「うぁー…………」
頭を軽く振りつつ小さくうめき声を漏らす。
含み笑いでウキウキと歩き始めたのは良かったものの、代わり映えのしない石造りの通路を一人歩いているだけでそのテンションが維持できる筈も無く。司祭さんとの行為の余韻が醒めてからは微妙に恥ずかしくなってしまった俺である。
それにしても、最近は湧き上がる高揚感に自分を抑えられない時が多いように思う。確かにここしばらく地上の世界でのあれこれに期待してウキウキはしてはいる。でも……なんだろうね、これは。こちらを殺しにかかってきている相手と普通に戦える事を考えれば、悪魔である事による精神的な強さのようなものはエロ方面にしか有効ではないって訳でも無いと思うのだけれど。
少しだけ悩みながら通りがかったいつもの溜まり場。僅かな違和感に上を見上げると、天井の隅に姐御のコウモリがぶら下がっているのを発見した。このコウモリは厳密には生き物ではないので気配が小さく、動かないでいる時は非常に見つけ辛い。姐御との繋がりが無かったら見落としていたかも知れなかった。
「姐御、今ちょっといいですか?」
丁度良いので眷属のコウモリを通して声をかけてみる。姐御達と別れてから、片付けや司祭さんとにゃんにゃんしていたのを踏まえると一眠りして休まる位の時間はもう経過している頃合である。とは言え、あくまでも仮眠程度でしかないし、まだ眠っている可能性もあった。
「……ン、何か用かしら」
こちらを向いているコウモリに姐御の気配が強まる感覚があり、ややあって気だるげな声が響いた。もしかして起こしちゃったかな?
「さっきの宴会で言っていた、外に行ってくるという話を具体的なものにしておきたいと思いまして」
「話……? あぁ、そんな事を言ってたわね」
って、忘れてたんですかっ!? そもそもハーフちゃんとヤらせたのだってそこからだったのに。
「良いわ、部屋まで来なさい」
内心ツッコミを入れていれば続けてそんな指令を飛ばしてくる姐御。許可が得られたので、手早く転移の術式を展開する。意識すると何となく姐御やハーフちゃんの場所もわかるし、そう遠い距離でもない。転移魔法にも慣れておきたいから、面倒な事はさっさと済ませてしまおう。
……◇……◆……◇……
「あ、きゃっ」
転移を終えるとそんな声が聞こえた。閉じていた目蓋を開くと正面にちょっと驚いた様子の姐御が座っている。
「もう転移魔法を試しているのね。どう?」
「わわ、わわわ……」
ハーフちゃんは何を騒いでいるんだろうか。壁際の机の椅子に腰掛けている姐御の声を聞きながらぐるりと見回してみれば、背後にあるベッドの向こう側にローブを抱えて顔を赤くしているハーフちゃんの姿があった。
ああ……着替え中だったのね。姐御は気にしなさそうだけど、女性の部屋にノックも無しに訪れるのはデリカシーに欠けていたかな。
「ええ、溜まり場からの距離程度なら余裕を持って移動できるみたいです」
まぁそれも繋がりを持った姐御やハーフちゃんが居ればこそだけど。ハーフちゃんから姐御へと向き直り、長距離の移動も基点になるものがあれば可能そうである事も伝えておく。
「それなら問題無さそうね」
「ただその、ここから出るってのは……大丈夫なんですか?」
咄嗟に着込んだと思われる前後逆の肌着に気付いたのか、後ろでまたハーフちゃんがごそごそやっている。もし今ここでバッと振り向いたらどんな反応をしてくれるかな? なんちゃって。
「エ? ……あぁ、こことの契約の事?」
一瞬だけ小首をかしげた姐御は、直ぐにこちらの言いたい内容を把握して軽く頷いた。
「あれはあくまでもここを守っている限り報酬として力を与えられるというものだから、別に買い物に出て行く位なんてこと無いわよ」
勿論出て行っている間は契約の恩恵を受けられないけどね、と続ける姐御。なんでも俺が来たばかりの頃に我らが姐御グループの前衛が不足していたのも、当時居た虎の獣人が地下での生活に飽きて出て行ってしまったからだとか何とか。
そんな話を聞きながら不意打ち気味に後ろを振り返って……うむ、平坦だ。ナニがとは言わないが、ハーフちゃんはつける必要が無いらしい。
「わっ、ひゃ」
姐御へと向き直り、聞こえるハーフちゃんの動揺した声と、どたたっと人が倒れるような音を耳にしながら軽く思考を巡らせる。
なるほど、良くある「契約でその場所に縛られる」というものとは違うようだ。そういえば一般的な魔物が召喚される時には普通に拒否権があるって前にも言っていた。思ったよりも被雇用者側の権利は保証されているらしい。
「ふふ…………っ! その、貴方も、ここから完全に居なくなるつもりでは無いんでしょう?」
ハーフちゃんの様子を見て軽く笑みを浮かべている姐御へ顔を向けたまま無言で記憶を確認していると、何かに気が付いた姐御が顔色を変えて早口にそう問いかけてきた。微妙に深刻そうな様子でじっとこちらを見つめてくる視線を受け止めて口を開く。
「はいそれは、まぁ……姐御にはお世話になってしますし。ここも気に入ってますからね」
薄暗く静かで、空腹になる事もない上、一人で居ても人に化けてさえいればいきなり攻撃を受ける事もほとんど無い。加えて人間を襲うという悪魔的な意味での食事も有利な条件下で進める事ができるし。さらに姐御や呪術師ちゃん、盗賊さんといった女のコ達とアレやコレやナニをする事も可能とくれば拠点には申し分ないのだ。これで更に若い女のコ達がわんさか来てくれれば最高だったのに。……ああ、でも、自分用のベッドはどうにかして調達したいかな。
「そぅ……なら、いいわ」
こちらの返答を聞いて、姐御は少しだけ硬くなっていた表情を緩めた。
「……着替えを覗くなんて、酷いです」
外へ行く件に関して問題無く話が通った事にほっと一息ついていれば、ようやく身だしなみを整え終わってトコトコと隣にやってきたハーフちゃんが頬を膨らませてそんな事を言ってきた。
ぶつぶつとデリカシーがどうのと言っているけれど、さっきは着替えの途中でローブが絡まって転んじゃってたし。まぁ多少の小言は甘んじて受けよう。こうしてカワイイ様子も見れたしね!
「ア、そういえば」
そうして、ハーフちゃんを会話に加えて調達する品のリクエストなんかをしばらく話し合っている最中のこと。姐御がふと何かを思い出したように言葉を発した。
「この前の、このコと一緒に居た女はどうしたの?」
隣で控えていたハーフちゃんがピクリと身じろぎする。司祭さんと彼女は同じパーティの仲間だった筈だから、そりゃあ現在は人間やめちゃってたとしても気になるよね。
「彼女なら上手く処理が進んだんで後で外へ帰して、町で行動する時の役に立ってもらおうかなと」
規律の神という人の社会において強い影響力を持っている神殿の、そこそこ上の地位にあるっぽい司祭さんだ。何かと信用が必要な行動をする際に良い後ろ盾となってくれるだろう。
「処理……ですか?」
「うん、といっても怪我をさせたりなんかはしていないよ。 ちょっと"仲良く"なっただけさ」
言葉が悪かったのか不安げな表情で問いかけてくるハーフちゃんを安心させるように微笑んでおく。司祭さんは初めてではなかったので、そういう意味でもはっきりと怪我はさせていないと言える。腰が筋肉痛に、とかにはなっている可能性はあるけども。
「仲良く? ……あっ。 エミリアさんも、なんですね」
何故か顔を赤くしたハーフちゃんから半眼でじっとりとした視線を向けられた。解せぬ。いやまぁ言いたい事は解るけども、なんだかなー。同じような事になった姐御は女性だし、ハーフちゃんにとって俺がはぢめての男性になる訳だけど……あー、んー、イイネ! 別に親密な異性と思われていても悪い気はしないので放っておこう。
「ふぅん……ま、淫魔だしねぇ。そこは仕方ないわよ」
生暖かい目でこちらを見ながら姐御がそんな事を言ってくる。
流石は姐御、懐が深いのか種族的な価値観によるものか解らないがエロには寛大である。ハーフちゃんも時間が経てばこういう風にドライな考えになるのかな? うーむ……それはそれで、少し寂しいかも知れない。女のコが初心な反応をしてくれるのも嬉しいというか美味しいというか。
「それで、貴方は何時出発するのかしら」
アホな事を考えていると姐御から質問が来た。
「そうですねー。それじゃあ……」
途中で言葉を切って予定のあれこれを考えてみる。
"再生"が始まっている為、警備員としての仕事はしばらく無い。というかハーフちゃんが加入しているから俺が抜けても十分な戦力を確保できている気がする。あれ? もしかして俺お役御免? チラりと姐御の表情を伺うも、普段と変わらない表情で返事を待っているだけだった。うん、さっきも居なくなる事を心配するようなそぶりを見せていたし、大丈夫……と思っておこう。
まぁそれはさて置き、出発するのに必要な人として振舞う偽装用の荷物の準備は前にやった片付けの際に終わらせてある。これは普段から持ち歩いているものとそう変わらないので手間は掛からなかった。捕虜になってる司祭さんは帰還の巻物を自分で使ってもらえば直ぐにでも帰せるだろう。あとは……少しの間、遠い彼方に想いを馳せてから、決めた。
「明後日、いや明々後日くらいに出発しようかと思います」
……◇……◆……◇……
「ふー」
転移魔法を使用する事へ向けていた集中を解いて、一つ息を吐いた。いやはや、案外なんとかなるもんだなぁ。
そんなこんなで、暗示を刷り込んだ司祭さんに帰還の巻物を使ってもらい地上へ帰らせたのが昨日の事。ルートの確認もかねてやってきた"再生"中の浅い階層は、うねるような高濃度の真っ黒なナニカが溢れまくりで、普通の人間では物理的な地形の変化で壁に埋まる以外にも生き物として色々ヤバ気な影響がありそうなレベルの結構な危険地帯になっていた。"再生"期間中に入ってくる人間が居ないのも頷けるというものである。
俺は悪魔だからなのか、この中をうろついていても特に問題ないようだ。そういえば姐御に召喚される前に居たよくわからない真っ黒な空間はもっとねっとり濃厚な感じだった。あれが大丈夫だったのだから恐らくどれだけ真っ黒なナニカに晒されても平気なのだろうか。まぁ人間から悪魔に変わっていた事が大丈夫だと言えるのなら、だけども。
それはともかくとして、アクセスコードを持った俺が近くに居ると安全の為か付近の"再生"活動が一時停止されるようなので、構造体が活発になっているエリアであっても危険を感じる事もなく壁抜け目的の短距離転移を繰り返して直線的に時間を掛けずここまでやって来れていた。
「さて、と」
頭を軽く振って、肉体の芯に残る耳鳴りのような力の余韻を振り払い一つ深呼吸。うむ、途中で見かけたスライムに異臭を放つ毛皮を投げこんで処分を終えた事もあり、すっきりといい気分だ。
現在地は浅い階層、地下一階の外れの外れ、人類側に未踏査区域と呼ばれている一帯である。この辺りは壁に大きい妙な形の装飾やら何に使われていたのか良く解らない凹凸やらが付いていたりと、自分の部屋やたまり場のある中階層とも呪術師ちゃんがいる浅い階層の奥地とも随分と異なる造りなのが見て取れる。
「うーん、この先だったかな」
場所の目安となる通路の幅や壁の装飾の違いに目をやり、少々あやふやな記憶を辿って独り言を呟く。それから周囲の真っ黒なナニカを介して行く手の地形を確認しながら歩き出した。
目指しているのは以前チェックしておいた自然の侵食によって出来たと思われる外部への開口部である。
地上まで直接転移魔法で行けない事も無いだろうけど、流石にどうなっているのか解らない場所にいきなり行くのは危険だと思う。また探索者が持っていた帰還の巻物の出口に設定されている"正面玄関"前の基準点には魔物の出現を警戒する為の詰め所があるらしく、常駐している兵士に目撃される可能性が出てくる。そうして現れたのがたとえば司祭さんのような社会的地位のある人なら良いかも知れない。でも人間達の言う"組み換え"が始まって以来立ち入り禁止となっていて、無人となっている筈の迷宮から見慣れない魔法使いが一人だけで出てくるとか怪しすぎである。法を何とも思っていないゴロツキか、あるいは人に化けている魔物か、とにかく疑って下さいと言っているようなものだ。
なので手持ちの巻物を使って"正面玄関"に出る事は、まず最初に候補から外された。どこか目立たない場所へ帰還可能な巻物なんてものが有れば良いけれど、生憎手元にあるのは"正面玄関"の外へ戻る量産品だけ。次にゴロツキ達が利用するらしい"裏口"も、もし後ろ暗い連中が周囲に残っていて目を付けられたりすると面倒なので却下。
流石に未だ発見されていない未知の出入り口を探すのは面倒なので、そうなると残るはこの先の開口部しかない。
そんな理由から、この自然の崩落によって出来たと思われる開口部へやってきた、訳だけ……ど…………
「……」
怪しい。
開口部……と言うか亀裂っぽいそこは以前軽く確認した時と変わらず、円形の水溜りのある空間の中央付近の天井に存在している。最初に来た時には構造体内部の地形の大まかな把握に重点を置いていた事もあって「へーこういう場所もあるのかー」で、済ませていた。しかし良く考えてみれば、数年に一度の周期で訪れる"再生"があるというのに、自然の浸食で壊れるなんて事があるんだろうか。確かに広いホールのような高い天井には今も一筋の亀裂(仮)が存在しては、いる。でもって丁度昼ごろという事もあり、そこからは太陽のものと思しき光が差し込んでいる、のだが。真っ黒なナニカにアクセスしながらやってきたから解る……ここの機能は死んでいない。壊れて風化している訳では無いのだ。
一体どういう事なんだろう。
疑問を抱きつつも水溜りの上を魔法でふよふよと歩く程度の速度で浮遊しながら光の差し込んでいる亀裂(仮)へと向かい、久しぶりに感じる日差しに目を細めながらその断面部分を詳しく観察してみる。やはりと言うか、風雨によって浸食されているように見えたのは上から落ちて端っこに詰まった岩や泥が開口部の表面上の輪郭を自然なものっぽい形に縁取り、そこにコケやシダっぽい植物が生えているからであるようだ。亀裂のように見えた部分の地肌そのものは、どうやら綺麗な面構成のままで傷んでいる様子は無かった。
んーでも……まぁ、いいか!
付近をざっと調べた所で何気に亀裂の真下にある池と呼べる規模の大きな水溜りの何割かが全自動掃除機であるスライムで構成されている事に気づいたけど、俺に危険はなさそうなので気にしない。そもそも構造体に関しては調べようがない謎が多すぎなので、ある程度はスルーしないとやってられない。
そんな事より外だ! そして若い女のコ!! ついでにおいしい食べ物! あと酒! 逸る気持ちのままに光の差し込んでいる亀裂(仮)を通り抜ける。
「ぅヒッ?!」
さぁ地上だ、とルンルン気分で亀裂を抜け上に目を向けた所で、大きく丸い瞳と視線が交錯した。
一瞬の動揺で浮遊の魔法が乱れて落っこちかけ――っとと、危ない…………よし、大丈夫。内心あたふたしつつ必死に術式を立て直して、改めて頭上に目を向ける。そこに居たのは、特に何をするでもなくこちらをじっと見ている大きな蜘蛛。
……でかい、もう凄くデカい。蜘蛛苦手だってのに、よりによって胴体だけで乗用車サイズのが居るとは流石ファンタジー。感覚的には一応彼?も警備員扱いらしいので襲ってくる様子は無い。でもホント勘弁して欲しい。とっとと上がってしまおうと、開口部を抜けた先の縦穴の日陰になっている側をビクビクしながら上昇していく。
一番広い所で2メートル弱ほどの幅でしか開いていない開口部とは異なり、その上の縦穴部分の直径は意外に大きかった。ドンと鎮座している大蜘蛛から目を逸らしつつぐるりと見回せば……ざっと10メートル程はあるだろうか。上に見える円形に切り取られた青空の端には樹木の枝が伸びているので、森の中に開いた丸く深い縦穴(大蜘蛛在住)の底に亀裂のように開口部が開いているという感じの地形なのかな。
「――――」
ふと下に目を向ければ、襲いかかってくる事はなくとも動くものを追う習性をもっているようで、大蜘蛛は巨体を感じさせない滑らかな足運びでこちらへ向き直り、いくつもある丸い瞳に浮遊する俺の姿を映し続けていた。さっきは逆光だったので当社比3倍くらい恐ろしげに見えたけれど、こうして上から見下ろす分には意外と可愛く……見えないな。
むしろよりはっきりと細部が確認できてキモい、こっち見んな!
……◇……◆……◇……
かさ、かさり。午後の日差しの中で歩みを進めるごとに足元で落ち葉が微かな音を立てていく。
地下に広がる謎の巨大な構造体。その上の地表部分には結構な広さの森が存在していた。位置関係からすると、人間から"正面玄関"と呼ばれている場所はこの森の南の外れにあたるのだろう。
……ん、よしよし。
人の手の入っていない、大人が腕を回しても足りない程の太さの木々で形作られた古い森の中。少し立ち止まって、意識を遠くへと向けて、確認してからまた歩き出す。
まさか構造体の敷地が地上まで含んでいるとは思わなかった。どうやらここも警備員の活動範囲内となる扱いのようで、今の所はまだ力も問題無く供給されている。穴に居た大蜘蛛と同種と思われる人間サイズの個体が木々の隙間からこちらをじっと見ているのを視界に入れないようにしつつ歩いていく。うん、蜘蛛は苦手だけど同じ警備員という事で警戒する必要は無い、ないったら無い。
ふふ……いやー、それにしても愉しみだ。
久しぶりに……いや、この世界だと初めてになるかな? 見上げる空は記憶にあるものよりも鮮やかな色で、暗い地下に慣れた目には少し眩しく感じられた。
……ターゲット確認。
根元にキノコが生えているような木々が立ち並び、下草が多くて見通しが悪い場所。地下で獣人達と6足獣がそうであったように警備員の種族や能力ごとに活動範囲が区切られているのか、先ほどまでの蜘蛛達のテリトリーからは少し離れた周囲に魔物の気配が感じられない、そんな一角。
ガサリ、と気づいてもらう為に意図的に大きく音を立てて目標の後ろへ降り立つ。すると彼女は、腰の短剣の柄に手をかけながら振り返り、こちらのローブ姿を確認すると鋭い声を投げかけてきた。
「何者です!」
そう、森へ薬草を摘みに来ていた神官ちゃんだ。
通常であれば危険の少ない森の入り口の付近で採取を済ませる筈が"どういう訳"か今日に限って、まるで"何かに呼ばれている"かのように、こんな奥地まで入ってきてしまったのである。森も司る神に仕えているという職業上、彼女は森歩きには慣れているから道に迷う事は無いのにねぇ。ホント、なんでだろうねー? ふしぎだなー? ひひひひ。
膝下までのブーツにすらりとした脚を覆う厚手のズボン。ボタンを下から上まできっちり留めてある長袖のシャツと、それを内側から押し上げて良い感じの曲線を作り出しているふくらみ。きゅっと形の良いお尻を隠す程度の長さの外套。摘んだ薬草を入れてある籠に、背中の弓と矢筒。自然の中を歩く為だろう、胸が無ければ男装のようにも見える活動的な装備に身を包んだ神官ちゃん。
最初に会った時の清楚なローブ姿とはまた異なる魅力を漂わせる立ち姿に視線を這わせながら口を開く。
「久しぶりだね」
「……? その……どこかでお会いしたでしょうか?」
…………ん、あれ。もしかして覚えてないのかな? 二人であんなに衝撃的なコトをしたのに?
馴れ馴れしいけれど一応は友好的に声をかけたこちらの様子にある程度警戒を緩めつつ、しかし怪訝な顔で他人行儀な反応を返す神官ちゃん。その様子にこちらも首をかしげる。どういう事なのか確認しようと、改めて彼女の魂へと意識を繋げてみれば……
「……んっ……」
――あちゃー、なるほどね。
どうやら神官ちゃんが帰ってから魂の繋がりを通して送りつけていた「俺の事を人に知られないようにする」という暗示が色々とおかしな事になって、関連した記憶を"人"である神官ちゃん自身も思い出せなくなっているようである。あの時は魔法的なものの操作に慣れてなかったし、はぢめての食事を愉しんだ後でテンションおかしかったからなあ。まいった、まいった、これじゃ感動の再会とはいかないか。
「っ?! ……?」
なんて事を考えていると、神官ちゃんが不思議そうな表情を浮かべてきょろきょろと周囲を見回していた。
んん? まだナニも……と思ったけど、あぁ、そういえば神官ちゃんは魂の気配に敏感なコだっけ。あの時も術式で魂をまさぐられてビビッと何か感じている様子だったな。
「ええ、以前迷宮で"イロイロと"お世話になったんですが、その時の忘れ物を返しにきたんですよ」
ふむ……繋がりを通して魂を弄られた副作用なのか少し顔を赤くしているけど、もしかして気持ち良いんだろうか。……ちょっと試してみよう。
「短い間のコトでしたから、忘れてしまっているのかも知れませんね」
神官ちゃんに話しながら再びその魂へと集中して、さわさわと撫でるような強弱をつけて術式を動かしてみる。
「なるほど、そうでしたか。 失礼ですが、忘れ物というのはどういった…………ッ! ぅぁ……」
こんな森の奥深くで迷宮での忘れ物を渡しに来たと言われる不自然さに気づく事ができないまま、会話の途中にヒクンと身をすくませる神官ちゃん。おぉ、思っていたよりも強い刺激が伝わっているみたいだ、これは面白い。
己の存在に直接触れられる感覚にもぢもぢしている神官ちゃんの様子を愉しみながら背中の荷物を降ろして、持ってきていた彼女の装備品を取り出す。
「ぇ、あ。 それ、は……」
真っ黒に染まったチェインメイルに視線を向けて目を見開いた神官ちゃんが何事かを呟く。
「あれは、夢……じゃ…………ッ!?」
そして急に表情を強張らせると唐突に背負った弓や薬草の入ったかごを投げ捨てて、身を翻して走り出した。
おや、もしかして記憶が戻ったのかな? だとしたら同時に俺が悪魔である事も思い出しただろうから逃げ出してしまうのも仕方ない。
しかしまぁ、一生懸命走って翻る外套の下に見えるお尻がふりふりしているのが可愛いネ! 脚を前後に動かす事でズボンの布地が突っ張って、左右交互に浮き上がる丸みのある形が、なんというか、こう……グっとくる良い感じだ。そんな後ろ姿を堪能しながら、茂みの奥へと消えていく神官ちゃんを見送った。
こんな風にのんびりしていれば、普通だったら完全に見失ってしまうけれど……俺と彼女ではそうならない。少しすると、右手側の茂みの奥からがさがさと音がし始めて、そして――
「きゃっ!」
つんのめる様にして腕の中に飛び込んできた神官ちゃんの柔らかい肉体をしっかりと受け止めてあげた。
「そんな!? 何故っ……」
ふふふふふ、既にもう神官ちゃんとは魂レベルで繋がっているんだ。こうして心の奥の部分から干渉してあげれば、神官ちゃん自身が意識していなくても自然と戻って来てしまう。
よく言われる「自分からは逃げられない」って奴だね! ははっ。
「急に走り出したりして、何かありましたか?」
なりふり構わず急に走ったことで少し息が荒い神官ちゃんを抱きしめたまま、何食わぬ顔で話しかける。
「ぁ、ええと……急に。その……あれ、私……」
神官ちゃんは問いかけの内容に対して戸惑った様子で曖昧に言葉を濁した。
ふむ……この反応を見るに、さっきは逃げちゃったけど完全に記憶を思い出したって訳でもないのかな。腕の中の神官ちゃんは身体を捩って抜け出そうとするそぶりを見せている。でも、これは悪魔に対してというよりは、あくまでも異性に抱きすくめられている事に対する拒絶という所だろう。
まぁ記憶が戻っていなくても、これからする事にはあんまり関係ない。というかむしろ、もう一度はぢめてのような反応を愉しめる分美味しいんじゃなかろうか。
そんな事を思いながら神官ちゃんの肉体に回した腕をずり下げていって、形の良いお尻を軽く撫でる。
「ひゃ……あっ、あの、放してくれませんか」
より激しくこちらの腕から逃れようと動く神官ちゃん。その汗ばんだ肌から昇る女のコの匂いに衝動が高まっていく。くくっ……こんな素敵なコをまた味わえるなんて、いやぁ、ホント最高だね!
「どうしてです?」
問いかけながら、服に隠された若さ溢れる肢体の柔らかさを確かめるようにして手を這わせる。簡単に腕を回せてしまうほっそりとした腰のくびれを手前に引けば、神官ちゃんのふくらみがこちらの胸へと押し付けられてその柔らかさが布越しに伝わってきた。
「どうしてって、こんな……ゃ、ふ、ふしだらなっ」
「ふしだら、ね」
ぐいぐいとこちらを押しのけようとしながらも、走ってきた事以外の原因で頬の赤みを濃くする神官ちゃん。ふふ、一体どういった行為を連想したんだろうね? これは是非とも聞いてみないといけないな。
「こういうコトが、どういう意味なのか……知っているのですか?」
驚きと混乱、羞恥に揺れる神官ちゃんの瞳を見つめてそう言いながら腕の中にあった温もりをトンと軽く押しやり、手近な大木の幹へと彼女の背中を押しつける。すぐさま踏み込んでその足の間にこちらの膝を入れ、両側に腕をついて、木と自分の体で挟み込む。
「いえ、ち、違います。 そんなこと、わたしが知あッ? ……ぁ、だめ、です……」
首を小さく振り口早に否定の言葉をつのる神官ちゃんの肉体に服の上から少し荒っぽく触れていく。腰から始まり、くびれのあたりからあばら骨を経由してふくらみへ……下から押し上げるように辿りついたそこを揉みしだく。
急な展開に硬直していた神官ちゃんが今更のように手から逃れようと動いても、それは叶わない。
「へぇ? なら、これからどうなるのかも解らない、のかな?」
丁寧な人物を装っていた口調を戻し、からかいを含んだ声をかけながら むにゅむにょと手の平に伝わる感触を味わう。ん、最初に会った頃よりも少し大きくなっているような……? "女"になって成長したのかな、ふひひ。
「そうでッ……そう、です。 知りませんっ! ぅ……だ、だから、止め」
日常生活の中ではありえない近さに顔を寄せられて、何かにおびえる視線を彷徨わせながら言葉を発する神官ちゃん。その言葉の途中で……開いた唇を、唇で塞いだ。
「んぅっ? ん! んんー!」
しっとりとした潤いのある唇を舌で割り、暖かい口内へと差し入れる。異物を押し出そうとする舌を悪魔の長い舌で絡めとり、ヌメりの中でざらついた感触が微かな水音を立てて触れ合う。身を離そうと動く腰を抱き寄せて、擬似的な男と女の行為ともいえる深い口付けで神官ちゃんを侵す。
目の前にある女の汗ばんだ肌の匂いがまた鼻に触れて、地下で最初に行為をシた時の事を思い出させた。あぁ、あの時はホントに良かった……そして、今も、また、これから。
息苦しくなったのか、無駄な抵抗を続ける神官ちゃんの喉がこくりと動いて、送り込んだ唾液を飲み込んだ。
淫魔の、唾液を……
……◇……◆……◇……
「ぷあ……はぁ……あ。い、いやっ」
何故か頑なにいやらしい事など知らないと主張している神官ちゃんだけど、本当は良くない事になると解っているのだろう。とは言え、華奢な彼女がそれを拒み本気で抵抗した所で悪魔の力に敵う筈もない。
「クク、いいよ……知らないと言うなら、今みたいに教えてあげよう。 これから、キミと、キミの肉体に……ね」
こちらを押しのけようとしている両手を掴みながら魔法を行使すると、あらかじめ湿らせておいた縄が背負い袋から蛇のようにくねって現れる。そうして、蠢く縄は足から上へと神官ちゃんの肢体を這い上がり、その両腕を頭の上で交差させた形に拘束していく。
「な、これは……ほ、解きなさい!」
あっという間に腕を縛られてしまい切羽詰った声を上げる神官ちゃん。表面上は動揺していないかのように、キリリとした視線を向けてきている。けれど僅かに震える睫毛や声色が、その態度は虚勢に過ぎないという事をこちらにしっかりと伝えてきていた。
当然、そんな視線を向けられてもこちらの興奮が高まるばかりである。後は縄の残りの部分を頭上の木の枝へぐるりと回して、爪先立ちになる程度の高さに吊るしてしまえば準備完了だ。うむうむ。司祭さんを捕らえた時にやった縄を操る魔法操作を練習しておいたかいがあった。
動かす為に使っていた術式を解くと、神官ちゃんの体重がかかった縄がキシりと音をたてた。
一歩足を引いて、腕を上げて枝に吊るされた状態になった神官ちゃんの無防備な肉体をじっくりと眺める。あぁしまった、上着を脱がせてから拘束すれば良かった。とりあえず首元で固定している紐を解けば外せそうな短い外套と、後は……ズボンとブーツも脱がせちゃおうかな。
「ひっ、いや……こないで、ください……」
ねっとりと視線を肉体に這わせると、神官ちゃんはおびえた様子でふるふると身体を震わせた。捕われても抵抗を止めなかった初めての時とは異なり、既に加護が失われている神官ちゃんは今の状況に先ほどとは打って変わって気弱な様子を見せている。目じりを下げて不安げに揺れる眼差しに、なんとも悪魔や淫魔……そして男としての本能が刺激された。
「嫌がる必要は無いよ……これからするのは、むしろイイ事だからね」
そう声をかけながらスルリと軽く頬を撫でて、顔の輪郭をなぞり、ほっそりとした首元へ。手の動きを感じさせるように下へ進んで胸の前で外套を留めている紐を掴む。
「う……いけません。このような事をすれば神罰が下ります!」
「心配は要らないよ。大丈夫"だった"から」
強がりに過去形で軽く答えて紐を引けば、固定されていたみ短めのマントのような外套は重力に引かれて地面に落ちていく。ふむ、弓を扱うだけあって肩は意外にしっかりしているけれど、女のコだから肩幅は狭いんだなぁ。
「やっ、誰かっ! だれか助けてぇっ!」
そんな感想を抱きつつ短剣の鞘が付いている腰のベルトを外して、ズボンを引き下げている所で神官ちゃんが大きく声を上げた。しかしここは普通では人の入ってこない危険な森の奥、助けを呼ぶ声は誰にも届かない。
気にせずスラリとした足からブーツを引き抜いて、それから神官ちゃんの後ろに移動する。腕を吊るされて無防備な背中に寄り添い、わざとふくらみに触れるようにしながら上着のボタンを丁寧に外す。
「そんな事よりもさ、もっと気にしなければならない事があるんじゃない?」
集中力が高いのか、神官ちゃんは一つの事に気を取られると他がおろそかになる傾向があるなぁ。だからお愉しみの最中には没頭しちゃってあんなに乱れちゃうのかな? なんてね……くふふふっ。
下着を残して露出させた神官ちゃんの下半身……程よい丸みを持ったお尻に手を当てて少しの間その弾力を愉しんで、そこからわき腹をくすぐるようにしながら上へ。
ククク……さぁ、愉しい時間の始まりだ。
「……っ……て、手を、離して」
触れた時に一瞬身を固くした神官ちゃんのそんな声を聞きながら、しかし両手を止めることはしないでボタンが全て外されている上着……その影に両外側の半分だけ隠れているふくらみへと辿り着かせる。
「ぁ…………あ、やめッ?!」
ああ、柔らかい。
生地と素肌の間に滑り込ませた両手で、その幸せな重みを持ち上げるようにして、やわやわと優しく揉む。拒絶の言葉を放とうとした神官ちゃんが口を開くのに合わせて、その先端にある色づいた部分を指先でくるりと回すようになぞるとヒクンと敏感に反応した神官ちゃんの声と肉体が大きく跳ねた。
口元に笑みを浮かべながら、ふくらみの先端だけに指をかすらせて するりするりとゆっくり焦らすような速度で繰り返し触れていく。ピンポイントに敏感な場所へ走る刺激から神官ちゃんは肉体をくねらせて逃げようとするけれど……逃がしてはあげない。その動きに合わせて腕を動かして、近すぎず、遠すぎず、じわじわと追い詰めるように。
途切れる事なく続くその行為を受けて、次第に神官ちゃんの吐息が乱れ、熱を帯び始める。その頃になると、既にエロ成分を含んだ唾液を飲まされている事もあってか指で触れている部分はすっかり固くなり、ツンと立ち上がってきていた。
「……ん、はっ…………ぁ、あぁ……」
蓄積されていく刺激を堪えきれずに小さく喘ぐ神官ちゃん。くくく……この分では肉体のスイッチも入った事だろう。今度は先端を手の平で転がして、ふくらみ全体をぐにぐにと回すように捏ねながら考える。
「ふぁ…………あ……ぅ……」
人間は一年を通していつでも欲情可能な動物だ。性的な部位へ刺激を受け続ければ理性や思考とは無関係な原始的な根っこの部分で肉体の準備は整えられていってしまう。本人は意識してはいないだろう内腿をもじもじと擦りあわせている動きがそれを証明していた。そして一度肉体が欲情してしまえば、好む好まないに関わらず、次第に意識もそちらへ流されていく。
「こうされるの、気持いい?」
「ぁ、やっ……嫌、です……ッ……」
俺の声によって、それまではただ肉体へ受ける刺激だけに向いていた意識が男へ肌を許しているという現状の把握に繋がったのか、神官ちゃんは羞恥に頬を染めて顔を背けた。そんな事をしても逃げられる訳じゃないのに……ふふ、可愛いなぁ。
手の平に丁度納まる……いや、少し余る位の大きさに成長した神官ちゃんのふくらみ。若さ特有の張りと自在に形を変える柔らかさを同時に備えた曲線、中心にアクセントとして存在する先端。それにそこを念入りに可愛がってあげた時の、背中をピクンとさせて胸を突き出すようなしぐさ。女のコの感触はどれだけ堪能しても飽きない。
「そう? なら確かめてみようか」
でも、ここだけを愉しんで他を放置するのも可愛そうだ。片方の手をふくらみに残しつつ、一方の手は爪先立ちの状態で頼りなく揺れる足の間へと矛先を向ける。
「え…………だめ……待ってください。そんな」
動きに気付いた神官ちゃんが身を捩って声を上げるけれど、構う事はない。だって、もうそこは……ふふふ。少しだけ骨の浮いたわき腹をなぞるようにして手を下ろして、きゅっとしたおヘソを通り過ぎ、あっという間に目的地へ。短い旅路を終えた手に、しっとり濡れた布の感触が伝わってくる。
「もし嘘だったら……悪いコにはおしおきをしないと、ね」
「……んっ」
その場所を確かめるようにつぅっと指を縦に動かしてみれば、口を閉じた神官ちゃんの喉の奥から艶めいた微かな声が漏れた。いい感じだ、そんな神官ちゃんの様子を見やりながら布の内側へ入り込む。
濡れ濡れである。
ちゃっ、ぬちゅ……と手にヌメリを感じながら、淡い茂みの先にある泉を解すようにやんわりと捏ねる。ふくらみへと念入りに行った行為のおかげか既にべったりと湿り、それでいて生娘のようにぴたりと閉じられている神官ちゃんの女のコの部分。
「あ……そこ、はっ…………駄目、です……ぁ、触らなっ!? ……んッ、く」
でも、ここは……くく、あはははは! 中指の腹で、その奥へと続く入り口をぐっと押すようになぞって笑みを浮かべる。もう男を知っている。そして、その事を俺だけが知っている。何しろ、ふふ、他でもないこの俺が、この腕の中で震える清らかな……清らかだった娘を、"女"にしたんだから!
「ぅぁっ…………いやっ、嫌ぁ……」
5本の指を全体で楕円を描くように動かして、ぬるぬるになっている縦長の泉の表面を這いまわらせ、後ろからは俺自身でお尻の弾力をふにふにと押す。泉に感じる手から逃げようと腰を引き、しかし後ろへ下がっても背後に立つ俺の肉体に前へ押し出されて、前と後ろから挟まれ、そこから何とか逃れようとしている神官ちゃんの腰は今はまだそうでは無いけれど、欲望を求めるのに似た動きをゆらゆらと前後に繰り返している。
「嫌、かい? クク……それなら、どうしてココはこんな風になっているの?」
くりり……と、片手でふくらみのツンとした部分を摘みながら問い掛ける。
「は、ンっ…………うぅ……」
腕の中の瑞々しい肢体がピクンと強張った。
「どうして、そんなに息を乱しているんだい?」
与えられた強い刺激にくっと上を向く神官ちゃん。その髪に顔を埋めて、耳の後ろで囁く。汗の滲んだ肉体が揺れて、キシリと縄の軋む音が聞こえる。
「それに、どうしてココはこんなに……濡れているのかな?」
そして、問いかけと同時に、熱く濡れた泉の内側へ……ぬるりと指を入り込ませた。
…………■……◇……◆……◇……■…………
「ねぇ、どうして?」
執拗に繰り返される男の問いかけを、首を左右にふって拒絶する。
…………気持良いからだなんて、そんな事……言えるわけがない。
「や……離し、ん……ぬ、抜い……っ! てぇ」
恥ずかしい部分へ入り込んできた男の指が何か得体の知れない生き物のように蠢く、そのたびに。かき回された肉体の奥から熱が、奇妙な痺れが背筋を駆け上がってくる。
「ぅ…は…………く、んぅっ……」
男の吐息にうなじをくすぐられ、思わず喉の奥から漏れた、自分のどこか艶を感じさせる声。その声に、いつか見た夢の内容が脳裏をよぎった。
知らない、知らない筈なのだ。16歳で成人を迎えてからより多くの経験を積む為に始めた探索者としての生活。戯れで酒場の女性からそういった話を聞かされる事はあったが、ただ、それだけで。だからあれは夢、自分が体験した事ではない……その、筈なのに。
はぁはぁとうるさい自らの呼吸に混じって、ちゅっ、ちゅく……と小さな水音が聞こえる。
濡れていた。
自分で慰めている時よりも、ずっと酷く。この、見覚えの無い男に縛られ……望んでいない行為をされて。そして、考えることで後ろに立つ男を、男の手をより強く意識してしまう。
「ぃゃ……や、あぁ…………ン……やめて……ください」
乱れた呼吸の合間に何とか発した拒絶の声……だが、こんな声を聞かされて止めてくれる男は居ないだろう。自分でもそう思ってしまうほどに、それは鼻に掛かったように甘さを含んだ声だった。
「あぁ、わたし……こんな…………う、ぁ……」
頬が熱い、常に無いほど高ぶっている。だけどその事が……気味が悪い程、肉体に馴染んでいた。
――もの足りない、もっと激しくして欲しい。
伝わる刺激がズキン、ズキンと記憶の扉を叩く。あぁ、これはあの夢の中で受ける痛み。
「あふ…………んん……はぁ、はぁ……あぁあ……」
おかしくなってきている、そう感じた。男に触れられて反応してしまっている部分からだけではない。胸の奥、心の中からも……じわりじわりと淫らな欲望が顔を覗かせてきている。
男の指が二本に数を増やして、より深い部分へズルリと入り込……っ!
「んぁっ! あぁ……だめ…………く、んぅッ」
肉体が大きく跳ね、男の手で掴まれていない側の胸がぶるんと揺さぶられ、頭上で腕を縛っている縄からキシリと音が鳴る。女のものよりも太く長い男の指先は、深い場所の触れられる事に慣れていない部分を容赦なく擦り上げていく。ぞわりと背筋を通り過ぎる感覚に、きゅぅ、と乳首が一層固くなってしまうのが自覚できた。手足へとびりびりと痺れに似た何かが走って、動かさずには居られない。
「あぁっ……ん、くぁ…………あ、あっ! う……んんんっ」
そして、思わず上げた声でこちらの変化に気付いたのか、執拗にその部分を男の指先になぞられて。ヒクンヒクンと勝手に動き、入り込んだ異物を締め付けてしまう自分の肉体は、誤魔化しようのない程に火照り始めていた。
顔にかかる髪から、滴となった汗が下へ流れていく。
頬を回り、顎先から首へ、鎖骨へ。肌を伝う感触を追うように視線を下に向けると、胸をまさぐる男の指の間からツンと突き出した先端が目に映った。その瞬間、はしたなくも刺激を求めるように上を仰いでいたそこを、くっと摘まれて。
「あ! く、うッ…………ンん……あ、いやぁ……」
ただそれだけで、今も弄ばれている足の間の内部から、とろりといやらしい液体が垂れてしまう。私は月神殿の巫女だ、このような事は拒まなければいけない。それなのに……感じてしまうのが止まらない。キシ…キシリ、肉体が動いて、また縄が音をたてた。
変だ……指だけでこんなになるなんて、でも。
――もっと、もっと……
あぁ、熱い……もう、これ以上我慢できそうにない。一度思ってしまったら、駄目だった。気が付けば自然と腰を揺さぶって、女の中心からじんじんと響く悦びを自分から求めてしまっていた。
「イっ……んん、ぅあっ、ゃ……あぁ…………あっ」
半分ほど開いた自分の口から、あられもない声が零れている。そこに含まれたいやらしい響き……ああ確かに、自分は、欲情している。べったりと水気を含んで重くなった下着が足首へとずり落ちてしまったのが気にかからない位には、どうしようもなく。でも、でも……仕方ないではないか、男に、こんな……
「ぅンっ、く……ぁ…あぁっ! あっ……あぁ、んッ、ぃ……あっ、あ」
自分に言い訳をしている間も、ヌメリを帯びた内部はくちゅくちゅと妖しく繰り広げられる男の指使いに翻弄されていた。淫らな熱を持った肉体の芯が甘くぶるぶると震え、ぐんぐん高みへと押し上げられていく。
「あッ! あぁ……あっ……あっ、ああっ……ふぁ、あぁあ!」
そうされている事に、不思議と嫌悪感は抱かなかった。そうして、全身に満ちた欲望に逆らう事無く、そのまま――
「ぁあッ! あぁあア…………っ!!」
強く押し寄せる快感の衝撃に目を大きく開いて、夢で見た人影のように背中や足先を反り返らせて。肉体の内側に咥えこんだ男の指をぎゅうぎゅうと締め付けて……されるがままに、絶頂を迎えさせられた。