「……あれ?」
更衣室のパーティション内に戻った知尋は、ハンガーに不思議なものがかかっているのを見つけた。
制服だ。それも、学園の女子制服。
「愛華、ここに制服置いた?」
「あ、うん。でも、それは私のじゃないよ」
「え?」
確かに。
そっと顔を外に出してみると、愛華はちゃんと自分の制服を傍に用意している。ということは、これは誰のものなのか。
愛華がくすりと笑って知尋に言う。
「私の知りあいが前に着てた制服なの。もしかしたら知尋君がまた使うかもしれないから貰ってきちゃった」
「知り合いって……ああ、なるほど」
意味ありげな笑顔を見て納得する。
二人の共通の知り合いで、既に学園を卒業しており、快く制服を提供してくれそうな人物。そこまで条件を指定すれば一人しか思い浮かばない。
一体、鈴はどこに制服を保管していたのか。
さすがに実家まで取りに行ったわけではないだろう、と首を傾げる。
……なお、後で聞いたところによれば、あのログハウスに制服も保管していて、マンションに移動してくる際に併せて持って来たとのことだった。
理由は「いつか制服プレイをする機会があるかもしれないから」。
なんとも鈴らしい話である。
しかし、その願いはつい昨日、本人の制服ではなく四葉の制服で叶えられた。ついでに言うと、高校時代より胸がだいぶ大きくなったため、自身の制服ですらもう着られなくなっていたらしい。
「もう使わないらしいから、遠慮せずに使っていいと思うよ」
「そっか、ありがとう」
とはいえ好き好んで女子制服を着る気もない。
特別、女装でないとできない用事も――。
「あ」
せっかくだから『あの少女』と会おうか。
活用法を思いついた知尋は女装を続けることに。メイド服から女子制服に着替えて、ウィッグの毛先やメイクを整える。
鈴の制服も特に問題なく着ることができた。
彼女が現役だった頃ということは結構昔のはずだが、保存状態は上々。デザインの変更もないようなので安心する。
「……よし、っと」
準備を終えたらメールを送信。
程なく返事があり、相手は待ち合わせに了承してくれた。
医務室に行く、という愛華と別れた知尋は、更衣室から少し離れた廊下にて『彼女』と落ち合う。
「お待たせ、御角さん」
漆黒の髪に同色の瞳。
落ち着いた佇まいの中に激情を宿らせる小柄な少女、制服姿の深海真里亜が、知尋にそっと微笑みかける。
待ち合わせの相手というのは真里亜のことだ。
「急に呼び出してごめんなさい、深海さん」
「いいえ。……でも、どうして私を?」
「深海さんとも、学園祭を回りたかったから」
昨日はなんだかんだで真里亜と殆ど話せなかった。
愛華とはデートしたし、鈴や四葉、李狐とは性行為もした。しかし彼女とは何の思い出も作れていないのが気にかかった。
――学園内で真里亜と仲良くするのは、先の騒動で知尋が決めたことでもある。
と言っても、学園内だと人目が気になるのも事実。
別の女の子と付き合っている知尋が、真里亜と二人っきりで歩いていたら、快く思わない者もいるだろう。
なら、女装状態ならどうだろう?
見る者が見れば『ちさと』の正体は丸わかりでも、これなら一見すると女の子同士。デートっぽい雰囲気はかなり薄れるはず。
いつもの知尋のまま一緒に回れないのは残念だが。
「でも」
「遠慮しちゃ駄目だよ、深海さん」
『ちさとモード』で知尋は真里亜に釘を刺した。
「ただ友達同士で遊ぶだけなんだから、気にする必要なんてないでしょ?」
そうして微笑みかける。
真里亜はびっくりしたような表情を浮かべた後、笑顔で頷いてくれた。
「そうね。それじゃあ、お言葉に甘えようかしら」
「うん、そうしてくれると嬉しいな」
言って右手を差し出す。
そこへ、少女のしなやかな指が絡まった。
二人で手を繋いだまま廊下を歩く。スカートのお蔭で自然と歩幅が短くなり、真里亜とも歩調が合った。
「深海さん。何かしたいことはある?」
「そうね……。では、……を」
「え?」
最後の方の言葉が喧騒に紛れて聞き取れなかった。
それを見た真里亜は悪戯っぽい表情を浮かべ、知尋に耳を近づけてくる。
「……ローターを入れたまま、お散歩したいです」
妖しい声で物凄いことを言われた。
久しぶりの爆弾発言な気がする。
「そんなの持ってるの?」
「ええ、常備しています。さすがに荷物の中ですが」
「そんなのポケットに入ってたら怖いってば」
何かの拍子に落ちたらどうするつもりだろう。
……それを誤魔化すところまで含めて羞恥プレイ、とでも言うのだろう。
即座に思い浮かんだあたり、付き合いも長くなってきたと思う。
「それは構わないけど。学園祭関係ないような」
「全く関係ない訳ではありませんよ。……それに、私はもともと、こういう騒がしさは得意じゃありませんから」
「そうなんだ」
事あるごとに李狐や愛華、鈴をからかっている姿からすると意外な気がした。
「あ……でも、そっか。知り合い何人かで騒ぐのと、色んな人で賑わってる場所じゃ全然違うよね」
「ええ。こういう催しは、私は外から見ている方が好きなんです」
それなのに実行委員に立候補するなんて。
本当に、知尋の傍にいることが彼女の目的だったのだ。それ以外のことは二の次、自分の性質を曲げてでもそうしたいと思ってくれた。
愛されている。
狂おしい程の欲と愛を抱えながら、この少女は微笑んでいる。
「自分でも酷い話だと思います。でも、実行委員の仕事は嫌いではありませんよ」
「そう?」
「ええ。裏方は、当事者とは少し違いますから」
「……なるほど」
生徒会と似たようなものだ。
華やかな舞台に立っているようでいて、実際は裏方、お手伝いに過ぎない。学園祭が円滑に進むよう彼女達がどんな風に尽力しているのか、一般生徒の殆どは知ろうともしていない。
ある意味、真里亜の性に合う仕事なのか。
損な役回りだ。
人と違いすぎるが故に、満たされないまま彼女は十数年も生きてきた。
やっと見つけた主は未熟で弱かった。そんな主を守るため、彼女は一度、自らの身を投げ出しさえした。
「深海さんには、もっと幸せになって欲しいな」
「……それは、難しいですね」
「どうして?」
「だって、私は今、生涯で一番幸せですから」
「あ……」
蕩けるような言葉に胸が熱くなる。
本当に、この少女はそうやって知尋の心を揺さぶるのだ。
頬が赤くなるのが恥ずかしくて、知尋はつい真里亜から顔を背けた。
「と、とりあえず。いったん教室の前まで戻ろっか。荷物が必要なんでしょ?」
「ふふ。ええ、そうしましょう」
小声での内緒話はおしまい。
教室の前まで取って返し、真里亜がローターを取り出すまで待つ。もちろんその間、さりげなく周囲の視線をガードするのは忘れない。
「出せたわ」
一分もせずに作業は終了。
装着は人前だとまずいので、今度はトイレに移動。
入り口前で待とうとしたら、手を繋いだまま個室まで連行された。こういう時は物凄い強引さを発揮するのが真里亜である。
「あの、ここ、女子とい……」
「つけて、くださらないのですか?」
潤んだ瞳に正面から射抜かれた。
くらっと、思考が欲望に飲み込まれる。
……女装状態だとより一層、衝動を強く感じられた。『ちさとモード』とはいえベースは知尋に違いないはずなのだが、このところの経験によってなりきりの精度が上がっていたりするのだろうか。
変な気分になりそうになるのを堪え、真里亜の差し出すローターを受け取った。ごく普通の、卵型をしたピンク色の品だ。有線式のためいったんプレイを始めたら簡単には止められない。
「行くよ」
「はい」
真里亜が個室の中ほど、それ以上下がれない位置に立ってスカートを捲り上げる。
知尋は彼女の足元へしゃがみ込み、黒のレースショーツに手をかけた。
「学校でもエッチな下着、穿いてるんだね」
「はい。……こういうことが、もしかしたらあるかもしれないと思ったので」
勝負下着。
まあ、真里亜はマンションではほぼいつも勝負下着だが。学園という日常空間で見ると違った印象を覚える。
清楚な制服と対照的なショーツ。
――人目から隠す役割を果たすのはスカートの布地のみ。
風でスカートが翻ったり、そうでなくとも階段で人から見られかねない。
そんな環境で、必要以上に煽情的な下着を穿くのは「見てください」と言っているようなもの。
「興奮する?」
「はい、とっても」
小さな声で、はっきりと真里亜。
知尋はショーツをずらすと、指に唾液をまぶして真里亜の股間に宛がった。無毛の、既に愛液で濡れ始めている秘所はずぶずぶと、何の抵抗もなく指を飲みこんでいく。
「んっ」
真里亜がぴくりと身を震わせる。
同時に膣が軽く締まって指に圧力を感じた。
「じっとしてて」
「はい」
かすかに弾んだ声。
中を傷つけないよう慎重に、指の腹をメインに使って揉み解す。真里亜は言いつけ通り身体を動かさないよう気丈に耐える。
そうされると逆に鳴かせたくなって、少しずつ動きを速める。
「いい、です……」
真里亜の両腕は己の胸をぎゅっと抱きしめていた。ちょうどいい場所に手をつく物がないため、そうやって責めに耐えようとしているのだ。
いじらしい。
献身への感謝の気持ちは、そのまま責めに転化された。
くちゅ。
しばらくして、膣内から淫らな水音がした。
本格的に分泌され始めた愛液に指を絡めて更に動かす。こうなればもう後は水音が大きくなるばかり。
「んっ……はあ」
真里亜の頬も上気し始め、足の震えも見てわかるレベルに。
それでも止めない。
ローターを挿入するだけならこれ以上いじる必要はないのを、知尋も真里亜も分かっていて口にしなかった。
不意に、何の前触れもなくクリトリスを抓ってやる。
「~~~っ!」
びくっと震え、必死に声を押し殺す真里亜。
しかし絶頂には足りなかったのか、膣は物欲しげにひくひくと動いていた。
それならと、知尋はローターを起動。
個室内に小さな振動音が響く。
トイレの中は静かなため、他の利用者がいれば外から聞かれてしまいそうだ。消音機を使う手もあったが、敢えてスリルを取ってそのままに。
ローターを近づけると、ひときわ大きな吐息。
彼女の期待に応え、まっすぐクリトリスへローターを押し当てた。
「っあ――っ!?」
真里亜が慌てて口を押さえ、膝を折ってよろめく。
今回は手を伸ばすのが間に合わなかったが、幸い、ちょうどトイレに座り込む形で事なきを得た。
いったんローターを止め、立ち上がって真里亜を見下ろす。
少女は軽く痙攣していた。足は軽く開いており、スカートの奥に愛液で濡れた秘所と半分ずらされたショーツが見える。
絶頂の余韻で整える余裕がないのだろう。
真里亜は荒く息を吐きながら知尋を見上げてくる。その瞳がもっと、と叫んでいるのを感じて再び屈みこんだ。
スカートを捲り、右手に持ったローターを膣へ挿入。
つぷ。
半分ほど入れると、後は音と共に勝手に飲みこまれていった。指を挿入して位置を調整したらショーツを上げてしっかり穿かせ、側面からスイッチ部分とコードを通してやる。
「知尋様……」
演技を忘れた真里亜の声。
知尋は答えずローターのスイッチを入れた。ヴヴ……と、くぐもった音がほんのかすかに聞こえて始める。
「んっ……く」
絶頂により敏感になっている真里亜は簡単に身を震わせた。
目を閉じ、当然と快感に浸る彼女をよそに、知尋は更に準備を進める。
ローターのスイッチ部分を固定しなければならない。
真里亜はこのためのアイテムも周到に準備していた。ガーターリングという、バニーガール等が身に着けることのある輪状の服飾品。
黒い、ベルトの付いたそれを右足にだけ着け、そこにスイッチ部分を固定した。
これで簡単には落ちないはず。
コードはショーツに巻き付けて長さを調整したので絡まる心配もない。もし、ガーターリングからスイッチ部分が外れてもショーツとコードがストッパーになるだろう。
「さあ、行こう」
立ち上がって真里亜を促す。
「ですが、その。これは思ったよりも……」
「じゃあ、止める?」
「嫌です」
きっぱり首を振られた。
プレイを嫌がっているわけではない。むしろ思う存分満喫しているが、興奮のために強制されている雰囲気は欲しい、という我が儘だ。
知尋はふっと笑って彼女に命じた。
「じゃあ、早く立って。制服とかスカートもちゃんと直してね、深海さん」
「……ええ、わかったわ。ちさとさん」
瞳を爛々と輝かせながら、それでも真里亜は平静を装って立ち上がった。