教室に着くと平田が声をかけてきた。ちなみに恵はトイレに寄るとのことで途中で別れている。
「おはよう」
「おはよ。……みんな集中してるな」
クラスメイトほぼ全員が冷静に時間を使って最後の確認をしている。
一学期から行っている勉強会のおかげで、Cクラスはすっかり優等生のクラスに生まれ変わったように見える。
「今回もDクラスに勝てるといいね」
「勝つさ。悪いけどDクラスはもう敵じゃない」
三馬鹿でさえ平均で50点以上は取れるようになっている。Dクラスの最底辺であろう石崎たちが50点以上取れるとは思えない。さらに鈴音、幸村、俺、平田は学年でも10位以内を狙える学力がある。
龍園は作戦が上手くいったと思い、Dクラスの生徒たちに櫛田が提出したであろう問題をやらせているだけだろう。
テストが始まったら全員慌てることになるんだろうな。
「凄い自信だね」
「平田もそう思ってるんだろ?」
「油断はよくないけど……確かにDクラスに脅威は感じなくなったかな」
期末テストが終わったら平田に龍園を挑発してもらうか。
問題は7巻の展開がどうなるかだ。
恵は綾小路の駒になってないから龍園に狙われないだろうし、櫛田も龍園に協力することもないし、原作と同じ展開になる要素が見当たらない。
(伊吹の情報が頼りになるな)
幸い伊吹がDクラスの情報をくれるので、対策は講じることはできると思う。
暴力を仕掛けてくるなら綾小路と三宅にお願いをしよう。
「それじゃお互い頑張ろう」
「ああ」
平田と別れて自席に向かう。
隣人の鈴音も最終確認に集中しているようだ。
「……おはよう」
「おす」
「遅かったわね」
「ああ。早く来すぎたから屋上で時間を潰してた」
「そう。風邪を引かないように気をつけてね」
「ありがとう」
恵と屋上で温めあってたから風邪の心配はない。
そういえば恵はまだ教室に来てないようだ。さすがに遅刻はしないだろうが心配になる。
「おはよ!」
心配になりドアに目をやるとちょうど恵が入室した。
頬の赤みは俺といた時より薄くなってるようだ。
これなら平常心でテストを受けられるだろう。
5分後。茶柱先生が教室にやってきた。
予鈴が鳴ると全員が勉強道具をロッカーに仕舞った。試験に不必要な道具はロッカーに仕舞うよう義務付けされ、机に残していいのは筆記用具だけになっている。
茶柱先生が試験のルールや注意事項を説明するが、当然お喋りをしている生徒はいない。全員が裏返しにしているプリントに視線を落としていた。
程なくしてチャイムが鳴り、試験の開始を告げた。
☆☆☆
「Dクラス、二人が退学だって」
期末テスト結果発表日の放課後。俺は櫛田を部屋に呼んでいた。
俺の作戦通りCクラスはDクラスに勝利した。もちろん俺たちは一人の退学者も出していない。
「つまり1ペアが赤点を取ったってことか」
「うん。Dクラスはパニックに陥ってて、龍園くんは荒れてるみたい」
「それは誰からの情報なんだ?」
「Dクラスの友達だよ」
櫛田はよく敵なのに友人関係を築けるよな。
そことおっぱいだけは尊敬する。
「ちなみに男子か?」
「そうだよ。……もしかして嫉妬してる?」
櫛田がにやにやしながら訊ねた。
「まさか。クラスの内情を教えてくれるとしたら櫛田にメロメロの男子かと思っただけだ」
「……ふーん。確かに私に好意を抱いてる男子だけど」
「悪女だな」
「上里くんには言われたくないかな」
「なんでだよ」
「だって二人も退学者を出せてるわけだし」
それは勉強を疎かにしたDクラスの生徒たちが悪いのではないだろうか。
それに特別試験だし退学者が出るのは仕方ない。
「もしかして退学した生徒は友達だったか?」
「そうだよ。今日までだけどね」
「あっさりしてるな」
「だって退学したら二度と会うこともないだろうし」
この学校は外部との連絡を遮断しているので、俺たち生徒は敷地外の家族や友人とも接触することができない。
「そうだな。利用価値のない友達なんて必要ないもんな」
「そこまでは言ってないよっ!」
「言ってないけど心の中でそう思ってるだろ」
「うっ……。そ、そうだけど……」
やっぱり櫛田は慈悲の心を持たない冷たい人間でした。
「それより龍園とは縁を切ったのか?」
「うん。さっきメッセージを送ったよ」
「荒れてるのによく送れたな」
「直接会うよりいいでしょ」
「そうだな」
直接会って協力関係の解消を申し出たら殴られそうだ。
「結局、龍園くんより、上里くんと綾小路くんの方が強者だったってことだね」
「俺はどうだろうな」
「謙遜しなくていいと思うよ。実際、龍園くんは上里くんに連敗してるわけだし」
それは原作知識があったからだ。俺が転生者じゃなければ全敗してただろう。
「……とりあえず龍園には気をつけろ」
「なんで?」
「二人も退学者を出したんだ。これからはなりふり構わず仕掛けてくるかもしれない」
「そ、それって……」
「裏切り者の櫛田を利用するかもしれないってことだ」
「わ、私を……?」
Cクラスのキーマンは鈴音、恵、櫛田、平田、俺の五人と認識されている可能性が高い。
この中で龍園が一番利用しやすいのは協力者だった櫛田だ。
「櫛田、俺の時みたいに龍園に会話とか録音されたりしてないか?」
「……多分大丈夫だと思う。証拠を残すことはしてないから」
「俺の時は残してたけど」
「あ、あれはっ……!」
櫛田って思ったより感情的だからな。まだ高1の女子だから仕方ないけど。
「悪い。証拠がないなら大丈夫か」
「うん。連絡も捨てアドで取ってたから」
「なるほど」
連絡の取り方は綾小路と恵と同じだな。
俺は椎名と普通にメッセージのやり取りしてるけど大丈夫だろうか……。心配になってきた。
「あとは監視カメラがないところで一人で行動しないことだな」
「え、そこまでする必要あるの……?」
「ある。龍園が女子にも容赦ないことは知ってるだろ?」
「そうだけど……」
もしかしたら櫛田が俺に協力していたことがばれるかもしれない。
そうしたら龍園の怒りは櫛田に向くことになるだろう。
自分を利用した櫛田に制裁を加える可能性が高い。
「……わかった。気をつける」
「ああ。何かあったら綾小路か三宅を頼るんだ」
「そこは俺を頼れって言うところじゃないかな?」
「だって俺、喧嘩弱いし。そもそもしたことないし」
「そ、そうなんだ……」
暴力では俺が龍園に勝てないことに絶対の自信を持っている。
「でも女子供には勝てる自信はあるぞ」
「最低だよ!」
鈴音と伊吹には勝てないけどね。武術嗜んでる人に勝てるわけない。
「上里くんって将来DV夫になりそうだよね」
「おいやめろ」
「私にけっこうひどいこと言うよね。……もしかして私って精神的DVを受けてるのかな?」
「だからやめろって」
俺が手をあげるのは、合意の上でのプレイのみだ。
「冗談だよ。上里くんの困った顔が見たくてつい意地悪しちゃった。ごめんね」
クスクス笑いながら謝る櫛田。
オナペット
「そんな怒らないでよ」
櫛田を睨んでると俺の隣に移動して腕に抱き着いてきた。
「これで許してくれる?」
「ブレザー超しじゃ感触がいまいちだ」
「……え?」
「俺を満足させたいなら生じゃないと駄目だ」
「な、生っ……!?」
愛里、帆波、長谷部の極上のおっぱいを生で味わってきた俺に櫛田のブレザー越しのおっぱいじゃ満足できるわけがなかった。
「変態っ!」
「胸を押し付けてる櫛田には言われたくないんだけど」
「う、うるさいっ! 本当に上里くんは変態だよっ!」
ぽかぽか左腕を殴ってくる。
自分から攻めておいて、恥じらって暴力行為に走るのはやめてほしい。
「櫛田も将来DV妻になりそうだよな」
「なんでよっ!?」
「俺をよく殴るから」
「それは上里くんがいけないんでしょ!」
「でも暴力はよくない。もう少し他人を思いやる気持ちを持ったほうがいいぞ」
「~~~~~~っ!」
櫛田は顔を真っ赤にして殴るのを止めた。
きっと心の中で俺を罵倒してるんだろうな。
「それより綾小路から指示されてないのか?」
「されてないよ!」
大声で返答をする櫛田。
顔には憤激の色が漲っているままだ。
「そっか。俺もあれから何も指示されてないんだよな」
「私はしばらくは上里くんの言うことを聞くように言われたけど」
「そうなのか……」
まさか綾小路はこのままフェードアウトするつもりじゃないだろうな。
するなら龍園を倒してからにしてくれ。
「それじゃ用も済んだしそろそろ帰るから」
「ああ。何かあったら言ってくれよ。話だけ聞くから」
「聞くだけじゃなくて助けてよ!」
だって龍園の残りの武器は暴力だけじゃん。暴力は俺の分野じゃないし。
「……まぁ、善処する」
「する気ないよね?」
「どうだろうな」
「はぁ……もういいや」
一応お客さんなので玄関まで見送ることにした。
「それじゃ」
「またな」
櫛田はドアを開け、数秒固まると踵を返し、俺に抱き着いてきた。
「…………は?」
「おやすみ!」
櫛田はそう言うと、すぐに離れて帰っていった。
「……何だったんだ?」
これもハニートラップだろうか。確かにおっぱいの感触は素晴らしかったが、別れ際にすることでもあるまい。
だが直後に、櫛田が抱き着いた理由がわかった。
ドアが閉まるとすぐにインターフォンが鳴った。
櫛田が忘れ物でもしたのかと思い、ドアを開けると買い物袋を持った恵が立っていた。
「……ど、どうした?」
「ちょっとあんたに話があって。上がっていい?」
「おう」
櫛田と入れ替わるように家に来た恵。
櫛田は恵をからかうために俺に抱き着いたのだろう。
おそらく櫛田は恵が俺に好意を持っていることに気づいてる。
「櫛田さんと会ってたんだ」
恵は玄関で立ったまま呟くように訊ねた。
「ああ」
「なんの話してたわけ?」
「他愛のない話だよ。恵には関係のないくだらない内容だ」
龍園やDクラスのことなので、あまり恵に関わらせたくない。
「なにそれ。あたし協力者なのに教えてくれないんだ」
「本当に関係のない話なんだよ」
「ふーん。あたしに言えないことなんじゃないの?」
「…………え?」
☆☆☆
歩夢の部屋に来たらとんでもないものを見てしまった。
櫛田さんが歩夢に抱き着いていた。
まるであたしに見せびらかすように。
――――ううん、絶対そうだ。
だって櫛田さんはあたしの存在に気がついてた。
その証拠に、すれ違い際にあたしを見て鼻で笑ってた。
ムカつく。
歩夢は自分の男だってアピールしたつもりなの?
馬鹿じゃないの。
あたしだって歩夢と抱き合ったし。
むしろ歩夢からあたしに迫ってきたし。
せっかくいい気分だったのに、櫛田さんのせいで最悪な気分になってしまった。
歩夢も歩夢だ。
櫛田さんと何を話してたのか教えてくれない。
あたしには関係ない話だって。
他愛のない話なら教えてくれたっていいじゃん。
駄目だ。
また歩夢にきつく当たってしまいそうだ。
もし言いすぎちゃったら歩夢に嫌われるかもしれない。
駄目だわかってるのに、あたしの口は止まらない。
「あたしに言えないことなんじゃないの?」
「…………え?」
「もしかして……櫛田さんとも関係を持ってるわけ?」
なんてことを訊いちゃうのあたしは……。
自分から傷つきにいって馬鹿みたいだ……。
「櫛田とは何でもない」
「……本当に?」
「本当だ」
あたしってしつこい女だ。
歩夢が否定してるんだから信じてあげればいいじゃん。
絶対面倒な女だって思われてるよ……。
「あ、っそ。別に櫛田さんとやっててもいいけどね」
嘘。全然よくない。
これ以上あたし以外の女と関係を持ってほしくない。
「信じてないな」
「当たり前でしょ。歩夢は女たらしなんだから」
きっと今のあたしはきつい表情してるんだろうな。
こんな性格だから虐められていたのに。
あたしって全然成長してないんだ……。
「俺をディスりに来ただけなら帰ってくれない?」
「帰らないわよ!」
「えー……」
歩夢がすごく困った顔をしてる。
当たり前だよね。
こんなヒステリックな女を相手にしてたら、そんな顔になるわよね。
「あのさ、本当に櫛田とは何でもないんだって」
「……」
「……わかった。ちゃんと話すから上がってくれ」
「……ここでいい」
「わかった」
歩夢は一呼吸を置いて、語りだした。
櫛田さんがクラスの裏切り者だったこと。自白の音声データで櫛田さんを脅して利用していること。先ほどはこれからのことについて話し合っていたことを教えてくれた。
「櫛田さんが裏切り者だったんだ……」
「ああ。このことは誰にも言うなよ」
「い、言わないわよ……」
「このことは俺しか知らないんだ」
「そ、そんなこと……あたしに言ってよかったわけ……?」
「そりゃ恵を信用してるから」
「っ……!」
歩夢のその言葉を聞いて、あたしは胸を撃ち抜かれた感覚に陥った。
あたしを信用してくれてる。
歩夢しか知らないことを、あたしに教えてくれた。
堀北さんでもなく、佐倉さんでもなく、一之瀬さんでもなく、橘先輩でもなく、長谷部さんでもなく、あたしに教えてくれたんだ。
そっか。
あたしって歩夢に信用されてるんだ。
あたしが歩夢に尽くしてきたことは無駄じゃなかった。
ちゃんと歩夢に伝わってたんだ。
「ふ、ふーん。あたしを信用してるわけね」
「ああ。これは俺と恵だけの秘密だ」
「う、うんっ! うんっ……!」
やばい。
心臓がバクバクいってる。
「おい大丈夫か? 息苦しそうだけど」
「大丈夫っ! 大丈夫だから!」
あたし単純すぎるでしょ。
歩夢の言葉に一喜一憂しすぎだから。
でも仕方ないよね。
だってそれだけ歩夢のことが好きなんだもん。
「それより、夕食済ませてたりする?」
「いや、これからだけど」
「それじゃあたしが夕食作ってあげる」
「え……?」
「お邪魔します」
「あ、おいっ……」
今日はテスト勉強を見てくれたお礼に歩夢に手料理を振る舞うつもりだった。
だからあたしはスーパーで買い物をして歩夢の部屋に来たのだ。
今思うと前もって言ったほうがよかったかも。
今回は櫛田さんが帰った後だったからよかったけど、ほかの女の子と鉢合わせしたら修羅場になってたかもしれない。
しかもあたしは洋介くんの彼女だと思われている。
次からは前もって歩夢に連絡しよう。
「エプロン借りるから」
「……お前って料理できるの?」
「出来るわよ!」
本当歩夢って失礼なところがある。
あたしは両親が共働きだったので、小学生の頃から自分で夕食を作っていた。
そういえば中学の時にいじめっ子たちに弁当を作ってくるよう言われて、作って学校に持ってったっけ。
結局、あたしの目の前でトイレに捨てられて、食べさせられたわけだけど。
「あたし、こう見えて料理得意だから」
「そうなのか」
「歩夢は座って待ってて」
「はい」
家族以外に料理を作るのは中学以来だ。
きっと歩夢は美味しいって言ってくれるんだろうな。
そのままあたしも美味しく頂いてくれないかな。
もしくは調理中に襲ってくれてもいいや。
なんの雑誌だったか忘れちゃったけど、制服にエプロンって男子が興奮する格好だって書いてあった。
「あ、歩夢」
「なんだ?」
「なんでもないっ!」
歩夢が襲ってくる気配はなし。
こうなったらあたしから迫ったほうがいいのかな?
でも初めては歩夢からのほうがいい。
多少強引でもいいからあたしを押し倒してほしい。
歩夢にいつ押し倒されていいように毎日下着に気を遣ってるんだから。
だから早くあたしを犯してよ歩夢。
☆☆☆
恵が上機嫌に夕食を作っている。しかも制服にエプロン姿で。
正直襲いたくてたまらない。
でもまだ平田の彼女という立場なので襲うわけにはいかない。
それより櫛田に口止めをしなければ。
もし恵が俺に好意を持っていることがみんなに知られれば、恵の立場が危うくなってしまう。
「歩夢、料理できたから一緒に運んでくれない?」
「わかった」
恵が作った夕食は意外にもがっちり和食だった。豚の生姜焼き、大根サラダ、きゅうりのハム巻き、味噌汁、ご飯の献立で香ばしい香りを漂わせている。
「いただきます」
「ん」
「……美味しい」
「ほ、ほんとっ!?」
「ああ」
恵が料理が上手いのは本当だった。味付けも俺好みだった。これは鈴音といい勝負かもしれない。
「よかったぁ……」
「これだけ美味しいなら毎日食べても飽きなさそうだな」
「そ、そうでしょっ……!」
なんか五つ子の二女とダブって見えたぞ。
おっぱいの大きさは全然違うけど。
恵は終始俺の食べる姿をにこにこしながら見つめていた。
見つめられながら食べるの恥ずかしいんだけど、恵の嬉しそうな顔を壊したくなかったので、視線に耐えながら食べ終えた。
食べ終えると俺たちは一緒に洗い物をした。
やけに恵の距離が近かったので、俺からくっついたら、可愛い悲鳴を上げて皿を落としてしまった。
本当に可愛いやつめ。
洗い物を終えた俺たちは他愛もない話をして時間を潰した。
恵が時折もの欲しそうな目を向けてきたが、平田と別れたことになるまでは抱くつもりはないので無視した。
ただ何もしないのもかわいそうなので、別れ際に軽く抱きしめた。
すると恵も俺を抱きしめてきた。
10分ほど抱きしめあって、恵は帰っていった。
そして就寝する5分前。
恵からメッセージが届いた。
内容は簡潔に書かれていた。
明日、平田と別れる、と。
櫛田って関係を持ったらほかのヒロインに挑発しまくりそう
どちらを次に投稿するか(両方投稿する予定です)
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