もそう思う。
「ただ自己採点が間違ってるかもしれないから、あゆむーにも見てもらおうと思って」
「なるほどね」
「いい?」
「ああ。見せてくれ」
「はーい」
私は鞄から回答を記入した問題用紙を渡した。
あゆむーは15分ほどかけて私の回答をチェックしてくれた。
「……そうだな。現代文が83点、数学が88点、英語が80点、日本史が84点だな」
「やったっ」
あゆむーが採点してくれたなら間違いない。
こんなに高得点を取れたのは生まれて初めてだ。
「よくやったな」
「え」
あゆむーに頭を撫でられた。
「……んっ……んん……」
なんだろう。凄く心地よい。
私はいつの間にか心地好さと気持ち良さにうっとりと目を閉じていた。
「明日も頑張れよ」
「あっ」
あゆむーのなでなでタイムが終わってしまった。
せっかく気持ちよくなってたのに……。
「あゆむー」
「ん?」
「もし残りの教科も80点以上だったらまた頭撫でてもらってもいい?」
「い、いいけど……」
よし。あゆむーの言質取った。
「言ったね。約束だからね?」
「わかったよ」
「ありがと。それと例の約束なんだけど」
「ハンバーグか?」
「うん。明後日の放課後空いてる?」
あゆむーに勉強を教えてもらったお礼にハンバーグを奢る約束をしている。
私はその日にあゆむーに告白するつもりだ。
「空いてるぞ」
「それじゃ明後日の放課後で確定でオッケー?」
「オッケー。楽しみにしてる」
「私も。それじゃそろそろ帰るね」
「もう帰るのか?」
「おや? おやおや? もしかして私が帰るのが寂しかったりする?」
「うざ」
「女の子にうざいとか酷くない?」
私の悪い癖が出てしまった。
なんでこうもからかおうとしちゃうんだろう……。
「いいから帰って明日に備えろって」
「はーい、かしこまりましたー」
告白当日は控えよう。
少しだけおしとやかに振る舞おうかな。
「じゃーね、あゆむー」
「ああ、また明日な」
大好きな彼に見送られエレベーターに乗り込む私。
そんなエレベーターの中に――――堀北さんがいた。
(うわ、きまずっ)
堀北さんとは一度も話したことがない。
共通点といえばお互い独りが好きなところ、好きな人が同じところくらいだ。
(四階から乗ったから、私があゆむーの部屋にいたことは予想出来るよね)
だからだろう。
さっきから堀北さんから冷気が凄い。
教室でもたまに睨まれるけど、密室で二人きりだと圧が違いすぎる。
(早く着いてよー……)
結局、堀北さんと別れるまで寒気は治まらなかった。
☆☆☆
「休み時間のたびに山内が報告してくるんだよ。ウザイと思わない?」
家でくつろいでいたら櫛田がやって来た。
明日は中間テスト最終日だと言うのに、30分以上も愚痴に付き合わされている。
「そうだな」
「だよね! 男子で構ってちゃんとか最悪なんだけど!」
最悪なのは俺の気分だわ。
なんで毎回お前の愚痴に付き合わされてないといけないんだよ……。
「櫛田」
「なに?」
「愚痴なら綾小路に吐いたらどうだ?」
「恐怖を感じる人に吐けるわけじゃないでしょ」
「それじゃ龍園は?」
「暴力を振るう人と極力関わりたくない」
思いっきり関わってるじゃないか。
鈴音を潰す為に協力してるでしょうが……。
「だから私の本性を知ってる人で愚痴を吐けるのは上里くんだけなの」
愚痴を吐きたいなら俺の精液を呑み込んでから吐きやがれ。
「俺に愚痴を吐く以外にストレス発散方法ないわけ?」
「ないかな。以前は自分の部屋で叫んだりしてたけど、人に聞いてもらった方がすっきりすることに気づいたから」
「他にもストレス発散する方法を考えた方がいいんじゃないか?」
「そうかな?」
「そうだろ。言葉を吐き出すことしかないから、ストレスも溜まりやすいんじゃないか?」
「そうかもね。……それじゃ他になにがあるのかな?」
「オナニー」
「………………え?」
「オナニーだよ」
「な、なに言ってるのかなっ!?」
オナペット
「性欲処理だって立派なストレス発散だろ」
「せ、性欲処理……」
「櫛田だってオナニーしたことがあるだろ?」
「そ、それはあるけど―――ってなに言わせてんのっ!?」
興奮した櫛田が詰め寄ってきた。
香水をつけてるのかいい匂いがする。
「そんな恥ずかしがるなよ。俺は櫛田のために言ってるんだぞ」
「わ、私のためって……」
「もちろん強制じゃない。提案してるだけだ」
櫛田って思ったより単純だからオナニーにはまってくれそうな気がする。
そのままオナニー中毒になれば、俺の部屋に来ることもなくなるはずだ。
「つーか、女子高生なんだからそれなりにオナニーもするだろ」
「そ、そんなの知らないよ……」
「友達と話したりしないのか?」
「する人もいるけど、私の周りにはいないよ。そもそもうちのクラスに彼氏持ちもいないし」
意外だ。てっきり松下あたりは彼氏がいそうな気がしたんだが。
「そうだったのか。……もしかして、うちのクラスって処女と童貞ばっかなのか?」
「それはわからないけど……」
「櫛田のくせに知らないのかよ」
「私のくせにってどういう意味っ!?」
「いや、櫛田の取り柄って情報だけだろ」
「なにそれ酷いっ!」
「後は容姿くらいか。それ以外にいいところないだろ」
「上里くんって私のこと嫌いだよねっ!?」
嫌いじゃないけど面倒な女だと思ってる。
櫛田はオナニーとぶつぶつ言いながら俺の部屋を後にした。
オナペット
それは神のみぞ知るだ。
次回は長谷部とハンバーグデート!