ミスコンにエントリー。
寝耳に水の申し出に、知尋は一瞬フリーズした。しかしなんとか気を取り直し、話を持ってきた二年生を廊下の、比較的人通りが少ない一角まで誘導する。
「あの、ミスコンって……女の子の人気投票ですよね?」
「違うよ? ちゃんと男子部門と女子部門を用意してるってば。委員会でも言ったでしょ?」
「……あ、そっか」
確かに、実行委員会でのそういう体で話をしていた記憶がある。
つい失念していたのは「ミスコン」の名に引っ張られたせい。それから、ぶっちゃけ実行委員達からも「男子はオマケ」扱いだったせいだ。こういう人気投票で華やかな女子に注目が集まるのは当然のこと。
男子部門を開催しているのは、差別だとかセクハラだとかいう声を封じる目的もあるのだろう。
「じゃあ、僕も男子部門にエントリーされたんですね」
「違うよ?」
「え?」
ほっと息を吐いた知尋に追い打ち。
目の前にいる女の先輩は無駄ににっこりと笑って、残酷な事実を告げてきた。
「半分あってるけど……和泉君がエントリーしたのは男女|両方(・・)。ばっちり女子部門にもエントリーしておいたから安心してね」
「いや、どうして僕が女子部門に……?」
「自分の格好見てから言ったら?」
「う」
そう言われると呻くしかなかった。
「あと、決め手はこれかな。ほら」
と、何やらスマホを操作して、ディスプレイに表示した画像を見せてくれる。
メイド服を着て、笑顔で接客する知尋の姿だった。
「この写真でエントリーしておいたから」
「え、いや、どうしてこんなもの」
「1-Cでお仕事してるとき、写真撮ってもいいかって聞かれたでしょ?」
「あ。はい、それは、確かに」
ある意味そういうのも仕事のうちだろうと、悪用しない条件で撮影は許可していた。そう考えれば写真の存在自体は不思議ではない。彼女が持っているのは、誰かがメールなりで送ったからだろう。
「でも、悪用禁止っていう条件は」
「ミスコンにエントリーするのって悪用になるの? 学校内でやる、ただの人気投票だよ?」
どこかのサイトにアップしたり写真を売りさばいたわけではない。
ミスコンは完全に無償なので運営側の利益にもならない。むしろ、上位入賞者には賞品があったはずなので、そういう意味では実行委員は損している。
あっさり言いくるめられた知尋は抗議を諦め、深いため息をついた。
「わかりました。参加するのに、僕も何かするんですか?」
「ううん。とりあえずは、こっちで写真載せるだけだよ」
「とりあえず?」
「ミスコンには予選と本選があるんだよ。予選に勝ち抜いた場合は、明日ステージでパフォーマンスしてもらうの。本選は上位五人ね」
「あ、なるほど」
納得して頷く。
まあ、そういうことなら問題ない。男子部門にせよ女子部門にせよ、知尋が票を集めることなどありえないのだから。
「……だといいけどねー」
「何か言いました?」
「ううん、なんでもー。じゃあ和泉君、頑張ってねー」
「ありがとうございます。先輩も頑張ってください」
軽く手を振りあって彼女と別れた。
最後の「頑張って」が微妙に意味深に聞こえたのが気にかかるが、それもきっと気のせいだろうと思うことにした。
あらためて更衣室へ向かう。
さすがに二度も呼び止められることはなく無事に到着。何気なく引き戸を開けて中を覗き込んで――。
「お帰りなさいませ、ご主人様っ」
満面の笑みを浮かべた李狐と目が合った。
「へ?」
「……え?」
ぽかんとした表情から、先程の声が知尋を出迎えたのではないとわかる。
李狐はメイド服姿だった。エプロンからカチューシャまで完全武装で、いつでも店に出られる状態。
更衣室内に他の生徒の姿はなし。李狐一人だけだ。
「な、え、知尋? なんで?」
李狐が顔を真っ赤に染めて再び声を上げた。
「ご、ごめん。挨拶の練習中だった……んだよね?」
「いや、えっと。うん、そうなんだけど……なんでいきなり開けるの!?」
「……ごめん、不注意で」
それについては知尋の落ち度と言うしかない。
だいいち、着替え中の女子がいたらどうなっていたか。ここで二度、着替えをしたことで慣れが生まれ、気が緩んでいた。
いたのが李狐で、しかも着替え中でなくて良かったと言うしかない。
……ふう。
知尋が反省しているうちに李狐も思考力を取り戻したらしい。
彼女は頬を染めたまま軽く息を吐く。
「まあ、いいけどさ、知尋だし。人が来るかもしれないとこで練習してたのはあたしが悪いし。で、知尋も着替え?」
「あ、うん」
入り口付近に立ったままなのに気づき慌ててドアを閉じる。
それから数歩、前進した知尋に李狐が視線を投げてくる。
「何か変、かな?」
「あ、ううん。ちょっと癪なくらい似合ってるけど。……その制服って、愛華の?」
「……ん、まあ」
首肯すると、今度は深くため息をつかれた。
「仲いいよね、ほんとに」
「愛華のお蔭でね」
「見捨てられないようにしなさいよ。……もし見捨てられたら、あたし達が慰めてあげるけど」
「ありがとう。でも、そうならないようにしたいかな」
更に二、三言を交わし、李狐が次のシフトの準備をしていたことを知る。
「あ、もう交代なんだ。早いな」
「まだちょっと時間あるけどね。あたしは……ちょっと用があったから早めに来たの」
さっきの練習のことだろう。
あの時の笑顔、それから衣装の着こなしを見る限り、どうやらメイド服が気に入ったらしい。
もしそうなら、出し物にメイド喫茶を提案した甲斐もあった。
「李狐。その服、やっぱり良く似合ってるよ」
「……ん、ありがと」
あらためて口にした賛辞を、李狐は素直に受け取ってくれた。
会話が一段落したところで、知尋はパーティションの奥、専用の着替えスペースへ向かった。あまり間を置かず他の子達も来るのなら、今のうちに着替えてしまわないとまずい。
この制服は、後で愛華に返すとして。
自分の男子制服に着替え直すことを決め、まずはスカートを脱ぐ。
「はい。預かるよ」
「ああ、ありがとう」
手にしたスカートを、傍らに立った李狐に手渡す。李狐は受け取ったスカートを丁寧にハンガーに掛けてくれて――。
「李狐?」
「ん?」
「どうしてここに?」
「いや、暇だし。どうせなら手伝おうかと思って」
答える少女の瞳は澄んでいて、嘘の気配は感じられなかった。
メイド服姿の少女に着替えを手伝われるなんて、少々気恥ずかしいものがある。そこまで献身的に尽くさなくてもと思うが、もちろん嬉しい気持ちも強かった。
今更、裸を見られること自体に抵抗はない。
素直に手伝ってもらうことにし、お礼を言ったうえで脱いだ服を李狐に渡していく。お蔭で一人より格段に速く作業は進んだ。
合間の雑談は、先程の出来事についてだった。
「へえ。知尋が女子のミスコンに出てるんだ」
「うん。止めてもらおうと思ったら言いくるめられて、もう困っ……」
「わかった。後で投票してくるね」
「李狐?」
懇願の視線を送ると、彼女は悪びれもせず「え、駄目?」と首を傾げた。
「いいじゃん、せっかく可愛いんだし。一票入ったからって入賞できるわけじゃないし」
「それは、まあ。そうかな」
「でしょ? だから、真里亜とか愛華とかにも教えとくね」
「ちょっと待った」
などと言っているうちに下着まで脱ぎ終えて裸になった。
ブラとショーツを――さすがにこれは恥ずかしいものがあるが――手渡すと、李狐はそれをじっと見つめた後、おもむろに鼻へと近づける。
すんすんと匂いを嗅いで一言。
「知尋、誰かとしてきた?」
「……わかるの?」
「わかるよ、それくらい。この匂い、何回嗅いだと思ってるの?」
精液もきちんと拭ったはずなので、匂いなんて殆ど残っていないと思ったのだが。
むっと頬を膨らませた李狐が至近距離からじっと見つめて。
「もう、満足したの?」
それだけ聞けば言いたいことは十分わかった。
「まだ、かな。四回しか出さなかったし」
「……あは。四回出して『しか』とか、酷い言い方」
駄目出しをしつつも、李狐の表情は嬉しそうだった。
後ろに半歩、後退した彼女は間を取るように息を吸い、瞳に決意の色を揺らめかせる。
そうして再び進み出た時には、纏う雰囲気が変化している。
「失礼します……ご主人様」
従順で献身的な、奴隷の振る舞い。
いつもよりも恭しい雰囲気がプラスされて感じるのは、メイド服を着て気合が入っているためだろうか。
ぺたん、と。
彼女はタイツに覆われた両足、膝から下を床につけるように座りこむ。その際、勢い余ったのかロングスカートの裾を足が巻き込み、前のめりに倒れそうになる。
すぐに両手で支えたので怪我はなかったが。
「……うまくいかなかった」
ぼそりと呟いて立ち上がる李狐。
えいや、とばかりにもう一度座り込み――やっぱり転びかけた。
「う」
「李狐? ……どうしたの?」
「スカートが、ふわってならないのが悔しくて」
綺麗に座りたかったからやり直したのに、やっぱり失敗してしまったらしい。
慣れないロングスカートなのだから、簡単にうまくいかないのは仕方ないと思うのだが。
きっと、彼女が欲しい言葉はそういうのじゃないだろうな、と思う。
「……んー、座る前にスカートを持ち上げるのはどうかな?」
「でも、それだと格好良くない気が」
「そんなことないよ。可愛いと思う」
「そう、かな?」
ならもう一度、と立ち上がり、知尋に見せるように動作をやり直す李狐。
左右の手でスカートをちょこんとつまみ、軽く持ち上げながら座る。勢いで広がることはなかったが、見た目はふわりと花びらのようになってくれた。
「どう?」
「……ん。いいかも」
満足してくれたらしく、李狐はそれ以上やり直そうとはしなかった。
「それじゃあ……失礼します」
剥き出しの股間に李狐が指を伸ばしてくる。
左の手のひらで全体を持ち上げるようにしながら、右手の指を揃えて竿を摘まむ。袋を撫でられながら優しく扱かれると、緩やかに竿が勃起し始める。
ふっ、と。
李狐の唇が笑みの形に緩んだ。故意ではなく無意識だろう。そこに嘲るような雰囲気はなく、ただ温かさだけが備わっていた。
良い顔だ、と思う。
彼女が生き生きとしてくれているなら、とても嬉しい。
ペニスが十分硬度を増したところで口淫へ移行。
先端へのキスから鈴口を舌で刺激し、唇で軽く咥えた上で更に舐められる。今度はいったん口を離して舌を伸ばし、竿の部分を根元から先端に向かって舐め上げる。
何度もそれを繰り返されると、たまらない快感がこみ上げてきた。
「あは。……嬉しい」
甘い声。
全周を舐め終えた李狐は、とろん、と瞳を蕩けさせるとぱっくり口を開く。そうして何をするかと思えば、いきなり奥まで、ペニスを口内に咥えこんでしまう。
先端がこつんと喉に当たる。
イラマチオ。いや、ディープスロートか。口の中だけでなくその先、喉までも用いる、フェラチオよりも高難易度の奉仕だ。真里亜は喜々として自分からやったりもするが、知尋が少女達に命じたことはあまりない。
「……ん、く」
何故かと言えば単純で、する方は苦しいに決まっているからだ。
現に、今の李狐もただ咥えただけで表情を歪めている。
「李狐、それは」
止めた方が、と言おうとしたところで言葉が止まった。
李狐が真剣な目をしていたからだ。止めないで、と視線だけで語っている。やりたいからやっているのだと。
全く、意地っ張りだ。
意地っ張りで、可愛らしい。
「……わかった。でも、自分のペースでいいから。少しでも慣れるまでは動かさない方がいいと思う」
「……んむ」
こくん。
軽い首肯と共に、李狐が咥えたままの姿勢を維持する。
とはいえ歯も立てず、口の奥までペニスを受け入れ続けるのも楽ではないはず。はらはらしながら見守るうち、李狐の表情が和らぎ始める。
ぺろっ。
合図をするかのように舌で舐められたので、頭を撫でることで返答した。
くぷ。
李狐がゆっくりと頭を後退させ、口からペニスを引き抜いていく。すると温かなもので撫でられる感触が全体に生まれて腰が砕けそうになる。
そんな知尋の反応が何よりも雄弁に成果を伝えた。
ぱっと表情を輝かせた李狐は緩やかに、しかし止まることなく先端までを扱き、もう一度ペニスを口内に飲みこんでいく。
人の口をオナホールにし、しかも相手に動きを任せる贅沢。
見下ろせば、愛らしい金髪のメイドが懸命に奉仕する姿。征服欲を満たすにはこの上ない状態に、知尋は全身を快感に震わせた。
そうして数度、李狐の口が往復した頃、限界が訪れた。
「っ、出るっ」
小さく告げるのとほぼ同時に射精。ちょうど奥まで飲みこんだタイミングだったため、李狐は慌てて頭を後退させ、精液を受ける位置を調整していた。
喉に注がれる白濁に生理反応が起こりそうになるのを堪え、彼女はごくんと全てを飲みこんでくれた。
「ありがとう、李狐。凄く気持ちよかったよ」
「えへへ、良かった。……なんならもう一回してもいいけど」
言いながら、李狐が知尋のペニスを掃除するのと――。
更衣室の外が俄かに騒がしくなり始めたのは同時だった。
「……ちょっと、時間なさそうだね」
「っ! あたしは着替えてた振りするから、知尋も急いで着替えちゃって!」
李狐の口淫奉仕は二回戦を迎えることなく強制的に終了され、二人は慌てて後始末と事の隠ぺいに追われることとなった。