学校とは不思議な場所である。
毎朝、決まった時間に大勢の少年少女が集まってきては喧騒を作る。しかしひとたびHR、あるいは授業が始まれば廊下からは人気と音が消える。
幾度かの喧騒と静寂を繰り返し、放課後になるとまた様変わり。
あれだけいた生徒達の多くが下校し、一気にがらんとした雰囲気になる。
――『落とし物』専門の養成学校、私立柴鳳学園においてはより顕著だ。
戦闘訓練を含む身体育成と、普通高校と同等の座学教育。
二本の柱を持つここではいわゆる運動部や文化部的な部活動が殆ど行われていない。代わりに個人あるいは少人数での戦闘訓練、自習がオーソドックスな放課後の過ごし方となっているが。
グラウンドで練習する運動部の声や吹奏楽部の楽器の音、そういった『いかにも青春らしい音』が、柴鳳学園の放課後にはない。
それを寂しいと思うかどうかは、人それぞれだろう。
柴鳳学園のOGであり、現在は肩書上『教員』ということになっている彼女、鈴にとっては、この空気はむしろ懐かしさや心地よさを覚えるものだった。
この母校は「あの頃」と少しも変わっていない。
違うのは生徒と教員の顔ぶれくらいのもので、漠然とした情景でいえば何もかもが昔のままだ。
彼女が卒業してからまだたった数年なのだから、当然といえば当然かもしれないが。
変わらないでいてくれることが嬉しく、また、自分の立場が変わってしまったことを感じて少しだけ寂しい。
ちゅく、ちゅく……
そんな纏まらない思いを抱えながら、鈴は一人、昇降口で自慰に耽っていた。
「ん、はあ……っ」
下着は穿いていない。脱いだのではなくログハウスを出る時点で穿いていなかった。上もノーブラで、着衣は季節外れのロングコートだけ。そのコートにも袖は通さず肩に掛けている。
ほぼ全裸のまま玄関正面の壁に背を預け、右手で秘所を弄る。もう一方の手は剥き出しの乳房を押しつぶすように揉みながら、指の先端で乳首を擦っている。
ここに辿り着いた時点で興奮は十分、愛液も指がべっとり濡れるほどだった。
十五分か三十分か、時間をかけて一、二度の絶頂を味わった今、床にはぽたぽた落ちた水滴により水たまりができかけている。
……自慰の間、昇降口は全くの無人だったわけではない。
居残りをしていた生徒や仕事中の教員が何度か通りかかった。その度に、鈴は息を顰めるどころか指の動きを強め、羞恥と興奮のままに喘いだ。
そんな鈴に気づいた者はゼロ。
『認識疎外』――鈴自身は某猫型ロボットの秘密道具の名で呼ぶ能力によって、鈴は誰にも気づかれずにここに居る。自分で能力をオフにしない限り、この恥ずかしい姿を視認されることはない。
彼女と接触した対象も例外として鈴を認識可能だが、当然、赤の他人にそれを許すつもりはなかった。
こうして今、露出自慰に耽るのはちょっとしたスリルのため。
それからもう一つ別の目的のため。
スリルの方はばっちり。誰からも見えないとわかっていてもやっぱり裸は恥ずかしいし、恥ずかしいからこそ興奮する。
いけないこと。
はしたないことだと引き留めようとする理性が、快楽をより強くする。
あと三十分でも一時間でも浸っていたくなるけれど、少なくともログハウスに帰れるだけの体力は残さないといけない。欲を言うなら、もう一つの目的を果たすための体力も。
そのためには早めに『あの子』と合流したいのだけれど。
「……あ」
自慰の愉悦に蕩ける意識をギリギリ繋ぎ止めながら、ぼんやり周囲を眺めていると、一人の生徒がこちらに歩いてきた。
学園指定のブレザーを身に着けた、大人しい印象の男の子。
校章の色からすると一年生で、服装と髪型さえ変えれば女の子に見えてしまいそうな可愛らしい顔立ちだ。
彼こそ、鈴の待ち人に違いなかった。
「ち……」
ひろくん、と呼ぼうとして止まる。
いけない、能力を解除しなければこちらの声も聞こえないのだった。早く会いたかったせいでつい先走ってしまった。
どうしようか。
『認識疎外』をオフにして呼びかけてもいいけれど、ちょっと恥ずかしい。だったら少年が下駄箱に着いたあたりから後ろから抱き着こうか。
そうしよう、と一人頷く鈴。
僅かな思考の間に、少年は鈴のすぐ傍まで辿り着いていた。鞄を持っているところを見ても、やはりこれから帰宅するのだろう。
後ろからついていって抱き着く。
タイミングを窺うためじーっと少年を見つめる。彼はその間も歩を進めて……。
「?」
足が止まった。
忘れ物だろうか。それともスマートフォンに着信でもあったのか。
しかしどちらも外れ。
少年は鈴の方を振り返ったのだ。
目が合う。
しかし『読心』は発動しなかった。おそらく『認識疎外』の効果により知尋からは鈴が見えていないからだろう。
つまり目が合ったのは単なる偶然のはずだが。
知尋は更に数歩鈴に歩み寄り、視線を下に向けた。
「水……?」
「……あ」
彼が見ているのは鈴の愛液でできた水たまりだった。
鈴の身体から離れたものにまで『認識疎外』は及ばない。だからそれ自体を視認することは可能だ。
……これまで通りかかった者達は気づきもしなかったが。
これは運命なのかもしれない。
たまたまの偶然であっても、知尋は鈴の気配に気づいた。気づいてくれた。やはり彼を選んだのは間違っていなかった。
嬉しい。
こみ上げる気持ちのまま、鈴は知尋に抱きついた。
「ちーひろくんっ」
「!? ぷはっ……す、鈴さん?」
人並みより大きい自覚のある乳房で彼の顔を抱き込むと、身を離した知尋は頬を真っ赤に染めながら困惑を表す。
それでも鈴の手が肩に触れているので会話は可能だ。
「また、そんな格好を……」
「うふふー。大丈夫、知尋くん以外には見せないから」
「そういう問題でしょうか」
人はともかく鈴にとってはそういう問題だ。
心を許した相手に見せる分には、倫理的にも許されると思うし。
「服着てたらえっちしにくいでしょ?」
そう言うと知尋も理解してくれたらしい。
「青姦、ですか?」
「うんっ」
答えて、再びぎゅーっと抱きしめる。
胸に顔を埋めた知尋は腕で動揺を表すが、同時に満更でもなさそうな感じ。女の子の胸が好きなあたりは男の子だなあ、と感じる。
そういう男の子な反応が嬉しい。
「鈴さん、いい匂いがします」
「そう? お風呂入ったの昨日の夜だけど」
「シャンプーとかじゃなくて、鈴さんの匂いだと思います」
もう、と、鈴は嘆息した。
そんなこと言われたら大好きが溢れてしまう。
話すようになってからまだ間もなく、会ったのもほんの数回。そんな相手なのにどうして、こんなに胸がときめくのだろう。
「知尋くんはどこでしたい?」
「ええと……」
ちょっと困らせてみた。
よほど変なところを提示されない限りは応じるつもりだけれど、どちらかというと彼が悩む姿を見るのが主目的。
にこにこしながら回答を待つと、程なくぽつりと。
「じゃあ、少し外を散歩したい……です」
「うん、いいよ」
お散歩。
まさに露出プレイの醍醐味の一つだろう。
彼女がいるみたいだし、さらに他の女の影もあったりするのに、変なところで初心だったりする彼。その提案が思ったよりも好みだったので気分が弾んだ。
鈴は二つ返事で頷くと知尋の手を取る。
「じゃ、行こ?」
繋いだ手を引っ張る。
下駄箱にて、片手だけで靴を履き替える彼をにこにこしながら見守り、それが終わると二人で外に出た。
「涼しいね」
「寒くはないですか?」
「平気」
さっきの自慰と、お散歩デートの興奮から身体は火照っていた。
風を感じながら一歩踏み出す。
そこで、くいっ、と手を引かれた。さりげなく前に出た知尋が痛くない程度の強さで鈴を先導してくれる。
くすっと笑みがこぼれた。
優しいエスコートにお任せすることにして、鈴は知尋の一歩後ろを歩いた。
しばらく校門側へ向かったところで道を折れてグラウンド側へ。
体育祭では全生徒が集まる広いグラウンドでは、走りこみ等、運動を行う生徒の姿がいくつかあった。生徒会で残っていたであろう知尋もそうだが、彼らも精が出るものだ。
「青春だね」
「……そこに裸の女の人がいるのは凄い絵面ですよね」
「う」
言葉責めか。
あらためて自分の格好を意識してしまい、恥ずかしさが強くなった。
つ、と溢れた愛液が太腿を伝う。
知尋に手を引かれながらグラウンド内に入った。手を繋いだまま見渡せる位置で立ち止まる。
「鈴さんって恥ずかしいのが好きなんですか?」
ここで世間話を始めるのは結構鬼畜ではなかろうか。
思いつつも鈴はこの状況に感じてしまう。
「……ううん、ちょっと違うと思う。わたしは『普通じゃないエッチなこと』が好き、なのかな」
「普通じゃない?」
「うん。人前でエッチなことをするのとか、お仕事ほったらかしてエッチなことするのとか。あとは、年下の男の子をたぶらかすのとか」
最後の例えに知尋は少しむっとした様子を見せた。たぶらかされた覚えがなかったか、他の男の子にも同じことをしている可能性を考えたか。後者だとしたら的外れもいいところだ。
「恥ずかしいのが気持ちいいのは確かなんだけど、シチュエーションに酔ってる……のかなー、って思うよ」
「なるほど」
頷いた知尋はちらりと、鈴の方を見て。
「じゃあ、ここでコートを脱いでください……とかはあんまり好きじゃないですか」
「……なにそれ」
鈴は背筋にぞくっとしたものを感じて呻いた。
「それ、すごく興奮するよ、知尋くん」
言いながら、肩にかけたコートに手を伸ばす。
両手でそれぞれ合わせの部分を掴み、ゆっくりと開いていく。知尋が身体の一部に触れていることを何度か確かめながらだ。
はぁ……。
息が漏れた。
今、鈴は露出している。
個人的な火遊びではなく、男の子の命令で裸を晒している。
空気に触れる面積が増えるたびに快感が高まる。やがて完全に脱ぎ終えたコートが手の中へ納まると、がくっと崩れ落ちそうになった。
知尋が慌てて支えてくれなかったら、地面に膝をついていたかもしれない。
ぽたっ。
愛液が滴り地面に小さな染みができた。
「鈴さん。そのコートを預からせてください」
「……ふあっ」
自分で服を着直すこともできなくなる。
裸のまま、きっともっと歩かされるんだと思った瞬間、頭が真っ白になって全身が震えた。
もう一度崩れ落ちそうになりながら鈴は快感を吐き出した。
「イっちゃった……イっちゃったよぉ……」
もう我慢できない。
全裸での露出散歩もいいけれど、頭の中が完全にピンク色に染まってしまった。
してほしい。
「知尋くん、えっちしよ? ここで露出セックス」
はしたないと思いつつも近くのフェンスに知尋を誘う。
フェンスを掴んで知尋へお尻を突き出すと、腰を淫らにくねらせた。
「……駄目?」
「駄目なわけ、ないです」
知尋が勿体つけるようにゆっくりズボンに手をかける。
露出した彼のペニスは既に固く勃起していて、前戯もローションも必要なさそうだった。
「挿れますよ、鈴さん」
「うんっ、来て、いっぱいえっちなことしてっ」
わざと大きな声で懇願。どれだけ大きな声を出しても、知尋以外の人に、今の鈴の声は聞こえないのだが。
鈴は、割と近い場所で生徒が走る音と声とを聞きながら、自身の
「はああっ!」
自然と歓喜の声を上げてしまう。
愛液で溢れた鈴の膣内は、待っている間のオナニーもあって解れきっている。少ない本番経験にも関わらず抵抗なくペニスを受け入れ、きゅっと締め付けた。
知尋とのセックスはこれが二度目。
「二回目のえっちで青姦って……こんな女の子は嫌?」
「大好きですよ」
「……はぅ」
自分で聞いておきながら、殺し文句で赤面する。
彼が愛おしくてたまらない。
前後に肉を抉り、円を描くようにかき回すペニスを全力で受け入れる。腰砕けになって立っているのが難しくなると、その分だけフェンスに寄りかかる力を強くした。
膣が撫でられる度に脳が痺れて甘く蕩けていく。
「やっ、あっ、あぁん!」
声が止まらない。
恥ずかしいのが気持ち良くて、気持ち良いのが恥ずかしい。
性行為以外のことが全部どうでもよくなる。
いつしか自分からも腰を振って知尋を求め、何度も何度もピストンを繰り返して。
知尋が両手を伸ばして鈴の乳房を掴んだ。
深く繋がり突き上げながら、鈴の胸を思うままに味わう知尋。乳房がまるで玩具のようであり、バランスを取るための取っ手のようでもあった。
それだけ深く求められている。
充足感が更に鈴を酔わせていく。
「あ、あー、あーっ!」
絶頂の予兆が全身を震わせる。
言わなくても知尋はそれを察してくれたらしい。胸を揉む手と膣を犯す動きを速め、そして激しくする。
急速に、確実に、快感の階段を駆け上がる。
真面目に身体を鍛えている人達がいる場所で。
「いく、いく、いくいくいくっ!」
頭が真っ白になった。
何度も何度も絶頂を宣言した後、鈴は
大きな波が収まると身体に力が入らなくなり、情けないことに知尋に抱きかかえられる形になった。
彼はペニスを膣から引き抜くと後ろ抱きの状態で方向転換、フェンスに寄りかかる。
頭を優しく撫でてくれるのに身を任せながら、鈴は夢心地を味わった。
「気持ち、良かったぁ……」
「それは良かったです」
「ふふ」
他人事のように言いながら、知尋も大量に射精してくれたことを鈴は知っている。
出された精液は愛液と混ざりあい、地面にぽたぽたと垂れ始めていた。
「鈴さん。少ししたらログハウスまで戻りましょうか」
「あ。……もしかしてこのままで?」
「はい。裸のまま、身体を拭かずに、です」
それはまた、甘美な誘惑だった。
鈴と知尋は地面に点々と後をつけながらログハウスに戻った。
その後、鈴はうまく歩けないからと知尋を寝室まで同行させ、まんまと押し倒して二回戦を要求した。
それでも、知尋は事後に怒るでもなく困ったような顔で鈴にお小言を言うだけだった。