期末テスト三日前。俺は鈴音と一緒に職員室に向かっていた。
鈴音の手には大きな茶封筒がある。その封筒の中には鈴音が一ヶ月かけて作成したテスト問題が詰まっている"こと"になっている。
「一ヶ月間お疲れ様」
「本当に疲れたわ」
さすがの鈴音も一ヶ月黙々とテスト問題を作成するのはきつかったか。
「でも歩夢くんのご褒美を楽しみに頑張ったわ」
「そ、そっか……」
鈴音がクラスのためにただで協力してくれるわけがないので、俺は体育祭と同じようにご褒美をテスト問題作成の対価として支払うことにした。
「テストが終わったら楽しみにしていてね」
「ああ」
前回のように鈴音のためだけの時間を作るくらいならお安い御用だ。
(そういえば俺もご褒美として鈴音にコスプレしてもらったんだよな)
鈴音のミニスカナースのコスプレは最高だった。
股を開かなければ清純な鈴音に白衣の天使のコスプレは最適だ。
俺の注射で治療してくださいと言われたときは言葉だけで射精しそうになった……。
(次は婦警さんのコスプレしてもらおうかな)
衣装を購入するのにそれなりにポイントがかかるが必要経費だ。
コンドーム。アフターピル。コスプレ衣装。
必要経費がセックス関連のものばかりだな……。
そんなふしだらなことを思いながら歩いてると、一人の生徒と鉢合わせした。
「よう上里、鈴音」
不敵に笑う龍園が現れた。その手には鈴音と同じ茶封筒が握られている。
「勝手に下の名前で呼ばないでくれる?」
「いいじゃねえか」
「嫌よ。私を下の名前で呼んでいいのは彼だけよ」
お兄さんはと突っ込みそうになったが空気を読んで黙っておくことにした。
「つれねえな。それより一緒に行こうぜ。お前たちもぎりぎりでの問題文提出だろ?」
「勝手についてくればいいわ」
鈴音は俺の腕をとり、龍園を置き去りにするよう歩き出した。
「今回の特別試験でBクラスに少しでも追いつければいいのだけれど」
「そうだな。そのためにはAクラスに頑張ってもらわないとな」
「ククク。Aクラスを応援していいのかよ。Bクラスには愛しの一之瀬がいるだろ?」
帆波の名前が龍園から発された瞬間、鈴音が一気に不機嫌になった。
「……特別試験では敵だからいいんだよ」
「おいおい、ひどい奴だな。あっちはお前のこと応援してるんじゃねえのか?」
「帆波はそこまで愚かじゃないぞ」
帆波はセックスが絡まなければ優秀な生徒だ。
セックスが絡むと理性ゼロの淫乱女に成り下がってしまうが……。
龍園と絡んでるうちに職員室に着いた。
鈴音は茶柱先生を呼び出して、問題文を提出する。
龍園のほうも坂上先生を呼び出して問題文を提出していた。
「茶柱先生。これが最終稿になります」
「預かろう」
鈴音と茶柱先生のやり取りを龍園が不気味な笑みで見守っている。
原作では鈴音が茶柱先生と一緒に龍園の罠にかかった演技をしていたが、面倒なので省くことにした。
茶柱先生にはすでに最終稿を提出している。鈴音がさっき渡したのは偽の問題文だ。
俺は平田を通して茶柱先生にお願いをしていた。『鈴音が問題文提出の決定権を持っていること』『ほかの誰が来ても受理するフリをすること』を。
そもそも櫛田も俺の協力者なので原作と同じ展開にしなくてもよかったのが、念のため櫛田にはDクラスが作成した問題文を茶柱先生に提出するようお願いをした。
「それでは失礼します。歩夢くん、行きましょう」
「ああ」
俺と鈴音が踵を返すと、背後から龍園の笑い声が聞こえたが、無視してそのまま歩き続けた。
きっと龍園は作戦がうまくいったと思い込んでいるだろう。
甘いよ龍園。
船上の特別試験の発表時にクラスに裏切り者がいることを把握してることは平田と三宅が言っていたはずだ。
それなのに櫛田を協力者のままで利用し続けている。
それだけ櫛田への信用が高いのかもしれないが、不安要素はすぐに切り捨てないと駄目だ。
「どうやら上手くいったようね」
「ああ」
下駄箱にたどり着くと鈴音が口を開いた。
「これでDクラスに退学者が出るといいのだけれど」
「退学でクラスポイントがどれくらい減るかわかるからな」
原作通りならDクラスはたいして勉強をせずに期末テストを迎えるだろう。
伊吹には必ずテスト勉強をするよう伝えてある。椎名は言わなくても勉強するだろうから伝えていない。
「そうね。それより歩夢くん、下駄箱に来てもよかったの?」
「え?」
「今日も勉強会を行うんじゃなかったのかしら?」
「あ、忘れてた!」
作戦が上手くいったのでうっかりしてた。
今日も教室で勉強会を行うんだった。
「教室に戻る。またな」
「ええ。また明日」
いまいちかっこつかないね俺は……。
鈴音にしかばれなくてよかった。
☆☆☆
とうとう期末テスト初日を迎えた。本日の内容は現代文、英語、日本史、数学の四科目だ。
玄関から教室へと続く廊下を歩いていると、誰かを待っている様子の恵に会った。
「あ、来た。遅いんだけど」
「なんで朝から怒られないといけないんだよ……」
そもそも登校時間まで20分は余裕がある。怒られる筋合いはないんだけどな。
「んで俺に何か用か?」
「いや、今日からテストだから……」
不安そうな表情で俺を見つめてくる恵。
そんな顔を見つめられたら、虐めたくなっちゃうからやめてよね。
「俺と恵なら大丈夫だろ」
「そ、そうよねっ……!」
「ああ。俺は90点、恵は70点以上取れるだろうし、退学する可能性はほぼゼロだ」
「うん。あたしと歩夢なら問題ないわよね」
「さっきからそう言ってるでしょ……」
「わ、わかってるわよ……。あ、こっち来てっ!」
「え」
恵は何かに気づいたような顔をすると、俺の腕を掴んで人気のない場所に連れ込んだ。
「どうしたんだよ?」
「いや、佐藤さんが来るのが見えたから」
「佐藤?」
「そう。歩夢、佐藤さんに迫られて迷惑してたでしょ?」
「……あー、そうかもな」
でもおっぱいを押し当てられるのは嬉しかった。
そんなこと言ったら恵が怒るのは間違いないから言わないけど。
「だから気を遣ってあんたを逃がしてあげたわけ」
「なるほど……」
「そうよ。感謝しなさいよね」
今にも褒めてほしそうな表情で胸を張る恵。
まだ時間もあるし緊張をほぐすためにも軽く悪戯をするか。
「恵、来い」
「え、な、なに……?」
俺は恵の右手を左手で握って、屋上に連れ出した。
屋上には監視カメラがあるが、死角が存在するので、そこでなら何をしても問題はない。
現に帆波を手マンをしたり、橘先輩とキスをしたりしたが、教師陣から注意を受けていない。
「お、屋上なんかに連れてきてどうしたのよ……?」
「まだ時間もあるから恵とここでゆっくりしようかと思って」
「あたしと……?」
「ああ。迷惑だったか?」
「べ、別に迷惑なんかじゃ……」
案の定、恵は顔を真っ赤にしてもじもじし出した。
「お前は本当に可愛いな」
「え……? きゃっ!」
俺は思いっきり恵を抱きしめた。
直後に、恵が可愛い悲鳴を上げる。
「な、なにしてんのよっ……!?」
「いや、可愛いから抱きしめようと思って」
「だ、抱きしめるって……ここ学校よ! 場所を考えなさいよ!」
「ふーん。違う場所なら抱きしめてもいいのか」
「ふぇっ……!?」
そう指摘されるとより恵の顔が赤くなる。
完全に茹でタコ状態だ。
「ち、ちがっ……。そうじゃなくて、あ、あたしはっ……」
「落ち着けって」
「落ち着けるわけないでしょっ! こ、こんな抱きしめられて……あ、あたし……!」
ほかのヒロインより華奢だけど、やっぱり柔らかい。それにいい匂いもする。恵は女子力が高いからいい香水を使ってるんだろう。
「お前、美味しそうな匂いがするな」
「っ……!?」
しまった。いい匂いがすると言おうとしたのに、言い間違えてしまった。
「お、美味しそうな匂いって……あ、あんた……」
「悪い。もう離れる」
これ以上は逆効果になりそうだったので、恵から離れようとしたが、離れられない。
「……恵?」
原因は恵が俺の腰に腕を回して抱きしめたからだ。
「は、離れなくていいっ……! 離れなくていいから……」
「お、おい……」
予想外の恵の反撃に動揺してしまう。
まさか右手で触れてしまったのか……。
「も、もう少し……このままでいさせてよ……」
「……いいのか?」
「あたしがしたいって言ってるの」
「そ、そっか……」
息は荒いが、股間を擦り付けている様子はないので、
そうなると単純に俺と密着していたいということか。
恵が俺に少なからず好意を抱いてるのは気づいていたので、抱きしめるのは迂闊だったかもしれない。
☆☆☆
あたしはここ最近イラつくことが多かった。
原因は佐藤さんと歩夢だ。
テスト勉強中にいちゃつきだす二人にあたしは憤怒していた。
歩夢にその気はないことは知ってたけど、佐藤さんに胸を押し当てられてまんざらでもない顔をしているのが気に食わなかった。
あたしには洋介くんの彼女という立場がある。
だから二人の邪魔をするのは不自然だ。
けれどあたしは尋常ないほどの嫉妬により佐藤さんの邪魔をし続けた。
二人で出かける約束をしそうなときも無理やり割り込んだ。
勉強会後に二人で帰らせないよう、あたしは歩夢が帰るまで教室に居続けた。
きっと佐藤さんはあたしに不信感を抱いてるだろう。
彼氏がいる女がなぜ自分の邪魔をしてくるのかと。
洋介くんと別れたことになれば、佐藤さんのあたしへの不信感は一気に増すと思う。
彼氏がいるのに、ほかの男に気がある女だと思われるだろう。
女子たちに叩かれるかもしれない。
せっかく半年かけて築き上げたカーストトップの地位が奪われるかもしれない。
でも。
それでもいい。
だってそのまま佐藤さんと歩夢の姿を見ていたら、嫉妬で気が狂いそうになるから。
こんな気持ちは初めてだ。
歩夢はあたしの彼氏じゃない。
それどころかたくさんの女子に手を出している女たらしだ。
けれどクラスで一番に優秀な生徒だ。
だからあたしは洋介くんから歩夢に寄生先を変えた。
そしてそのまま歩夢に恋をしてしまった。
あたしは守ってもらうかわりに、歩夢の頼みごとを何度も引き受けている。
駒になって、歩夢に尽くしている。
だから何も尽くしていない佐藤さんが歩夢に迫っているのが気に入らなかった。
長谷部さんもそうだ。
あたしの直感だけど長谷部さんは歩夢と深い仲になったと思う。
彼女の様子を見ていればわかる。
長谷部さんが歩夢と仲良くなったのはあたしが彼の駒になった後だ。
だから長谷部さんにもムカついている。
あたしのほうが先に歩夢と仲良くなったのに。
あたしのほうが歩夢のために尽くしているのに。
あたしより長谷部さんのほうが歩夢と深い仲になっているのが許せなかった。
そんなドス黒い感情のせいで、歩夢にもきつく当たってしまう時期が続いた。
仲違いすることはなかったけど、歩夢への思いは増すばかりだった。
二日に一回だったオナニーを毎日するようになった。
歩夢にからかわれた日は激しく自分を慰めた。
害虫だったあたしを女の子として見てくれる歩夢。
ブスと言い続けられたあたしを可愛いと褒めてくれる歩夢。
馬鹿なあたしに丁寧に勉強を教えてくれる歩夢。
そんな歩夢があたしを抱きしめてくれた。
いつもの悪戯だってわかってる。
もしかしたらテストで緊張してるあたしを気遣ってくれたのかもしれない。
恋人と行うような抱きしめ方じゃないかもしれない。
理由はどうであれ歩夢があたしを抱きしめた。
抱きしめられた直後はパニックになったけど、あたしは歩夢を離さぬようぎゅっと抱きしめ返した。
「お、おい……」
歩夢が戸惑ってる。
でもそんなの知らない。
あんたがどう思おうが、絶対離さないんだから。
「もう少し……このままでいさせてよ……」
「……わかった」
今日は大切な期末テスト初日。
この日のために一ヶ月も勉強を頑張った。
だからこんなことをしてる場合じゃない。
そんなのわかってる。
歩夢を離したくない。
ずっと歩夢を感じていたい。
あたしを感じてほしい。
「……まだか?」
「まだ。まだに決まってるでしょ」
何分経ったかわからない。
歩夢がそんなことを言ってきたので、あたしは拒否した。
時間ぎりぎりまでこうしてるつもり。
もし今日が期末テストじゃなければ、授業をさぼって歩夢と抱き合っていたかもしれない。
それくらい歩夢と抱き合うのは心地がいい。
人に抱きしめられるのは家族以外では初めてだったけど、密着されるのは中学以来だ。
中学の時にプロレスごっこでよく関節技を決められていた。
最初は泣いて抵抗してたけど、反応することをやめたら、気に入らないからって身体中が痣だらけになるまでリンチされたっけ。
懐かしい。
ていうか女子でプロレスごっこって引くよね。
歩夢と一緒にいると中学時代の苦い経験が思い出し笑いできるようになる。
いつか刃物で傷つけられた出来事も思い出し笑いできるようになるのかな。
出来たらいいな。
そうしたら傷跡を気にしないで、歩夢に迫られるんだろうな。
でもさすがの歩夢でもこの傷跡には引いちゃうかな。
引かれたらどうしよう。
衝動でリストカットしちゃうかも……。なんて、さすがにこれ以上自分の身体を傷つけるつもりはない。
歩夢はあたしが傷つくのを見たくないって言ってくれた。
だから歩夢を裏切るような行為をするつもりはない。
「恵、そろそろチャイムが鳴るぞ」
とうとう歩夢と離れる時間がきてしまった。
「……わかった」
「遅刻したらやばいから行くぞ」
「うん」
もう少し余韻に浸りたいけどしょうがないよね。
……あった。余韻に浸れる方法が。
「それじゃ行こっか」
「お、おい……」
あたしは歩夢の左腕に抱き着いた。
歩夢は迷惑そうな顔をしているが、離れるつもりはない。
「さっきのお返しだから」
「……は?」
「歩夢、あたしを抱きしめたでしょ。そのお返し」
「お返しって……」
「チャイムぎりぎりだから人いないから大丈夫だって」
「……いたら離れろよ」
「わかってるわよ」
人がいても離れてやったりしないんだから。
歩夢に何人も女の子がいようが関係ない。
歩夢が嫌がろうと寄生し続けてやる。
だってあたしは――――歩夢の寄生虫だから。
やっぱり軽井沢の魅力は重いのと依存性ですよね!
どちらを次に投稿するか(両方投稿する予定です)
-
オリ主が佐藤に攻略されるラブコメ
-
一花がヤンデレなラブコメ(五等分の花嫁)