少女には愛する人がいる。
小学六年生の頃に一度別れ、高校生になって再会した友人。
あの頃も可愛かったが、今はもっとずっと綺麗になった人。
……告白するつもりなんてなかった。
冗談めかした愛情表現をしたり、親友として繋がっていられれば十分だった。ただ、彼女の傍にいられて彼女の「一番の友人」でいられれば、それで。
でも、駄目だった。
離れていた三年あまりの時間は大きかった。
半ば時が止まっていたような自分と違い、彼女は変わっていた。そして彼女の傍には自分では友人、「親友」がいたのだ。
普通の子だった。
それなりに顔は整っているけれど、大人しい印象のせいで目立たない。学力や運動能力も平凡で、他に取り立てて特技があるわけでもない。ごくごく普通の、探せばどこにでもいそうな存在。
少女の想い人には似合わない。
もっと優秀で可愛い子達と一緒にいるべきなのに、想い人は何故かその平凡な存在と共にいた。とても、とても幸せそうに。
……それだけなら、まだ良かった。
人を好きになるのに理由なんていらない。好きになってから理由を逆算することはできるだろうが、恋に落ちた瞬間は結局フィーリングだ。
だから、二人は恋人同士なのだろうと自分を納得させられたかもしれない。
……二人が、いや三人が『同性』でさえなければ。
そう。
少女、御宿華の想い人である深海真里亜は同い年の少女で、真里亜の新しい親友もまた同様だった。
華が、真里亜への告白を諦めたのは性別が理由だ。
なのに、同じ女が、真里亜と知り合ってまだ日が浅いはずの少女が華の位置を奪っていく。
許せなかった。
男に負けるのなら仕方ない。
でも、同じ女には負けたくない。
……なら、奪ってしまえばいい。
華は、乱暴ながらストレートな結論に到達した。
お邪魔虫から真里亜を奪い取る。いや、それだけでは足りない。真里亜からもお邪魔虫を奪い取ってやる。
どちらも自分の物にする。
二人の想い人が自分になれば何の問題もない。
今の関係を完全に崩すのではなく、ちょっと形を組み変えて補強するだけ。そうすれば、簡単には崩れることのない関係が生まれる。
そうして、華の目論見は成功した。
「……華さん」
「華ちゃん……」
お邪魔虫の『彼女』は簡単に堕ちた。
頬からおでこ。手、足……そして唇。真里亜の見ていないところを狙って少しずつ、スキンシップの延長として思わせぶりな態度を取った。同性にべったりしている時点でレズっ気があった少女はだんだんと心を華に向けていく。
そうして十分に染めたところで押し倒し、逆らわせないまま華の味を教え込んだ。
やがて真里亜よりも華に傾倒していく『彼女』。
そんな親友の変化に真里亜は嫉妬を募らせる。華はそこを利用して真里亜をも手のひらへと収めていった。
方法はほぼ同じ。違うのは二人がかりだということくらい。
レズプレイに嵌まり、華に心酔する『彼女』はいとも簡単にかつての想い人を堕とすことに賛同した。『彼女』はひたすら真里亜に華の話を吹き込み、嫉妬を募らせる真里亜に、他ならぬ華自身が優しい言葉をかける。
恋敵のはずの相手に救われる矛盾。
それも、二人の少女から手を変え品を変えて揺さぶられれば、だんだんと意識から遠ざかっていく。友人と想い人から愛され心を蕩かした真里亜を抱き、処女を奪い、華の色に染め上げた。
親友と二人で華を愛する。
そんな倒錯的で官能的な行為を受け入れた真里亜は、信じられないほど淫らに染まり、そして驚くほどにその美しさを強くした。
目立たないと思っていた『彼女』も着飾れば見違えるようになった。
「愛しているわ、華さん」
「華ちゃん、大好きだよ」
「ええ。私も、二人のことが大好きですよ」
今、三人は華の家の寝室にいる。
華は親元を離れて一人暮らし中。自慢ではないがそれなりに裕福なので、貰っている資金で寝室にダブルベッドを置くことができた。
シックな黒い本体、白地に桜の花びらが舞うシーツ。
その上に、同じデザインの下着を身に着けた三人が寝転んでいる。
真里亜は黒、『彼女』は白、そして華は白黒二色。
ブラとキャミソールの中間のようなランジェリー、いわゆるベビードールにショーツを合わせた格好である。可愛らしさを強調する意味合いが強く「夜の下着」としても用いられるアイテムを、少女達は異性ではなく同性に晒している。
相手に見てもらいたい、喜んでもらいたいという気持ちは普通のカップルと同じ。
ただし、向かう方向は性的興奮の喚起ではない。お互いに着飾ることで想いを確かめあい表しあうことであり、特別な気分に浸り酔いしれることだ。
誰にも邪魔されない空間に三人だけ。
無粋な男の姿はどこにもなく、さりげなく焚いたアロマの香りが少女達の緊張を和らげる。美しく、清潔で、純粋な、女の子だけの交わりがそこにあった。
三人はそれぞれ、やや横向き加減に寝た状態。
真里亜は『彼女』の股間に舌を這わせ、『彼女』は華の秘所に奉仕する。そして華は真里亜の大切な場所をじっくりと味わいながら唾液と舌で綺麗に磨いていく。
連なる身体が美しくも淫らな三角形を表していた。
「んっ」
「やっ」
「ああっ」
相手の責めに感じさせられれば、その興奮はもう一人の相手に向けられる。快感を受け取った相手がまたもう一人の相手に伝えて、興奮と快感はどんどん大きくなっていく。
どこをどう責めれば気持ちよくなってくれるか。
何をすれば喜んでくれるかは手に取るようにわかる。女の子の身体の機微が同じ女の子にわからないはずないのだ。
甘く、とにかく甘く。
快感が強烈になりすぎないようできる限り調整し、相手に極上の気持ち良さだけを与え続けるのが華のやり方だった。
誰だって優しくされれば嬉しい。痛かったり苦しいよりは気持ちいい方がいいに決まっている。だから、自分を甘やかして気持ちよくしてくれる人がいれば、どうしたって惹かれざるをえない。
それでいい。
気持ちを向けてくれれば、もっともっとたくさんの幸せと快楽を与えてあげられる。女の子の身体は開発次第でどんどんいやらしくなるし、快感を受け入れられる心の器が育てば、注げる強さだって変わってくる。
そうして、待っているのは深い沼だ。
清流の水のごとく無害で、蜂蜜のように甘く、冬の朝に潜る布団のように暖かな沼。無害故に抗う理由はなく、甘さが思考を蕩かせ、暖かさが安寧を誘う。
嵌まれば、抜け出せない。
――結果は見ての通りだ。
何の抵抗もなく相手の秘所に顔を埋め、責められては甘い声を漏らす。
二人の表情は安心で緩み、身体にも余計な固さは一切見られない。同性愛、しかも3Pという特殊な状況下にありながら、心の底からそれを肯定している。
幸せ、なのだ。
汚くて臭くて、ゴツゴツした男なんて必要ない。
女の子同士で抱き合い愛し合うのが一番だと、今の光景が証明している。
ぞくぞくと幸福感が湧き上がって抑えきれなくなる。
「私、もうイきそうですっ」
吐息混じりに告げれば、二人からもすぐに反応があった。
「私も、もうちょっとだからっ」
「三人で一緒にイきましょう、華さんっ」
少女達はより熱心に相手を責めたて、心と身体を開いて相手を受け入れた。
「いく、いくぅっ……!」
そうして、声を揃えて絶頂する。
甘い痺れが全身を支配し、硬直と弛緩が何度も繰り返される。波が収まった後には気怠さと心地よさが残る。
「二人とも、気持ちよかったですか?」
「……ええ、とっても」
「うん、気持ちよかった……」
ぼう、と余韻を残しながら答える真里亜と、言いながら反芻するように語尾を濁す『彼女』。二人の言葉に満足した華は微笑んだ。
「よかった。でも、まだまだ、終わりじゃありませんよ?」
「あ……」
「ええ」
少女達の頬が赤く染まる。
恥ずかしそうに、けれどとても嬉しそうに。
「じゃあ、華さん。今度は私にさせて頂戴?」
真里亜が囁き、半身を起こして華に這い寄る。彼女の望みを否定する理由など華にはなかった。
頷いて答え、視線を『彼女』へと向ける。
「それなら、私達はキスしましょうか」
「……うん」
ベッドへ仰向けになった真里亜の顔へと跨った。黒髪の少女の舌が秘所に伸びてくるのを感じながら、『彼女』と向かい合って唇を寄せる。
『彼女』の方は真里亜の下半身に乗って股間をすり合わせている。いわゆる貝合わせ――女の子同士独特のプレイである。
レズプレイにおけるテクニック、体位は多数存在する。「入れる」という基本動作、あるいは制約がある男女の交わりよりもひょっとすれば多いかもしれない。こと3Pとなればパターンはより広がる。
ちゅ……。
触れ合うようにキスを交わし、正面から『彼女』と見つめあう。
入浴を済ませ髪を梳いた『彼女』は正統派の美少女だと言っていいだろう。真里亜が綺麗と形容されるタイプだとすれば、こちらは可愛いという言葉が似あうタイプ。
相変わらず目立ちにくい雰囲気なのは変わらないため――あくまでも手に入れた者だけが知ることのできる美貌だ。
頬を染め、好意を伝えるように瞳を潤ませる。
真里亜の物になるはずだった少女の心は完全に華に染まっている。
今もなお、たっぷり時間をかけて染め上げ続けている以上、簡単には抜けない。ひょっとしたら一生、影響は残り続けるかもしれない。
ちゅ……じゅる。
今度はディープキス。綺麗なピンク色の舌、オーラルケアにも気を遣っているのがわかる綺麗な口内。美少女の唾がどこか甘く感じるのは気のせいだろうか。
「好きだよ、真里亜ちゃん」
「はい。私も好きですよ、知尋さん」
誰にも渡さない。
この子も真里亜もずっと自分の手元に置いておく。
『彼女』に対するそれが、真里亜を奪おうとしたことへの復讐なのか。それとも単に気に入っただけなのかは華自身にもわからないが。
つぷ。
「っん!?」
「二人だけの世界に入られるのは心外だわ」
真里亜から不満そうに言われると、とくんと胸が高鳴った。
「大丈夫ですよ。真里亜ちゃんのことも愛していますから」
「ええ、ありがとう。私も愛しているわ」
「あの、華ちゃん。私のことは『好き』なだけなの?」
じゃれ合いながら、笑いあいながら。
少女達は姦淫に耽る。
唇を触れ合わせて唾液を交換し、秘所を擦り合わせて快感を得、愛しい相手の大事な部分を愛撫する。
一度収まった波が再び押し寄せ、高い声を上げながら同時に身を震わせる。
はぁ……。
誰ともない吐息の後で見つめあって。
「次は、どうしよっか」
「まだ責めたりない気がするから、私はこっちにするわ」
「んっ。真里亜ちゃん。胸、敏感になってますから……っ!」
また形を変えながら少女達は絡まり合う。射精という制約、限界の無い女の子同士の行為はどこまでも続く。疲れ切って動けなくなるまで、ずっと。
寝室には長い、長い間、甘い喘ぎ声が響き続けていた。
☆ ☆ ☆
「……不満です。私が真里亜ちゃんと同列に『誰か』を置くなんてありえません」
自分の願望を見たというのに、あろうことか開口一番の感想が不満だった。
そう言う華の表情は憤懣やるかたない、といった様子だ。
「というか、あの三人目の子ってやっぱり僕……」
「黙ってください」
物凄く冷ややかな声が知尋を制した。
反面、声を上げた少女の表情はこれ以上ないくらい真っ赤で、下手に刺激すれば爆発するだろうと簡単に予想できる。
「大方、和泉君が勝手に自分に置き換えただけでしょう。あんなの私の望みじゃありません」
「……いや、でも。3Pを望んだのは華のはずで……っ」
「死にたいみたいですね!」
どうやら火を入れてしまったらしい。
ベッドの弾力を利用して飛びかかり、抱き着いて首に手を添えてくる華。軽く揉みあった後、ふっと少女の手から力が抜けた。
不可抗力的に耳元で囁かれることになり。
「とにかく、今回のことは他言無用でお願いします。そもそも今回協力したのだって、最初から義理なんですから」
「わかってるよ。ありがとう、華」
「っ」
微笑で礼を言うと、少女はかすかに息を詰まらせた後でぷいっと顔を背けた。
「わかればいいんです。……ああ、それと」
「ん?」
「和泉君って、男にしてはいい匂いですよね。これからもその清潔さは維持してください。でないと、抱かれてなんてあげませんから」
そういう彼女の表情は、依然として真っ赤なままだった。